山荘日記

その2006年皐月

 


皐月・2週・・生命誕生の山荘

5月13日(土)晴曇後雨  於 階段踊り場の出窓から

山荘直下の福生里盆地と
富士の真下に位置する
甲府盆地は
夜になると煌びやかな
2つの銀河となり
生命の火を灯す。

奥を遠銀河と呼び
緑の半島で区切られた
手前の銀河を
ゆぴてる・第5惑星の
存在する
山荘銀河
と密かに名づけている。

この2つの銀河を抜け
雪の富士を駆け上る。
いつも
それがヒマラヤ遠征の
最後の準備合宿であった。
二銀河に屹立


5月14日(日)晴  於 テラス下から

残雪の富士が一晩で
真っ白になり
牡丹の彼方に霞む。
昨夜の雨が富士山では
雪だったのだ。

山頂の凍りついた
火口壁に
ザイルを張って
ヒマラヤを想定し
登下降を繰り返す。
火口壁上のテントで酒を
酌み交わし
ヒマラヤに夢を
馳せる仲間。

夢を馳せ山に消えた
7人の仲間
この時期になると
山荘にやって来る。
久々に一緒に呑むか!
牡丹と幻影富士


5月13日(土)曇後雨  於 テラス下から

銀河に煌いていた
7つの生命の灯は
隣のアンドロメダから
ワープして昼は
山荘の花に宿る。

黒部に消えた大谷は
春一番の春小金花。

ブータン遠征直前に
三つ峠岩場で滑落死した

中川は躑躅に宿る。
この躑躅の後景に
中川の眠る三つ峠が
影を落としている。
ナンガ・パルバット
山頂直下
で絶命した中島は
中川の躑躅と向かい合って
華やかな牡丹。

甲斐駒の氷壁に消えた
成田はアイリスとなって
躑躅、牡丹と語らう。
花に回帰する命



5月13日(土)曇後雨  於 前庭にて

アイリスの成田が同じ
ナンガ・パルバット
に挑んだ大宮に
微笑みかける。
彼は西壁を落下し
息絶えた。
大宮は奥庭を明るくする
白い林檎の花。

林檎の花と隣り合って
ザイルを結ぶ小口は
目立たぬ渋い柿の花。
小口は岩壁で
宙吊りになって死んだ。

そして最後七人目は
パキスタンの氷河に落ち
凍死した高橋。
彼は山荘の西畑の雑草と
闘い自ら野菜の花々となり
夏には豊穣な
実りを齎す。


花になって
やって来た彼らと
ワインを開けよう。
虹の女神・アイリス



5月14日(日)曇後雨  於 北の森

2つの銀河と富士が
展望できる
テラスもいい。
前庭の白樺の木陰にある
石卓の清涼感も捨てがたい。
空中に飛び出したような
ログのテラスも洒落てる。
しかし何といっても
森の中にあるこの食卓こそ
自然と共に生きた彼らと
ワインを開けるには
相応しい。

宴のオープニングを
告げるのは
いつも皐月第一週に
鳴き始める
北の森主・春蝉。
しかし今春は
二週になっても
未だ春蝉は鳴かない。
目覚める森の食卓



5月13日(土)曇後雨  於 奥庭の梨の木より

梨の木の巣箱下を通ると
微かに囀りが聴こえる。
でもそれは
風の悪戯かも知れない。

巣箱は2階の寝室出窓の
直ぐ目の前にあるので
暫く観察する。
胸と脊を赤茶に染めた
山雀が青虫を銜えて
空中から一気に
巣箱に飛び込む。
囀りが風に流れる。
やはり生まれているんだ。
その証拠に親鳥は
白い糞を運び出している。

手に乗せて話しかけたら
親鳥と間違えて
ピーピーと餌をせがんだ。
巣箱には7つの命誕生。
参照:3月11日の山荘日記HP 七つの新生命




皐月・1週・・・躍動する山荘




5月8日(月)晴れ  於 階段踊り場より

セレベス海から戻り
山荘の扉を開けると
踊り場の出窓で
森が出迎えてくれた。

出かける前は
枯葉色に沈んだ
森だったのに

君達も帰って
きたんだね。
回帰する生命



5月7日(日)晴れ  於 北の森にて

遥かな天空を旅して
やって来た

大洋から雲になって
降り注いだ

母なる
大地を使って
は木々を芽吹かせ
葉に変え
花や実に変える。
それらは虫に食われ
鳥や哺乳類に食われ
新たな生命になり
死して大地に帰る。

森は輪廻の
心象スケッチ。
森の輪廻



5月4日(木)晴れ  於 扇山鞍部下の新ルートにて

《やっと出逢えたね》

枯葉になったり
芽吹いたりするのは
森だけじゃないぜ。

ほら昨年の秋に
おいらの左角を
北の森で見つけたろ。
残りの右角を扇山の
岩の上に
置いておいたのさ。
ついに
見つけてくれたんだね。

これあげるよ。
輪廻の記念さ。
おいらにも新しい
角が生えてきたぜ。
今度見ておくれ。
残りの右角発見



5月7日(日)晴れ  於 水神池にて

福生里の里から
村人が上がってきた。
「こんなもん
食いなさるか?」
両手には
タラの芽と漉油

そういえば山荘の
そこかしこに蕨が
いっぱい出てきていたのに
忙しくてすっかり
山菜の季節だということを
忘れていた。


早速水神池まで走って

タラの芽にご挨拶。
ちょっと育ちすぎ。
タラの芽と漉油



5月4日(木)晴れ  於 西畑にて

左のフルヘッヘンド
あれ2ヶ月もかけて
農学事始Tで
作ったチップだぜ。
全部で267束もあって
いつまでたっても
終らず半べそ
かいてたのは誰だ?

でもこれで畑は
耕運機のお出ましで
いよいよ種まき
苗の植え付けが
出来るのさ。

耕運機のスクリューが
土を渦潮のように
巻き上げ
畝を作っていくのは
愉快だぜ。
農学事始V



5月6日(土)晴れ  於 西畑にて

畝を作ったら
石灰を混ぜて
酸性化した土を中和し
1週間寝かせるんだ。
それから有機肥料を加えて
種を蒔き苗を植え
チップをかぶせるんだよ。

チップは土を保温、保湿し
雑草を押さえ
やがて土と混じって
肥料になるんだ。

でもね
こんな面倒なこと
誰もやらない。
これで原価計算すると
例えば
トマト1個300円。
マルチチップの畝



5月5日(金)晴れ  於 テラスにて

何処かでぶつぶつと
と言う声が聴こえる・
ずっと放っておかれていた
テラスが僻んでいたんだ。

大好物の
オイルステン
塗ってやったら
旨そうにジュワーと
音を立てて吸い込んだ。
ほら
みるみる元気になって
生まれたての
テラスになった。

生き返ったテラスで
還ってきた生命との
宴を張ろう。
テラス化粧直し



5月7日(日)晴れ  於 ワインセラーにて

前庭の地下に
ワインセラーはある。
全面をコンクリート壁に
囲まれた可愛いセラー。

薬品や機械を使わない
自然醸造なので
山荘ワインは澱が沈殿する。
寝かせて保存すると
取り出すときに
澱が撹乱され濁ってしまう。
そこでこのセラーでは
立てて保存する。

春の祭典に相応しい
ワインはどれかな。
ワインセラー



5月6日(土)晴れ  於 居間食卓にて

保存料を使わない
ワインは2年も経つと
色も香りも落ち始める。
しかし2001年の
赤ワインは5年を経て
香りは深く円やかな甘味。
02年ワインは
金色を帯びた
限りなく透明な白。
03年は白の甲州葡萄を
赤の醸造法で仕込んだ
《醸し》
紅茶色の玄人好みの
個性的なテェイスト。
04はきりりとした
ドライの赤。
05は途中で醗酵を止めた
甘口のロゼ。

どれから呑もうか?
春の祭典



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