山荘日記

その24秋ー2007年霜月

 


霜月1週・・・晩秋の収穫


竈馬の冬篭り

忘れもしない15年前の
秋の日の週末の朝。
山荘が完成して
初めての寒い秋の朝。

ドアを開けると
玄関に無数の竈馬。
驚いたの何の!
一体何が起こったのか
見当も付かなかった。

10月から11月にかけての
寒い夜に
森からかやってきて
玄関に集合するのだ。

縁の下にバルサンを
焚いて冬篭りを
断固阻止。
11月1日(木)晴 浴室にて



美女と骸骨

山荘特産の人参パンを
作ろうと
畑の人参を抜いたら
美女に遭遇。

顔も見えないのに
何故美女かって?
そりゃこのスマートな
美脚を見れば
一目瞭然!

さてこの美女の
お相手は誰が相応しい?
チベット高原を走る
ガゼルに似た珍獣チルー
が名乗り出る。

なるほど面白い
組み合わせだね。
11月1日(木)晴 譜面台にて



鍵盤に踊る

最近は山荘での
音楽会も開かれなくて
寂しがっているピアノが
《こっちにもおいでよ》と
声を掛ける。

ふんふん
このアンサンブルも
悪くはないね。

ところでここで美女が
踊るとどんな
音色を奏でるのかね。

鍵盤と美女の無数の物語が
様々な音色を
紡ぎ出しているのに
悔しいな
さっぱり聴こえない。
11月1日(木)晴 鍵盤上にて



妖しい柿

今年も山荘の柿は不作で
3本の木に
ちらりほらり計17個。

高鋏でパチンと
切り落としてみると
見たこともない奇妙奇天烈な
アート!

柿の実が2つに
割れることが珍しいのに
更に割れ目の間から
新たなる実がにょき。

さては平均から離れて
例外的な
ふるまいをする粒子の
頻度を決定する
ルートn法則が
現れたのかな?
11月2日(金)晴 果樹畑にて



椎茸もどっさり

つまり不作で実の数が
少ないと
平均から外れた
振る舞いの比率が
高くなるのだ。

統計学的にはn個の
異端の
振る舞いは √個。
n=100ならば
異端は10個で10%。

ところがnが1億になると
異端は0.001%。
実は このルートn法則は
生命体が
何故無数の原子から
成り立っているかを
見事に説明している。
11月2日(金)晴 テラスにて



枯露柿造り

干し柿を造るため
テラスで皮を剥きながら
柿を生徒にして講義開始。
テキストは
シュレーディンガーの
「生命とは何か」

何の意思も機能も
持たない小さな原子が
無数に集合して
1つの細胞を成し更に
60兆個もの細胞が集まり
人体を構成する。

何故、限りなく無限に近い
数の原子を生命体は
必要とするのか?

『総ての秩序ある現象は
膨大な数の原子が
一緒になって行動する場合に
その「平均」的なふるまい
として顕在化する』
からなのだ。
11月2日(金)晴 テラスにて



ジャズと柿剥き

そうそう、何故か
干し柿造りは小春日和と
ジャズがぴったりで
透明な太陽とジャズを
全身に浴びながら
シュレーディンガーを
仲間に引き込んでいるのさ。

生命という秩序を
産み出すには異端因子を
限りなく零に
近付けねばならず
ぞの為に無限の原子を
用意するんだ。

でもルートnに含まれる
突然変異が癌細胞
になったり新たな進化を
産み出したり・・・

『妖しい柿』君は
どちらなんだろうね?
11月2日(金)晴 テラスにて



柿簾の彼方

山荘の柿だけでは
寂しいので
東の森まで出かけて
熊の食料となっている山の柿を
少し失敬し柿簾を完成。

暖かい日が続いているので
本当は来週まで
待った方がいいのだ。
しかし明日から19日まで
東太平洋の孤島・ココへ
ダイビング。
帰国後では柿は熟して
落ちてしまう。
今日しかないのだ。

何だか無数の細胞が連なり
『秩序ある現象』が
視覚化されたようだね。
11月3日(土)晴 テラス横にて



勝手に夕顔

半月も山荘を空けるとなると
畑の管理もしっかり
やっておかないとね!

防猪ネットに蔓延る
雑草やコスモス、勝手に
生えた夕顔と
悪戦苦闘していたら
大きな夕顔の実がゴロゴロ。

昨年の西瓜の接ぎ苗が
夕顔に化けて
その子孫が勝手に芽を出し
いつの間にか
こんなに大きくなって!

これでスープを作ると
美味しいのだが
そんな時間は無いな。
11月3日(土)晴 前庭にて



晩秋の夕顔

えっ!
夕顔の花って
こんな綺麗だったんだ。
知らなかったな。

これからは霜が真っ白に
降りて、もう実なんか
決して成らないのに
それでも咲いたんだね。

11月にもなって
咲いたなんて山荘始って
以来のこと。
真夏日の続いた余波で
秋まで暖かったから
今年の冬はきっと
寒い日が続くのだろう。
11月3日(土)晴 西畑にて



11月3日(土)晴 
ゲートにて



この夕顔
何処かで見かけた
体型だな。

あっ!トトロだ

ぴっかぴっかの中学一年生。
最初の数学の授業でこんな質問をした。
「となりのトトロ、一回観た人?」
「うん、17人か、それじゃ二回見た人?」
「おー、12人も居るか、5回以上見た人?、8人か」
「合格目標は5回以上だな」
「先生、なんの合格ですか?」
「一学期の数学中間テストさ」
「えっ、ほんとですか?」

勿論それから中間テストまでの間にトトロ鑑賞者数は90%を超えた。
ナンガ・パルバット(8125m)夏遠征の直前に数人の女子生徒が
「先生の大好きなトトロのチョーク入れ袋作りました。
先生の名前も刺繍しました。使ってください」と言って幾つもの巾着を
プレゼントしてくれた。
こりゃチョーク入れにはもったいない。遠征で使うトランシーバーの
カバーにぴったり。1〜14まで番号を付けて
早速その夏から連年の遠征でトトロ巾着は大活躍。

あの頃の卒業生が時々山荘に顔を見せるが、この巾着を作った生徒が
誰であったか、どうしても思い出せない。
ゲートの郵便ポストにトトロを乗せておけば風が教えてくれるだろうか?



スイートポテト

山荘に集う常連が
ワインの摘みに
薩摩芋を使って
スイートポテトを作った。

これに嵌ってしまった。
山荘芋を蒸かして
裏ごししてバターを加え
少々砂糖を入れる。

生クリームをホイップし
バニラ果実を入れた
ラム酒を混ぜる。
更に山荘で採れた蜂蜜を
若干加えポテトの
トッピングにしてみた。

ドライのワインにぴったり。
11月2日(金)晴 居間にて



三度目の試作

あまりの美味しさに
すっかり自信をつけ
目白でも作ったら
大好評!

パプア・ニューギニアで
手に入れたバニラ果実が
ラム酒に溶けて
生クリームを此れほど
引き立てるなんて驚き。

明日からガラパゴスの
直ぐ北に位置する
ココ島にダイビング。
どっさり作って冷凍して
持っていって
ワインと共に愉しもう。
11月3日(土)晴 居間にて





September 2007
Spaces still available on November 5 - 17 Cocos trip
Several spaces are still available on the upcoming November 5 - 17 Cocos trip on the Sea Hunter. A Japanese film crew has chartered half of the vessel, although they will probably only be bringing a total of 5-6 people. Several spaces are still available on the other half of the vessel.
This is a special 12-day trip with 9 days of diving at Cocos. Contact us if you are interested in joining the trip and we will provide you with further information.
Hello,Mr Sakahara
I am glad to confirm that we have space available on this trip. Yuka from Club Azul
has already contacted us about this, and we have moved your reservation from the Dec. 16-26 trip
to the Nov. 5-17 trip.
Please feel free to contact your Japanese agency for any further assistance you need, and we will also gladly answer any questions you might have.

Thank you,
Alan Steenstrup Undersea Hunter Group

こんなメールが届きましたので
明日からコスタリカのココ島まで、ちょっと出張です。
      
ガラパゴス諸島の北方に位置する世界最大の無人島で、ジュラシックパークの撮影に
使われた島です。
『A Japanese film crew』とはどうもNHKの「世界遺産」の取材班らしいのです。



霜月4週・・・iPS細胞


巨木の眠り

中米コスタリカの陸から
550kmも離れた
世界最大の無人島ココ。

出航から海は大荒れ。
島周辺の海も
雨と風が横殴りで
DVボートは波頭から
波間へ何度も叩き付けられ
尾底骨損傷の
未熟ダイバーも出現。

そんな海で朝から晩まで
ダイビング三昧。
2mを超える撞木鮫
の群れを連日追いながら
心は豊かな森に
在った。

山荘に還ったら
巨木の眠る森に行こう。
11月24日(土)晴 茅ケ岳女沢



タイムトンネル
1988・12・4

88年12月4日に
訪れて以来19年ぶりの
茅ケ岳の森で
眠りについた巨木に
出逢い
稜線では巨大な石門に
遭遇した。

1ヶ月前の誕生日に
茅ケ岳登山口の
深田久弥碑を訪れた時
巨木と巨石門の
オーラが既に私に
取り憑いていたのか?

茅ケ岳への想いはビアを
傾けている時不意に
やって来たのだ。
11月24日(土)晴 茅ケ岳石門



深田終焉の地

豊かな森
巨木の眠る森を求める
心情と
茅ケ岳を結んだのは
誕生日のオーラ
だけではないかな。

多分年齢も関与してる
のであろう。
考えてみると久弥の
死んだ68歳に
いつしか限りなく私も
近づいていたのだ。
19年前の会報の私を
覗いてみる。

(青いけし通信11号より抜粋)
《3日後は「青いけしの会」
今年最後の山行ですね。
茅ケ岳には命の
燃え尽きるまで山に
登り続けたヒマラヤニスト
深田久弥が眠っています。
中央沿線の山シリーズの
締めくくりとして
本年度最後の山行として
相応しいかも
しれませんね》
(1988・12・16発行)
11月24日(土)晴 大明神稜線




山頂での忘年会

19年前の会報の編集を
担当していた村上に
「茅ケ岳、行きませんか?」
と誘ったら
ブロード・ピーク遠征の
Tシャツを着て
茅ケ岳にやって来た。

「この山頂で
ボジョレー・ヌーボーを開けて
忘年山行の乾杯を
したんですよ」と村上。

《さようなら、たった
一度しかない1988年。
素晴らしい山行に満ちた
一年でした。
未来に、そして
青いけしに乾杯!》と
村上は
編集後記に記した。
11月24日(土)晴 茅ケ岳山頂



巨木に化す

ボジョレー・ヌーボーの
心地良い酔いのせいか
暖かい冬の陽に
励まされて芥子の実は
未来へと弾けるばかり。

(私達のヒマラヤへの
熱き想いに先生は語る)

《パミールに連れていって
あげたいけど
同人の若い仲間の
熱い想いを間近にすると
来年のブロード・ピーク
に続き天山、ナンガの
集中登山計画を
何とか実現させてあげたい。
だからそれ以降に
なってしまう》
T:「待てません」
N:「もう10人の血判状は
用意してあります」
・・・
茅ケ岳山頂からのホットな
リポートでした。(Y記)
(青いけし通信11号より抜粋) 11月24日(土)晴 茅ケ岳女沢



一日の幸

豊かな森
巨木の眠る森を求める
一日の旅は
終章に近づいた。

緑の生命と
真夏の太陽の光に
満ち溢れた豊かな森は
すっかり彩を失い
静かな眠りに就いた。

緑から黄、赤へと
最後の生命を振り絞って
鮮やかな錦秋を
描いた森は大地色に還り
寡黙になった。

もう直ぐ
森も大地も白銀に
覆われるのだ。
11月24日(土)晴 茅ケ岳女沢



山頂の落日

冬のギヤマンの空が
やって来ると
迫り来る森の闇を貫く
落日に
無性に逢いたくなって
山頂に駆け登る。

朝の衝撃と
今正に落ちんとする
太陽が重なる。
この朝、新聞各紙は
京大の山中伸弥チームの
人工多能性幹細胞(iPS)を
掲載し
世界での大きな反響を
伝えた。

ついに受精卵ではなく
体細胞から万能細胞を
造り出したのだ。
それなのに何故落日と
重なるのだ。
11月23日(金)晴 扇山山頂
(2007年11月23日 朝日新聞)





森の払暁

落ち行く太陽を追い
茅ケ岳を逍遥し
山荘の森に還る。

太陽が東の山稜に潜み
今正に爆発的な光を
投げかけようと・・・。
その瞬間に呼応するように
眠りの闇に目覚めを
告げる超新星が
炸裂する。
1つ2つ・・・7つまで数え
森の闇に走る。

上条峠で太陽が
森の闇を劈いて山稜から
躍り出る。
恍惚として光に身を委ねる。

落日を山頂で眼にし
その太陽を
再び森で迎える歓び。
11月25日(日)晴 上条峠



キウイ収穫

「この山頂で
ボジョレー・ヌーボーを開けて
忘年山行の乾杯を
したんですよ」

それじゃ19年ぶりに
山荘のヌーボーで
乾杯しようか!
山荘においでよ。
野菜や果実の畑作業も
手伝ってくれると嬉しいな。

朝トレを終えて
村上が
キウイの収穫を始める。
でも高い所の実は
梯子に乗っても届かない。

よし、山荘主の出番だ。
11月26日(月)晴 西畑にて



秋空とキウイ

で、大空に浮かぶ
キウイをもいでいると
果皮に生えてる繊毛が
iPS細胞を連想させる。

青い空に浮かぶキウイが
逆光の中で
青黒い影を作り
輪郭に明瞭な繊毛の
シルエットを描き
まるで新聞に載った
iPS
細胞なのだ。

受精卵を壊して造る
ES細胞と異なり
皮膚からでも作られる
iPS細胞の誕生が
生命にとって
余りにも大きな意味を
持つだけに・・・
11月26日(月)晴 西畑にて



iPS細胞

そう、何を見ても
ニュースのiPS細胞が
現れて映像が
重なってしまうのだ。

このキウイのような
iPS細胞は
たった4つの遺伝子
Oct3/4,Sox2,
K1f4,c-Mycを
皮膚細胞に入れて
培養すれば
造れるという。

何も指令を受けていない
このiPS万能細胞は
指示さえ与えれば
神経細胞にも心筋や軟骨
脂肪の細胞にも
変身出来るのだ。
11月26日(月)晴 西畑にて



零下の豊穣

つまり人間の
臓器部品製造が
可能となりやがてそれは
人間そのものの製造に
繋がっていくだろう。

分子生物学の
輝かしい未来を齎すに
違いないイマージュが
何故山頂の落日と
重なるのだろう?

零下の寒さにめげず
豊かな葉を繁らせる小松菜
ほうれん草、青梗菜
冬菜に散水しながら
不安の源泉を思索する。

分子生物学者の
福岡伸一は万能細胞に
警鐘を鳴らす。
11月25日(日)晴 西畑にて



完成された効果

《未来像とは裏腹》と題して
彼はこう述べている。
「実は生命に
『部分』と呼べるものは無い。
・・・私達は解像度を上げながら
生命のありようをより新しい
文体で記述することは
今後も可能だろう。
・・・しかしおそらく
生命のありようを
作りかえることは出来ない。

なぜなら生命は
どの瞬間をとっても完成された
効果として現れている
ものだからである。

先端性の輝きに満ちた
分子生物学は
別の見方をすれば
限りなく観照にとどまる
あるいは『諦念のサイエンス』と
呼べるかもしれない。
思索に我を忘れて散水は続くのだ) 11月25日(日)晴 西畑にて



炎と化す夏残滓

とんもころしの硬い茎を
うず高く積み
種を無数につけた秋桜を
更に積み上げ
枯れ草の山は天を
突くばかり。

甘くて瑞々しいとんもころしも
夏から秋の畑を
彩った秋桜も
夏の想い出をぎっしり詰めて
枯れ草の山となり
炎になった。

君たちの体の有機炭素は
炭酸ガスになって
空に還るんだね。
来年の夏には又
戻っておいで。
11月25日(日)晴 西畑にて





蔓梅擬き

11月にしては珍しく
45年ぶりに
東京六本木で雪が降って
山荘も寒い朝が
続いたらしい。

蔓梅擬きも森の中で
こんなに赤くなって
山荘の招待を
一日千秋の想いで
待っていたんだね。

大きな長い枝を採って
肩に担いで山荘まで
えっちらほっちら。

昨年の色褪せた古い枝と
換えて『時空の渚』に
さり気無く置く。
さあ!今日から此処が
君たちの棲家だよ。
11月25日(日)晴 居間にて



高芝山との語らい

とっても心配だったんだ。

ココ島に出かける直前に
慌てて柿を収穫し
干し柿を吊るしたけど
あの頃は未だ夏の暑さが
残っていて
柿が腐ってしまう恐れが
あったんだよ。

でも大丈夫だったね。
こんなに美味しそうに
太陽をたっぷり吸い込んで。

高芝山と
とってもお似合いだけど
お友達になったのかい?
今夜はきっと高芝山から
満月が昇るよ。
お楽しみに!
11月25日(日)晴 テラスにて



夜の太陽

ほら!
出てきたぞ。
鉄塔と山頂の間から。

大きいね!
眩しいね!
まるで太陽みたいだね。

土を耕したり
雑草を取ったり野菜を
収穫したりして
畑で
たっぷり汗を流した後
こんな風に
満月が山稜から昇ると
ほんとうに嬉しいもんだよ。

嬉しくて何だかさ
肉体も精神も
ゆるゆる溶け出して
重力から開放されるんだ。
11月25日(日)晴 テラスにて



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