ニューカレドニアダイビング

珊瑚海・生命への旅

            珊瑚海・・・・・・・もう1つのヒマラヤ








其の9

New Caledonia

         撮影日:2006年12月  場所:ニューカレドニア・ヌメア    
                      撮影or編集:坂原忠清


Q ニューカレドニア(フランス領)


相対評価・・・《5》最高、《4》良い、《3》並、《2》やや悪い、《1》悪い
珊瑚の成育 透明度 魚影 静けさ(ダイバー数) 周辺環境(汚染等)

総合評価・・・《


1600kmに及ぶ珊瑚礁に囲まれた世界最大のラグーンを持つ
ニューカレドニア。
ニューカレの街ヌメアの海にはブラックマンタが現れると言う。
パプアニューギニア、パラオ、モルジブで遭遇したマンタはいずれも
腹部の白い普通の鬼糸巻エイ。
腹部まで黒いマンタが本当に居るのだろうか?
写真でしか見たことの無いブラックマンタを追って一路南太平洋へ

「プチフランス」と呼ばれるているヌメアは、南回帰線の赤道側に位置する熱帯域。
ブラックマンタの出現が予想される12月23日の満潮には
夏至の太陽がヌメアの海を焼き焦がしているはずである。
ところが寒いのだ。
海水温24度C、海から上がると東からの貿易風が吹きつけ
容赦なく体温を奪う。
長袖のアンダーウエアーの上に潜水用ジャケットを着て
更に5ミリの厚手ウエットスーツを着ても寒くて震えは止まらない。

暖かい南赤道海流に混じって南極からのフンボルト海流が
ガラパゴスを経てペルー沖から赤道に沿って
やって来たに違いない。
と思ったらこれがいつものヌメアの海水温なのだと言う。

23日午前満潮にマンタのクリーニングステーションに潜水。
マンタの影無し。
貿易風が吹き出し荒れてきた午後、3本目の潜水。
ついにブラックマンタと遭遇。
震えた。
あの震えは遭遇による緊張だったのか、寒さによるものだったのか
いまだもって不明である。




枯葉の敷き詰められた森に
冬至の朝日が
木立の長い影を
落としていたのは昨日。

南回帰線への
飛行機の旅は
シャンパンで始まった。
席に着くや否や
シャンパン、ワイン
オードブルと歓待を受ける。

シートは広く長い
リクライニング。
そうかラッキー!
この席はビジネスクラス。
オーバブッキングも
悪くは無いね

冬至の太陽を追って
南へ8時間半。
南緯23度の南回帰線着。

夏至の太陽となって
夕日が南太平洋に落ちる。
夏至祭の少女



午前中に2本の
ダイビングを終えてから
眼下に海を見ながら
音楽と読書三昧。

太陽が落ち始めると
ジョギングシューズに履き替え
檸檬湾の浜辺に出る。

渚を走る。
裸で浜辺に寝そべる
白人女性の乳房が眩しい。

そうか
ここはフランスの植民地。

それにしても
何とおおらかで自然な
乳房達。
檸檬湾の乳房



帆をつけたピローグと
呼ばれるカヌーが
ゆっくり太陽に近づく。

カナカ族のピローグと
太陽神の抱擁が
海に燦然たる光を
撒き散らし
抱擁のシルエットを描く。

抱擁は新たなる生命を兆し
広大な時空の大洋へ
使者を送り出す。

抱擁が愛ならば
元素の抱擁によって
生み出された大洋・宇宙は
愛に満ちている。

檸檬湾の乳房が
光を浴び
愛に満ちた大洋に
ゆるゆると溶け込んでいく。
落日の抱擁



巨大なブラックマンタ

《逢えるはずがない》

「だからと言って
逢いに行かなければ逢える可能性すら失ってしまう」
何度も自問自答しつつ
通い続けた世界の珊瑚海。

午後からは貿易風が吹き荒れ波立ちダイビングは難しくなる。
しかし今日23日は近大潮でマンタの出現率は高い。
敢えて午後3本目の
ダイビングを行う。

音も無く優雅に宇宙の彼方からブラックマンタがやって来た。
生まれて初めて見るブラックマンタに
茫然自失!



大きさにうろたえ
コンバージョンレンズの
操作を誤り
視界に入らない。
急いでズームダウンする。

デジカメはタイムラグが
大きくて遭遇チャンスを
捉えるのは難しい。

この時のために
タイムラグを抑えた
850万画素のカメラを用意し
待っていたのだ。
それでも捉えきれない。

腹部に張り付いた小判鮫が
はっきり見える。
夢中でシャッターを
切り続ける。

2つの頭鰭が1つに
重なり嘴のよう。

遥かなる惑星からの
宇宙船のようだね。
小判鮫と共に



マンタに寄生するのは
小判鮫だけではない。
小さな寄生虫も体表を覆う。

その寄生虫を
クリーニングするため
珊瑚海満潮の浅瀬に
マンタは浮上する。
小さなベラや海老が
待ち構えていてマンタに
取り付き寄生虫を食べるのだ。

胸鰭が発達した頭鰭を
糸巻きのように突き出し
クリーニングを終えて
悠然とマンタは去る。
水深300メートルの深海へ。

次の大潮まで深海で
マンタは
暮らすのだろうか?
対の頭鰭(ずびれ)



蒼い闇の中から
闇を切り取るようにして
三角形の体盤背面が
浮上する。

やがて四角形の背面全容が
圧倒的な大きさで迫る。
糸巻きのような頭鰭の根元に
小さな可愛らしい目が
見える。

対の頭鰭の間に横長の
大きな口が開いている。
この口からプランクトンを捕食し
腹部の鰓から海水を
吐き出す。

成魚マンタの平均サイズは
或る学術書では6.8メートル。
数人の人間を乗せて
悠然と舞う姿が
彷彿とする。
再度マンタ出現



水深100メートル程の
表中層をマンタは遊泳すると
言われている。
パプアニューギニアのガイドは
マンタの生活圏は
水深300メートルの
中深層だと言う。

春から秋にかけて
70センチ程の胎仔を
出産する。
卵胎生なので母体の卵から
栄養補給され
生まれるらしい。

頭鰭の下が白い。
となるとこれは体盤腹面も白い
普通の白マンタか?
見極めるにはもっと深く
潜らねば。
深海からの使者



やっぱり白マンタだ。
こいつにも小判鮫が
張り付いている。

パラオで初めて見た
マンタの遠いシルエット
パプアニューギニアで頭上を
覆い尽くした巨大マンタ
モリジブでのマンタの乱舞。

いずれも体盤腹面の白い
普通のマンタであった。
しかし噂では
背面も腹面も全身真っ黒な
マンタがここブーラリパスには
来るという。

図鑑や各種資料を漁ってみたが
ブラックマンタは項目無し。

遭遇率は限りなくゼロに近い
と諦めていただけに
白黒両方のマンタとの
出逢いに感激!
白マンタ飛翔



沈船というと
格好悪い襤褸船が
多いのだが
このフランス海軍の軍艦は
中々立派。

18年前の’88年に
海藻の繁殖研究のため
敢えて沈めたらしい。

水深27メートルまで潜ると
船底に達する。
途中の甲板には
斑ハタがあちこちで
屯している。

軍艦の船内は
どうなってるのかな?
入ってみようか。
仏軍船デュポワーズ



おっ!
ここは操舵室だな。
どれハンドルは未だ
回るかな?

天井はすっかり
赤く錆付いて
今にも落ちてきそう

さて船内の住人に
ご挨拶せねば。
「平虫」君は居るかな?
操舵室にて



居た居た!
セレベス海で初めて
出逢って以来
いつ再会出来るかと
気にしていたんだ。

まさか空飛ぶ絨毯が
海で泳いでいるなんて
想像もしていなかったので
とても驚いたんだ。

前回逢った時も
沈船の中だったので
もしかすると居るかなと?

ビロードのような布で
ひらひら舞い踊り
とても生命体とは
思えないけど
「平虫」と言う名前が
付いているんだね。
海飛ぶ絨毯



こんなのあり?

五色海老には随分逢ったけど
いずれも30センチ程。
こいつには
まず出逢った瞬間に
「ぎょっと」してしまったよ。
余りの大きさにね。
2倍以上あるね。

目ん珠が「ぎょろり」と
光って思わず
襲われるのではと
思った程。

そんなのが洞窟の中に
何匹もいるんだ。

ヌメアの朝市で
売ってるらしいから
今度食べてみようかな。
超特大ロブスター



何処の珊瑚海にも居る
ありふれた漣奴。

だがカメラに収めようとの
素振りを見せた途端に
猛スピードで
消えてしまう。

衣替えの名手で
いづれの衣も芸術的で
実に美しい。
そのため図鑑には
数種のかなり異なった
姿が載っている。

雌性先熟の性転換を行う。
先ず雌として繁殖に務め
その後環境に応じて
雌から雄へ変身する。
つまり雌の経験者のみが
雄になれるのだ。

縁取りの藍の光が
お洒落だね。
漣奴(さざなみやっこ)



珊瑚海のプリマドンナ
蝶々魚。

そのあまりの美しさを
日本でも古来から称えた。
眩しい程美しいと
高知では「マブシ」と呼び
紀州では「踊り子」と名づけ
華麗な姿を称えた。

11属114種もの
多種多様な蝶々魚の中で
中々目に出来ないのが
この『ハクテンカタギ』
図鑑にはこう記されている。
「いずれの海域でも
出現個体数は少ない」

世界の珊瑚海で
蝶々魚だけでも
数百枚の写真を撮ったが
この蝶は初めてである。
白点堅気



「ふん!
おみゃーらなんしてんの?」

出目金の眼でじーっと
見つめたまま
動かない。
好奇心旺盛で
カメラを向けても動じない。

背に白い横縞が見える。
全部で5本ある。
背鰭の鰭膜の上部に黒点。
これが赤ハタの特徴。

すぐ隣の
グレートバリアリーフの
『コッドホール』には
2メートルを越すハタも居るが
この赤ハタは40センチ程。
冬になると大型ハタも
ここに還ってくるとか。
赤ハタ



丸坊主の寝ぼけまなこ。

目がトロンとして
おやつを持ったまま
今にも寝入りそうな坊や。

出っ歯なのが又
一層愛嬌を募って可愛いね。

どこかナポレオン魚にも
似ているだろう。
瘤鯛にも似ているし
でも彼らはベラ科
私は武鯛科

歯が癒合して歯板となって
これで珊瑚をガリガリ
齧ってポリプを食べるんだ。

夜は粘液繭を作って
敵から身を守り
その中で寝るんだ。
南洋武鯛



濃紺と純白の
ツートンカラが決まってるね。

小さくて素早しこくて
こいつをタイムラグのある
デジカメで
捉まえるのは至難の技。

特に、この色っぽいような
どこか、おどおどした
可愛い瞳は中々撮れない。

「どうして
髭なんか生やしてるの?」

「失礼ね!
これは髭じゃなくて胸鰭。
鰭膜が透明だから
鰭筋が髭に見えるだけよ」
四国雀鯛



オレンジ色の
眼の縁取りが白斑に
隠れてよく見えないが
こいつは
紛れ無き『花弁うつぼ』

白地に黒点の
『偽碁石うつぼ』とそっくり。
更に白斑の『若うつぼ』は
もっと『花弁うつぼ』と
見分けがつかない。

口を開ければ区別がつく。
『花弁うつぼ』の口内は白く
『若うつぼ』は黒いのだ。

そんなにも似ている種が
存在しなくてはならぬ理由は
どこにあるのか?
花弁ウツボ



張り巡らされたアンテナ。

洞窟の入り口で
長い髭を延ばして情報を
集めているのは
『乙姫海老』の夫婦。

狙っているのは大型魚。
と言っても大型魚を
食べるわけではない。
彼らは掃除共生種。
つまり大型魚のクリーナー。

仲良しでいつも
ペアで行動するが
仕事はいい加減で
掃除屋としては不評だ。

パラボナアンテナを張って
獲物を狙っているのは
名ハンター・麒麟蓑。
狙った獲物は逃がさない。
麒麟蓑・乙姫海老



胡椒鯛を撮るようになったら
お終いである。

のんびりしていて
何時でも誰にでも気軽に
撮影できる。
つまらないので滅多に
カメラを向けることは無い。

しかしここ
ニューカレドニアでは異なる。
魚影が薄いので
被写体が見つからないのだ。
仕方ない撮ってみるか!

幼魚は赤茶色の地肌に
大きな白斑がある。
毒のある『平虫』を真似て
くねくねと舞い
身を守るらしい。
蝶々胡椒鯛



どう見たって宇宙の映像

超新星が爆発した残骸?
ブラックホールに
吸い込まれつつある宇宙?
太陽パネルを纏った宇宙船?

界、門、網に
生物を分類したが
海月は2つの動物門と
5つの網をさ迷う事になった。

つまり棘胞動物門であり
同時に有櫛動物門で
鉢虫網、立方海月網
ヒドロ虫網、有触手網
無触手網に属すのである。

海月は海がもう1つの
宇宙であると
雄弁に語る。
角海月・海のUFO



『海の宝石』
と呼ばれる『海牛』

魚に較べると
とても小さいので
つい見落としてしまうが
一度見たら生きた宝石の
虜になってしまう。

左上の5つの角は鰓で
その根元に肛門がある。
後ろの2本角は触角で
その下に頭楯(とうじゅん)がある。
下部の縁が足になっていて
これで移動する。

巻貝の重く硬い殻を捨てて
大洋に飛び出し進化した
自由な生命。
それが海牛の正体らしい。
クロモドリス・マグニフィカ



海牛の図鑑を調べても
こんなのは居ない。

黄色と黒のラインで
形の似ているものは
『ハルゲルダ・
アルボクリスタタ』のみ。

地元では
『パイナプル海牛』と
呼んでいる。
この方が親しみ易い。

一般に知られていないので
海牛の名前は
馴染みの無い横文字ばかり。
パイナップル海牛



これはお馴染みの海牛。
お馴染みなので和名が
付いている。

しかし何とも夢の無い
単純そのものの命名。
確かに空色で
黄色い疣があって。
ただそれだけ。

ケーキの好きな坊やなら
何と付けるだろうか?

中身はカステラ?
それともクリーム?餡子かな?

で、どんな名前を?
空色疣海牛



512MBの
メモリーカードを3枚用意し
数百枚の画像を撮ろうと
意気込んで潜ったが
何しろ魚影が薄いのだ。

胡椒鯛と同じように
蓑笠子なんて
今まで沢山撮りすぎて
ファイル整理に困るのだが
他に撮るものが無い。

ただひたすら
寒さに震えながら
潜り続けたニューカレドニアの
ダイビングも
これでやっと終わる。

冷たい海はもうたくさん。
次は赤道直下の
暖かい珊瑚海に行こう。
花蓑笠子



そんな冷たい海であったが
選んだホテルには満足。

本格的な
キッチン、洗濯部屋、寝室
リビングルーム、広いテラス、浴室
食堂の付いた
コンドミニアムを
初めて使ってみた。

さすがバカンスの国
フランス。
長期滞在出来るように
設備が整っていて
まるで自分の家にいるような
アットホームな感覚。

刺身や海老、エスカルゴと
本場のワインを
堪能し、朝夕浜辺を走り
ダイビングの後は
音楽と読書三昧。

MD47枚、文庫本12冊
ただひたすら音楽を聴き
本の世界に入り浸る。
コンドミニアム










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