山荘日記

その57夏ー2010年葉月

 

8月3週・・・・去来する,生命の終わりなき戦い



今週のCinema 戦争2題  街を焼き尽くすが如く、真夏の太陽がギラギラと音を立てて降り注ぐと
                               平和呆けした日本にも1年に1度だけの戦争がやって来る。
                          戦争を忘れつつある世界で唯一の被爆国・日本、うたを忘れたカナリア。
                                    今夏は2つのうたを選んだ。



                     
      キャタピラー&歸國

bU

キャタピラー 鑑賞日:8月16日
劇場:テアトル新宿
評価:★★★★☆

もっとイヤらしくギトギトしてるかと思っていたが、美しくもあるのだ。
郷愁を誘う茅葺屋根、豊かな水を湛えた水田、緑に萌える山々、セロの流れる長閑な田園風景を舞台に
日の丸の小旗が軍歌と共に打ち振られ物語は進行する。

突如、茅葺屋根に住むシゲ子の元に、軍神として運び込まれる《意識を持つ生きた肉塊・久蔵》。
恐れ喚きつつもやがて受け入れ、床の間に飾られた軍神を称えた勲章と新聞記事、両陛下の御真影を見つめつつ
《意識を持つ生きた肉塊》・芋虫(キャタピラー)との性交が始まる。
繰り返し繰り返し執拗に描写される勲章と新聞記事、両陛下の御真影。

ドルトン・トランボの
「ジョニーは戦場へ行った」の
伝達手段を絶たれたジョニーを
食欲と性欲の塊・黒川久蔵に
メタモルさせ、
江戸川乱歩の「芋虫」の
須永時子の嗜虐性を
限りなく希釈し
やや変態な黒川シゲ子に
焼き直し
《意識を持つ生きた肉塊》
と性交させた
作品でもある。

(若松プロダクションより)
目、鼻、口、耳の知覚を失い
また壊疽をおこした
両腕、両脚も切断され
肉塊と化したジョニーが
絶望の中から
如何にして
伝達手段を見出していくか!

この作品を読んだ時の
衝撃は読後45年経った今も
鮮明に焼き付いている。

作品は第2次大戦で絶版にされその後の朝鮮戦争でも絶版にされ、更に作者トランボは
1947年に共産主義者として告発され逮捕され禁固刑に処せられている。
反戦を一言も発せず彼の作品は、如何に雄弁に反戦の烽火を高々と掲げていたか!

乱歩の「芋虫」も戦時中は全編削除を命ぜられているように国家権力にとって
極めて好ましくない反戦作品であった。
その両者をコラボレイトさせメタモルさせたキャタピラーが、強烈な反戦を秘めていることは言うまでも無い。

映画名:キャタピラー
制作国:日本
(配給:若松プロダクション、スコーレ)
受賞:2010年ベルリン国際映画祭コンペティション部門に出品し、
寺島しのぶが最優秀女優賞(銀熊賞)を受賞
公開日:2010年8月14日
監督:若松孝二
制作:尾崎宗子
若松孝二の主な作品:「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」
出演者:寺島しのぶ 大西信満
主題歌:元ちとせ「死んだ女の子」
上映時間:1時間24分

  
                         

7 

歸國   鑑賞日:8月14
 評価:★★★★☆


倉本聰とあっては期待しない訳にはいかない。
物語は英霊たちのオムニバスになっている。その1つに木谷少尉が恋人・河西洋子を訪ねる話がある。
嘗て映画《おくりびと》に流れ今回キャタピラーに流れたセロが又もや出てくるのである。
学生時代に音楽学校でセロを学びピアノを弾く恋人と共作で作曲をしていたが、
完成を前に応召し戦死した木谷少尉。
このセロが実に哀しく美しい。

木谷少尉は戦場に持っていった「セロ弾きのゴーシュ」の文中文字に解らぬよう小さな記しを付け
検閲の目を眩ませ死の戦場へ赴く前に最後の愛の手紙を恋人・河西洋子に送ろうとする。
検閲係の志村伍長は暗号を見抜くが敢えて見逃し「セロ弾きのゴーシュ」は洋子の元へ。
英霊として洋子の元に現れた木谷は洋子に乞われて幻のセロを弾く。

この「セロ弾きのゴーシュ」の装丁が山荘に置いてあるのと同じ古い橙格子模様と気が付く。
黄ばんだページに記された小さな○印が、セロの音色となって時空を超えて流れる。
ふと山荘の「セロ弾きのゴーシュ」が2階の本棚から飛び出して
今にもぼろぼろに解体してしまいそうな黄ばんだページを忙しなくひるがえしセロの響きを
紡ぎ出しているのではとの予感に切なく打たれる。


木谷少尉(小栗旬)

《知》がどれほど進化しようと生命の延長線上にある限り生死を賭けた戦いは
未来永劫に続くのであろう。
誰しもが自らの心象に去来する,生命の終わりなき戦いに怯えながら久遠の平和を願う。
怯えつつもカナリアは唄を歌い続けねばなるまい。

明日は久々に山荘に戻り、
黄ばんだページの「セロ弾きのゴーシュ」に耳を傾け、木谷少尉のセロを聴いてみよう。

テレビ・ドラマ名終戦ドラマスペシャル「歸國
放映日:8月14日(土)よる9時
放映時間:2時間半
脚本 -:倉本聰
演出 -:鴨下信一
プロデュース -:八木康夫、吉田雄生、真木明
音楽 :島健
製作著作 : TBS・BS−TBS
出演者:大宮上等兵 - ビートたけし
木谷少尉 - 小栗旬、
河西洋子(現在) - 八千草薫
大宮健一 - 石坂浩二、
秋吉部隊長 - 長渕剛

15今週のLivre     乙女の密告                      

第143回芥川賞受賞作品(2010年7月15日発表)


著者:赤染晶子

他の作品:「うつつ・うつら」

受賞:
第143回芥川賞

発行所:文芸春秋9月号
発行日:2010年9月1日
定価:800円
読書期間:8月12〜8月14日
評価:★★★☆☆
アンネを密告したのは誰か?
その疑問に、ベートーベン嫌いで毎晩モーツァルトを聴かせねばならない人形アンゲリカが登場し
その人形をいつも抱いて大学に通うバッハマン教授が加われば
もうそれだけで好奇心を掻き立てられワクワクドキドキし読まずにはいられない。
更にこれでもかとばかり教授は、夫婦喧嘩してまで借りて来る
ひよこのキッチンタイマーで乙女たちのドイツ語スピーチコンテストの制限時間を計るのだ。

それだけではない。
いちご大福とウィスキーのどちらが好きかと乙女たちに聞いてスピーチのクラスをバッハマン教授は
「すみれ組」と「黒ばら組」に分けるのである。ユダヤ人とアーリア人を分けるように。
この愚かな分類のように、これらが絶妙に「アンネの日記」に絡み合うとなればこの作品が失敗作になる筈がない。

そう固く信じて読み始めたのだが、文章が雑で奥行きが全く無くガックリ。
他者としてしか生きられなかったアンネと他者としてしか生きていない乙女たちを結びつける為の巧妙な
伏線を巡らせても手段としての言語が無力で結合に至らないのである。
従って最後、みか子に「アンネ・フランクはユダヤ人です」と密告させる最大の山場のピントがずれてしまい
(読者?)は未消化な「乙女の密告」の中に置き去りにされてしまうのだ。




bP9今週のBigニュース

遠い和平ミンダナオ

ミンダナオから帰国するや、ミンダナオから《和平は遠し》とのニュースが飛び込んできた。
カミギン島DVの冒頭で述べたように、ミンダナオの独立近しとばかり
既に大臣名まで決まっているとの現地情報があったが、どうやらそれはアロヨ前政権下での話。

アロヨ前大統領はモロ・イスラム解放戦線が求めるミンダナオ島の広範な自治区と権限を認めたが
この両者の合意を最高裁が違憲とし、既に2008年にはフィリピン国軍とモロとの激しい戦闘が再開され
昨年12月にやっと和平交渉が始まったばかりらしい。

臭い!匂う。フィリピンを牛耳る一握りの大地主が最高裁を抱き込み違憲判決を出させ
豊富な地下資源と豊かな農産物を生み出すミンダナオ島を手放してはならずと動いているのか?

猛暑が暴れ狂っている。南半球のチリでは猛烈寒波とか。
猛暑と寒波の次は風速100mを超える低気圧が荒れ狂い地上での人類の営みを嘲笑うかも。
考えてみれば大気温が200度になっても風速が200mを超えても不思議は無い。
むしろ数千万年に亘って大気温も風速もこれ程までに安定している方が遙かに摩訶不思議なことなのだ。
知は新たなる根源的な試練に立たされている。地球はいつまでも知の揺り籠では無い。
 

☆ 8月12日:8月9日ミンダナオ島のダラパナン地区で会見したモロ・イスラム解放戦線のムラド議長は
          アキノ大統領の9月中旬の和平交渉提案に対しこう述べた。
          「過去に合意した内容や枠組みから交渉を始めるべきだ。ゼロに立ち戻るなら、
           これまでの10年以上の交渉はなんだったのか」(朝日新12日朝刊より)

☆ 8月17日:8月16日35度以上の猛暑日が全国134か所で記録。伊勢崎市、館林市では38.2度と体温を
          超える気温となった。熱中症で2名死亡、5人重体、都内では125人が病院に救急搬送された。
          この1カ月間、東京23区内で100人以上が全国で282人が熱中症で死亡した。
          夏の最高気温の平均が22度のモスクワでも30度を超す日が続き夏の1日の死者数が例年の2倍近い
          700人に達している。




8月4週・・・・猛暑に涼やか山の麗人

 山荘の麗人・・・
高貴な純白を纏った
高砂百合
いつの夏からか
山荘に姿を
見せるようになって
久しい。

夏を重ねる毎に
高貴な麗人は
影を増し
今では前庭の
そこかしこに
咲き乱れ
目に涼やかな音色を流す。

この涼やかな音色を
猛暑の続く街にも
届けてあげよう。
  球根を植えた
訳でもないのに
何処からやって来たのだろう?

きっと此処は
大昔から貴方たちの邑
だったのですね。
つまり山荘の
本当の住人は
貴方たちだったのですね。

それでは
室内にもお越し頂いて
ほら、ヴィーナスの前は如何?
ピアノの上もいいね。

何処に置いても
遙か昔からそこに在った
としか思えないのは
貴方たちが
此処の本当の住人だから
なのでしょうね。
  猛暑見舞・・・山荘からの涼風
8月22日 晴 居間&前庭



初めての出逢い 
8月22日 晴 西畑

やっほー!
思わず叫んでしまった。
ついに発見したぞ。

大きく育ったミョウガの
藪影にひっそりと
仄かな光を灯しているのは
若しかすると茗荷の花?

何度植えても
途中で枯れてしまい
育たなかった山荘の茗荷。
《半日陰を好む》と
あるのであちこち選んだが
やっぱり陽が当たり
夏を待たず枯れてしまう。
西畑の林檎の木の下に
2年前植えて
せっせと雑草取りに励み
今年こそはと・・・

でも心の何処かでは
きっと今年も駄目だろうと
諦めていたのだ。

それだけに歓びは一入。
まさかこんなにも
茗荷の花が美しいなんて!

《うん、中々美しいね。
高砂百合にだって
負けないくらい耀いているよ》

花咲き茗荷
周利槃特
チューラパンタカ

開花直前・・・食べ頃
周利槃特(梵語:チューラパンタカの音写)
と云う釈迦の弟子が居りました。
この弟子、物忘れが酷く
自分の名前も直ぐ忘れてしまうので
釈迦は名札を首から下げ
覚えさせようとしましたが死ぬまで
覚えませんでした。

埋葬した周利槃特の墓に
にょきにょき
生えてきた見慣れぬ草。
これこそ
周利槃特の化身と人々は考えました。 
 
蕾の茗荷
「彼は自分の名前を荷って苦労してきた」 
「名」を「荷う」ことから
この草に茗荷と名付けたそうです。

これが茗荷を食べると
物忘れが酷くなるとの俗説の根拠
らしいが勿論出鱈目。

むしろ逆に近年、香り成分に
集中力を増す効果があることが
科学的に判明。
茗荷、大いに食べるべし!




メロン豊作
真夏の収穫 
8月22日 晴 葡萄畑

  もう見るのも厭になるほど
トンモコロシの収穫に追われている。
郵パックで目白に送ったり
勿論、山荘では朝晩食べて
夜には夜なべ仕事で
冷凍保存用のトンモコロシ造り

それでも未だ未だ収穫は続く。
いくらなんでも作り過ぎ。

トマトどっさり 
と、葡萄畑に出てみたら
なんとメロンが爆発しているでは。
知らなかったな
過熟したメロンが爆発するなんて!

暫く放って置いたので熟したのに
気付かなかったのだ。
どれ、それでは食べ頃の奴を
収穫して冷蔵庫で冷やしておこう。

あれ、不気味な吹き出物だらけの
胡瓜のようなのが。
そうか確かゴーヤなんてものも
植えた記憶があるな。

大きなゴーヤ
この輝きと色艶
実に美味そうだな。
今年は西畑とここ葡萄畑の2か所に
トマト苗を植えたが
予想外の豊作で食べきれず。

この葡萄畑のトマトは
すっかり忘れ去られ熟して落ち
虫に食われ鳥に啄まれ。
それでは今夜は
このトマトで冷やしトマトでも作ろうか。
   

不良の甲斐ブラン
猛暑の失敗作か? 
8月22日 晴 西畑

 肝心の葡萄畑の葡萄は
来年辺りから
収穫が期待されるのだが
その気配はさっぱり無い。

白ワイン用の甲斐ブラン
実は着けたものの
とても貧相で美味しいワインが
造れるとは思えない。

煤斑病の林檎
致命的なのは茶枝豆。

荒地に強く肥料不要の枝豆の
栽培は一見容易。
この茶枝豆でビアを傾けて
初めて山荘の夏はやって来るのだ。

だから毎年欠かさず茶枝豆を
作っているのだが
こいつ中々気難しく収穫出来ない。

連作障害を避けるため
必ず異なる畑で栽培してるのに
ご覧のように実が入らない。

実の入らぬ茶枝豆 
とても香りが強く
酸味と甘みが調和していて
美味しい林檎だが
皮に煤が付く煤斑病になった。

 これは明らかに農薬不足。
ほんの少しだが2回
煤斑病予防の農薬を散布した。
それ以上農薬を使うのは
御免こうむりたい。

それで不作になるなら
それで良しと決めたのだ。




完熟冷やしトマト
シェフ修行中 
8月22日 晴 テラス

  

甘い冷やしメロン

触れなば落ちんとばかり
熟した真っ赤なトマト。
こんな完熟トマトは決して店では
手に入らない。

薄くスライスして良く冷やして
さてドレッシングは
確か酢、サラダオイル、塩胡椒に
玉葱の微塵切りだったな。

念のためレシピを見ると
加えるのは白ワインと砂糖のみ。
十文字の切れ目に
ワインと砂糖を入れてラップし
数時間冷やすとか。

茗荷の塩もみ 

刻んで豆腐に掛けるだけでは
余りにも能が無い。
先ず手始めに定番の茗荷塩もみ。
胡瓜や茄子を混ぜて
薄塩にするとビアの摘みに最高。

次は知られざる明太子和え。
茗荷を縦に刻んで
酒で解いた明太子を
ドレッシングにして掛けたら
ほっぺたが落ちた。

明太子の代わりにシーチキンも
超美味とレシピにある。
即実行したら、感極った。 




朝のいざない・・・山の呼び声
8月22日 晴 高芝山

 真夏の太陽が
どんなに大地を焼き尽くそうが
明け方になると
山荘は20℃近くまで気温が下がり
涼気に包まれる。

冷やかな大気に朝の最初の光が差し込み
山稜のシルエットを描きだす。
畑の雑草取りに追われ
悠絽、舞瑠を山荘に連れて来る暇も無く
従って山トレーニングもしてない。
山稜のシルエットを見て
体が叫ぶ。
《山に行きたい!》
 2千m稜線・ちょっと涼みに
8月22日 晴 大菩薩

 そこで午前中の畑仕事を終えて
ちょっと大菩薩まで散歩。
標高2千mの森の涼しさと静けさに
身を置いた途端
畑仕事に飽んでいた体が甦る。

でもなんだか隙間風が吹いてる。
何か足りないのだ。
そうだいつも一緒の犬が居ない。

考えてみると犬無しの登山なんて
2年ぶりだろうか?
やはり悠絽と舞瑠を連れて来るべきだったな。
よし来週こそ迎えに行ってやろう。
 




白山風露・ハクサンフウロ
高嶺に咲く
8月22日 晴 大菩薩

梅鉢草・ウメバチソウ
猛暑が続き山の夏は
7月に終わってしまった。
 でも8月末にいつもやって来る秋は
その気配さえ見せない。

つまり夏の高山植物は姿を消し
冷気を吸って咲く
秋の花々は暑い大気に声も無く
唯ひっそり。

と思って2千mの稜線に出たら
白山風露が数輪
夏の名残りをとどめているでは。
それではきっと秋の花も
秘かに咲き始めているに違いない。
 
松虫草マツムシソウ

誰がどう見たって とても
松虫草には見えない。
蕾をよく観察すると、あーこれが
全部開けば確かに環状の
あの松虫草になるな、と想像出来る。

つまり秋の高原の女王・松虫草が
風の中にやっと秋を見つけて
無理して一番名乗りで
4つの花弁を開いたところなのだ。

秋の高原と云えば
いつも真っ先に姿を現す梅鉢草。
5つの雄蕊の1つが反り返り
2つ目の花糸が延びているね。
これは開花して
3日目を示しているんだ。
 
丸葉岳蕗・マルバダケブキ

 もうお終いなんだ。
長ーい旅をする渡蝶・浅黄斑
美味しい蜜を吸わせて
8月には姿を消してしまう丸葉岳蕗。

まるでバトンタッチするかのように
竜胆科の花碇が咲きだしたね。
小さくて花と気付かず
見過ごしてしまうことが多いけど
よーく観ると実に優美な
白い4つの弧を広げ正に碇だね。

春には紫の碇草が山荘にも
咲くけどあれはメギ科。
形はとても似てるが全くの別物。

猛暑日が続いているのに
高原では確かに秋が忍び足で
やって来ているんだね。
 
花碇・ハナイカリ








8月5週・・・・花と蝶の舞う山顛

黒岳・・・花と蝶の頂1793m  (34km)




[A] 御坂山塊へ


天下茶屋からの富士
富士には
月見草がよく似合ふ

8月29日(日)晴 御坂峠

復活の山

夏空を背景に富士のシルエットが
大きく聳え河口湖が光る。

そこを「天下茶屋」と名乗らせるに相応しい眺望である。

登山道の入り口付近には、
太宰治の「富士には月見草がよく似合ふ」
と刻まれた文学碑がある。

月見草はどこにも見当たらないが、
もし咲いていれば、
この富士にはさぞ似合うだろうと思われた。

登り始めると
よく整備された階段状の登山道が続いている。
一段ごとに木目が美しい階段は、
よく見ればコンクリート仕上げだった。

「こういう方式はフランスで作られたそうだ」
隊長の言葉に耳を傾けながら、
足取りは軽い。


何処までとは決めず、
時間で引き返そうということなので、
気持ちも軽い。


 太宰治の碑




 
花錨・ハナイカリ

ブナの巨木と(御坂山・1596m
再会の花々
8月29日(日)晴 御坂山塊

予想以上に快調で、
ぐんぐん登っていくと
たちまち汗が
噴き出してくる。
流れる額の汗を
拭いながら、
体を動かし思い切り
汗を流す爽快さを
久々に味わう。
幾重にも広がる
豊かな緑の枝が
自然の天蓋となり、
灼熱の太陽から守ってくれる。
谷底から吹き上げる風が
火照った体に
気持ち良い。

丸葉岳蕗・マルバダケブキ




[B] 百花繚乱の森へ


白山沙参・ハクサンシャジン

黄釣船草・キツリフネソウ
前にも後ろにも、
人の気配が全くなく、
古木も多く、
驚くほど静かな森である。
淡いピンクの白山風露が
優しく愛らしい
姿を見せる。
気がつけば小さな花々が
足元に
咲きこぼれている。

伶人草・レイジンソウ

小金花・コガネバナ



 
逢坂草・オウサカソウ

御坂峠(1571m)
吊舟草、シャジン、シオガマ、
名前もわからない花が
次々と
可憐な姿を見せてくれる。
カニコウモリが
無数に群れ咲く。
猛暑にも関わらず、
いち早く
秋の気配を
感じ取った植物たちが
次々に姿を見せて
まさに百花繚乱。

巴塩釜・トモエシオガマ




山紫陽花・ヤマアジサイ
茸も赤、白、黄と
色も形も様々に
顔を出している。
 
渡りに付いて
行けなかったらしい
はぐれアサギマダラ蝶を発見・・・
  

深山鳥兜・ミヤマトリカブト
と思ったら、
登るほどにこの美しい蝶は
数を増し、
森の妖精のごとく
舞い飛ぶではないか。

晒菜升麻・サラシナショウマ
優美な飛翔に見とれ、
森のあちこちに
目を走らせる。

御坂山から御坂峠へと
結構なアップダウンが続き、
変化に富んでいる。
 
雌宝香・メタカラコウ 
御坂峠には
朽ちかけた小屋があり、
その奥に小さな地蔵が祭られていた。
黒岳まで行くことに決定。

今までより急な登りが続き、
下山に少々不安を感じながらも、
蝶や花に導かれ、
やがて頂上へ。

棕櫚草・シュロソウ 
 驚いた。そこは別天地。
濃いピンクの
アザミの花が咲き、
黄揚羽蝶が
無数に乱舞している。

薊の蜜に夢中なのか、
近寄っても全く逃げる
気配もなく、
いくらでもシャッターを
切らせてくれる良い
被写体だ。
 
雄山火口・オヤマホグチ 
蝶の楽園が
こんな山頂にあるなんて、
今まで経験したことのない
状況に隊長も興奮気味だ。

晩夏光につつまれた
揚羽蝶の群れの艶やかな
舞いに魅せられ、
時間がたつのも
忘れてしまいそう。
 





蟹蝙蝠・カニコウモリ

200mほど下った
見晴らしの良い場所までいくと、
富士山と湖がよく見える。


2時7分黄揚羽の群れに
別れを告げ、
山頂を後にした。
不安を感じてはいたものの、
下山も快調なので、
つい調子に乗ってしまったようだ。


白嫁菜・シロヨメナ  
黒岳からの長い下りを終え、
御坂峠までは順調だったが
(40分で降りられた)、
少し足が疲れてきたかなと
思った矢先
突然左足の腿の内側に
痛みが走り
硬くなり動けなくなった。

天人草・テンニンソウ  
しまった!と思いながら、
しばらく休息をとり
十分な水分補給をする。

そこからは、足をだましだまし
ゆっくり歩く。
途中で何度も、隊長のコールが
「トーオッ」と届く。

深山沙参・ミヤマシャジン
後続のあまりの遅さに、
痺れを切らしていると知りつつも、
急げないのが悔しい。

後半で予定の
倍くらい時間を食ったので、
結局下山した時は
4時半を過ぎてしまった。

薄雪草・ウスユキソウ
約5時間半の
山行となった訳だが、
この間会ったのは
ほんの数人の登山者。

反対に出逢えた花々と蝶々は
数多、思いもかけず、
すごく贅沢な山行となった。
  

深山猪独活・ミヤマシシウド

花や蝶に励まされ、
また山に還ってきたねと
迎え入れてもらったような
喜びを感じる。

この秋、まだ訪れていない
甲斐の山々を、
再び歩くことができそうだと
思える登山だった。

 




[C] 最高峰・黒岳へ


蓮華升麻・レンゲショウマ
豊饒
8月29日(日)晴 御坂峠
 
薄暗い森の藪にこうべを下げてひっそり。
「何だろう?
見た記憶が無い花だな」

垂れたこうべをそっと持ち上げてみると
8枚の花弁中央に蒼紫の
花弁が雄蕊、雌蕊を包んでいる。

仄暗い光の中でも
一際美しい花であることがひしひしと
伝わってくる。
小さいながら蓮の花のような気品と
白銀の光が辺りに漂う。

それが蓮華升麻との
初めての出逢いであった。
心ときめく
見知らぬ美しい花に出逢うなんて
随分久しぶり。

すっかりいい気分になって御坂山塊の
最高峰である黒岳まで
足を伸ばすことにして、ひんやりとした
深い森をずんずん進む。

先週、大菩薩でお目に掛った
花碇、丸葉岳蕗との再会を果たして
何処までも続く
蟹蝙蝠の咲く野原を彷徨い歩く。

黒岳山頂展望台(1793m)




卵茸・タマゴタケ(幼生)
あれ!
白い棒に赤ペンキを塗ったような
滅多やたら目立つ奴が
2本立っているけどなんなんだ?

それは生まれたばかりの
卵茸でした。
もう少し前には白い卵の殻に
覆われていたのですが
卵の中身がぐんぐん大きくなって
白い殻が割れて
出てきたんです。

卵茸・タマゴタケ
ほら、半日もすると
白い卵の殻は脱ぎ捨てられ
大きな傘を開いて
立派な茸になってしまうんだ。

森で出逢った2人の
女の子が沢山採って嬉しそうに
ハンカチに包んでいたよ。
この赤い茸は食べられるんだ。

栗茸・クリダケ
では卵茸のレシピを紹介。
(yahoo知恵袋より)

タマゴタケはお刺身(生)で
食べる事もできます
一口大に切ってワサビ醤油や
ポン酢などで食べれます
しかしあまり
美味しい物ではありません
 
白鬼茸・シロオニタケ
タマゴダケ自体が、
あまり美味しいきのこでない為
「美味しい物と一緒に料理する」
が基本です
エノキやシメジ、油揚げ、さつま揚げ、
ネギ等と
油で炒めると美味しいです
 
 
薄平茸・ウスヒラタケ
おや!いつもの花笠猪口と思ったが
毒々しい橙色と傘全面の
疣いぼが無いぞ。
それに地上でなく枯倒木に生えてるし
うーんこりゃ栗茸かな?

この白鬼茸も疣いぼが消えてる。
どれ図鑑を紐解くと
白色の地に,白色で先端が
尖った円錐形の小さないぼを密布するが,
このいぼは比較的脱落しやすく,
部分的〜ほぼ全体的にかさの地肌を
あらわすこともしばしばあり


とあるからやはり白鬼茸かな。
 
花箒茸・ハナホウキタケ
美味しそう!
平茸をやや薄くした薄平茸は
広葉樹の枯れ木上に生え
食用としての人気が高い。

樹上から樹下に目をやると
鮮やかな森の珊瑚。
山荘周辺の森でも
良く見かける箒茸だが
赤い箒茸は見たことないな。
・ 
それにしても花だけでなく
雨も降らぬ猛暑の森で
これだけ見事な茸にお目に掛れる
とは驚きである。




[D] 浅黄斑・山顛に舞う

森が僅かに光を増したと思ったら
唐突に光が
滝のように降り注ぎ、黒岳の山顛に出たのです。

激しい光の奔流の中で
花々が煌びやかな彩を放ち
無数の蝶が
彩を追って乱舞しているではありませんか! 
   
深い森がそこだけ小さく切り拓かれ
花と蝶の天上の花園になっているのです。
途轍もなく大きな森が緩やかに天空に延びあがり
その最も高い山顛に開かれた花園。

黒地に淡いコバルト文様をあしらった浅黄斑蝶が
天人草の黄金の穂波に群がり
薊の蜜を吸い
蟹蝙蝠の反り返った白い花弁に優雅な姿態を晒す。 





[E] 黄揚羽蝶・華やかに舞う

 
誰がと,問わずに
居られません。
この精緻な文様と彩。

宇宙の漆黒を
パレットにほんの少し載せ
息を止め
1本の線も疎かにせず
黄金のカンバスに
漆黒の文様を
描くのです。
あー、それが
生命言語であって
明確なメッセージであると
解ってはいるんです。
唯、私には読めないのです。

でも、若しかすると
ある日
突然読めるようになるかも
知れないと
絶望的な儚い望みを
抱いて
私は森に通うのです。 
     





緑豹紋・ミドリヒョウモン(♀)

八の字黒波尺蛾・ハチノジクロナミシャクガ
蝶のプロや山仲間に問い合わせたが
解らず池袋のジュンク堂に通い
蝶と蛾の図鑑を総て閲覧。
ページの片隅にひっそりと、居ました。

飛んで家に戻り
恐る恐る八の字をPCに打ち込む。
岐阜大学教育学部理科教育講座(地学))
のサイトに《八の字黒波尺蛾》が
アップされた時の喜び。

有田(蝶の図鑑管理者)
お返事ありがとうございます。
ウエブサイト、図鑑と4日間格闘しましたが
見当たりません。
再度画像送りますので同定宜しくお願いします。
撮影場所:山梨県御坂山
撮影日時:8月29日午前11時50分

この蛾もチョウと思い込み、
ハチノジクロナミエダシャクと同定に至るまで
1年以上かかった。
この蛾は年に数回行く裏高尾の観察地
(滝の修験場の入り口)の車を
止めるところで必ず出会う。

(蝶愛好家のサイトより)

一文字セセリ・イチモンジセセリ

褄黒豹紋・ツマグロヒョウモン(♀){山荘]




[F] 山荘前庭での邂逅


大和玉虫・ヤマトタマムシ
山荘
8月30日(月)晴 山荘前庭
 
帝ミンミン蝉・ミカドミンミンゼミ
だって
そうじゃありませんか?
生命言語解読への一歩は
先ず名前、習性、食餌を
知ることです。

だから、どんなに解らなくても
同定出来るまで
決して諦めず追い続けるのです。

この大和玉虫は山荘前庭の
欅と榎木に棲んでいるんだ。
とても臆病で滅多に姿を見せない。
この虹の光で天敵を脅すが
それは言語の形態機能に過ぎない。

褄黒豹紋・ツマグロヒョウモン(♀)
ほらほら、
いつもの褄黒豹紋が
欅の木陰にやって来たよ。
表の紋も鮮やかだけど
この裏紋も素晴しく繊細でうっとり。

隣の紅葉の幹では
帝ミンミンが
声を限りに暑い夏を謳歌。

たとえ解読出来なくても
生命言語に包まれていると
とても気分いいね。 



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