その42春ー2009年皐月
5月2週・・・・豚インフルエンザの美と破局
山荘会員《ジャン・ボードリアール》を語る 2002年2月9日(土)・山荘にて・・・苫米地作俊 坂原隊長、村上事務局、近藤、宮沢、宮木、苫米地の6名が山荘に集う。 今回の目的は雪と氷に閉ざされた西沢渓谷氷壁散策である。 出発時間は明朝6時。それまでは手料理と山荘ワインに舌鼓を打つ。 宴もたけなわになり、隊長より1枚の紙が皆に配られた。9・11同時多発テロに対する1人の思想家の論説であった。 その思想家の名は『ジャン・ボードリアール』。・・・・・会報「ゆぴてる」bO203より ボードリアールが山荘に初登場したのは7年前。 氏は未だ生存していて、世界へ警告を発し続けていた。 02年1月17日朝日夕刊のボードリアールの切り抜き「テロで世界は空虚の中に」を題材に 彼の著書「透きとおった悪」などが山荘会員によって語られた。 今週の警告シリーズ・Vにいみじくも再びボードリーアール登場。 《豚インフルエンザで世界は空虚の中に》とのパロディーが鳴り響き、美しい山荘の花々、廃墟、苦痛が 豚インフルエザと共にHPを駆け巡り、やがて当然の帰結の如く《美と破局》に収束する。 ・ 美とは生命体の成す森や海やガイアそのものであり、破局は廃墟や苦痛を連想させる生の断裂であり 豚インフルエンザは癌細胞と同じく寄生宿主を滅亡させ自ら滅び、或いは 他の天体に脱出し更に蔓延するウィルス。 ウィルスにしてもはや知的存在の究極の課題である他の天体への脱出を企んでいるとは 豚インフルエンザは侮り難し。 ・ とここまでは一瞬にしてイマージュが閃光し、今週のHPはこの閃光によって構成される筈であった。 しかし結果は驚くことなかれ、イマージュの片鱗すら無い。急遽アポロジーの本文を加えざるを得なかったのである。 ・ |
森の抱擁 《ドレッシングかけて 食べたくなっちゃうな!》 と先週までは 森を見る度に思ったのに。 ・ もはや山荘が森に 深く抱かれて 山荘が食べられてしまう。 ・ 屋根の春の緑と 壁面の淡い枯葉色が 森にすっかり溶け込んで 生き生きしてるね。 ・ なんだか森から生えた 茸がにょきにょきと 大きく育って こんな風に山荘になって。 ・ きっとそうなんだね。 |
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森に呑まれるログ 失敗が続いた枝豆を 今年こそ収穫に つなげようとJAで 失敗の原因を聞いたり 種苗販売店主に 相談したり・・・ ・ しかしどのアドバイスも ピントがずれている様な・・ そこで山荘主の 長年の愛読書「有機栽培」 を久々に紐解く。 ・ 最大の原因は連作に あるらしい。 そこで開拓中の葡萄畑が 閃いた。 ・ 枝豆は肥料無しの 荒地が向いている。 開拓地に種蒔すれば 収穫出来るかも・・ |
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2代目の牡丹 葡萄畑の開拓地から 見上げると 白やピンク、真紅の躑躅が 石垣の上を 鮮やかに縁取る。 ・ 3月に植えたばかりの 2代目の牡丹も おずおずと 開き始め石垣の上は 今や花盛り。 ・ この花々の見下ろす 葡萄畑こそ 枝豆に相応しい地 とばかり連日 鍬を振るい手の平は 豆だらけ。 |
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5月3日(日)晴 前庭 |
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小さな春竜胆 流刑人たちの 開拓作業の結果が あちこちにゴロゴロ。 ・ 縦横無尽に地下網を 張りめぐらせ マフィアの如く 栄華を誇っていた さしもの芒の根も流刑人の 手に掛かっては ひとたまりも無い。 ・ 流刑人に掘り出され 根を天に曝して カラカラに干乾びた 芒の塊を先ず 開拓地から取り除かねば。 ・ 重い根の塊を 運んでいると北の森へ 椎茸を採りに行った エコちゃんの声。 「春竜胆が咲いてます」 |
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光を懐胎する花弁 アイリス そうだあの日のシェフが 又来てくれたんだ。 さてそれでは 開拓の続きを希望していた 流刑人マブにも 連絡してあげよう。 ・ 早速メールを送ると 返事が送られてきた。 「今日は0230まで 飲むそうで 帰れそうにありません。 後輩が チキンカチャトゥーラ? を作るというので そのときに一緒に料理します」 ・ どうやらシェフに負けじと レシピを研究してるらしい。 折角咲き出した 山荘アイリスの観られる 内に来られるといいね。 |
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レタス美味そう 犬小屋の横に 芽を出したのは 美味しそうなサニーレタス。 ・ そうだ昨年採れすぎて 花が咲いたのを ここに捨てたんだ。 そいつが発芽したんだな。 ・ 西畑に蒔いたレタスも やっと芽を出したけど こっちの方が 成長が早いな! ・ だめだめ食べちゃ。 舞瑠が好きなキャベツを 沢山入れて コンビーフと煮てやるから このレタスは食べないで 大切に育てるんだよ。 |
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シェフ再び登場 村上映子 山荘で過ごす一日は
とってもシンプル.。 だからこそ
一つずつの出来事が とてもクリアにその輪郭を
際立たせてくれるのでしょう。 ・
朝日と共に目覚め 一日をフル活動して 月の光が真上に来るころには
もうぐっすりと眠ってます。 子どもの頃の
自然のリズムに 還ったような気分です。 ・
きっとたくさんの自然の エネルギーを 体も、心も吸い込んで
元気になれるから 都会の生活がずっと続くと
山荘のリズムが
恋しくなるのかもしれない。 |
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5月3日(日)晴 北の森 | |
明日
スペアリブ(たっぷりクレソン)、大根と京菜のサラダ、きんぴらごぼう
椎茸とこんにゃくの煮物、豆乳鍋豆腐、キャベツ焼きそば 特製デザート・スイートK2
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作り置き こんにゃくのピリ辛炒め、椎茸と茎昆布の煮物、独活のキンピラ
・・・あとなんだっけ? |
何が食べたいの? 村上映子 ・
1日働いて しっかりと汗を流し 気持ちよく風呂に浸る。 ・
夕富士に 高くグラスを掲げて乾杯する はじめのひと口の 何と美味しい事でしょう! さて今夜と 明日のメニューは! ・ 今夜 舌平目のムニエル(クレソン添え)
天麩羅: 《庭の柿若葉、畑の春菊 山独活、ごぼう》 ワカメと独活(うど)の酢味噌 春菊とシメジの和え物 豆乳鍋豆腐 ほっけ、独活の皮のキンピラ ・
特製デザート・スイートK2 |
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5月3日(日)晴 東の森 | |
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タラノメ 山菜天婦羅 極上スペアリブ いつもは中野で 2日前から仕込んでくる スペアリブを 当日の朝に仕込んだので たれが浸み込まず 味は今一かな? ・ と思っていたスペリブが 今まで食べた中で 最高の旨さに仕上がった。 スパイスの香り 絶妙な刺激が肉に溶け込み 極上スペアリブ完成。 ・ 仕込みの時間が短いので フォークで肉に穴を開け 新鮮なスパイスを 馴染ませたとシェフは語る。 ・ 舞瑠!これに山菜が 加わったらいいね。 よし、森にタラの芽を 探しに行こう。 |
・ あったぞ! これがタラの芽だよ舞瑠。 |
5月3日(日)晴 上条の森 | |
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・ ゼンマイって[銭舞]とも書くんだよ。 ほら銭がくるくる回っているような感じ。 |
薇の産声 ゼンマイ この緻密なネットを 観てください。 まるで羊膜のようだね。 ・ 哺乳類や鳥類、爬虫類の 発生過程で 胚体を取り巻くように 形成される胚膜は むかしむかし こんな姿をしていたのかな? ・ 受精した胚を守り 栄養を与え 呼吸の機能を果たし 胚膜、羊膜と生命の進化と 共に姿を変えて・・・ ・ つまり遥かな 時間を遡って今 羊膜の原型を観ているんだ。 この膜に包まれて 生命は夢をみるんだね。 |
廃屋の庭藤 打ち捨てられた 廃屋の前に忘れ去られ ひっそりと咲く藤。 ・ 山荘の出来た 15年前より遥か以前に 打ち捨てられ それでも春を決して 忘れることなく咲き続けて いたのであろう。 ・ 山荘建設直後1995年 甲州市(旧塩山市、勝沼町、大和村)の 人口は3万8046人。 ・ その後減り続け 本年4月には3470人減の 3万4576人。 10%の減少で過疎化は 進行中である。 ・ 人口密度は131人/km2で 東京の百分の1。 もしかすると捨てられた藤は 過疎化を 歓んでいるのかな? |
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過疎化の進行 《作家とは ある種の自覚的な 多重人格者のことだ。 物語に自分の苦しみを 引き取ってもらう》 (桜庭一樹:ファミリーポートレイト) ・ 眞子と娘の駒子が 三両編成の鈍行列車で 隠遁者として 逃げのびる先は 瓦解した 廃屋だけが相応しい。 ・ 朝の散歩ルートの見慣れた 廃屋が不意に 駒子を通して桜庭一樹の 精神構造と重なった。 ・ 《絶え間ない苦痛が。 なぜこのような痛みを という長く答えのない 疑惑の日々が あたしを物語を必要とする 人間に、つまりは たくさんの人格を持ち・・・》 (桜庭一樹:ファミリーポートレイト) |
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洗濯機昇天 洗濯機が2台もあると 云うことは きっと子供も住んでいて 朝はお母さんが 2台の洗濯機に沢山の 衣類を入れて 忙しく働いていたのだろう。 ・ 子供たちは豊かな自然と 両親の愛情に 包まれすくすくと育つ。 そしてある日突然 その幸福に疑問が生じる。 ・ 《怠惰な幸福たちが 生ぬるい水の向こうで あたしに微笑みかけている。 ・ だけど ほんとうに幸福なのか? いったいあなたがたは 何者なのか? あたしは黙ってみつめ 続けていた》 (桜庭一樹:ファミリーポートレイト) |
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寂れ別荘の庭 芝桜の孤独 そこかしこに これまた忘れ去られた 別荘が散在する。 ・ 鉄塔山山麓・平沢集落に お気に入りの 和風庭園を備えた 数寄屋造の別荘がある。 ・ 手造りの釣灯篭や 揺り椅子も中々凝っていて 和風庭園にそのまま 溶け込んでいる。 ・ だがいつ行っても 人の気配は全くないのだ。 庭の中央に満開の 芝桜と無数の菫が春を 謳歌しているだけ。 ・ えっ!此処に住みたいって! そりゃ駄目だ。 君達に餌を与えてくれる 家主が居ないんだから。 |
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雲海の朝 湿った微かな雨音が 累積された時を 少しずつ削り取りやがて 三十数年前の 肉体を断層に露出させる。 ・ 艶やかな緋色を放つ 化石は雨に濡れて 歌い始めるのだろうかと そっと化石に 触れてみる。 ・ 微かに化石が囁く。 《雨音でなく雨そのものが 累積された時を 削り取ってくれたら 甦られたかもしれないのに》 ・ まどろみから覚めて カーテンを開くと 雲海が刻々と山荘に迫る。 あの層雲に視界を 奪われる前に飛び出さねば。 |
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無花果と雲海 連休開始の前日 4月28日から5月4日まで 連日快晴に近い 素晴らしい五月晴れが続く。 ・ トマト、茄子、胡瓜、ピーマン 唐辛子、西瓜の苗を どっさり買って移植した。 更に蕪、ほうれん草、唐黍 の種を蒔いた。 ・ 発芽させるには 朝晩のたっぷりの散水が 欠かせない。 土の表面は濡れても 中々その下までは 水が通らない。 散水だけで1時間以上掛る。 ・ 5日から降り始めた雨で 散水からは解放されたが 3日間も降り続くと 他の畑仕事が出来ず焦る。 ・ でもこの雨で無花果は ぐんぐん大きくなって 嬉しそう。 |
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えっ雨でも行くの! 層雲に視界を 奪われる前にと焦って いたのに雲海は 山塊に去来し 山荘を閉ざしはしない。 ・ 閉ざすどころか鮮明さを いや増して躑躅の 紅とデュエットしやたらと 誘うのだ。 でも雨脚は激しくとても 山登り出来る状態ではない。 ・ で、どうする? と舞瑠に目をやると 尾を千切れんばかりに振り 目は食い入るように 山荘主を ひたと捉えて離さず。 ・ 悠絽はのたーと小屋から 雨の中へ出てきて 「山行くの当然でしょう!」 と云う顔しているのだ。 ・ 行くしかないか! |
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今週の警告・T |
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皆さん!雨の日は注意しましょう! 5月7日(木)雨 チェーンゲート 何しろ3日も振り続いているのだ。 山はグズグズで斜面は総て快適な滑り台と化し危険極まりない。 その上ワン公達は全力で引っ張る。 アイゼン無しで氷壁を登下降してるようなもん。 バランス力を発揮して最小限の転倒に留めどうにか山荘に帰着。 ・ さて最後のチエーンゲートをジャンプして超えれば 今朝の扇山雨登山は無事終了の筈であった。 いつもは「ジャンプ!」と言えば跳び越えるのに あれぇ!チェーン下を潜ってしまった。 ・ やり直しさせようと左足でチェーンを跨いで御影石の敷石に 左足を乗せたとたんスリップ。 残された右脚の弁慶の泣き所をチェーンが無情に削り取る。 6日前にバイクで山道を犬と走行中転倒し、左脚弁慶を裂傷したばかりなのに。 これで両脚揃って弁慶に強烈ダメージ。 痛いのなんの、なんたって弁慶も泣いたんだから その痛み推して知るべし。 ・ 濡れた御影石が如何に滑るかもよく知っているのに まだまだ未熟者だね。 |
今週の警告・U |
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皆さん!豚インフルエンザに注意しましょう! 5月3日(日)晴 奥庭 驚いたのなんの! 鳥、鳥と騒いでいたインフルエンザがなんの予告も無しに 突如、豚になってしまったのだ。 ・ でも豚インフルエンザは記録に無いわけではない。 当HPにも度々出てくるあの島村抱月も死んだスペイン風邪の 荒れ狂った1918年。 米北西部では1月に豚インフルエンザ・[H1N1]型が大流行。 その後フランス、スペイン、世界各地に広がりスペイン風邪と呼ばれ 六億人が感染し四千万人近くが死んだという。 日本では36万人が死に致死率2%。通常インフルエンザの20倍であった。 ・ 因みに今回はメキシコ・ラグロリア村で最初の感染者が2月15日頃確認され 騒がれ出してから現在(5月9日)までに 死者はメキシコ、米国、カナダ、コスタリカで50人を超え 感染者は世界各地で4300人に達し更に猛烈な勢いで人体に侵入中。 日本でも大阪の高校生と教員4名が感染。 ・ さて、豚となるとその親戚の猪にも当然やってくるウィルス。 豚ならぬ猪インフルエンザがやってきたら 山荘の森はひとたまりもない。 ・ よし悠絽もマスクをしなくちゃ! |
今週の警告・V |
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辺見庸・「美と破局」甘美な極悪に注意しましょう! 5月9日(土)晴 早稲田大隈講堂 《傷ついたもの、破壊されたものが瀕死の状態で 放つ美とは何か。 じゃず・トランペッターのチェット・ベイカーを語りながら 現代の美と悪の極限に迫る「甘美な極悪」》・・・「美と破局」パンフより ・ 高台にある自宅マンションの眼下に早稲田が午後の日差しを浴びて のんびり微睡んでいる。 チャリンコに乗って急坂を一気に下ると早稲田大学校内に突入。 大隈小講堂で「人権への視座」を求めてと題した 辺見庸の講演が13:30から始まった。 ・ 「この講堂でボードリアールの講演を聴いたんですが 話が難しくて、その上通訳付きですがフランス語なので解んない。 悪戯っけを起こしてどうでもいいとこで拍手したんですね。 そうしたら他の人も続けて盛大に拍手して呆れました」 ・ こりゃ出だしから面白いぞと思ったら大間違い。 白河夜船で気がついたら講演の終盤で再びボードリアール。 「9・11でボードリアールはこう言ったんです。 《あれを考えたのは我々で、やったのは彼らだ》」 ・ 04年に脳出血で倒れ翌年結腸癌で再び死線を彷徨い 還ってきた危険な男・辺見庸。 |
5月4週・・・・豊穣なる情交・擬書評ーー辺見とクラーク
(Topを2フレームにし目次を入れる)
忘れていたクレマチスが藪闇の中から 秘めやかな時を伴って現れた。 この反逆する風景・二輪の花弁は サエコの実存の匂いがする。 |
反逆する風景 闇とクレマチス 眼前の風景が 世界の意味体系から 額縁から外れるように ずるりと抜けて 意味の剥落した珍妙な 踊りを踊る。 ・ 反逆する風景たちは 無意味が許されないことに 無意味があまりにも 掬われないことに 激怒するのではないか。 (辺見庸・「反逆する風景」より) ・ 実存(自己の存在に 関心をもつ主体的存在) の背景に 反逆する風景たちの激怒が 潜むからこそ 人間は慌てふためき 生の意味を 敢えて捏造する。 |
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赤い橋の下の ぬるい水 濡れたように 黒ずんで 妖しくぬめる薔薇。 ・ 唐十郎から届く 公演案内状にはいつも この薔薇を陰唇にした 《薔薇股マーク》が プリントされている。 ・ 大股を広げ陰唇を曝し 「さあ!いらっしゃい」とは 如何にも唐十郎。 ・ 辺見庸は著書 《赤い橋の下のぬるい水》に 何リットルも愛液を 迸らせる女サエコを登場させ レインコートを敷いて 交尾させる。 妖しくぬめる薔薇は 辺見のサエコでもあるのだ。 |
咲遅れたような山荘の小さな薔薇が 「反逆する風景」に反逆し 辺見や唐を拉致して ぬめることに意味をもたせようと迫る。 |
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サエコの呟きを吸いこんで、えごの花弁が 鈴を鳴らすように揺れる。 「おいで!そして 私の実存を確かめておくれ」 |
あれっ!エゴだ ふと視線を上げて サエコが呟く。 「あんなところに白い花が 咲いてるけど えごの木かしら?」 ・ 確か前庭にはえごの木は 1本しか無かった筈。 その場所は白のむくげが 住んでいたと思ったが・・・ ・ おかしいな、もう2mにも なっているから 昨年も咲いたろうに全く 記憶には無い。 ・ サエコは体内に愛液が 溜まって フォルマジオ・アル・ペペロンチーノを 万引きし 蝙蝠エジプト・ルーセット・バットを 盗み愛液を排出させる。 |
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サラサドウダンツツジ 更紗満天星 「あれ!これ何かしら?」 サエコが欅の横に 咲く躑躅の花を指差し カメラに収める。 ・ 慌てて 「ドウダンツツジだよ」と 答えるが そういえば今まで これも認識していない。 ・ サエコが消えた後 カメラの画像を確かめる。 何を撮ったか 不明瞭な画像なので翌日 改めて空を背景に撮る。 ・ うーん確かにこの サラサドウダンツツジは 山荘初デビュー。 サエコの視点に驚き。 |
そうそう今村昌平がサエコを気に入ったらしく 辺見庸の《赤い橋の下のぬるい水》を映画化したので サエコに今度逢いに行こうかと思っているんだ。 2001年に公開された日本映画でカンヌ国際映画祭の ノミネート作品に選ばれたとか。 |
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食べられない春菊 先週までサラダで 食べられた春菊が満開。 こうなるともう 苦くなって食べられない。 ・ どうも山荘主の会話を 聞いていたらしく 何を勘違いしたか悠絽が 科(しな)を作り花畑で 「あたしサエコよ! 春菊より奇麗でしょう」 ・ 「似合わね-。 あんたはね、森の中で 鹿や猪を追いかけているのが 一番いいのさ」 ・ 舞瑠がしたり顔で うんうんと肯く。 |
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メークインも開花 倉庫の馬鈴薯を畑に 移植した頃 山荘の机には数冊の本が 読者を待っていた。 ・ 「砂糖菓子の弾丸は 撃ちぬけない」 「赤朽葉家の伝説」 「私の男」 そして先々週のHPに 何度か引用されてる 「ファミリーポートレイト」 ・ いづれも桜庭一樹の 家族を巡る物語である。 他の本と並行して 読み続け馬鈴薯の花が 咲き始めた5月20日 再び一樹に出会った。 ・ この4冊の執筆を通しての 想いを一樹自身が 朝日朝刊のオピニオン欄に 寄稿したのだ。 |
どれ、それでは悠絽と舞瑠にも一部を読んであげよう。 「・・・ほんとうに疲れきり、もういやだと思った。 これ以上、自分の奥を掘りかえすのも。 恐ろしいことを考え続けるのも」 ・ 解るだろう。 「砂糖菓子」の海野藻屑も「赤朽葉」の女3代、「私」の腐野花も ファミリーの駒子も一樹自身の苦痛の所産なんだ。 とても危ういけれど期待できる作家になりそうだね。 |
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五月の女王 メークインの花
たまたまメークインの発芽から 開花までの時と 桜庭一樹との逢引が 重なっていただけのことだけど この花を凝視していると 藻屑となった一樹の 呟きが聞こえてくる。 《好きって、絶望だよね》 ・ 「赤朽葉家の伝説」で 第60回日本推理作家協会賞 「私の男」で 第138回直木賞を受賞し 先々週の5月11日に 38歳で結婚式を挙げた。 ・ 《五月の女王》・・なぜ この花は一樹の絶望の陰り を匂わせているのか? ・ 《好きって》・・だからこそ
絶望・逃れられぬ暴力的な父親・ をも受け入れて 殺されることを甘受するのか。 はたまた総てを失う 熱狂的没我である《好き》 にめぐり会うのか。 どちらも匂うのだ。 |
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ほら枝豆だよ 開拓地に蒔いた 枝豆がついに発芽した。 何しろ荒れた大地で 在るのは 芒の強固な根のみ。 ・ 手に出来た豆を幾つも 潰してやっと ここまで開墾したけど 未だ根っこだらけ。 ・ これじゃいくら荒地に強い 枝豆でも 結実は無理かな。 ほら土も芒の残骸が 藁のようになって 沢山残っているだろう。 ・ 舞瑠が見ているのは 「茶枝豆」といって とびきり美味しいんだぞ。 ビアの摘みに最高さ。 |
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蕪、春菊、唐黍発芽 この長ーい蛇の寝床は 奥の西畑と 手前の開墾地を 結んでいるんだよ。 ・ 例年だと今頃ここには 2百本以上の 玉葱が大きな球根を付けて 茂っているんだ。 今年は連作を避けて 右側に蕪、左に春菊 奥に唐黍の種を蒔いたけど これも発芽して もうすぐ間引き菜が採れて サラダに出来るかな。 ・ でも折角連作障害を避けて 西畑に植えた 2百本の玉葱は残念ながら 殆ど枯れてしまった。 いつも大豊作で 1年間では食べきれず 腐らせてしまう玉葱も 今年は僅か10数本のみ。 ・ さてそれでは舞瑠、悠絽 この中畑を通って西畑へ 行ってみよう。 えこちゃんがきっと 待っているよ。 |
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トマト、胡瓜の支柱 「やあ、いらっしゃい!」 忙しくて手の 回らなかった野菜の支柱を 立てて紐で結んで いるのは山荘事務局の えこちゃん。 ・ 春から初夏にかけての 激しい日射に 大地は焼け苗は枯渇して 枯れてしまう。 ・ 農家は黒いビニールシートで 大地を覆い 保湿し雑草の発芽を抑える。 寒気に覆われ 霜注意報が出るような日は 保温の役にもなり マルチと呼ばれているシート。 |
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使用後は大量な有害ゴミとなるので山荘では ビニールシートに代え土に還るダンボールを使う。 以前は木のチップを作ってマルチにしていたけど チップ作りがとても大変。 そこでチップの代用でダンボール登場。 |
ビア2次仕込み 呑んでもいい? さて畑ではビアやワインの 摘みが育って いるので新しいビアを 仕込まねば。 ・ 今回はニュージーランドの 大自然が育んだ 大麦からできた麦汁を 使ってPale Ale(ペイルエイル) を仕込もう。 ・ ビアは大きく分けると 常温で 上面発酵させるエイルと 低温下面発酵の ラーガーの2種になる。 ・ 世界で作られるビアの多くは 「貯蔵」を意味する |
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未だ呑んじゃ駄目だよ。 |
ドイツ式ラーガーである。 4℃以下で長期間熟成 させるので雑菌の発生を防ぎ 優れたフレイバーを 引き出せる。 ・ ペイルエイルは軟水仕込みの ピルスナーと異なり 硬水を使いホップを多量に入れ 濾過しないので澱が 瓶底に残る。 ・ 今回の「イースト・インディア・ ペイルエイル」は かつて在印のイギリス人に 愛されたビアで 日本では馴染みが薄い。 ・ 山荘で採れた蜂蜜や 梅ジュース、ジンジャーを たっぷり入れた 山荘ペイルエイルが どんな味になるか愉しみ! ・ |
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竹の子にょき さあ掘らなきゃ! 大地を突き破り一夜にして 突如勃起した 陽根を見つめるサエコ。 ・ やおら陽根を 掌でしっかり握り締め サエコは物語の最終章を 語り始める。 ・ 今朝、右側の掌に
在る筈のない感触を握り緊め 目覚めました。 寝返りをうったら世界が回って
・自分が何処にいるのか錯覚しそうに。 おとといの朝の
一枚の鋼が入っているかのような 硬い男根 せっかく握らせてくれたのに 言うことを利かない自分の体が
情けなかった。 ・ 乳首に触れられても
いつもの快さの代わりに 不快な痛みが断続的にやってきて 頭の中は半分回転状態だし
冷汗が出そうな感じ。 ・ あんなに素敵に勃起した
大切なものを 受け入れられなかったことは とても哀しかったけど 硬く屹立したその存在は
途轍もなく愛おしくてたまりません。 ・
だから、今朝、びっくりするほど生々しく 掌にその感触を感じて目覚め 嬉しいような 切ないような気持ちでした。 同時に、また必ず元気になって
《ぬるい水》が溢れる体に戻れると 自分の体も愛しく思いました。 |
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《赤い橋の下のぬるい水》のエピローグでサエコの愛液はすっかり枯渇してしまう。 あれほど溢れる愛液を惧れていたサエコにとって 《輝ける陽根》(辺見庸・反逆する風景)で描いた辺見庸の陽根は 最早意味を失ってしまったのだ。 悲劇は、サエコが復活不能に気付いていないことにある。 ・ 愛液は赤い橋の下の川を経て大河の一滴となり 長い旅の果てに海に注ぎ海月のゼリーになってしまったのだ。 あの透明なゼリーを取り戻す為にサエコは ダイバーになって海月を永遠に追い求めねばならない。 ・ で、と、そろそろ竹の子を掘らないと・・・ |
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それにサエコが見つけたのは四十雀で 画像の山雀の巣箱はサエコから見えない反対位置に あるのにどうして雛が見えるのだろう? サエコの感覚はいつも反逆しているのだ。 |
山荘での新生命 ヤマガラの赤ちゃん 前庭の巣箱に出入りする 四十雀を見つけて サエコが朝の陽光に踊る 森に話しかける。 ・ 「あら、愛液が止まって しまったのに4人も 生まれてしまったわ。 そうなの今年は クレマチスが冬超えして 花開いたの!」 ・ どだい落葉蔓草の クレマチスが葉を落とさず 越冬する筈は無い。 その上、愛液が止まったのと 4羽の山雀雛は 何の関連もないのだ。 ・ |
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僕生きられるかな? 山雀の懐疑 巣箱の下に クレマチスが咲いているので これが越冬したのかい? と問いかけてみる。 「ちがうわ」 ・ どうもサフィニアとクレマチスを 間違えたらしいが それにしてもおかしい。 サフィニアは1年草で これも冬には枯れてしまう。 ・ それとも室内で育てると 冬を超すのだろうか? 何しろ愛液が溜まると エジプト・ルーセット・バットだって 万引きしてしまうのだから サエコは反逆する風景に 入れて見つめるしか 理解の術はないのだ。 ・ |
さあ、未だ目も見えぬ雛さん、教えておくれ。 無意味の怒れる海に漂う微かな存在意味について。 |
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光の速度で16年の距離は宇宙では超接近位置で 窓から声の届くお隣どうし。 とはいえ天体を運ぶとなると地球人程度の 知能では不可能。 |
無生命の天体 ヤマガラの無精卵 4つの生命の傍らに 4つの無精卵がごろり。 あ、それとも敢えて 暖められず親から放棄された 有精卵なのか? ・ 最大で千ガウスの磁場と 四千度の低温で 構成される黒い影を落とす 太陽黒点が卵を覆う。 ・ この無生命の天体に 紀元前4年 木星の15倍もある 超巨大惑星をAC・クラークは 自著「太陽の盾」の中で 太陽に衝突させた。 ・ 太陽系から16光年離れた アルタイルから どうやって太陽系まで 超巨大惑星を運ぶのか? ・ |
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太陽の十倍のエネルギーを発するアルタイルの白い光を浴びて この新生命は知的生命体へと脱皮を繰り返し やがて最初の知性体を意味する ファーストボーン(魁種属・かいしゅぞく)と呼ばれる知的存在になる。 |
黒筋銀ヤンマ クロスジギンヤンマ雄 木星の15倍もある アルタイルの 超巨大惑星を 山荘主の越権で仮に BC4と呼ぶことにしよう。 ・ このBC4は他の惑星との 相互作用によって 母星系アルタイルから 遠くへ放りだされ 長大な楕円軌道に乗った。 ・ その遠日点は彗星の 飛び交う冷え切った遙かな 漆黒宇宙にあり一周に 数百万年を要した。 ・ 宇宙の碧を鏤めた クロスジギンヤンマの 生誕後の全容が やっと見えてきたね。 ・ |
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大塩辛蜻蛉・雌 オオシオカラトンボ雌 問題は数百万年を経て 母星にやって来るこの BC4にあった。 ・ アルタイルの内惑星は 宇宙の深淵から 現れるBC4の巨大な重力に よって激しく震動し 地殻は裂け生命は致命的な 危機に曝された。 ・ 更に彗星や小惑星から成る 大きな幅広い帯を幾つも 突き抜けるBC4は 超巨大な隕石を雨霰の如く 惑星上に降らせる。 ・ 嘗て地球で恐竜を 絶滅させた隕石の 百倍以上が降り注いだ。 ・ アルタイルの 知的生命体は BC4の軌道を変えるか 滅亡するか 他の星へ移住するかの 選択に迫られる。 |
さて山荘でお馴染みのオオシオカラトンボさん アルタイルの知的生命はBC4の軌道修正を選んだのだが どうやってBC4の軌道を変えるか 考えてごらんよ。 木星の15倍もある超巨大惑星だぜ。 |
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こうして無限の交尾と産卵を経て生命は 進化し知を蓄積し、やがて虚空へと旅立って行くんだ。 |
オオルリボシヤンマ雌 大瑠璃星ヤンマ・雌 さあ、生むぞ! しー!ちょっと アルタイルの話をやめて オオルリボシヤンマの 生命の荘厳な儀式を 観てごらんよ。 ・ 実に真剣なんだ。 カメラを近づけても全く 身動きもせずに 息を潜めてしっかり 睡蓮の葉にしがみ付いて・・。 ・ 山荘の池が生命の 揺籃の地であると何度も HPで発信してきたけれど こんな真剣な場面は 無かったね。 ・ えっ!瑠璃色ではないって? 瑠璃は雄だけなんだ。 黒筋銀ヤンマの雄を みてごらんよ。 大瑠璃の雄はあれと同じ文様で 区別出来ない程 よくにているからあれを 大瑠璃と思って。 |
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オオルリボシヤンマ 沢山生みました! 睡蓮の葉に産卵 少しずつ尾を動かして 次々と卵を 産み付けていく。 ・ 静止を要すこの瞬間は とても危険で 源五郎の幼虫や 水爬虫(タガメ)が尾に食いつく 機会を狙っている。 ・ ここなら襲われる 心配は無いけれど葉の水が 蒸発してしまったら 卵は太陽に焼かれ 生命は中絶してしまう。 ・ 魁種属が太陽にBC4を 激突させる計画を 立てたのはBC4が アルタイルの 生命体を脅かすからだけ ではなかったんだ。 |
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その後35億歳前後で赤色巨星へと変化して 最終的に白色矮星になると考えられているけど、そうなると 45億年前にはアルタイルは存在してなかったということだよ。 事実に極めて忠実なクラークさんにしてはちょっと杜撰だな。 ま、小説だから目を瞑るか。 |
オオルリボシヤンマ雌 虚空への旅立ち 産卵を終えて 宇宙の深淵を見つめていた 大瑠璃星ヤンマの末裔・ 魁種属は45億年前に 突如輝く1つの光を 16光年の彼方に見出した。 ・ 原地球に小惑星が激突し 原地球が地球と月に 分離する瞬間であった。 ・ スーパーノバと見紛う煌きは 16光年どころか 数百光年先まで流れ数日間 漆黒の宇宙を切り裂いた。 ・ やがて分離した地球には 彗星が水を運び 海が生まれ化学的撹拌の 短い時代を経て 驚く程の早さで 原始生命が誕生した。 ・ ちょっと待って! 確かに月は45億年前に 小惑星規模の隕石の 衝突によって 生まれたとの説が 最有力だけどクラークさん アルタイルは非常に若い恒星 おそらくは数億歳と 最新情報では伝えられているよ。 |
虚空の彼方 超銀河団蒲公英 太陽系の生命誕生ドラマを 観ていたのは 大瑠璃星ヤンマの末裔だけ ではなかった。 ・ 自ら宇宙を形成し 星々を鏤めその1つ1つを 漆黒の深淵に放つ 蒲公英(タンポポ)の末裔も 具に観察を続けた。 ・ そして魁種属はアルタイルの 1つの惑星に知性を 結集(けつじゅう)し 太陽系生命を論議した。 |
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5月24日(日)雨 前庭 |
そして武器が選択された。 殺菌の手段が」 (初版本版188p参照) |
赤ちゃんキウイです キウイの蕾 うーん、実に清々しいね。 生まれたばかりの星々。 これが時間を吸い込み 生命を育み進化させ 知的存在を生み出すんだ。 ・ でもね、魁種属は論議の結果 太陽系生命の進化を 進歩ではない と多数決で議決したんだ。 ・ AC・クラークは自著で こう述べている。 「往古の集会において 人間には理解できた筈のない レヴェルの議論で そして多少の意見の相違にも かかわらず 重大なうえにも重大な 決定がなされた。 ・ |
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雀斑じゃないよ! 枇杷の赤ちゃん つまり太陽系生命は 知的存在でないだけでなく 魁種属にとって 害をもたらす細菌だと 衆議一決したんだ。 ・ アルタイルの生命を 脅かす超巨大惑星BC4が ここで登場する。 ・ 殺菌の武器をBC4にすれば 魁種属は 2つの危機を一気に解決 出来るかも知れない。 ・ 「2001年宇宙の旅」で 登場したモノリスは 魁種属の観測機器で 太陽系生命が知的レヴェルに 進歩するか 豚インフルエンザ程度で 終わるか観察していたと 云うわけさ。 |
そのみっともないソバカスはやがて剥落し太陽の橙色を宿し 美味しい枇杷となるのに、僅か数十億年先の時が読めずに 魁種属は太陽系生命を細菌と決めつけたのかも・・・と 思ったりもするが・・・・。 ・ なんとも不自由な細胞の集合体に知をインプットしている 太陽系知的存在は宇宙レヴェルで観たら やはり豚インフルエンザと同程度の存在なのであろうか? |
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BC4をどうやってアルタイルから運んで紀元前4年 太陽に激突させたかの話は中絶してしまったが 興味あったら「太陽の盾」を 是非読んで! |
夜の倉庫番だよ 山荘にも緊急に解決せねば ならぬ問題が発生。 ・ 従来の倉庫を轆轤専用の 陶房にしたので 倉庫の荷物をテラス下の 新倉庫に移したが この森の簡易倉庫は野生動物 にとっては出入り容易。 ・ 夜な夜な新倉庫に侵入し 食糧ダンボールを食い破り 食糧を食い散らす。 ・ そこで魁種属はBC4の 代わりに犬達を 遣わすことになったのだ。 ・ 《どうだい!悠絽、舞瑠 敵を発見出来たかい?》 |
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七つの彩・物質と反物質の情交 5月24日(日)雨 山荘テラスから高芝山 サエコが息を弾ませて走って来る。 「ほら、赤い橋が架かって山荘が《赤い橋の下のぬるい水》になったわ!」 ・ 雨の畑仕事でぐっしょり濡れ昼風呂に浸かっていた陽介は サエコが又々《反逆する風景》の額縁に飛び込んでしまったのだと思って 如何なる反逆をすれば山荘に赤い橋が架かるのか想像を逞しくし、次のセリフを待っていた。 ・ 「お風呂の窓から覗いてみて!」 窓から覗いたって《反逆する風景》の赤い橋が見える筈はない。 と舌打ちしながら窓から外を見ると鮮やかな虹。 ・ 生誕後の粒子と反・粒子は再び出逢い豊穣な情交の果てに 一瞬の光となって宇宙の深淵に旅立つ。 その光が無数の小さな小さな水の天体に捉えられ透明な実存を剥ぎ取られ 7つの彩で粒子と反粒子の情交を描いたのだろうか。 ・ と、まあ今週は辺見庸が土足でどしどし心象風景に乗り込んできて 愛液に溺死しそうな得体の知れぬサエコなる女を押しつけて嵐の如く去っていった。 ・ やはりあいつは豚インフルエンザ程度には危険な男なのだ。 |
5月5週・・・・山里の春とアングラの終わり
畑中の薔薇孤高 観られることもなく 人家の途絶えた畑中に 咲き誇る薔薇を 舞瑠と観ていた。 深紅が梅雨の前触れの ような湿った大気に 漂い出し万華鏡の中で 紅テントを 組み立て始めた。 ・ 薔薇股と長女・大鶴美仁音を 引っ提げて唐十郎が 目白の鬼子母神に現れ あれよという間に紅テントを 立てたのは先週末。 ・ 美仁音はフランス語の mignon [ミニョン](可愛い) からとったらしく 実際「みにおん」と読ませる。 |
昨秋の「ジャガーの眼」で少年を演じ好演。 未だ17歳の目映いばかりの若さで今回 少年・玄児で再び登場。演目は「黒手帳に頬紅を」。 |
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襲われた雛 山雀の悲劇 きっと雛の餌をねだる 鳴声が流れ 白鼻心か狐か野生猫に 聞きとられ 執拗な攻撃を受けたのだ。 ・ 鋭い爪痕が巣箱を 削り取り破壊する音に 怯える山雀の雛。 刻々と迫りくる得体の知れぬ 恐怖が獣の荒々しい 息遣いによって更に増幅され やがて最後の瞬間が・・・ ・ 一縷の望みをかけて 巣箱を覗いてみる。 孵化していなかった卵も 含めて巣は蛻の殻。 ・ 心が酷く痛む。 野生動物の襲い難い位置に 巣箱を設置すべきで あったのに・・・ |
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犯人は誰だ! 再び倉庫襲撃 再々度襲われた。 目ぼしい食糧ダンボールを 旧倉庫に戻し 野生動物の襲撃を かわそうと作戦をたてたが 無駄であった。 ・ 片っ端から箱を食い破り 御覧の通り。 手前左のワイン絞り器の 重いやつも倒された。 敵はかなり力のある奴だ。 ・ 「どうだい舞瑠、悠絽! 犯人が誰だか 臭いの主を 突き止められるかな?」 ・ 《うーん、こりゃ げっ歯類ではないな。 レスキュー食糧の 丈夫な袋には穴を開けて いないからね》 |
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美味しそう! 忘れ去られた桜坊 mignon [ミニョン]が 思わず口をついて出そう。 少年・玄児を演じた 17歳の大鶴美仁音の頬は こんな輝きを 放っているのだ。 ・ 日本産の桜坊は 外国産に比べるとやたらと 高く中々手が出ない。 それが畑の片隅に 忘れ去られたようにポツン。 ・ 勿論、父・唐十郎は 美仁音を忘れていたのでなく むしろ初舞台の瞬間を 虎視眈眈と伺い 「ジャガーの眼」で好評を得 満を持して今回玄児役 に抜擢したのだ。 ・ 強烈な個性的役者の オンパレードの中で 美仁音は更に更に輝くのだ。 |
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春の赤とんぼ 楓の結実 《翼果》なんて言葉が 在るとは知らなかったが 聞いてみると在って当然と 思える程しっくり。 ・ 山荘の庭の紅葉も 翼が色付き 熟すと石卓の上から ヘリコプターのように翼を 回転させて舞い始める。 ・ 果皮の一部が平たく伸びて 翼になっている。 親木から独立してより遠くへ 飛び立ち 自らのテリトリーを 獲得する手段なんだね。 ・ この遺伝子が動物にも 受け継がれ 親離れとなり繁殖の モデルになったのかな。 |
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感動・カベルネ・フラン まさか移植したばかりの
小さな苗木に 葡萄の花芽が出るなんて! 信じられぬ嬉しさ。 ・ と云うことは 若しかするとささやかながら 葡萄の実が初年度から 実るのだろうか? ・ ところでこれは蕾? それとも既に結実してるのか? 大体葡萄にはどんな花が 咲くのかすら 知らなかったことに気付いた。 ・ それに枝が出てきたが これは剪定して 1本にすべきか否か悩む。 葡萄研究所に 連絡したら頼りない返事。 「多分切った方がいいと 思います」 |
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百匁柿の開花 なぜ柿の花は 葉と同じ緑色なのか? ・ 虫を華麗な花弁で 呼び寄せて受粉させる 必要が無いのか? と考えるようじゃ未だ未だ とうしろうだな。 ・ これはガクで花弁の 外側にあって花はこの中に 咲くんだよ。 花は黄色で多分来週には 開くだろうね。 ・ キウイは雌雄異株だけど 柿は同じ木に雌と雄株が あるので 1本の木でも結実する。 ・ 昨年も沢山大きな実を 付けたけど今年も 頑張ってね。 |
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5月31日(日)曇 水神池 | |
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・ 「宝島」のジョン・シルバーと「白鯨」のエイハブ船長が重なり 腰巻お仙や風の又三郎の舞台が渾然一体となり 夜叉綺想の 「ねい、ちょいと。都コンブを買いはしませんでしたか?」の セリフが至る処に出没し 私の「腰巻おぼろ」は 混沌の彼方に今も彷徨っているのである。 |
空と池と犬 池がだよ 本当の池がだよ舞台に なっちゃうんだ。 驚いたのなんの! ・ 上野公園の 不忍池水上音楽堂に テントを張って 「腰巻おぼろ・妖鯨篇」を公演。 ・ 根津甚八が吠え 小林薫がクレーンに宙吊り 李麗仙が交尾し そりゃ凄まじい舞台。 ・ それだけで度肝を 抜かれていたのだが未だ 極めつけがあった。 ・ 突然舞台が裂けて 舞台奥に不忍池が広がり 次々と役者が 水飛沫を上げて池に 飛び込んでいくのだ。 ・ 《唐版・風の又三郎》とか 《腰巻お仙・百個の恥丘》 とか唐十郎のアングラ世界に 引き込まれ 舞台に通い続けたね。 |
水ぬるむ 《盲導犬》なんてのも あって本物の犬だって 役者になって 登場したんだぜ舞瑠、悠絽。 「ふーん、それじゃ 僕たちも出られるかな?」 ・ それには先ず 池に飛び込めなくちゃ。 そーれ行け! ・ なーんだ 池に向かって吠えたって 駄目さ悠絽。 大きくジャンプし ジョン・シルバーになって 豪快に飛び込むんだ。 それもう一度トライ! ・ 「僕、役者やめた」と 水に弱い舞瑠は逸早く リタイア。 |
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5月31日(日)曇 扇山山麓 | |
・ で、さあ、不忍池に飛び込んだ役者達はどうなったの? そうそう、あの池は肥沃な泥が厚く堆積していて 池に吸い込まれた役者は泥に突っ込みそのまま稲になってしまった。 稲はすくすく成長して世にアングラブームを巻き起こし 唐は「天井桟敷」の寺山修司、「早稲田小劇場」の鈴木忠志 「黒テント」の佐藤信と共に 「アングラ四天王」と呼ばれ、アングラ演劇の旗手となったのさ。 ・ さてこの稲は大きく育ったら何を生み出すのだろうね。 |
山の田んぼ 時は唐が29歳の 1969年1月3日。 場所は新宿西口公園。 ・ 東京都の中止命令を無視し 突如テントを立て 《腰巻お仙・振袖火事の巻》を 強行公演。 ・ 凄かったね。 200人の機動隊に 紅テントが包囲されピンチ。 だが唐は芝居を続行。 最後まで上演。 ・ 上演後、唐十郎、李麗仙ら 3名は「都市公園法」違反で 現行犯逮捕される。 ・ 200人の機動隊員をロハで 出演させ自らの 逮捕劇までを演出し 芝居にしてしまう唐十郎。 ・ 「新宿西口公園事件」 として今も語り草 になっているんだよ。 |
5月31日(日)曇 扇山山麓 | |
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早朝の田植え ついさっき夜が 白み始めたばかりだと 云うのに山麓の田では もう田植えが・・・ ・ つんつん伸びた稲は やがて互いに干渉しあい 火花を散らし 唐十郎VS寺山修司の 乱闘事件へと・・・。 ・ 紅テントの前身は 「状況劇場」であったが その興行初日 寺山は祝儀の花輪を ジョークで葬式用花輪にして 贈ったのだ。 ・ その1週間後、唐は 劇団員を引き連れて寺山の 「天井桟敷」を襲撃。 芝居さながらの大立ち回り。 双方の劇団員9名が 暴力行為の現行犯で逮捕。 |
・ 仕掛けたのは勿論唐十郎。 寺山が葬儀用花輪を贈る前に唐は「天井桟敷」の旗揚げに 中古の花輪をおくったのだ。 ・ と、肥沃な泥を巡って適者生存、自然淘汰の血生臭い アングラ稲の闘いが始まったのである。 寺山は夭折し鈴木は富山の合掌造りの村へ引っ込み佐藤は 個人劇団へと退行し唐は68歳で未だ紅テントで公演。 |
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美仁音&中島みゆき 「黒手帳に頬紅を」 冨美代さんが 赤いレインコートの人に 何やら話かけている。 「あの赤いコートの人 中島みゆきよ」と云う。 ・ どうも美仁音が招待した らしく公演後 真っ先に中島の元に 駆け寄り美仁音が 鄭重な礼を述べている。 ・ となると中島が シアターコクーンで上演する 演劇とコンサートを 融合させた「夜会」に 美仁音も 出演するのだろうか。 ・ こりゃ面白くなりそう。 中島の暗さと アングラの荒唐無稽 奇想天外が舞台で野合し 何が生み出されるか! |
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5月31日(日)雨 鬼子母神(目白) | |
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唐組・紅テント 雨の鬼子母神の森は 嵐の前の静けさの ように寡黙に 日没を待っていた。 果して唐は未だ嵐を 秘めているのだろうか? ・ 紅テントが闇に 包まれないと唐の芝居は 始められない。 テントの外までが舞台に なるので闇がないと 照明が使えないのだ。 ・ 根津、小林と煌く アングラの主役を引き継ぐ 稲荷卓央が おしるこ屋・デカダンに立ち 照明を浴びる。 中年の老いが顔に滲む。 余りにも長すぎた 主役による 「黒手帳に頬紅を」開幕 ・ 芝居は進めど 嘗てのような疾風怒濤は 何処へやら。 何しろ役者がマンネリ化し くたびれ 目も当てられず。 新鮮味ゼロの演技が続く。 |
・ そこへ颯爽と現れし美仁音演ずる少年・玄児。 夢野久作の「斜坑」の一節を諳んじ倦怠化した 舞台を切り裂く。 ・ だがそこまで。切り裂いたバトンをタッチする役者は不在。 バトンを受けて疾風怒濤を巻き起こす 大久保鷹、不破万作、十貫寺梅軒等はもう居ない。 疾風怒涛の真っ只中で時空を超えて 妖艶に微笑む小名紫ももう戻ってはこない。 |
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セーラー服の唐十郎 ・ ファシズムに抗して 繰り広げられたレジスタンスを アングラの 生みの親とし1960年代の 社会体制や 権力に対しての怒りを 糧としてアングラは力を得 文化へと展開する。 ・ アングラの視点は 社会体制や既成概念への 嵐のような反逆に あったのだ。 ・ しかし今や唐は嵐を失い 200人の機動隊に 拮抗する怒りは失せた。 従って役者は小さな 低気圧になり下がり 静かに 消滅していくのだろう。 ・ さらばアングラ劇の 最後の旗手よ! |
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