その47秋ー2009年神無月
10月1週・・・・秋に染むる倉掛山
夕陽の山葡萄 10月4日(日)晴 倉掛山・1777m 初めての山・倉掛山 半世紀に亘って登山を続けているのに山葡萄を採って食べた記憶が無い。 ヒマラヤ、アンデス登山を重ね日本でもアルプス中心の高峰登山が多かったので出逢いの機会が 少なかったのは確かだが、それにしてもおかしい。 ・ で、初めての倉掛山の森のあちこちに紅葉する山葡萄を見ながらじっくり追想してみた。 ・・・だがやはり無いのだ。 ・ 山葡萄の紅葉を貫いた光が言の葉に突然変換される。 《この美しい山葡萄との一瞬の邂逅を果たす為に、半世紀もの星霜は そんなにもお前を待っていたのだよ》 ・ |
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冷たい雨 色付く葡萄畑 どしゃどしゃと 音を立てて雨が降り続いた。 気温が急に下がり 山荘の最低気温は11℃を 記録している。 ・ 雨の中で、ずぶ濡れになって 暖房&風呂用の 90gタンク2つに 石油を満たす。 さあ、いよいよ山荘に 冬がやってくるぞ! ・ 厚い雲海に閉ざされていた 盆地が姿を 少しずつ現わし黄葉した 葡萄畑や村の家々が 透けて見える。 が、雨脚は衰えない。 ・ 今日は悠絽と舞瑠を 山荘に連れて来る予定だが この雨では可哀そう。 止めておこう。 |
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初秋の夜明け チャラ・武蔵来る 今日も降り続くとの雨予報。 何の期待もせず 寝室のカーテンを開くと 山の端は群青に 縁どられ光に満ちている。 ・ 奥庭に出て犬小屋の 扉を開けようと 柿の木の下に目をやると 金色に輝く1枚の葉。 ・ こんな素敵な朝に 犬無しの散歩なんて あまりにも寂しい。 でも悠絽と舞瑠は迎えの 時間が決められているので 連れて来る訳には いかないし・・・。 ・ 悩んでいたら森人から 電話があり これからチャラと武蔵を 山荘に連れて来るとのこと。 ・ 嬉しいな! それじゃ今週はチャラ、武蔵 と山に行こう。 |
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でも前の造園業者に葡萄畑の東の森を伐ってもらったら 百万円も取られたけど 本当に無料でいいのだろうか? 「百万だなんてとんでもない。おらだったら唯でやったに!」 |
山荘原野の伐採 いよいよ開拓に着手 小倉山の森は すっかり綺麗になって 登山道を塞いでいた倒木も 片付けられ とても明るくなった。 ・ チャラと武蔵を連れて 小倉山から山荘に戻ると 森に人影がチラチラ。 あれ!チャラと武蔵の オーナー・森の住人だ。 ・ 「小倉山が片付いたで 約束どおり この森を綺麗にして道を 造ってやんべ」 ・ 「あの費用の必要が発生した 場合は事前に 連絡して下さい」 ・ 「なーにそんなもん要らんけ。 伐った木だけ貰えば そんで充分だで」 |
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高嶺の竜胆 標高1700m稜線 あんまり光が眩しいので 倉掛山に行こうと 村上さんを誘ったら 総ての用事を投げ捨てて すっ飛んで来た。 ・ さすが山荘の事務局長兼 特別賛助会員。 こんな仲間が居て初めて 山荘活動は可能 なんだなとしみじみ実感。 ・ 1人でも多くの賛助会員が 増えればと思うが 何しろ気難しい山荘主との 感性の共有が 必要条件なので中々 会員にはなれないのだ。 で、その賛助会員と 倉掛山に出かけました。 ・ すると倉掛山の竜胆が 呟くでは・・・。 「賛助会員だって! ふーん、そんなのが あったなんて誰も知らないよ」 ・ |
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山ラッキョウ 孤独な赤紫 標高1700mの稜線では もうすっかり 花の季節は終わり 目を凝らしても花なんか 見つかりません。 ・ やっと山ラッキョウを見つけた 左下の蜂が 実に嬉しそうにブンブンと 飛び回りながら ・ 「そうだ、村上さんが 沢山の用事を 投げ捨てて飛んで来たので 嬉しくて急いで 賛助会員を作ったんだ。 ・ きっと其のうち山荘主は 賛助会員のバッジなんかも 作って馬車別当に 配らせたりするんだぜ」 と会話に加わりました。 ・ 馬車別当って 《どんぐりと山猫》の あの馬車別当かい? それともチャラのことかい? |
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最初の紅葉 ヤマウルシ 「うぉふぉん、ごふぉん! そりゃ勿論 山荘主の信頼厚い私を おいて他に 馬車別当は居ませんよ」 と澄まし顔でチャラ。 ・ 馬車別当の云う事にゃ どうもバッジと 云うのはこの森で 最初に紅く燃えだした 山漆のことらしいのです。 ・ チャラは逸早く森の この紅葉を見つけるや否や さも山荘主が作った バッジであるかの如く 振る舞い、いそいそと 村上さんを誘い ほら、御覧のとおり バッジの下でポーズ。 ・ でもよーく観ると 何だか変なのです。 あんまり急いで作ったので 切り接ぎの跡が 残ってしまったのです。 ・ 森の中央を走る鋏の跡だって はっきり残り バッジの一部が切られて 何だか変なのです。 ・ それでも村上さんは ニコニコ笑って 「なーんて素敵なバッジ なんでしょう! 歓んで山荘賛助会員に ならせて頂きますよ。 ・ 問題は大きすぎて胸に 留めることが 出来ないことね。 きっと山荘主のことですから 胸に付けるバッジではなく 胸の中に飾るバッジ のつもりで 呉れたんでしょうね」 |
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防火帯草原 枯草の絨毯が広がる 草原で 僅かに黄色く色付いた 落葉松が 秋の薄い陽射しを浴びて チャラに語りかけます。 ・ 「おやおや、 疲れたのかい! その大きな体と14歳の 老齢を押して よくここまで登ってきたね。 なんせ14歳と云えば 人間の70歳だからね。 ・ 朝も小倉山まで行って それから 倉掛山に来たんだって。 それじゃ動けなくなっても 当然だね。 のんびり休むがいい」 ・ ところがそんな落葉松の 優しい言葉を無視して 腰を下ろしたチャラを 山荘主は無慈悲に 引き立てるのです。 |
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倉掛山頂の茸 森の山頂 山頂の切り株に 顔を出した茸が草原の 動かぬチャラを見下ろして モノローグ。 ・ 「どうも山荘主は あの元気で躍動的な 舞瑠、悠絽と 老齢なチャラの区別が 出来ないらしいな。 ・ 山に連れて行けば どんな犬でも 大喜びで走り回ると 勘違いしてるのかな? ・ おやおや、チャラを置いて 今度は武蔵が走り出したよ。 森の中でいつも自由な 武蔵がついに反乱か? ・ 紐が武蔵にとって いかに苦痛であるかも 山荘主は判ってないな。 実に困ったもんだ」 |
武蔵は山荘主がカメラを構えている隙を狙って リードを付けたまま勝手に走り去ってしまいました。 でも山荘主が見えなくなると立ち止まり山荘主が追いつく のを待っているのです。 老齢なチャラと自由な武蔵を山荘主が理解するには 未だ未だ時間がかかりそうですね。 ・ さてこんな調子で山頂まで行けるのかな? |
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山荘に戻ってから倉掛山の森で採った 山葡萄を食べてみました。 酸っぱくて口がひん曲がりそうな強烈な衝撃的味覚でした。 ・ 《トパアズいろの香気が立つその数滴の天のものなるレモンの汁》 よりも激しい酸味、半世紀の星霜の凝縮そのものであるかの 未完熟の我が山葡萄。 さてもう1粒を《ががりりと噛んで それからひと時 昔山巓でしたやうな深呼吸を一つして》 4年に亘る私の山荘日記もそろそろ緞帳を下ろさねばなるまい。 |
倉掛山の天辺 標高1776.7m チャラやったね! 武蔵ご苦労さん! ・ 誰も居ない山で初めて 目にする標識。 それが山頂の倉掛山 とは驚き!。 ・ 実はこの山、登っていても 位置の確認が 高度計でしか出来ず 不安だったのだ。 登山口の板橋峠にも 一切の標識が無く 峠の同定すら出来ず。 ・ 峠の道は縦横に 入り組んではいるが いずれの道にも全く 道標らしきものは無いのだ。 ・ 山頂も鬱蒼とした森。 数本の木が伐られ その1つに山頂標識が 掛けられている。 ・ その標識がこの山で目にした 唯一の文字だったのだ。 こんな山が 未だ残っているなんて 嬉しいね! |
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10月2週・・・・遙けき天竺への旅
天空翔る舞瑠 10月11日(日)晴 小金沢山・2014m 花果山の頂にある岩が割れて石の卵が生み出された。 卵から出て来たのは石猿ならぬ元気な犬・舞瑠。 天空から一片の雲を呼び寄せ飛び乗るや否や一瞬にして10万8000里の彼方へ。 ・ しばらくすると、雲の間に5本の柱が立っていた。 近くに寄ってみると...。 「ははぁ。これが世界の行き止まりだな。来た証拠に名前でも書いていくか。」 舞瑠は、自分の毛を1本抜いて筆に変えると、真中の柱に「斉天大聖」と記して ついでに「オシッコ」までもひっかけていった。 ・ さあ大変だ!そんなことしたらお釈迦様の5本の指で出来た五行山に 閉じ込められてしまうぞ。 ・ 何しろ舞瑠はエネルギーの塊で常に走り回り飛び跳ね,《孫悟空》だって 太刀打ち出来ない程元気で躍動的なのです。 さて本日はお日柄も良さそうですし、舞瑠と一緒に遙けき天竺への旅に出ますか? |
天空の紅葉 朝日を浴びる板屋楓 山を駆け巡っていた 斉天大聖・舞瑠は 或る日ポロリと 涙を零して呟いた。 「おれも、やがて年を取って いつか死んでしまう。」 ・ 「斉天大聖」とは 舞瑠が自分で付けた名で 斉天とは天に同じ つまり神であるとの意。 ・ 恐れ多くも斉天を名乗って みたものの舞瑠は 自ら神に有らずと自覚し 限り有る命に涙を落し 不老不死の術を 学ぶべく仙人達を訪ねる。 ・ 教えを乞う仙人は ノーベル医学生理学賞が 10月5日に決まった 米国のエリザベス、キャロル とジャックの3名。 ・ どうやら不老不死の術 とやらは酵素 テロメラーゼに秘められて いるらしいのだ。 |
思わず仰いだ空一杯に広がる紅葉。 「綺麗だね舞瑠! これは葉の死でもあるんだ。死も中々いいもんだろ」 |
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(10月5日付朝日新聞より) |
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ナナカマドだってこんな風に色着いて沢山の遺伝子を 真っ赤な粒に詰め込んで広大な宇宙へ放つ。 染色体の先端に在るテロメアを連想するね。 細胞分裂のシステムは生命が時空の海を乗り越える術で 生殖そのものの構図とそっくり。 ナナカマドの赤い実がテロメアに見えても不思議ではないね。 |
最後の七竈 湖の蒼と秋の実 3仙人は先ず そもそも人間は何故死ぬのか を舞瑠に講義しました。 ・ 細胞の遺伝情報・DNAが ぎっしり詰まっている 染色体の末端は テロメアと云う核酸配列で 出来ているんだ。 ・ 人間の誕生時体細胞では テロメアには 1万から1万5千の塩基対が 詰まっていて これが細胞分裂の度に 減少してどうやら 死を迎えるらしいのだ。 ・ およそ1年間で100塩基対ほど 短くなっていき 細胞増殖の限界である 5千塩基対に近づくと 細胞は複製されず 死んでしまう。 ・ 一万塩基÷百塩基=百年間 この計算で人間の寿命も 百年と判るんだ。 |
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小金沢山見ゆ 後方は雲掛る富士山 講義は更に不老不死の 術へと及びます。 ・ ところがだ。 細胞分裂を無限に 繰り返す奴が居るよね。 そう、癌細胞だ。 ・ 無限増殖するから 生命は細胞のバランスを 失い死んでしまう。 だがこの無限増殖の仕組みを 利用すれば 永遠の細胞分裂が可能に なるのではないか? ・ エリザベスとジャックは 1982年にテロメアの 役割を解明し更に キャロルが加わりその テロメアの塩基対を増殖させる 酵素テロメラーゼを 見つけたんだ。 ・ 無限増殖の仕組みが 酵素テロメラーゼに あるならこれを増減する ことにより老化を抑止し更に 癌細胞の増殖を抑えることも 可能になるのでは? ・ つまり不老不死の術は テロメラーゼにあり と云うことなんだよ。 |
さてさてこんな話を舞瑠が真面目に聴いている筈ありません。 山頂の見えてきた小金沢山にも背を向け 先々週に登った大菩薩峠方面をしきりに気にしてます。 これじゃ不老不死の術を手に入れるなんて未だ未だ無理ですね。 |
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山頂からの雪富士 ドウダンツツジの紅葉 頂は紅蓮の炎の如く 燃え盛る 満天星躑躅(ドウダンツツジ)に 包まれ恰も火焔山。 ・ さてこの火焔山の炎を 消して更に天竺・大菩薩を 目指すには羅刹女の持つ 芭蕉扇が必要。 斉天大聖・舞瑠は果して 羅刹女に勝てるのか? ・ 山頂には写真屋に扮した 2名の人影。 多分、牛魔王と羅刹女に 違いありません。 ・ 三脚を2台も立てて カメラを雪富士に向けたまま 身動きもせず不気味に 佇み続けるのです。 ・ いよいよ斉天大聖の 出番ですが舞瑠は 何処か痒いのか 山頂の大地に背中を頻りに 擦り続け知らん顔。 斉天を返上したのかな? |
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眼下に奥多摩三山 富士山の展望台 恐る恐る羅刹女に声を掛け 登頂の記念写真を 撮ってもらう。 ・ 南側に雪富士 西面には雲海を従えた 南アルプスが 渺茫と横たわる。 ・ 東面は先週登った倉掛山 から雲取山へと 幾重にも 山稜が重なり流れる。 ・ 更に山稜を辿ると 石尾根の南に 大岳山、御前山、三頭山 と奥多摩三山が眼下に 墨絵のような影を落とす。 ・ そして北には大菩薩手前の 熊沢山が聳えている 筈なのだが 原生林に遮られ見えない。 残念! |
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と三蔵が語りかけましたが やっぱり羅刹女との闘いはカットして 天竺へ向かうことになりました。 ・ 羅刹女と牛魔王は相変わらず頂を占領したまま不気味に佇み 無言で三蔵一行を見送るのでした。 |
山頂の岩場で 緊張の悠絽 羅刹女の芭蕉扇は諦め 天竺への旅を中断し 小屋平へ戻るかい? ・ すると高い処に弱い悠絽が 岩場に乗って 大菩薩に向かい 耳を立て雄々しく叫ぶでは ありませんか! ・ 「うんにゃ、それはいかん! 本日の我々にとって 大菩薩こそ天竺。 いざ行かん」と悲壮な表情。 ・ 舞瑠は不老不死の術を 学ぶべく旅に出た なんてすっかり忘れてケロリ。 ・ そりゃ別に芭蕉扇なんか 無くったって大菩薩には 行けるけど 苦難との闘いを回避しての旅 からは不老不死の術は 得られないんだよ。 ・ |
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小金沢山から大菩薩 静から騒へ 8時35分:山荘発 9時30分:上日川峠発 10時25分:石丸峠発 11時27分:小金沢山頂着 11時50分:山頂発。 ・ 熊沢山を経て大菩薩峠に 12時40分着。 ここで大幅に遅れた村上 との時間調整。 ・ 舞瑠と悠絽にカロリーメートと 水を補給し山稜を 落葉松尾根まで逍遥。 尾根分岐点13時30分。 上日川峠駐車場14時15分。 15時05分:山荘着。 車での移動を含めた 全所要時間6時間30分。 ・ 犬と共に駆け抜けた 2千mの山稜を振り返る。 原生林の静かな小金沢山から 大菩薩山稜への 旅の軌跡が 天空にシルエットを描く。 |
朝食後から一かけらの食糧も水も摂らず山稜を駆け抜け 空っぽになった肉体がとても軽くて気持ちいい。 山荘に戻り畑仕事をして更に軽くなった肉体をテラスに運び 先ほどまで確かに自らが存在していた山稜のシルエットを仰ぐ。 夕刻の影を纏った山稜をゆっくり目でなぞりながら おもむろにグラスを傾けビアで乾杯! ・ ビアが砂に吸い込まれるように五臓六腑に浸み込んでいく。 この瞬間が極上の一瞬であることは言うまでもない。 |
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《原図:気まぐれ山歩記》 |
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感激のお迎え 待ってたよ! 夢か? ・ 週末の山荘に着くと 愛犬が出迎えてくれる。 それが夢だった。 ・ それには半野生化した犬を 山荘で飼いならし 平日は森、週末は山荘で 活動させるしかない。 ・ そんな勝手な虫のいい 犬との共同生活をチラッと 考えたこともあったが そんなの実現するはずもない。 ・ ところが山荘に着いたら 2頭の犬が 犬小屋に居て大歓迎。 無愛想な武蔵が 「遅いじゃないか」とばかり 尾を振って甘える。 ・ そうか森人が気を利かせて 山荘主の到着前に 犬を連れて来てくれたんだ。 唯、唯感謝! |
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チャラ老衰引退 チャラ実は80歳 でもチャラが居ない。 チャラの代わり 久々にオバマが来ている。 どうもチャラは老衰で もう足腰が弱って 山歩きは無理らしい。 ・ 前に14歳と聴いたが 「実は16歳で、あれっ! 17歳だったかな?」 と森人は再度語る。 ・ どうもチャラが人間の 80歳を超えているのは 間違い無いらしい。 それでは 2週間前の倉掛山の 山歩きもさぞ難儀 だったろうと 改めて思う。 ・ あれがチャラとの最初で 最後の遠征登山 になってしまったね。 でも幻のチャラに再会出来て とても嬉しかったよ。 |
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人参の白い花に ツマグロヒョウモン雄 西畑に降りてみると あちこちで 人参の白い花が咲いている。 珍しく褄黒豹紋の雄が 白い花に 飛び交っている。 ・ 雄の左翅の下部が 一部破れ右翅上の豹紋の 鱗粉が剥げている。 少なくなった蜜を求めて あちこち飛び回り 交尾を終えて 死を待つのみなのか? ・ 人参の白を最後に 山荘畑の花は来春まで 見られない。 凍りついた大地で 辛うじて生き延びるのは ほうれん草と青梗菜。 黄色の花を咲かして くれる青梗菜の春の日が どんなに待ち遠しいか! |
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これこそ本物じゃ! 強烈な人参臭さ 激しい闘いを演じるは 人参色した怪獣か はたまた宇宙人か? ・ 必要とあらば どっからでも自由自在に 何本でも手が 生えてきそうな不気味な奴。 ・ あのスーパーの 野菜売り場に並んでいる スマートな人参とは 似ても似つかぬ代物。 これこそが 本物の人参なのだ。 ・ その証拠に先ず めちゃくちゃに人参臭い・ 第2に美味いのだ。 ・ こいつで人参パンを焼いたり 金平に入れたら もう2度と市販物は 食べられないといつも 山荘主は威張っています。 |
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葡萄棚で収穫 勝手に生えて採れた南瓜 こいつ発芽させるまでの 水撒きが大変。 土が乾いてしまうと発芽せず 連日の散水が必須。 ・ 春に種を蒔いてやっと 発芽させてから 今年は冒険をしてみた。 間引き苗を移植して 育つか実験してみたのだ。 ・ 発芽が難しいだけでなく 移植出来る程 人参苗は丈夫ではない。 それでも250本移植して 50本位は収穫出来た。 ・ まあまあ成功である。 果樹畑で勝手に芽吹き 葡萄棚に蔓を伸ばして 実を着けた南瓜が 割り込んでくる。 「おいおい、美味さでは 人参なんかに 負けないぜ」 |
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初めての収穫 3時間の労働成果 先ず小さな移植スコップで 掘ってみる。 20分堀続けたが 能率が悪くて途中で放棄。 ・ 竪穴を掘るのに便利な 鑿のような工具を 使ったがやはり作業は 捗らず中々掘れない。 ・ 細くてやたらと長い あの牛蒡を 掘り出す労力を考えると とても栽培する気には なれず躊躇っていた牛蒡。 ・ 今年初めて栽培に挑戦したが やはり収穫は かなりの労力が必要で 諦めるしかないか。 ・ 最後の手段、大きなスコップで 唯ひたすらに 固い土を堀続ける。 苦闘3時間ついに牛蒡が 見えてきたぞ。 |
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最近は「農業法人の会社組織」が注目されたり 渋谷のギャルが稲作に挑戦とかでTVで騒がれたりして 徐々に若者が農業に帰ってきつつあるとか。 不況で職の無いこのご時世、採算の取れる農業が実現すれば 農業人口は確実に増えるのだが・・・。 8月の忍び寄るヴィーナスの秋・Uで述べた賢治の言葉を繰り返そう。 ・ ………おお朋だちよ いっしょに正しい力を併せ かれらすべての田園とわれらのすべての生活を 一つの巨きな第4次の芸術に創りあげようではないか……… ちくま文庫「宮沢賢治全集 第10巻 『農民芸術概論』」より |
牛蒡だ文句あっか? 牛蒡の正体だ! なんじゃこりゃ? まるで蛸のように8本も 脚を出して大地に しっかりめり込んでいる。 ・ これじゃ掘れども掘れども 抜けぬ筈である。 本当は長くスマートに 土中深く伸びる予定であったが 余りにも土が硬くて 致し方なく作戦変更。 ・ 少しでも柔らかな横に 根を張ることにしたのだ。 その結果 こうなったのであろう。 ・ だがしかし本来 土は硬いのが当たり前。 従って牛蒡の真の姿は これなのだ。 ・ 3時間で1本の収穫。 スーパーで買うと200円程。 つまり時給70円の仕事。 専業農家の収入を 時給にするとは170円程度 らしいがそれより遙かに低い。 ・ これでは とても食ってはいけないな。 もっと創意工夫し 山荘農業も 能率をアップせねば。 |
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やっと出てきた茸 雨を待っていた椎茸 これがまた人参同様 もの凄く牛蒡臭い。 掘っている最中に余りの 臭さに辟易し 若しかすると臭くて 食べられないのでは?と ・ で早速金平牛蒡にして 食べてみたら 柔らかくて味も香りも最高。 ・ 香りで、急に森に 放ったらかしにしてる 椎茸を思い出したので 覗いてみると 大きなのがにょきにょき。 ・ 9月になっても雨が降らず 椎茸の出番は無し。 先日の台風18号で 待ってましたとばかり発芽。 ・ 肉厚で香りも云う事無し。 トースターでほんの少し炙り 檸檬をたらし 紫を僅かにかける。 檸檬と椎茸の香りの ハーモニーが実に憎いね。 |
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《柳沢峠から丸川峠へ》 |
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《原図:青山白雲》 |
サイドにMerrell、vibramと2か所に黄文字が記され 更に中央上部斜めにGORE TEX XCRとロゴが入っている。 |
森の誕生日贈物 メレルのゴア登山靴 メレルと云えば 1足5百ドル、納入に半年 を要求する頑固な 米国ユタ州の靴職人。 ・ そのメレルが伊太利 ビブラム社の 登山靴ソールを使って 登山用スニーカーを発表。 ・ ビブラムだけでも贅沢なのに ゴアテックスXCRで 靴を覆っていると云う。 雨を通さずしかも 蒸れない登山靴なのだ。 ・ 10月8日の朝日新聞の 全面広告でその メレル、モアブMID ゴアテックスXCRを紹介。 ・ K2(8611m)遠征帰りの ヒマラヤの氷河でも 一人スニーカーで ラッセルした 程のスニーカー愛好家の 山荘主が見逃す筈は無い。 |
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その靴僕も欲しい! オバマも羨む登山靴 まさか山荘主の 誕生日に合わせるが如く 製作され届けられるとは なんたる果報。 ・ さてさてその最初の メレルとの逢引をいずこに すべきか? 地図を広げ悩む贅沢。 ・ 舞瑠、悠絽と一緒なら 高峰を目指してもいいが 1歳のオバマと 紐嫌いで勝手に先行する 武蔵がパートナーでは 低山の方が無難。 ・ そこで柳沢峠から丸川峠へと 6つの峠を超える 標高1700mの森を選び いざ、出発。 ・ 六本木峠を経て葡萄沢峠 天庭峠、寺尾峠、丸川峠へと 歩き同じルートを戻る。 4つ目の天庭峠で オバマがじーっとメレルの 靴を見つめる。 「その靴僕も欲しい」 |
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幽玄の彼方へ 静寂の森 山稜の北面に沿って 開かれた登山道は 少ない陽射しと 鬱蒼とした森によって 深く苔生している。 ・ その上、大菩薩からも 鶏冠山からも 離れているので 人影を目にすることは 滅多に無い。 つまり苔生した登山道が 荒されることはない。 ・ 苔の絨毯が 惜しげもなくふんだんに 敷き詰められた この贅沢な登山道で メレルの靴の デビューを迎えるのも 悪くはないな。 |
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苔庭を飾る紅葉 静謐と煌びやか 六本木峠までは 鶏冠山への登山道と 重なるので人影あり。 だが峠を過ぎると 静寂そのもの。 ・ 幽玄な苔生した森の 上を見上げると 先週より更に鮮やかに 彩を深めた紅葉が 空を賑わす。 ・ 幽玄で寡黙な苔と 華麗で賑々しい紅葉が 生の微妙な ハーモニーを醸し出す。 ・ 全身を白毛で覆われた 武蔵に苔の 蒼ざめた光が注ぐ。 幽玄で寡黙な世界が 武蔵の肉体に忍び寄り 肉体をゆるゆると 融かし始める。 ・ 武蔵は自らの生が 浸食されつつあるのを 気付いたのだろうか? 華やかな紅葉が 死そのものであると知らず 唯見とれている武蔵。 武蔵! 死は直ぐそこに・・・ |
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光溢るる峠 バックに雪富士 幽玄な蒼い光は 丸川峠に着くころには すっかり消えて 武蔵は元の白毛に 戻っていましたが どこか力が抜けていて 元気がありません。 ・ 肉体に詰まってしまった 蒼い光を 排出するが如く懸命に 排便を試みるものの 武蔵の体内からは 何も出てきません。 ・ 峠には白い光が燦々と 降り注ぎ武蔵の 白毛を優しく包みます。 無邪気に振り返り 山稜の彼方を じーっと見つめる武蔵。 ・ あの山稜の彼方へ 行ける日は 2度と訪れないと知って いるかのような 実に哀しい眼差しでした。 |
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枯れ芒に雪富士 冬の始まり 《突然のお便りを お許し下さい。11月1日 16時30分頃、大菩薩の 丸川荘で道に迷った 1人の高校生に替え電池と 懐中電灯を お貸しになったのを覚えて おいででしょうか? ・・・・》 ・ ’03年山岳部秋合宿で 部員1名行方不明事件発生。 顧問の山荘主が 飛び回り、後始末にこの峠を 訪れて以来 6年ぶりの峠再訪である。 ・ 枯れ芒も雪富士も 何も変わってはいない。 不意にあの日遭難した 遠藤君と今日の 蒼ざめた武蔵が重なる。 嫌な予感! |
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山荘の原野で仕事をしていた森人が駆けつけ 名を呼び続けるが唯硬く冷たくなるばかり。 「心臓発作ずら」ぽつんと一言。 ・ 森を自由に,風のように疾駆していた頑強な武蔵が心臓発作だなんて とても信じられない! やはり武蔵は幽玄で寡黙な苔生した森に召され 永劫の静寂に還ったのだろうか? |
武蔵の突然死 夜の積雲 14時過ぎには無事山荘着。 武蔵への不安は杞憂でしか なかったのだ。 ・ テーブルをセットし 山歩きの余韻を味わいながら ビアを傾ける。 今日のルートを目で追うと 珍しい夜の積雲がモクモク。 「武蔵、オバマよく 頑張ったね!」 登山の無事終了に乾杯!。 ・ だが杞憂ではなかった。 翌朝、武蔵に突然の死が 襲いかかったのだ。 ・ 翌朝19日の朝トレ・コースは 鉄塔山に決め オバマ、武蔵の2頭立ての バイクで登山口まで疾走。 ・ 小さなオバマがグングン 武蔵をリードし 早いペースで山歩きを終え 再びバイクで山荘へ。 その帰路で突然武蔵が倒れ そのまま 息絶えてしまったのだ。 |
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10月4週・・・・武蔵追悼
林檎らしき林檎 林檎栽培は前途多難 初めて今春から 農薬なるものを使った。 「JAフルーツ山梨 リンゴ防除暦」によると 年12回の農薬散布が 林檎樹には示されている。 ・ とてもそんなに散布する 気になれず4回しか 散布しなかったが それでも例年よりは 林檎らしい林檎が出来た。 ・ 林檎の敵は病気と害虫。 病気は黒星病を始めとして 10種類あり害虫は ダニ類を筆頭に 7種類が挙げられている。 ・ 更にこれに越冬病菌が 加わりこれに対応する 農薬は石灰硫黄合剤など 20種類以上に及ぶ。 ・ とても恐ろしくて この防除暦通りに散布 する訳にはいかない。 しかし全く農薬を 使わず十数年林檎を 育ててきたがどうしても 満足な収穫は 出来なかったのだ。 |
林檎の病気 黒星病、腐乱病、うどん粉病、赤星病、黒点病、褐斑病、輪紋病 斑点枯葉病、炭そ病、煤班病 林檎の害虫 ダニ類、貝殻虫、油虫、葉巻虫、金門細蛾、芯食虫、髪切虫 ・ 初めて実った林檎らしき林檎。もったいなくて手折れない。 きっと鳥が先に食べてしまうのだろう。 |
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存在意義の喪失 ツマグロヒョウモン雄の裏翅 雨が降って更に寒くなった。 先週、飛び交っていた 褄黒豹紋の雄が 人参畑から よろよろ飛んできて岩に着地。 ・ 翅を数回開閉させたきり 動かなくなった。 翅をしっかり閉じて 普段見られない翅裏を 見せて固まったまま。 ・ 予想外に美しい裏紋に 見とれカメラを近づけたが 最早危険察知の 認識力を失っている。 ・ 蝶は自らのこの 美しい紋を認識することは 出来ない。 翅の開閉と紋が 生殖に関わっていると 微かに知るのみ。 ・ 生殖を終えた蝶にとって 美しい紋を開閉する 微かな意味も失せ 存在の維持すら 関心外になってしまった。 |
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濡れそぼる秋 枯葉のテーブル 第1週は山葡萄の倉掛山へ 2週は彩森の小金沢山 そして3週は ぴっかぴかの登山靴履いて 丸川峠へと神無月の 山歩きが続いた。 ・ 最後の週は奥秩父主脈の 水晶山(2158m)で 締め括る予定であったが 曇と冷たい雨で延期。 ・ 張り切っていた舞瑠と 悠絽は天気なんぞで 延期なんて納得しないに 決まっている。 そこで先ず軽く高芝山(1518m) へトレッキング。 ・ 勿論そんなもんでは 満足しないので更に いつもの小倉山へ走る。 ・ 訪れる人も無い山頂には 枯葉の積もった テーブルがひっそり。 濡れた落ち葉が 存在の儚さを 舞瑠と悠絽に語る。 ・ 「武蔵も死んだ。 存在は須臾の夢さ」 |
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その後は大樽2つ100gのワインの澱引きをして 樽からタンクに詰め替えて倉庫からワインセラーに運搬。 3番目はカルサーという雑草刈機を使って 雑草茫茫の広い林檎畑の雑草刈。 ・ 更にレタス畑の細かい発芽したばかりの雑草を摘んで 先週種蒔きしたほうれん草畑の散水と 大車輪で働いたんだぜ。 でもどんなに忙しくても舞瑠や悠絽と山を走るのは愉快だね! |
山荘も犬も大車輪 ここだって中々いいよ 老衰で山歩きを引退した チャラも乗って はしゃいだ山頂テーブルに 舞瑠も飛び乗った。 ・ 「ライオンのように 強いチャラだって若くて 風のように疾駆した 武蔵だって もう2度と山に登れないんだ。 2犬の分まで 僕は頑張って登るよ」 ・ その舞瑠の気持ちが ひしひしと伝わってくるから 今日も忙しかったけど 君たちを山に 連れてきたんだよ。 ・ 今日仕上げた山荘の仕事を 教えてあげようか? 先ずビアの瓶詰34gだろ それから山荘の総ての 窓やドアのガラス拭き。 ・ 2階だけで29枚 1階が24枚全部で53枚。 大窓だけでも8枚で 2階出窓なんか梯子を架けて そりゃ大変! |
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出迎えてくれた武蔵 2009年10月16日 山荘奥庭 |
山荘主の誕生日前日に逝った武蔵へ ・ 風の匂いを纏った透明感に満ちた不思議な犬だった。 白く長い毛が次々に風に靡いて飛び去り、森羅万象に溶け込んで やがて、ふっと武蔵は消えてしまう。 雪原で初めて武蔵に逢った2008年3月の印象である。 ・ ふっと消えたしまった武蔵との再会には17か月が必要であった。 2009年真夏の森で再会した武蔵はやはり風の匂いと 背景の森に吸い込まれそうな透明感を漲らせ人を寄せ付けず 触れることさえ出来なかった。 ・ 秋、深紅の真新しい首輪を着けられ初めて紐に繋がれ、山荘にやって来た武蔵は 僅かに風の匂いを保ってはいたが口元の長い白毛は 最早、風に靡かず透明感は失せていた。 《武蔵を紐で結んではいけないのかも知れない》とふとその時思ったのだ。 ・ 小倉山でも倉掛山でも最後になった丸川峠の山歩きでも紐を嫌い 僅かな隙を衝いて紐を山荘主の手から奪い 自由気ままに森を闊歩した武蔵。 ・ 若しかすると紐で結んでいる限り決して懐かないのではないか? そう思っていた武蔵が尻尾を振って甘えてきたのは 死の4日前であった。 この調子ならきっとまた風になって森や山への透明感を取り戻すのであろう。 ・ その歓びを伴った予感は最悪の悪夢となって実現してしまった。 紐を着けたまま武蔵は風になり透明になって永劫の彼方へ去ってしまったのだ。 もう幾ら待ち続けても武蔵には逢えない。 ・ 大循環する風となって宇宙を巡る自由と 森羅万象の透明な元素になって存在の壁を駆け抜ける躯体を 連想させる武蔵の喪失は 山荘主の心象風景に修復不可能な小さな虚空を穿った。 (合掌 2009年10月28日) |
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雪原で初めて逢った武蔵 2008年3月9日 山荘原野 |
真夏の森で再会した武蔵 2009年8月25日 小倉山の森 |
紅葉の倉掛山頂の武蔵 2009年10月4日 倉掛山頂 |