山荘日記

その17春ー2007年卯月

 


卯月1週・・・生命の燭光




生命の燭光

払暁の光が
肉体の深奥を刺し貫く。
この瞬間をどれほど
待ち望んでいたか!

ボルネオの海から
山荘に戻り
最初の目覚めを
迎えてくれたのは
油絵『時空の渚』の光。

胎内に蠢く
慧眼を具えた手首が
光を追って渚へと迫る。

熱を帯びた渇望が
光と重なって
渚を執拗に刺し貫く。
総ては渚にあるのだ。・
4月1日(日)晴 居間油絵



里黄斑日陰

油絵に差し込む光に
誘われて
蛇の目蝶科の
サトキマダラヒカゲが
居間に飛び込んで来た。

不思議な蝶で
人間の汗に含まれる
ミネラルを摂取する為
汗を求めて人肌に集う。

光の先にこの蝶は
滴り落ちる激しい汗を
予感したのだろうか?

それとも慧眼や渇望のように
『時空の渚』を追って
やって来たのだろうか?
4月1日(日)晴 居間油絵



水晶の絢爛


熱を帯びた渇望が
光と重なって
渚から生み落としたのは
無数の水晶。

最も大きな水晶には
世界第二の高峰K2で
過ごした時空が封印され
その周辺に無数の
水晶が散る。
4月1日(日)晴 前庭の水仙露



燦然たる水仙宝石

天空の無窮から
降り注いだ昨夜の雨は
一片の水仙の花弁に宿り
山荘の多様な時空を
吸い取り
朝の光に煌く。

多様な時空が水晶と化し
漆黒の事象の地平に
透明な姿態を晒す。

刹那を経て
漆黒の地平に
呑み込まれてしまう水晶に
そっと唇を近づける。

僅かに冷感を残して
1つの時空が唇に消える。
4月1日(日)晴 庭に満ちる宝石



水仙の漣

テラスで朝食のワインを
傾けているうちに
閉じていたチューリップも
花弁を開き
水仙と彩を競う。

渚から生み出された
無数の水晶は
蝶の体内に浸透し
鮮やかな花弁に同化し
多様な時空は
最早影すらとどめない。

微かに花弁が揺れる。
花弁の緩やかな波が
次々と水仙に伝播し
庭が色彩の漣に包まれる。
4月1日(日)晴 水仙饗宴



慧眼の変身

あの大型油絵を
切り裂いた生命の燭光は
胎内に蠢く
慧眼を具えた手首を
伴って再び天空に去った。

山荘の庭を
無数の水晶で満たした
昨夜の雨が
富士では雪となり
冷たく光る。

西畑の杏子が
おずおずと花開き
冷たい銀嶺に生命の
幽し息吹を添える。

もしかすると慧眼の手首と
一条の燭光が
杏子と富士に
姿を変えたのであろうか?
4月1日(日)晴 西畑杏子と雪富士


微睡の春光

ボルネオの熱帯森で
オランウータンに逢い
スル海の珊瑚海で
煌びやかな生命たちと
時間を共有し・・・

しかし何かが足りない。
山荘に戻り奥庭の
杏子を見つめていたら
杏子が意味不明の呟き
を投げかけた。

『時空の渚』が山荘には
あるのよ。
ただそれだけ。


慧眼の手首が
杏子に化身したとしか
思えない呟き。
それにしても君は
美しいね!
4月1日(日)晴 奥庭の杏子



卯月2週・・・三百年の艶麗




三百年の艶麗

うっすらと春霞を広げ
空の蒼を半光沢にし
優美なあけぼのが
山荘を抱擁する。

朝トレーニングの前に
谷を1つ隔てた南側山腹の
糸桜に逢いに行こう。

この時期には
樹齢三百年の糸桜を見ようと
人々がごったがえす。
しかし
夜明け直後の境内に
人影はまばら。

山門をくぐると
ひっそりと静かに
三百年がたゆたう。
4月7日(土)晴 慈雲寺の糸桜

三百年前といえば
来週15日が誕生日の
数学、物理、天文学者である
レオンハルト・オイラーが
頭をよぎる。

その頃この地で芽吹いた
糸桜が過ごした
三百年の長さを
計算魔のオイラーに倣って
計算してみる。

25歳で結婚し子を産むとして
現在の私が存在する為に
必要とした過去の人間は
300÷25=12代。
夫婦12代で2の12乗人。
つまり4096人が
三百年の時を流れ
私に辿りついたことになる。

連なりあう4096人の
時空に描く数列曲線が
糸桜となって
天空に揺らめく。
4月7日(土)晴 慈雲寺庭園



13年前の4月17日
山荘眼下は
桃の花に満たされ
ピンクの海に染まった。

今年は10日も早い7日
桃やソルダムの花々に
山荘は包まれた。
そのピンクと白の花の海の
対岸に慈雲寺はある。

山荘周辺の桃が満開に
なる直前に樹齢三百年の
糸桜は見事な花を開く。

桃の花の海を渡って
慈雲寺に着いてみると
糸桜は最早散り始めていた。

三百回の春を迎え
地球温暖化の危機を
糸桜も感じているのだろうか?
4月7日(土)晴 慈雲寺本堂前



てきめん
覿面の今


山荘の立地を求めて7年間
甲斐や那須の山地を
彷徨い
ついに辿り着いたこの地。

地図を見て驚いた。
あっちもこっちも卍マークが
やたらと目に付く。
甲斐の地は
武田信玄所縁の寺が
たくさんあるのだ。

壮麗な糸桜に
呼び寄せられるようにして
初めて慈雲寺を訪れたのは
山荘開きの5年後。

『覿面の今』と題して
慈雲寺は禅の教えを説く。
一瞬、一瞬の現在を
完全に充実しきること


まさか山荘のテーゼを
ここで聴くとは!
4月7日(土)晴 慈雲寺山門



 父1<・・・・
母1・・・・

私:2の0乗=1人
父1・母1:2の1乗=2
父2・母2:2の2乗=4
父3・母3:2の3乗=8



父12・母12:2の12乗
=4096人

まるで上の樹形図を
花びらにしたような石楠花。
山荘に戻ったら
待っていましたと4096の
モデルを示してくれた。

君の美しい数列も糸桜に
勝るとも劣らずさ。
4月7日(土)晴 石楠花膨らむ



わー落ちてしまう!
落ちたら
大地に吸い込まれて
消えてしまうんだよ。

杏子のピンクが散ったら
李の白が奥庭を
染め始めた。
仄かな甘い香りと共に
四十雀、山雀が巣箱に
やって来た。

それぞれ口に巣の材料の
獣毛や苔を銜えて
けたたましく囀る。

李の滴に見とれている
大きな動物が目障りで
追い立てようと
鳥達が共同で盛んに
脅しをかけているんだ。

なかなかいい声だよ。
4月7日(土)晴 (すもも)の滴



僅か一週間で
先週の生命の燭光が
位置を変えた。

第二慧眼から
メディテーションする美女
へと第三惑星は動いた。

あーそれじゃ益々
わかんないよ。
一体どうして居間の奥の
壁面絵画に
そんな細い光が劇的に
差し込むの?
山荘主の意図的演出?

いや、実は山荘主も
驚いているんだ。
光を追っていったら
南の大窓から入った光が
鍵盤カバーに反射してる。

つまり太陽高度の
成せる業なんだ。

4月7日(土)晴 燭光の行方





卯月3週・・・乳房と髑髏



4月14日(土)晴 桃源郷の朝 山荘



明けても暮れても
殺し合いの日々が続いた
中国の春秋戦国時代。

武陵の漁夫は船で遡行。
源流の山に辿り着き
トンネルを潜り抜けると
桃源郷に出た。

秦の乱を避けて
平和に暮らす人々の末裔に
歓待され
夢のような日々を送り
漁夫は人里に戻った。

後日再び桃源郷を
求めて川を遡行したが
あの美しい里を
二度と目にすることは
出来なかった。
4月14日(土)晴 桃花源記 山荘下



山荘眼下は一面の桃の
ピンクに覆われ
青梗菜や冬菜、小松菜の
菜の花が畑を黄色に
染める。

「桃花源記」の作者
陶淵明が桃源郷として
描いた世界が
そのまま展開する山荘。

ここで畑を耕していると
膨大な過去と悠久な未来が
か細い一本の紐となり
素粒子のミクロと
宇宙のマクロ空間が
小さな点となって
互いに絡み合い
宙を飛翔するのが見える。

本当に見えるんだってば!
信じられないなら
畑を耕してごらん。
4月15日(日)晴 花の海で 西畑



でもね
戻ってはいけないんだ。

お金とか名誉とか
地位とか
そんなものだけが
価値ある世界へ
戻ってしまうと
武陵の漁夫のように
二度と山荘には
来られないんだ。

春の畑を耕すと
新鮮な土の香りが
畑一杯に広がる。
その香りがどんな贅沢な
生活よりも大切なものと
感じられる瞬間があるんだ。

その瞬間に自らの生命が
悠久な時と宇宙に
同化するんだよ。
4月15日(日)晴 春の耕作開始 西畑



肉厚の大きな
春の椎茸が沢山採れた。
キッチンのドアまで運ぶと
いつの間にか山吹が
ドアに向かって
一斉に開花。

先週までは蕾すら
気づかぬほどだったのに
いきなり
咲いてしまうなんて!

そうか本当は
「もうすぐ咲きますよ」と
先週から囁いていたんだ。
でも誰も聞いてくれないから
いきなり咲いて
キッチンへの通行人に
アッピールしたのかな?

4月14日(土)晴 気づかれぬ山吹 山荘池



満天の星と書いて
「どうだん」と読ませる。
この画像を見ると
満天の星よりも
溢れいずる星々の誕生
を連想させる。

宮中での灯台結びに
似ているので「灯台躑躅」
それが「どうだん」と
訛ったとか。
で、満天に鏤められた星
に準え「満天星」に。

君も中々深い履歴が
あるんだね。

秋には逸早く色付き
山荘の庭を赤く染める。
しかし何故か春の花は
目立たず山荘では
いつも忘れ去られている。
本当は
こんなに魅力的なのにね。

4月15日(日)晴 満天星奔流 テラス横



山荘前庭の
三つ葉躑躅が咲いた。

若葉の出ない暗い森に
鮮やかな紅紫を散らす
三つ葉躑躅が
山荘の仲間に
メッセージを託す。
「待っています。
姿をとどめている内に
おいで下さい」

上条峠への森に入ると
自ら光を発して
いるかのように鮮やかに
花弁が輝く。
次から次へと群落となって
三つ葉躑躅が森に
点在する。

何度も何度もこの森に
通っているのに
知らなかったよ。
こんなに沢山
咲いてるなんて!

4月15日(日)晴 三つ葉躑躅の峠 上条峠



小さくて儚くて
決して顔を上げず
俯いたまま
咲き散ってしまう。

そんな片栗がいとおしくて
早春になると
いそいそと足繁く
ゲートに通う。


山荘の片栗はゲート横の
キウイ棚の下で
いつも葉を出すのだ。
今年は5つも咲いたね。

山荘の片栗も山々の
片栗といつも会話している。

「なになに、ふーん!
片栗の森でたくさん
咲き出したって?」
4月15日(日)晴 片栗の森 片栗の森にて



すっかり春蘭のことを
忘れていた。

急いで森を散策して
春蘭の花を探す。
どの春蘭も既に咲き終え
葉だけがつんつんと
とんがっている。

そうだよね。
いつも目立たなくて
ひっそりと咲いて
ひっそりと散ってしまうから
沢山咲いても
気がつかないんだ。

さて昨春の春蘭
どうだったっけ?
4月15日(日)晴 さらば春蘭 北の森ハンモックの下



目白の書斎か
木蓮が良く見える。
テラスの鉢植えの春蘭の
後方で目白木蓮は
山荘よりも1ヶ月も早く咲く。

今このHPを書きつつ
見ている目白木蓮は
すっかり青葉に覆われ
かつて
花が咲いていたなんて
とても思えない。

でも山荘の木蓮は
やっとこれから花開く。
目白と山荘の1ヶ月の
時差空間を週末ごとに
旅すると
季節が2度巡ってくる。

つまり2倍に伸びた時空に
山荘主は
棲んでいるのか?

4月15日(日)晴 木蓮の恥じらい 前庭




仄暗い森の底で
何かが輝いた。

「あれっ!何だろう?
まるで菌糸類のような姿。
でも騙されないぞ。
君は一人静だな。
まてまて
2つずつ咲いているから
ニ人静だね。

未だ発芽したばかりだから
見分けにくいけど
来週になれば
誰でもが知っている
あのニ人静になるんだね。

しーんとした静けさが
伝わってくるような容姿は
とても好きだよ。
4月15日(日)晴 一人静モノローグ 片栗の森



いくら宇宙に
魅かれたって
宇宙服を着ないで
外に出たら
死んでしまうに
決まっているだろう。

そりゃ
一生暗い土の中で
暮らすなんて耐えがたい
かも知れないけど
目が退化して
何も見えないんだから
地上に出るなんて
無謀なんだよ。

春になると山荘は
土竜が大活躍。
無農薬で土中に虫が
沢山棲んでるから
土竜にとっては天国。
時々過激な土竜が
地上に出てくるけど
見つけたら穴に返して
やるんだよ。
4月14日(土)晴 過激な土竜 東森への道



上条の森で
多くの樹木や草花と
空間を共有して豊かな
時間を過ごし
東の森へと走る。

森を透かして
炭焼き小屋の
とんがり屋根が見える。
きっと炭焼き小屋にも
春の訪れが
あるに違いない。

綺麗に片付けられた小屋は
時々目にする爺様も
竈からの煙も見えず
ただひっそり。

未だ春の気配は
何処にもありませんでした。
4月15日(日)晴 炭焼き窯の春 東森



乳房に髑髏が迫る

涅槃を求めて瞑想する
美女に
黄泉の国からの髑髏が
カタカタと笑いつつ
輪廻する。

生命を育む乳房が
どれほど美しくても
どれほど魅力的であっても
髑髏はカタカタと笑う。

眩いばかりの水仙が
輪廻の大車輪を背景に
明るく春の詩を歌う。

涅槃とはNirvana。
消え去ること。
絶対の静寂を意味する
サンスクリット語。
4月14日(土)晴 乳房と髑髏 居間油絵






明日から恐竜の島・コモドまで、ちょっと出張です。
      フロレス海に浮かぶコモド諸島でクルージングDVです。



卯月5週・・・春の不在



ドリアンとワイン

夜明けの空が宇宙の藍を
惜しげもなく振りまき
『おいでよ!』と手招きする。
快晴だ!

「よし!今朝のトレーニングは
標高2千メートルの稜線を駆け抜けよう」
未だ眠りから覚めず
ひっそりとした大菩薩山稜で
風のように舞い上がり
宇宙の藍い海に飛び込む。
宇宙の藍に身を晒すのは気分いいね!

山荘に戻ったら今度は森が呼ぶ。
『朝食は森の食卓でどうぞ!』

コモドDVの帰りに買ってきた果物
ドリアン、マンゴスチン、スネークフルーツを
山荘で採れたキウイと一緒に
大皿に載せて森の食卓に並べる。

悪臭のドリアンは凍らせたままスライスし
お刺身のようにしてワインと食す。
白身の果肉が溶け出し
赤ワインに南国の甘味が広がる。

昨日までの南半球の碧い海が
ひたひたと肉体の渚に打ち寄せ
森の新緑が碧い海に踊る。
4月29日(日)晴 登山後の朝食 北の森



マンゴ擬き

マンゴスチンの堅い皮を
2つに割ると
厚く赤い外皮に包まれた
真っ白な果肉が姿を現す。

この蕩けるような果肉が
ドライなワインには
実に良く合う。

蛇の皮膚を思わせる
スネークフルーツの皮は
指で簡単に剥ける。
果肉は栗のような形の白実。

僅かに酸っぱみが加わり
これも極上のワインの友。

あれっ!
楢の木に赤い実が生った。
森の食卓の横の楢が
南国の果実に刺激されて
突然変異を起こしたのか?
4月29日(日)晴 森の不思議 北の森



自給自足

森の食卓の大皿は
山荘の土と信楽土を混ぜて
焼いた山荘産。
ワインは山荘近辺で収穫した
葡萄を搾って造った
純粋山荘ワイン。

パンは山荘の畑で採れた
人参をたっぷり使って
昨夜焼いたばかりの
出来立てほやほや。

カクテルグラスに盛られた
唐黍の甘い実は
夏に山荘中畑で収穫した
『とんもころし』

左のコップの茶色は何かって?
そうそう忘れてはいけない。
さっき山荘の池で摘んだ
クレソンサラダに掛ける
ドレッシングさ。

完全な自給自足は困難だけど
自給自足って
最高の贅沢だね。
4月29日(日)晴 森の食卓 北の森



長き不在

水仙の花が終わって
やっとチューリップが咲いた
2週間前の山荘。

コモド諸島から帰ったら
もうチューリップは終わり。

生命が噴出するこの時期に
山荘を空けるのが心配で
今朝成田空港に着いて
目白に戻り即
山荘へ直行したのに
山荘は激変。

暫く人影が無かったので
西畑に鹿が侵入。
冬菜、青梗菜、小松菜
ほうれん草が食べられ全滅。

菜の花が咲き出した頃の
花芽はこの時期にしか
食べられない最高のご馳走
なのに残念!
4月28日(土)晴 2週間ぶりの山荘 前庭



いとほしい生命

生殖を終えて
花びらは1枚又1枚と散り
大地に還る。

その一番美しいときに
2週間も不在にして
君に逢えなかったことが
こんなにも心に
影を落とすなんて!

花びらを総てつけて
今日まで待っていてくれた
最後のチューリップ。

余りにも長い間
待ち続けたので花弁の色が
褪せてしまい
哀しみが滲んでいるね。
きっと君は6枚の花弁を
一気に落とすんだね。
4月28日(土)晴 最後のチューリップ 前庭



哀しみの美

2週間前4月15日の
『木蓮の恥じらい』を見て!

あの初々しい花弁が
こんなにもだらしなく
開いてしまって・・・。
ごめんね!
間に合わなくて。

生殖を終えて死までの
束の間の生の美は
性を超越した哀しみの美。

後は唯ひたすら膨張し
希薄になり
赤色巨星となって
50億年後の太陽のように
宇宙に
回帰するんだね。
4月28日(土)晴 爛熟木蓮 前庭



目覚め

おいおい!
そんなに嘆くなよ。
おいらのこの迸る生命を
見てご覧よ。

連年の髪切虫の
猛攻撃に耐え枯れもせず
今年も芽を出したぜ!

繊細な産毛が
太陽の光を一杯に浴びて
光っているだろう。
今年も甘くて大きな実を
沢山着けるから
お楽しみに!

時空には誰も
止どまれはしないんだよ。
総ては過ぎ去って
輪廻を繰り返すのさ。
4月28日(土)晴 無花果芽 前庭



村の火の見櫓
設置されたスピーカーが
小さな盆地に木魂する。

どうやら直ぐ近くの山で
山火事が起きたらしい。
「大滝山で山火事発生。
最小限の消化具を残して
総ての消防車は大至急
出動してください」

大滝山はこの大菩薩湖の
右(西側)にある。
山荘は更にその右に
位置してる。
数年前の山火事のように
山荘の直ぐ近くまで
煙がやってくるのだろうか?

昨日から燃え続け
今朝再び消化活動が
始まった。
4月29日(日)晴 山火事発生 大菩薩山稜



南アルプスの盟主
赤石岳(3120m)の真上を
赤いバケツを吊るした
自衛隊の消化ヘリが
飛び交う。

赤石岳より21m高い
荒川岳の雪が右に光り
左方には聖岳の
ピラミダルピークが覗く。

これらの残雪連峰を
掠める様にヘリは何度も
慌しく行きかう。

この時期山々は
枯葉に厚く覆われ
火が着いたら
一気に燃え広がり
広大な大地を焦土と
化してしまう。
4月29日(日)晴 消火ヘリ出動 大菩薩山稜



ヘリは眼下の大菩薩湖に
接近し赤いバケツを湖水に
落とし水を汲み上げる。

湖面にヘリの風圧による
波紋が広がり
湖は騒然となる。

大滝山上空に
煙は見えないので
鎮火しつつあるのだろうか?

ヘリも消防車も無い頃は
風下の森を
人海戦術で切り開き
延焼を食い止める以外に
術は無かった。

朝トレーニング最中に
眼下で繰り広げられる
文明の利器と
大自然猛火との
格闘に固唾を呑む。
4月29日(日)晴 湖からの補水 大菩薩山稜



迸る生命に包まれて
山荘は自らの生命を
自覚する。

生命の広大な海に
漂う方舟は
時間と空間を超えた
生命を自覚し
悠かな地平線へと
旅立とうとしている。

時空には誰も
止どまれはしないんだよ。
総ては過ぎ去って
輪廻を繰り返すのさ。


無花果のメッセージが
甦る。

輪廻が実は時空を超える
航海術であったと
方舟は知ってしまったのだ。
4月29日(日)晴 芽吹く山荘 東の森から





Indexへ

Next