その23秋ー2007年神無月
神無月1週・・・雨音の背後に潜む音楽
10月1日(月)曇 窓からの森 |
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雨に煙る森 (窓からの森 10月1日) 《雨音の背後に潜む音楽が聴きたくて旅に出た》 そんなセリフがふと口をついた。 テオ・アンゲロプロスが『こうのとり、たちずさんで』で使ったセリフだったろうか? ・ 今はもう潰れてしまった池袋の小さな映画館で観たその映画は アラスカで犬橇人・マッシャーをしている教え子のTomoが 「是非観て欲しい」と招待券を添えて熱心に勧めてくれた映画であった。 映画評論を書いていた樹麗とアンゲロプロス論を 盛んに闘わせていたらしいTomoが如何なる意図を持って私にこの映画を勧めたのか? ・ それから長い旅に出て 旅の果てに行き着いた森で小さな山荘を建てて森と暮らしはじめた。 或る日、何の予告もなしにTomoがアラスカから帰国し山荘にやって来た。 Tomoは山荘と森が大変気に入ったらしく 山荘の畑を耕したり森を逍遥したり山々を駆け巡ったりして 不意に又アラスカへの旅に出てしまった。 それから十数年Tomoの音信は途絶えたまま。 ・ 山荘の大窓から雨に煙る寂しい森を見るたびに Tomoとアンゲロプロスを想い出す。 |
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降り続く雨 雨、雨、雨。 ・ 全く雨が降らず カンカン日照りが続き 折角発芽した大根も枯れて 山荘の畑は途方に くれているのに 週末から雨が降り出し 昼も夜も降りっぱなし。 ・ 雨の朝トレーニングは ぐっしょり濡れる。 乾かぬ洗濯物の山、山。 ・ 3日目にやっと止んだ。 濡れた森を抜けて 上条峠に登った。 |
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10月1日(月)曇 上条峠にて |
六樹幹の湖 どうして今まで 気が付かなかったのだろう? ・ こんな不思議な 木が峠の直ぐ横にあって 湖を湛えていたのだ。 ・ この映像では五本の幹しか 映ってないが 本当は六本の幹が 湖を支えている。 ・ より早くより大きく育つため 幹は一本化し 他の植物を押しのけて 天空を目指す。 ・ でも最初から君たちは 湖を創ろうと決意して いたんだね。 |
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10月1日(月)曇 上条峠にて |
終焉の双曲線 奇跡が起こった。 折れた幹の先端が 漸近線となって2つの 重複したした双曲線を 成しているのだ。 ・ 遥か無限の彼方へ 旅する双曲線は 無限の彼方で漸近線との 距離を無限小にし やがて1本の直線になって 虚空に消える。 ・ 3次元空間で2つの 双曲線が 同一平面に在ることは 奇跡に近いのだ。 台風9号の奇跡。 ・ |
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とうりゃんせ あれれ! これも台風9号の悪戯? ・ 片栗の森から 上条の森へ抜ける小道に ヌーと垂れ下がった 山藤の巨大蔓と老いた倒木。 ・ 台風襲来から 1ヶ月近く経つのに 『とうりゃんせ』のまま。 若しかすると誰も未だ この道を通ってないのか? ・ 鹿や猪は 罠かもしれないと警戒し 狐や狸の子供は ブランコにして遊ぶのかな? |
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10月1日(月)曇 片栗の森にて |
森のオブジェ 死がこんなに アートだなんていいね! ・ さり気無い1枚の枯葉 弦のような曲がった細い枝 根元をキューッと絞り 風化した枯れ幹。 ・ 枯葉や細い枝を アートしたのは風。 苔の緑を幹に塗りたくったり 幹を彫刻したのは 森に流れる星霜。 ・ このオブジェが ビオロンのような音色を 発するのを知ってるかい? ・ |
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《雨音の背後に潜む音楽》 を聴くために ふと旅に出て消えてしまった 大物政治家を演じたのは マストロヤンニ。 ・ 雨音の背後の音楽を奏でる 楽器は何か? その楽器の所在を 国境の難民に混じって 探し求めるマストロヤンニ。 上条の森の至る所で 目にする森のオブジェが 雨に打たれて密やかな音色 を紡ぎ出す。 ・ これこそまさしく 《雨音の背後に潜む音楽》 |
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10月1日(月)曇 上条の森にて |
猿の腰掛 聴こえてくるね。 微かな音のグラデーション。 ・ 小さなカスタネットは 高い音を出し 大きなのは低音を奏でる。 ・ ともすれば逸脱しそうな 打楽器の音色を 雨が静かに押さえて しっとりしたエレジーを 奏でているね。 ・ アンダルシアの舞姫が 憂いを帯びた瞳で 最後のカスタネットを敲き 静止した瞬間に 訪れる音色でもあるね。 |
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10月1日(月)曇 上条の森にて |
白鬼茸 濡れそぼった暗い森に ぼーっと灯る白鬼茸。 ・ 鬼が持っている棒と同じ イボイボがあるから 鬼茸で色が白だから シロオニタケ。 命名は至って単純明解。 ・ 発生初期は 玉を形成するので タマシロオニタケでもある。 両者の区別に目くじらを 立てても意味は無い。 ・ だがこいつ存在が世界で 確認されたのは2ヶ所。 日本と北アメリカ東部のみ。 ・ |
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球、雪達磨、傘 雪達磨の画像を昨年の HPに載せたが 別々に観察すると同一の 茸とは思えない雪の忍者。 ・ 猛毒を持っていて 日本でも死亡事故が報告 されている。 ・ この白い雪の忍者が 日本と遥か離れた 北アメリカ東部の2ヶ所のみで どうして発生したのか? ・ ところで君たちは どんな音色を放つんだい? 聴かせておくれ。 |
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9月29日(土)雨 北の森にて |
霜柱の花 あと3ヶ月もすると この植物が2度目の白い 氷の花を咲かせるなんて 誰が想像できよう。 ・ 先ず氷の花を見てください。 それから昨年のHPを 開いてください。 これでこの花の正体が 解ったでしょう? ・ 花と氷が結びついて 森の何処へ 行ったら逢えるか 山荘生活15年目にして やっと判るように なりました。 ・ |
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黄揚翅蝶 8月に産み付けられた卵が 幼虫に孵り 9月になって5齢に達し ほらこんなにコロコロ。 ・ 11月まで 畑の人参を沢山食べて もっと大きくなって 蛹になって越冬するんだ。 ・ 5月の暖かい日に脱皮して やっと成虫になって 山荘の庭や森を 飛び回るんだ。 ・ 人参をとるか 黄揚翅蝶の幼虫をとるか 迷ったけど あんまり沢山居て 池の鯉にあげちゃった。 今度飼育してあげるからね。 |
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9月29日(土)雨 北の森にて(下:10月1日西畑にて) |
木通(あけび) あけびだ! ・ この花とても 不思議なんだよ。 雄と雌株は同じなのに 花は雄花と 雌花に別れるんだって。 ・ 蜜を出さないので 虫が集まらないんだけど 雌花が凄いことやるんだ。 ・ 花蜂は蜜が出なくても 花粉が必要なので 雄花には集まるんだよ。 ・ そこで雌花は花粉を付けた 花蜂を呼ぶために 雄花に変身して受粉して しまうんだ。 ・ |
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蕩ける胎座の甘さ 早速山荘に持ち帰って 朝の食卓にのせたんだ。 ・ 何処を食べるかって? 黒い種の周りに在る白い ゼリーのようなやつを 胎座というんだけど そいつが滅法美味いんだぜ。 ・ 種は食べた後で ペッ、ペッと吐き出すのさ。 何かに似てるって? そうそうよく覚えていたね。 パプアニューギニアで食べた あのカカオの実と同じだ。 ・ 甘さは劣るけど 味はとてもよく似ている。 美味しいんだよ。 |
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10月1日(月)曇 東の農道にて |
神無月2週・・・森のオペラ
森のオペラ キンキンと秋の空が 澄み渡って ぱらりと舞い降りてきた 1枚の招待状。 ・ 山荘の森のどんぐりも みんな落ちてしまい すっかり色褪せてしまった。 ・ ところがどうだ! 招待状が舞い降りるや どってこどってこ 歩き出して《どれどれ 招待状だって!》 ・ 《文学館の森で 今日の午後2時から オペラだって! ずいぶん素敵だね。 春のセロ弾き以来だね》 ・ |
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おかしなはがきが ある土曜日の夕がた 一郎のうちにきました。 かねた一郎さま
九月十九日 あなたは ごきげんよろしいほで けっこです。 あしためんどな さいばんしますから おいでんなさい。 とびどぐ もたないでくなさい。 やま猫 拝 |
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10月6日(土)晴 山梨県立文学館にて(一郎葉書を読む) |
笛吹きの滝 一郎がすこし行きますと そこはもう ふきの ・ 笛ふきの滝というのは まっ白な岩の なかほどに 小さな穴があいていて そこから水が 笛のように鳴って飛び出し すぐ滝になって ごうごう谷におちているのを いうのでした。 一郎は滝に向いて ・ |
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「おいおい、笛ふき やまねこがここを 通らなかったかい。」 ・ 滝がぴーぴー答えました。 「やまねこは、さっき 馬車で西の方へ 飛んで行きましたよ。」 ・ 「おかしいな 西ならぼくのうちの方だ。 けれども まあも少し行ってみよう。 ふえふき、ありがとう。」 ・ 滝はまたもとのように 笛を吹きつづけました。 |
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10月6日(土)晴 一郎笛吹きの滝に聴く |
オペラシアター こんにゃく座 学生達のサークルが 始まりなんだって。 ・ 東京芸術大学にむかし 『こんにゃく体操クラブ』が あって演技や身体訓練を していてそこから 和製オペラを目指して・・・ ・ 後列のかねた一郎を演じた 井村タカオ 前列左の馬車別当の 石川貴美子 前列中央の可愛らしい 栗鼠役の豊島理恵。 ・ ピアノとパーカッション だけのオペラの始まりだよ。 ・ |
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林から きこえてきた歌 オペラの1幕は 『林からきこえてきた歌』 で始るんだ。 ・ 森の中でオペラを開こうと 計画した会長を 訪れた、かねた一郎は 谷川俊太郎の「私たちの星」や 「うんこ」の詩に塗れて すっかり森になっちゃって・・ ・ 実はその会長の正体は 『どんぐりと山猫』の 山猫だったんだよ。 ・ さて森に引き込んだ一郎を 再び森に召還する為 山猫は葉書を書くぞ! |
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10月6日(土)晴 森のオペラ始まり |
馬車に乗って 一郎は森を去ります 第2幕はいよいよ 『どんぐりと山猫』で葉書が 一郎に届けられ開幕。 ・ 両腕を前に出している 馬車別当が 「そんだら、はがき見だべ」 と一郎に言う場面など 観客は大喜びさ。 ・ 一郎の左隣の山猫が しゃけの頭じゃなくて 金色どんぐりを一升も 持たせてほっとして 一郎を送り出すと 森のオペラは ファンタスティックな幕を 閉じるんだ。 ・ そして賢治からの 本当の葉書が僕たちを 待っているんだよ。 |
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賢治からの葉書 《銀河鉄道》が山梨県の 韮崎を走る中央線で カンパネルラが 韮崎の保阪嘉内だなんて! ・ 山荘の近くがあの壮大な 《銀河鉄道の夜》の舞台で あると知って 興奮した今春の音楽会。 ・ そうあの音楽会の 《セロ弾きのゴーシュ》が 《銀河鉄道》の舞台を 教えてくれたんだ。 ・ BBCの5月10日を 見てごらん。 ゴーシュが『鼠』と名乗って 書いているよ。 |
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茸の馬車と馬車別当(上) 文学館企画展73通中の賢治書簡(下) |
嘉内との永訣 盛岡高等農林学校で ジョバンニとカンパネルラ の関係にあった賢治は 1920年12月の書簡で 嘉内にこう書いている ・ 『我が友、保阪嘉内 我が友、保阪嘉内 我を棄てるな』 ・ 何故二人は 引き裂かれてしまうのか? 何故嘉内は 学校を除名されたのか? |
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賢治から嘉内へ 『今聞いたらあなたは 学校を除名 になったそうです。 その訳はさっぱり 判りませんが 多分アザリア会で目立った事 例の西洋紙問題 それからあなたの公然 あちこち歩いた事などでしょう。 どれにしても 大したことではありませんが 学校では多分 これから後の あなたの運動を 困ったものとして 考えたためでしょう。・・・』 (1918年3月嘉内除名) |
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宮沢賢治(中央上)と保阪嘉内(中央下) |
文学館の森 アザリア5号が さり気無く森の文学館に 置いてあった。 ・ 『我を棄てるな』と 嘉内に書いた2年前 1918年(大正7年)2月20日 5号は発行された。 翌月嘉内は学校除名。 ・ 字も不揃いのガリ版刷り のその冊子に嘉内は 『社会と自分』という 小論文を載せていた。 ・ 嘉内の除名処分は それが原因らしいと推察し 賢治は韮崎に戻っていた 嘉内に書簡を 送ったのである。 ・ |
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ゆったりとした広い森に 赤煉瓦のマントを 纏った文学館が佇む。 ・ 賢治の若き日の手紙の 垂れ幕がきんきんと 澄み渡った秋の空を 切り取る。 ・ つい先程甲府気象台は 富士の初冠雪を告げた。 初冠雪を映した空に 賢治が 浮かび上がる。 ・ この森に 73通の賢治の手紙が 80有余年の時を経て やって来たんだね。 ・ 逢えてとても嬉しいな! |
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10月6日(土)晴 初冠雪の空と森 |
山荘の銀河鉄道 光り輝く地平線が 見えるかい? ・ あの光の下に銀河鉄道が 走っているんだよ。 右へ走り続けると カンパネルラの生まれた 韮崎に直ぐさ。 ・ 嘉内除名の3年後1921年 在京中の2人は 激しい宗教論争をして 決別したんだ。 ・ その直後から《銀河鉄道》は 書き始められ3年後に 初稿が完成したんだって。 ・ |
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鳥居焼き 《銀河鉄道》の反対側に 夜空を焦がして 鳥居が浮かび上がった。 漆黒の虚空で 賢治と赤い火が 交差する。 ・ 賢治は銀河鉄道から あの火を見ているのだ。 ・ 「あれは何の火だろう。 あんな赤く光る火は 何を燃やせば できるんだろう。」 ジョバンニが 「 カムパネルラが 地図と首っ引きして 答えました。 |
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10月6日(土)晴 ワイン祭りの夜 |
秋桜の山荘 前庭のテーブルで 好く熟れたアケビを摘み ワインを一口 味わってから本を開く。 ・ 朝トレーニング後の食事で のんびりと読書するのは 最高の贅沢。 ・ 勿論、今朝は 『どんぐりと山猫』に 決まっている。 ・ 森や森の動物達にも 聴かせてやろうと 久々に声を出して読む。 ・ ほら、秋桜も小首を 傾けて聴いているよ。 ・ |
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褄黒豹紋蝶 コスモスが大好きな ツマグロヒョウモンが忙しなく 飛び回る。 ・ それでも聞き耳を立てて 時々じーっと静止する。 どんぐり裁判に 興味を示してるのかな? ・ 姫赤立翅にしては こいつとびきり大きくて美麗。 最初はアカムラサキかとも 思ったが あれは石垣島の産。 となると残るは褄黒豹紋。 ・ 昨年の姫赤立翅と比べると 随分違うだろう。 |
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補足*前翅の基部にある縦の波線は 明らかに褄黒豹紋の雌である。 |
10月7日(日)晴 山荘西畑から |
秋色山法師 あれれ! つい先週まで 真夏の強烈な太陽を 緑の葉で 遮ってくれた山法師が 金色に染まり始めてる。 ・ いつも朝食をとる 前庭の石卓は山法師 娑羅樹、楓、無花果などが 木陰を成し涼やか。 ・ でも今朝は 涼やかどころではない。 寒いのだ! その上、太陽が南回帰線へ の旅を始めたので 木陰が広がり 最早秋を超えて冬近し。 ・ |
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散りゆく錦木 と言うことは 山法師より秋に もっと敏感な錦木は 更に朱を深めてるはず。 で、本を閉じて 山荘周辺では唯一本 錦木のある西の森へ散歩。 ・ 確かこの辺りなんだけど? あっ! もう、すっかり裸だ。 ・ 辛うじて残っていた 数枚の葉は朱を超えて 黒ずみ、赤い種も水気を失い しょんぼり。 ・ 錦木にとって もう秋は終わったんだ。 |
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10月7日(日)晴 山荘前庭(上)西の森(下)
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金木犀かぐわし 何処からともなく 高貴な芳しい香りが漂う。 あれっ!何処だろう? ・ ログの階段を登ろうと 手すりに掛けた手を止めて 暫し辺りを見回す。 ・ すっかり忘れていた 金木犀が階段横にひっそりと 咲いている。 ・ そうだったね。 確か3年前に1m程の 小さな苗木を植えたんだ。 大きくなったね ・ ありがとう! よく忘れずに 咲いてくれたね。 ・ |
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ガマズミ 金木犀は中国では 丹桂といって 白ワインに入れて呑むとか。 よし今度試してみよう。 ・ このガマズミも 食べられるので ワインに合うかもしれない。 ・ 金木犀もいいけど この黒ずんだ赤も中々 出せない色だね。 ・ こいつは山荘周辺に 沢山あるから 蔓梅擬のようにアートにして 室内に飾ってもいいな。 |
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10月7日(日)晴 山荘奥庭(上)山荘前(下)
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里芋収穫 ぐんぐん葉が大きくなって 周りの畑のどの里芋と 較べても山荘の 勝ちだね。 ・ 何しろ周りの畑のは 何十年も農業してるプロが 作っているんだから 何やっても適わないんだ。 ・ それがどうだ! 今年は大成功さ。 嬉しいね。 ・ 衣被ぎにして順天堂の 2703病室まで持っていって みんなにあげたら とても喜ばれたよ。 ・ |
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猪のタオル と言われても何の事か さっぱり解らないよね。 ・ 30年も登山を続けて それでも知らなかったんだ。 山荘を建てて 森を走るようになって やっと気づいたこの印。 ・ この泥を塗りたくった跡が 猪の仕業だなんて 驚いたね! ・ 早速猪タオルと名づけて 朝トレでの発見を楽しんで いるんだ。 かねた一郎君にも 教えてあげようかな? |
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10月8日(月)曇 山荘西畑(上)座禅草の森(下) |
神無月3週・・・カオスの森
10月14日(日)曇 大菩薩稜線にて |
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ななかまど ワイン仕込み後、夜のテラスでスペアリブと 山荘手造りビアで豊穣な秋に乾杯! 2次会はログハウスに移る。 パプアニューギニアで手に入れた 本物のバニラ果実を ラム酒に漬けたカクテルと 新酒ワインをしこたま呑み大いに語る。 テーマの1つは《芸術は進化しないのに数学や 科学は何故進化するか・・・》 ・ さて翌朝の散歩は2千mへと 大菩薩に走る。 ・ 霧の去来する山稜に真っ赤な七竈の実。 孕んだ透明な露に 森が映っている。 ・ こんな一瞬に巡り逢えるなんて なんと言う幸せ! |
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5千年の薔薇 薔薇が咲いた。 ・ 広い庭の片隅で たった2輪開いただけ なのに 庭が急に華やかになる。 ・ 薔薇は主産地 チベット周辺から 遥かなる過去に 古代バビロニアに流れた。 ・ 最古の楔文字で 『ギルガメッシュ叙事詩』に 記された薔薇は 中近東からヨーロッパへ 極東から北アメリカへと 南米を除く 世界に拡がった。 ・ |
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南米には無かった薔薇を アルゼンチンの メンドーサで見た。 ・ 南米最高峰アコンカグア の登山基地で 日本人の益田さんが 薔薇園を経営していたのだ。 ・ 「この花を一輪 女性に差し出せば 言葉は要りませんよ」 と益田さんが語っていたのを 懐かしく思い出した。 南米でも熱狂的に 薔薇は受け入れられたのだ。 ・ 薔薇の直ぐ横で今季一番の 山茶花が開いた。 うーん!貴女も美しいね。 |
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10月13日(土)晴 前庭にて |
キララ茸? 何処でも 見かけられそうな 有り触れた形の茸なのだが 初めて目にした 山荘森のニューフェース。 ・ 倒木に生える茸は 沢山あるが立ち木となると そう種類は多くない。 珍しいので直ぐに 同定出来ると思ったが・・ ・ 実は同定出来ていない。 形で一番近いのは キララ茸なのだが どうもこいつではなさそう。 ・ ネットで400種以上を 当たってみたが該当無し。 ・ |
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玉白鬼茸? でかいのが あちこちでゴロゴロ。 ・ このぼつぼつは どう見ても鬼茸の特徴。 だが今まで傘がこのように 裂けたのに お目にかかった事はない。 ・ 茸は実に様々な変容を 短時間で成し遂げる。 ある瞬間の画像のみで 判断すると 大混乱を生じる。 ・ さてこの上下画像の 正体は何であろうか? 情報の提供を! |
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10月13日(土)晴 P2稜線にて |
山荘茸もご覧! 森でこれだけの茸が 騒ぎ出したと言う事は 山荘の椎茸も と思って覗いてみると 大きなのが 出来てる出来てる。 ・ お店では決して 売られていない 直径20cmもある大きな 椎茸がにょきにょき! ・ さあ、どうやって 食べようか! |
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あれっ! 種を見てみると edodesだ。 エドデス、江戸です。 ・ でもどうも偶然の一致らしい。 ラテン語のedodimosから とったらしい。 「食用の」という意味だとか。 |
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10月13日(土)晴 倉庫裏にて |
ほっぺが落ちる 小さな青い実が春に 沢山付いたのに 夏になっても実らず。 ・ アーアー 今年の無花果は 2本とも駄目か。 とすっかり諦めていた。 南の無花果は 髪きり虫に 孔を開けられ瀕死状態。 ・ ところがどうだ。 西の無花果は この1週間で色付き すっかり大きくなって 美味しそう! ・ |
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10月13日(土)晴 前庭にて |
半分に割ってガブリ! 蜜のような ねっとりした濃厚な甘さ。 ・ うーん 今年の熟れ具合は最高! 早速 朝食のフルーツに加え ヨーグルトを絡め ワインの肴にする。 ・ おーこの贅沢を 独り占めにしては天罰が 下りそう。 ・ 「先生!お久しぶりです」 タイミングよく やって来た馬渕君と おーちゃん。 ・ 「いいところに来たな |
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10月13日(土)晴 前庭にて |
出来立てのワインと ?ぎたて無花果だ。 まー食べてごらんよ」 ・ 「美味いですね!」 とか言って皮を残してる。 「おいおい、勿体ない。 皮ごと食べるんだ」 ・ 無花果と同じく ペルシャ原産の石榴が ちらりと視線を投げる。 ここ数年実らなかった 石榴が今年は たった1つだけど実を 結んだのだ。 ・ 山荘特製パン、ワイン 果実、サラダの 朝食を終えて準備完了。 さあ白ワインの 仕込み開始。 |
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10月13日(土)晴 前庭にて
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白ワイン仕込み 白の仕込みには 地元葡萄『甲州』を使う。 甲州の収穫は 赤のベリーAより1ヶ月程 遅くなる。 ・ 富士の初冠雪も終わり 10月になると 山荘はすっかり冷え込み ワインの醸造が 難しくなる。 ・ 酵母が活性化せず 甘みの残った白ワインに なってしまうのだ。 ・ そこで今年は 低温に強い酵母を 手に入れたのだが・・・ ・ |
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フランスの細菌学者の 名を付けた Pasteur Champagne。 何故かフランスでなく クロアチア産の酵母である。 ・ 馬渕と、おーちゃんが 葡萄を房からもいで 樽に入れる。 ・ 山荘主が潰して ワインプレッサーに入れて 葡萄を絞る。 ・ えこちゃんはキッチンで スペアリブやパスタや ディナーの準備。 ・ シェフは調理の合間を縫って 俄かカメラマンになり はい、パチリ! |
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10月13日(土)晴 前庭にて |
白ワイン誕生 赤ワインの仕込みは 簡単である。 葡萄の皮さえ剥ければ 後は酵母が果肉を ワインにしてくれる。 ・ 1週間経って浮いた 葡萄の皮と種を除けば ワイン液だけが 樽に残り発酵を続ける。 ・ 白は最初に葡萄を絞り 葡萄液にしてから 発酵させるのだ。 ・ 従って果肉をしっかり 潰さねば葡萄液は 絞れない。 ・ |
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先ず樽の中で丹念に潰す。 次にプレッサーに入れて 1回目の絞りを行う。 ・ 更にプレス板を上げて 絞り滓を撹拌し 2度3度と絞り直す。 ・ それでも残念ながら 白い果肉が残ってしまう。 種と皮が 混じっているので 圧力だけでは果肉は 液化しないのである。 ・ この滓でジャムを 作ってもいいのだが 人手が足りない。 もったいないが棄てよう。 |
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10月13日(土)晴 前庭にて |
杜氏の湯治 全身葡萄塗れになって 手も顔もベトベト。 ワイン仕込みの後は おんせんに限る。 ・ 塩山駅前温泉を始め 山荘周辺は 至る所温泉がゴロゴロ。 ・ 河の工事してたら 温泉が 湧き出して困ったとか。 ・ 地元に居して15年の 山荘主も 未だ行った事の無い 温泉が幾つもある。 ・ さて何処の温泉へ? ・ |
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星空が天井 とご自慢の その名も 『ほったらかし温泉』 ・ この地は当初の 山荘建設予定地上部にあり 何度も足を運んだ 懐かしの場所である。 ・ 当然眺望は最高! 真正面に富士山が 悠然と控えているのだが 残念ながら雲に 隠れて今日は見えない。 ・ 夜明け1時間前に開場。 荘厳な日の出を拝し 夜は銀河鉄道の走る 夜景を堪能出来るのだ。 |
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10月13日(土)晴 ほったらかし温泉にて |
可憐な竜胆 多難な日々を送りつつ 自らの希望を実現 する為の挑戦を地道に 続ける馬淵君。 ・ 折角時間を割いて 山荘に来たんだからと 最大の御持て成しを することにした。 ・ でも山荘主の持て成しって 一番大切にしている 森や山に 連れて行くことなんだ。 ・ だから山や森が嫌いな 人間にとっては 苦痛でしかないんだよ。 ・ ほら足元の竜胆 ここに崇高な生の歓びが 耀いていないかい? |
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10月14日(日)曇 唐松尾根にて |
馬淵君の挑戦 幼児から老人まで 誰でも気軽に安全な ハイキングが楽しめる 大菩薩峠。 ・ いつも沢山のハイカーで 溢れてるけど 早朝は静まり返っている。 ・ コースも上部が岩場に なっている富士見新道には 人影は無い。 ・ 早朝と岩場コースを 組み合わせると 山荘主の大好きな 静かな山と森に出逢える。 ・ さあ!馬渕君ここだよ。 ・ |
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ヒマラヤの7千mで ザイルを組んだ 村上、大田、坂原に 混じって 岩登り初めての 馬渕が不安そうに テラスで佇む。 ・ 左側の壁に手を付けたが やめて右に移り 村上の登攀を見つめる。 中々決心がつかない馬渕。 ・ 後に馬渕が語った。 「帰ろうと思ったけど ここから 1人で帰ると もっと大変だから 登りました」 |
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10月14日(日)曇 富士見新道にて |
霧の中に村上の 思い詰めたような真摯な 表情が浮かぶ。 ・ K2(8611m)報告書に 載せた村上の文章が 霧に去来する。 ・ 何故『登るのか』 何故『攀じるのか』 ・ 私達は、その《答》を 欲しているのではなくて 山頂にこそ本当の 自身の《問い》を 見出せる筈だと ・ そして 生きていくということは 《問い》を追い続けること だときっと知っている。 ・ |
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だから 私達は山に登り続けて いくのだろう。 ・ 自然の存在の一部として 生まれた人間は 無知から脱し 試行錯誤を繰り返しながら 時の流れの中で 知性を深めてきた。 ・ 認識を極めていくほどに 人は孤独な場所に 辿り着かざるを得ない。 ・ けれども その場所でこそ 本当の自分自身に 出逢えるのではないか。 ・ そこは 《死》そのものが 待つ場所かもしれないが・・・ |
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10月14日(日)曇 神成岩下部にて | (参照:K2報告書279ページ) |
カオスの山巓 激しく霧が流れる。 ・ 甲斐から突き上げた霧は 2千mの山稜で宙を漂い 武蔵の国へと一気に 舞い降りる。 ・ 北の高気圧から 吹き出す風は霧を凍らせ 高度を下げて 再び霧を解凍し 冷たい露を心象風景に 送り込む。 ・ 今は冷たいだけだけど ほんとうは氷の粒で もうすぐ総てを 凍結するんだよ。 ・ さあ!急がないと・・・ ・ |
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10月14日(日)曇 神成岩頂上 |
森のカオス 生を疾うに失った 枯れ枝が迫る。 ・ 硬く凍てついた氷の光を 乱反射させながら 先端に新たなる 生命を宿らせ 辛うじて生き残っている 黄葉した我が身を 振り返る。 ・ 凍てついた光と 生の最後の彩を投げかける 黄葉との対照が 森のカオスに滲む。 ・ |
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森のカオスに 朱が散る。 ・ 気管支粘膜から咳と共に 吐き出された血液は 鮮やかな朱を 留めたまま1つの宇宙の 終焉を告げる。 ・ 複雑な操作を担った 各種銀河への 命脈を支配する気管支が 機能を失い この瞬間にカオスへの 回帰が決断された。 ・ もっともっと鮮やかな光で 夏の終わりを 祝福しておあげ! |
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10月14日(日)曇 稜線の森 | (撮影:村上映子) |
村祭りの夜 薔薇や山茶花の紅に 迎えられ 朝トレのP2山稜で 見知らぬ茸たちに出逢い・・ ・ 秋の豊穣な果実やワインを 味わい 白ワインの仕込みに 汗を流し 絶景の露天風呂を愉しみ・・ ・ えこシェフの自慢料理に 舌鼓を打ち 2千mの稜線で 初秋の森の彩に心惹かれ・・ ・ 再び夜がやって来た。 ・ |
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突然『どーん』と 森を振るわせる音が響く。 テラスに出てみると 山荘眼下に 光の大輪が開く。 秋桜の花弁のようだね。 ・ そういえば確か 山荘下の玉緒神社に 神輿が出ていて 子供たちが 太鼓を敲いていた。 のびやかな音が 山荘まで響いていたね。 ・ そうか!今日は村祭りだ。 街の灯が滲んで 光の草原になって その上に開く花々は ほんとうに美しいね! |
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10月14日(日)曇 山荘テラスより
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神無月4週・・・誕生日の山猫の招待
百の頂に 百の喜びあり 磨かれた黒御影石に 不確かな像が 蜃気楼のように浮かぶ。 ・ 黒色の深成岩に潜む 角閃岩や輝石が 暗黒の彼方から 弱々しい光を発する。 驚いた! その光の中に 私自身が存在したのだ。 ・ 漆黒の石に刻まれた 白文字の背景は やはり漆黒そのもので このような光を 見出す事は出来ない。 ・ 森が囁いた。 《ここから見てご覧!》 ・ 漆黒でしかなかった 黒御影に微かな光が兆し 浮かび上がったのは 私自身であった。 太陽光、黒御影石と 私自身の位置から計測 される僅かな角度に 鮮明な像が描き 出されていたのだ。 ・ 白文字は地元山岳会の 山寺に宛てた久弥の 献辞である。 著書『日本百名山』に 書かれた久弥の言葉を 山寺はシラーの名言 と云うがゲーテとの 説もある。 |
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10月20日(土)晴 茅ケ岳登山口にて |
文学散歩 森のオペラ 《どんぐりと山猫》に招待 してくれた山猫は 1ケ月後やっぱり一郎に 2番目の葉書を 書いたのだ。 ・ かねた一郎さま 十月十九日 あなたは ごきげんよろしいほで けっこです。 あしたおたんじょび ですね。 あしためんどな ぶんがくさんぽするので おいでんなさい。 とびどぐ もたないでくなさい。 やま猫 拝 |
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10月20日(土)晴 銀河鉄道公園にて |
そのめんどな 文学散歩の最初の 訪問地が茅ケ岳で急逝した 深田久弥の文学碑。 この後、銀河鉄道展望台 保阪家、山寺家と 巡りますと 山猫は告げる。 ・ 賢治と深田久弥と 碑文《百の頂に・・・》と 何処でどう繋がるのか? 山猫の意図は? ・ 久弥の文学碑から 保阪嘉内の生家に下る 穂坂台地に銀河の 展望台は在る。 ・ 正面に甲斐駒、鳳凰三山 背後に茅が岳 眼下に銀河鉄道の 中央線が 走る絶好の展望台。 |
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10月20日(土)晴 銀河鉄道公園にて |
カンパネルラ末裔 銀河展望台を下り 保阪家へ向かう。 ・ 玄関で嘉内の次男 齢80になる保阪庸夫氏が 迎えてくれた。 ・ 宮沢賢治が 『我が友、保阪嘉内 我を棄てるな』と書いた カンパネルラのモデル嘉内。 その次男がいきなり 深田久弥について 語りだした。 ・ 「私が駆けつけた時は もう死んでいました」 ・ 何と保阪庸夫氏は 外科医で 久弥遭難時 逸早く現場に駆けつけ 検死したと言う。 ・ |
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10月20日(土)晴 保阪嘉内・宅にて |
「腕白坊主で雑司が谷の 家ではしょっちゅう親父に 縁側に正座させられて いました」 ・ 「えっ! 雑司が谷って 東京のですか?」 「そうです。日本女子大 の横に住んでいた頃です」 ・ 「私、その近く目白に 住んでいるんですが 今でもその家 あるんですか?」 ・ 「ありますよ。 嘉内が日本青年協会に 勤めていた頃で7歳 から2年程居ました」 ・ 「私の家から数分の所に 住んでいたんですね」 |
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10月20日(土)晴 保阪嘉内・宅にて |
ナイヒリズム ほんとうにでっかい力。 力。力。 おれは皇帝だ。 おれは神様だ。 おい今だ、今だ 帝室をくつがえすの時は ナイヒリズム。 ・ アザリア5号に 掲載された保阪嘉内の 『社会と自分』である。 ・ 5号発刊の3ヶ月前に ロシア革命勃発。 ナロードニキの影響を受け 嘉内は演説原稿(?)に こう記す。 ・ 『諸君人民にゆけ 百姓をせよ そして我々の ハッピイ・キングドムを作れ パラダイスを作れ』 |
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10月20日(土)晴 文学館にて |
嘉内が除名される年 大正7年(1918)1月盛岡 高等農林学校の掲示板に 『われらはわれらの 信ぜざることをなさず』と 書かれた紙が張り出された。 ・ 現役将校の学校への配属を 決定した臨時教育会議 への抗議文らしい。 アザリア会員とそのシンパの 檄文と推測されている。 ・ 学校当局はアザリアを 恐れた。 『あの恐ろしい海外の 思想に染みて』と判断し リーダー・嘉内の除名処分を 密かに決定したのであろう。 ・ |
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10月20日(土)晴 文学館にて |
しかし13年後 賢治の死の1年前に 書かれた『雨にも・・・』に あるようにアザリアの理想は 社会革命に在らず 土に還ることにあった。 |
大礼服の 例外的効果 賢治はこの作品の中で 除名処分を下した 学長の佐藤義長に こう語らせている。 ・ 「或いは早くもあの 恐ろしい海外の思想に 染みていたのか どれかもわからなかった。 卒業証書も生活の保証 も命さへも要らないと 云っているこの若者の 何と美しくしかも 扱ひにくいことよ」 ・ この紀元節式典の 1ヵ月後・3月13日に 嘉内の除名は掲示された。 ・ |
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10月20日(土)晴 文学館にて |
日輪と山 深田久弥の遺体を 山から担ぎ降ろしたのは 山寺仁太郎であった。 ・ 山寺への献辞の名言は 後に碑文となるが 山寺には 久弥との面識は無い。 ・ 「茅ヶ岳遭難者の 救助要請があった時 深沢七郎だと思ったが 深田久弥でした。 大きな人で75kgもあって 重くて大変でした」 と山寺は語る。 ・ 賢治の銀河鉄道を追い カンパネルラを求め 碑文の『百の頂・・・』に 出逢い再び賢治の 山の絵画と対峙した。 ・ |
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10月20日(土)晴 文学館にて | 黒御影の漆黒の中に 一瞬現れた幻像と 『百の頂・・・』が甦る。 ナイヒリズムと漆黒スクリーン。 ・ 文学散歩なる山猫の 2度目の招待の 意図について賢治が 語りだすまで暫く待とう。 |
日輪と峠 山猫との文学散歩で 慣れない漫ろ歩き なんぞをして とても疲れた。 ・ 茅ケ岳の登山口まで 行って登山もせず 帰ってくるなんて肉体が 許さないのだ。 ・ 昨日出来なかった朝トレ と今朝の分を含めて 座禅草の森から上条山 平沢集落を経て 山荘までたっぷり汗を 流した。 ・ 座禅峠で遭遇した日輪の 何と清清しく大きいこと。 ・ |
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10月21日(日)晴 座禅草の森にて |
座禅峠を超えて 夜明けの太陽が西の森に ゆるゆると忍び込む。 ・ 葉を失った幹は 弦となって夜明けの光を受け 微かに震えビオロンの 音色を紡ぐ。 ・ 2枚の葉をリードにして光は 木々の葉を通り抜け オーボエになったり クラリネットになったり リード・オルガンにだって なるんだよ。 ・ 光がさ 森を楽器にして こんなに豊かな調べを 奏でるなんて知ってたかい? |
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背高泡立草 夏の大泡立草が終わり 秋の休耕地で 我が物顔に背高泡立草が のさばり出した。 ・ cis-DME シス-デヒドロマトリカリエステルと 舌を噛みそうな名前の 物質を根から発し 周囲の植物の成長を 抑制する。 そのため何処でも 大繁殖する。 ・ 気管支喘息の元凶等と 誤った情報で 嫌われ者の帰化植物に なってしまったが 蜜蜂やカナブンにとっては 蜜の供給源。 ・ |
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10月21日(日)晴 東の森にて |
野 菊 遠い山から吹いて来る こ寒い風にゆれながら けだかく きよくにおう花 きれいな野菊(のぎく) うすむらさきよ。 ・ パブロフの 条件反射のように 野菊を見ると必ずこの詩が 身体の中を駆け巡る。 余りにも単純な脳構造に 我ながら呆れてしまう。 ・ この時期山荘周辺には 至る所咲き乱れているので 大変である。 一日中詩が垂れ流し。 ・ でありながらこの作詞者を 知らなかった。 中学生の私を夢中にさせた 『コタンの口笛』の作者 石森延夫だったのだ。 |
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10月21日(日)晴 東の森にて |
羅須地人協会 「下ノ畑ニ居リマス 賢治」 ・ 多感だった少年時に 最も強く惹かれた言葉の 1つに賢治の この言葉があった。 ・ 何故この 他愛無い言葉に少年が 惹き付けられたのか? ・ 当時の私には賢治の 作品なんて 童話の数点を除いて 殆ど理解出来なかった。 ・ でもこの言葉に 賢治の本質を見出し 『下ノ畑ニ』居たいと 真から願ったのだろう。 |
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10月21日(日)晴 西畑にて |
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薩摩芋蔓との闘い 山荘の下の畑に 行く度に 羅須地人協会の黒板に 書いた賢治の言葉を 真似して 書いてみたいなと ふと思う。 ・ 山猫がそれを見たら きっと吹き出して 「おやおや、とうとう 地人にでもなったつもり」 と大笑いするだろう。 馬車別当なんか腹を 捩って抱腹絶倒するに 違いない。 ・ でもね山猫さん馬車別当さん 猪にも鹿にもやられず 数年ぶりにやっと収穫まで 漕ぎ着けた薩摩芋だよ。 喜んでおくれ。 |
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10月21日(日)晴 西畑にて |
山猫変じて 蛙となる 不意に飛び出し 隣のほうれん草畑の 葉に乗ってご挨拶。 ・ 「おいおい! 乱暴するなよ。 一郎さんを馬鹿にして 笑ったわけではないんだ」 ・ 強くて永遠に長い 薩摩の蔓と 大格闘してたら可愛らしい 蛙が慌てて出てきた。 ・ どうもセリフからすると 山猫らしいのだ。 この薩摩芋畑に 隠れ棲み馬車別当を 指図していたのだろう。 ・ |
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10月21日(日)晴 西畑にて |
山荘の池に沢山の 卵が産み出されてから 心配してたんだ。 あれから随分探したんだぞ。 ・ 夜の芝生を走ってたり テラスの縁の下に 潜んでいたり 偶には見かけたけど こんなに元気そうな姿を 見たのは初めてだよ。 ・ 逢えてとても嬉しいよ。 ところで文学散歩の 招待状をありがとう! 御蔭で嘉内の除名処分の 謎が解けたよ。 ・ 今度は黒御影に映じた 像の解析を解く旅への 招待頼むよ。 |
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10月21日(日)晴 西畑にて |
でっこい紅東 猪の大好物である 薩摩芋の栽培は 山荘では苦労するのだ。 ・ 防猪ネットを数十メートル 張り巡らし 毎週ネットの点検をし それでも或る日 突然ブルトーザーで 掘り起こされたようになって 芋の欠片すら残らない。 ・ 何度泣いたことか。 今年こそと気合を入れて 大切に育てたが それが大失敗! |
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10月21日(日)晴 西畑(上)テラス(下)にて |
薩摩芋は開墾地など 荒地を好み 肥料が豊かだと 葉ばかりが育ち芋は 大きくならない。 ・ 今年のベニアズマは 葉ばかりがグングン成長し 畑は芋の葉で 海になってしまった。 ・ 膨大な葉の山を 果樹畑まで運び上げ 芋の掘り出し開始。 ・ 案の定収穫量は少ないが 結構大きい。 早速圧力釜で蒸かしたが 甘み不足で色艶も イマイチ。 残念! |
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10月21日(日)晴 西畑(上)テラス(下)にて |
随喜の涙 「いもの葉に置く 白露のたまらぬは これや随喜の 涙なるらん」 ・ 臨済宗の僧 夢窓国師疎石の歌から 里芋の芋柄の 乾燥したものをズイキと 呼ぶらしい。 ・ ズイキ用の芋柄は 赤い柄らしいが 山荘では普通の里芋の 柄を乾燥させる。 ・ これ酢の物にすると 結構いけるのである。 |
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10月21日(日)晴 陶房(上)西畑(下)にて |
鷹の爪 西畑に鮮やかな朱の 花が開いた。 ・ 滅法辛いこやつが 赤くなると冬の気配が漂い 北風小僧の寒太郎の 出番がやって来る。 ・ 山荘生活に入るまで 唐辛子は唐辛子で みな同じだと 思っていた。 ・ ところがこの鷹の爪は 唐辛子の親分で 超辛く 山荘料理に欠かせない。 ズイキと鷹の爪は 山荘冬の風物詩。 |
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10月21日(日)晴 陶房(上)西畑(下)にて |
カラーピーマン 人は 美しい自然から 生まれて自然に 還る。 自然に最も近いものは 土に親しむ 百姓である。 ・ 自然に従って 生死するのが人間の 定めであるから 成すべきことを果たして 一刻も早く自然に 還ること すなわち早世こそ 自然の寵児に ふさわしい。 |
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10月21日(日)晴 西畑(上)果樹畑(下)にて |
カラーピーマンと 百匁柿の発する彩に 見とれていたら 保阪嘉内の言葉が 流れてきた。 ・ 嘉内除名処分の3年後 大正10年(1921)7月18日 上野の帝国図書館で 嘉内と賢治が 激しく対立した時の 嘉内の主張骨子とされる 文章である。 ・ 宗教の彼方に『自然』を 位置づけ賢治の 熱心な 国柱会入信勧誘を 拒否したのだ。 ・ 改めて読み直してみると 嘉内と賢治の 生き方そのものであり 近未来の予言でもあった。 ・ 賢治は37歳 急性肺炎で死し嘉内は 胃癌41歳で死した。 |
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10月21日(日)晴 西畑(上)果樹畑(下)にて |
神無月5週・・・嵐の贈物
10月26日(金)雨 2階テラスから |
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夜の雲海 台風20号接近! 断続的に激しい雨と風が森を震わせている様子を見ようと 二重カーテンの隅から闇を覗いた。 薄い絹の衣が幾重にもたなびき生命の灯を優しく包む。 激しい雨と風はいずこにも無く、嵐の前の静けさ。 夜の雲海が静寂を通奏低音にし 生命の灯をチェンバロでかき鳴らす。 ・ 予期せぬ余りにも幻想的な夜の雲海に息を潜めて耳を傾ける。 生命の灯が絹衣に滲み、静寂に吸い取られ天空に舞い 無窮の深みに落ちて行く。 闇の底に屹立する富士が無数に飛翔する生命の残像を寡黙に見つめる。 哀しいまでの美しさ。 ・ 山荘が時として垣間見せる自然と生命の壮大なスペクタクルは 壮麗なヒマラヤを超越し、命に満ちた珊瑚海を凌駕し 山荘こそが究極の到達点であると告げる。 |
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M 42 生命の灯を ズームアップして覗く。 ・ 見慣れた青い灯は 若い星スバルの輝き。 馬頭星雲のような 漆黒の影を 成している赤い光は M42を連想させる。 ・ ミクロのガイアと マクロの宇宙が山荘眼下で 二重映像となって 存在の神秘を語る。 ・ 台風20号の 予期せぬ贈り物。 |
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10月26日(金)雨 2階テラスから |
台風一過 富士が真っ白になった。 夜明けの太陽が ゆっくりと雪富士を染める。 ・ 手前の無花果の大きな 夏の葉が 戸惑いつつ寒気に震える。 ・ 夏の熱射が 海を吸い上げ 天空に巨大な渦を巻き 北の寒気に触れ 雪と化したのだ。 ・ 最早夏の熱射は 無花果に微笑みはしない。 おや! 慌てて熟したのか いっぺんに 沢山の実がなったな。 これも台風の贈り物? |
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10月28日(日)快晴 前庭にて |
北岳雪化粧 もちろんこんな朝の トレーニングは 南アルプスのよく見える ルートに限る。 ・ 山荘の背後に 展開する南アルプスは 扇山山稜に遮られ 山荘からは見えないのだ。 ・ 小倉山か扇山の稜線に 登らない限り南アの 雪化粧を確かめる 術は無いのである。 ・ 稜線に飛び出した途端 真っ白な北岳。 冬の3本バットレスが 眩しいね! ・ 台風が冬のドレスを プレゼントするなんて驚き! |
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10月28日(日)快晴 T1稜線から |
輝ける生命 嵐の後に 初めて訪れた太陽が 漆黒を切り裂き 森に満ちる生命の存在を 高らかに宣言する。 ・ 途方も無く深く暗く 限りなく拡がる虚空の闇。 その闇の存在こそが 輝かしい生命の予感を 導くパラドックスであると 知っていたのだ。 ・ それを私に告げるために 1億5千万kmもの 空間を駆け抜けてお前は やって来たんだね。 |
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10月28日(日)快晴 東の森で |
漆黒の芽生え 途方も無く深く暗く 限りなく拡がる虚空の闇 から光が芽生えた。 ・ 紅葉した葉の細胞を 射抜いて1億5千万kmを 駆け抜けた光が 分子生物学の輝かしい 近未来を暗喩する。 ・ 今年の ノーベル医学生理学賞は 遺伝子ノックアウト技術を 確立したM・カペッキと O・スミシーズ達に 与えられた。 ・ 人類はゲノムの一部を 消去(ノックアウト)して 新たなる生命の作出に 手をつけたのだ。 ・ 漆黒の闇から生命を 産み出す光の存在を カベッキとスミシーズは 嗅ぎ付けたのであろうか? |
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10月28日(日)快晴 東の森で |
だが分子生物学専攻の 福岡伸一はこう語る。 (だが)本当に有効な 遺伝子組み換え作物は いまだ作出されていない。 生命操作の可能性を 追求する科学そのものが 操作的介入の 限界をも指し示している 逆説的断面がここにある。・・・ 先端性の輝きに満ちた 分子生物学は・・・ 『諦観のサイエンス』と 呼べるかもしれない》 更に 『可塑性とダイナミズムを もった平衡状態として 生命がある』と言う。 ・ 漆黒と光が ダイナミズムをもって 語られる日は未だ 遥かに遠いのだ。 (白文字:10月27日朝日新聞より) |
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10月28日(日)快晴 東の森で |
三十年の星霜 ・ 《先生、覚えてますか? 30年前の10月20日のHR。 教壇に贈物と茶饅頭置いて 黒板に誕生日メッセージ を書いて・・・ 知らずに教室に入ってきた 先生の驚き・・・》 ・ 《そんなことあったな! すっかり忘れていた。 今言われなければ決して 出てこない記憶だったよ。 そういえばいつも 雪焼けの焦げ茶色の顔 してて茶饅頭と 呼ばれてたっけ》 ・ そうかこの嵐が届けた 水滴の光は 30年の星霜と眩しく 煌いていた生徒達の命を 示唆していたのか! ・ 朝トレを終えて都会に戻り 30年ぶりに再会した 生徒との会話に 朝露がキラキラ光る。 |
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10月28日(日)快晴 東の森で |