山荘日記

その12ー2006年霜月

 


霜月1週・・・アポロンの秋





11月5日(日)晴  於  前庭石卓、奥庭果樹畑

山法師燃ゆ

南回帰線に
旅立ったアポロンが
朝食を摂る石卓に
還ってきた。

山法師を朱に染め
その朱の中で
白い裸身を
躍らせる。

生命に
満ち溢れているね。



日輪

束の間回帰した
アポロンを描こう。

2階の寝室から
見えるようにカンバスは

果樹畑にしよう。
絵の具は柿の皮がいい。

低高度の太陽が起こした
石卓の反射で甦った
アポロンは
このオブジェに目を留めて
くれるだろうか?



11月4日(土)晴    奥庭果樹畑

プロミネンス

彩層から更に高温の
コロナへと
時にはアーチを描く
深紅色の炎。

そのプロミネンスが
ぎっしり詰まって
ついに爆発した。

懸巣や鵯がやって来て
美味しそうな
プロミネンスを啄ばむ。



太陽を食べる

この蕩けそうな果肉。
ヨーグルトに乗せると
プロミネンスが
一層鮮やかで
うっとりしてしまうね。

夏の太陽を
たくさん詰め込んで
こんなにも美しく
美味しくなったんだね。



11月4日(土)晴  於  奥庭果樹畑

百目柿収穫
百匁(ひゃくもんめ)の略で
1個375グラムもある
大きな柿という
意味なんだ。

山荘にはこの柿の木が
3本あって
毎年大きな実をつける。

完熟してから食べるか
アルコールで渋を取って
食べてもいいけど
干し柿にすると最高!



枯露柿
つまり 夏の太陽を
たくさん詰め込んだ柿に
更に太陽を浴びせて
もっと太陽を
詰め込むんだ。

1ヶ月で飴色になって
白い粉を吹いて
とても柔らかくなって。

絶妙な甘みが広がり
体の隅々まで
アポロンに満たされる。
まさに
「太陽がいっぱい」

11月3日(金)晴  於  柳沢峠楢坂の森

ソナタ第二楽章

アポロンは
豊穣な実りを
齎す神だけでなく
音楽を司る神でもある。

森に秋の光を
降りそそぎ
木々の葉を染め
鮮やかな彩で
ピアノ・ソナタや
ビオロンのソナタを
奏でる。

ほら
聴こえてくる。



古代ギリシャ
デルフォイの神殿で

アポロンの神託に
耳を傾ける人々は
天空からのソナタに
恍惚とし
存在の重さを
暫し忘れた。


生命が爆発する
第一楽章が終わり
緩やかな旋律が
始まると森は
オーカーに染まる。



11月3日(金)晴  於  柳沢峠山毛欅坂の森

カンタータ

天空の支配者
木星(ゼウス)を
父とするアポロンは
光の神となって
古代ローマにも
光を降りそそぐ。

光は語り継がれ
やがてカンタータへと
結実する。


古代ギリシャ人も
ローマ人も17世紀の
時空まで飛ばないと
ソナタもカンタータも
聴こえない。

にも拘らず
秋の光を浴びた森で
確かに
彼らは聴いたのだ。

私が聴いたのと
同じように。



11月3日(金)晴  於  黒川山・鶏冠山

森の象・山毛欅

殆ど葉の落ちた森で
象に逢った。

タンザニアの
セレンゲッティで
テントから外に出ると
深い霧の中から
ぬーっと象が現れた。

あの驚きが甦った。
それほど山毛欅
(ぶな)には
象の気配が
漂っていたのだ。



鶏冠山山頂

楢坂と山毛欅坂は
柳沢峠の
静かな森の散策路。


早春の森も美しいけど
晩秋の佇まいには
ソナタやカンタータさえ
流れる。

その森を抜けると
標高1719mの
ひっそりとした鶏冠山の
山頂に出る。

11月日(日)晴  於  山荘前庭

小栴檀草の実
コセンダングサ
山荘の紅葉は
未だ始まったばかりだが
果実や草の実は
もう、すっかり秋。

つい先週まで黄色い花を
付けていた
小栴檀草
この通り。

こいつ大変な曲者。
音叉のような鉤を出し
やたらめったら服に着く。
それも一気に大量に
食い込み
中々取れない。
畑仕事の敵である。



色着く女郎蜘蛛
アポロンが
女郎蜘蛛のお尻にも
やって来た。

8月27日の山荘日記を
見てご覧。
ほら、全然赤くないだろ。

あたしが紅葉すると
雄蜘蛛が
騒ぎ出すんだ。

そう、アポロンは
あたし達の愛の神でも
あるんだよ。





霜月2週・・・冬将軍来る



11月10日(金)晴後曇り  於  山荘眼下

白龍襲来

すっかり黄葉した
葡萄畑を呑み込む様に
白い龍が
昇って来た。

冬将軍の冷たい息吹に
天空を支配され
追い立てられた龍は
上昇出来ず
大地をのたうち回る。

数分で
山荘も呑み込まれる。



11月11日(土)晴  於  山荘奥庭

木枯らし1号

その夜白龍は
冷たい雨と
大量の雪となって
山荘とぐるりの山に散った。

冬将軍の息吹が
ゴーゴーと
空を駆け巡り
風見鶏が狂ったように
高速回転する。

氷を抱えた冬の積雲が
太陽を白く染め
永い冬の到来を告げる。



11月12日(日)晴  於  ログハウス裏

初霜邂逅

「はー」と一息。
冬将軍の息吹は
実にたいしたもんだ。

得意満面になって
あちこちで氷の息吹を
吹きかける冬将軍の
顔が浮かぶね。

枯葉の白いレースの縁取り
ロゼットの緑に
散らした氷の文様も
中々のお洒落。
白銀の芸術家だね。



11月12日(日)晴  於  テラスから

雪富士払暁

芸術家のカンバスは
枯葉だけじゃない。
富士山だって
たった一吹きで
ご覧の通り。

冬支度の遅れた無花果が
大きな葉を残したまま
震えている。

十二支ヶ岳の山稜が
薔薇を帯び
初冬の眠りから覚める。

冬将軍は
そこまで読んで
山荘に作品を届けるんだ。



11月12日(日)晴  於  北の森から

秀麗白銀

ストックに熊よけの鈴を付け
熊警告笛を首に下げ
森を走っていたら
冬将軍が煩い。

どうやら
「俺様の作品を見るべし」
と言ってるようだ。
そんなにも見て欲しいの?

森の樹間を通して
蒼い銀に輝く富士が迫る。
今冬初めての作品にしては
上出来かな!
でもそんなこと言ったら
後が大変。
君は歓迎されざる芸術家。



11月13日(月)晴  於  鉄塔山稜

南アルプス雪化粧

「富士のもうちょっと右
そうそう、そこ!
赤石山脈の聖岳3013m
その右隣が赤石岳3120m
谷を挟んで
大きな山塊が荒川三山で
悪沢岳が3141m
俺様が描いたんだ」

「そうか、南アルプスまで
白銀を塗りたくったのか。
あの白い
将軍の稜線は
思い出深いね。
ヒマラヤのトレーニングで
よく駆け巡ったもんさ



11月13日(月)晴  於  鉄塔山稜

冬の弦楽器

「聴いたぞ、聴いたぞ
歓迎されざる芸術家だって!
俺様は弦楽器の
名手でもあるんだぞ。
ビオロンだってチェロだって
お手のもんさ。
東の森上空の弦楽器は
山荘コンサートの為に
俺様が造らせたんだ。
どれ一弾きしてみるか」

「うん、確かに音色は
悪くないね。
でもどうしていつも
哀しそうな
曲しか弾かないの?」



11月13日(月)晴  於  北の森

森の目覚め

風が止んだ。
冬将軍が沈黙すると
森が静かに囁き出す。

朝一番の光が
北の森の奥から
朝の挨拶を投げかける。

初めて
この光景を目にした時の
驚きは忘れられない。
なぜ奥から輝きだすのか?

森の囁きが答えてくれた。
「それはね、森の奥の方が
高くなってるからさ」



11月12日(日)晴  於  東の森

光彩のさざめき

「白銀の芸術家だって!
俺様が最初に筆を
振るうのは森だぜ。
この柔らかな
グラデーションをご覧。
俺様が如何に繊細な
感覚の持ち主か
一目瞭然さ」

「忘れてたよ。
君のプレリュードは
紅葉の森だったんだ。
それに
確か森の葉や幹を使って
パーカッションも
奏でるんだよね」



11月12日(日)晴  於  山荘奥庭

凍える蝸牛

「冬将軍様は崇高な芸術家
かも知れんが
おいらにとっては
死神以外の
何者でもないね。
太陽が出てきてやっと
霜が融けたけど
寒くておいら死にそう」

「うるさい!
俺様の芸術の主題は
レクイエムなんだ。
夏の生命を謳歌した者へ
死の贈り物をし
再生の機会を与えるんだ」


11月12日(日)晴  於  北の森

晴天の旅行者

冬将軍を待っている奴が
居るって?
この変梃りんな星のような
火星人のような奴?
どうして?

実はこいつの本名は
「土栗」と言うんだ。
菌体が満ちると
6枚の羽を閉じて
球体になり冬将軍を
じっと待つんだ。
風が出ると
ころころ地面を転がって
菌体をばら撒く。
だから「晴天の旅行者」



11月12日(日)晴  於  ログハウスの森

初冬のぷち太陽

「太陽が恋しいって!
わかった、わかった!
小さいけど沢山
太陽をプレゼントしよう」

毎年冬の山荘室内を飾る
「蔓梅擬き」が
森のあちこちで真紅の
実を開き始めた。

少しも暖かくならないけど
冬将軍の弁解じみた
モノローグのように
これも将軍の作品なのか?



11月13日(月)晴  於  山荘前庭

満点星燃ゆ

山法師とどうだん躑躅が
真紅を競って庭で
輝きだした。

満点星を「どうだんつつじ」
と読ませるなんて
誰の企み?

中国語の転用だろうか?
もしかすると
透明な冬空でしか
見られない満天の星と
真紅は連動してるのか。
するとやっぱ
冬将軍の仕業か?



11月13日(月)晴  於  居間絵画・・・時空の渚

鳥葬と乳房

水晶峠から昇る
冬の太陽は
透明な大気を走り抜け
部屋の奥まで達し
大型油絵の乳房を襲う。

チベットの乳房と
珊瑚海で彫刻された乳房が
死を啄ばむ鷲を挟んで
白日に晒される。

敢えて大型油絵の
この部分だけを選んで
観賞している意図を
冬将軍に問はねばなるまい。





霜月3週・・天と地の渚



11月20日(月)曇  於  二階ベランダより

夜明けの雲海

寝室のカーテンを開く。
あまりの神秘的な
光の
ページェントに息を呑む。

大地と天空の
壮大な物語が光を
語り部にして演じられる。

胸がときめく。



11月20日(月)曇  於  一階テラスより

天と地の渚

急いで一階に降りて
電動シャッターの
3つのスイッチを
もどかしく押す。

シャッターが
上がるにつれ
大きなガラスドアいっぱいに
雲海が広がる。

数億年の時空が
波打ち寄せ返し
天地を洗う。



11月20日(月)曇  於  奥庭より

ノアの方舟

奥庭に飛び出す。
数億年の時空が
氾濫し
荒々しく波打ちながら
白きカオスを伴って
山荘を襲う。

総ては呑みつくされ
白きカオスに還る。

さあ!
認識の彼方への
方舟となって
山荘は
旅立たねばならない。



11月20日(月)曇  於  石段より

アララト光臨

雲の切れ間が無いのに
光がカオスを孕み
山荘に語りかける。

ゼウスは
愚かな認識体に絶望し
総てをカオスに帰すよう
私に命じました。

カオスの海に浮く
方舟を
創らねばなりません。



11月20日(月)曇  於  干し柿簾より

白海湾俯瞰

紅海が大陸を2つに
切り裂いたように
白海が大地を分断する。

やがて白いカオスは
認識体の拠点を呑み込み
森や谷、山脈の存在をも
消し去り
一点に収斂する。

遥かなる
137億年前の
宇宙の誕生
ビッグバーンへの遡行。



11月20日(月)曇  於  居間より

雲海に浮く山荘

テラスが船の甲板になり
雲海の流れが
錯覚を生み
山荘が動き出す。

一点に収斂したカオスの
唯一の認識者となるべく
方舟は
無窮の時空へ
漂いだしたのだ。



11月20日(月)曇  於  果樹畑より

渺茫たる雲海

時間と空間の融合を捉えた
一般相対性理論
素粒子等の微視的存在
の不確定性を捉えた
量子力学。

その2つの理論を
重ねた量子重力理論は
認識体にとって
恐るべき結論を
導き出した。

時間、空間、物質は勿論
エネルギーも無い
[無]から
宇宙は生まれたと
結論付けたのだ。

渺茫たる雲海は伝える。



11月20日(月)曇  於  二階アマルティアより

海底邑出現

[無]は認識を拒否する。

認識体は[無]から
誕生したのに
[無]を認識することはない。

方舟はアララト山を
見出すことも出来ず
未来永劫に
彷徨い続けねばならない。

方舟の存在は
幻であったかのように
雲海が引き始め
邑が現れた。



11月20日(月)曇  於  二階廊下より

天空への回帰

10のマイナス34乗cm
10のマイナス44秒
限りなく零に近い
量子理論上の最小値。

この限りなく零に近い
空間と時間が
天地創造の瞬間であった。

カオスは一点に収斂し
この小さな宇宙を透過し
認識の彼方へ去る。

山荘は動きを失い
再び135億年の時を
刻み始める。

光のページェントは
終わった。



11月18日(土)晴  於  西畑

秋桜葬送

すっかり枯れてしまった
秋桜が
西畑に積み上げられた。

山荘野菜の敵と
憎まれながらも
美しく咲き続けた秋桜。

最後は盛大な炎の花を
咲かせてあげよう。

来春灰の下から
又沢山芽ぶいておくれ。



11月19日(日)曇後雨  於  東森の農道

氷点下の開花

紅葉の落ちた森
冬の色に染まった山々。

氷点下の小倉山から
駆け下りる。
視野は
枯葉色の氾濫。

ふと右の視野に
鮮やかな黄色。
「あれ!大待宵草だ。
真夏の花が
どうして初冬に咲くんだ」

そういえば確か
大待宵草は
突然変異の術使い。
さては新種か?



11月19日(日)曇後雨  於  東森の農道

冬将軍を恐れぬ菫

往路に
見かけた時は
霜に覆われていた花弁が
霜を溶かし
露を付けて凛として
開いている。

冬に咲く菫なんてあったか?
即図鑑を開いて
16種の開花時期をチェック。
いずれも4〜5月。

さてはこいつも
変幻の術を大待宵草から
手に入れたな。



11月19日(日)曇後雨  於  前庭

凍結した撫子

朝トレを終えて
庭でストレッチをしてたら
たった一輪の撫子。

いくら暖冬だとは言え
山荘の朝は氷点下。
とても開花出来る
条件では無い。

もしかすると他にも
苛酷な環境を乗り越えて
冬に挑戦してる
パイオニアがいるのか?



11月19日(日)曇後雨  於  前庭

氷河期の彼方

居た、居た!
でもまさか
あの温室で培養された
ペチュニアが?

前庭石卓の下で
鮮やかな紅を
放っているではないか。

隊員の誰かが
「時と共に進化するね」
と感想を
洩らしていた山荘。
さては植物までもが
進化を始めたか!

第4氷河期を超えて
哺乳類と共に進化の旅に
出るのかい?



11月19日(日)曇後雨  於  前庭

死への結実

もうちょっと良く見て!
そうそう
欅の下の苺畑。

どう一輪だけど
咲いてるでしょ。
赤く無いけど実だって
ちゃんと付けてるんだから。

参ったな!
でどうするの
もうすぐ
雪が降るんだけど。

そんな死に方が
あってもいいでしょ。



11月18日(土)晴  於  東森の農道

旅立つ・がが芋

こちらは早々と
翼を装着して旅立ちの
準備完了。

こいつ花の時は地味で
全く目立たない。
結実すると大きくなって
謎かけをしてくる。
「私はだーれ?」

悔しいけど
山荘の図鑑にこの実は
載っていない。
永い間無視してたが
ついに同定成功。
「お前はがが芋だ」



11月18日(土)晴  於  片栗の森

初冬静謐

どうしてこんなにも
胸を打つんだろ。

特に鮮やかな
紅葉の森でも無いし
厳しい寒さと健気に
闘っている花が
あるわけでもない。

そうか静けさだ。
ここには
聴こえる人にしか届かない
妙なる音色が
流れているんだ。






霜月4週・・山荘晩歌



11月27日(月)雨  於  ログハウスより

雲海の饗宴

凍えた大地と
湿った大気の合作である
壮大な雲海。

初冬の低気圧は
いつも
山荘眼下の山や谷、森を
海に変えてしまう。

3週続けて週末の山荘は
雲の大海に漂い
大地と天空創造のドラマを
夢見た。

なんとも贅沢な日々は
終焉を
告げようとしている。

1年後に再び逢うことが
出来るだろうか?



11月25日(土)晴  於  小倉山山頂

太陽を追え!

太陽が前庭に落ちた。
ゲートの箆鹿の角も
枯葉さえも長い影を落とし
山荘は薄闇に包まれる。

《太陽を追え!》
冬の森が叫ぶ。

北の森を駆け登り
扇山の稜線に出て
消えた太陽と
再びめぐり合う。

なぜだろう?
その瞬間が
とてもいとおしい。
又逢えたね!



11月25日(土)晴  於  北の森

最後の光

森はもうすっかり
光を失ったと言うのに
自ら光を発するが如く
一枝の枯葉が煌く。

何故
一枝だけなのだろう?
そういえば
先週凍える大気に抗って
咲いていた花々も
何故か一輪づつ。

単なる自然現象でしか
ないのに
ホーキンスの
「認識と宇宙」が
ちらちらして
とても気になるな!

唯一つの認識体・私と
その認識対象の
固有宇宙・一輪の花。

11月25日(土)晴  於  東の窓ガラス

卓上の黄葉

そう例えば
「認識と宇宙」は
こんな風にさり気無く
窓ガラスに像を結ぶ。

室内にログハウスが
嵌め込まれ
そのログを黄葉した森が
包み込み
そうした光景全容が
食卓に載っている。

そのような事実は
存在しないにも拘らず
視覚認識は確かに
像を捉える。

認識体にとってのみ
宇宙は存在するのだ。



11月26日(日)曇  於  西畑

秋桜燃ゆ

先週積んだ
秋桜の残骸の上に
更に唐黍の枯れ草を載せ
火を付けた。

木々を粉砕してチップにし
有機肥料を作る
例の「シュレッダー」
どうしたかって?

それがね、聴いておくれよ。
もう何十回も修理し
メンテナンスも
完璧なのに
使用開始時には必ず
エンジンが起動しないんだ。
修理を依頼する度に
高額な出張費と修理費。

それでね、ついに
解雇を決めたのさ。



11月26日(日)曇  於  前庭

白樺葬送

何本もの白樺が
前庭に爽やかな風情を
醸し出していた山荘初期。

数年後、大きな白樺から
次々に枯れ始め
植樹が追いつかず
とうとう3本のみに
なってしまった。

その中の大切な1本が
倒れてしまった。
この木の巣箱には毎年
四十雀がやって来て
沢山の雛を育てたのに!

倒した犯人は
8月14日のHPに居たぞ。



11月26日(日)曇  於  玄関吹き抜け

森の美術館
額磨き

山荘の壁に穴を開ければ
即、絵入り額が出来る。

南の壁はほぼ全面を
ガラス額にし
富士を彼方に仰ぐ
山脈の連なりを収めた。

東の壁は天井から床まで
ガラスで切り抜き
鈴庫山、高芝山から
大菩薩への山塊を配した。

西の壁には扇山の南稜線と
山荘眼下に広がる果樹畑や
森、谷を描いた額を
切り抜いた。

特に北の壁は森の
内側に深く入り込み
森の心象を抉り出す額を
穿っている。

森が黄葉に満ちる初冬に
ガラスの額を磨くのが
山荘の年中行事になった。

山荘に穿たれた額は
何と21ヶ所
窓だらけの建物なのだ。

窓拭きは裏表で42ヶ所
3週間かけても窓拭きは
終わらない。



11月26日(日)曇  於  階段踊り場

さあ、どうぞ!

綺麗になった額縁です。
森がぐっと
迫ってきませんか?

総て黄に染まった葉が
優雅に舞いながら
大地に降り注ぎ
もうすぐこの森は
深い眠りに就きます。



11月26日(日)曇  於  居間

ビア・ゆぴてる

モルトは
ニュージーランドラガー。
フレーバーは
山荘産葡萄液と
奥庭で採れた小梅から
造った梅ジュース。
更に
摩り下ろした生姜と檸檬。

じっくり煮込んだモルトに
フレーバーを加え
1次醗酵に1週間。

今日は2次醗酵の為の
瓶詰。
プライムシュガーを加え
樽から澱引し
王冠を打ち
階段下の保温室に
寝かせ更に1週間。



11月26日(日)曇  於  二階かりすと

冬の温室

あー忙しい!
まだまだ仕事があるんだ。
増え過ぎてしまった
観葉植物の温室造り。

冬の山荘室内温度は
夜になると氷点下になる。
当然、観葉植物は
凍りつき死んでしまう。

数十鉢の鉢植は
かりすとの部屋に集められ
24時間稼動のストーブで
温度管理され
何とか冬を超えるのである。

まず小さい鉢だけを棚に載せ
残りは又来週。



11月25日(土)晴  於  テラス

枯れ葉

この油絵を
描いたのはだーれ?

山荘の土で焼いた陶器に
夏椿の枯葉を載せ
天空から透明な
絵の具を注ぎ
光を屈折させる。

更に陶器には
ギアマンの海を流し
白く輝く砂丘を配し
その広大な渚を背景にして
さり気無く重ねた
小さな2枚の枯葉。

山荘の大地と天空
枯葉を素材にして
《秋》が
描いたんだね。きっと!



11月27日(月)雨  於  東森の小径より

山荘炎上

濡れた炎に包まれ
深い霧の中から
山荘が姿を現した。

こんな哀しそうに
燃えている
山荘を見たことは無い。

冷たい炎に
焼き焦がされながら
葉々の死の語らいと共に
山荘も又
死と再生への旅立ちを
決意したのだろうか?




Next

Index