山荘日記

その26冬ー2008年睦月

 


睦月1週元旦・・・元旦の山荘トレーニング



謹賀新年

勿論
山荘の森や山が
どんなに素晴らしいか
言うまでも無いが
キンガシンネンと
あっては
朝トレーニングも
奮発して標高2千mへ。

まっ!言ってみれば
お年玉トレーニング。

北アルプスや
八ヶ岳は登山者で賑わうが
元旦に乾徳山
訪れる者は居ない。

百名山詣のハイカーも
冬の2千mには
姿を見せない。
絶好のトレーニング場。
1月1日(火)晴  錦晶水にて



颯爽とえこちゃん

ピンクのフリースを着て
息を荒げるでもなく
急登を颯爽と
登るえこちゃん。

長年ヒマラヤで鍛えた
体力は流石だね。

雪の下は
硬い氷で滑りやすいが
アイゼンも着けずに
スイスイと標高差
1200mを
苦も無く一気に登る。

途中で雪が
舞い出し風が体温を
奪うが休憩も取らず
澄ました顔。
1月1日(火)晴  樹林の急登にて



朽ちた山小屋

忘れ去られ
寡黙に
朽ちていく山小屋には
想い出がぎっしり
詰まっている。

《高原ヒュッテ》
なんぞと洒落た名前の
山小屋も
今は唯朽ちるに任せ
訪なう人は居ない。

ストーブの焚き火の
匂いが残る
この山小屋に来ると
3月北アルプスの
無人横尾冬季小屋に
想いが重なる。

人の絶えた3月の
穂高や槍を駆け巡り
合宿最後の無数の夜
を過ごした横尾の山小屋。
1月1日(火)晴  高原ヒュッテにて



37年前の伝言

朽ちかけた板壁に
掛けられた
37年前のメモリー。

ストーブの焚き火の
匂いの残る
この山小屋で
1970年5月2日
チイコさんとゴロー君は
互いの愛を山に重ね
如何なる夢を
描いたのだろうか?

《心が広くなるから》
そうだね。
確かに山は精神も肉体も
壮大な空間に
解き放してくれるね。

壮大な空間に芽生えた愛は
37年の熟成を経て
どう昇華したのだろうか?
1月1日(火)晴  高原ヒュッテにて



ダケカンバ

うわーいいなー!
なんと言う風格。
見とれたまま
口をあんぐり開けて
天を仰ぐ。

山荘の白樺とは
比較にならない
重厚な貫禄に
満ち満ちている。

広い空間と豊かに
降り注ぐ
陽光が無いと
白樺もダケカンバ
育たない。

昔は唯単に低山に
生えているのが白樺で
亜高山帯で風雪に
耐えているのが
ダケカンバ
だと思っていたが
どうも微妙に違うらしい。

ダケカンバは
樹皮の色が白樺より
赤みがかり
葉は三角形ではなく
楕円に近い。
葉脈も白樺は6~7対
ダケは10~13対と
多くがっしりしている。

更に白樺葉は
光沢があるが
ダケの葉は半光沢。

明確な違いがあるのだ。
1月1日(火)晴  国師原の岳樺



岩と雪

山荘の在る扇山から
谷を1つ隔て
直ぐ目の前に聳える
乾徳山は
なだらかな国師原から
急角度で首をもたげ
槍の山頂を成している。

此処からがこの
ハイキングルートの
最も美味しい部分である。

誰でもが
鎖の付いた岩場を
アルピニストの気分で
易々と楽しめるのだ。

でも冬場はこの通り
雪と氷に
覆われた岩が
立ちはだかり
なかなか面白い。
1月1日(火)晴  山稜の岩場にて



髭剃岩上部

命名の謂れは
あんまり急なので
顔が岩壁にくっつき
髭を剃ってしまうとか。

まっそこは
鎖が付いているので
ドジを踏まない限り
墜落することはないが
その上は何も無い。

氷と雪の張り付いた
岩場で颯爽たる
えこちゃんの速度が
落ち始めた。

クラックに手を入れて
氷の足場に逡巡。
いつまで経っても
姿が見えないので
戻ってみると
雪と氷の壁を脱出する
緊張の一瞬。

ここで右足が
氷にスリップしたら
氷壁の下まで一気に百mも
落下してしまう。

やはりアイゼンを
事前に
装着すべきであったか

まっ!
ヒマラヤで鍛えた
えこちゃんのことだから
心配無用。
と静観。
1月1日(火)晴  氷と岩の登攀開始



断念天狗岩

天空に突き上げる
直立した岩壁の
先端に山頂がある。

此れほど厳しく
美しい山頂へのラインを
日本の山岳に
見出すのは難しい。

設置された鎖を撤去し
フリーでしか
登れないとしたら
乾徳山は俄然注目を浴び
多くの登山者を
魅了するであろう。

でも今日は氷も在るし
プラブーツだし
鎖を使って登るか?

あれっ!又
なかなか登ってこないな。
「鎖使っていいから
どんどん登って来て!」


「スタンスが無くて
プラブーツが滑って
登れません」

「だったら鎖に頼って
登っていいからさ」

「駄目です。やっぱり
登れません。巻き道から
登り直します」

「えっ!マジ?
今まで何度も登って
いるじゃない」

「でも登れません」
1月1日(火)晴  天狗岩にて



乾は天の意。
天に向かって一気に
大空を切り裂き
乾徳山は
ピラミダルな山頂を成す。

乾徳山は天子の徳を
表し昔から
多くの修験者を集めた。

修験者は鎖も使わず
この困難な岩壁を
素手で登り
登るごとに天子の徳を
授かり神々へと
近づいていったのであろう。

その1人に
700年程前の
夢窓国師が居る。
鎌倉から室町時代に
活躍した著名な
臨済宗僧である。


後に武田信玄の菩提寺
となった恵林寺を
乾徳山山麓に開き
7度にわたり
国師号を歴代天皇から
賜与され夢窓は
七朝帝師とも称される。

数百年前の
修験者のごとく
この山顛に駆け上り
恵林寺に降りて
初詣するのも悪くは無い。
よし帰りには
恵林寺へ行こう。
1月1日(火)晴  滑るアイゼン



見下ろすと既に
えこちゃんの影は無い。
どうやら本気で
クライミングを断念して
巻き道に廻ったらしい。

それにしても何と
すっきりした気持ちの良い
岩壁であろうか。

春夏秋冬
トレーニングで何度も
登っている山なのに
元旦のせいか
とてもフレッシュで
初めての山のよう。

700年もの昔
この垂直の岩壁に挑む
修験者が彷彿とする。

僅かな隙間に指を入れ
草鞋をクラックに
捩じ込み時には何度か
墜落しながらも
念仏を唱えつつ
唯ひたすらに
山顛を目指す。

『奥深い山中で
踏破や懺悔などの
厳しい艱難苦行を行なって
山岳が持つ
自然の霊力を
身に付ける事を目的とする』
とされる修験者が
時空を超えて
肉体に忍び込む。
修験者になるも又よし。
1月1日(火)晴  山頂近し



待てど暮らせど
えこちゃんは現れない。
探しに戻ってみるが
いずこにも見えない。

ところで巻き道が
何処にあるか
実は知らなかったことに
気づく。
一度も使ったことが
なかったのだ。
何処を探せばいいのか?

この岩壁の反対
山顛の北側を探してみるが
新雪に覆われ
ラッセルの気配は全く
感じられない。

再び岩壁に戻ると
壁の直ぐ東側からヒョッコリ
姿を現した。

「巻き道に掛かっている
垂直の梯子が
結構厳しくて
ラッセルの跡もないし
時間食っちゃった」

「新記録を作ったね。
多分ヒマラヤ登攀経験者
この鎖場が
登れなかった人は
今まで居なかった筈だから
新記録だよ」

『えこちゃん!
おめでとう』
1月1日(火)晴  天狗岩終了点



サインは I

あれっ!
何だかVサインが
変だよ。

えこちゃんの指
1本しか立っていないよ。
それじゃVじゃなくて
I だよ。

そうか
ImpossibleのI か。

そういえば昔
新雪の金峰山の
山頂直下で腰を下ろし
「あたし、ここでいいの」
とか言って
登頂しなかった事が
あったけど
退行現象かな?
1月1日(火)晴  乾徳山頂にて



いつも駆け巡っている
扇山や小倉山が
山稜眼下に見える。

あそこに
山荘が在るんだ。
なんだか山荘借景の
延長に乾徳山が
在るなんて贅沢だね。

ほらこの岩も
いい顔してるよ。
ボルダーリングに最高。

山岳部の生徒を連れて
黒金山から乾徳まで
縦走した時
鹿の群れに出逢った
岩場でもあるんだ。

しみじみといい山だね。
1月1日(火)晴  満ち足りた下山







「面白かったね!
静かな山でよかったね」

「そうね、雪も降ったし
風も吹き荒れたし
岩場もなかなか
楽しかったし」

「朽ちた山小屋も
何だかとても懐かしくて
タイムスリップしたようで・・・」

「雉が突然
舞い上がったり
岩場の彼方に
秀麗富士が
顔を覗かせたり・・・」

「手袋1枚で指も冷たくて
しんしん痛んだり
まるで冬山みたいで・・」

「あれっ!これ
冬山じゃなかったの?」
では次は初詣。
1月1日(火)晴  岩と氷との別れ



武田信玄の
菩提寺

山本勘介を演じた
内野聖陽の
迫力ある演技に
三船敏郎を重ねながら
楽しんだNHKの
『風林火山』。

ドラマの幕は閉じたが
まさか再び恵林寺
お目にかかるとは。

考えてみれば
恵林寺は信玄の菩提寺。
NHK番組に関係なく
ここではいつも
『風林火山』なのだ。

信長が快川和尚はじめ
約百人の僧侶を封じ込め
火を放った寺でもある。
1月1日(火)晴  乾徳山恵林寺にて



初詣祈願

アキレス腱鞘炎
、膝痛、腰痛、肺癌
心肥大、硝子体剥離etcと
肉体の各部品が
本格的に
ぶっ壊れてきた。

終焉を
恐れはしないが
その直前までは
一瞬一瞬を大切にし
山々を駆け巡り
世界の海に潜り続け
自然との
静かなる抱擁を
試みたい。
1月1日(火)晴  乾徳山恵林寺にて

と本気で計画してるので
さしあたり各部品が
もう少し長持ちしてくれますよう
しっかり詣でた。

が他力本願を否定する
不信心な本人を知ってる神は
多分聞き入れてくれないであろう。
となるとマジに終焉は近い。

残された一瞬一瞬を大切にせねばなるまい。




睦月1週・・・冬森との静かなる逢引



  放射冷却の雲海
1月6日(日)晴 山荘テラスから



闇の記憶

夜の闇を切り取って
朝の太陽に
抗うのは誰だい?

もうとっくに夜は
終わったのに未だ
闇の記憶に執着する
訳を教えておくれ。

沈黙と認識の
永遠の断絶に
どんな意味が潜むのか
おまえは
知っているんだね。

ほんの少し
光を当てたら
漆黒の闇が姿を現した。

遥かな時空の記憶を
無数に刻み
朽ち果てた巨大な死樹。

荘厳なフォルムと
刻まれた時空の
記憶が醸す
強烈な重力場に
言葉を失う。
1月5日(土)晴  上条山稜線にて



舞姫との逢引

微かな微かな囁き。

《未だ小さくて
枯葉の下に埋もれて
いるけれど
また逢いに来ました。
わたしの森に
いらしてください》

停止してしまった時空に
舞い続ける
あなたの
なんと愛しいこと。

その声に惹かれて
いそいそと
北の森に出かける。

いつもは枯葉の上に
銀白のドレスを閃かせて
華麗な光を
振り撒いているのに
いずこにも
姿は見えない。

枯れたシモバシラの茎を
探して枯葉を
取り除くと歓びの声。

《やっと逢えましたね》
1月3日(木)晴  北の森にて



歓喜の円舞曲

氷の精達
凍てついた闇の中で
動かぬほど
ゆっくりと
ワルツを舞ったんだね。

『2001年宇宙の旅』の
メインBGMが
聴こえてくるよ。

ヨハン・シュトラウスの
円舞曲
『美しき青きドナウ』

枯れた霜柱の茎から
次々と凍てついた
時空に
飛び出し円舞する
舞姫が目に浮かぶね。

若しかすると
いつも幻想的なオブジェで
迎えてくれる
大好きな上条の森にも
舞姫が来ているかも。

竹森川上流に架けられた
小さな橋を渡り
緩やかな谷を登る。

耳を澄ましても聴こえぬ
幽し音色に
気づいたのは舞姫の
ドレスの光。

光に誘われて
顔を近づけたら
聴こえてきたんだ。
『美しき青きドナウ』が。
1月5日(土)晴  上条の森にて



繊管束の創造2

《霜柱》の四角い茎が
霜枯れ
縦に断裂すると
維管束が
露出し外気に触れる。

そこに冬将軍の
冷たい息吹が掛かると
木部の水分が
凍結膨張し
亀裂から射出される。
(昨年2月3日のHPより)

昨年の解説に
ぴったりの画像。
ついでに
植物の霜柱の花
どうぞ。
1月5日(土)晴  上条の森にて


光と生命の邂逅

森の出口で薄が
朝の太陽を全身に鏤め
無心に煌く。
あー今、君は
iPS細胞なんだね。

iPS細胞
(induced pluripotent
stem cells)
人工多能性幹細胞
とは
体細胞(主に線維芽細胞
へ数種類の
転写因子(遺伝子)を
導入することにより
ES細胞に似た
分化万能性
(pluripotency)を
持たせた細胞のこと。

(Wikipediaより)
1月2日(水)晴  北峠の森にて



闇からの旅立ち

駆け下りてきた森を
背景にして
iPS細胞が全容を現す。

ヒトの体は
およそ60兆個の細胞で
構成されている。

元をたどれば
これらの細胞はすべて
たった一つの受精卵が
増殖と分化を繰り返して
生まれたものである。

この受精卵だけが持つ
神秘的なまでの
分化能力を分化全能性(totipotent)と呼ぶ。

分化能力とは
ヒトを構成する
すべての細胞、および
胎盤組織を
自発的に作り得る
能力を指す。
(Wikipediaより)
1月2日(水)晴  北峠の森にて



小さな鹿角発見

森を歩くだけで
iPS人工多能性幹細胞に
逢えるなんて
なんという歓び。

それにしても
万能細胞を造りだす
遺伝子を
ウィルスに運ばせるなんて
驚きだな!

でも確かウィルスは
癌要因も運び込むから
危険なんだな。

なんて考えながら
歩いていたら
小さな鹿角が足元に。

森のお年玉かな!
1月6日(日)晴  P2稜線にて



ささやかな宴

干し柿、キウイ、里芋
大根、小松菜、青梗菜
春菊、白菜、蕪
ほうれん草、冬菜、人参
唐黍、クレソン
勿論、ワイン、ビアも
みーんな山荘産。

けれどそれだけでは
お正月には
少し寂しい。

えこちゃんが
わざわざ東京から
新鮮な魚類を
仕入れてきてくれた。

それをオニキスの皿に
乗せて
ささやかな新年の宴。
1月2日(水)晴  居間にて



山荘事始

そうだ
年内に遣り残した
仕事が未だあった。

空瓶が不足して
白ワインの瓶詰が
終わってないんだ。

ワインタンクから
瓶にサイフォンで引くと
白い泡が生じ
ワインが騒ぐ。

4ヶ月近く寝かせたのに
未だ醗酵してるとは
こいつ半端でない。
シャンパンに
なってしまう恐れあり。

呑んでみると
凄い芳醇高貴な舌触り
やったね!
1月4日(金)晴  セラーにて



睦月2週・・・凍てつきの春



おちょう屋2

いつもは石だけで
寒々とした
道祖神が小屋掛けされて
暖かそう!

そうだ明日は村の
《どんと焼き》なんだ。
おちょう屋と呼ばれる
この檜の小屋掛が
燃やされ
凍てついた夜の空を
赤々と焦がす。
昨年の光景が甦る。

男根を祀る《おちょう屋》が
炎に投げ込まれる。
杉葉の油脂が炎を孕み
男根が
天空に舞い上がる。
息を呑む壮絶な光景!
1月13日(日)晴  バス停にて



タンクの毛布掛け

おちょう屋で思い出した。
すっかり忘れていた
水道タンクの保温毛布掛。

11月ココ島に行ってる頃
北国は早くも雪に
見舞われ
今冬の厳しい寒さを
予感させたが
その後暖冬が続き
毛布掛を失念したのだ。

倉庫裏から毛布を
引っ張り出してみると
ありゃりゃ!
虫が沢山卵を産んで
ご覧の通り。

鯉の餌にもってこい。
早速、池に投げてやった。
1月13日(日)晴  倉庫裏にて



鼬の死

僅か25cm程の
小柄な体格ながら
非常に凶暴な
肉食獣である。

小型の齧歯類や
鳥類はもとより
自分よりも大きな
ニワトリやウサギなども
単独で殺し
食べてしまう。

忍者のように
用心深く
忍びやかに獲物に
擦り寄り強烈な一撃で
命を奪い捕食する。

従って生きてる鼬
目にする機会は少ない。
1月14日(月)曇  郵便局路傍にて



カチンカチン

朝トレのついでに
遅れた年賀状の
最後の返信を出そうと
村の郵便ポストまで
走った。

ポスト手前路上で
カチンカチンに
凍りついた鼬を発見!
用心深く素早い鼬が
どうしてこんな処で
死を迎えたのか?

原因は光にある。
好奇心丸出しの
若い鼬は時として
突然の光に危険より
興味を抱くことがある。

その一瞬の逡巡が
路上では死を招くのだ。
車のヘッドライトに
惹かれたのであろう。

最後の光の中に
若い鼬は
何を見たのか?

何とか時間を遡って
その光の瞬間を
再現出来ないだろうかと
コンピュータの
キーをたたく。

あった!
赤外線の動きを感知し
野生動物の画像を
自動的に捉えるカメラが
その光の瞬間を
バッチリ!

なんと愛らしい
好奇心に満ち満ちた
つぶらな瞳!

超新星のように
燦然と輝く光の氾濫を
つぶらな瞳に映し
瞬時にして
生命を断ったんだね。
1月14日(月)曇 郵便局路傍にて



凍った花梨

あんまり冷えすぎて
大気中の
僅かな水分を奪い
白く氷を噴いている。

最初は洋梨かと
思ったけど
どう観ても花梨の木
最も本当の洋梨なら
野鳥が放って
置かないね。

花梨は美味しそうだけど
実際は硬いし
甘くないしとても
食べられる代物ではない。

山荘の花梨も
畑の隅で朽ちてるな。
1月14日(月)曇 東の森麓にて



姫林檎の凍結

凍結解凍を繰り返し
糖分を
ぎっしり詰め込んで
天然のジャムが
美味しそう。

子供達は高校を
卒業すると
村から出て村は
爺ちゃんと婆ちゃん
ばかり。

折角
たわわに実った果実も
採る人も無く
放っておかれ
ドライフルーツになったり
鳥のご馳走になったり。
1月14日(月)曇 東の森麓にて



ガガ芋の旅立ち

もうみーんな
飛び立ってしまった
と思っていたら
未だ居たガガイモの種。

昨年11月下旬急に
寒くなって
急いで旅立ちの準備。

でもそれから
暖かい日が続いたので
山荘主の水道タンク
毛布掛と同じように
旅立ちが
忘れられちゃったんだ。

でも今朝は
寒くなったから又
もそもそと羽を広げ
飛ぶ準備かな?
1月14日(月)曇 東の森麓にて



西洋柊

アレッ!
こんなとこに
ホリーが沢山成ってる。

日本のヒイラギは
モクセイ科。
11月に花を開き
翌年の夏に実を熟す。

西洋ヒイラギは
モチノキ科で春に
花を付け
この季節に
赤い実を付ける。

クリスマスの飾りに
欠かせぬあの
クリスマスホリーである。

鳥にも食べられず
残っているのは
超苦いから。
でも君の出番はもう
終わりだよ。ほら!
聴こえてくるだろう。
足音が・・・
1月14日(月)曇 東の森麓にて



素心蝋梅

感動だね。
1年で最も寒い1月に
蕾を付けて
冷たい太陽から
微かな温もりを吸い取り
花開くんだ。

微かだけど梅のような
高雅な香りが漂う。
寒気を縫って
敢えて強行する生命の
熾烈な旅が
感動を誘うんだね。

熾烈な生命の旅を
成就させる為に
雌性先熟
受精するんだよ。

普通の花の雌蕊
雄蕊は開花と同時に
成長するんだけど
蝋梅は先に雌蕊だけが
成長して
他の花の花粉との
受精を待ち続ける。

後に雄蕊が成長し
雌蕊に覆いかぶさる。
つまり先ず
他の花の精子を優先し
しかる後更に
受精を確実にするため
自らの花の精子を
使って受精を確実にする。

そう、アケビ
似ているね。

アケビは雄性先塾
雌蕊が雄蕊になって
花粉を求める虫を
集めてから
雌蕊になるんだよ。

生命の試行錯誤って
凄いね!
1月14日(月)曇 東の森麓にて



春の準備

マイナス10℃にもなる
山荘の本格的な
寒さは
これからやって来る。

それなのに
誰よりも早く春の足音を
聴き付け
花開く素心蝋梅。

蝋梅に刺激されて
山荘主は
作り掛けの巣箱
陶房から引っ張り出し
防腐オイルステンを
塗ったり
穴あけて設置針金を
付けたり。

どうも山荘主なりの
春の準備らしい。
1月14日(月)曇 奥庭にて





睦月3週・・・《鹿踊りのはじまり》異抄本・Ⅰ


注連飾り奉納

14日の夜に
村のどんど焼きで
《おちょう屋》と一緒に
燃やすはずの
注連飾りが今年も
取り残されてしまった。

仕方なく嘉十と共に
注連飾りを持って
扇山の山頂を
てくてく目指しました。

山頂には昨年の
注連飾り
が一人寂しく
待っているのです。
この注連飾りを巡って
鹿や猪や狐、狸が
どんなに大騒ぎしたか。

昨年の注連飾りの上に
括り付けて
ぽんぽんと拍手を打ったら
注連飾りが嘉十に
呟いたのです。
『船宮神社へ行ってご覧』

1月19日(土)晴 扇山山頂にて



嘉十出現
《鹿踊りのはじまり》
異抄本


そのとき東の
ぎらぎらの縮れた雲の
間から
朝陽は赤く斜めに
枯葉の野原に注ぎ
霜柱は白い葉の様に
光りました。

私がれて
そこに佇む
ざあざあいていた
風がだんだん
人の言葉にきこえ
やがてそれは
鹿踊りの
ほんとうの精神を
語りました。
1月19日(土)晴 扇山山腹にて



 右膝負傷

そこらが未だまるっきり
丈高い草や
黒い林のままだった時
嘉十
山の東から移ってきて
山荘を建て
小さな畑を開いて
唐黍や野菜を作ったり
森や山を
逍遥していました。

あるとき嘉十は
森を走っていて
少し右のを悪くしました。

そんなとき皆はいつでも
村に唯1つある船宮神社へ
詣でてすのでした。

扇山の注連縄の呟きも
気になっていたので
嘉十も朝トレーニングを
兼ねて船宮神社に
やって来ました。
1月20日(日)曇 船宮神社にて



仮面との遭遇

神社には根回り
7mを超す大きな檜が
立っていて
嘉十を待っていました。

太い幹は
洞窟のようになっていて
嘉十を呼び寄せ
いきなり嘉十を
呑み込んだのです。

一瞬後に嘉十は
巨大な暗渠を彷徨う
小さな己を
見てしまったのです。

  幾つもの年輪の襞や
腐朽した木肌をえて
嘉十は洞窟の奥へと
ぐんぐん進みました。

洞窟の形も大きく
はっきりなり
亀裂も一本一本
くっきり見わけられる
所まで来た時
横穴から差し込む光が
左上に架かる
少し蒼ざめて鈍く光る
仮面を照らし出しました。
 
嘉十は啄木鳥の散らした
木屑の上に
背中の荷物を
どっかりおろして
仮面を見上げながら
山荘で焼いたパンを出して
べはじめました。

光はむらも幾むらも
洞窟に乱れ射し
妖しく曲がりくねり
波をたてました。

嘉十はパンをたべながら
仮面をじっくり見つめ
実に立派だと思いました。
1月20日(日)曇 船宮神社にて



残されたパン 

ところがあんまり
一生懸命歩いた後は
どうもなんだか
がいっぱいのような気が
するのです。
そこで嘉十も
おしまいにパンを
啄木鳥の頭くらい残しました。

「こいづば鹿
やべか。それ、鹿
来て

と嘉十は
独り言のように呟いて
それを縦に走る割れ目の
横に置きました。
それから
荷物をまた背負って
ゆっくりゆっくり
歩きだしました。
1月20日(日)曇 船宮神社にて



忘れた手袋 

ところが少し行った時
嘉十はさっきの
休んだ所に手袋
忘れて来たのに
気がつきましたので
急いでまた引っ返しました。

高い処に在るあの
蒼ざめて鈍く光る仮面が
直ぐ近くに見えていて
そこまでるぐらい
何の事でもないようでした。
 ・
けれども嘉十は
ぴたりと
立ち止まってしまいました。
 それは確かに鹿の
気配がしたのです。
 ・
鹿が少くても五六
湿っぽい鼻面を
ずうっと延ばして
静かに仮面の下を歩いている
らしいのでした。 
1月20日(日)曇 船宮神社にて



パンの発見

仮面の下で
猿の腰掛のように木肌に
ひっつき
残されたパンが仄かな光を
浴びていました。

嘉十は年輪の裂け目に
落ちないように
気を付けながら
爪立てをして
そっと木屑をんで
そっちの方へ行きました。
 ・
確かに鹿は
さっき残したパンに
やって来たのでした。

「はあ、鹿
すぐに来たもな」
と嘉十は咽喉の中で
笑いながら呟きました。
1月20日(日)曇 船宮神社にて



檜巨樹の輪郭

そして体をかがめて
そろりそろりと
そっちに近よって
行きました。

 一むらの光のから
嘉十はちょっと顔を出して
びっくりして
またひっめました。

六疋ばかりの鹿が
さっきのパンの周りを
ぐるぐるぐるぐるになって
っているのでした。

嘉十は裂け目の隙間から
息を凝らして
覗きました。

環はぐんぐん速度を上げ
白く輝きだし
一瞬一枚の看板になって
檜巨樹の輪郭を
告げたのです。
1月20日(日)曇 船宮神社にて



蒼銀の仮面

次の瞬間白き環は凍結し
巨樹の洞窟は
氷河洞窟に変貌したので
嘉十は吃驚しました。

太陽が
ちょうど一本の亀裂の
に架っていましたので
そのは妖しく
蒼銀に光り
まるで鹿の群を見下ろして
黙している
蒼銀の仮面のように
思われました。

氷の粒も
一塊ずつ銀色に輝き
氷の文様がことに
その日は立派でした。
 ・
嘉十は喜んで
そっと片膝をついて
それに見とれました。
1月20日(日)晴 上条林道にて



蒼銀の鹿角

鹿は蒼銀の角を
下に向け大きな環を
創って
ぐるくるぐるくる
廻っていました。

よく見るとどの鹿角も
環の真ん中の方に
気が取られて
いるようでした。

その証拠には
頭も耳もも皆そっちへ
向いておまけに
度々いかにも
引っぱられるように
よろよろと二足三足
環から離れてそっちへ
寄って行きそうに
するのでした。
1月20日(日)曇 上条林道にて


光を放つ氷パン
 
勿論
その環の真ん中には
さっきの嘉十のパンが
ひとかけ置いて
あったのでした。

が、鹿どものしきりに
気にかけているのは決して
パンではなくて
その隣の氷粒の上に
落ちている
嘉十の白い手袋
らしいのでした。

嘉十は痛い足をそっと
手で曲げて
細かい氷粒の上に
きちんとりました。
1月20日(日)曇 寺平林道にて



嘉十の氷の耳

 鹿の巡りは
だんだん緩やかになり
氷の環になりました。

皆は
前肢を一本環の中の方へ
出して今にも駆け出して
行きそうにしては
吃驚したようにまた引っ込めて
とっとっとっとっ静かに
走るのでした。

その足音は気持ちよく
氷河の底の方まで
響きました。
それから鹿どもは
廻るのをやめて皆
手袋のこちらの方に来て
立ちました。
 ・
嘉十の氷の耳は
俄かに
きいんと鳴りました。
そしてがたがた震えました。
1月20日(日)曇 寺平林道にて



氷結した草穂

風にゆれる
氷結した草穂のような
鹿どもの気もちが
波になって伝わって
来たのでした。
 ・
嘉十は本当に
自分の耳を疑いました。
それは鹿の言葉が
聴こえてきたからです。

「じゃ、おれ行って
見でべが。」
「うんにゃ危ないじゃ。
も少し見でべ。」
 ・
こんな言葉も聴こえました。

いつだがのみだいに
口発破などさってあ
つまらないもな
高でパンなどでよ。」
「そだそだ、全ぐだ。」
1月20日(日)曇 上条林道にて



氷の鹿脚
 
こんな言葉も聴きました。
「生ぎものだがも
知れないじゃい。」

「うん。生ぎものらし
どごもあるな。」
 こんな言葉も聴こえました。

その内にとうとう一疋が
いかにも決心したらしく
背中を真っ直ぐにして
環から離れて
真ん中の方に進み出ました。

みんなはってそれを
見ています。
沢山の氷の鹿脚が
氷河洞窟にキラキラと
並ぶ様は
中々壮観でした。
1月20日(日)曇 上条林道にて



届きそうだ

進んで行った鹿
首をあらんかぎり延ばし
四本
引き締めました。
もう直ぐ透明な氷の手袋に
届きそうです。

そろりそろりと
手袋に近づいて行きましたが
かにひどく飛び上がって
一目散に
げ戻ってきました。

廻りの五疋も一遍に
ぱっと四方へ
散らけようとしました。

が、初めの鹿が
ぴたりと止まりましたので
やっと安心して
のそのそ戻って
その鹿の前に集まりました。
1月20日(日)曇 上条林道にて



青白の番兵

「なじょだた。なにだた
あの白い五本も長い
氷棒の付いてるやづあ。」
「疣々にの寄った
もんだけあな。」

「そだら
生ぎものだないがべ
やっぱり氷のなどだべが。
毒蕈ぶすきのこだべ。」

「うんにゃ。きのごだない。
やっぱり生ぎものらし。」
「そうが。
生きもので疣々で
皺うんと寄ってらば
年老りだな。」

「うん年老りの番兵だ。
ううはははは。」
「ふふふ青白の番兵だ。」
1月20日(日)曇 上条林道にて



振りかざす氷角

「ううははは
青白番兵だ。」
「今度おれ行って見べが。」
「行ってみろ
大丈夫だ。」

っつがないが。」
「うんにゃ、大丈夫だ。」
 そこでまた一疋が
そろりそろりと
進んで行きました。

透明な氷の角を
振りかざしてゆっくり
青白番兵に近づいて
行きました。

五疋はこちらで
ことりことりと頭をって
それを見ていました。
1月20日(日)曇 上条林道にて



妖しき蒼銀

進んで行った一疋は
度々もう怖くて
堪らないというように
四本の脚を集めて
背中をくしたりそっと
又延ばしたりして
そろりそろりと進みました。

青白番兵は
益々輝きを増し妖しく
蒼銀の光を放ち
鹿を魅了するのでした。

そしてとうとう手袋の
ひと足こっちまで行って
あらん限り首を延ばして
ふんふん
いでいましたが
俄かに跳ね上がって
遁げてきました。
1月20日(日)曇 上条林道にて



輝く五疋の頭

皆もびくっとして
一遍に
遁げ出そうとしましたが
その一疋が
ぴたりと停まりました。

やっと安心して
五つの頭をその
一つの頭に集めました。
透明な氷の頭は
青白番兵の乱れ射る
光を受けてキラキラと
悩ましそうでした。

「なじょだた
なして逃げで来た。」
じるべと
したようだたもさ。」
1月20日(日)曇 上条林道にて



天を突く氷角

「全体なにだけあ」
「わがらないな。
とにかぐ
白どそれがら青ど
両方のぶぢだ」

あなじょだ、匂あ」
「柳の葉
みだいな匂だな」
「はでな
息吐でるがいぎ

「さあ、そでば
気付けないがた」
「こんどあ
おれあ行って見べが」

「行ってみろ」
 三番目の鹿
又そろりそろりと進みました。
五疋の鹿の角は
ぴーんと天を突き益々
悩ましく光るのでした。
1月20日(日)曇 上条林道にて







緑への変容

その時ちょっと
風が吹いて
手袋がちらっと動きました。


手袋が動いたとたん
氷河の洞窟は
目も眩む閃光を発し
一瞬にして緑に変わって
しまったのです。

その進んで行った鹿は
吃驚して立ち止まってしまい
こっちの皆も
びくっとしました。

けれども鹿は
やっと又気を落ちつけたらしく
またそろりそろりと進んで
とうとう手袋まで
鼻先を延ばしました。
1月20日(日)曇 西畑にて



氷粒の手袋

緑の野原になっても
手袋は冷たい氷の粒を
無数に着けて
鹿の鼻先にも知らん顔。

こっちでは五疋が
皆ことりことりとお
うなずき合ってりました。

そのとき俄かに
進んで行った鹿が
竿立ちになってりあがって
遁げてきました。

して遁げできた。」
気味悪ぐなてよ。」
でるが。」
「さあ、いぎ
ないがけあな。
くぢも無いようだけあな。」
1月20日(日)曇 西畑にて

「あだまあるが。」
「あだまもゆぐわがらないがったな。」
「そだらこんだ
おれ行って見べが。」

 四番目の鹿が出て行きました。
これもやっぱりびくびくものです。
それでもすっかり手拭の前まで行って、いかにも思い切ったらしく
ちょっと鼻を手拭にしつけて
それから急いで引っ込めて、一目さんに帰ってきました。
(2月2週に続く)



週末から赤道直下マルク諸島のワイゲオ島まで、ちょっと出張です。
ジャワ島からスラウェシ島へ飛び
更にニューギニア島のソロンまで飛行機を乗り継ぎ
そこで Odyssea 1 に乗船しクルージングを開始。
ワイゲオ島周辺で連日DVの予定です。



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