山荘日記

その31夏ー2008年水無月

 


水無月1週・・・玉葱の地上絵





6月1日(日)晴 奥庭にて
アート・豊穣

玉葱がどっさり
採れたので天空の神に
感謝の言葉を
贈ることにしました。

古代マヤ人に倣って
宇宙樹とも
生命樹とも呼ばれる
《マヤの十字架》を
描くことにしようかな。

《マヤの十字架》は
地球の北と南を結ぶ直線を
縦軸にとり
太陽の誕生する東と
日没の西を結ぶ
直線を横軸にとったのです。

縦軸を“一本足の光”
(カクルハー・フラカン)
横軸を“輝く光”
(ラサ・カクルハー)
と呼びます。

その交点に直交する3次元の
座標軸を“小さな光”
(チピ・カクルハー)と名付け
宇宙樹のシンボルとして
地上絵に描きました。



玉葱・曼荼羅

縦軸を地球
横軸を太陽そして3次元軸を
天頂からの光
にとった《マヤの十字架》を
先ず外縁に描きました。

巨大な『枝付き燭台』は
大きくデフォルメし
2重の円にしてみよう。

内側の小円は更に
玉葱を積み重ね
3次元軸を象徴して
僅かに天空への意思を
表してと・・・。

あれ!
何だか曼荼羅に
なってしまったような・・・

曼荼羅とは
宇宙を構成する
地・水・風・空・に識(無・真如)
を加えた要素らしいから
これでもいいか!


6月1日(日)晴 奥庭にて



貯蔵作業

奥庭に描いた
地上絵を2階から眺めたり
ログハウスから
鑑賞したりして神々との
交信を愉しんでから
いよいよ貯蔵作業。

収穫以前に
大きくなった玉葱を抜いて
葉と共に調理したり
山荘来訪者に
お土産としてあげたり
目白に持って帰ったりして
随分食べてきたが
未だこんなにある。

例年はログの庇下に
陰干しにするが
今年は収穫量が多いので
直接網に入れて
陶房で干すことにしよう。
6月1日(日)晴 奥庭にて



葉と髭根をカット

眩い光に満たされた森が
暖まるにつれて
春蝉が
静かに啼き出す。

果樹畑を散策する雉
思い出したように
ケーンケーンと叫ぶ。

山稜に漂う積雲が
光と戯れながら
天空から声をかける。

《わー!玉葱の絵だわ。
随分たくさん
採れましたわね。
光と水が
ぎっしり詰まって
まるで
太陽と地球の子供達ね》

豊穣な刹那が
山荘奥庭に
永劫の光と影を落す。

一刹那でしかない歓びの
時間を
春蝉と雉と積雲が
画像として
永劫に切り取ったのだ。


6月1日(日)晴 奥庭にて





6月1日(日)晴 奥庭にて
でっかいね!

どうしてこんなにも
嬉しいのだろう?
高々玉葱が収穫されたと
それだけの事なのに。

そりゃ収穫までの長い
紆余曲折の
プロセスがあって
そのプロセスの
頂点に
この瞬間があるからさ。

環境汚染に繋がる
マルチのシートも使わず
農薬を拒否し
有機栽培で育てて
雑草取りに明け暮れて・・・。

それにしても大きいね。
そりゃそうだ。
なんたって太陽と地球の
子供だからね。



幻聴のホルン

沙羅の樹間から
蒼い密教仮面
朝トレに出る山荘主に
鋭い視線を注ぐ。

森の生命に語りかけ
眼前に展開する
重畳たる山稜を睥睨し
再び視線を
山荘主に戻し
仮面が軽く頷く。

やがて徐に仮面は
重低音の
アルペンホルンを
吹き鳴らす。

里人の誰もが
聴く事の出来ない
低いホルンの音色は
里で待つ
セブンの耳を捉える。

セブンの狂喜する吼え声が
微かなエコーになって
仮面に還る。

その一瞬の幻聴は
きっとセブンと山荘主
だけにしか
聴こえないんだね。

さあセブン!
一緒に森を走るぞ。


6月1日(日)晴 石卓にて


朝の柔らかい光を蒼い光に変えて
山荘の壁面に君臨する仮面。


6月1日(日)晴 鉄塔稜線にて
育ちすぎた薇

やっぱりセブンは
山荘主が来るのを
知っていて
鎖が千切れるほど
飛び上がって歓びました。

一週間ぶりに
逢えた嬉しさに森を
ぐんぐん飛ばして一気に
薇の繁る稜線に出ました。

美味しそうだった薇が
こんなにも
大きくなってもう
とても食べられないね。
覚えているかい?
この前ここに来た時の
薇の芽吹き

森からの木漏れ日が
眩しいねセブン。
薇にもセブンにも朝日が
降り注いで
セブンなんかまるで
白いレトリバーみたいだよ。

さあ!
これからどの森を
下ろうか?



猪風呂占領

猪のお風呂発見!

なにやら暫く
臭いを嗅いでから
「おいらも入ろっと!」
泥水の中へ。

待った待ったセブン!
駄目だよ。
泥だらけになって
後が大変なんだから。

勿論そんなのセブンは無視。
放っておけば
反転して背中にまで
泥をたっぷり
擦りつけ全身泥塗れに
なるは必定。

リードを引いて阻止。
6月1日(日)晴 東森にて





6月1日(日)晴 前庭にて
静寂の色

たっぷり汗をかいて
山荘に戻りながら
朝食を何処でとろうか
思案する。

春から初夏にかけての
生命に満ち溢れた
森での朝食は
正に贅の極みである。

だが
ログテラスで
恰も空中に浮かんで
いるかのような展望を
愉しみながらの
朝食もいい。

前庭の寡黙な山法師が
無数の白い花弁を
石卓まで延ばし
無言で誘う。

よし決めた。
今朝は山法師と静かに
語らいながら
前庭で食事にしよう。





乱れ咲くエゴ

太陽光で暖めた
山荘温泉に浸かって
朝トレーニングの汗を流し
朝食の準備。

燦々と降り注ぐ
朝の透明な太陽を
浴びて前庭の
エゴノキの花が下垂し
風に揺れる。

花崗岩の石卓に
ワイングラスを置き
陶器皿を並べる。
石とグラスの
脆く割れやすいペアが
硬質な緊張感を醸す。

静かな山法師と
饒舌なエゴの花に囲まれて
加齢する肉体と精神の
硬質な緊張感に
耳を傾けワインを呑む。

ほんの僅かな衝撃で
粉々に砕ける
老いた肉体と精神が
グラスを透かして
花崗岩にくっきり投影される。



6月1日(日)晴 前庭にて



クレマチス復活

ワイングラスを持って
前庭を散策。

朝陽をいっぱいに浴びて
クレマチスが
2輪花開いた。

2週間前に
大欅の枝打ちをしたら
日陰だった
クレマチスに陽が
注ぐようになったのだ。

水無月になると
華麗な蒼紫の花弁が
前庭を飾ったのに
ここ数年は
姿を見せなかった。

久々の再会に胸が
踊る。
とても美しいよ。
6月1日(日)晴 前庭にて



新顔・アイリス

なんと言う妖艶な
美しさ!

山荘の庭を
埋め尽くすアイリスは
総てジャーマンアイリス。
奥庭にあった一群を
あちこち移植して
増やしたのである。

山荘下の里を
ジョックすると庭や畑で
咲き誇る
鮮やかなアイリスを
そこかしこで目にする。

すごく気が惹かれるが
なんだか
ジャーマンアイリスに
悪いような気がして
他のアイリスを
山荘に移植しなかったのだ。

15年目の今春
新たな白紫アイリスを
2株前庭に移植。

どんな花が開くか
愉しみにしていたが
ついに咲いた。

雨に濡れそぼった花弁の
予想を超える
艶やかさに
ぐいと
心を鷲掴みにされ
その場に佇んでしまった。

だが余りの美しさに
妬まれたのか
花弁が折られてしまった。

6月1日(日)晴 前庭にて
犯人は他のアイリスか?
それとも野生動物の仕業?
可哀想なので一輪挿しにしてテーブルに飾った。


花終わる・馬鈴薯

メークイン
猪にも鹿にも食べられず
どうにかここまで
育ってきた。

防猪ネットを畑のぐるり
総てに張り巡らせ
警戒した成果かな。

いよいよ収穫間近の
この時期を
敵も充分知っている。
既にじゃが芋は
充分大きくなっているのだ。

鹿は網をジャンプし
猪は突き破ってまでも
侵入しようと
必死になる時期。
さてどう畑を死守するか?
6月1日(日)晴 西畑にて






虎蛾続々誕生

西畑に降りると
虎蛾(トラガ)
東菊や馬鈴薯、春菊に
止まり
羽を休めている。

いずれも羽がボロボロ。
もっと美しい優雅
容姿なのに
一体どうしたのだろう?

虎のような華やかな紋
蛾とは思えぬ
素早い飛翔は
すっかり影を潜め動き無し。

飛び立つ元気も無く
唯ひたすら死を
待っているような無残な
虎蛾にしたのは
昨日の
季節外れの低温と雨?
6月1日(日)晴 西畑にて





6月1日(日)晴 奥庭にて
新品芝刈り機登場

とうとう買ったぜ!

15年目の芝生に登場
したのは3代目の
新芝刈り機。

何十回となく修理し
愛用してきた芝刈り機
あちこちガタがきて
毎年修理代だけでも大変。

そこで思い切って
今までと異なる新式の
芝刈り機を購入。

前と同じ機種だと
修理器具や部品が揃って
いるので便利だが
何しろ直ぐ刃が折れて
刃の交換を頻繁に
せねばならない。
新機種は刃は折れず
自動研磨装置付き。

さて今度の新兵器の
能力は如何に?



抜群の切れ味

これが同じ芝刈り機か?
静かに音も立てず
柴が美しく
刈られていく。

今までの芝刈り機は
4枚の刃を付けた
2枚のディスクが回転し
柴をカットする方式。

今度のは3枚の刃が
シリンダー状に
螺旋を描いてセットされ
刃が折れない構造に
なっている。

問題は耐久性である。
刈ってみると意外に
広い庭なので
1回の芝刈りに2時間
近くはかかる。
マシンへの負担は大きい。

これで耐久性に
優れていれば申し分無しだが
そう、うまくはいくまい。

綺麗な芝生は清清しくて
実に気分いいね。


6月1日(日)晴 奥庭にて



水無月2週・・・卵と血の日曜日



6月6日(金)晴 テラスから
夏来たりぬ

どうだろう。
今夏初めての
この真っ白な積雲。

もう直ぐ
高度1万2千mにも達し
積乱雲に
なるんだろうね。

対流圏の上部で
−70度Cにも冷えた氷晶が
暖かい成層圏に
ぶつかって水平に
広がって鉄床雲(かなとこ)
なって
そうだそれから
夏休みがやって来るんだ。

テラスでビアを
傾けながら
見る小倉山の積雲は
実にわくわくするね。


涼しい木立へ

薩摩芋の苗を
西畑の奥に植えて
発芽しなかった
唐黍の種を再々度
中畑に蒔いて
そうだ其の前に
馬鈴薯の追肥しなくちゃ・・

なんて本日の畑仕事の
手順を考えながら
テラスで朝食ワインを
愉しんでいたら
朝日がジリジリ照りつける。

パラソルを出して
日陰を作るか
それとも石卓の日陰に
移るか?

石卓に食卓を変えたら
ひんやりして今度は
寒いくらい。
でも木陰からの景観は
とってもいいね。

こんな風にワイン朝食で始まり
昼食無しで畑仕事に
たっぷり汗を流して
ビアの夕食で終わる
山荘の一日も
中々いいもんだよ。


6月7日(土)晴 石卓から



母は強し!

果樹畑の梢で
四十雀の親鳥が
頻りに囀る。

きっと巣箱の雛に
巣立ちを
促しているのだろう。

そう思って李木の巣箱を
覗いてみたら
もう大きくなった雛が
一羽だけ残っている。

巣箱の蓋をそっと閉めて
カメラを用意し
再び巣箱に戻ってみると
未だ残っている。

驚いて飛び出して
しまうかと思ったが
巣箱の中央から
頑として動かない。

そっと触ってみたら
身体の下に
9つもの
があるではないか!


と言うことは
これは巣立ちの遅れた
ではなくて
母鳥だったのだ。

開かないはずの
巣箱が突然開き
魔の手に身体を掴まれ
恐怖に震え上がったろうに。

それでも頑として
卵を抱き続けた母鳥。
脅かしてごめん。
大急ぎで巣箱を閉めました。
6月8日(日)曇 奥庭にて



こちらも卵?

他の巣箱は
どうなっているか
ちょっと覗いてみたら
巣作りは終わって
産卵は未だでした。

どの巣箱も
緑色の厚い苔が敷かれ
その上に
ふかふかの獣毛。

柔らかくて暖かそうで
いつ見ても
四十雀の巣作りには
感心させられる。

ふと枝を見ると
こちらにも虫の卵が・・。
螳螂の卵みたい。
けど螳螂は秋に
卵を産みつけ
5月には孵化してしまうから
これは螳螂ではない。

でも小さい頃から
よく見かけた卵なので
きっと知ってる筈なのに
インターネットで調べても
出てこない。

悔しいな。
『虫の卵』に詳しい
平塚博物館も今日は
休館日だし
誰か教えておくれ!


泡吹虫の泡巣だ!

やっと判ったぞ。
泡吹虫は
亀虫目の総称でこの
幼虫が作った泡巣がこれ。
6月8日(日)曇 前庭にて

幼虫は植物の維管束に口針を刺し込んで植物の養分・アミノ酸や
ミネラル分を吸い取りアンモニアを含んだ水分を大量に排泄する。
この排泄液に空気を吹き込んで泡を作り
この泡の中に潜んで敵から身を守るんだ。

泡に侵入しようとする敵は泡に溺れて窒息して死んでしまう。
幼虫の尾はシュノーケル状になっていてそいつを泡の外に出して
呼吸するので自身は死にはしない。

上の画像を良く見て!上方に細長い針が突き出しているだろ。
あれがシュノーケルなんだね。
このシュノーケルで空気を取り入れて排泄液に混ぜ泡も作るんだよ。

実はこの泡に侵入する武器を獲得した昆虫も居るんだ。
うーん驚きだね!
生命の世界は精巧な科学そのものなんだね。



バリアーの彼方

山荘池が野生動物に
襲われた。
池の奥にある池灯を兼ねた
水中ポンプと
睡蓮の鉢が倒れてる。

餌を投げても鯉が姿を
見せない。
てっきり食われたかと
思いきや暫くしてから
恐る恐る姿を現し一安心。

セブンが野生動物の
臭いを嗅ぎつけ
更に石で区切られた
魚止バリアーに興味を示す。

何だ!
見えないくらい小さいのが
もそもそ動いてるぞ。
6月8日(日)曇 山荘池にて



蛙になった!

あんまり小さいので
大きくアップしてもピントが
合いません。

お玉杓子の時は
1cm以上あったのに
になったら
その半分以下になって。

でもよく見ると
確かに小さな小さな
手があり透明な指も
付いてます。

それにしても
セブンはよくこんな小さな
蛙に気が付いたね。
3月23日の卵が78日目に
とうとう蛙になったんだ。
6月8日(日)曇 山荘池にて






6月8日(日)曇 西畑にて
キウイ雄花

人工授粉もせず
忘れていたキウイの花が
最早散り始めている。
こりゃ、今年の収穫は
諦めねばならぬか?

どうみても
雄蕊の花粉はすっかり
枯れ果てて
受粉させる能力を
失っていそうだ。

中国中部の長江流域で
支那猿梨と呼ばれ
1904年ニュージーランドに
移植され
栽培が始まった猿梨。

キウイと言う名で親しまれ
世界中にひろがり
やがて日本にもやって来た。

キウイ雌花

山荘にやって来たのは
12年前かな?
雄木と雌木を買って来て
植えたけど
まさか大量収穫出来るとは
考えてもいなかったな。

よく見ると雄花と雌花は
全く違うけど
最初は区別出来ず。

識別出来るようになって
人工授粉をしたら
収穫が数倍にアップ。

それから山荘の
冬の貴重な果物として
半年間も食卓を
飾るようになったんだ。

半年間も保存できる
果物だけに
収穫が減ると山荘は
途方に暮れてしまうな。



血の日曜日
咲き初める薔薇


秋葉原で人を殺します
05:21 車でつっこんで、
車が使えなくなったら
ナイフを使います
みなさんさようなら
11:45 秋葉原ついた
今日は
歩行者天国の日だよね?
12:10 時間です

静かに咲き始めた
薔薇の花が瞬時にして
真紅の血となって
噴出し路上を染める。

真紅の山荘薔薇にカメラを
向けた12:30
歩行天で雑踏する
中央通りへ
神田明神通りから
トラックが突っ込んだ。

更に車を降りナイフで
無差別殺傷を
繰り返し僅か2分で17人を
襲い7人を
殺した加藤智大(25)
事前にネットで犯行を予告。

真紅の薔薇と血に
同じ時間が流れる残酷さ。


6月8日(日)曇 奥庭にて





6月8日(日)曇 奥庭にて
ダガーナイフ
孤独な柘榴


17人の殺傷に
使われたナイフは
人を殺す為に
作られた殺傷能力の高い
ダガーナイフ。

全長23cmのダガーは
両刃短剣型で
刃先に血が付着しにくく
何度使用しても
殺傷能力は落ちない。

その上、刃は薄く細いので
弱い力でも内臓奥に
達し殺人は容易。
ゲームの殺人武器として
登場し若者に人気の
ダガーナイフ。

『もう死ぬ』と友人に
一斉メールを送り
自殺をほのめかした加藤は
自殺の代わり
車とダガーナイフによる
無差別殺人と
その結果予期される死刑を
選んだのだ。
孤独な柘榴

絶望は暫し存在の真実に限りなく接近し
神の領域への接触を可能にする


従って真の絶望は人を真摯にさせ往々にして自死を選ばせるが
決して無差別殺人に走らせることはない。

加藤は派遣社員として肉体も精神も疎外され続け
優等生であった過去と現状との乖離に嫌気が差し酷い欲求不満
に陥ったのであろう。


欲求不満の根本的な背景には利益・成果優先の結果
弱い人間が安価な生産手段としてしか
扱われない事実がある。
79年前の小林多喜二の小説『蟹工船』が若者の間で
読まれている。
蟹工船での苛酷な労働、抗争と弾圧の中で未組織労働者が
目覚めていく様子を描いた暗い作品が
今、何故若者に読まれるのか?

安価な生産手段のシステムそのものである『派遣制度』の転換を
訴える閣僚(枡添厚生労働相)も出てきたが
成果主義が横行している限り今後も同様な事件は続くであろう。


すくすくと3mにも育った山荘石榴がたった1つだけ花を着けた。
自らの朱が瞬時にして飛び散る血潮になった薔薇と同様に
孤独な石榴の朱にも
血の日曜日を共有する残酷な時間が流れる。



水無月3週・・裂ける大地・山荘夏バージョン



裂ける大地

突然大地が裂けた。
激しく水が噴き出し
青梗菜を根こそぎ空中に
飛ばし西畑に氾濫し
激流となって
暴れ狂った。

一瞬の激変に為す術も無く
唯呆然!
差当たりこの激しい
噴流を押さえねばならぬが
乗せる物は重くないと
飛ばされてしまう。

石卓の重い丸太椅子を
運び噴流に乗せ
どうにか上方に飛び散る
のだけは押さえた。

さて問題は
この後どうするかである。
6月13日(金)晴 西畑にて





6月13日(金)晴 西畑にて
給水管亀裂
広瀬湖からの旅人

山荘始って以来の
激甚災害だが
御蔭で長年の疑問の1つが
解明された。

山荘は山の中なので
村の水道は引かれていない。
井戸を掘って地下水を
ポンプで汲み上げて
生活用水にしている。

にも拘らず山荘畑には
自動散水装置が設置され
乾季には散水が行われる。
一体この水は何処から
やって来るのか?

実は山荘の遥か
北方にある広瀬湖から
裏の扇山にパイプラインで
湖水を導きそこで発電し
落下した水を貯水し
強力ポンプで牧丘と玉宮地区に
汲み上げているのだ。

つまりこの水は
奥秩父甲武信岳の源流を
集めた広瀬湖の水なのだ。



大地の侵食

先ず何としても水源の
元栓を締め水を
止めねばならぬが
誰が地中を走る畑管の
埋設図を持っているのか?

心配してやって来た
桃畑の農婦が
「地区長のむねおさんが
しってるずら」とか・・・

散々あちこち調べ
最後に市役所の土地改良区
に行き着いた。
直ぐ来てくれると言う。

改良区職員は
青焼き図面を前庭に
広げ元栓の位置を調べ
広い果樹畑を飛び回る。

漸く止水出来たが
山荘の畑は激流に抉られ
発芽した野菜も
流されてしまった。


6月13日(金)晴 西畑にて







6月14日(土)晴 山荘池にて
岩手宮城内陸地震

朝の光を浴びて開いた
睡蓮にカメラを
向けていたら
微かに花弁が揺れた。

北方400km遥か彼方の
大地の波動が
山荘池の睡蓮花弁に
流れたのである。

6月14日午前8時43分
M7.2の地震が
火山灰台地の
岩手県南部で発生。
未曾有の大崩落を
生じ山塊は大きく変容。

加速度は国内最大の
4022ガル。
隆起は2mに達し
’94来の観測史上最大。
3日後現在で死者10人
行方不明12人。

1ヶ月前の5月12日
午後2時30分中国四川で
大地震発生。
行方不明1万7991人
死者6万9122人(6・4現在)
ヒマラヤを形成する
チベットのプレートの
ベクトルが
東の四川省へと動き
大地震を発生させたらしい。

昨日の畑の事故とは
比べ物にならぬ大惨事に
改めて人類の
非力さに思い至る。

《人は自然によって
生かされているに過ぎない》




薔薇の流れ
風の通路造り

奥庭のミニ薔薇に遅れて
前庭の薔薇が
条件の悪さを克服して
咲きだした。

桑、山法師、楓が繁り
薔薇に影を落とし
下ではアイリス、牡丹が
蔓延り薔薇の
育つ空間は殆ど無い。

肥料も防虫剤散布も
行わずそれでも
例年咲き続けている。
せめて風と光が
流れるよう繁りすぎた
樹木を切ってやろう。

そうだ石段のアーチを
薔薇のために
もう1つ増やしてやろうかな!
6月14日(土)晴 石段にて





6月14日(土)晴 鉄塔稜線にて
キスするなよ!
好きなのは解ってるよ

左アキレス腱痛が
収まらず4月20日以来
2ヶ月近くを経て尚
目白での朝トレの
ジョックを休んでいる。

それに6月に例年
襲われるアレルギー湿疹
が加わり
左耳から首更に
右腕、腹部と広がり最悪!

アレルギーを齎すのは
ある種の虫か植物か
不明だが
刺されて1週間程で
抗体が出来て
治るらしいのだ。

そんな最悪の朝だが
セブンとの朝トレを
休む訳にはいかない。
セブンは1週間
唯ひたすら週末のこの瞬間を
待ち焦がれて過ごすのだ。

だからと言ってキスしても
いいと言う訳では
ないんだよセブン!



梅雨晴れ富士
雲海に煙る街

いつ来てもセブン
この稜線は素晴らしね!

梅雨独特の薄い
絹のレースのような
雲海を透かして
街がしっとりしているね。

ほら耳を澄ますと
G線上のアリアが聴こえて
くるだろう。

《管弦楽組曲第3番》
BWV1068のエール楽章を
ニ長調からハ長調に
移調させたバッハの
あのG線上のアリアさ。

どうしてハ長調に
したかって?
そうするとねバイオリンの
一番太い弦・G線だけで
演奏出来ると
アウグスト・ウィルヘルミ
が気づいたんだ。

だからこの稜線天空に
張り渡された
太い送電線が奏でるのは
いつも
G線上のアリアなのさ。


6月14日(土)晴 鉄塔稜線から





6月15日(日)晴 石段にて
熟すMuiberry

血は
還って来るのだろうか?
このマルベリー
ように初夏には黒ずんだ
仄かに甘い実を
齎してくれるのだろうか?

初夏を忘れてしまった血に
先ず初夏の存在を教え
微かな残滓を
掘り起こさねばならない。

ステージ2では
あの溢れる光の季節への
回帰を実現すべく
瑜伽を組んで
深奥の地に進まねば。

それから徐に
森に分け入り三畳紀からの
時の累積を超えた
歓びに身を任せよう。



初夏の舞姫
夏を告げる孔雀蝶

不意に視覚を
幾何学図形が飛び交う。
半直線が緩やかな
双曲線になったり楕円に
なったりして
孔雀蝶が還ってきたのだ。

山荘の初夏を忘れずに
華麗な舞で熱情を
鼓舞するためにお前は
還って来たんだね。

それでは4つ目の
ステージで
暗渠に身を潜め
無限に広がる闇を
カンバスにして孔雀蝶を
自在に舞わせよう。

血に温もりが甦り
暗渠に屹立する山容の
頂で孔雀蝶の
ラピスラズリに逢えたら
1本の直線になって
水晶球への想いに
身を委ねよう。

そして5番目の瑜伽で
微かな残滓を留めた
廃墟に再び立ち
2億年の彼方の忘れ物を
三畳紀から
未来の2億年へと
振幅させよう。

最後はG線上のアリアを
奏でながら
7つの海に還ってきた
生命をいとおしく
抱きしめよう。

6月14日(土)晴 東森小径にて





6月15日(日)晴 石卓にて
ぱむんけす君登場
ドクガ科・マイマイガ幼虫

山荘は毛虫の好む
食草がいっぱい。
でも毛虫には中々逢えない。

理由は明瞭。
庭樹に置かれた
幾つもの巣箱に営巣する
四十雀、山雀の親鳥が
雛の餌にしてしまうのだ。

しかし未だ山荘の親鳥は
抱卵中で毛虫の
生き延びるチャンスあり。

のんびりとやってきたのは
舞々蛾の幼虫。
毛は長く毒々しいが
毒は無く危険性は無い。

『ケムンパス』と言う
漫画の人気キャラクターが
昔あったがそいつを
捻って「ぱむんけす」と
呼んでいた幼少時代が
ふと舞々蛾に重なる。

もう直ぐ孔雀蝶のように
舞い立つことを
「ぱむんけす君」は
知っているのだろうか?



竹節虫(ナナフシ)偵察

小さな小さな
枝七節の子供が
いつものように身体を
ゆさゆさ揺らしながら
物干し竿を
旅しています。

揺れているのは
緑の小枝が風を受けて
いるつもりなのです。

写真アングルが
悪いのでちょっと触ると
直ぐに落下し
暫く動きません。

枝のつもりですから
動いては
いけないと思って
いるのです。

やがて敵は去ったと
ゆっくり歩き出しました。
枝は歩いたり
しませんからゆっくり
ゆっくりなのです。


6月15日(日)晴 物干し下にて






6月15日(日)晴 山荘窓にて
夏の装い
網戸入れ

池にはギンヤンマが
スイスイ。
石卓には舞々蛾の
ぱむんけす君がのっそり。
物干し場では
枝のつもりの七節虫が
ゆらゆら揺れて。

そうなると当然
生血を求めて蚊も蚋も
たくさん出てきて
もうすっかり山荘は
夏バージョン。

山荘主は早速
蚋に刺されアレルギー
の湿疹が
あちこち出来て痒くて。

例年この虫アレルギーに
襲われる前に
防虫網戸を入れねばと
思っているうちに
夏が来てしまう。

何しろ山荘は窓が多くて
たかが網戸入れ
されど網戸入れなのだ。

因みに1階は
ペアガラスの大窓が3枚
風呂場、洗面所、玄関
トイレ、キッチンが6枚
2階は
ペアガラス大窓が1枚
3部屋の出窓が8枚
廊下出窓、トイレが7枚で
計25枚もあるのだ。

そのうえ出窓は網戸を
嵌め込んでから
上部をビスで留めねばならず
手間がかかるのだ。

しかし終わったぞ。
これで安心して
虫をシャットアウトし
森の風を自由に入れて
山荘は夏バージョン完了。



小梅収穫
大胆に枝切り

山荘は本当に
人使いが荒いのだ。

先週だって1年ぶりに
キッチン換気扇の
汚れを落し
キッチンクローゼット
食器棚、冷蔵庫を整理し
山荘専用車に
ワックスをかけて
果樹畑、前庭、奥庭、畑の
雑草取りと
そのうえ山荘ビアの
瓶詰が加わり
獅子奮迅の活躍だったのだ。

今週だって
畑の大地が裂け
すっかり侵食されてしまった
畑との格闘に始まり
中畑の人参、春菊を収穫
整理し西畑の
延び過ぎてしまった杏子を
伐採し更に
石卓周辺の樹木を剪定。

芝刈を終えて
一休みしようかと
綺麗になった庭を見ると
熟し過ぎた小梅が
芝の上にぼとぼと落下。

そうだビアのフレーバーに
する梅ジュースを
仕込まねば来年のビアが
醸造出来ない。

収穫を来週に延ばせば
梅の実は
落ちきってしまう。
やるしかないか!

山荘に扱使われる
哀れな山荘主の嘆き。
最早山荘主は
自給自足を放棄し
山荘からの解雇を
望んでいるのかもね。



6月15日(日)晴 奥庭にて





6月15日(日)晴 奥庭にて
梅ジュース造り
山荘ビアフレーバー

梯子を架けても
届かないほど延び過ぎて
しまった梅の木。

放っておけば天を目指して
もっとぐんぐん伸びて
影を成し奥庭の芝を
枯らしてしまうし
実は採れないし
思い切って鋸でぎこぎこ。

で、こんなにも沢山の
小梅が収穫出来ました。
よく洗ってから水を切って
直接砂糖を塗し
梅汁が砂糖に滲み出る
まで半年。

これで来年のビア造りは
梅の香りのする
美味しい山荘特産ビアが
出来るでしょう。

すっかり山荘主は
その気になって先程の
嘆きは何処へやら!
収穫は人を変えるのです。



朝の来訪者

森からの風は
とても爽やかなのに
陽射しは
肌をじりじり焦がす強さ。

こんな時は木陰に囲まれた
石卓での朝食が最高。
と、よく冷えた
赤、白2本のワインを
冷蔵庫から出し
石卓へ運ぼうとしたら
「ピンポン、ぴんぽん」

「あれ、誰だろう?」
裂けた大地を直しに来た
工事人と一緒に
えこちゃんが前庭に居ます。

工事の邪魔になるので
石卓はやめて
テラスにパラソルを出して
一緒に食事を
とることにしました。


6月14日(土)晴 テラスにて




6月15日(日)晴 石卓にて
山荘フルーツ

先ずは石段で
熟している桑の実を採って
前庭の苺を摘んで
ヨーグルトに
トッピングしよう。

グミは未だ2,3個しか
赤くなってないから止めて
その代わり
砂糖漬にしたキウイと
ワインに漬けた
干し柿と
パラワン島で買って来た
ドライマンゴを
ヨーグルトに乗せよう。

赤ワインをたっぷり
吸い込んだマンゴに
ヨーグルトを絡めると
ワインにぴったり。

あとは当店自慢の
キャロットブレッドとコーン
畑で採りたての野菜
で作ったサラド。
スープは海老と帆立と
セロリでどう?



レストランですか?

前庭の芝生に
大きな青焼き図面を
2枚も広げて
土地改良区の職員が
問いかける。
「ここはレストランですか?」

何処にも看板は無いし
ゲートだって
玄関だってレストランらしき
気配は全く無いのに
なんと鋭い問いかけ。

もしかすると
その職員はここが
『注文の多い料理店』である
ことを知っているのかも。

そうだきっと山猫の手下で
森の中の山荘を
偵察に来たのだ。

「どうも
最近客の入りが悪い。
森の山荘に客を
取られているに違いない。
工事人に化けて
山荘を探って来い」

となると山荘始って以来の
出水激甚災害は
山猫の姦計なのかも?


6月15日(日)晴 ログテラスから



水無月4週・・・雨の奏でるコンチェルト






6月20日(金)曇 東京芸術劇場

知らないのばかりだよ。やっぱ止めようかな。
《だめです。来なさい》

9000本のパイプの森に迷い込んだようで
とても神秘的な音色に包まれ熟睡しました。

目が覚めた瞬間存在の呪縛から完全に
解き放たれ
存在の座標・場所と時間を失念してました。
世界最大級のパイプ
9000本管の演奏


山荘の森が奏でる
『G線上のアリア』に
肉体も精神も
すっかり染められて
目白に戻ったら
なにやら9000本もの
パイプがひそひそ。

《最近ちょっと
酷いんじゃない?
すっかりお見限りで
見向きもしないなんて
許せないわよね》

あの声は地元
芸術劇場のパイプオルガン
そうか、そう言えば
毎週、森の音楽ばかりで
都会にも美しい
音色があるなんて
すっかり忘れていたよ。

よし、行くぞ!
今日の曲目は?

JPスウェーリンクの
『モーレ パラティノ』
JGヴァルターの
ヴィヴァルディ氏による
『コンチェルト ロ短調』
・・・・・


メンデルスゾーン
沙羅協奏曲

バイオリン協奏曲ホ短調64

夜も昼も止むことなく
降り続ける雨。
大粒の雨滴が時には
弓となって
大気を弾き鳴らし
桴となって
森羅万象を敲き続ける。

雨滴は打楽器となった
屋根を敲き
テラスに跳ね返り
池面や森の葉を鳴らし
芝生にひっそりと
吸い込まれ大地に消える。

だが耳を澄ましても
部屋の中では打楽器の音色を
捉えることは難しい。
二重ガラスが外の音を
殆ど吸収し
音色を変えてしまうのだ。

微かな音色を捉えようと
二重ガラスに
耳を近づけふと外を見ると
降りしきる雨の中
沙羅が咲き出しているでは。

先週末には
未だ蕾だけだったが
雨を待っていたかのように
一斉に咲き出した。
沙羅は朝一番に咲き
夕刻には
散ってしまう儚い花。

梅雨空の淡い光を透かした
沙羅の白い花弁から
バオイリンの音色が
静かに流れ出した。

雨音をバイオリンの音色に
濾過してしまうなんて。
それも山荘主のお気に入りの
ホ短調64にね。



6月21日(土)雨 前庭にて





F管とB♭管を組み合わせたF/B♭ダブルホルン
朱に酔う蝸牛
ゼラニューム

『へんしーん!』
やるね蝸牛君!
一瞬にして
ダブルホルンに変身とは。

実は
薄々知ってはいたんだ。
蝸牛君の正体が
ダブルホルンであることを。

山荘で君に逢うたびに
ホルンになって
突然ショパンをやるのでは
といつもドキドキ
してたのさ。

 ピアノ協奏曲第2番
第3楽章で
鳴り響くホルンを聴くと
「は、はーん
やはり
これは森の蝸牛君だな」
と勝手に想像して
ショパンが
益々好きになってね。

こんな雨の日に
わざわざ山荘テラスまで
お越しいただいて
ショパンを
聴かせてくれるなんて
実に恐縮だね。

《雨音の背後に
潜む音楽》

やっぱり沙羅や
蝸牛や森の生命達が
密かに
奏でていたんだね。

6月21日(土)雨 テラスにて



薔薇のアーチ完成
肥料もたっぷり

「あーら先週のお約束
お忘れ!
確か私のために石段に
ハープを
造ってくれると言ったわね」

「えっ!薔薇のアーチを
造ろうかなとは
言ったけど・・・
そうか貴女にとっては
協奏曲を
奏でるための楽器なのか。
でも雨が降ってるし・・・」

「あらあら可笑しいわ。
何処の誰よ。
《雨音の背後に潜む音楽》
だなんて気障な
セリフを吐いたのは?
雨だからこそ
ハープが必要なのよ」

「解りましたよ
造ればいいんでしょ
造れば」

で早速雨に打たれながら
山荘主はせっせと
石段にアーチならぬ
ハープを設置して
薔薇を絡ませ
いつでも演奏出来る様に
したのです。

「まあ、まあの出来ね
さあ、それでは
記念すべき最初の曲目は
何にしようかしら?
モーツァルトはどう?
フルートとハープのための
協奏曲
があるの。
ハ長調 Kv.299だけど
知ってる?」




6月22日(日)雨 石段にて
クラシック音痴で曲と曲目がさっぱり
一致しない山荘主が知ってる筈がありません。
雨の労働の成果としてハープが聴けるなら
山荘主は
きっと何でもいいのです。





6月22日(日)雨 鉄塔森にて
落葉の花だワン!
梅雨の花・萌黄茸?

雨だから
来るはずが無いと
諦めて
しょんぼりしているセブン。

でも日曜日だから
若しかすると来るかなと
僅かな期待を込めて
こちらを見つめていました。

目が合って確かに
山荘主を認めたのに
ポカーンとして
いつものように狂喜しません。

確認するように瞬きし
間違いなく山荘主と
知ったセブンは
突然飛び上がり大きく吼え
ジャンプを繰り返し
歓びのあまり
ついに声が裏返って・・・。

鉄砲玉になって
森に走ったセブンが最初に
見つけたのは枯葉の花。



鹿が食べたんだワン!
森の檜危うし

薄暗い常緑樹の森に
数条の光が
垂直に平行線を描く。

先週には見られなかった
光に気付きセブンが
耳をピンと立て
一直線に走り寄る。

野生動物の臭いを
嗅いでから
辺りに鼻を突っ込み
黒い糞の塊を見つけ
なにやら納得。

若い檜が樹皮を剥がされ
白い幹を
露出させている。
鹿に食われたのだ。

森の出口で小鹿に遭遇。
セブンは全力で突進。
リードを解いたら
きっと鹿に喰らい付いて
仕留めるのだろう。


6月22日(日)雨 鉄塔森にて





6月22日(日)雨 奥庭にて
カノコガ
調理虫・鹿子蛾

二帯泥蜂擬態

おい!それでも
飛んでいるつもりか?
と思わず
声を掛けたくなる。

よたよたした
今にも落ちそうな瀕死の
重病人の様な
飛行をするこやつ

てっきり蜂の仲間で
昆虫に飛びついて針で
突き刺し痺れさせ
食べてしまう奴。

と思っていたが
姿形だけニ帯泥蜂の
擬態をした
正真正銘の蛾。

幼虫は黒い毛虫。
タンポポが大好きで
主葉脈を断ち切って
少し萎びるまで
待ってから食べるとか。

つまり昆虫では希有な
調理の技術を
持っているのだ。



山雀(ヤマガラ)旅立ち
久々の芸鳥営巣

朝トレを終えて
浴槽に浸かりながら
巣箱に出入りする
ヤマガラを観察。

親鳥は餌を銜えては
いるが出て来る時に
雛の糞を
運び出してはいない。
つまり雛は孵ったが
未だ沢山糞を出す程
大きくなってはいない。

と判断していたが
覗いてびっくり。
明日にでも巣立ちしそうな
成長ぶり。

ここ数年はどの巣箱も
四十雀ばかりが
営巣していたが
珍しくヤマガラが孵った。
人に懐き御神籤の芸で
よく知られている山雀。


6月22日(日)雨 石卓巣箱にて
来週は巣立ってしまってもう逢えないんだ。
秋になったら澄んだ高い音色を
山荘に満たしておくれ。
「ツーツーピーンツーツーピーン」






6月27日(金)晴 扇山西麓にて

夜のジョックで熱くなった肉体に
ルシフェリンが数億光年のメッセージを囁く。
熱い汗の冷えぬ間にメッセージの解読をせねばならない。
ルシフェリン郷愁

夜の最も短くなる
夏至を知っているのか
竹森川の蛍
6月22日前後に光舞う。

だが6月になってからも
熱帯夜は訪れず
とても蛍が飛びそうな
気配は無い。

先週末は寒いだけでなく
雨も重なり
蛍の出番は全くなかった。
よし今週こそと
バイクをキックするが
ウンともスンとも言わず
沈黙したまま。

バイクも15年目で
修理に修理を重ねても
不調で先週も
後輪のパンク修理の
ついでに点火プラグを
交換したばかり。

なのにエンジンが掛らない。
山荘主の
アキレス腱鞘炎と
同じ症状なのに唖然!

仕方なくジョックで
蛍の舞う小川に向かう。
山荘を下り始めると
源氏蛍が
目の前を『ついーん
ツイーン』と飛び交う。

小川に出ると
居る居る!あちらでも
こちらでも
緩やかな光のワルツを
繰り広げている。

ホタルの発光物質は
ルシフェリンで
酵素ルシフェラーゼと
ATPが作用して
発光するらしい。
ルシフェリンの妖しいまでの
この美しさは
数億光年彼方の郷愁。



黒い十字架

果たして竹森川の
にも黒い十字架が
在るのか
確かめてみようと
3匹ほど山荘に拉致して
カメラを向ける。

動きが速くて
とても撮影出来ない。
そこでプロカメラマンの
必殺技を
使うことにした。

箱に入れて数分間
冷凍室に入れて
眠らせてから取り出す。
目覚める僅かな間
にパチリ。

横棒が短いが
確かに黒十字架がある。
源氏蛍の刻印である。
窓の外に出した途端
山荘眼下の
竹森川にゆらりと
羽ばたいて行った。

さらば黒十字を背負った
数億光年の使者よ!


6月27日(金)晴 扇山西麓にて





6月28日(土)晴 前庭にて
美容柳と紋白蝶

池の蓮の花は
失われた楊貴妃の顔
柳は楊貴妃の
細く美しい眉である。

玄宗皇帝が楊貴妃と
過ごした未央宮と呼ばれる
長安の宮殿で
見入った美しい眉は
未央柳と言われ
更に美容柳となったとか。

白楽天の長恨歌の一節に
記されている
絶世の美女に白蝶が留る。

木陰の闇に
蝶の白と美容柳の黄が
1250年の時を
超えて光を発する。

3000人の美女を見限り
1250年の時を超え
玄宗皇帝は
妃の元へ
再びやって来たのだ。



カリフラワーと
ブロッコリーの収穫


見て下さい。
カリフラワーの葉なんて
穴だらけで
良くぞこれで実を付けたと
褒めてあげたいくらい。

ブロッコリーも似たような
もんですが
これが無農薬有機栽培の
実態なのです。

犯人は誰かって?
紋白蝶の玄宗皇帝ですよ。
玄宗皇帝は
ちゃんと知っているんです。
この畑に来れば
1250年の時を遡って
蝶になれると。

回りの畑は何処も
農薬を散布するので
揚翅蝶も孔雀蝶も紋白蝶も
みーんな山荘の畑に
来て産卵するんです。

でもどうしても
紋白蝶に敵わない野菜も
在るんです。
キャベツと白菜は
オルトランという農薬を
使わないと葉が
全部食べられてしまい
全く収穫出来ません。

農薬を使ってまで
野菜を育てたいとは
思いません。
だから山荘では
キャベツと白菜はあまり
栽培しません。

6月28日(土)晴 西畑にて





6月28日(土)晴 中畑にて

侵入路の僅かな隙間に防獣ネットを張り
5度目の種蒔を行う。
自給自足を目指す山荘で主食系のコーンは欠かせない。
何しろコーンは山荘の1年分の保存食なのだ。
鹿の襲撃唐黍全滅

やられた!
『とんもころし』全滅だ。

地温が25度C以上に
ならないと
唐黍は発芽しない。
連日の低温続きで5月から
蒔き続けた種は
一部がやっと発芽したのみ。

だがその
大切に育ててきた
数十本の『とんもころし』が
残らず鹿に
食べられてしまった。

すぱっと断ち切られた
唐黍が無残な姿を
中畑に晒す。

上部を石垣で
下株をコンクリート壁で
覆われた中畑は
鹿の容易な侵入を許さず
今まで鹿や猪に
襲われたことは無かった。



猪タオルに吼える

せめてセブンが
居れば恐れをなして鹿も
近づかないのに
セブンは週末しか
山荘には来ない。

獣猟犬であるセブンは
何しろ野生動物の
僅かな気配にも超敏感。

鹿や猪なんぞは
姿が見えなくても
動きや
微かな臭いを
感じ取り猛烈ダッシュ。

猪が泥浴後に
タオル代わりにした幹に
擦り付けた泥跡を
セブンが発見!
セブンは耳を立て
臭いを嗅ぎ敵の行方を
追い求める。


6月28日(土)晴 小倉山の森にて
畑の作物を守るにはやはりセブンと
一緒に山荘に定住しないと
駄目かな。
いよいよ仙人になるか!



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