山荘日記その65春ー2011年卯月
4月1週・・・・びっくら!凄え本と映画だぜ



山荘は春爛漫

山荘ゲートでの歓迎
2月上旬の早咲き
黄水仙は奥庭の新顔
 
水仙の園・山荘

この華やかな
色彩の一瞬の刻印に潜む
《意味の喪失》
ただ打ちのめされ
為す術も無く恐怖すら覚える。
 クレソンと蛙の卵

春の陽射しを浴びて
透明な寒天宇宙に息づく
漆黒の星
春爛漫の背景にシューベルトの
絶望と哀しみが流れる。
 
どの部屋も春爛漫

初めて観る京水菜の花 
 
咲き乱れるクレビア


どうしてシューベルトの《冬の旅》が聴こえるのだろう?
《決して得られないもの、もう失われてしまったものへの憧れ》が描かれていると
評される歌曲《冬の旅》がなぜ春爛漫の背景に流れるのか?

今月来日する英国のピアニスト、ポール・ルイス
(39)はシューベルトをこう語る。
《人間という存在そのものを音に映す、プリズムのような存在》
2年かけてのシューベルトの連続演奏会を日本でスタートさせるポールは述べる。
《全曲を弾くということは、その作曲家の人生すべてを受け止めるということ》

漆黒の星の背景に流れるシューベルトとポール・ルイスのシューベルトは
果して何処かで交差するのだろうか?
どう華やかに響くかなんてまったく考えていない。
ただひたすら自分の心に向きあい一瞬一瞬を刻印している。
美しいものへの恐怖を持っていた人。
その繊細さ、誠実さに、自分がどこまで向きあうことができるか》
青字:4月4日朝日新聞夕刊より引用) 


さあ、畑が待ってるぞ!


芽花の美味しい小松菜
うめー!
おかしいな?
確か山独活(うど)は買ってなかったが?
でもどこからどう観ても
味わっても山独活そのもの。

それが畑の白菜の芯だなんて
制作者自身が信じられないのです。
寒くて、それでも生き延びる為
外側の葉を犠牲にして
その葉に包まって熱源の糖分を
しっかり蓄えるのです。

冬超えのレタス
だから芯までが
こんなにも美味しくなるのです。

せめてしてやれることは
新聞紙でくるんでやることだけ。
ほら畑の奥に白く見える奴
あれが新聞紙でくるんだ白菜。

でももう暖かくなってきたので
新聞紙の間から新葉が
顔を出し蕾すら着け始めて。
もうすっかり春ですね。

畑に耕運機をかける
でね、新聞紙を開いてやると
見るも無残な姿。
凍傷で腐ってしまった外側の葉が
べとべと張り付いていて
一目でとても食べられる状態でない。

冬越し野菜を作り始めた頃は
あーあ、又腐らせてしまったなと
棄ててしまっていたんだ。

数年前に、でも内側は新葉が
出てるんだから
もしや食べられるのでは?
 
雪に耐えたほうれん草
青梗菜や小松菜の芽花の
美味しさは云うまでもありません。
雪の冷たさと重みに耐えた
ほうれん草やレタスは
やや硬く厚く武装してますが
こいつが中々いけるのです。

ここ数年失敗続きだった玉葱は
マルチシートで保湿され
すくすくと育ちつつあるので
6月の収穫が愉しみ。
玉葱は葉がとても美味しいって
知ってるかい?
 
玉葱も今年はどっさり



風呂場も新入社員
ポトス、スパティーフィラムは引退

浴室は南に面しているので
とても暖かいのです。
だからポトスもスパティーフィラムも
なんとか冬超え出来ないかと
実験してみたけど
やっとこさ耐え抜いたのは1鉢。

昼は暖かくても
夜はマイナスになるから
南国の観葉植物は
畑の野菜のようにはいかないね。
そこで奥庭の蔦を
2011年の社員として採用。

こいつならマイナス10℃くらいは
へいちゃら。
4月1日の辞令交付には
なんて書こうかな
《冬の旅》に耐えた功績により
蔦を浴室係に任命する。
今後研鑽を積んで
シューベルトを極めるべし。
何じゃこりゃ?

わかんねーだろうな!
もしかして《冬の旅》に出てくる
流離う若者の靴かい?
まー何らかの
オブジェらしき雰囲気はあるね。

実はこのテラス下の芝生を掘り
快適な寝床を作って
夜な夜なやって来る狼藉者が
居るんだ。
そう嘗て山荘に居たチビだ。

これ夜しか姿を見せない
チビへの伝言なんだ。
果してこのメッセージが伝わるかな?



失恋、貧困に梅毒が加わり最後は腸チフスによって31歳の短い生涯を閉じたフランツ・ペーター・シューベルト。
宮沢賢治より6歳も早い夭逝であった。
恰も失恋、貧困、病魔が《冬の旅》の絶望と哀しみを生み出しているかのように思われているが
果してそうだろうか?

恋が成就し楽譜が売れ名声を博し、無病であったなら我々が知るシューベルトの作品は存在しなかったのか?
恋の成就後の倦怠、名声と富による堕落、際限も無く老いを引きずる無病、それらが齎す救いの無い絶望に
シューベルトが気付かぬ筈はない。
失恋、貧困、病魔が負の触媒として《冬の旅》を生み出したなら、負の触媒はメスを反転させ正の触媒として更に深く
決して救いの無い《意味の喪失》を抉り出すことが出来るのだ。
そこまでシューベルトを読み込むならポール・ルイスのピアノは美への恐怖を描けるかも知れない。

あーだから、正の触媒・春爛漫の背景に《冬の旅》が聴こえたんですね。




今週のLivre    bQ5 ・ 
ミレニアム1部
(ドラゴン・タトーの女)
上下巻2部(火と戯れる女)上下3部(眠れる女と狂卓の騎士)上下                          

原題: Millennium 1.2.3
著者: スティーグ・ラーソン(Stieg Larsson)
受賞: 1.3部はガラスの鍵賞(スカンジナビア推理作家協会)
第2部はスウェーデン推理作家アカデミー最優秀賞
他の作品: 無し(この作品が処女作であり最後の作品)
訳者: ヘレンハルメ美穂&山田美明
発行所: 早川書房
発行日:2009年4月15日
定価:1700円
(アマゾン価格)
(各部の上下巻6冊)
計10200円
読書期間:1月〜4月
評価:★★★★

この本好きな私が5回も放り投げたのである。
なにしろ面白くないのだ。
これから始まるドラマの伏線として延々と聞きなれぬスウェーデン語の企業名とその背景が語られ、うんざり。

映画を観てびっくり!3部で計7時間11分もの長時間の大作が、驚いて瞬きしている間に終わってしまった。
慌てて本を紐解き6回目の読書に挑戦。
リスベット・サランデルが登場するや否やこの本が世界のベストセラーになった理由を納得。
もう平野啓一郎の「形だけの愛」も桐野夏生の「ポリティコン」も吉田修一の「悪人」も総てぶっ飛んで明けても暮れても「ミレニアム」。

作者・スティーグ・ラーソンは正に現代の生ける伝説なのだ。
ほぼ2年間でこの処女作の超大作をエバ・ガブリエルソンと共に書きあげ2004年の始めに3部作の契約を結び、
翌05年の出版直前04年11月に、心筋梗塞により50歳の若さで突然死んでしまったのである。
《ドラゴンタトーの女》が出版されるやあっと云う間にベストセラーのトップにランク、世界中で翻訳され空前の3000万部(2010年現在)を売り上げた。
筆者ラーソンがその大成功を知らずに死んでしまったことだけが伝説となった訳ではない。
じつはこの小説の骨格はラーソン自身の実体験から生み出されていると考えられるからこそ、現代の伝説と呼ばれるのだ。

スウェーデンと云えば人権が重視され豊かな社会福祉の中立国としてのイメージが強い。
だが1980年代には極右勢力やファシスト、ネオナチ、スキンヘッドらによる移民排除、人種差別活動と
それにともなう暴力事件が多発していた。
95年にはネオナチの暴虐活動により、8人もの死者がでる惨事にまで発展する。

この95年、英国の反ファッシズム雑誌「サーチライト」の編集に携わり活動していたラーソンや人権派ジャーナリスト、政治家達が集い
ラーソンを編集長として反ネオナチグループ「EXPOファウンデーション」を設立する。
これが「ミレニアム」なのだ。
となると当然一緒に活動する仲間であり恋人でもある「ミレニアム」の編集長エリカ・ベルジェは誰かと云うことになる。
それがエバ・ガブリエルソンでありその実情を「とむさとう」はこう述べる。

「彼は18歳の時、ベトナム反戦運動のイベントで知り合ったエバ・ガブリエルソンと長年暮らしていたが、
その事実についても敵に知られてエバが脅される危険を察して、ほんの僅かな知人しか彼らの仲をしらなかった。
事実、その後、彼はネオナチグループの暗殺のヒットリストに入ってたのである。
99年には、EXPOファンデーションの激務と絶えぬ攻撃でスタッフは過労でダウン寸前の状態だった。
そこで、彼は20年勤めた通信社を早期退職して、退職金を全てEXPOにつぎ込み、
機関紙を極右活動を暴露するルポタージュ雑誌に衣替えした。
EXPO編集長として彼は、極右活動家61人を暴露する記事を全国紙4紙に同時掲載した」

とむさとうのコラム集より

xn + yn = zn ・・・3 以上の自然数 n について0 でない自然数 (x, y, z) の組み合わせはない
ご存知、フェルマーの最終定理だが、これを読書代わりに玩ぶのが裁判所により無能力者の宣告を受けたもう1人のリスベットなのだ。
2部(火と戯れる女)の第1章は変則的な方程式、3章は不合理な方程式とタイトルが付けられ
2部の冒頭からリスベットの数学への、のめり込みが語られる。
紀元前から知られていた4つの完全数(その数自身を除く約数の和が、その数自身と等しい自然数) 6、28、496、8128を
メルセンヌ数の形{21(22 - 1) , 22(23 - 1) , 24(25 - 1) , 26(27 - 1)}で読み解くリスベットを登場させる。
だが、ピタゴラスからフェルマー最終定理へと昇華されるリスベットの心象風景が何を暗示するのか、全く予測を許さない。

ポーランド製の拳銃P−83をザックから取り出し弾倉に9ミリマカロフ弾が6発入っているのを確かめ
GRU(ソ連参謀本部情報総局)の亡命スパイ・暗殺者ザラチェンコに迫るリスベット。
その濃密な緊張の刹那にリスベット自らが証明を試みていたフェルマーの最終定理を、瞬時に理解してしまうのである。
この一刹那の為にだけ第1章・変則的な方程式、3章・不合理な方程式が小道具として描かれていたと気付くのだが、
この場面は筆力不足でリスベットの濃密な緊張感とフェルマーの最終定理の結びつきがイマイチぴったり来ない。
残念ながら勿論これを映像で描くことは出来ないので映画では総てカット。
本を読むしかない。

   
今週のCinema  bP1

ミレニアム1.2.3  
              
            劇場:BD(山荘初放映)
                           
 鑑賞日:3月〜4月
                              評価:★★★★★
映画名: ミレニアム(原題:Millennium)
制作国: スウェーデン、デンマーク、ドイツ(配給:ギャガ)
制作費: 一部 1300万$(約10億7千万円)
二部 $66,995,450、三部 $41,073,274
興行収入: 一部 $104,288,202 (約85億5千万円)収益率:約8倍
公開日: 一部 2010年1月16日(日本)、
二部、三部 2010年9月11日(日本)
監督: 一部 ニールス・アルデン・オプレウ
二、三部 ダニエル・アルフレッドソン
制作: ソーレン・スタルモス
出演者: リスベット・サランデル役: ノオミ・ラパス
ミカエル・ブルムクヴィスト役: ミカエル・ニクヴィスト
上映時間: 一部 2時間33分、二部 2時間10分、三部 2時間28分 

原作に通奏低音として流れる女性に対する反暴力、反差別が希薄だな

原作が優れていると映画を成功させるのは難しい。原作の無い優れた映画を文字に置き換えるのは更に難しい。
言語と映像による表現の超えられない溝が決定的になるのだ。
ニールス・アルデン・オプレウはこの難題をさらりと乗り越え、新人に近い無名女優ノオミ・ラパスを使って極上の映像に仕上げた。
映像にとって不必要なものの適確な判断と必要不可欠なシナリオの小刻みな変更が実に小気味よく決まっている。
聖書の文言そのままの連続殺人を示すキーワードを、小説ではミカエルの娘のさり気なく放った言葉から解明するが
映画では単純化し娘そのものをカットしリスベットに解かせ、一気にドラマを加速させる。
このような処理が随所に見られるが、何れもとても自然ですっきりしている。

監督のリスベット・サランデルへの惚れ込みかたが半端ではない。
既存の価値観や社会体制に対する激しい嫌悪感を剥き出しにして、全身に刺青を彫り込みピアスで武装し
常に無愛想で決して心を開かないリスベット・サランデル
社会的に忌み嫌われる総ての条件を引っ提げて登場するリスベットが、やがて我々の心を鷲掴みにし、
否応なくリスベットの世界へ拉致していく。
監督の罠にすっかり捕らわれ「あーあーリスベットに惚れてしまったな」と何度思ったことか。

2,3部では監督がダニエル・アルフレッドソンに代わり映画はどうしようもなく通俗サスペンス・アクションに接近していく。
明らかにリスベットへの惚れ込み方がニールスに較べダニエルは不足しているのだ。
《ドラゴン・タトーの女》が世界を驚かせたのはサスペンス・アクションの面白さ以前に、
女性に対する暴力、差別に
敢然と立ち向かうリスベットの比類なき孤独に在る。
余りにも反響が凄かったので製作者のソーレン・スタルモスを操る我利我利亡者達は、こりゃ儲かるとばかり
有名監督に代えサスペンス・アクション路線で更なる儲けを企んだのか?
ラーソンが忌み嫌い憎み、時には敵対する利潤最優先原理が、監督を替えたとしたらラーソンは死んでも死にきれないであろう。


どうだこれが42インチだ!
REGZA42Z1 デジタル・ハイビジョン・液晶TV

《ミレニアム》を録画したブルーレイ・ディスクを
東芝SD−BD2に入れてスイッチオン!
42インチの大型画面REGZA42Z1にハイビジョン映像が
いきなり飛び出す瞬間を期待。
が、あれれ・・・音が僅かに乱れるでは、こりゃ不良品だ。

そこで不良なのはBDなのか、プレイヤーなのかTVなのか
東芝修理センター職員を呼んで捜索開始。
1人目の職員の結論:「BDに異常はなし、おそらく
プレイヤーのブルーレイの読み取りセンサーが原因でしょう」
2人目:プレイヤーを交換したが音乱れは改善されず
結論を変える。「TVが不良なので基板を替えましょう」

3人目が来たがTVに異常無し。
結論:「プレイヤーの代金を返金するので許して欲しい」
つまりギブアップしたのだ。
そこでヤマダ電気の販売責任者と大喧嘩。

すったもんだしてBDを地元のK’S電気に持って行き
他社のプレイヤーに入れてみたらバッチリ。
なーんだ、東芝の製品そのものが不良品だったのだ。
こりゃリコールだな。
東芝を捨てパイオニアのBDP330を購入し
やっと一件落着。

と、まあ山荘での《ミレニアム》初上映は
大変だったのです。
リスベット・サランデル 
圧倒される無名女優ノオミ・ラパス


山荘初上映までに紆余曲折があっただけに
リスベットとの大型画面での再会には感動したね。
この画像はTV画像をそのままカメラで
撮っただけなのだが、どうだいこの鮮明さ。

では、どれ程想像を逞しくしても描けないヒロイン、
リスベットについてちょこっと。
背中一面に竜の、首には雀蜂の、
腕や足には帯状の刺青を施し、耳や鼻、陰唇にまで
夥しい数のピアスを着け黒の革ジャンを羽織り
バイクで突っ走る。

1部では伏せられているが
母親を虐待する父親にガソリンをかけ火をつけ
12歳で児童精神科病院に送られる。
病院で13歳を迎えた自らに贈った誕生日の
プレゼントは精神科医、心理学者とは
金輪際いっさい口をきかぬ決意。

ジュネーブ条約で非人道的行為とされる無刺激室に
入れられベッドに縛りつけられ381日を耐える。
更にリスベットは口を無理やり開かされ
向精神薬を飲まされる。
何故そこまでしてリスベットを社会から
封印しようとするのか?
実在したオーロフパルメ首相暗殺事件
まで絡むリスベットの背景とは?

地方裁判所により無能力者の宣告を受け
後見人の管理下に置かれやっと社会に出たリスベット。
こうなると最早廃人からの脱出は
不可能に近いと思われるが、
リスベットは比類なき孤独を抱えて
闘いの一歩を踏み出す。
 



4月2週・・・・・光のせせらぎ



手を焼くぜ!チビの悪行 
4月9日曇り後晴 山荘池

電気が点かない。
大地震による計画停電の始まる前だから当然停電ではない。
ブレーカーが落ちていることに気付き
ブレーカーを入れるが
直ぐ切れてしまう。こりゃ大変!

つまり何処かで漏電しているのだ。
極めて危険な上、電気の無駄使いが続いているわけ。
冷蔵庫、電子レンジ、ホッカー、トイレ、生ゴミ乾燥機、TV・・・
ありとあらゆる電源をチェックするが不明。

数時間の悪戦苦闘の探査に疲れふと池に目をやると
池灯が倒れ水面下に没しているでは。
あいつだ!モーターと照明部分が水中で漏電したんだ。
犯人は・・・チビだ。あの野郎、許せん。
水浴が大好きな上、
半野生化しているチビが
池の鯉を狙って池に飛び込み
鯉を追っている内に
池灯に何度もぶつかり
ついに倒してしまったのだ。
畑荒らしだけでなく
池荒らしまでするとはもう堪忍袋の
緒が切れたぞ。 
  水没し壊れてしまった池灯は
点かないし
勿論モーターも動かない。
ショートしてしまったので
もう直りはしないと断念。
新品に買い替えるしかないな。
が、チビに又やられるかもと
忙しさに感けて池から取り出し
そのまま放置して数カ月。
 
 春のせせらぎ復活 
4月9日曇り後晴 山荘池

さてどうしよう。捨てれば粗大ゴミになるだけ。
1か月経ても尚、
復興の進まぬ大震災の瓦礫の街が浮かぶ。
よーし何とかこいつを甦らせよう。
分解し1つ1つ部品をチェックし油を差しスイッチオン。

ピクリとも動かない。くそー!
短気を起すなよ。原因さえ突き止めればきっと動く。
と信じ又又2時間悪戦苦闘。奇跡が起こった。
突然うぃーんと動きだしたのだ。
そんな莫迦な!
てな訳で極めて非科学的ではありますが
山荘にも《春のせせらぎ》が復活したのです。
めでたし、めだたし!




超美人になったね(山荘ゲートの片栗)

燦爛春の光(前庭の辛夷)
 燦爛たる氾濫
4月10日(日)晴 

未だ早いかなと思いつつ
水仙に隠れていた片栗に目をやって
吃驚!
ほんとうに美しいね!

凄ーい美人になったね!
扇山の頂稜から連れてきた時は
あの美麗な片栗とは
とても思えぬ不細工な容姿だったのに。

咲いてしまった柳(山荘前) 
森の仄暗い闇を背景に辛夷(こぶし)
命を光に映して
ほら、芳しく匂いたっているよ。

森を覗けば辺り一面に春蘭
手招きしているし
桃色の花弁を恥じらうように
開きはじめた杏子
秋波を送ってくるし
春は実に艶めかしいね。 

綻び始めた杏子(西畑&奥庭)
 
あちこちに春蘭(山荘の森)




木五倍子(きぶし)(座禅草公園手前)

遅過ぎた土筆(疏水脇)
M9.0の超巨大地震、
地震による火災、
更に20bを超える大津波
その後の最も深刻なレベル7の
原発事故と悲劇が続き
春の到来を暫し忘れていた。

気がついたら最も美しい時を過ぎ
柳は花開き
土筆は育ち過ぎて胞子が飛散。
プロローグを失ってしまった
喪失の春・2011年3月。
真っ先に山荘の
春を告げるいつもの山茱萸
すっかり盛りを過ぎ
干乾びてあとは散るらんとばかり。

果樹畑の手入れをする者も無く
放置された李は
春をを忘れずに綻びはしたものの
咲いていいやら思案顔。
木五倍子も時期を過ぎているのに
蕾を固く閉じたまま。
エピローグの手掛かりさえ無い
凍結の春・2011年4月

薹がたった山茱萸(さんしゅゆ)(前庭)

棄てられた李(座禅草公園手前)




テラス書斎
(2階)

カリスト(2階)

イオ南窓(2階)
嬌艶(きょうえん)クリビア
4月10日晴 

1994年3月の山荘開きと共に
クリビヤはやって来た。
多彩な花々や
観葉植物が各部屋で艶を競い
生命を謳歌。

やがて適者生存の嵐に襲われ
山荘の情熱に破れ
自然淘汰され、次々と消えていった
多くの仲間達。
それでもお前だけは咲き続けるんだね。

南瓜の種鉢(2階カリスト仮温室)
昨年のベスト南瓜(かぼちゃ)

ここ数年來南瓜の味覚にぞっこん。
日本の南瓜が終わると
南米各地の南瓜を愉しみ
現在はニュージ−ランド産を食卓に。

勿論当たり外れがあり
ほくほくの栗のような極上南瓜には
中々巡り会えない。
そこで極上南瓜の種を保存しておき
今夏は山荘での栽培をと
60個の小鉢に種蒔きし仮温室へ。 
 
(1階)
 
踊り場(1、2階)
 
イオ西窓(2階)




山雀キョトン(1階テラス)

啄む四十雀(中庭)
野鳥も大忙し
4月10日晴 

ごりごりがりがりと
コーヒー豆を挽いていると
直ぐ目の前の中庭に現れた四十雀
枯草の下に潜む虫を
無心に啄み、ふと思い出したように
こちらを振り向く。

目が合った。
黒いネクタイを正面に向けて
《やーやーもうすぐ
番い、産卵、子育てとなるので
大忙しさ》
あれ!良い香り
4月10日晴 

挽いた豆をサイフォンに入れて
アルコールランプに
火を着けると沸騰した湯が昇る。
茶褐色のガラス球の底が
湯を含んで黒ずみ香りが広がる。

あれ、ガラス窓を隔てているので
香りは届かない筈なのに
山雀がやって来たよ。
そうかあいつが茶褐色なのは
コーヒー党の証だったのか!

黒いネクタイの四十雀(中庭)

コーヒーに惹かれる山雀(1階テラス)



霜降り椿(奥庭)

ここにも水仙(中庭)




4月3週・・・地雷と戦車のお出ましじゃい!




《A》 花と蝶のお出迎え

 

滅びつつある山荘芝桜(ワインセラーの上)
 初の黄揚翅蝶(キアゲハ)
4月16日(土)晴  葡萄畑

春と云ったって
山荘の朝は未だ霜が降りて
大地が白くなって寒くてぶるぶる。

それなのに待ちきれない黄揚翅蝶が
羽化して、ほら出てきたよ。
「やあ、君達には未だちょっと
早すぎはしないかい?」
《でも今日は山荘の畑に誰か
やって来そうだから
お迎えしようと寒いけど羽化したの》

それでは蝶と一緒に山荘ワインで
歓待してあげようか。

次々咲く見知らぬ水仙(ワインセラーの上)



《B》 土の匂いと流れる汗


猪に負けないぞ!

鶏糞は臭いし重いぜ

雑草に負けないぞ

高芝山を背景に

  さあ、有機栽培土作りだ!
4月16日(土)晴 葡萄畑

雪のようなヨーグルトの上に
橙マンゴをトッピングしたシャンパン・グラス
山荘産紅ワイン《ゆぴてる》が置かれ
テラスは長閑な春の光に満たされていました。
林檎のパイと苺のパイを摘まみ
畑で採れたてのほうれん草や人参のサラダを食べ
ワインを呑むと力が満ちてきます。

「さあ、ワインを呑んだら戦闘開始だ!」
鬼のように優しい隊長の声が春の光の中に
凛として響きわたりました。
「本日の活動は先ず対猪、鹿作戦。
敵侵入防止柵を張り巡らせた
葡萄畑の南境界線に布陣し、徹底的に・・・」
その後、言葉が詰まったような。

徹底的にどうするのでしょうか?
どうも隊長は「レイテ戦記」の読み過ぎでレイテ島辺りの
バーチャル・リアリティーの世界に突入してるらしく
この分でいくと今夜のログでの2次会では
先日のレイテ島での甚平鮫追跡
話しを聴かされそうです。
眼下は桃の花の海 
4月16日(土)晴 葡萄畑

あれ、話しが詰まったと思ったら未だ続きそう。
「その後は地雷を敷設し戦車を出動させ
大地のローラー作戦を展開し、敵の殲滅を図る」

何のことはない
段ボールを直角に折ってフェンスの下に
敷き詰めてその上に土を
被せフェンスの下からの猪、鹿の侵入を
防ごうと云うだけのこと。

戦車なんて云うからドキッとしたけど
小さな可愛らしい耕運機が出てきたので
思わず笑ってしまいました。
だが地雷とは物騒な代物、場合によっては拒否せねばと
作戦に臨んだのですが
出てきたのは鶏糞では在りませんか!
これを畑に撒いて有機肥料にするだけの話し。
ほら、生まれたばかりの黄揚翅蝶だって
嗤っているよ。
 
土を掘ると懐かしい大地の匂い

似合うぜ!青い手ぬぐい

もう慣れたぜ耕運機

150kgの鶏糞散布



《C》 愉しいピクニック


T・封印していた喪失感

森へ入り、ぐんぐん登る。久々の高芝山は頂上まで行けるのかなと、少々の不安を抱きながらの出発だが、ザクザク枯葉を踏む歩き心地は快適。
山荘で見る中秋の名月は高芝山の上に昇る。賢治の描いた絵のような光景だ。四季折々高芝山は実にいい山だ。

不意に風景から色彩が失せる。何故だかわかってる。居るはずの存在が欠落している居心地の悪さ。
封印していた喪失感が、唐突に押し寄せた。


嘗て舞瑠と共に登った山々。走馬灯のように、舞瑠と共に目にした風景画が流れ去る。
高芝山のこのルートに来た時も舞瑠と一緒だった。舞瑠も悠絽も一緒に登った。頂上まで辿り着いても、もう舞瑠が出迎えてくれることはない。
ともに走るところを目にすることは出来ない。

山荘の庭で2匹の犬達はそれぞれにひっくり返ったり長く延びたりしながら、時に戯れつつ、昼間の時間の多くを寝そべって過ごしていた。
台所で調理をしながら
2匹の姿に心和み、楽しまされていた。目が逢う度に律義に尻尾を振ってくれるのが舞瑠だった。
扉を開けて犬小屋の方に近づくと、立ちあがって歓迎する。しっぽをちぎれんばかりに振り、
2匹で競争して甘えてくる。





畑仕事の後はピクニック(上条峠)

連続すってんころりん
  山荘の最高峰・高芝山(1540m)
4月16日(土)晴 南西尾根

 対猪、鹿作戦と地雷敷設の有機肥料撒布
戦車による耕運を終え
たっぷり汗を流した後でバージョンCへ。

「今までは猪と鹿を敵とする作戦であったが
山に入ると新たに熊作戦が必須。
対熊作戦には何が必要か
馬淵参謀述べてみよ」

「ハイ、熊の気配を逸早く察し
熊と闘えるのは犬であります」

遠藤山・俺の頂上だぞ!

そこで馬淵参謀は
早速偵察犬・悠絽を調達に
馬に一鞭。

やって来た偵察犬・悠絽は
嬉しい筈の
山に来たのに沈んでいます。
最近優秀な友・舞瑠を
失って
元気が出ないのです。

犬と共に登り始めるや否や
遠藤2等兵が連続すってんころりん。
「馬淵参謀に騙された。
高尾山に毛の生えたハイキング
とは真っ赤な嘘。
よくも騙くらかしてこんな道なき
山に連れ込んだな」
 
そう叫びつつ遠藤2等兵は
やおら拾った枝を振り回し
馬淵参謀に恨みの一瞥をジロリ。
それから徐に立ちあがり
元気の無い悠絽と高芝山の頂を
とぼとぼ目指すのでした。

やがて目の前に小高い丘が現れると
疲労困憊し、とろんとした
遠藤2等兵の瞳が
俄かに耀き始めたのです。

頂に立つや何とその先に
もっと高いピークが
峨峨と聳えているでは・・・。
しかし横目でジロリとピークを
見つめたまま遠藤2等兵は
突如喚き出したのです。

「やったーここは俺の山・
遠藤山の頂上だ!」
遠藤山を超えると
南西に延びる尾根は益々広くなり
切り倒された沢山の大木が
両脇の森に捨てられているでは。

「さて、これは明らかに
何らかの作戦が展開されたことを
示しているが意図は何だ?」
暫くは誰も答えません。

高くなるにつれて兵士の歩みに
差が出てきて遠藤2等兵は
殿(しんがり)に居ましたが
大きな声で答えました。
「それは山火事を防ぐ為であります」

あれ、未だ山が続いているぞ!

 だんだん離れていくな




U・黒い弾丸


舞瑠は人が好きでたまらない犬だった。相手の気持ちに敏感でいつでも寄り添ってくる。鼻の頭にしわを寄せて笑う。

嘗て人間に虐げられたことがあったというのに、いや、だからこそ自分を愛してくれる人を瞬時に見抜き、その相手には心底寄り添おうとするのだろう。
私は決してあなたを裏切りません、と真っすぐな思いを込めて見詰めてくるつぶらな瞳。人の心の襞に分け入る繊細な感覚を有する類稀な犬だった。
もちろん誰よりも山荘主を慕っていた。


2匹の犬は、全く異なる個性を持っていたが、2匹が一緒に居ることでそれぞれの個性がより際立って、一緒に居ると本当に面白かった。
初めて山荘に連れてこられて、山を歩いた時の不安そうな様子は忘れられない。振りかえっては、まだ行くんですか?とでもいうように人の顔を見上げる。
いつの頃からだろう。その舞瑠が小鹿のごとく敏捷に優美に山を駈けめぐるようになったのは。
黒い弾丸のように飛んできて、またあっと言う間に木立の中に飛び込んでゆく。急な斜面も全く意に介せず、走るのが何より好きなのだ。
舞瑠と山を登るのは楽しかった。


しかし、この1年は足の怪我で舞瑠との山も思うようには行かれなかった。
まだまだ夏の穂高にも冬の八ヶ岳にも一緒にいきたかったのに。悔いが残る。

人は律しきれない大きな哀しみや苦しみの前では自らそれを受け入れるのを拒否して、心を閉ざすという。
涙の代わりに、心の中に岩のように硬い想いが居座ってしまっていた。悠絽が舞瑠を噛み殺したと聞いた瞬時、心のどこかが凍った。
舞瑠の死も、それを齎したのが悠絽であることも信じたくなかった。考えようとすると胸が苦しくなって、受け入れるのを拒否してる自分があった。

幸子さんの追悼文を読んで、初めて少し心が楽になった。悠絽が意図して舞瑠を噛み殺したのではなかったのだ。きっとアクシデントだったのだ。






北の頂上(1540m)・見晴らし悪し
  ここが高芝山の頂だ
4月16日(土)晴 

中々鋭い答えに感心して隊長は学徒兵・遠藤2等兵の
出身校を訪ねました。
「はい、自分は東京理科大で応用数学を学んでいます」
「おーそうか!それなら350年前の関孝和が
即解したあの問題をちょっくら観てもらおうか?

果して解答が正しいのか、別解答にどんなのが在るか
熊作戦が完了したら直ぐ取り掛かってくれ。
実は恥ずかしいながら
最近(とみ)に山荘主を始め会員の知的レベルが
老・低化しつつあり山荘活動は深刻な危機に曝されている。
このままでいくと山荘は呆け老人の集う姥捨て山になっちまう。

そこで一計を案じ山荘HPにあの数学問題を載せて
知的触発を試みたが誰もが観て見ぬふりか解らんとの反応。
最早知的レベルの低下は一目瞭然。
この天地明察作戦の突破口を貴様に開いて欲しい」

隊長は登高を続けながら学徒兵の返事を待っていましたが、
幾ら待っても何も聞こえません。
振り返ると遠藤2等兵は最早遙か下の稜線に小さな点となって
今まさに消え去るばかりです。

どうも森の切り株に腰を降ろし
既に思考を開始しているようなのです。
350年前の関孝和が解いたあの問題と云っただけで即
天地明察作戦の問題が解ってしまうとは
遠藤2等兵、唯の学徒兵では在りません。

そっぽを向く悠絽と馬淵君(北峰頂上)

舞瑠が居なくて寂しい村上さん

南峰ケルンと悠絽(南峰頂上)

熊作戦が悠絽のお陰で功を奏し
熊にも遭遇せずに
3名が無事に高芝山の頂に立ちました。
新たな任務・天地明察作戦に取り掛かった学徒兵・遠藤は
森の中で森と化し、無我の境地に入ったか
姿は勿論、気配すら在りません。

悠絽にそっぽを向かれた馬淵参謀は元気そうに右手を
上げてポーズをとっていますが実は
このとき既に体力も気力も限界を超えて倒れる寸前だったとか。

シェフ村上の到着を待たずバタッと山頂に伏したまま
暫く動かなくなってしまったのです。
まーのんびりと昼寝ならぬ夕寝を愉しんでいるのかと
「さあ、下るぞ!」と一声掛けて下山開始。
ところが幾ら待てども姿が見えない。

「自分は合気道やフットサルで常に精神と肉体を
鍛練していますのでその辺の軟な人間とちょっと違います。
如何なる苛酷な作戦にも耐えられます」
それが口癖の馬渕参謀のこと、隊長は全く心配せず。

森に夕陽が沈み満月前夜の月が煌々と輝き出した頃
やっと姿を見せた馬渕参謀の一言。
「いやー大ピンチでした。腹減ってコカコーラがちらちらして
もう動けませんでした」

「うーん鍛練が足りん、
次回からは呑まず食わずのサバイバル作戦も実施せねば」
あーこんなこと隊長が考えているなんて知ったら
もう山荘への志願兵なんて絶えてしまうに決まってますよね。
どうも隊長は客観情勢の分析力に著しく劣り
最早使いもんにならん。

ケルンの在る南の頂上



V・さよならは言わないよ舞瑠

「カムパネルラ、僕たち一緒行こうねえ。」
―振り返ると、そこにいたはずのカムパネルラはいなくなっていた―さいわいを求めて一緒に歩んでいたはずの相手が、振り返ると何処にもいなかった。
その喪失感と孤独と哀しみの深さは、覗き込むほどしんしんと深くただ深い。
そんなおもいは誰しも経験しているのに、覗き込むことに耐えられず、忘れたふりをしてるだけ。

雑木林の昏い空間の先には夕日が一面の赤い海のように空を染めていた。
金色の粉をまぶしたような茜の色はしっとりとした穏やかさを秘め、薄絹のように私の存在そのものをくるみこんでくれそうな気がする。
舞瑠の流したたくさんの血が染め上げた薄衣か。もっともっと生きたかっただろうね、悲しいよ、舞瑠。
茜の衣に包まれながら呟くと、心の深くに凝り固まっている哀しみが、ゆるゆると融かされ、胸の奥に小さな涙の湖が生まれ、
やがて太陽の温もりが心の空洞に満ち渡る。
生きていることは限りなく哀しい。だが、悲しさにも温もりがあるのだ。
だからこそ人は生き続けることができるのだろう。

山を駈け登り森をひたすらに歩けば、やがて空っぽの心に陽のぬくもりと、月光の雫が満ち、新たな旅への道標が示されるのかもしれぬ。
(森の向こうの赤い海は、もしかしたら<ルビーよりも赤くすきとおりリチウムよりもうつくし酔ったようになって燃えている>蠍の火なのかもしれない)
森を抜けると、山と山の間の空に抱きかかえたいほどの大きな月が浮かんでいた。満月に一日足りない月だ。
舞瑠を乗せた銀河鉄道が確かに見えた気がした。さよならは言わないよ舞瑠。






パキケトゥス想像図
肉食性哺乳類
・・・鯨の祖先か?

ヒマラヤ大山脈の生み出される6500万年前・新生代の始新世初期
せめぎ合う2つの大陸
(インド亜大陸とアジア大陸)は浅い海を成した。
果敢にもパキケトゥスはその浅い海を恐れず、いや海への遠い記憶に魅せられてか
肺を抱いたまま潜水具も着けず、あらゆる困難を甘受し海への回帰を決意した。

せめぎ合う2つの大陸は浅い海を徐々に天空に持ち上げ、やがて海はヒマラヤの大山脈となった。
海が天空に昇るに連れ、前肢を胸鰭に変化させ後肢を退化させパキケトゥスは鯨になった。
鯨はヒマラヤから海へ回帰した時空の旅人。

(参照:wikipedia)


  流した汗に乾杯!
4月16日(土)晴 テラス

テラスで乾杯を重ね
2次会は愛媛の隊員が送ってきた
デコポンや林檎、ワインを持って
ログハウスへ。

予期した通り会話は
レイテ島での甚平鮫追跡
なるかと思ってましたが
話は参謀の愛読する
東野圭吾の作品の扱き下し
だったりで甚平は
さっぱり出てきません。

「それじゃ甚平鮫の追跡は
どうだい?」
と突如会話は村上に振られ慌てた
村上はしどろもどろ。
焦って甚平を語り始めるが
どうも話しが咬み合わない。

咬み合わない筈である。
参謀も学徒兵も
甚平鮫と撞木鮫を混同していて
「あーあの横に頭と目が
飛び出した鮫ですよね」
なんて頓珍漢なこと云ってるのだ。
 
畑と山と森で流した汗に乾杯!
最大で18mにも及ぶ甚平鮫
鯨と同じプランクトンを食べ
同じ体形をしているのに何故
哺乳類ではなく魚のままなのか?

海から陸へと新たな宇宙を求め
進出した生命体は
途轍もない苦難と長い時間をかけ
鰓を捨てて肺を手に入れた。
が鯨は何故再び海に戻ったのか?

甚平も鯨のように進化すべく
卵生を捨て卵胎生を選び
体内受精をする為の
性交パートナーを求めた。
でも甚平はそれ以上の進化を
望みはしなかった。

従って今でも甚平は
産んだ卵を体内で孵化させてから
体外に胎児を出すのみ。
鯨のように困難を排して海中で
母乳を与え母子の絆を
育んだりはしない。

どうも隊長は2次会で
《苦難と進化》をテーマにそんな事を
話したかったらしいと
村上は気付いたようなのですが・・・



《D》 森の目覚め・朝の逍遥


切り株のアート
 
森に咲く壇香梅 4月17日(日)晴 上条の森
 
あれ、ここにも在るぞ!

 甚平鮫の話しが頓挫し
3次会は42インチの大型TVを
囲んでチベット遠征登山の
記録映画鑑賞へと。

「いやー隊長の撮ったビデオ
中々いいんですよね」
とか云ったかと思うと
参謀はしっかり白河夜船。

未踏峰Mt キラの初登頂記録
すっかり忘れていたチベットが
大型画面に初登場。
広大なチベット高原をヤクと共に
キャラバンする村上が
大写しで笑い掛けてくる。

未踏峰の北壁に
アイスバイルを打ちこみながら
ザイルを手繰り頂に迫る隊長。
荒い息遣いが氷壁に流れ
やがて高所ポーター・ピンゾーが
頂に立ち叫ぶ。

「Congratulation!We are
the summit.
Sakahara san」

 でっけえー(ふくろう)だな!

就寝は夜中の1時。
起床は5時なので睡眠時間は
4時間、眠いが
朝トレーニングで上条峠へ。

森のあちこちで小さな黄花を
綻ばせた壇香梅が満開。
森の静けさと
壇香梅の清楚な佇まいが調和し
(かそけ)し調べを奏でる。

刹那の調べが心象を深く抉る。
「でもどんなに美しい里でも
此処には住めないね」
静謐を湛えた瞳が微かに肯く。
シューベルトの美への
畏れが
一瞬脳裏を走る。

森を出ると あれ!何だろう?
切り株のトーテム・ポールだ。
向こうにも在るぞ。
「どれ悠絽乗ってごらんよ。
誰だろうな?
こんな洒落たことする人が
居るなんて嬉しいね。
山荘でも作ってみるか?」 




W・幸せな時間だったのだ

朝の上条の森を、久々に悠絽と歩く。一緒に歩くと悠絽には今までなかった翳りがあるように感じるのは気のせいか。
春愁というには重い何かが、悠絽の瞳の奥に宿っている。と同時に、悠絽はどこか毅然とみえる。
もともとマイペースで、胆の座ったところのある犬で飄々と生きているかに見えるが、その実、賢さも十分備え、
舞瑠とは別の意味で人の心を見極める力を持っていると感じていた。
全身で愛情を示し、寄り添って来るのは舞瑠、普段は自分勝手に見えるが、相手が求めているものを的確に判断するのは案外悠絽なのだ。
いつも遅れがちな私と登山しても、ちゃんと黙って待っていてくれる。舞瑠はそうはいかない。

先頭に立ちたくてたまらないし、何より大好きな山荘主に遅れを取ると大変。悲鳴をあげて追いかけようとする。
三つ峠で舞瑠に引っ張られてザレ場で尻餅ついたこともある。思い返すと、いったいどれほどの山を、彼らと共に駈け巡ったのだろうか。
幸せな時間だったのだ。
今、悠絽のお腹の中には命が育っている。それが悠絽を思慮深げに見せる原因だろうか?

天変地異や思わぬ妊娠や、親友の筈の舞瑠との惨劇、どれ一つとっても悠絽には過酷な体験、それらが悠絽の心に何某(なにがし)かの影響を与えたのだろうか?
舞瑠の死はいったい何故起こらなければならなかったのだろう。いくら考えても、悠絽に尋ねてみても答えは返ってはこない。
でも、もしも悠絽が新しい命を産み出そうとしているなら、もしかすると舞瑠はその命を護るために自らが犠牲になったのかもしれない。
本当にカムパネルラのように・・・きっと、銀河鉄道に乗った舞瑠は、みんなのほんとうの幸いを求めて、
今も月光のふり注ぐ夜は地上に向かって遠吠えしてるのかもしれないね。
舞瑠一緒に過ごせて楽しかったよ。大好きだったよ。ありがとう舞瑠!
そんなに遠くないうちに、銀河鉄道に私もきっと乗る。また一緒に旅をしよう。そのときまで待っていてね。

(もう一人のジョバンニより)





朝日に映える満開辛夷(こぶし)

水仙に囲まれたゲート
舞瑠におくる葬送の調べ
4月17日(日)晴 ゲート  花に包まれてのタイア交換

無数の花々に囲まれ車のトランクを開けてジャッキーを取り出す。
倉庫の棚からノーマル・タイアを降ろし奥庭を転がし前庭を通り車まで運ぶ。
雪の八ヶ岳に行こうと思ってスタッドレスのままにしておいたが、舞瑠が死んでしまっては雪山に行く意味はもうない。

意を決して雪山を諦めやっとタイア交換を始めたが、花々に囲まれているととても哀しい。
スタッドレスを1本外す毎に舞瑠との距離が広がり、やがて手の届かぬ絶望的な彼方に舞瑠が遠ざかっていく。
舞瑠は水仙の咲き乱れるこの場所が大好きでよく寝そべっていたな。
そうだ、この花々を総て舞瑠への葬送曲として捧げよう。

たくさんの山々へ舞瑠を連れて行ってくれた銀の車が水仙に囲まれてひっそりしているね。
ドアを開くと、目をきらきらさせた舞瑠が飛び出してきそうだな。
今度はこの銀の棺に乗って山々を超えて、たった1人で遙かな銀河鉄道への旅に出るんだね。

 

4月4週・・・・失われた地平線

先週、山荘の桃は未だ咲いていなかった。やっぱり山荘は寒いんだな!
来週が愉しみと思って来てみたら今週は既に散りかけているでは!花の命の短さよ。

先週、下界で満開だった里桃はすっかり散り果てて彩無し。
従って山荘から眼下に連なるピンクの絨毯は残念だが今年は観られない。

仕方なく2年前の里桃画像を拝借し今春画像に組み入れ、数年に一度だけ訪れる山荘シャングリラを再現。


 シャングリラ
失われた地平線
 4月24日(日)晴 山荘の森
ソルダムの白花に若葉の萌黄が融け込む。
生まれたばかりの萌黄の彩を天空に広げ、
入り組む黒い幹がアーチを造る。
アーチの深奥に桃源が蜃気楼のように浮かび上がる。

このアーチを潜ると香格里拉(シャングリラ)
チベットの山々の奥地に在ると云う理想郷。
この山荘を登山基地として繰り返し訪れたチベット奥地の未踏峰が
香格里拉に重なる。

黒い幹のアーチが時空の回廊となり未踏峰と山荘をクライン管で繋ぐ。
時と空間は境界を失い限りなく自由になって、私はクライン管を翔ぶ。
熱情の総てを注ぎ追い求め登り続けたヒマラヤの峰々、
そして幾他のチベットの未踏峰。
雪と氷に閉ざされた未踏の山顛で確かに豊饒な生の歓喜に包まれ、
時には神々との邂逅を垣間見たこともあった。

だが生命の影すら無い凍てついた未踏の山顛が如何に豊饒の時を刻もうと
人は其処に住み続けることは出来ない。
同様に人は香格里拉に住み続けることは出来ないのだ。

その自明の理をソルダムの黒い幹は時空の回廊として描き
未踏の山顛と香格里拉をクライン管で繋いだ。
生命を拒絶した凍てついた世界と総てが満たされた理想郷は
対極に在りながら何故結ばれるのか? 






森の囁き・壇香梅 
永劫の回帰
 4月24日(日)晴 上条の森

いいねー!
この上条の森に来ると
決して触れることの出来ぬ自らの
心象風景に忍び込んだよう。

心象風景の森を見つめる自分が居て
その森を彷徨い歩く自分が観える。
《おやまあ、こんな処に
私の心象風景は転がって居たんですね。
さて自らの心象風景の
旅人となって私は何処へ行きましょう》 

露を宿す壇香梅

森の死に重なる生命
 
枯葉の海に漂う白樺
 
森のクライン管


テラス下からの桃と雪富士

稜線の花園三つ葉躑躅
 4月24日(日)晴 上条山稜線

J・ヒルトンが認識していたか
文中からは解らぬが
失われた地平線・Lost Holizonとは
闘いや苦痛、死の恐怖すら無い
総てが満たされた理想郷そのものである。

もはやその理想郷では次なる世界を
必要としないのであるから
地平線は何処にも存在しないのだ。

幸や歓びは苦痛や哀しみの
対極として初めて感覚可能なのに
その一方を否定する世界は実存しない。
敢えて歓びを永劫に持続させるとしたら
死によって
瞬間冷凍させるしかない。
そしてそれは正しく実存の否定。
理想郷それ自体
矛盾の産物であるとしても毎春、
決して忘れずに山荘を訪れる
花の饗宴には思わず
香格里拉を夢見てしまう。

先週2度も上条峠を訪れながら
踏み込めなかった
稜線の花園を散策し森の宝石を堪能。

小倉山から上条峠へと
連なる稜線の両側のそこかしこに
咲き誇る無数の紫の花弁。
夜明けの太陽を孕み
仄暗い森を背景にして春の歓喜を謳う。

哀しくなるほど美しいけれど
もう散り始めている。
きっと来週は何処にも紫の光をとどめず
幻のように消えてしまうんだね。



実存・・・絶えざる自己超克を強いられている脱自的存在



最初の芽吹き・春の畑
 4月24日(日)晴 山荘林檎畑の馬鈴薯


どうだい、この芽吹き!
こんな風に忘れずにつんつんと芽を出してくれると、嬉しくて嬉しくて鼻歌気分でスキップしたくなるね。
小さな芋と云う自己を超克し、芋の原型から遙かに脱した緑の葉を繁らせ
君達も地平線の彼方へと実存の旅を続けているんだね。



今週のBigニュース
bQ4    4月25日(月): 悠絽2頭の仔を生み母親となる。2月27日にオバマが犬小屋の2重塀を突破して悠絽と交わり悠絽妊娠。58日目の出産。
                    舞瑠と入れ替わるようにして生まれた2頭。華麗に山稜を舞う舞瑠のように育っておくれ。


X新しい命
悠絽、お母さんになったんだね
!おめでとう。きっと、いいお母さん犬になると信じてます。
舞瑠、二匹の仔犬たちが無事に大きくなるように見守って下さい。
いつかまた、広い大地を仔犬と悠絽とそれから舞瑠と一緒に、思う存分走り回ってみたい。
山頂を目指して、汗をかきたい。その日までに私の足も走れるように、鍛えなくてはね。
一つの命を奪ってしまった悠絽が、二つの新しい命を送りだした。生命の誕生は何て素晴らしいんだろう。
風も光も大地の緑も、新しい命の誕生を祝福して、きらきら輝いている。
逢える日を楽しみにしています。


Index Next