山荘日記

その54春ー2010年皐月

 

5月1週・・・・犬との残雪の山旅

 残雪の甲武信岳図




5月2日(日)晴 山荘と近丸新道(甲武信岳

眠いぜや!あくびが止らないぜや!

未だ暗い4時に起きて登山準備。

雪の富士か甲斐駒?それとも八ヶ岳にしようか?
迷いに迷ったが何しろ畑が忙しい。
レタス、小松菜、ほうれん草、蕪、春菊、胡瓜、枝豆、南瓜の種を蒔き
茄子、ピーマン、白菜、パセリ、南瓜、苦瓜、西瓜、メロン、ペピーノの苗を植えたので
朝晩の散水が欠かせない。
これを怠ると発芽しないし苗は枯れてしまう。

そこで朝晩の散水が可能な近場の山、甲武信岳に決めたのだ。




5月2日(日)晴 近丸新道
食い千切られミイラ化した羚羊
雪崩にやられたカモシカだ。

とは云え甲武信は標高差1400mを超える中々の大物。
この時期は未だ充分に雪があり上部はアイスバーンになっている。
アイゼン無し、スニーカーで登り更に日帰りとなると早めに出発せねばならない。

そこで4時起きし車を飛ばし、眠い目を擦りながら歩き始めると
目の前に長々と横たわる大型草食獣。
もはや食いつくされ毛皮と骨しか残っていないが、どうも雪崩にやられたカモシカらしい。



5月2日(日)晴 近丸新道ヌク沢支流
 昔のトロッコ軌道跡に残るレール
廃道と急峻な崖、更に沢の徒渉が続く


花崗岩や硅石で構成されている甲武信岳は嘗て硅石の採掘が盛んであった。
近丸新道はその硅石運搬のトロッコ軌道に沿って造られた登山道。
だがヌク沢に落ち込む花崗岩斜面はザレていて崩れ易い。
後に徳ちゃん新道が戸渡尾根に拓かれてからは登る人は急減し、ルートは荒れ気味である。

だからこそ静かな山歩きが愉しめるのだ。





5月2日(日)晴 硅石採掘跡
 道がないぜや、雪食って頑張ろうぜや!
採掘現場に残されたトロッコ残骸

なーんて云ってのんびり歩いていたら道が消えてしまった。
急なザレ斜面に全くトレースが無い。
少し戻るとトロッコか掘削機の残骸らしき鉄の塊がごろごろしている。

そう云えば確か黄と黒のロープが随分前に通過した道に張ってあって
そこを潜りぬけて広い道に入った記憶があるな。
そうかここは嘗て採掘現場に通ずる道であって登山道ではないのだ。

犬が変な土佐弁を使うのはどうも山荘主が昨夜遅くまで読んでいた「竜馬がゆく」が匂うな。
さては犬達も司馬遼太郎の竜馬を読んだ気でいるのかな?
よしよし、山荘主と犬の心が通じている証拠だ。
笑って聞き流してやろうか。




5月2日(日)晴 戸渡尾根
深い雪の森
大切にしてたレイバンのサングラスを無くし眩しい。

眩しくて堪らん!
と胸ポッケに手をやると何の感触も無い。
あれ!間違いなく此処にお気に入りのレイバンのサングラスを入れておいたのだが・・・

「あのーすみませんがサングラスが落ちているのを見かけませんでしたか?」
連休で登ってきた登山者に訊ねるがいずれも
「いやー見かけませんでした」
がっくり!雪目にならぬよう目を細めて光の入量を調節せねば。




5月3日(月)晴 鉄塔山頂より
 山頂直下の雪の沢遠望
甲武信岳頂の雪渓が微かに見える

翌朝のトレーニングは勿論鉄塔山。
この山頂から甲武信岳が真正面に見えるのだ。
山荘を取り巻く5つの頂・・扇山、小倉山、上条山、高芝山、鉄塔山の内
甲武信が遠望出来るのは鉄塔山だけ。

大きな木賊山の左に小さなピラミッドが見える。
頂から真下に雪渓が明瞭な白いラインを描いている。
これが積雪期の甲武信南面の特徴であり遠くからでも山座の同定が出来る。

遙か彼方の山頂から前日登った頂を静かに見つめる。
時空を飛び超えたような胸躍る若き日の歓びは最早何処にも見当たらず
たゆとう一抹の哀しみに気付きうろたえる。
その頂は確かに過ぎ去ってしまった時間であった。






5月2日(日)晴 木賊山
木賊山(とくさ)甲武信の雪渓
山荘裏山からも見える甲武信岳頂の雪渓

ほら、いつも鉄塔山から観ている白い雪渓が直ぐ目の前に近づいたよ。
樹林帯を抉り山頂から一直線に落ちるザレ場。
その上に積もった雪が2点間の最短距離をもって天と地を銀の光で結んだ。
こんな山は他には知らない。
勿論無数にある自然現象の偶然の1つであり如何なる意味も無いのであろうが
観るたびに森羅万象の啓示を思わず模索してしまう。



この木賊山の山頂標識と較べてごらん。積雪の多さが解るだろ。
雪が解けると標識はこんなにも高いんだ。






5月2日(日)晴 甲武信小屋
雪に埋もれた山小屋の主・徳さん
舞瑠の右後方に金峰山(2599m)が見える

出迎えてくれたのは《徳ちゃん新道》を造った山中徳冶さん。
「昔は冬期小屋をよく使わせてもらったんです」
「そーけー今はもう冬期小屋は閉めているんだ。トイレ処理が大変だもんで」

「犬連れてどっから来なすった?」
この辺が気にいって山麓に山荘を建ててね、週末に来ては近くの山を登っているんですよ」




5月2日(日)晴 甲武信岳頂
うあー舐めるなよ!
国師岳(2592m)を背景に写真を撮ろうとしたらペロリ

凄い人出なのだ。それに
頂にはドでかいケルンがぶっ建ちその上にこれ見よがしに馬鹿でかい山頂標識。
標識を入れて写真を撮るにも順番待ち。
うんざりして離れた処にひっそり建っている標識でパチリ。
その僅かな一瞬を衝いて悠絽に舐められてしまった。



5月3日(月)晴 戸渡尾根&山荘
 石楠花山吹
甲武信岳戸渡尾根は石楠花の森

戸渡尾根より3週間早く咲いた山荘の石楠花山吹に迎えられ帰宅。
書斎で地図を開き山座同定を試みる。

どうもおかしいのだ。
地図に直線を引いて現在位置と広瀬湖を結び延長してみると
目の前が倉掛山でその直ぐ右が大菩薩から続くお馴染みの山稜であり
尖った高芝山も明瞭で上条山、扇山の位置も間違いない。

問題は標高である。
広瀬湖の標高は約1100m、上条山は996m、扇山は942mなので
明らかに湖より上条、扇山は低いのである。
低いからこそこの湖から扇山へと水を引いての発電が可能であり
山荘の畑管も湖の水が利用出来るのである。

ところがこの写真では明らかに湖の方が低くなっているように見える。
目の錯覚なのだろうか?
まあ山頂より低い位置に導水管を引いているだろうがそれにしても腑に落ちない。



 凸凹胴体は冬眠の痕 地潜の老熟固体でなく青大将か? 

5月3日(月)晴 鉄塔山頂から北峠
 青大将(地潜?)目覚め
1日で4匹の蛇と遭遇

いつも或る日突然、示し合わせたように蛇共は一斉に穴から這い出す。
どうも夏日が2日続くと冬眠終了のスイッチが脳に入れられるようだ。
鉄塔山頂、北峠、山荘池の石垣、ゲートの石垣と僅か数時間で4匹の蛇の目覚めに遭遇。

未だ出てきたばかりで体が凹凸だらけ。
最初はその凹凸の意味が判らず、何か変なもの食べて未だ消化出来ていないのか?と思ったが・・
よーく考えてみたらなんのことはない。
とぐろを巻いたまま長い冬眠を過ごしたのでとぐろの痕が残っているのだ。

舞瑠と悠絽が慎重に襲いかかるが蛇も負けてはいない。
尻尾を振って音で威喝しつつ鎌首をもたげてシュー、シューと反撃を仕掛ける。




5月3日(月)晴 鉄塔山頂への林道
萌え木の森・人間橇
マッシャーだぞ!ユーコン・クエスト


ついに解決したぞ!
4頭の犬を1人で操るのなんて簡単なのだ。
アラスカのユーコン・クエストのTV番組(5月1日NHK)にゲストとして出演していた
船津圭三氏を観ていて気が付いたのだ。

人間を橇に見立ててハーネスをつけて引っ張らせれば両手が空いて
ストックも自由に使えるし登りが各段に楽になる。
犬が前進さえすればこの方法は正に革命的操作術である。
甲武信岳、鉄塔山と試してみたが実に愉しい。

長期犬橇ツアーやアラスカの冬期居住についての相談にのってくれた
船津氏の手紙が確か会報に載っていたな。
どれどれあった!会報bQ017だ。

船津圭三氏からの手紙抜粋
長距離犬橇レースも資金がかかるし犬の年齢の問題もあり、しばらくお休みにしたいと思っています。
犬橇は手間と時間がかかります。犬達を育てトレーニングチームを作っていくのは一朝一夕にはなかなかいきません。
本当に自分のライフワークの中に取り入れて取り組んでいかなければ続くものではないのです》


確かに自分の生き方と犬をシンクロナイズさせないと犬との苛酷な旅は出来ない。
甲武信の急なアイスバーンで果敢な舞瑠が恐れて後退し
リードが岩や木の根に絡み動きがとれなくなった時
犬の心にもう一歩踏み込み、激励してやれない自分の未熟さを思い知ったのだ。




 

5月2週・・・賞味期限の尽きた半月板




5月9日(日)晴 高芝山(東出窓から)
深き緑528の夜明け
黒金山変じて高芝山となる

僅か1週間で森の緑がこんなにも深くなってしまって!
夜明けの太陽だって高芝山の頂にぐんぐん近づいて、暁光はいつしか5時28分に。
そんなにも森羅万象が輝いているから
今週末は西沢渓谷の奥にひっそり佇む黒金山(2232m)へ行こうと固く決意していたのだ。

ところが1月程前からトレーニング中に痛みが走り始めた左膝の外側半月板。
こいつの痛みが本格化し寝ているだけでも痛みが断続するのだ。
順天堂大学の整形外科で診てもらい膝補強の筋トレを続けて1年4か月が経過。
騙し騙しここまで山トレを続けてきた。
[お前は強い。世界の高峰を駆け抜けてきた世界一の半月板だぞ。未だ未だ登れる]
と煽てて半月板に自己暗示を掛け騙くらかしていたのだ。

だがしかしついに我が半月板の賞味期限は尽きたか?





5月8日(土)晴 東の森
透明な木漏れ日
苔生した山荘主の膝とチビ・一人静の会話

「骨と半月板の間がだいぶ狭くなってますね。酷使と老化現象でしょう。
自然治癒は先ずありません。放置すると
半月板の損傷が悪化し、軟骨を傷つけたり、膝に水が溜まったりしますね」
と実にあっさりと情け容赦無く若輩医師は言うのだ。

なにしろ半月板は凄いのである。
肉体の重さを垂直に支える大腿骨と脛骨の間にあってクッションとなり
膝の屈曲機能を可能にしている。
膝の内側と外側にある三日月状の薄く柔らかい線維軟骨
(長さ約40_、幅約8_、厚さ4〜1_)から成る
半月板が駄目になると登山どころか歩行さえ困難になる。

痛みを取るのは実に簡単。
ヒアルロン酸を骨と半月板の間に注入すれば即、治るのである。
だが勿論それは応急的な処置でしかなく2,3日でヒアルロン酸は体内に吸収され元の黙阿弥。

チビが苔生した大腿骨のような朽ちた丸太を見つめながら
「うーん、こりゃ最早使いもんにならんちゃ!」
今春初めて目にする一人静
「美味しそうな朽木になったわね。役目が終わった訳じゃないのよ。
これからは大地に還って森の生命を養ってくれるのね」




5月8日(土)晴 前庭奥庭
一番咲きアイリスと最後の芍薬
生命全開・耕運機大活躍

悩んだ!
固く決意していた黒金山登山を決行すべきか否か?
標高差1100m程だが、傷んでる半月板にとって登山がいい結果を齎す筈は無い。
決行するならそれなりのダメージを甘受せねばならない。

場合によっては暫く山荘での活動も中止せねばならなくなるかも。
冬の間、食べて食べて食べ尽くしたほうれん草も花が咲きだし最早収穫出来ない。
抜いて捨て、新たに耕運機を掛け土を耕しながら考える。
うーん場合によっては耕運機も掛けられなくなって畑も荒れ放題になるか。

となるとかなり大問題であるな。
庭の半分近くを占めるアイリスの群落の1つが花開き呟く。
「お陰さまで私どもも山荘主さんのお力でここまで増やしてもらい、毎年華麗な花で
山荘を飾るようになりましたが、山荘主さんが来られないとなると
残念ですがそれも出来なくなります」

一度枯らしてしまった芍薬と牡丹も新たに苗を購入し昨年から復活し始めたが
これも放っておけば雑草にやられて絶えてしまう。
つまり半月板を大切に扱わないと山荘の生命にも関わってくるのだ。



5月9日(日)晴 高芝山南西尾根
致命的な左膝を抱えて
甲武信岳が最後の山となってしまったか?

痛む足を抱え悶々とした夜を過ごす。
女々しく山への未練を引きずりながら諦めきれず朝を迎える。
いつものように就寝前にストレッチ、筋トレを入念にし患部をマッサージし湿布し
更に膝強化のサプリメント(グルコサミン&コンドロイチン)
飲んだのだが痛みは取れない。

思い切って黒金山を延期し、今朝はどの程度の登山に耐えられるか
負荷実験を高芝山で行うことに変更。
悠絽、舞瑠に較べると頼りにならない未熟な2頭をハーネスに結び
バイクで上条峠まで走り高芝山南西尾根の肩まで登る。
登りは何とかなるが下りの痛みが酷い。

山荘に戻ったらチビもオバマも元気がない。
どうしたのかと調べたら2頭とも肉球を傷め痛そうである。
その後、夕方の散歩に誘っても応じず翌朝のトレーニングも途中で座り込み動かず。
やはり悠絽、舞瑠に較べると未だ未だひ弱なのだ。

いや、若しかすると山荘主の膝痛を気遣って偽装してるのかも?
舞瑠ならその程度の繊細さを秘めているが、チビ、オバマではそんな高級業は考えられないか!
ただ単に山荘主と犬のお粗末な負傷が重なっただけのこと。

いずれにしても犬にとっても山荘主にとっても
最悪の山荘活動の週になったことは間違いないが、これから最悪は常態化され
更に更新されていくに違いない。
さてここから如何にしてエスポワールを紡ぎだしていくか!
次週を、乞う御期待!



bP今週のBigニュース 御柱祭で更に死者2名
御柱祭は危険な柱の坂落としで終わった訳ではない

山出しの1カ月後に里曳きが行われ上社、下社に運ばれ社殿の4隅に建てられる。
建てる際に支えていた鉄製ワイア8本の内1本が切れ柱が揺れ
3人が振い落とされたらしい。
勿論、柱を建てるのに人が柱に乗る必要が無いどころか邪魔であり危険そのもの。
祭の関係者は
「命綱を着けることを徹底していたが、男気を見せたいと着けずに乗る人もいた」
と話している。

《男見るなら七年に一度、諏訪の木落とし、坂落とし》
落下、土煙り、絶叫、どよめき、跳ね飛ばされる華乗り衆。
母なる大地の深奥に向かって自らペニスになり母なる大地とまぐわう刹那。
7年に一度のその性交の果てに、完結された死を夢見る男。
(4月10日のHPより)

自己破産し総ての借金(負債)を免除してもらうのは未だ理解出来る。
しかし個人ではなく市(夕張市)が3年前の2007年に財政破綻した時には仰天。
ところが今度はついに国そのものが財政破綻し世界経済を震撼させた。
破綻したギリシャはほぼ毎月30億ユーロ
(2009年の経常赤字は267億400万ユーロ=約3兆4000億円)もの赤字を出している。
そのギリシャ国債の80%以上を外国が購入しているのだから
世界が震撼するのは当然である。
ギリシャ国債は単なる紙っぺらになってしまったのだ。

山荘の経済的生命線であるささやかな投資信託も外国国債を購入しているので
当然、大きな影響を受け基準価格も下がり続けている。
購入時1万3377円だった債券が先月は5196円、今月はなんと558円も下落し4638円。
債券の価値は3分の1になり限りなく紙っぺらに近づきつつある(損害総額を算すると失神してしまいそう)
ついに山荘も財政破綻に陥り破産宣告をせねばならぬか!

☆ 5月08日:諏訪大社の下社春宮の御柱祭で8日午後5時頃、柱から落下し男性2名が死亡、2名が怪我をした。
         柱を建てる際、柱を支えていたワイアが切れ柱に乗っていた3名が転落したもの。
☆ 5月10日:ギリシャ財政危機に対する支援策が10日、一斉に打ち出され「世界同時株安」に歯止めがかかった。





 

5月3週・・・華麗なる渓谷




西沢渓谷・黒金山アプローチ



《ばくふ》と呟いてみる。
畏れと慄きが少年の心を
ひたひたとたたいた。
《瀑布》と云う漢字を始めて
目にしたときの
少年の驚きが
今、眼前に再現された。

滔々たる流れが
宙を舞い大気を咬み砕き
巨大な白龍となって
川面をのたうちまわる。
《瀑布》には龍が
潜んでいたのだ。
 
七ツ釜五段の滝・落ち口

竜神の滝
 
瀑 広大な海から
太陽のエネルギーを孕んで
天空に駆け登り
山顛に落下する水分子は
谷に集積し
激しい水流を成す。

山容を浸食し
急峻な瀑布となって
原野に下り、大地を蛇行し
植物に生命を与え
動物を育む。

少年の畏れと慄きは
《ばくふ》が生命を司ることに
在ったのだろうか!
 
布
断崖絶壁に囲まれた
絶海の孤島・ ココ
雄大な瀑布を目にしてから
観光用の小さな滝には
関心を示さなくなった。

山荘の身近に在りながら
観光地としての西沢渓谷には
全く興味が持てなかった。
厳冬期には東沢の氷瀑を求めて
何度も通いつめたが
西沢はいつも素通り。
従って山荘日記では
今回が初登場。
 華
 
麗 
 
水飛沫の走る渓谷

三重の滝
 
な 《川は血管だ》との
発見も少年を酷く興奮させた。
川は地球に血は肉体に
命を齎している。

川と血管が大地と人体の
夫々の生命線である
なんて誰でも知っているのに
幼い少年は
自分だけの発見だと思って
自然の神秘に
深く心打たれたのだ。
る 
頂に落ちた雨は谷を下り
山野の無数の生命を育みつつ
大海へ戻る。
血液は酸素、糖、アミノ酸等を
運び無数の細胞を育み
心臓に回帰する。

胸の高鳴りや
激しい肉体の躍動の後に
響く鼓動は
大地を劈く瀑布の轟音。   
 渓
 
谷 
 
大久保の滝

竜神の滝・落ち口
瀑布への共感は
心臓の高鳴りとシンクロナイズされた
激しさに在る。

生命は激しく迸る血によって
生み出される。
その自らの生誕の瞬間が
瀑布に二重映像となって垣間見える。

眩い光が瀑布に現れ
激しい流れの中で身を躍らせ
減数分裂を開始。

2つに分れ未来への流れに乗って
遙かなる旅を始める。
動と静を滝壺は描く。
押さえようのない暴力的な
生命誕生の
爆発的瞬間を平然と受け止め
穏やかな(とろ)
包みこんでしまう。

竜神はこの瀞に潜み
無数の爆発的瞬間を呑みこみ
いつの日か昇天するのだ。
 
竜神の滝壺

七ツ釜五段の滝・滝壺
何故、竜だけが
十二支の中で架空なのか?
架空でありながら
竜は実在動物の部品から
構成されている。


角は鹿から
頭は駱駝、眼は兎
体は大蛇、腹は
(みずち)
背中の鱗は鯉、爪は鷹、
掌は虎、耳は牛から
取り寄せたのであろう。

つまり力強い生命の
象徴として描かれたのだ。
山荘の玄関横の岩の上に
チベットから連れてきた
青銅の竜が鎮座し
遙か天空を睨んでいる。

この滝壺に山荘の竜
沈めたい衝動にふと
駆られた。


少年の竜は果して
昇天するのだろうか
 
 



高原ヒュッテ






5月15日(土)晴 西沢渓谷(三重の滝)
三重の滝
苔生す渓谷

どうして観光地なのに人が落ちて死ぬのだろうか?
老人とか子供とかが不注意で滑落するのは解るが、どうも死者には壮年者もいるようだ。
それだけでなくペットとして連れていった犬もよく落ちるらしく
山梨市のWサイトにはこう記されている。

《 ペットと一緒に西沢渓谷を訪れ、連れてきたペットが滝つぼに落ちたり、
そのペットを助けようとした飼い主自身が滝つぼに落ちたりする事故が発生しています》

濡れて苔でつるつるした岩場で悠絽も舞瑠もおとなしくしています。
細い道には鎖が付いているものの如何にも滑りそう。
悠絽、舞瑠ドジを踏むなよ!




5月15日(土)晴 西沢渓谷(七つ釜五段滝)
七つ釜五段滝
渓谷折り返し地点

方丈橋を渡って少し登ると五段の滝が見降ろせます。
甲武信で落としてしまったサングラスによく似たレイバン擬きの安物を
池袋でみつけたので早速かけて山荘主はぐんぐん飛ばすのに
どうも舞瑠はいつもの元気がありません。
さっぱりリードを牽かず後ろに回るので、リードが絡み前進の障害になる。
どうしたのかな?




5月15日(土)晴 牛首尾根(黒金山
登山開始
東石楠花と双葉葵

うわー又舐められてしまった!
どうして悠絽はいつも虎視眈眈と舐める隙を狙っているんだ。
そりゃ舐めるのは悠路の心からの愛情表現だってのは解るけどさ・・・。
ほら石楠花も咲きだしたし、徳川の御紋で有名な双葉葵も顔を覗かせているし
えっ!花なんかまるっきり興味無しだって。




5月15日(土)晴 牛首のタル(黒金山
南アルプスのような幽玄な森
杉苔に覆われた森に咲く梅花黄蓮

光が実に眩しいな。
もうすっかり夏の強烈な輝きになって雲だって積雲になりたくて
ほらさっきからなんとか丸くなろうと蠢いているよ。

一面杉苔に覆われた森に五弁の白い光が散っているね。
あれ、杉苔の花はこんなだったっけ?
よく観ると葉は杉苔とは別で葉の先が3つに割れている。
ふーんこんな風に杉苔に紛れてバイカオウレンは生きているんだな。
それにしてもこの森、まるでぷち南アルプス。




5月15日(土)晴 黒金山頂
6年ぶりの山頂(2232m)
未だ残る森の雪

深い森には未だたっぷり雪もありました。
頂のハイ、ポーズでは悠絽に舐められないよう、しっかり首を押さえて今度はセーフ。
さてそれでは前回登った6年前の黒金山記録・会報0407をちょっと紐解いてと・・・
そうか川崎高校山岳部の合宿だったんだな。どれどれ期日は’04年6月5日

《実に渋い山である。大ダオへのルートは踏み跡が乏しく、明確なルートファインディングが要求される。
何度も沢を渡り返し、目を凝らし森に付けられた僅かな目印のテープを追う。
百名山ブームで何処も彼処も人だらけの昨今、此処まで徹底してルートが見つからない山は珍しい。
(中略)
帰路は迫りくる夕闇との競争である。
リニアー、ニートの2つの彗星が、西の空に光の尾を煌かす前に林道に出ねばならない。
山荘に着いて太陽光温泉に入り、良く冷やした山荘産の黒ビアーで今日の素晴らしい山行に乾杯!
生徒と一緒に飲める幸せ!
(因みに生徒は全員成人なので飲酒は問題無し)




5月16日(日)晴 前庭
咲き乱れるアイリス
アイリスに包まれた山荘

山荘に帰ると一面のアイリス。
先週心配していた左膝の外側半月板は何とか騙し通し
標準タイム9時間10分より1時間12分早い登山終了となりました。
(実際は撮影、昼食や犬の捜索などに1時間以上費やしているので2時間以上の短縮)
ではアイリスの画面をお借りして黒金山のコースタイムなど載せましょう。

東沢山荘駐車場:8時46分発
黒金山登山口:10時51分発
牛首のタル(2020m):12時55分発
黒金山頂(2232m):13時22分着、13時30分発
西沢渓谷《山の神》手前で悠絽不明捜索:16時17分
東沢山荘駐車場:16時52分着

標高差:1132m
登山時間(昼食、撮影、休憩を含む):4時間36分
下山時間(撮影、休憩、犬捜索を含む):3時間22分




5月16日(日)晴 奥庭
ヤッホー筍だぜ!
芝刈りを始めたらあちこちで

マタマタ山に出かけて遊び歩いていたので畑や庭の仕事がどっさり。
先ず朝一番の仕事は延び放題の芝刈り。
あれまー、山荘主の怠慢をいいことにちゃっかし筍がテリトリーを広げている。
このままでは芝生が竹林になってしまう。

こりゃ遺憾とばかり早速芝刈機を放り出して筍掘りに専念。
掘りたての筍はさっと湯掻かくだけの刺身状態で食べられるとか。
山椒の葉を載せて春の香り満点の筍を酢味噌で試食。
うーんナンタルチア!
美味しくていつもの朝よりワインが進み、朝食後ほろ酔いで畑仕事に出かけましたとさ。




bP今週のBigニュース どうだ!凄いだろ。
CHT−02Dというのは北朝鮮の武器輸出用のカタログに載っている魚雷だとか。
その威力を販売国に示す為にか、沈められた哨戒艦と殺された46人。
せめて攻撃を認めれば未だ話し合いの余地はあるが当初の拉致問題と同様
北朝鮮は関与を真っ向から否定している。
それでは魚雷が売れないのではと思うが、きっと販売国には秘密裏に
嘯いているのだ。《どうだ!凄いだろ》

軍事評論家はこう述べる。
「本当の目的は解りませんね。
三男を後継者に据える為の示威だとか強硬路線を進める韓国大統領・李明博への脅しだとか
金正日の気紛れの指示と云うのが真相でしょうね」
恐ろしき独裁者の支配する国の国名は《朝鮮民主主義人民共和国》。
臆面もなく民主主義を名乗り更に人民まで付け加え実に立派な国名。
立派な肩書きは実に危険に満ち満ちているのだ。


命が命を作る
あらゆる生命体の中で
最も単純なDNA構造を持つ細菌の1つ
マイコプラズマ・ジェニタリウム

(性感染症の原因となる細菌)(ゲノム数は580Kb)

をモデルにして
自己増殖する細菌が作られた。

先ずデオキシリボ核酸
(DNA)を化学合成する。
大腸菌と酵母の働きを借りて
DNAをつなぎ580Kbのゲノムにする。

こいつを更に
ゲノムを取り除いた別種細菌の
細胞膜に移植し
増殖環境を整える。
その結果人工ゲノムは
14のDNAを欠いてはいたが
ついに増殖を開始。
この人工細菌は人間の3千分の1、
僅か108万塩基対の
遺伝情報しか持っていない。

しかし人工生命の
最初の一歩であることに間違いない。


命が命を生むのではなく、
作り出す日が
ついに来たのだ。


(参照:AFPBBNwes、朝日、読売新聞他)

☆ 5月18日:4月20日宮崎県で家畜の伝染病の口蹄疫1例目が確認され急速に蔓延。
          18日に県は非常事態宣言を発令。30万頭以上が殺処分か?
☆ 5月20日:韓国の哨戒艦「天安」が黄海の北方限界線で3月26日に大きな衝撃を受けて沈没。
          乗組員104人中46人が死亡した沈没原因を調べていた5カ国(韓、米、英、オーストラリア、スエェーデン)の
          最終報告書が20日に「北朝鮮製の魚雷CHT−02Dによる攻撃で沈没」と発表。
☆ 5月21日:「ほぼ人工生命」完成。自己増殖する「人工細菌」を米国のクレイグ・ベンター博士の研究チームが完成。
          21日の米科学誌「サイエンス」電子版に成果が発表された。
☆ 5月21日:19日夜間外出禁止令が出されたバンコクの騒乱は占拠地域に多数の兵士と装甲車を突入させ終結。
          21日アビシット首相は騒乱の終結宣言を出したが、これまでの死者は83人、負傷者は1414人となった。





 

5月4週・・・雨は読書、種蒔、麦酒仕込


雨の種蒔き
畑はタッキリマカン 5月23日(日)雨 テラス

しめた!2日続いての雨予報だ。
5月に入ってから週末は晴れっぱなしで畑はタッキリマカン
枝豆と唐黍を蒔いて朝な夕なに散水し3週間も経ったのに発芽しないので泣きそうだったのだ。
週末だけの散水ではとても発芽には足りず、週末農業の限界に打ちのめされてしまった。



再度、枝豆や唐黍を始めとして人参、牛蒡、モロッコ、オクラ、栗南瓜の種も蒔いた。
種蒔きをした後で雨音を聴くのはなんとも嬉しいものである。
さて渺茫たる雲海を見つめながら雨音の背後に潜む音楽に耳を傾け
心静かに読書に勤しむとしよう。




電動シャッターのスイッチを入れる。
森の静寂を切り取るようにぐいーんとバスを響かせ黒いシャッターが上昇する。
闇の上昇と共に光がせわしなく飛び交い森や山や谷を窓いっぱいに映し出す。
と、その光の中にやっぱり待っているではないか!

もし悠絽や舞瑠なら
千切れんばかりに
尾を振って
窓ガラスに両手を掛けて
嬉しさを
押さえきれなくて
裏返ってしまった
鳴き声で
吼えるのだ。
だがチビとオバマは
シャッターが開いて
山荘主と
眼が合っても
ポーカーフェース。 
  山荘主が帰ってしまい
今日もシャッターは
開かないだろうと
思いつつ
それでも多分
毎夜やってきて朝まで
シャッターが開くのを
待っているのだ。
1週間ぶりに開いた
シャッターに
心動かされない
筈はないのに、
この知らんぷりが
何とも可笑しい。
シャッターを開けると
猪の襲来  5月22日(土)晴 中庭

チビ、オバマと散歩に出かけた途端、林檎畑の下で猪の乱暴狼藉の跡発見。
辺り一面ブルトーザーで掘り起こしたような穴があちこちに。
林檎畑には200本もの馬鈴薯が植えてある。
美味しいメークインを猪が見逃す筈はない。こりゃ大変だ!

この様子では鹿も熊も森の中で飛びまわっているに違いない。
そう云えば北海道むかわ町では5月22日に73歳の男性が山菜採りに出かけた森で
熊に襲われ死亡。更に山形、秋田、鳥取でも熊出没。
冬籠りを終えた熊はお腹を空かしその上子育ての時期でもあり攻撃的で恐ろしい。
18日には甲府北部の和田峠でも熊が目撃されているので犬無しでの山歩きはとても危険。




摩り下ろしたなま生姜と山荘産蜂蜜、アロマホップを入れて沸騰しつつある様子を観察する。
うるうると盛り上がり星の爆発の臨界点に近づいたところで
たっぷりと梅ジュースを入れて更に香りを高める。
麦芽を煮込んだ6リットルのビアの原液が再度膨張を始め星の表面が躍動し始める。

一瞬の超新星爆発
雨の日のビア造り 5月23日(日)雨 キッチン

この爆発直前の瞬間の表情をなんとか撮れないかとカメラを向ける。
向けた途端レンズが曇ってしまいカメラを引く。
その一瞬の隙を衝いてしゅぼーんと寸胴鍋から原液が吹きだす。
急いで火を止めるが星の爆発は止らず、レンジに溢れだし更にキッチンの床に滴り落ちる。

あーあ悲惨やなー!後片付けが大変。
よしこの黒生ビアは《スーパーノバ》と命名しよう。
さてさて2週間後この星はどんなビアに生まれ変わってくるやら。




驚きである。
山荘の細い農道までが表示されているだけでなく、
走ってみたら農道の細かいカーブや右左折まで音声ガイドするのである。
昨年10月までの新情報を入れて作られた最新鋭カーナビ。

赤丸のGと記された細い道の終点が山荘の正確な位置で山荘ゲートに来るまで
音声案内は続けられるのだ。
15年前の車に付いているカーナビは農道どころか山荘の位置さえ正確には認識出来ず
自宅登録した場所は扇山の反対側に記され実に不便であった。

最新カーナビ
山荘の農道までインプット 5月23日(日)雨 ゲート

取り外し自由で持ち歩けば常に自分の位置が正確に把握出来るしTVは勿論デジカメ編集も可。
黒金山で初使用したがなかなかの優れ物。
さてこうなったら犬との登山も、もっと遠くへ出かけられるぞ。




雨の読書・Cinema

                         

題名:風嘯
同人:田中史
、山本耕太郎
発行所:風嘯の会
 風 嘯同人誌30号 発行日:2010年3月23日
定価:1000円
読書期間:5月10〜5月21日

今週のLivre bP0 


1977年 夏
アフガニスタン・ヒンドゥクシ山脈の中腹の村
無名未踏峰のピークを目指す日本からの
小さな登山隊が テントを張った
 
村人や子供たちが集まってくる
ー略ー

(田中 史 28号の詩「靴」より)
T山行伝説

転勤して机を並べた男は
K登山隊の隊長
五大陸の最高峰制覇を狙えるような傑物で
去年はナンガパルバットを
やったという
仰ぐ懸崖の上に広がる空の深さも語ってくれた
ー略ー

(山本 耕太郎 29号の詩「T山行伝説より)


アフガニスタンの遠征隊員から同人誌が贈られてきた。
山をやめてから文学の世界に開眼したらしい。
この同人誌の同人には3人の知人が居るので彼らの作品(詩、小説、絵画)が届くのが毎回愉しみである。
毎年1冊づつ出版しているので今回は30周年記念誌になるらしい。
読むたびに、生きることの哀しさに想いがいたる。
「心の中では、1日も早く死にたいと願っています」と語る車谷長吉がこの同人誌にも棲んでいる。
どんな愉しいことがあるにせよ、生きていることは本質的に哀しいのだ。

bP1今週のLivre   罪の段階                        

暫く《今週のLivre》が登場しなかったが本を読んでいなかった訳ではない。
司馬遼太郎の「竜馬がゆく
1〜8巻」、デイヴィッド・リンジーのシリーズ
井上ひさしの「手鎖心中」、リチャード・ノース・パタースンの「罪の段階」と本を読み続けてはいたのだ。
特に「罪の段階」は「子供の眼」と同レベルの優れた作品で圧倒された。
今週こそ《今週のLivre》を書かねばと思いつつ時は無常に過ぎ去るのみ。
村上春樹の「1Q84」Book3も早く読みたいのだが・・・
原題:Degree of a Guilt
著者:リチャード・ノース。パタースン
(Richard North Patterson)
他の作品:ラスコの死角、ダークレディ、最後の審判、野望への階段

訳者:
東江一紀

発行所:新潮社
発行日:1995年10月30日
定価:2700円
読書期間:5月7〜5月23日
評価:★★★★★
過去へ進んでいくのは奇妙な感覚である。
この作品「罪の段階」が書かれていた段階では未だ次作「子供の眼」は当然書かれていない。
にも関わらず明らかに著者は「罪の段階」の至る所で次作の伏線を張っている。
むしろ「子供の眼」を書くために「罪の段階」を書いているような錯覚さえ起こさせるのだ。
と云って「罪の段階」のレベルが低い訳では決してない。
むしろ「子供の眼」より優れている云う見かたさえ出来る☆5つの作品である。
「サイレント・ゲーム」、「野望への階段」もそれなりにしっかり書き込んだ作品ではあるが☆は4つどまり。
7年間の断筆の後に書かれた最初の作品としての期待を裏切らぬ作品ではある。
ただ他の作品と同様に登場人物名が場面によって幾つにも変わるので理解し難いところがある。
例えばクリスと結婚することになるテリーザ・ペラルタ名はテリ、テル、テリーザ、ペラルタと
なんのことわりも無しに4つの名で表現される。
勿論4つに使い分けることによって微妙な人間関係を表現しようとの意図があってのこと。

クリス(クリストファ・パジェット)の子供カーロ
(クリストファ・キャレリ・カーロ)を産んだメアリ(メアリ・キャレリ)
米国の有名作家マーク・ランサムを射殺する。
メアリはレイプの正当防衛として不起訴に持ち込む為カーロの父親であるクリスに弁護を依頼する。
愛するカーロを護るためにもクリスはメアリの射殺を不起訴に持ちこまねば。
しかし決して明かさなかったメアリの秘密が暴露されてしまう。
カーロはクリスの子供ではなかったのだ。

とあらすじのみを述べてしまうと、この作品の緻密な深さが全然伝わらない。
パタースンはインタビューでこう語っている。

「ここ30年足らずの間に、アメリカ社会が女性に提供する役割モデルがマリリン・モンローや
ジャクリーン・ケネディからアニタ・ヒル
(最高裁陪席判事候補をセクシャル・ハラスメントで告発した黒人女性)
ローリア・スタイネム
(女性解放運動を主導したジャーナリスト)やヒラリー・クリントンへと大きく変化してきました。
たいへんな進歩と言っていいでしょうが、その為に女性全体が払った犠牲の大きさを忘れてはいけません。
目的意識のある野心的な女性は、今でも悪意や偏見の的にされがちです。
実生活のなかで女性は様々なプレッシャーに曝されています。未だに育児を母親の仕事だとする社会での、職業と家事との葛藤
そこから派生する罪悪感、自分のなかに刷り込まれた伝統的な価値観から脱却するのに要するとてつもない意志のエネルギー・・・・・。
そういう数々のプレッシャーが《罪の段階》の大きなモチーフになったような気がします」
(訳者あとがきより抜粋)



今週のCinema 龍馬伝
               
bS            NHK大河ドラマ第49作
                          鑑賞日:毎週日曜日
                           評価:★★★☆☆

描写が雑なのだ。
龍馬が脱藩する第13回の「さらば土佐よ」を観て、もう観るの止めようと思った。
福田靖の原作が雑なのか演出の大友啓史が悪いのかとにかくいい加減で脱藩の必然性なんてまるで無視。
で、と、龍馬の脱藩理由は何であったっけ?
と司馬遼太郎の「竜馬がゆく」を読みだしたのである。
先ず最終巻の8巻と1巻を読みその後2,3巻と読み進んだがやはり司馬遼太郎は面白い。
2巻で脱藩の必然性は充分納得したが3巻で司馬の意外な清々しいエロティシズムに出逢い思わずほくそ笑んでしまった。
北辰一刀流千葉道場の免許皆伝の娘さな子は竜馬を慕っている。
5年ぶりに道場に戻った竜馬と一本勝負をし竜馬の突きをくらってさな子は失神してしまう。

《竜馬は近づいて行って、面を脱がせ、胴の胸ひもを解いた。乳房が柔らかかった。
のど輪に赤い斑点ができている。「むっ」と活を入れると、さな子は眼をあけた。涙がいっぱい溜っている。
竜馬は悲しくなった。さな子がなぜ涙を流しているのかは知らなかったし、憶測するのも面倒だったが、とにかく
さな子の悲しみが、竜馬にじかに伝わってきた。
「泣くんじゃないよ」と竜馬はいった。さな子はかぶりをふって、水とかぼそくいった。
竜馬はすぐ井戸端へ出た。水を汲んだが、移しかえる容器がない。そのままつるべごと自分の口いっぱいに含み、道場に戻った。
「御容赦」と表情だけでそういって、いきなりさな子の唇に自分の唇をあて、水を流し込んでやった。
父親の貞吉大先生がそれを見ている。竜馬の行動が。あきれるほどすがすがしい。
いかにも堂々としていて毛ほどのいやらしさもないのである。
(ああー)と嘆声の洩れるような思いで、竜馬の姿をみた。この男には及ばない、と貞吉老人は思った》




今週のCinema フライトプラン
               
bT            DVD(目白自宅)
                           
 鑑賞日:5月26日
                              評価:★★★★☆
あれ!これ若しかしてサイコ・スリラーそれともサイコ・サスペンス?
と思ってしまうほどのジョディ・フォスターの演技。
雪夜のベルリンを夫と散歩するカイル
(ジョディ)は夫が座っていた筈のベンチの雪が積もったままであることに気づく。
夫は事故死し、もう居ないのだ。
6歳の娘・ジュリア、夫の棺と共にニューヨークへ帰るため自分が設計に携わった旅客機に乗り込む。

寝入っている間にジュリアが消えてしまう。
なりふり構わず必死になって機内を探しまわるが見つからない。
乗客も客室乗務員もジュリアを目撃していないと云う。それどころか乗客名簿にも載っていないと判明。
その辺りからサイコスリラーの趣を帯びてくる。
乗客であるしたり顔のセラピストがカウンセリングを始め、夫の急死により心神耗弱し睡眠薬を服用しているカイルは
実在しない娘を追っているのではないか?と観客を引き込む。
だが実はカイルの夫を殺し、X線検査を受けぬ夫の棺に爆薬を仕込み、ジュリアを圧力隔壁のある部屋に隠し
警官を装うハイジャック犯は娘を探して狂乱するカイルを逆にハイジャック犯に仕立て金を振り込ませるのだ。

「告発の行方」、
「羊たちの沈黙」で2度もアカデミー主演女優賞を受けたジョディの作品なので
なにか受賞しているだろうと調べたが受賞無し。映画通らしき人々の評論を読むと酷評が目立つ。
《ストーリーの細部の大味さやアメリカ的な正義といった部分で随分と心象の悪い作品になってしまった。
ジョディ・フォスターが出ていなければ、この作品はそこらのB級アクションと何ら変わりはない》

なんて批評もある。そりゃ「羊たちの沈黙」に較べれば遙かに及ばないが
このレベルに達していない作品が氾濫する昨今の映画界にあっては充分に面白く見ごたえがあり、
久々に鑑賞後の「時間の無駄だ」と感じる後悔はなかった。

フォスターは1976年公開の『タクシードライバー』で12歳の少女娼婦アイリス役を13歳にして好演し、
全米映画批評家協会賞助演女優賞や英国アカデミー賞 助演女優賞などを受賞、アカデミー助演女優賞にノミネートされ、高い評価を得た。
しかし、この映画は同時に多方面に影響を与え、熱狂的なファンを自称するジョン・ヒンクリーにより1981年にレーガン大統領暗殺未遂事件が発生。
この事件に衝撃をうけたジョディは、一時期映画界とは距離を置いた。
高校時代はロサンゼルスのリセに在籍し、バカロレア資格を取得しフランス語を流暢に話すフォスター。
その後ハーバード大学、コロンビア大学などを蹴って、イェール大学に入学しアメリカ文学を専攻し、
トニ・モリソンの論文で優秀な成績(Magna Cum Laude)で卒業。
(Wikkipediaより抜粋)
その才女ジョディは父親を公表せず2人の私生児を産み、現在9歳と12歳の息子を育てているシングルマザーでもある。
自分のなかに刷り込まれた伝統的な価値観から脱却するのに要するとてつもない意志のエネルギー・・・・
パタースンの「罪の段階」のモチーフはフォスターの中にも脈々としている。



映画名:フライトプラン
(原題:Flightplan)

制作国:アメリカ
(配給:ブエナビスタ)
制作費:5500万$
(約50億円)
興行収入
(約4年後):2億2千340万$(約201億円)
収益率:4.1倍
公開日:2006年1月28日
(日本)
監督:ロベルト・シュヴェンケ
制作:ブライアン・グレイザー
シュヴェンケの主な作品:「タトゥー」
出演者:ジョディ・フォスター、ピーター・サースガード
上映時間:1時間38分





 

5月5週・・・山荘春の危機

大変だ!山荘の危機2題
揚水ポンプの死 馬鈴薯畑に猪の襲撃 5月28日(金)晴 ポンプ室&林檎畑

水圧0、ポンプは沈黙したまま。
そう云えば1か月程前からポンプ室の前を通る度に今にも心臓が止りそうな
たーん、ターンと、今まで聞いたことの無い変な音がしていた。
ついに先週23日に十数年の天寿を全うしてポンプの命が尽きた。
ポンプ交換の見積もりを見て吃驚!百万円もするでは。

ショックはそれだけではない。
先週危惧していたように猪はやはり馬鈴薯畑を見逃す筈はなかった。
2年がかりで開墾を続けやっと畑になり2百mもの防猪ネットを張って、林檎を植え馬鈴薯を育て始めた。
小さいけれど新ジャガがすくすく育ちもうすぐ収穫の時を迎える。
それがこの有様。広い馬鈴薯畑の3分の1程がブルトーザーで掘り起こしたように根こそぎやられた。
あの美味しい新ジャガコロッケもポテトサラダも夢の彼方へ。

今頃、猪の胃袋の中で消化され猪の肉体の一部になり
更に次なる襲撃の原動力になっているのだろうか?




春野菜の収穫始まる
大根、蕪、小松菜、青梗菜、ほうれん草、苺 5月29日(土)曇 西畑

初々しくやっと広げたばかりのほうれん草の葉を摘んで噛んでみる。
仄かに甘い。早速間引き大根と共にサラダに採用。
次にほうれん草を軽く茹でて、辛子明太子とマヨネーズを酒で溶いたドレッシングを掛けて味見。
こんなのあり!
と思わず叫ばずに居られぬ食感と爽やかな趣致に一人悦に入る。

ほうれん草だけでなく小松菜、青梗菜、春菊、蕪の葉、大根葉でも試してみる。
ドレッシングも胡麻ダレに摩り下ろした胡麻を混ぜ味噌を加えた胡麻味噌や辛子味噌と数種を用意。
うーん春をそっくりそのまま食べるなんて実に贅沢だな。
舌の上でビアにもワインにも春が溶け出して得も言われぬ妙なるアンサンブル。
ついでに摘みたての苺もアンサンブルの仲間にいれてやろうか。
幸子さんやえこちゃん、ふみよさんにも届けてあげよう!




炭焼き窯の楠さん
楢の金天焼き 5月30日(日)曇 寺平

昨夜来の雨がやっと上がり、未だ梢から滴の滴り落ちる森に人の気配。
わー!炭焼き窯に人が居るではないか。
いつ来ても静まりかえった炭焼き窯。どんな人が炭を焼いているのだろう。
いつか炭焼きも体験してみたいなと思い続けて早10年。
ついにその瞬間がやってきた。
「こりゃね、金天(かねてん)と云ってトタン板で天井を覆ってその上から土を練り込んで蓋するだ。
備長炭は先に原木の姥目樫を窯に入れて石を組んで天井を作って火をつける。
未だ真っ赤な内に窯から炭を取り出して土に埋めて灰を掛けて冷やすので備長炭の作業は大変。
ここの金天は天井作りも簡単だし冷えてから取り出すので炭出しも楽だし」

せっせと楢の原木を割りながら炭焼きや森の話しをしてくれました。




美味しそう!
花梨酒と梅ジュース 5月30日(日)曇 キッチン

そろそろ呑み頃かな。
えこちゃんや馬渕君と採った花梨が酒瓶の中で黄金の光を放って美味しそう!
熟成半年が呑み頃なのでと・・・仕込んだ日を調べると,12月6日つまり今がベスト!。
もうあれから半年にもなるんですね。

先週収穫した奥庭の小梅も果液を滲ませいい香り。
そうだ先週に続き梅を収穫してビアのフレイバーに使う梅ジュースを作らねば。
梅の木に登って実を1つ1つもぎとりながら
四十雀の巣箱を覗くと先週まで居た雛はもう巣立ってました。

時が光りの早さで春に潜む死を串刺しにして
キラキラとなにごともなかったかのように過ぎ去っていきます。




俺たち番犬だ!猪との対決
仮設の番犬小屋設置 5月30日(日)曇 林檎畑

そこで儚い無駄な抵抗を試みることにしたのです。
馬鈴薯畑に番犬小屋を建ててチビ、オバマを猪と対決させてみたらどうか?
早速鉄骨を利用してコンパネと養生シートで仮設の犬小屋完成。

「今夜からここが君達の仕事場だぞ。
残っているジャガ芋はなんとしても死守せよ。
長いリードを張ってやるから畑のあちこちに犬の強烈な臭いを擦りつけて
それでも猪がやって来たら吼えて噛みつくんだぞ」

夜中の2時頃一度だけ吠え声が聴こえたが、犬に畏れをなしてか猪も鹿も近づかなかったような。
だが問題は山荘主も犬も引き上げてしまう月曜日からなのだ。
人、犬の不在中には仮設犬小屋に猪が棲みついてしまうことにもなりかねない。
ま、その時は猪を飼っていると思ってジャガ芋は諦めようか。




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