山荘日記

その37冬ー2008年師走

 


12月1週・・・HP4年目の師走




雪富士の収穫

氷のピラミッドが
黒々と横たわる御坂山塊
彼方に光る。

放射冷却が生み出した
霧の湖が
盆地を埋め尽くし
雲海となって渺茫と拡がる。

キウイ棚の天辺に登り
熟れ過ぎたキウイをもぐ。
氷のピラミッドも
広大な雲海も遠い遥かな
過去となって
熟れたキウイに弱弱しい
光を注ぐ。

キウイはいつも富士や
雲海と語らいながら
夏の激しい光を吸い込んで
大きくなったんだね。
12月7日(日)晴 西畑



178日の果実

178日前のあの日
君達は白い花の
雌蕊と花粉だったんだ。

ねえ!それがこんな風に
光を一杯吸い込んで
茶色い星になっちゃうなんて
どうして?
一体そんなプログラムを
誰がDNAに書き込んだの?

星の内部には
細密な曼荼羅絵まで
描いてあるけど
あれは何を意味するの?

氷のピラミッドや雲海から
聴いたお話が
ずんずんキウイに溜まって・・
そうか若しかすると
あれはキウイの心象風景?
12月7日(日)晴 西畑



氷の枯葉如何!
森のレストラン閉店

透明な氷が
枯葉を閉じ込めて
森のレストランのお皿は
すっかり冬バージョン。

確かにこのお皿
山荘の土で焼いたので
森の一部ではあるけれど
こんな風に自然に
お皿になり枯葉を乗せる
事は在り得ない。

山荘に来た旅人が
森や土と語り合い沢山の
時間を共有して
初めて描かれた絵画なんだ。
つまり旅人の心象風景。

きっと
キウイの曼荼羅絵と
同じなんだろうな。
12月6日(土)晴 北の森




メタボの挑戦

熊、鹿、猪が森から
里にやって来て
桃や葡萄、林檎、柿、李と
彼等の大好物の果物を
食べてしまう。

山荘の畑では
薩摩芋、馬鈴薯、唐黍など
しょっちゅう食われ
ついに村総がかりで金網の
万里の長城を造った。

でも動物達はへこたれない。
延々と続くこの金網を
超えて果敢に里に侵入し
作物を食べる。

だがこの金網をどうやって
超えるのか
長い間疑問であった。

まさかメタボの悠絽が
簡単に実行し
あっけなく疑問を
解消するとは。

12月6日(土)晴 北の森




12月6日(土)晴 北の森
舞瑠も吃驚
スルリ!


いつもはここで
重い悠絽を抱き上げて
金網の上から
反対側に下ろして山に
入るのだ。

重くて塀が高くて
悠絽の塀越えには
難儀するのだが
舞瑠は何の躊躇いも見せず
一瞬にして
網目を潜り抜ける。

メタボの悠絽には
とてもインポッシブルな話。
と信じ切っていたが
やや躊躇したものの自ら
網目に飛び込み
見事クリア。

興味深そうに見ていた
舞瑠も吃驚!
随分スリムになったんだ。
これで中型野生動物の
塀超えも納得。



なんじゃ?

後ろに反り返った
半月形の立派な牙を見つけて
悠絽が早速クンクン。
「こりゃ沼田場の
臭いと同じようだな」

『ぬたば』とは猪の
造った泥浴用の風呂場。
山荘の周りの森には
あちこちにある沼田場。
そこの臭いと同じとは
これ猪の晒頭。

11月から狩猟解禁で
猟師が山に入っているが
猟師は山に猪を残さないし
大体どう見てもこれは
数年前の骨だし・・・

何故こんな所に在るの?
12月8日(月)晴 北の森



猪の牙だ!

表側にして吃驚!
猪の前歯ってこんなに
長いの?
最も生きてる時は
歯肉に覆われているから
短く見えるだろうけど。

この長い前歯と牙で
ブルドーザーの様に大地を
掘り起こして木の根や
芋やミミズを食うんだな。

或る日、猟犬に追われ
深手を負って
何とか森の奥に逃げたが
ついに力尽きた。

狐に食べられ狸に
内臓を抉られ
鳥に啄ばまれ風雨に晒され
森の芸術品になったんだ。
12月8日(月)晴 北の森



遅すぎた冬眠

「あれれ動かないよ」
そりゃ無理もないね。
今朝は-3度まで下がって
一番の寒さになったんだ。

君達の昨夜の毛布は
暖かかったろう。
陽に干してふかふか毛布に
しておいたんだ。

でもこの蛙は毛布も無いし
一晩中寒さに震えて
耐え切れなくなって
きっと側溝から飛び出して
そのまま凍りついて
それで終わりさ。

でも若しかすると
生き返るかも知れないから
土に埋めてやろうか?
12月8日(月)晴 北の森手前



12月8日(月)晴 ログ出窓
光の懐胎
石卓とログ

小倉山から登る
夜明けの光を孕んで
石卓上の唐冠
深奥を輝かせたのを
覚えているかい?

石卓の唐冠が
夜明けの光を懐胎し
山荘冬の1日は始まる。

扇山に沈む落日を
ログ出窓の唐冠が
貝の深奥に
孕んで
山荘の1日が終わる。

2つの唐冠は
光の生と死を孕み続け
何かを生み出そうと
しているのか?
或いは山荘誕生以来積算した15年の壮大な闇を
流産するつもりなのか?

4回目の師走を迎えたHPの呟きが密かに
貝の深奥から流れる。
貝のモノローグに耳を傾けねばなるまい。



12月2週・・・Premiere neige:ぷるみえーる・ねーじゅ



燃ゆる晩鐘

夜明けの薄明に
うっすらと大地が姿を現す。
冬枯れた芝と枯葉が
無造作に描きなぐった
褐色の大地。

その見慣れた褐色が
白く塗り替えられている。
初雪だ!

冬将軍のお得意の白銀で
大地が塗り潰され
山荘の庭は
初雪に震えていた。
だがその後の雨が再び
大地を褐色に
戻してしまった。

やっと雨の上がった夕刻
2頭の犬と森を走った。
稜線で雪が舞い始めたので
急いで里に下る。
森を出ると
夕日が雪雲を縫って
大地を染め晩鐘を鳴らす。
陽の終焉は近い。

12月14日(日)雪雨曇 山荘眼下




12月13日(土)晴 西畑
大根どっさり

数週間前から
冬支度を始めているのに
大根や白菜、甘藍まで
手が廻らず
忘れ去られたまま。

このまま畑に放っておくと
冬将軍の息吹を
かけられ凍り付き
食べられなくなってお終い。

そこで今日は真っ先に
大根を抜いて
犬と共に冬超えの準備。

『冬超って
どうするんだい?』
「大根が凍らないように
土に穴を掘って
埋めておくんだよ」

『ふーん土の中は
あったかいんだ』
「そうだよ多くの虫達も
土の中で冬を超えるんだ」



干芋作り

2週間前から
干し始めた薩摩芋が
何となく
干芋らしくなってきた。

大きな芋がごろごろ
採れたけど
保存薬を使わないので
短命で直ぐ黒ずんで
甘みが失われてしまう。

そこで目白や中野に
持ち帰り犬のオーナーに
お裾分けし
スイートポテトを作り
残りを全部蒸かして乾燥。

この半乾きの干芋を
電子レンジでチンし
ワインの摘みにすると
中々いいね。
12月13日(土)晴 テラス




12月13日(土)晴 テラス

やられた!
野鳥の襲撃

どうもおかしい!
46個もの干し柿が
消えてしまった。

それも光を沢山浴びて
美味しそうになった
柿ばかりが消えている。

若しも自然落下なら
芝生に落ちている筈だが
見当たらない。
その片鱗らしき物が
僅かにテラスや石卓に
残されている。

犯人は野鳥だ!
それも中型の白頭鳥(ひよどり)
や烏の仕業に違いない。
取った柿をテラスや石卓に
運びそこでゆっくり食べ
少し残しておく手口が
動かぬ証拠。

そこで早速柿簾に
網を張って遅まきながら
防御策。
果たして効果はあるのか?




やっと咲いた
森の氷花


マイナス5℃以下に
ならないと中々咲かない
氷の花
マイナス3℃で弱々しく
初登場。

昨日の初雪と雨を
吸い込んで
何だか仕方なく咲いた
ような投遣りな開花。

大体花のような形に
未だなっていないし・・・
氷の花《霜柱》の名誉に
かけて画像にするの
やめようか?
でも折角のデビューだから
ピンボケだけど載せよう。
12月15日(月)晴 北の森





12月15日(月)晴 ログ
初雪の山稜

山稜の樹氷が
夜明けの光を浴びて
薔薇色に染まる。

モーパッサンが中短編
《初雪》で描いた
ノルマンディーの
暗鬱な冬は最早消えて
透明な光が溢れる。

遥かな昔、初めて
仏語で読んだ
モーパッサンの
Premiere neige》が
不意に脳のインデックスから
落葉のように意味も無く
零れ落ちる。

そうだ忘れていた。
あれは確か仏語の授業の
テキストだった。
不確かな不意の落下は
老化現象への警告?

そんな零れ落ち方が
在るなら
それも悪くはない。



明日からダーウィンの進化論の島・ガラパゴスまで、ちょっと出張です。
イグアナ、ゾウガメ、アシカ、ペンギン達が《時》に閉じ込められ
固有種として現存する異空間。
エクアドルから千キロ彼方のガラパゴスまで飛び
サンタクルス島に滞在しダイビングの予定。



12月4週・・仕事納め



凍てついた大地

大河の流れさえ
凍てつき
雪が大地を覆う。

灼熱の太陽が
降り注ぐ赤道直下の
ガラパゴスから
エクアドルの首都キトへ。

標高2850mの
高山都市キトで1泊し
翌早朝北米ヒューストンへ。
更に1泊し
カナダ、アラスカ、北極圏を
経由しシベリアから
成田へと向かう。

生命の片鱗さえ見せぬ
広大な雪と氷の
大地が連綿と続く。
太陽の回帰を唯ひたすら
待ち望む大地。
12月24日(水)晴 カナダ上空



12月28日(日)晴 北の森
事件の発端

山荘に戻ると
マイナス6度Cの寒気が
帰国を歓迎。

アラスカ、北極圏に
比べれば
マイナス6度なんて天国。

さてそれでは
天国の森に咲く氷の花に
帰国のご挨拶を!
とここまでは
問題なかったのだ。

2頭の犬と
久々の再会を歓び
森に咲く氷の花を
愛でていたのだが・・・
そもそもの事件の発端は
ガラパゴスの島
サンタクリストバルの
タートル・ビーチに
あったのだ。

島の中心街から
3kmも離れた浜には
イグアナが棲息するとの
情報を仕入れたので
早朝、浜に向かった。

朝6時だというのに
ゲートには
管理人が居て浜への
コースを説明してくれた。

このゲートから
40分はかかると言う。



左膝の故障

ゲートは
団扇サボテンの繁る
深い森の中にある。
海とか浜とか
まるっきり見えない。

細々とした小道が
森に延びているのみ。
この朝9時過ぎには
ホテルを発ち
EQ−192便でキトへ
行かねばならない。
40分もかけて
浜に行く時間は無い。

そこで軽いジョックで
サボテンの森を
飛ばし昇り来る太陽の
美しさを堪能する。
軽いジョックなので
傷めている膝にも
そう負担は掛からない筈。

これが甘かったのだ。
傷めていた左膝は
ジョックに耐えたが右膝が
急激な痛みに襲われ
歩行さえ苦痛に
なってしまったのだ。

その痛みが長時間飛行で
更に傷めつけられ
帰国した時点では最悪。

だが実に久しぶりの
愛犬との再会で
山荘の森を走らない訳には
いかない。



消えた2頭

氷の花の華麗な美に
酔いしれながら
P2からの急な下りを
ルートに選ぶ。

枯葉が急斜面を
覆っているので極めて
滑りやすい。
傷めた膝にとって
最悪の条件。

ここで転倒した瞬間
犬のリードが離れる。
鹿か猪の気配を
察した2頭の犬が
自由になった身で
狂ったように追いかけ
森の奥に消える。
なーにいつもの様に
直ぐ戻って来るさと
犬に呼びかけるが
森は静まり返ったまま。

山荘に戻る能力はあるが
問題は森と山荘を
隔てる有害獣の防護柵
である。
2頭の犬が通過出来る
柵は唯の一箇所。

果たして数十キロに及ぶ
柵の唯一の出口に辿り着く
事が出来るか?

暫く待って
帰って来なかったら
もう一度捜索に出かけ
声をかけて
犬の鋭い聴覚と探知能力に
賭けるしかない。



逮捕され帰家

山荘に戻ると
犬のオーナーから電話。
どうやら森の中で
鉄砲撃ちに捕まったらしい。

首輪に着いている
電話番号から
オーナーに電話が入り
その旨山荘に連絡。
即迎えに行く。

鉄砲撃ちは怖いのだ。
猪や鹿と
間違えられて
撃たれてしまうかも。

それに鉄砲撃ちの猟犬は
獲物に咬み付くよう
訓練されている。
猪と間違えて
咬み付かれる恐れあり。

冬タイヤと交換しながら
その恐ろしさを
犬にお話する。
舞瑠は在らぬ方を向き
悠絽は頭を垂れ
やっぱり判っていないな・・

12月28日(日)晴 前庭



最後の仕上げ

ワインの瓶詰めが
終らぬまま
ガラパゴスへ出かけ
ワインセラーは
シールキャップの無い
裸ワインがごろごろ。

村上さんが駆けつけ
早速お手伝い。
ワンちゃんもセラーに
入りしきりに匂いを嗅ぐ。

『ねえ、ねえちょっとだけ
呑ませて!』
としつこく迫る悠絽。

「駄目だよ!
森の中で
迷い犬になるようじゃ
呑む資格無し」
12月29日(月)晴 ワインセラー



遂に開墾終了

ワインの為の葡萄畑を
手に入れたが
10年以上も放置され
雑草天国と化した大地は
草の根だらけ。

業者に土の掘削を
依頼したが掘削機が
入らず断られ
小さな耕運機で細々と
耕し続けた葡萄畑が
やっと土を覗かせた。

嬉しいな!
さあ!最後の仕上げを
ちょっとだけやってみる?
と耕運機を
バトンタッチしたが・・・

村上さん悪戦苦闘。
全然言うことを
聴いてくれない耕運機に
泣きそう!
見学してる犬達も不安そう。

12月29日(月)晴 葡萄畑




12月30日(火)晴 東の森
森の道造り

ここ、ログハウスの裏
つまり東の森への
入り口。
ジャングルのように
樹木が被い繁り
踏み込むことすら難儀。

決意してエンジン式の
チェーンソウを購入。
初めての試運転。

先ず2サイクル用オイルと
ガソリン1:25の
燃料を造り
チェーンソウオイルと共に
給油しエンジン始動。

凄い切れ味だぜ。
ほら悠絽、舞瑠見てご覧。
こんな太い木も一発。

『そりゃ解ったけど
散歩はいつになるの?』
と散歩出発点の
庭の出口を見つめて
両犬は恨めしそう。



家路へ

樵になって
森の木を切っていたら
夕日が
長ーい影を造って
もう冬の1日が終わろうと
しています。

ここから見ると
何だかログハウスが
寂しそう。
そうだ、今度ログに
大きなテラスを
造ってあげようか。

『うんうん解った解った。
それより
暗くならない内に
早く散歩に行こうよ』
12月30日(火)晴 東の森




12月31日(水)晴 ゲート
よいお年を!
山荘3大ニュース

注連飾りを世界最大の鹿
ムースの大岩に
着けて新年の準備は終わり。

今年最後の太陽が
小倉山の水晶峠から昇り
ムースの左角を射抜き
神々しい。

あっと言う間に
流れ去った365日が
光の中を去来する。
春の兆しと共に衣替えに
着手した山荘。

屋根を森に合わせて緑に変え
壁の下半分を木々の色に
上部を雲に枯葉をブレンドした
白っぽいベージュに。

その新たな山荘に
家族が加わりました。
最初は2歳の雄犬セブン。
やがて4歳の雌犬
悠絽と舞瑠が加わり
週末は賑やかになりました。

秋、山荘主の誕生日には
森からの素敵なプレゼントが
届けられました。

山荘の東の森が山荘に
加わり山荘の新たな
可能性が開かれました。
さて来年はどんな年に?



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