山荘日記

その55夏ー2010年水無月

 

6月1週・・・・岩壁に挑む





山荘井戸ポンプ取替え工事
6月1日(火) ポンプ小屋(撮影:西嶋ポンプサービス) 

8会員で共有している井戸ポンプの寿命が14年目にしてついに尽きた。
平均耐用年数10年だとか。まーよく働いてくれた。
実はポンプ交換は今回が2度目。最初のポンプは5年間で心臓が停止してしまった。
1991年別荘地開発後 建てられた別荘は1軒。
ポンプの使用頻度が少なくて錆てしまい1996年に一度死んだ。

村の貯水施設から水道を引くことも検討。問題点は2つ。
1つは工事費用で水道管埋設1mにつき3万円、埋設距離1km以上あるので計3千万以上が必要。
もう1つは致命的で貯水施設と山荘の標高差が無く新たにポンプを
付けねばならぬとのこと。で、結局水道は断念。

ポンプが停止したのは5月24日(日)。
地元業者と連絡をとり設置業者・山梨ポンプを探すが既に倒産。
3社から見積もりを取り新たな業者を決定。
地元業者を優先したかったので、甲府の西嶋ポンプの見積もりとの差額10万円程の値引き交渉を行う。
しかし地元業者はそれでは出来ないと工事を降りる。

工事が終わった4日後、突然地元業者より電話があり見積もり料金を工事費の1割支払えと要求。
「2つ以上の会社から見積もりをとるなんて二股を掛けるのは許せない。金を払え」
との云い分には面喰った。他社からも見積もりを取ることは事前に話しておいたのだがどうもそれが気に入らないらしい。
他の地元業者に相談したら、見積もりは無料が当たり前、値段の折り合いがつかず自分から降りたのなら支払義務無しとのこと。
問題のある業者で、どうも未登録で営業しているのではないかとの話であった。
今後もしつこく金を要求してくる気配があるので実に不快である。

山荘建設2年目の1996年に ポンプ工事に立ち会い、今度は別荘地の会代表で工事見積と交渉を担当。
ポンプ施設を共有している8会員からの臨時費用徴収の了解と地元業者との対応が残ってはいるが
水道はライフラインなので即業者を決定し工事。どうにか1日で工事は完了した。


工事前・錆付いたタンク

ポンプに過重負荷が
掛りブレーカーが
落ちてしまう。
手動で復帰させても
暫くすると又切れる。

ポンプ小屋の撤去
 
ユニック車で吊上げ

つまりポンプ自体が
老化し揚水能力を失い
少し稼働すると
過重負荷となり活動を
停止してしまうのだ。

死んだポンプ取出し

先ずユニック車で
ポンプ小屋を吊り上げる。
次にそのクレーンで
井戸の底に設置されてる
壊れたポンプを
引き上げる。

揚水管の引き抜き

錆付いた揚水管

32A×5.5m:17本の
引き上げられた揚水管の
うち錆びた9本は
貯水された下部に位置。
つまり49.5mが水深。

井戸の深さ測定

しかし実際は17本を
埋め込んでいるので
井戸の深さは93.5m。
新たに入れた管は
4m×14本=56m
あれ37.5m足りない?

新管14本の埋め込み

新揚水管14本

となると水深49.5mの
僅か12mの位置に
新たなポンプを
設置したと云うことなの
だろうか?それでは
残りの37・5m分の水は
揚水出来ないのでは?
 

制御盤取り付け

新ポンプは荏原の
32BHS29-52.2Bで
本体価格は47万6800円。
これに低水位電極と
復帰電極の水位センサー
ケーブルを接続する。

ウオー水が出たぞ!

工事完了・小屋取付

更に14本の揚水管を
埋め込み新制御盤に
接続してスイッチオン!
水、出ましたね。
これで又10年程は安心か。
 
ポンプ工事記録
取り変え後の記録

2010年6月30日(火):東電工事で3相電流が反相しポンプ停止。業者を呼び反相を解除。
(反相:3相線において、反相状態(相回転が逆になること)にあること)
2010年7月2日(水):ポンプ室が被雷し初めてブレーカーが切れ再度業者に来てもらい回復。




岩壁への挑戦
 乾徳山(2031m) 6月4日(金)晴 


 犬の手じゃ登れないってば!
山頂直下の岩壁・天狗岩
(乾徳山 6月4日(金)晴 

墜ちちゃうよ、助けて!

《舞瑠の独白》
2週間前に黒金山に登った時に厭な予感がしたんだ。
黒金山頂から目の前に聳える乾徳山をじーっと見つめる山荘主さんの
あの視線には徒ならぬ決意が漲っていたね。
今日の恐怖は既にあの日に決まっていたに違いない。とぼくは思う。



泣きそうだけど挑戦


そりゃね、いくら無鉄砲な山荘主でも
頂上直下が岩壁で武装されてる
乾徳山に君達を登らせようなんて思わないさ。
 
果てし無い垂直の岩壁だぜ!

登らせたいと考えたことは確かにあったよ。
でもさこの岩壁は犬には絶対無理さ。
本当は金峰山に連れていく予定だったんだ。





 怖えー未だ続くぜ!
山頂直下の岩壁のテラス


《悠絽の独白》
おれ、こんな真剣な顔したの生まれてはじめて。
怖えーなんてもんじゃないぜ。
確かにおいらは自由を求め続ける漂泊詩人さ。
嘗ては優しい飼主である幸子さんの家を脱出して世界放浪の旅にも出たさ。
だから山荘主さんと出逢って放浪の旅が実現した時には、有頂天になったさ。
だがだ、おいらの漂泊の旅の予定にはこんな危険なの無しだぜ。


行くしかネエゼヤカ?


山梨市の観光課に問い合わせたら6月1日から
ゲートを開けますとの返事。
ところが金峰山への林道は閉鎖されてて
仕方なく隣の乾徳山に変えざるをえなかったんだ。
(悔しいことに後で調べたら閉鎖されてるのは
塩平だけで杣口ゲートは開いていたのだ)
 
揃って逃げようぜ!

だから乾徳山にしても頂上までは無理だから
岩壁の下まで行ってそこに
君達を繋いでおいて・・・とおもってさ。
でも、若しかしたら大菩薩のロッククライミングで
鍛えているから君達なら登れるかもとも。
一番いけないのは試しもせずに諦めてしまうこと。


 
でも下を見ると目が眩むぜ!

しっかりリードを握ってそろり、そろり岩壁を登る。
危険な場所ではリードを外し野生の本能に任せて自由に走らせるのだが
ここではそうはいかない。
危険の質が違うのだ。犬の能力を超えた登攀なので犬を墜落から護らねばならない。
その為にはリードが必要なのである。




 ついに登頂したぜや 乾徳山頂2031m
感動に涙する悠絽? 

あれっ!あまりの歓びに悠絽が泣き出してしまったか?
メタボの悠絽にとっては想像を絶する恐怖と困難の連続で、頂に立った瞬間
感極ったのだろうか?
もっと泣け悠絽、君は泣くに値するだけの偉業を達成したのだ。



嘆く悠絽・おいらもう死にたい!

ほら、登る前は絶望と哀しみの総てを目に集めて
こんな顔していたんだよ。
でも、やっぱり登って良かっただろう。

悠絽  《∂£
・・・・・    !!》



少しも嬉しくないぜや、あの岩壁下るのか?
乾徳山 6月4日(金)12:45 晴

 
 
歓んでVサインなんかしているのは山荘主だけ。
岩壁は下降のほうが遙かに難しく困難だと本能的に犬達は感じているのでしょう。
悠絽の表情は益々沈んで目から雨が降り出しそう。
舞瑠も緊張が高まりやや悲壮な面持ちで、山荘の在る山脈を見つめています。

舞瑠  《あの山荘に無事戻って又あの美味しいスペアリブが食べられるのかな?
それとも今日がぼくの命日になるのか・・・・》



頂直下のラダー 

《ちょっと待って!マジにここ下るの?
ぼくの手は肉球になってるから
何処も掴めないし梯子にも乗れないし・・・》

抱いて降ろそうとした瞬間
舞瑠は予期せぬ驚くべき決断をしたのだ。
5m以上ある岩壁を一気にジャンプし
小さなテラスに見事着地。
 自殺行為だぜや!

さすがに悠絽はそんな無謀なことはしない。
おとなしく抱きかかえられ
何とかテラスまで降りたのだが未だ梯子は続く。
じっと下を見ながら又もや独白。

《こりゃどう考えたって自殺行為だぜや!
漂泊詩人の死ははこんな処ではなくてもっと綺麗な
浜辺とか森とか・・・ 


最後の鎖場を下る
ギャラリーの注目集まる

実はこの危険な犬との登攀はギャラリーの助っ人があって実現したのである。
この髭剃岩の下部にも数人のギャラリーがカメラを向けて
果して犬がどこまで登攀出来るか興味津々で見守っているのだ。

犬には登れないクラックの梯子では犬を抱きかかえて上げてくれたり・・・。
最初は誰しもが乾徳の岩場は犬には登れないと呆れ顔をしていたのだが登頂したと知るや
驚きの眼差しが悠絽、舞瑠に注がれたのである。


 
国師ケ原から山頂を振り返る

やったね!
もう此処までくれば危険な場所は無いからね。
困難を克服する度に生命は
ひとまわり大きくなって新たなテリトリーを
拡大するけど君達の顔にもそれが
表れているね。 
やっと地獄が終ったぜや
登山開始9:51終了15:00 

それでは両君から一言。
悠絽 《もういやじゃ!なんと煽てられようと
もう岩壁のある山にはいかん》
舞瑠 《どうして平和な飼い犬だった僕達が
こう劇的な運命に曝されることになったのか?
運命の女神を呪ってやる》



森に捨てられた鯉幟
6月4日(金)晴 国師ケ原

1か月も前に子供の日は終わったのに
新緑の鮮やかな森に鯉幟。
誰かが森に置き忘れたのだろうか?
それとも吹きだしたばかりの木々の芽が
あまりにも初々しいのでルージュを
森にアレンジしたのかな。
これ僕の登山土産だよ
6月5日(土)晴 奥庭

森がこの鯉幟をプレゼントしようと君達が
頂から帰って来るのをきっと待っていたんだ。
随分頑張ったから何か
御褒美をあげようと思っていたけどまさか森が
祝福してくれるなんて嬉しいね。
それじゃ君達の家に飾ってあげよう。



 
水田に映る扇山
6月6日(日)晴 小倉山麓

お留守番をしていたチビ、オバマは
猪の襲撃から馬鈴薯畑を護ってくれたので
早速、鉄塔山や小倉山に
連れていってあげました。
田植えの終わった田んぼに扇山が逆さに映って
もうすっかり里は初夏の佇まい。
猪の罠ワイヤーを仕掛ける
6月6日(日)晴 林檎畑

でも犬達が山荘を引き上げる月曜日からは
又、猪や鹿がやって来て
じゃが芋を狙うに決まってます。
そこで舞瑠の元の飼主にお願いして
ワイヤーで罠を仕掛けてもらいました。
でもきっと敏感な猪は罠を見破ってしまうだろうね。



 
寂しき収穫・僅か15%か?
6月6日(日)晴 奥庭

200本も植えてせっせと水を撒いたのに枯れてしまって
今年の玉葱の収穫は実に寂しい量になってしまいました。
原因は水不足と解っているのです。
マルチと呼ばれている黒いビニールシートで畑を覆えば土の水分は逃げず雑草も生えず
玉葱苗はすくすく育つのです。でもそれは避けねば。

嘗てこのマルチをやったこともあるのですが、穴を開けてしまったビニールの再利用が出来ず
有毒ガスを出す焼却処分にするしかないのです。
そんなことするくらいなら収穫量の少なさに甘んじようと、それが週末農業の限界。




bP7今週のBigニュース 3日朝、目白に小沢一郎出現!

自宅の近くに田中真紀子の邸宅があり、父角栄の時代から政変の度に
数々のドラマが邸宅前で演じられ、否応なくそれらを目にしてきた。
ジョギングのコースでもありハンストやデモの政変舞台を突っ切らねばならぬこともしばしば。

どうやら鳩山が辞任した翌日、真紀子を民主党代表に担ぎ出そうとの裏工作をすべく
小沢一郎が目白を訪れたようだ。
が会えず、名刺に「至急会いたい」との伝言を書いて郵便受けに残し去ったらしい。

真紀子は逆に一郎を代表選挙に立たせようと多数派工作を始めたものの頓挫。
そう云えば一郎は角栄のお気に入りの弟子。
何故、鳩山が自爆テロまでして一郎を幹事長から引き摺り下ろしたのか全く理解しようとしない2人。

それにしても新総理の管直人が初めて総選挙に挑んだのが、1979年のロッキード事件で
角栄が逮捕された年であり、逮捕の衝撃が立候補の契機であったとは!
(参照:朝日新聞8日、9日版)

☆ 6月02日:鳩山由紀夫首相が辞意表明。
☆ 6月04日:民主党の新代表となった菅直人氏が第94代首相に。8日に国民新党との連立による新内閣が発足。。






 

6月2週・・・・雪と氷に挑む舞瑠&悠絽

撮影山岳:富士山
撮影月日:6月12日(土)晴
主   演:舞瑠&悠絽

演出編集:
隊長(山荘主)
撮影協力
犬好きな
       湖ちゃん&鉄ちゃん他
       
(ご協力に感謝!)


残雪のMt・富士概念図
6月12日(土) 



T・雲表の彼方へ

真夏日に雪の世界へ
8合目・3300m
何だか変だぜや!下界は33℃ 


何やら話しかけているのは悠絽。

「暑くてすっかり夏毛に
着替えたのに何だか変だぜや!
確か雪は冬に降るんとちがうか?
こりゃきっと酷く危険な処だぜ。
隙を見て逃げようぜ」

「あのなー諦めるしかないんだ。
隊長のリードに結ばれたら
垂直の岩場だろうが
雪と氷の急斜面だろうが
唯ひたすら前進あるのみさ」
とすっかり諦観した舞瑠。

まーまーそう云いなさんな!
あの凄い雲海を見てごらん。
実に勇壮で
わくわくするぜ!
登山マッシャー 
アラスカ犬なんて目じゃないぜ!

「サングラスを掛けないと
雪盲になって見えなくなっちゃう。
でも犬用のサングラスなんて無いから
細目で強烈な光を遮ろうか」
なんて相談してるのかな?

2頭共にアラスカ犬顔負けの力で
急斜面をぐいぐい登る。
殆どリードが緩むことはない。

何十回とヒマラヤトレーニング合宿で登った
雪富士だが
いつも重い荷に喘ぎながらの苦役。
ところがどうだ。
2頭のリードでまるで楽ちん。

2年間のトレーニング成果が
これ程顕著に表れるとは
実に感無量だね。




U・反日常への旅

 雪と雲しかないぜや!
9合目・3500m
世界が違うぜ!


あのさ、いつも見上げていた
あの雲が下に在るって
どういうこと?
家とかバスとか電車とか道路とか森とか
何処へ消えちゃったの?
これが《反日常への旅》なの?

こんなに遠くまで良く見えるのに
雲と雪しか無いよ。
ずんずん雲と雪と空が
心に浸み込んで来て
体が融け出してちゃって怖いけど
何だかふわふわして気持ちいいな。

僕達はこんな世界を知らぬまま
死んでしまう筈だったのに
新たな扉を開いてしまったんですね。
旅は始まってしまった。
恐ろしや後ろを見るなよ
滑ったら終わりだぞ! 

何処からかフルートかオーボエか
妙なる音色が
流れて来るんです。

急峻な雪面で立ったまま休憩して
サンドイッチを食べて
ペットボトルの紅茶を飲んでいると
確かに聴こえてくるのです。

西風が一段と強く頬を叩くと
その音色が更に
大きくなったので解ったのです。
演奏者は風で楽器は
蓋を開いたペットボトルでした。

随分久々に聴いたので
すっかり忘れていましたが
懐かしい冬富士の囁きでした。




V・美と緊張のアンサンブル
 氷の死の滑り台
9合目上部へ・3600m
雪の直ぐ下は硬い氷だぜ

四つ足だから転倒しないだろうが
此処で転んだら
ぴしゅーと一直線に吹っ飛んで
一巻の終わりさ。

つい先日も「富士で滑落死」と
ニュースに出ていただろう。
この斜面は雪でなく硬い氷で
覆われているんだ。
気温が上がると氷は溶けるが
残った氷は決して柔らかくならない。
正に死の滑り台だな。
 足が雪に沈まないぜ!
9合目上は氷の世界


いいねー!
この急角度で落ち込む
氷のラインが
死を孕みつつ死を激しく止揚し
堪らなく美しいね。

美と緊張感が硬質な
アンサンブルを成して緻密で
完成度の高い
生死を超克した直線を描く。

この直線に深く心を抉られ
雪富士との逢引を
重ねてきたような気がする。

この雪と氷が消えると
30万人(2008年)もの人々に埋め尽くされ
溶岩と砂礫と雑踏の山になる。
不快を超えた
耐え難い喧騒に満たされ
富士は神聖を失う。




W・怯える悠絽&舞瑠

山頂はもうすぐだ!
頂上直下・3700m
怯える舞瑠&悠絽
 

美と緊張感が描く
死を孕んだ直線の世界に
怯えるかのように
悠絽と舞瑠が身を固くする。

彼らの鋭い嗅覚は100m先の
野生動物の息遣いを捉え
森全体を認識し
反射的に次の行動を決定する。

だがこの世界では嗅覚は
何も捉えられず
生命の痕跡を見い出せず
徒に認識は混乱し
硬質で緻密な直線に彼等は
呑みこまれ
為す術を失ってしまうのだ。
 復活し再び頂を目指す
山頂鳥居を通過
スキンシップの効果か?

黙ってじーっと抱きしめてやる。
犬の体温と人間の体温が
ゆっくり混ざり合い
微かな震えに潜む怯えが
緩やかに解けていく。

さあ、もう大丈夫だ!
もうすぐ急峻な氷の斜面は尽きて
緊張の解ける平地のある
山頂に出るからね。

そらあの鳥居を抜けると
死を孕んだ直線の世界は終わる。
美と緊張感が描く
直線の結界を抜けた者は
彼岸を手にすることが出来るんだ。




X・久須志岳山顛

 ばてたぜここ極楽浄土か!
久須志岳山頂・3740m

どうだい彼岸の気分は?
此処は神々の世界。
久須志岳は元来、薬師岳であり
薬師如来のことなんだ。

そう日光、月光菩薩を脇侍として
従えているあの薬師如来さ。
今、その如来の天辺に
君達は座っているんだぜ。

そんなこと知るかよ。
これで人生おさらばかと
何度思ったことか!
あ、人生じゃなくて犬生だけど
一応、おいらたちにも
犬生を選ぶ権利が
在ると思うんだけど・・・
凄いぜ!信じられないぜや
きっと雪と氷の富士に登った初めての犬だ 


ほらこの鮮やかなオレンジの手袋。
こいつアラスカの
フェアバンクスで犬橇を走らせ
オーロラを追った日々に
使った手袋でしっかりアラスカ犬の臭いが
染みついているんだ。

臭うかい?
あの強靭なアラスカ犬が
君達を護ってくれるかと敢えて
この手袋を持ってきたんだが
最早君達はあの
アラスカ犬を遙かに超えたね。

9合目の氷の急斜面は
アラスカ犬にもきっと登れないぜ。
もっと嬉しそうな顔しろよ。




Y・日本最高峰:剣ガ峰

火口の反対側に最高峰
剣が峰3776m見ゆ 


大内院周辺には
剣ヶ峰・釈迦ケ岳・久須志岳・成就岳・
大日岳・阿弥陀岳・駒ヶ岳・文殊ケ岳の
八神峰がそば立つ。

つまり富士山頂は
火口の周りに8つの山が
聳え頂の上に更に山を形成している。
河口湖側から登ると
久須志岳が頂上になるが
最高峰は反対側の剣が峰であり
36m程高い。

関西方面の富士登山者は
この静岡側の剣ガ峰に集うので
賑々しい関西弁が
しょっちゅう飛び交っているね。
犬好きな鉄ちゃん
悠絽が万歳すると狸みたい 


雪の富士山頂は厳しい寒気と
強風に曝されていることが
多いので山頂を一周する
お鉢めぐりは中々実現出来ない。

舞瑠、悠絽どうする?
8つの神々の峰を
全部登っちゃおうぜ。
舞瑠、悠絽はワンともスンとも云わない。
そりゃつまり限りなく同意か?

で、結局最高峰の剣ガ峰まで
登った舞瑠、悠絽。
山頂に集う人々の称賛と
感嘆の嵐が待っていました。

「犬と一緒に写真を撮らせて!」
と大人気。
人気は登山中にも絶えず米人、仏人、カナダ人、中国人と
世界から来た登山者も挙って悠絽、舞瑠の写真を撮っていました。




Z・冒険の終わり:グリセード

グリセード開始
下りは飛鳥の如し 


さあ、いよいよ愉しいグリセード。
登山靴をショートスキーの
代わりにして
ストックを後方について滑る。

本来ストックではなくピッケルを使い
転倒した時には伏せて
ピッケルで滑落停止をする。
が、ピッケルよりストックの方が
滑り易く快適である。
但し滑落したら停める術はない。

試しに火口に向かって滑ってみる。
賢い犬達もコツを直ぐ覚え
実に素晴らしい滑降。
僕達の冒険はもう終り?
吉田大沢を一気に下る 

雪渓の上部を黒々と縁取っているのは
先ほどまで走り回っていた
8つの神々の峰です。
もうあんな遠くになってしまって。

グリセードで下ると実に爽快で
標高差1300mも一瞬。
そんなに早く降りてしまうと
もったいないから暫く真夏日の
銀世界を堪能しよう。

アラスカ犬に成りきって
悠絽は雪の上で気持ち良さそうに
眠っています。
舞瑠は夕陽の長い影を引いて
この素晴らしい1日が
終わってしまうことを惜しんでいるような。
さらば、真夏日の雪富士よ!







[・雪と太陽の置土産

左顔面の酷い雪焼け
6月16日(水)目白 雪富士のおみやげ

紫外線に強いサングラスとぐるぐる巻きのバンダナで雪焼けと雪盲は
防げる筈だったが結果はご覧の通り。

顔からリンパ液がじゅくじゅく滲み出てぱりぱりと皮が剥けて悲惨!
更に紫外線ヘルペスが唇にできて腫れあがり痛いのなんの!
真夏日の雪富士はヒマラヤと同じであると
知っているのに未熟者め!
犬達は何もしないのにケロリ、強いね!

可笑しいのは顔の右側半面と右耳。
皮も剥けてないし比較的白いのである。さて何故でしょうか・・・?
登山ルートの鎌岩尾根は真南に向かって登って行く。
となると顔の左側は東に面し午前中の太陽をたっぷり浴びることになる。
登高時間の6時間もの長時間、真夏日の太陽に焦がされたのだ。
下りの午後には西日と雪の照り返しが更に同じ顔の左半分を焦がす。

そんなこと総て解っていてバンダナで防御したのに画像を見ると
何故か左顔面を覆う筈のバンダナは、常に反対の右側に垂れているのだ。
未熟者の上に愚か者を加えねばなるまい。



bP今週のBigニュース はやぶさ帰還・60億キロの旅!

7年間、60億キロの孤独な旅に胸がきゅーんとする。
目指す山顛は小惑星の《イトカワ》。
その山に登り山顛の石を拾って出発点の太陽系第3惑星に戻る。

苦難、困難の連続であったと云う。
姿勢制御装置の故障、燃料漏れが相次ぎ、着陸時には回収装置が正常に機能せず
心臓であるイオンエンジンが設計寿命を超え
予定より3年も遅れ、それでも《はやぶさ》は生まれ故郷である地球に帰ってきた。

メッセージだけを小さなカプセルに入れ産みの親に届け
自らは《よだか》のように燃え尽きて人類の知を示す光になって天空に消えたのです。


そして自分のからだがいま燐(りん)の火のような青い美しい光になって、しずかに燃えているのを見ました。
 すぐとなりは、カシオピア座でした。天の川の青じろいひかりが、すぐうしろになっていました。
 そしてよだかの星は燃えつづけました。いつまでもいつまでも燃えつづけました。
 今でもまだ燃えています。



南天の天の川の前方を右下から上方へ横切った
《はやぶさ》と回収カプセル。
(豪州南部グレンダンボ近郊:朝日14日朝刊より)


☆ 6月13日:小惑星探査機「はやぶさ」から切り離されたカプセルは
          午後11時21分(日本時間午後10時51分)頃、豪州南部ウーメラ砂漠にパラシュートで落下。



 

6月3週・・・・猪罠に掛った阿呆犬



猪罠に掛かった阿呆犬
6月18日(金)曇 東の森 


奥庭の陶房を開けようと東の森に近づくと遠くで必死な犬の叫び。
山荘に着いたばかりだが、どうもあの吼え方は人の気配を感じてのものではない。
何時間も吼え続け疲労困憊し絶望に打ちのめされている叫び。

直感!先々週、東の森に仕掛けられた猪の罠にチビが掛ったのだ。
オバマが知らん顔して森から現れる。
ジャガ芋畑の番犬にならないどころか、ジャガ芋を食い荒らす猪の罠にお前達が掛ってどうすんだ!」
とオバを怒鳴りつけ森に入ると・・・やっぱり。
ワイアに首を絞められたチビが半狂乱になって吼え助けを求める。
逃げようとすれば首が閉まって死んでしまうと解っているのか、動かずに吼え続ける。

早速ワイアを外し山荘に連れてきて水と餌を与え鎖につなぐ。
猪より馬鹿な犬であると自ら証明したチビは、このままでは再び罠に掛る畏れあり。
なんとか森人にリードを付けるか犬小屋に入れるかして飼うようお願いするしかないかな。




梅雨の富士&扇山
6月19日(土)雨 小倉山頂 


下山してから山頂直下の雪の世界を見たいと思っていたが、梅雨に入り富士は容姿を見せない。
代わりに厚い雲海に閉ざされた扇山が稜線の黒い影を曳き高峰の佇まいをみせる。
高々千mに満たない扇山が頂稜のみを雲表に曝し、これ程の貫録を示すのは珍しい。

山荘に戻ると富士山頂を覆っていたレンズ雲が上昇し雪の世界が姿を現した。
1週間前、悠絽と舞瑠と共にグリセードで走り降りた急峻な雪壁が、曇天の鈍い光を投げかける。
よく頑張ったね悠絽、舞瑠!
君達の短い一生の中に与えられた最も輝かしい勲章が、今あそこで耀いているんだ。




孔雀蝶・金紋蛾・紋白蝶(春♀)
6月20日(日)雨 東の森 


森も小径もぐっしょり濡れ、どうせ目ぼしい被写体は無いだろうとカメラを持たず散歩に出た。
朝の冷気に体を縛られ自由に飛翔出来ない蝶がよたよたと蠢く。
そうだ、こんな朝は蝶の写真が撮り易いんだったっけ。

急いで山荘に戻りカメラを持って孔雀蝶の止っている桐の葉に駆けつける。
やっぱり未だ動かず気温の上がるのを待っている。
路上には薄い黒斑の春型紋白蝶の雌が翅を伏せ、今日は出ぬ太陽を待っている。
金紋蛾も飛翔の準備をして夏至のギンギラギンの太陽を待ち焦がれている。

そうだ明日は太陽が北回帰線の真上までやって来る夏至だ。



弦薔薇・夏椿山法師
6月20日(日)雨 前庭

嬉しいな!やっと薔薇のアーチの両側に2種の薔薇が花開いた。
高さ2mのアーチを買ってきて石段の途中に設置して薔薇を植えたがさっぱり花開かず。
そこで石段の最上段にアーチを移し両側に薔薇を移植して4年目かな?

夏椿が薔薇を覆うように楚々とした花を開き始め、山法師の淡いクリーム色がしっとりと石段を包む。
目の覚めるような紫陽花の藍が開けばいよいよ梅雨本番!



bP2、13今週のLivre            1Q84 Book3                  

「ひょっとしてここはもうひとつの違う場所ではあるまいか」
と思いつつも
首都高三号線の非常階段から1984へ還った青豆と天吾、そこでBook3は終る。
スタート地点に戻りここから再生の物語が始まると予感させる結末で
(ウエブサイト)ではもっぱらBook4の噂で持ち切りである。

それは同時にBook3への評価にもつながる。Book1,2に較べてさっぱり面白くないのである。
このままで終わって堪るかとの読者の不満の裏返しであると考えても強ち外れてはいまい。
地下鉄サリン事件の被害者や、その関係者62名に、村上春樹自身がインタビューをし纏めたアンダーグラウンドの著作動機として
「マスコミの行動も含めて、日本がどうなっていて、どこに行くのかの鏡として、この事件を知ることが必要ではないか…」と述べている。
1995年3月サリン事件発生、2年後にアンダーグラウンドを出版し14年をかけて今回の1Q84Book1,2が発刊された。
当然読者は1Q84に登場する《2つの月、リトルピープル、空気さなぎ》の小道具の裏に潜む
《日本がどうなっていて、どこに行くのかの鏡》を
麻薬探知犬の如く嗅ぎ廻っているのであるが、Book3にはオカルトの鏡像があるのみ。

1Q84そのものを懐胎してしまった青豆はこう語る。
「私はここからもうどこにも行かない。どんなことがあろうと私たちは、このひとつきりの月を持った世界に踏み留まるのだ。
天吾と私とこの小さなものの三人で」
鏡に映った《2つの月、リトルピープル、空気さなぎ》がオカルトの世界・1Q84の彼方に描き出すものは何か?
オカルトの鏡を打ち砕き1984らしき世界に登場した青豆と天吾は1Q84の彼方に対して、どう闘いを展開するのか?
このままではBook4どころか5,6と続き本人が語るが如く最長の村上作品になるのかも知れない。

書名:1Q84 Book3
著者:村上春樹

他の作品:アンダーグラウンド、浜辺のカフカ、ノルウェイの森

発行所:新潮社
発行日:2010年4月16日
定価:1800円+税
読書期間:6月8〜6月18日
評価:★★★★☆

ヘブン

例によって数冊の本を同時進行で読んでいるのだが、文学的レベルの差が「1Q84」と余りにも明確になり
ついに4冊
(ラスコの死角、推定無罪、竜馬がゆく4、ヘブン)のうちの1冊、川上未映子の「ヘブン」を投げてしまった。
人物描写の稚拙さ、登場人物が展開する論理の貧しさ、ストーリー展開の感性の乏しさに我慢出来なくなってしまったのだ。
「乳と卵」で2年前に芥川賞を受賞して以来、期待を込めて川上未映子を読み進め今回も「ヘブン」を精読。
だが途中から「Book3」が入り込むや否や未映子のちゃらちゃらした多才さが鼻について辟易。

そりゃ賞をとったばかりの新人と乗りに乗っている世界的作家を比べるのは酷であると重々承知。
だが問題は技術的な技巧ではなく未映子自身が抱えている生に対する感性の貧困にあると感じてしまったことにある。
《いじめ》られるロンパリの僕も不潔なコジマも客観的な認識力を持ちつついじめられている事実を告発出来ない。
いじめの場面はこれでもかとばかり繰り返し克明に描写するが、いじめの最大の問題
《なぜ内に籠りいじめを告発出来ないか?》が描けない。

暴力はしばしば精神をズタズタに引き裂き一切の認識の出口を閉じて被害者を絶望のどん底に陥れる。
告発することによる更なる暴力への予感、恐怖が深める絶望なんて、未映子にはおよびではない。
「なにをされてもそれを受け入れてる、・・・君のその方法だけが、いまの状況の中でゆういつの正しい、正しい方法だと思うの」
「ねえ、弱さには意味があるんだよ。・・・この痛みや苦しみはぜったいに報われるんだって・・・」
等とコジマに言わせて、その正しい方法と報われの結果に触れず無責任に放棄し、ただ闇雲に安直な結末に走る。

傘をさしてもうかたほうの手にビニール袋をさげた中年の女性を《いじめ》の現場に登場させ、いじめを発覚させる。
発覚後ロンパリの僕は《いじめ》の原因と思っている目の手術を決意、手術後に見える世界をこう描写する。
「そこに映るものはなにもかもが美しかった。僕は泣きながらその美しさのなかに立ちつくし・・・・それはただの美しさだった」
中年女性が《いじめ》を見つけてくれて、目が治って「ヘブン」が見えましたとさ。めでたしめでたし・・・実に陳腐、安易,杜撰な結末。

 
書名:ヘブン
著者:
川上未映子
他の作品:「わたくし率 イン 歯ー、または世界」、「先端で、さすわ さされるわ そらええわ」

発行所:講談社
発行日:2009年9月1日
定価:1400円+税
読書期間:6月8〜6月18日
評価:★★☆☆☆



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