山荘日記

その2006年文月

 

文月・4週・・梅雨の花々




7月22日(土)晴時々曇     於 ログハウス

森の葉が
深遠な宇宙の闇に流れ
闇の彼方に
光を結実する。

朱の光はやがて帯になり
NEB北赤道縞を形成し
その右隣に
STB南赤道縞を生み出す。
深い闇の中から
STBに乗って
悠然と大赤班が姿を現す。

そうか!
ゆぴてる
森から生まれたんだ。
森に流れる木星




7月15日(土)晴後雷雨     於 ログハウスのテラス

底知れぬ闇から
全容を現したゆぴてる
ログテラス上で
太陽からの光を
弱弱しく投げ返す。

昼に太陽光を
一杯に吸い込んで
たっぷり充電した
ソーラー燈が
青い光を放ち
ゆぴてるの赤い光に
呼応するように踊る。

宇宙が
葉の細胞の中に
自らの肉体の中に
存在することに気づいて
数十年。
やっと回り逢えた映像。
テラス幻想


7月23日(日) 曇り     於 東の森・田園道(朝トレーニング)

不意に濃厚で
妖艶な香りに襲われた。
甘く切ない絡みつくような
郷愁を誘う
妖しい美女の香り。

小倉山に向かう田園道で
立ち止まり美女を追う。
居た!
猪の侵入を許さない
疎水と石垣に守られて
凛として
咲き誇る山百合。
更に進むと数箇所で
一面に乱れ咲き。

山百合の根は美味。
猪などの野生動物に
食い荒らされ絶滅状態。
頼りの綱は
先週、大月市で開かれた
《山百合サミット》
妖艶な山百合


7月23日(日) 曇り     於 前庭・田園道(朝トレーニング)

数年掛かりで
やっと手に入れた

凌霄花がついに咲いた。

山荘を建て
週末に通うようになって
町に溢れる
花々の多さに感嘆!
花の少なくなる
梅雨から初夏にかけて
見かける橙色の花樹には
特に心惹かれた。

その名が
ノウゼンカズラであると知り
あちこち求め続け
今春植樹。
ついに咲いてくれたね。
ついに咲いた凌霄花


7月22日(土) 晴時々曇     於 ログハウス下(朝トレーニング)

北の森の天辺が
ピンクに染まり始めた。
ぷち天文台の
ガニメデからは遠くて
何の花か分からない。

ログ下の森や
西の森入り口で
同じピンクを見つけた。
何だ。眠之木だったのか!

花火のように飛び出した
雄蕊が雌蕊を捉えると
15センチにもなる
長い豆果が出来る。

夜になると子葉は閉じて
水分の蒸散を防ぐ。
それが眠るように
見えるんだね。
合歓木の目覚め


7月23日(日) 曇り     於 ログハウス下(朝トレーニング)

待ーてど暮ーらせど
来ーぬ人は
宵待草のやーるせなさ。
今宵は月も出ぬそーな。


竹久夢二に詠われ
大正ロマン
シンボルとなった待宵草。
私の義母の姉は
竹久夢二の
想われ人・笠井
彦乃

そんなせいもあって
この花を見ると
夢二の描いた美人が
花弁に二重写しとなり
ホログラムとなって
浮かぶ。
宵待草・・・大待宵草


7月22日(土) 晴時々曇り     於 前庭

自ら光を
発しているかのように
蒼い海の色を湛えるはず。
でも今年の紫陽花は
花期が2週間も遅れ
花数も少なく発色しない。

万葉時代から愛でられた
紫陽花も
冷たい初夏と長雨の
異常に気づき
萎縮してしまった。

1株から挿し木を繰り返し
随分増えたが
これでは今年の
挿し木は出来そうもない。
顎紫陽花


7月23日(日) 曇り     於 ログハウス下(朝トレーニング)

この宝石は
いったい何なんだ!
蝉の抜け殻が生んだ卵?
そんな馬鹿な。
それじゃ抜け殻から
出る前の蝉が
産んだのか?
成虫になっていないのに
産めるはずないな。

蝉は枯れ枝の中に
卵を産み
孵化した幼虫は
地中に潜る。
最も長い蝉は17年も
かけて変身への途を歩む。

成虫になって羽ばたく
数日間に較べると
数年間は無限に近い。
その意味を知る前に
宝石の謎を
解かねばなるまい。
変身と宝石


7月23日(日) 曇り     於 上条の森(朝トレーニング)

明日から紅海へ
ダイビング。
アフリカ大陸と
アラビア半島に挟まれた
カラカラに干乾びた砂漠に
食い込んだ海。
暫く森の生命とはお別れ。
出発前の最後の朝トレに
上条の森を選んだ。

森の底で
広葉樹のオブジェに逢った。
かつて数千万枚の葉に
地中から生命を送り続けた
広葉樹の根。
今は樹種を同定出来ぬ程
朽ち果て任務を終え
唯静かに横たわる。

珊瑚は自らの死骸を
積み重ね
しばしば島を造る。
この根は再び
森を造るのだろうか?
森の終焉


7月23日(日) 曇り     於 東の森(朝トレーニング)

走り去る目に
小さな光が
飛び込んできた。
朝露が葉に結露し
地球の強大な重力に
さり気無く抗い
球形のまま落ちもせず
水惑星を形成している。

この危ういバランス
実は宇宙を支えている。
そしてたぶん
私の精神構造をも
支えているのだ。
水惑星誕生


7月23日(日) 曇り     於 奥庭

夏の芝は
2週間毎に刈らねば
悲惨なことになる。

芝刈り機が長く伸びすぎた
芝を受け付けず
無理して刈ると
刃に絡みつきモーターは
停止してしまう。

そうなると
芝刈りどころではない。
分解して
絡みついた葉を取り除き
再び
組み立てねばならない。

普段は狭い庭なのに
芝刈りを始めると
途端に広大な庭に変身
刈っても刈っても
終わらない。
俺って芝の召使?
芝との闘い


7月21日(金) 雨     於 アマルティア

光ファイバー?
そんなもん有る訳
ないじゃん。
ADSL?
竹森は
塩山市の中継点から6`。
限界が4`だから
まあ無理でしょう。
騒音は50デシベルが上限。
お宅は59デシベル。
まあ無理でしょう。
ダウンは出来てもアップ
は駄目ですね。

やはり山荘に
コンピューターを入れるのは
不可能か?

試行錯誤の結果
50Mb/秒の伝達速度が
0.4Mb/秒、つまり0.8%
に落ちたが
辛うじて通信可能。
やったね。これで山荘は
世界と繋がったね。
山荘にPC誕生




文月・3週・・嵐来る




7月15日(土)晴後雷雨     於 扇山より北稜線(朝トレーニング)

氷の粒が
数千mの上空で煌き
朝の太陽を浴びて
巨大な鬼糸巻?になった。

扇山山頂から
山荘上空を悠然と飛翔し
鉄塔の山上で送電線より
エネルギーを奪う素振りで
更に北方を目指す。

甲武信岳の天空に
新たなる鬼糸巻?出現。
さては
何か企んでいるな!
鬼糸巻?:オニイトマキエイ(manta) 鱗雲・高積雲


7月15日(土)晴後雷雨     於 山荘テラスより

黒い夏富士が
激しく積雲を吐き出す。
暫く東へ流れ
やがて北方の
巨大な鬼糸巻?に気づき
山荘方向に進路を変え
積雲は発達を加速。

膨大な静電気を生み出し

鬼糸巻?軍団に
接近する積雲。
天空に集積されつつある
膨大なエネルギーは
絶大な権力者である
大地への儚い
反逆を企てる。
嵐の予感


7月15日(土)晴後雷雨     於 前庭石卓

何と体温を超え
大気温は38度Cに達した。
朝から不穏な動きを見せ
エネルギーの集積を図る
鬼糸巻?と積雲は
熱された大地から更に
大量の熱源を吸収する。
天空は
高エネルギーに満たされ
一触即発の瞬間を待つ。

蜩と鳥達が不意に
鳴き止み
森と山荘が
静寂に支配された。
蜩:ひぐらし 38度C・・・嵐の前の静けさ


7月15日(土)晴後雷雨     於 テラス

天が裂け
強烈な光と大気を揺るがす
雷鳴が
大地を襲う。

大きく開け放たれた
総ての窓から
激しい風と雨が吹き込み
ログも山荘も
瞬時にして水浸し。
山荘畑の唐黍も全倒。

中央線が不通となり
米国からやって来た
トム・ハンクス一家も
木村隊員も駅で足止め。

力を使い果たした嵐が
去った後
全員が山荘に揃い乾杯!
嵐後の宴 トム・ハンクス:右から2人目


7月16日(日)曇時々雨    於 坂脇峠ゲレンデ

(ルート:チベッタンスラブ取り付き)

米国永住権を得
プール付きの大邸宅を手にし
トム・ハンクスに変身した
栗田陽介と久しぶりに
ザイルを組んだ。

風雪のヒマラヤ
氷の頂で坂原の手繰る
赤いザイルに導かれ
喘ぐ陽介。
やがて
登頂と歓びの抱擁。

夜の下降となり
坂原の墜落事故発生
全身打撲で瞬時失神。

そう、あれ以来の
アンザイレンだ。
アンザイレン:ザイルを結ぶこと トム・ハンクスの挑戦


7月16日(日)曇時々雨    於 坂脇峠ゲレンデ

(ルート:チベッタンスラブ中段)

坂原のヘルメットを被り
陽介二世・広介が
垂直岩壁に挑む。

手掛かりの無い
つるつるの垂壁を恐れず
何度か
宙吊りになりながらも
高みを目指す。

絶対権力者への反逆
自らの使命と心得え
父・陽介を「ジジイ!」と
呼び捨てる
頼もしい7歳児。
7歳児クライマー


7月16日(日)曇時々雨    於 坂脇峠ゲレンデ

(ルート:チベッタンスラブ下降)

英語の本であろうと
日本語の本であろうと
本でありさえすれば
読みまくる兄・大介は
文弱の9歳児

広介と異なり
直ぐ「泣き」が入る。
天は文弱少年に
試練を課すかのように
岩壁を雨で濡らす。
つるつるの岩壁が
更に滑りやすくなり
大介は自らの不運を嘆く。

しかし数百回の泣きの後
遂に完登。
スラブ:大きな一枚岩 雨のスラブ完登


7月17日(月)雨     於 山荘より俯瞰

嵐は去った。
エネルギーを失った雲海は
最早、鬼糸巻?にも
積雲にもなれず
絶対権力者への反逆も
企てず唯、渺漠と漂う。

雲は成長して
大人になった
のであろうか?
それとも
唯、エネルギーを
失っただけの事なのか?

安定を求める
下の層雲は大介で
やはり高みを目指す
上の層雲は広介?
重層雲海




文月・2週・・Vita


7月10日(月)曇     於 小倉山山頂(朝トレーニング)

森・Mori が
死であるならば
森を再生させる光は
生・Vita.

森に光が差し込む瞬間に
はっと、息を呑むのは
心象風景のいずこかで
死の

再生が閃光
するのだ。

深く重い闇の森を抜けて
達した山頂での光は
余りにも弱弱しく
明らかに再生の力を
失っていた。

森は唯ひたすら
待たねばなるまい。
Vita: ラテン語で生命の意
Mori: ラテン語で死の意
霧の小倉山山頂


7月8日(土)晴     於 前庭石卓

沙羅は朝開き
夕べには落ちてしまう。
沙羅が開くのを
虫達は待ちあぐねる。
朝の光に射抜かれて
沙羅が優雅に花開くと
虫達が群がる。

光は純白な花弁を
突き抜けて
沙羅の生・Vitaを
映し出す。
Vitaの溢れる光の中で
虫達は酔い痴れ
狂乱する。

森は静かに
やがて
高らかに再生の詩を
詠い始める。
命短し沙羅


7月8日(土)晴     於 陶房にて

再生の詩は光と共に流れ
森のVitaを揺する。

朝の光を一杯に
吸い込んで
桔梗も花開いた。
天空の蒼と
珊瑚海の藍を映した
桔梗の花弁に
虫のシルエットが浮かぶ。

君は宇宙船になって
深遠な宇宙へ
Vitaを運んで行くんだね。
桔梗の蜜を狙って


7月8日(土)晴     於 果樹畑にて

ヒマラヤの
遠征準備が始まると
色付き熟すプラム

今年度計画は夏ではなく
秋の
ポストモンスーン実施に
変更されたのに
やはり色付き始めた。
まるで
来週のヒマラヤ合宿を
知っているかのよう。

若しかすると
君達は隊員達に
食べてもらって
自らのVita
隊員に託し
一緒にヒマラヤに
登るつもり?
ヒマラヤの果実


7月8日(土)晴     於 前庭石卓にて

そう言えば君達は
人体が生合成出来ない
Vita-amineを
持っているんだね。

動物が成長を遂げるには
不可欠なVitamin。
動物の生・Vitaは
君達のVitaの
援け無しには
在り得ないんだ。

60兆個もの細胞が
互いに連携して人体宇宙を
形成しているように
きっと
総ての生命
連携して1つの星を
創っているんだね。
初めての枇杷


7月8日(土)晴     於 果樹畑にて

5年目にして
初めて実を付けた枇杷に
見とれていたら
洋梨が揺れた。

「毎年、美味しい
沢山の実を熟すのに。
私だってたっぷり
Vitaminを含んで
あなた達に
Vitaを与えているのよ」

「分かった分かった。
でもね
君達が美味しくなる
頃はチベットに行ってて
食べられないんだ。
森の動物達にVitaを
分けてあげて。」
葡萄酒色の洋梨


7月8日(土)晴     於 西畑にて

早春の芽吹から3ヶ月。

誕生から数億年を経て
安定した星々のように
君達も球状に成長したね。
この姿からはあの
超新星爆発の芽吹きは
とても想像できないね。

タイムマシーンに乗って
4月16日に戻ってごらん。
ほら、あの日は
朝、雪が降ったんだね。
そんな寒い中で
僅かに色付いた花芽が
固い決意を秘めて
深遠な宇宙へ
旅立ったんだね。
林檎・球状星団


7月8日(土)晴     於 前庭石卓にて

山荘の収穫は
いよいよ初夏の実り。
苺、桑の実、グミ
ブラックベリーと朱や黒を
滲ませた小さな果実が
プレリュードを奏で
杏子が
収穫の歓びを歌う。

気がつくとプラムは
すっかり食べごろ。
初めて山荘に登場した
枇杷の何と初々しいこと。

蜜をたっぷり含んだ
無花果も髪切虫に
幹を食われながらも
もうすぐ収穫。
髪切虫との闘い


7月10日(月)曇     於 座禅草の森にて(朝トレーニング)

光の奥に
稜線の鞍部がある。
夜明けの光が
鞍部から差し込み
先ず森の梢に流れる。
直立する木々は五線譜に
光は音符になって
森のVitaに囁きかける。

光はゆっくり高度を下げ
梢から森の中へ。
やがて森・Moriは
死からの再生を開始する。

朝トレで出逢う
この瞬間の森には
いつも心を抉られる。
朝霧の森


7月10日(月)曇     於 小倉山山稜にて

朝霧に煙る山稜の
朽ちた丸太段を
登っていたら
いきなり挨拶された。
初めまして!

そういえば確か
先週には見かけなかった。
というよりか
ここ13年間も
見たことない。
今、菌糸類の図鑑を
毎週見てるけど
何処にも載ってないぞ。

「気にしない気にしない
森はいつだって
未知なVitaに
満ちているのよ」
白素麺茸・Clavaria Vermicularis Fr



7月9日(日)曇時々雨     於 坂脇峠ゲレンデ

(ルート:勤労感謝取り付きスラブ)

さあ!
林檎に倣ってもう一度
タイムマシーンに乗って。
行き先は5ヶ月前の
2月11日。
氷壁に辿り着いたかい?

森があんまりにも
素敵なので
ついつい森に入り浸って
すっかりご無沙汰してた
垂直の世界へ
久しぶりに
戻ってきたんだ。

氷壁や岩壁の垂直には
迸る自由
満ちているんだ。
氷壁から岩壁へ


7月9日(日)曇時々雨     於 坂脇峠ゲレンデ

(ルート:勤労感謝ハング中段)

重力呪縛から
解き放たれる世界
といえば珊瑚海の
ダイビング。

垂直の登攀は
重力との闘いそのもの。
なのに登るほどに
心は呪縛から開放され
とても自由になる。

特に垂直以上に
覆いかぶさった
オーバーハングを
乗り越える時は
堪らなく愉快だね。
ダイビングにはないぜ。
垂直への回帰


7月9日(日)曇時々雨     於 坂脇峠ゲレンデ

(ルート:勤労感謝上部ハングフェース)

最後のハングした岩壁。
ここで失敗し墜落すると
軟な肉体はクラッシュし
Vitaは
呪縛に捉われてしまう。

精神は研ぎ澄まされ
岩壁の僅かな突起を追う。
昔打ち込んだ
錆びたハーケンを
凝視する。

総ての音が消え
静寂に満たされた肉体に
心臓の鼓動のみが
響く。
重力の呪縛




文月・1週・・生命の神秘


7月1日(土)曇  於 扇山山頂

霧は世界を
重く深くする。
確かに光は存在するが
その根源は
0次元から3次元へと
拡散してしまう。

光が0次元の点から
差し込むことによって
多くの生命は
自らの存在位置を
確認する。

朝霧の山頂にありながら
存在位置を失い
生の座標消失に
唯うろたえる。
朝霧の山頂


7月1日(土)曇  於 北の森にて(朝トレーニング)

数冊の図鑑を捲って
オペラ座の怪人の正体を
追い求めた。
しかし何処にも
怪人の片鱗すら
見出せなかった。

我々が目にする
多くの生命体は
地球重力の支配を受け
対称形を余儀なくされる。
怪人は地球重力を
鼻で笑った。
《植物でも動物でもない
第3の闇を食う
生命体だ
と言ったろ》

生まれて初めて
目にした生命に唯驚愕!
オペラ座の怪人


7月1日(土)曇  於 前庭石卓

生まれて始めての
生命体に2度も逢うなんて
奇跡としか
言いようが無い。

だがこちらはどうにか
仲間を突き止める
ことに成功。
「狐の絵筆、狐の松明
縞犬の絵筆」
似てはいるが
先端部が決定的に異なる。

悪臭を放って
蠅を呼び寄せ胞子を
運ばせる戦略は
同一であるが
仲間は帽子を
被っていない。
もしかすると
闇を食う新種?
狐の絵筆


7月1日(土)曇  於 中庭石壁上にて

カリストの書庫で
図鑑を選んでいたら
出窓の方から
いつもと異なる気配が
忍び寄る。
ふと中庭を見下ろすと
極彩色の鳥
羽根を休めている。
「あれっ!山鳥かな
それとも雉子か?」

尾の多数の黒帯は
共通だが山鳥には
黒白の斑があるはず。
とするとこれは雉子かな?
よし下に降りて
もっと近づいてみよう
珍客の訪問


7月1日(土)曇  於 2階東側出窓

あっ!雌も」居る。
山鳥は峰を隔てて
寝ると言われているのに
雉子はいつも一緒なの?

山荘周辺では年に数回
見かける程度の鳥だが
山荘訪問は初めて。
何が目的?
さては芝生が気に入って
巣作り偵察にでも?
そういえば雉子は
畑や野原の平地を好んで
巣を作るとか。

中庭の石壁の突端に立ち
暫く展望を
楽しむかのように佇み
やがて2羽揃って
眼下の盆地に消えた。

雉子の雌


7月1日(土)曇  於 中庭石段にて

君が代蘭



この気品溢れる麗人は
何を隠そう
山荘のニンフなのだ。
13年前、この高台の森に
山荘を建てた後
庭の至る所に芽吹き
花開き
巨大鈴蘭の如く
山荘を彩ったのだ。
しかもその繁殖力は
凄まじく
他の植物の
共存を許さない。
その強靭な根は
鉈で叩き切っても
生命を復活させる。
−10度の冬の寒さの中で
平然と緑葉を保つ。

今年も又
不死鳥の麗人
山荘の初夏を謳う。

竜舌蘭科ユッカ属君が代蘭


7月1日(土)曇  於 前庭

この雄蕊の数に
圧倒される。
たった1本の雌蕊に
50本もの雄蕊が群がり
高雅な銀河を構成する。

星々は風に流れ
蝶に運ばれ果てしも無い
宇宙空間を旅し
一途に雌蕊を目指す。

何故星が旅するか
知らぬまま
星の小さな住人となって
私も又
旅をする。
美容柳・ヒペリクム


7月1日(土)曇  於 山荘下農道にて

ブラックホールの中央に
白熱する雌蕊。
周辺から奔流する
激しい光。

群青と漆黒の花弁に
象徴される深宇宙を
切り裂く光は
時間や空間そのものが
定義出来ない特異点を
予感
させる。

アインシュタインや
ホーキングが
知力を尽くして
追い求めた世界を
さり気無くこんな風に
お前は
教えてくれるんだね。
光の奔流


7月1日(土)曇  於 夜のテラスにて

3本のレーザー光線を放ち
射千玉の闇に踊る
精巧な宇宙ロボット。

レーザーを紡ぎ
紡いだレーザーに
自ら乗って
深遠な宇宙に飛び出し
テリトリーを拡大する。
宇宙空間に適合した
新素材のアームが
滑らかに動き
次々にレーザーを
固定する。
信じられぬ早さで
宇宙基地が造られていく。

こんな光景を
宇宙の彼方から観測できる
機会を与えてくれた
夜の山荘に感謝!
射千玉(ぬばたま) 闇の建築家・棚蜘蛛


7月1日(土)曇  於 奥庭果樹畑展示棚

鬱っとおしい梅雨雲を
通して光が
果樹畑の展示棚に届いた。
林檎とプラムの樹間に
2番窯で焼いた酒壷
姿を見せた。

取っ手と注ぎ口で
平凡な容姿がほんの少し
救われたものの
死んでしまったと
諦めていた
酒壷に命が宿った。

未熟な果実が寄り添い
中絶してしまった生命を
酒壷に語る。
寡黙な酒壷
蒼く沈んだ光を放つのみ。
梅雨の淡い光


7月2日(日)雨夕刻  於 テラスにて

陶房で
雨音を聴きながら
土を練った。
大地を丸めて
菊練を続けると
大地は
アンモナイトのように
渦を巻いて命を復活する。

人の創った音楽は
やがて聞き飽きて
しまうけど
雨音は際限も無く
心地良い。
土のアンモナイトにさえ
沁み込んで雨音は
大地を幸せにする。

黒い大地が微笑んだ。
微笑みは空に流れ
今夏初めての
大きな積雲になった。
積雲・夏の使者


7月2日(日)雨夕刻  於 前庭石卓

ユーモラスな
この顔は一度目にしたら
決して忘れられない。
どこか恍けていて
本人はとても真剣で。

声をかけると
ゆらっと左右に体を振って
遠くの山にでも
語りかけるように
ゆっくり動く。

本人はすっかり
植物のつもりでいて
それでも時々忘れて
こんな石卓に
乗ってしまったり。
それじゃ折角の擬態
台無しだね。
竹節虫・ナナフシ


7月2日(日)雨夕刻  於 奥庭にて

未だ早春の余韻を残す
山荘の皐月初旬。
先ず北の森で
春蝉が一斉に鳴き出す。
その瞬間に早春との
決別がやってくる。

何とか春蝉の姿を捉えようと
森を何度も散策。
いつも赤松の遥か上方に
コーラス隊は陣取り
姿を見せない。

2ヶ月も経って
やっと蝉の影発見!
秋桜に止まった蝉に接近。
『あれっ!春蝉じゃない』
いつの間にか夏蝉に。
にいにい蝉


7月2日(日)雨夕刻  於 西畑にて

僕、いがぐり君です。
あの日、最後のキューイ
をワイン
で堪能した後
僕達を見に来たでしょう。
雄木の雄花から
旅してきた花粉と
目出度くドッキングして
こんなに大きくなりました。

そうか、あと収穫までの
半年間で大きな
星になるんだね。
星の内部に
エメラルドをたっぷり詰めて
黒い星々を鏤め
精緻華麗な宇宙
創造するんだね。
受精後22日目


7月3日(月)曇時々晴れ  於 東の森農道(朝トレーニング) 

N(北)ルートから
東の森へ抜けると
孔雀蝶が待っていた。
そう、あの学名
Inachis Io geisya Stichel
木星の恋人。

ところで種名はIoだけど
亜種名geisya
気づいた人いるかな?
あんまり鮮やかなので
和名の
芸者が使われて
いるんだ。

いつもは警戒心が強くて
近づけないのに
今朝はどうして
待っていてくれたの?
Io Geisya


7月1日(土)曇  於 西畑にて

源氏蛍と遊んでから
バイクで山荘に向かったら
突然、目の前に
現行犯出現!

驚いたね。
犯人は猪ではなく
狸とほぼ断定し
狸の身長に合わせ
柵を作って
馬鈴薯を保護したのに
実は鹿だったんだ
鹿だったら楽々と柵を越え
馬鈴薯食べ放題。

畑に行ってみたら
この有様。
これで今年の馬鈴薯は
全滅だ。
現行犯目撃


7月3日(月)時々晴れ  於 前庭にて

何だろう?
寄生虫だろうか?
先週は見かけなかった。

よく見ると
茶色い歯ブラシは
あちこち
沢山発生している。
有害な虫ならやっつけねば。
欲しくて数年来探し続け
やっと今春手に入れた
貴重な凌霄花

(ノウゼンカズラだもの。

梯子をかけて
近くで観察。
《根っ子だ!付着根だ
そうか
こいつで足場を作り
木を駆け巡り
他の樹木を乗っ取って
無数の橙色の灯を
灯すんだ。
特殊兵器




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