《B》 甚平鮫を追って

パナオン島DV:DS(Diving Site): @ Sonok(2月17日雨 1時間も一緒に回泳
                             J Sonok(2月20日晴 18,19,20日と出現せず


早速翌日のジンベイスイムの概要説明を受ける。
女性は疲れたらすぐにカヌーに乗せてもらえるといわれ、他に女性は誰もいないので、
若い女性でなくても拾ってもらえるだろうと内心ほっとしたのである。

波音を子守歌にぐっすり眠った。

翌朝は期待に反して空は雲で覆われ、青空はない。昨夜の星空は幻か。
朝食後、船に乗る。波が高くしぶきが飛んでくる。結構寒い。
用意したウインドブレーカーでは足りず、雨具を借りてくるまる。

到着した島はこじんまりした村があり、教会の建物もある。
フィリピンは何処の村にも教会が中心に建っている。
人の住む島のこんなに近くにジンベイが来るのだろうかと、驚く。



 繰り返される追跡ジャンプ 
2月17日雨 ソノック

6日間滞在して甚平鮫の出現したのは唯一度だけ。
その日、2時間探し回り諦めてボート上で昼飯を食い始め、さあ帰ろうかというその瞬間
現地語のブタンディンでもなく英語のWhale Sharkでもなく
「ジ、ン、ベ、イ」との叫び。
カメラを持って飛び込んだ途端、目前にあの懐かしい途方も無くでかい甚平鮫。
夢中で甚平を追い船に上がってから気づいた。
「あれ!肋骨の痛みが無い。俺、骨折してたんじゃなかったけ?」

こうして骨折後初めてのジャンプをクリアして、骨折ダイビングは幕を開けたのである。
曰く《案ずるより産むが易すし》の作戦が当たったようだ。




激しいスコールの出発

甚平ガイド乗船
いざ荒れる海へ 
2月17日雨 ソノック

雨の日は甚平の餌となる
プランクトンが海面近くに浮上しないので
甚平は出難いとの情報。

朝から激しいスコール。
こりゃ絶望的だなと思いつつ
パナオン島のソノックへ向かう。

暗雲垂れ込める島から
カヌーに乗って甚平鮫ガイドが
我々の船に合流。
甚平鮫を見つけるガイドの他に
見つけた甚平をカヌーで追う
スポッター2名を曳航して
パナオン島の南端に向かう。

5名のスポッターを引き連れた
ヨーロピアンの船も姿を見せる。
共同作戦で甚平を探す。
が・・・1時間、2時間経っても
影すら見い出せない。

甚平を追って出航

スポッターを曳航




ジンベイのガイドはこの島の住人だそうで、我々の船に乗り込んできて指揮を執る。
実際に探す役はスポッターと呼ばれ、手漕ぎの一人用カヌーに乗った地元の人たちだ。
2艘のカヌーが手分けして探すのだが、なんと彼らは水中メガネで海中をのぞき込んでは確認しているのだ。
こんな広い海の中、いくら勘が働くと言っても見つけられるのだろうか?と半信半疑になる。
欧米人が乗った船は5艘ものカヌーを従え、我々の船と並走。
しかし、スポッターらの懸命な捜索にも関わらず、一向にジンベイの表れる様子はない。
本日はもう時間切れだろうと、明日また同じことをするのかと思いつつのんびり昼食を食べた。



  再度カヌーでの追走
スポッターに回収される村上
 
南の岬から北に引き返し再び湾に戻る。
スポッターも母船から離れ
湾内に散って甚平の影を求めて水面を走る。

海中の甚平は水面から高い程良く観える。
モルジブではクルージング船の屋上から目を皿のようにして
海面を見つめる数人のガイドと一緒に
甚平を探したことがあった。
が、彼等には見えても私には全く見えなかった。

数メートルの高さからさえ発見は難しいのに
一体こんな低いカヌーの上から
見つけられるのだろうか?
だが心配は無用であった。
ここの甚平は海面すれすれまで浮上し
まるでカヌーを友達と
思っているような素振りさえ見せるのだ。 
 
スポッター全力疾走 
背にSpoterとロゴ入り

《ブタンディン》の影を見つけるや否や
カヌーは弓から弾かれた矢のように
影に向かって全力疾走する。
《ブタンディン》と叫んでいるのか7隻のカヌーの
スポッターは声を掛け合いながら
一点の影に収束する。

カヌーの船尾にダイバーを乗せ
自らは舳先に座し
パドルを垂直に海中に突っ込み最大速度で迫る。
Spoterとロゴの入ったTシャツを透して
躍動する肩の筋肉が弾ける。
思わず見とれてしまう。




食後のコーヒーを手にする直前、突然船上が慌ただしくなった。諦めていたジンベイが出たという。
慌ててスイムスーツの袖を通し用意するが、私が飛び込む段になり止められる。
ジンベイが移動してしまったらしい。
出遅れて、ジンベイには逢えないかとがっかりしたが船を少し移動させてから、
<いまだ>と押されるようにして海中へ身を投じる。
何と目の前に居るではないか!初めて出会うジンベイが視界いっぱいに、慌てる様子もなく泰然と泳いでいる。
こちらの方が慌ててしまい、茫然としているうちに去って行ってしまった。
ダイバーたちが夢中で追いかけている。出会えただけで幸せだと、海面を漂っていると、
カヌーがやって来て乗れと合図してくれるので、丸太の先にしがみつく。
体をカヌーに横たえフィンが海中につかないよう脚を上げると、スピードを上げてカヌーは進む。
驚くほど速い。



捕食の瞬間 
撮影:鍵井カメラマン 17日 ソノック

大きなカメラを抱え真っ先にバミューダだけの
鍵井カメラマンが飛び込み、
一直線に深く潜行。
一緒に追うがウエットスーツの浮力が邪魔して
深くは潜れない。

それに今まで遭遇したことがない程の
もの凄く大量のプランクトンが行く手を阻む。
前進しようとすると肌を露出した
顔や手にぶつかり刺すのである。

このプランクトンを狙って眼下の甚平が
洞窟のような巨大な口を開ける。
巨大な5つの鰓裂(さいれつ) 
撮影:村上カメラマン 17日 ソノック

初めての甚平に興奮して
村上カメラマンも甚平に迫る。
5つの鰓の裂け目が僅かに開いているが
捕食後はこれが全開し
プランクトン濾過後の海水を排出する。

黄白色の斑点に全身が覆われている。
よく観ると頭部や胸鰭の紋様は細かく
胴や背では大きくなり
格子紋様が加わり独特なデザイン。

背側から体側にかけて明確な3本の
隆起線が頭から尾の方向に走っている。
強靭な皮質で出来ている隆起線は
通常5〜7本あるらしい。
これで巨体構造を維持しているのだろう。




スポッターはぴたりと漕ぐ手を止め<それ入れ>とジェスチャーする。
言われるままにするりと海中に潜ると、やっぱり目の前にジンベイが。
しかも私に向かって一直線に大きな口を開けながら突き進んでくる。
触っちゃいけないんだと思い出し、私の方がよけて道を譲る。その傍らを悠々と通り過ぎていくジンベイ。
手の届きそうな距離で大きなジンベイの口の中まで見えた。
きれいだなあと見送っていると、ダイバーが次々と後を追って泳いでいく。私にもやっと要領が掴めてきた。
疲れるほど泳ぐ前にカヌーを探す。どれが我々のカヌーかは最早分からないが、
欧米人のスポッターも我々のスポッターも入り乱れ、お互い見つけた者を乗せてくれている。
何度もカヌーによじ登っては体を水平にしがみつき、猛スピードで目的地へ運ばれ、
飛び込むとジンベイが確実に目の前に現れるのだ。
スリリングでもあるし、カヌーとの阿吽の呼吸もだんだん上手くなり、何だか馬に乗って狩りをしてるような気分にさえなる。
隊長はカウボーイになったようだったと感想を述べていたが。



 素晴らしく壮大な追走
1時間に及ぶ追走

ガイドの叫びと共に直ぐに
船から飛び込んでも巨大な鰭で
一かきすれば甚平は
あっと云う間に消えダイバーは
置きざりにされてしまう。

海面に取り残されたダイバーを
見つけると透かさずカヌーが寄って来て
ダイバーを拾って甚平を追う。
このスポッターの敏捷な動きが
甚平の素晴らしく
壮大な追走を可能にする。

海中で見失った甚平を再び
ダイバーが見つけることは難しい。
しかしスポッターにとっては
雑作も無い。

泳ぐ方向を予知し先廻りして
待ち伏せる優れたスポッターも居る。
ひとたびカヌーに跨ると
見事に甚平の影を捉え追走が始まるのだ。
 




一旦は母船(?)に引き上げ、もう今日は終わりかと思っていたら、場所を移動して再度挑戦。
この時は飛び込むと同時に誰かに手を取られ、そのまま進むとジンベイが真下に居た。
並行してジンベイと共に泳ぐ。他のダイバーは誰も居ず、独占状態でしかもジンベイはゆっくり泳ぎ、
私は誘導されてハイスピードで泳げ、まさにジンベイとのランデブーである。
ジンベイは独特の星模様を持ち、それが一つの生命体であることが不思議に思えるほど美しい。
無数の水玉模様に覆われた体は、黒いというより青緑色に近く、写真で見るよりもはるかに優美である。
ジンベイに乗っているような気持がするほど、間近で長い時間を一緒に泳げて、この上ない至福の時であった。
いつまでも、目の中にジンベイ鮫の星模様が煌めいている。
私を幸せな時間に誘ってくれたのは、ガイドのベルトだった。
きっといつも人に遅れてもたもたとチャンスを見送っている私を、
何としてもハッピーガイドしてやりたいと使命に燃えてくれたのだろう。




乗れ!こっちだ!
スポッターの疾走 
7隻のカヌーと2人のガイド

甚平を見失った村上が
スポッターに手を振る。
ダイバーに気付いたスポッターは
「早く乗れ!あっちだ」

カヌーに乗ったら即フィンを
海中から上げる。
満を持していたカヌーは力強いパドルの
水飛沫を上げて飛び出す。

こうして1時間にも亘る7隻の
カヌーの追走は続く。

フィンを上げて快走
ラッシュガードも着ず上半身裸
バミューダパンツのみで
甚平を追った鍵井カメラマンは
大量のプランクトンに刺され
体中が蚯蚓腫れになってしまう。

確かにラッシュガードやスーツを
着ると浮力が生じ
潜行速度が落ちシャッターチャンスを
逃してしまう。

パンツ1枚で追うのが理想的だが
今日のようにプランクトンが
多いと被害は免れない。

負傷の鍵井カメラマン
カメラ操作が遅れては
シャッターチャンスを失うので
私もグローブを着けずに
潜行したが両手、顔を数十か所刺され
腫れあがってしまった。

痒みが取れたのは帰国後1週間。
この海域で甚平を追う場合は
ラッシュガード上下とグローブは必需品と
しみじみ実感したのだ。

DVショップのラッシュガードより
ユニクロのヒートテックの方が
保温力もありガードには
優れていると気付いた。
 
左・欧州船、右・日本船
 1時間に及ぶ追走は終わった。
モルジブの甚平ウオッチングと
全く異なるカヌーの追走に
すっかり魅せられ興奮覚めやらず。

流石にスポッターは疲れたらしく
我々の母船に戻る時は
パドルを斜めにしてゆったりと漕ぐ。
お疲れさん!
素晴らしい体験をありがとう。
Salamat. サラマッートゥ!
 
疲労困憊のスポッター




満足しきって船に戻ると、どの顔も興奮さめやらない様子。
でも、裸同然で飛び込んだカメラマン氏はプランクトンの襲撃で上半身真っ赤な蚯蚓腫れが痛々しい。
この大量のプランクトンがジンベイ鮫の登場を可能にしてくれたのだが、
オーナーの河村氏もこれほどのプランクトンは経験してないとのことで、その多さは半端ではなかったのだ。



 微かに嗤いつつ浮上するブタンディン(甚平鮫) 
なんと人間の小ささよ!
 


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