仙人日記
   その69夏ー2011年葉月

8月1週・・・・新星・グラン 嵐のアルプスに挑む




小倉山頂 8月2日晴
還ってきた舞瑠
生後6ヶ月8kg・グラと命名


《舞瑠だ!》
舞瑠が生まれ変わって
再び山荘に還って来たんだ。
どうしたって、そうとしか思えないこの表情。

市に収容され殺処分されてしまったチビの代わりに
森人はこの犬をチビと呼んでいると云う。
だがチビと呼んでもさっぱり反応しない。
よし、それじゃ名前を付けてやろう。

山荘の真正面に聳える小倉山のグラで
どうだい?
命名の儀式を小倉山頂で執り行なおう。
生まれて初めて登る山が
小倉山でその山の名を貰うなんて中々いいね。

そうやって頂から下界を見下ろす表情は
ほんとうに舞瑠にそっくりだね。
舞瑠のように素晴しい犬になっておくれ!



初めての森
仁王シメジ茸 8月3日 晴
 

未だ生後7ヶ月の子供なので
とても甘ったれ。
奥庭の長いリードに繋いでいるが
私の姿が見えなくなると
哀しそうにキャンキャン吠えるのだ。

よしよしそれじゃ
P2の頂上目指して森へ出かけよう。
早速出くわしたのは
大きな白い茸。

これはね仁王シメジと云って
なかなか美味しいんだよ。
肉巻き、チャンプル、魚のすり身を
乗せた子持ち揚げ等
幾つかのレシピがHPにも
出てるけど作ってみようか? 
おやこれは何だ?
立派な鹿の角。
そういえば夜中に森に向かって
あの甘ったれた吠え声と
似ても似つかぬ迫力ある声で
盛んに吠えていたけど
あの闇の中に居たのが鹿だぞ。
グラは解っていて吠えていたのかい?

あいつが頭に着けていたのが
この角さ。
秋になると雌を獲得する為に
この角で激しい闘いが
森で繰り広げられるんだ。
山荘に持ちかえって飾ろうか。

 どうだい山荘の森は
気に入ったかい?

大きいね仁王シメジ! 

鹿角みーつけた!

ぼく白と黒です



森の広場を造ろうか!
東の森 8月3日 晴

  
朝5時明るくなったら森人がやって来た。
「せっかく間伐して風の通りが
よくなったのに
このまま森を放っておくのはもったいないから
森の真ん中に広場を造りたいな。
どのあたりがいいか視てくれませんか?」

「うーん、この鉄柵辺りに道を造って
この奥を均せば
100坪以上の広場が出来そうだが
2ヶ月前に左肺を3分の2も切っちまって
力が出ねえんさ。
女房は心臓の手術して動けねえし。
ボチボチでよけりゃ
やってみんべえ」

そうだったのか。
暫く姿が見えないと心配していたのだが
まさか入院していたとは。
森人と同年代だけにとても他人事ではない。

森への入り口



  草原の朝
東の森 8月3日 晴

   
小倉山から上条山への稜線が天空を画し
その下に広がる草の海に
光が差し込み草原の朝が始まる。
夜行性の動物は影を潜め蝶や蜻蛉、鳥が飛び交い
ひぐらしが高らかに歌い始める。

生後間もない捨てられた小さなグラを森人が
見つけたのは
この近くの森なのだろうか?
森人はどんな犬であっても飼い主が居ないと
わかれば引き取って可愛がる。

チビが行方不明になった時も病を押して
探し続けたと云う。
山荘下の里人がもう少し早くチビの情報を
教えてくれれば
チビを殺処分から救えたのに。

グラ、君だけは何としても護らなくてはね。




巴蛾の裏翅・♀

巴蛾の表翅・♀
犬と西瓜と唐黍
東の森 8月5日 晴

 
森の闇の中に
鮮やかなオレンジが光る。
   こんな翅の色は
未だお目にかかったことは無い。
表翅はどうなっているのだろう?

眠りから未だ充分には
覚めていない蝶に触れると
飛び立ちもせず
枯葉の上にポトンと落ちて
表翅を開いた。

あれ、蝶ではなくて蛾だ。
巴のマークが目玉になって
これで外敵を脅し珊瑚海の魚のように
身を護るんだな。

合歓木の葉が食葉なので
合歓木の在る
この山荘の森にはもっと沢山居る筈。
どうして今まで
出逢いが無かったのだろう?
天空西瓜なんだけど
どうも烏や白頭鳥が狙っているようで
穴を開けられたり
割られたりしてこのままにして置くと
収穫出来なくなりそう。

そこで被害のあった西瓜だけ
未だ未熟だけれど
試しに収穫し切って味見。
うーん、確か未熟だけれど
充分に甘く食べられそう。

トンモコロシも皮を剥いて西瓜と一緒に
奥庭に並べたら
匂いを嗅ぎ付けて早速やってきたのは
兜虫と唐金蜻蛉。 

写真を撮っていたら
グラまでがやって来て何と
犬のくせに西瓜を
美味しそうにペロペロ舐めて
やがて食べ始めたではないか。

おいおい、そんなのありか?
西瓜を食べる犬なんて
聞いたことが無いって兜虫も蜻蛉も
驚いているぜ!
 
黄西瓜&唐黍の収穫
 
兜虫・♂

唐金蜻蛉 



咲き始めた夏水仙と茗荷の花
庭&畑 8月5日 晴

嬉しいな!
西の森から採って来て植えた夏水仙が前庭に3箇所
奥庭に3箇所と計6箇所で咲き始めた。
数本を手折って剣山に刺して先日焼いた大皿に生けてみた。
う、うーん、なかなか涼やかな気品があるね。

あれ、茗荷もひっそりと沢山咲いているでは。
冷奴の薬味にしてもいいし茄子と茗荷の辛子醤油もいいし。



  日帰り強行雷雨の鳳凰三山  
    コースタイム
実施日:
8月6日(土) 雷雨 
山荘発(75km)  5:30 
薬師岳登山口 7時着 7:17発 
薬師岳頂上 11:00着 11:10出   
観音岳頂上 12:00着  
地蔵岳頂上 13:10着
鳳凰小屋 14:00着 14:10出
林道   17:00着
青木鉱泉 17:17着 17:30出
計  10時間    
山荘着  19:00 
標高差
青木鉱泉ー観音岳・・・1690m
実際のコース標高差・・・約2000m


稜線で激しい雨と雷に遭い
リング・ワンデルングに陥る。


同行犬:グラン



《A》 準備完了


盆地に架かる虹(テラスから)

明日は晴の予感(テラスから)
 やっと明日は晴予報だが?
テラス 8月5日 曇時々晴


毎夜、天気図とにらめっこ。
明日の天気の最新情報を知るには
前夜の天気図がベスト。
1週間にらめっこを続けてついに
明日6日は晴予報。

9,10号と2つの台風とその間に
台風になりそうな熱低が
あるものの山梨は朝9時までは曇
9〜15時は晴で
18時頃に降雨量1の予報図。

北北東に在る1018hpaの高気圧から
1012hpaの高気圧の腕が
関東、東海まで伸びている。
日本アルプスは1012と1006hpaの
気圧帯に在るが
気圧配置から推測すると
1010hpaあたりか。

西には960hpaの台風9号があり
東には985hpaの台風10号が
位置してるので
1010hpaもあればアルプスは
一応高気圧圏内と
判断して間違いなさそう。
問題は高気圧の進行方向と
成長してるか衰退してるかの判断。
前日5日の天気図の高気圧は
同じ位置で1016hpa。
この高気圧は動かず2hpaだけ
発達していると考えられる。

となると高気圧は成長しつつあり
明日は久しぶりに安定した
晴になるかも。
その天気予報を裏付けるかのように
 テラスの正面に大きな虹。
よし、明日こそアルプスへ行くぞグラ。
 
それには全身をシャンプーして
臭いやダニを落として
綺麗にしないと車に乗せないよ。

生まれて初めてのシャンプーに
逃げ惑うグラ。
暫くすると気持ちいいのか
じっとして何だか嬉しそう。

ドライヤーは真夏の太陽。
あっという間に乾いて
真っ白な毛並みが眩しい。
随分綺麗になったねグラ。
さあ、これで登山準備完了だ。 
 
車に乗るにはシャンプー
 
さあ、明日はアルプスだ!



《B》 標高差1690mへ
 
薬師岳登山口
 深い森の急登
中道尾根 7時17分 今は曇

  
天気図と犬の準備はいいとして
 3週間前に傷めた
左の脹脛の肉離れと右膝の
半月板の痛みを
抱えての病人だと云うことを
忘れてはいないかい?
余りにも2800mの鳳凰三山を
舐めてはいないかい。

骨格筋の筋繊維の一部を断裂し、
更に膝関節の半月板の損傷を抱え
一体どうやって
標高差1690mを登り詰め、
さらに縦走を続けると云うんだい?

そうか、解ったぞ!
だからこそ登るんだな。
更なる老化で登れなくなる前の
最後のチャンスなんだな。
ヒマラヤのトレーニングとして
何度か登った雪の鳳凰への
お別れと
お礼の挨拶を兼ねての登山なんだ。

本当は厳冬期に登りたいが
来冬までに損傷し老化した
肉体の完全な回復は望めない。
今なら、この程度の損傷なら
辛うじて登れる筈だと判断したんだな。

 先ず登り始めて1時間が勝負。
ここで膝を傷め、肉離れを
起こしたら最早登れない。
慎重に森の急登に足を運ぶ。

段差が大きくて小さなグラには登れない。
ジャンプしてはずり落ち
それでも前進を諦めない。
いいぞ、その調子だ! 
 

全身から吹きだす汗


深く暗い森の急登が続く

不思議な犬なのだ。
先ずあまり水を飲まない。
当然オシッコもしない。
たまにオシッコしても雌犬のように
しゃがんだまま。

いつか片足を上げて
あの雄犬のポーズをとる日が
訪れるのだろうか?
それともこいつ
性同一性障害か?


やったー!弁当だ!(山荘の李と桃)

銀竜草の群落(尾根1800m) 
高嶺の森に彩る
中道尾根 曇時々雨
 

銀竜草(尾根1800m) 
犬のオシッコは
マーキングの役割があるはずだが
未だ小さいから
テリトリー意識が無いのか?

ウンチをした後は
後ろ足で蹴って糞に土を掛ける
仕種を犬はするが
グラは全くしない。

教えてやろうかと犬の後足に
目をやると銀竜草の群落
傍らには
可愛らしい紅天狗茸がにょき。
頭上には暗紫色の白檜曽の実が
「ようこそ!」とご挨拶。

 標高差1690mを1日で登り
3つの峰を縦走し
その日の内に下山するには
休息時間を減らし
ただひたすらに登りつめるしかない。

紅天狗茸(尾根1900m) 
全身から汗を吹き出しながら
脇目も振らず登っていたので
森に息づく生命の
彩りに気づかなかったのだ。

犬の視線は人間よりずっと低いので
グラはこれらの生命の彩を
愉しみながら
登っていたのかな?

「今日は!」
石楠花の茂みから現れたのは
信州大学ワンゲル部の4人。
「いやー僕達の大学では
山岳部に押されて
ワンゲルは部員が少ないんですよ」

「今時山岳部の方が盛んだなんて
さすが信州大学」
なんぞと挨拶を交わしながら
いつしか花崗岩砂の稜線へ。
すっかり忘れていた
ピンクの高嶺びらんじに再会。
 
白檜曽の実(尾根2000m) 
 
遅すぎた石楠花(尾根1600m) 

深山麒麟草(尾根1500m)   

高嶺びらんじ(稜線2600m) 



《C》 Ring Wanderung


 薬師岳山頂(2780m)

観音岳山頂(2840m)
  リング・ワンデルング
鳳凰稜線 激しい雷雨開始

 
  11時、薬師岳山頂。途中の昼食時間20分を入れて3時間43分で中道尾根を登りきった。実働3時間23分。
コースタイムは4時間30分なので、まーまーのタイム。
このぶんで行けば1日での縦走、下山は可能かと思っていたがそうは問屋が卸さない。
ついに恐れていたものがやって来たのだ。

恐れていたのは天気図では決して読みきれない雷の襲来である。
勿論、右膝半月板の痛みや左脹脛の断裂もあるが、それはある程度自らでのコントロールが可能である。
だが稜線での落雷は全く予測出来ず、突然襲ってくるので為す術無し。
高峰の稜線での落雷を何度も体験し何度か死の憂き目に遇っているだけにその恐ろしさは身にしみて解っている。

ピカと一度でも雷の兆候があれば即下山の予定であったが、その最初のピカは縦走を始めて観音岳に達した瞬間。
丁度縦走ルートの中央であり進むにしても戻るにしても同じ時間を要する地点。
急いでゴアの雨具を着けグラと記念写真を撮った後、雷雲に包まれピカとゴロと濃霧と激しい豪雨。
稜線の登山道はあっと言う間に小川となり水が音を立てて流れ始める。



犬名を改名した山の娘さん

臼茸(ウスダケ)
 追想・雪のビバーク
地蔵から鳳凰小屋 雷雨

 
  岩に記された赤い丸印を追って
地蔵岳へと稜線を辿る。
視界はほんの数メートル。
稜線を吹き荒れる風向は不安定で
時折渦を巻いて方向感覚を
完全に狂わせる。

赤ペンキの丸印に沿って
右の急な登山道を下りたが最早
幾ら進んでも丸印無し。
やがてブッシュに覆われ道が消える。
「しまったガレ場に騙されたか?」

元の稜線まで戻り
目を皿のようにして足元の
微かな人の歩いた痕跡を探す。
濃霧の中で光と轟音が炸裂する。
稜線上に身を遮る物は無し。

やがて山頂標識発見。
「やったー地蔵岳だ。
待てよ地蔵の頂はオベリスクで
こんな形ではない筈」

鳳凰山と書かれた
山頂標識の左には《観音岳》とあるでは!
愕然!
さっきと同じ頂ではないか。
地蔵と全く逆方向に進んでいたのだ。

18年前のK2登山訓練での
雪のビバークが重なる。
降り続いた雪でルートの消えた
3月の地蔵岳ビバーク。
 グランに改名
鳳凰小屋で改名・グラン
  
  鳳凰の無人冬期小屋で
着の身着のままのビバーク後
地蔵岳の頂に立ち
風雪の始まった鳳凰小屋を後にする。

地蔵の尾根を経て
御座石温泉に下っている筈だが
いつしかドンドコ沢へ迷い込む。
ラッセルを切り返して再び鳳凰小屋へ。

まさか18年後の
真夏の地蔵へのルートで同じ
リング・ワンデルングを繰り返すとは
この愚か者め!

ずぶ濡れになって鳳凰小屋に
飛び込むと
迎えてくれたのは笑顔の山の娘さん。
「あら、随分小さなワンちゃん。
名前は?」
「ぼく、グラです」
「そうグランちゃん、良い名前ね。
写真撮らせてねグランちゃん!」

あれ、グランと呼ばれて
嬉しそうにグラは尻尾を振り振り
すっかりグランに成りきっているでは。
よし、今この瞬間から
お前はグランに改名だ。
グラン・Grandは仏語で偉大なとか
崇高な、立派なとかの意味だぞ。
名前に負けるなよ!

雷雨に怯える犬

鳥脚升麻 
 
お前は今からグランだぞ!



《D》 骨折、捻挫・増水への不安

ブルガリアの単独女性に逢う

枝沢が増水し危険
ドンドコ沢を下る
枝沢の高巻の連続
  
  1週間も天気図と睨めっこし
必要以上に天候に拘る理由は
《単独老人犬登山》にある。
どんなに日々訓練を重ねようが
単独でしかも犬連れ老人ときては
リスクそのものが歩いているようなもの。

犬の不意の動作に対応出来ず
ガレ場での転倒、
骨折、捻挫の可能性は防ぎきれない。
これに悪天が加わったら
どうなるかは想像に難くない。

天候判断を始め諸々に
細心の注意と準備をしていたにも
拘らず今回は高峰の稜線で
恐れていた
最悪の状況に陥ってしまったのだ。

なんとか稜線での落雷の恐れからは
脱却したがこの先下る
ドンドコ沢は枝沢の高巻きが続き
増水による危機が加わる。

雷は遠のきつつあるが
雷雨は断続的に激しく降り注ぎ
完全防水のゴアも
水が浸透し始め全身が濡れる。

登山者の影も無く
ここで骨折して動けなくなったら
ビバークは必然。
濡れたビバークは低体温症を生じ
2千メートルを越える
この高度では凍死に到る危険性大。

事故を畏れつつ慎重にゆっくり下降。
すると夕闇迫る深い霧の中から
登って来る予期せぬ人影。
ブルガリアから来たという若い単独女性。
「明るい内に鳳凰小屋に
着けるかしら?」
とフードを取って話しかけてくる。
おー、すこぶる麗人。

この遅い時間に雷雨に打たれながら
増水の危機に在る異国の
高山ルートを
たった一人で登るとは
《犬連れ単独老人》より更に
過激な山屋であることに間違いない。
 
五色滝
 
白糸滝




8月2週
新しい空を創ろうぜ!・・・・・夏休みの課題





夜明けのご挨拶(奥庭)
グラン 暁を告げる
奥庭 8月12日 晴

   
猪や鹿が山荘の森に接近して来ない限り、グランは夜中には滅多に吼えることはない。
野生動物の気配に敏感な舞瑠や悠絽は何度も夜中に吼えるので
時には起きて奥庭の犬小屋まで行って様子を観て話しかけてやらねばならぬこともある。
その点グランは番犬として物足りない程静かなのである。

しかし夜明けとともにグランは最大に甘ったれた声で2階寝室に向かって吼え始めるのだ。
起きて2階のカーテンを開けて1階の電動シャッターを総て開き
奥庭に出てグランに接触するまで吼え続ける。
「よしよし」と頭を撫でてやるとピタリと吼え止むのだが、愛撫が足りないと更に吼え続ける。
未だほんとうに子供なのだ。 

朝の収穫
奥庭 8月12日 晴


あんまり吼え続けるので
ついに村上が奥庭に出てご挨拶。
グランは仏語だから
仏語で「ぼんじゅーる、ムッシュ!
こまんたれぶーComment allez-vous

それじゃ朝の散歩の前に
先ず畑仕事でたっぷり汗を流そうか!
葡萄畑にグランも同行し
トンモコロシの収穫。

採ったばかりのこいつを
直ぐに茹でて・・・
そうそう勿論、水に入れて
そのまま沸騰させて3分間茹でるんだ。
間違っても沸騰してから
トンモコロシを入れてはいけないぜ。

トンモコロシどっさり(奥庭)
採りたてを水から茹でると
とてもジューシーな
茹トンモコロシになるんだよ。

これを冷ましてから
1本1本実をもいで袋詰めして
冷凍庫に保存し
来年の夏まで1年間この新鮮な
トンモコロシを愉しむんだ。

朝トレで更に汗を流してから
冷えたワインと共に
かぶりつくのも最高の贅沢だね。
郷愁を帯びた甘さが
ドライの山荘ワインとアンサンブルし
・・・ありゃ、グランが
欲しそうな顔しているから
ちょっとあげたら
トンモコロシを食べちゃった。
西瓜だけでなく唐黍まで食べるとは! 


グラン・万感の想い

「そっくり!」思わず歓声を上げてしまうほど、似ている。
首から上は舞瑠に良く似ている。体は白と黒の模様で、
まさしく舞瑠とちびの忘れ形見かと思われるようないたずらっ子そうな元気なグランと初対面。
この犬は森からのプレゼントなのか、はたまた気まぐれな神の作りたもうた作品なのか、
失ってしまった大切な生命のかわりに、そこにいる小さな新しい命に万感の想いを抱く。

ともあれ山荘の新しい住人との初顔合わせは、気に入ってもらえたようで、
ぺろぺろと腕中を嘗めまわされ、嬉しそうに何度でも飛び付いて甘える姿は、やはり舞瑠を思い出させる。
舞瑠のように人が好きで、表情豊かな犬になれそうな要素を感じる。なかなか賢そうでもあり、色々教え甲斐がありそうだ。
朝トレの時は、一緒に歩いたが、山の中に踏み入ると、好奇心の塊になりあちらへこちらへと興味のままに動きたがる。
小枝に絡まったり、木の根にひっかかったり、寄り道が多いが、まだ体が小さいので私にでも制御出来るのがいい。
急な下りで駆け下りないよう、後ろについてこさせようと訓練中だ。スイカでも蕪でも生のままぱりぱり喜んで食べる。
おまけに甘酢づけのゴーヤーまで美味しそうに食べてお代りを催促するのには驚いた。
これから、山荘でグランとのどんな暮らしが始まるのか楽しみである。





 
捉えられた朝の光
朝の森にて
扇山の森 8月12日 晴
 
グランとのお喋り
扇山 8月12日 晴
 

あのさ、庭をうろちょろして朝食を石卓で一緒に食べたり
夕食は畑で採れた野菜を中心にした料理やスペアリブや魚を囲み
いつもテラスで愉しく食事をしたりしてるから
山荘活動はまるで天国に居るようで楽ちん、とグランは思っているだろう?

そりゃお前が何もお手伝いしないから苦労が解らないだけさ。
実は今朝も草刈り最中にズアカムカデ(頭赤百足に左肩を咬まれ
腫れあがって痛てーの何の!
目に見えぬ小さなぶよ(蚋)にはしょっちゅう悩まされているし。
猪や鹿に畑の作物を喰われ畑が荒らされるのも年中行事のようなもんだし。
山荘活動はどうして中々苦労が多く傍目で観るより辛いんだぜ!

なんて愚痴をグランに語りかけながら、
陶芸作品の取っ手になるかと
尖った石を斧代わりにして見つけた山葡萄の蔓をカッティング。
「ふーん、そうなの。仙人は極楽蜻蛉にしか見えないけど一応苦労してるんだ」
とでも云ってるのかグランが耳元で呟く。

山葡萄の大きな蔓




風を緑に染めて

山荘入口の畑の側に大きく育った、欅の木がある。
山荘設立当時に植えられたというから、山荘の歴史を刻んだ大切な木でもある。
二股に分かれて、大樹となった欅は空を覆って枝を広げ、さわさわと心地よく揺れる無数の緑の葉を茂らせている。

真夏の朝は石テーブルで朝食を摂りながら、空を見上げるとまるで天然の屋根のように、空の半分を隠して、葉ずれの音色を奏でている。
森の自然林と山荘の庭をひとつに繋ぎ、
小鳥や蝉やたくさんの生物達もすっぽりその葉蔭に抱きよせる。
通り過ぎる風を緑に染めて、食卓へ届けてくれる。
だから真夏の暑さも忘れ、朝の食卓はこの上なく爽やかで、その枝から響き渡る日暮らしの何処までも透明なカナカナカナと言う音色に耳を澄ます。
すると、夏休みの幸福感とその夏休みがあっという間に過ぎてゆく切なさに、子どもの頃の感覚が甦る。




 
二股の幹を1本にするぞ(前庭)
いよいよ欅大作戦実行
前庭 8月14日 晴

    
 殺人兵器・チェーン・ソウ

   実に恐ろしいのだ!
このチェーン・ソウと云う奴は爆発的な暴力性を秘めていて
エンジンが掛りチェーンがもの凄い音を立てて回り出すと逃げ出したくなる。
小説や映画で死体の切断によく登場するが
大木を実に容易に切断してしまうのだから、死体なんて骨ごとスッパリと断ち切ってしまう。

姿勢の安定した地上で操作しても逃げ出したくなるのにグラグラする梯子の上に立ち
チェーン・ソウを使うとなるとそれなりの覚悟が必要となる。
そんでもって前庭の空を奪ってしまう大きな欅の剪定には二の足を踏んでいたのだ。
しかしグランにまで極楽蜻蛉と思われてしまっては
何としても前庭のノウゼンカズラ、ムクゲ、ザクロ、クレマチスを始めとする多くの植物に
光を当てるべく、勇気ある山荘仙人を登場させねば。

 重い腰を上げチェーン・ソウを構えて仙人の胴体より太い欅の樹幹と対峙。
二股になっている幹の左つまり北側を切り落とせば前庭には
光が満ち溢れ、滅亡しつつある多くの植物が救われるはずである。
大木の伐採は大変危険であり、ミスすれば大木の下敷きになって死んでしまうこともある。
梯子に乗って作業してる時は大木の落下に巻き込まれぬよう枝の張り出し方向も把握しておかねばならない。

倒れる方向を正確に見極め倒壊面に切断の刻みを入れ、切断後の分離を容易にする。
切断中に大木は倒壊してしまうのでこの刻みを入れないと幹は分離しないのである。
その刻みから5cm上の反対側にチェーン・ソウを当てて、いよいよ本格的な切断にかかる。
透明な顔の保護面に切断された木の屑が勢いよくぶつかり
チェーン・ソウは摩擦熱を抑えるためのオイルを吹きだしながら堅い欅に食い込む。

危うい梯子の上で

倒壊する17年の歴史



欅の涙

山荘主が突然その二股の片方を切り落とすと言う。
反対側に植えられた樹木が日陰になって、思うように育ってくれないからだ。
ことにノウゼンカズラが期待通りに咲かないことへの、対策だそうだ。
思い立ったが吉日、善(?)は急げとばかりに、朝食を終えると樵に変身。梯子を組み立て、チェーンソウを手にした俄か樵が伐採開始。
下で梯子を押さえる手伝いをしていると、ブーンという伐採音と共に、欅の木屑が雪のように降り注ぐ。

乾いた白い大粒の木屑は欅の涙かもしれない。生木が裂かれるのだから白い流血なのかな。

驚くほどの勢いで、白い木屑は降り続く。やがて、小さな悲鳴を上げて欅の片枝は、幹を離れて地面へとダイブする。
地面へ横たわった樹木があまりにも大きくて圧倒される。
よくもまあこんな大きな枝を切り落としたものだと、チェーンソウの威力にも感心する。




気に入ったぜこの長椅子(前庭)

オイラにも座らせて!
 長椅子にしちゃおう!
前庭 8月12日 晴

 山荘の誕生と共に17年の歴史を刻んで来た大きな欅が
空気を巻きこみ風を起こしながら凄まじい勢いで、メリメリと絶叫しつつ倒れる。
全身を緊張硬直させたまま予測通りの方向に倒壊した欅を眺め下す。

さあ、それからが大仕事。
倒れた大木は人の力では全くビクともしない。細かく枝を切断し少しづつ森に運ぶ作業が延々と続く。
最後に残ったのはぶっとい樹幹。切断も大変だし運ぶなんて論外。
そうだ、いっそこのままここに置いて長椅子にしてしまおう。

で昨夜観た倉本 聰のBD「北の国から」の丸太運びを真似して、梃子を使って僅かに移動しどうにか長椅子らしき風情に。
どうだグラン!これで仙人も少しは役にたつと解ったかい?
《うおーん、うおーん、オイラにも座らせて!》



明るくなった前庭
   
 新しい空が生まれた
前庭 8月14日 晴


 巨木の解体作業が始まり、鋸で次々と枝を切り離しては、森へ運ぶ。
これが延々と続く大変な作業である。
欅の枝は細く見えるものも、緻密な中味のせいでずっしりと重い。
森の斜面をほんの少しのぼるだけなのだが、枝を引きずりながらだとかなりの重労働となるため、
何回も繰り返すと汗びっしょりで、腕はパンパンになってくる。
昨夜見た、「北の国から」の一場面がそのまま繰り広げられている。
30年も前のドラマだが、今見ても少しも古びていない。

自然と人の営みは変わらないのだろう。
また、全身で向き合う自然からしか
与えられない何かが、
きっと人の生命を
鮮明にしてくれるのではないだろうか。

胸の奥に畳置きたいセリフも、
豊かな原野の緑や紅葉の中でこそ
伝わるものなのだろう。


緑の中で汗にまみれ、
同じ行為を繰り返しながらも、
何故か充実感が涌くから不思議だ。

最後の一本を森の奥に運び込んだときは、
もう動けないと云うほどに
くたくたに疲れたにもかかわらず、


空が大きいねとグラン
心は軽く、
労働の歓びに
満たされていたような気がする。
 
体を伸ばして見上げたら、
欅の天井の代わりに、
大きな空がいっぱいに広がっていた。
青い空がぽっかりと生まれ出たようで、
一層心が軽々とする。

山荘がもっともっと広く見え、
視界いっぱいが
空であることは何て爽快で
贅沢な空間なんだろうと、
思いっきり深呼吸したら、
木の香りが体中に染み入る。


(もう一人のジョバンニより)



今週のLivre  30
 終りはしなかった戦争終結の日

第66回敗戦記念日 8月15日(月) 目白
にて



ベトナム・ソンミ村虐殺事件・・・1968年3月16日

米軍はソン・ティン県ソンミ村のミライ集落(人口507)を襲撃し、
無抵抗の村民504人(男149人、妊婦を含む女183人、乳幼児を含む子ども173人)を機関銃の無差別乱射で虐殺。


出産間近かの妊婦、ニョン〔Ngon〕さんも、やはり強姦されたが、
そのあと米兵たちは彼女の腹に銃剣を突き刺し、両足で踏んで胎児を突き出させた。
数日前に出産したばかりの女性、ヴォ・チ・マイ〔Vo Thi Mai〕さんは、体が弱っていて壕に入れずにいたが、
米兵たちによって裸にされ、死ぬまで強姦された。


殺された女か? 

虐殺された村民 
撮影:ロナルド・ハーバール 


ソンミ村虐殺事件には、軍曹で米陸軍写真班員のロナルド・ハーバールが加わっていた。
彼は、あと11日だけ軍務に服すれば、復員となり故郷に帰れるはずだった。彼が重要な証人の一人であったことは疑いない。
彼はこの虐殺を明るみに出すという貢献をした。

作戦に参加したとき、彼は3台のカメラを携えていた。
その2台には白黒、もう一つにはカラーのフィルムが入っていた。

虐殺のあと、バーバールは40葉の白黒写真を陸軍に手渡した。だが、残り18枚を手元に残しておいたのだ。
事件から18ヵ月後、アメリカ国内でこの虐殺事件が調査されることになった時、バーバールはカラー写真を公開し、
それは米国政府を恐怖で震撼させたのだった。

(ベトナム・クァンガイ省一般博物館「QUANG NGAI GENERAL MUSEUM」の1998年の資料より抜粋)


30 誓約・上/下
原題: Word of Honor
著者: ネルソン・デミル(Nelson DeMille)
受賞: 「週刊文春」の年間ベストテンにランクイン。
他の作品: バビロン脱出、ニューヨーク大聖堂、ゴールド・コースト、
アップ・カントリー 兵士の帰還、
訳者: 永井 淳
発行所: 文芸春秋
発行日:1989年3月1日
定価(各巻):1600円

読書期間:7月5日〜8月15日
評価:★★★★

誓約

出産まじかの女を強姦し、強姦した後に銃剣をその女の腹に突き刺し、両足で踏んで胎児を押し出す。
如何なる状況に在ろうとも、果して人間にそんな残虐なことが出来るのだろうか?
答えは残念ながらイエスなのである。

敵兵の一人も居ない殆ど女、子供、老人ばかりの村民504人を虐殺しておきながらその成果を米軍はこう発表した。
《米軍はミライ村において一つの作戦を行なった。戦闘は正午過ぎまで継続した。
結果は以下の通りである。敵兵の戦死、128名、容疑者13名を逮捕、砲3門を捕獲》

それどころか更にこの残虐行為をベトナム派遣米軍総司令官、ウィリアム・C・ウェストモーランド将軍は臆面もなく
「3月16日にクァンガイ市の北東で行なわれたマスカティーン作戦(ミライ第4地区攻撃のコードネーム)は、敵に強烈な打撃を与えた。
C-1-20
(第20連隊第1大隊チャーリー中隊のこと)の将兵に、その優れた行為を称えて祝賀の挨拶をお送りする。」
とメッセージを送り世界を欺いたのである。

虐殺を実行した120人の兵士達(第20歩兵連隊第1大隊C中隊の、ウィリアム・カリー中尉率いる第1小隊)の中で
人間性を保つことが出来たのはハーバート・カーターという黒人兵一人だけであった。
彼は、こうした野蛮な行為に耐えることが出来ず、虐殺に加わらないで済むようにと、自らの足に向けて銃を発射したのだった。
民主主義と人権教育の元で育てられた筈の米国民の120人の内たった一人の心にしか人間性は留まらなかった。
この現実に戦慄する。

このソンミ村虐殺事件とリアルタイムでベトナム第一騎兵師団の歩兵連隊小隊長として実戦を体験したネルソン・デミルは
虐殺を1か月前の1968年2月15日に、場所をトゥア・ティエン県ユエ市内、ミゼリコルド病院に設定し
虐殺事件17年後の1985年、ソンミ村虐殺事件と異なる小説「誓約」を世に問うた。
その年の《パブリッシャーズ・ウィークリー》のデミルへのインタビューを訳者が引用している。

「この作品は頭のなかで考えて作り上げたものではない。基本的には自分の体験を語るだけでよかった。
プロットはストレートで単純だし、登場人物はすべて実際に出会った人々に基づいている。・・・
ソンミ事件のような残虐行為を、弁明したり正当化したりすることなしに理解したかった。

我々は自分達の文化がそのような野蛮な行為を許す筈がないと考えたがる。
しかし、かつてドイツ人も同じことを考えながら、第二次大戦の終わりごろには深みにはまって人間性を完全に失っていたではないか」

誓約・Word of Honorとは虐殺を隠蔽しようとの誓いであり、更に虐殺を勇敢なるベトコンとの戦闘勝利にすり替えるペテンを意味していた。
主人公ベンジャミン・タイスン中尉はユエ市内、ミゼリコルド病院での虐殺をベトコンとの戦闘にすり替え
上司のプラウダー大尉に無線連絡を行う。その結果タイスン中尉には
《ユエ市近郊での武装した敵に対する軍事行動で示した勇敢なる行為》と称して、銀星章授与命令書が発行される。
そのタイスン中尉の虚偽が18年後に暴露され、軍事法廷で殺人の罪で裁かれることになる。
何故タイスン中尉は虚偽の報告をせねばならなかったのかが次第に明らかにされていく裁判過程で
実はタイスン中尉こそがソンミ村虐殺事件で唯一人、人間であることを示した黒人兵ハーバート・カーターであり
暴露者であるプラントこそが破廉恥な強姦魔であった事実が浮かび上がる。

「誓約」後も次々とベストセラー入りする作品を書き続けているがネルソン・デミルが
ほんとうに書きたかった作品はこの「誓約」だけであり、
この作品を書く為にだけ生まれて来たのではないかとさえ思わせる作品である。

何度も読み返し敗戦記念日の8月15日、久々に1か月以上もかけて読み終わった。
この日、大岡昇平の長編小説『ながい旅』を映画にした「明日への遺言」を観た。
アメリカ軍によるB29の無差別爆撃で殺される日本の女、子供を観ながらその23年後に繰り返されたベトナムの虐殺が重なる。
米国は植民地争奪戦でもある第二次世界大戦を「民主主義対ファシズム」の単純な構図に描き
民主主義を護る為の「よい」戦争、正義の戦争であったとしてきたが、、民間人に対する無差別戦略爆撃については
知らぬ顔の半兵衛を決め、民主主義による民主主義の虐殺を平然と行ってきたのだ。
正義の戦争とはチャンチャラおかしい。

広島・長崎への原爆投下、ドレスデン大空襲、ハンブルク大空襲、東京大空襲・大阪大空襲など、連合国側の爆撃の方が、
枢軸国
(日独伊)のものより遥かに大規模であり(wikipedia)残虐であったと云う事実が何故いとも簡単に
民主主義を護る為の正義の戦争として摩り替えられるのか?
正しく民主主義による民主主義の虐殺である。

摩り替えただけでなくその後も正義の戦争と称して民主主義を御旗に世界各地で戦争を繰り広げてきたのだ。
軍事力でもって世界の民主化を叫ぶ強硬な米国のタカ派・ネオコンはベトナム戦争から何も学ばず
今後もイラク、アフガンを始めとし世界各地で最新兵器を振りかざし駆使し殺戮を続けるのだろう。

戦争によって虐殺されるのは肉体だけではない。時には殺戮する側の精神そのものを人間性の片鱗も残さず虐殺してしまう。
虐殺された精神は永劫に阿修羅となって修羅道を彷徨い歩くのだ。
決して終わりはしない戦争終結の日と、成熟には程遠い余りにも拙く欺瞞に満ちた民主主義を抱えて
知的存在の試行錯誤は未来へ暗鬱な影を投げかける。



8月3週
時空の素粒子、山荘で次々誕生




慌てん坊の林檎
時空の素粒子
8月22日(月) 朝日新聞朝刊

広大無辺の宇宙の片隅に在って
どんな高性能な顕微鏡でもってすら
観ることのできない程
小さな太陽系の
更に小さな惑星の1つ・地球。

その球体の表面にへばり付いた大地で
育った小さな球体が
そのままそっくり宇宙を体現して
誕生することの驚き!
彼等こそ無窮の宇宙と悠久な時を
無限に細かく切り分けた
時空の素粒子。

奥庭に実った早生林檎、洋梨
葡萄畑で採れた栗より
ほくほくで美味しい南瓜、大きな西瓜
やっと実ったワイン用の葡萄。
あーどれもが宇宙をそっくりそのまま
体現した時空の素粒子だ!

(いた)く感銘している目に
飛び込んできたのは紙面に躍る題字
《時空の素粒子》を求めて。
何だって空間や時間にも
その最小単位たる素粒子が
在るかもだって?

林檎の涙

栗より美味い南瓜

1個7kgだぜ!
記事を目にした瞬間の驚きは
自らの無知の鏡面に増幅反射され
視力の総てを奪ってしまう程の
眩い光となって
再び心象に襲いかかってきた。

若しかすると物質の最小単位である
素粒子のような最小単位が
空間にも時間にも在るかも知れない。
なんて今まで一度も考えたことは
無かったのだ。

連続している音色でさえ
音の素粒子であるデジタルへの
置き換えが実現しているのであるから
当然、時間、空間の素粒子も
思考の対象にすべきであったのだ。

 Fermi National Accelerator Laboratory
空間の最小単位を
10のマイナス33乗cm
(陽子の直径の1兆分の1の更に1億分の1)
と予想し実験を準備しているのは
米国フェルミ国立加速器研究所の
クレイグ・ホーガン博士。

更に時間の最小単位は
10のマイナス44乗秒程度と
考えられるので
インターネットの接続通信容量は
最大でも1秒間に44乗ビットと
予想されると云うのだ。

だが心配には及ばない。
現在の最速の家庭用インターネット接続でも
毎秒10の9乗ビット(1ギガ/秒)程度なので
10の35乗ビット分の余裕が未だあるらしい。

白ワイン用葡萄(甲斐ブラン)

蕩ける洋梨  

赤ワイン用葡萄(カベルネ・フラン) 



 
咲いたぜ向日葵!
秋立ちぬ
グラン、焼却炉で発見!8月24日午前9時

 さて熱情的な向日葵も
清楚な高砂百合も咲いたし
それではグランにも見せてあげようかな?

そう思ってバイクで森人の住まいまで一走り。
いつも直ぐすっ飛んで来て纏わりつく
グランもオバマも姿無くひっそり。
庭を巡りあちこち探すが
老いたゴールデン・レトリバーのチャラのみが
車の下で昼寝中。
 
高砂百合もちらほら

変だな
オバマはすっかり放浪癖がつき
見当たらなくても
不思議ではないがグランは
未だ小さいので家から
外には出ない筈なのだが・・・。

厭な予感がする。
もしやチビのように掴まって
殺処分にされるのでは。
まてよ森人が車に乗せて
仕事に連れてってるかも・・・。

で結局、雨の今週末は
グランの顔も見られず
折角の向日葵も少し寂しそう。

それから5日後
「先週19日の金曜日から
オバもグランも帰って来ないんですが
そちらに行ってませんか?」
との森人からの電話に吃驚!

 ワイン蔵を彩る向日葵

「えっ!先週の金曜日に
グランを迎えに行ったんですけど
2頭とも居ませんでしたよ」
こりゃ大変だ!
きっと里人に掴まって保健所に
連れて行かれ殺処分の
運命にあるに違いない。

「白と黒の縞で黒の首輪を着けた
犬と黒茶のテリーのような犬2頭。
間違いないですね。
もう焼却場に回されているので
24日には焼かれる予定ですが」
問い合わせた市の環境政策課の
返事に仰天。
即、森人に電話。

24日の午前9時、犬を引きとりに
焼却場にすっ飛んで行った森人から
「間に合いました。
今連れて帰りました」との電話。
あーこれで1つの命が救われた。
グランと又、山歩きが出来るのだ。
 
結晶格子の花です
 私は誰でしょう?

複雑に入り組んだ茎がまるで原子や分子が造る
結晶格子のよう。
その茎の狭間に花開く黄色い花弁。
数十本が群落を成し畑を覆う。
ミクロの世界そのものの出現に感嘆する。
これがサニーレタスの花だなんて初めて知ったよ。

処でこのアザミのような花、知ってる?
これにも吃驚させられたね。
収穫して何度も食べたことがあるんだよ。
当てたらご褒美上げようかな。
解った人はBBCに解答して!
 
薊ではありませんよ




どっさりゴーヤー

食べきれぬ枝豆
食べきれぬ収穫

どうしよう、こんなに採れちゃって!
ゴーヤーなんて葡萄畑の
そこかしこで大きな顔してぶら下がり
林檎畑の枝豆は
熟れ過ぎて黄色くなりかかり
「もう食べ頃を過ぎちゃうよ」と
叫んでいるような。
モロッコなんぞはもう
ジャングルのように生い茂り
採っても採っても
これでもかとばかり成り続ける。

こんな風に《時空の素粒子》となって
無数の球体を肉体に秘め
宇宙を
次々と創り出しているんだね。

収穫間に合わず(オクラ、ピーマン、茄子)

採りきれぬモロッコ




8月4週
鬼火に照らされた棺から甦ったグラン






冥界からの復活
拉致され死に怯えるグラン 
8月27日(土)曇 片栗の森

犬の嗅覚は鋭く、臭いに描かれた
総ての画像と文字を瞬時に読み取ることが出来る。
犬にとって臭いは書籍の文字であり
録画画像であり人間の嗅覚認識とは根本的に異なると
以前から気づいていた。

人間の千倍〜1億倍も優れた犬の嗅覚は
人間では退化してしまった器官
ヤコブソン器官によって脳に直結されている。
嗅細胞の数も人間の5百万個に対して
犬は50倍の2億2千万個もある。

その鋭敏な嗅覚が死を捉えたら・・・。
焼却場に拉致され充満する死の臭いに気付いた
グランの絶望が迫る。
生後僅か7ヶ月のグランの鋭い嗅覚が
捉えた絶望の臭いは
グランを狂気寸前にまで追い詰めたであろう。
死者の霊を導く鬼灯
無数の鬼灯の森で

 8月24日午前9時甲州市焼却場。

山荘眼下にある水工場の近くで捉えられた
グランとオバマは
古屋製材の車で運ばれ3日間の告示期間を過ぎても
飼主が現れず死を待っていた。

グランの叫びが目白まで届く筈もないのに
その朝、不安に駆られてふと甲州市の環境政策課に
電話を入れてみたのだ。
森人が放し飼いにしている犬への苦情が
里人から甲州市へ寄せられている。
そう森人自身から聴いていたが
その苦情がその朝突然、不安を呼び起こしたのだ。

電話の結果、グランが殺処分直前に在ると判明。
即、森人に連絡。
既に焼却場に向かっていた森人に迎えられ
殺処分寸前に
グランは死を免れた。

鬼火に照らされた棺から甦ったグラン。
無数の鬼灯に囲まれて佇むグランを観ていると
生命のあまりの儚さに胸が痛む。
あの突然の不安に襲われなかったら
グランとの再会は永劫に無かったかも知れない。

こんな風に怯えたんだ!
 
死の臭いは脳に
 
どんなに叫んでも死は・・・
 
再び還ってこれたんだね!
めでぃてーしょん
Meditation 8月29日(月)晴 前庭 

この欅の長椅子に座っていたのは8月12日。
その12日後に僕は死の淵に佇んでいた。
僕は何も悪いことをした訳ではない。

左肺を切り取る手術をしたばかりの主人と
心臓の手術をしてやっと退院した
奥さんが森に捨てられた僕を拾ってくれた。
目もよく見えずお腹を空かして
動けず死を待っていた僕を救ってくれたんだ。

救ってくれたご主人様は
散歩には行けないから僕はずーっと放し飼い。
だからいつものように
ちょっと勝手に散歩に出かけただけ。
それがどうして悪いことなの?
捉えられ殺されなければならないのはどうして?




熟れたゴーヤー

熟れたゴーヤーのサラダ
夏の終わり
8月28日(日)曇 前庭

なんじゃこれ?
黄色いバナナにしては
勝手に皮がむけたりして変だし。
だいたい中身が紅い種だけなんて
バナナでは在り得ないし。

まー喰ってみれば解るさ。
で、早速サラダに。
えっ!これがほんとにゴーヤーと
驚くばかりに苦さ無くさっぱり。
熟れ過ぎた果実&野菜
8月28日(日)曇 前庭

「桃栽培者の皆様へ。
本日28日をもって桃の共選は
終了いたしました」

小さな福生里の盆地に
JA玉宮のアナウンスが流れる。
共選なんて言葉は
辞書にも載ってないしとJAに
直接聴いたら
「共同で選果し出荷すること」との事。

そうか桃が終わると云うことは
夏が終わると云うことだな。
つくつく法師の鳴き声が
前庭に通奏低音を奏でる。
「おーしん つくつく おーしん おーしん」

届けられた最後の桃


「惜しい 熟々 惜しい 惜しい」
つくづく夏が惜しいと
夏の終わりを告げる音色が
森全体を震わせる。

雲間から暑い陽射しが
降り注ぐと
即興的に飛び入りしてみんみん蝉が
和声を響かせる。

蝉の賑やかな合奏に混じって
「とんとん」とドアをノックする音。
「もうこれが最後だに」
と云って持ってきてくれたのは
たくさんの大きな桃。
未だ冷蔵庫には先日もらった桃
残っているけど
美味しい桃なので大歓迎!


だがこの後が大変。

いつも貰うばかりで申し訳ない。
せめて代金をと、
少なすぎて失礼かと思いつつ千円を娘さんに
渡したのだが何と桃と一緒に
この千円札まで持って来たのだ。

「こりゃ受け取れません」
頑として受け取ろうとしないのだ。
《桃が欲しい時はいつでも声を掛けて下さい》
と云ったのはこちらなので
お金を受け取る訳にはいかない」
と云うのだ。
暫くお札は虚しく 宙を漂うのみ。
 
熟れ桃に群がる墨流し蝶
 
メチャ甘西瓜も終わり




見ーつけた!美味しそうな茸

生還したグランに花を贈ろう!

白鬼茸だぞ
森の逍遥500
8月28日(日)曇 上条の森&鉄塔山

又もや連日天気図と睨めっこ。
今日で犬との登山が
500回目を迎えるので記念に
アルプス登山を計画して
いたのだ。

ところが早すぎる
秋雨前線が日本列島に長々と
伸びて居座り
さっぱり晴れない。

午後になると雷注意報が出るし
台風も2つ接近中とあっては
山荘周辺の山々に
登るしかないな!

先ずは生きて再び逢えたグランに
大きなブーケを贈ろう。
どうだい白い百日紅の大きなブーケ。
えっ!要らないって!
それよりスペアリブか
ビーフ・ジャーキー の方が良いって?

それじゃそのスペアリブに添える
茸を探しに行こうか。
どうだいこの苔生した大木の
根元の木の子は?

この大きな白い茸が美味そうだって。
そりゃ白鬼茸と云って
毒キノコだから駄目さ。
こいつを食うと神経系が冒され
あっぱらぱーになって
その上胃腸系統もやられて
酷いことになるらしいよ。

あっそうだ、思い出した。
だいたい今週はスペアリブなんて
無かったんだ。

初めての上条の森にご満悦
だだっ広い野原の真ん中に
オレンジ色の筒発見!
筒の下にはプロパンガスの
タンクがセットされている。
さて、グランこれなーんだ?

 桃の収穫は終わったけれど
これから葡萄やソルダムの収穫が
始まるんだ。
それを狙って猪や鹿、熊まで
やって来るので
この大砲をぶっ放して脅すんだよ。

ほらそんなに近づいては駄目。
ドカーンと来るぞ。
それでも観たいって。
それじゃ先ずプロパンの栓を止めてと。
どうだいこれで安全さ。

更に森を進むと
痛々しく皮を剥がされた水木の大木。
ミズキは樹液をいっぱい含んでいて
鹿の大好物なんだ。
それにしても酷いね。
森の木々が一面にやられている。

さあ森を抜けると、いよいよ頂上だぞ。
てっぺんの岩に乗ってごらん。
銀河のように雲が棚引いて空が
実に大きいね。

苦しいこともあるけれど
生きていれば
こんなに大きな空にだって
飛び出せるんだよ。
500回をもっともっと超えて
いつまでもグランと
山に登れたら嬉しいな!

グラン、また僕たち
二人きりになったねえ、
どこまでもどこまでも一緒に行こう。
(銀河鉄道の夜より)
 
鉄塔山の山頂

防獣大砲だぞ

食い荒らされた森の木

皮を喰われたミズキ



森は生きている
8月27日(土)曇 山荘の森

 覚えているかい?
ノウゼンカズラに花を咲かせる為
7月に行った伐採作業。
切り落とした凌霄花(ノウゼンカズラ)
もったいないので暫く
池に入れて置きそれからもしやと
思って挿し木にしてみた。

3か所に挿し木を試してみたが
中畑に植えた1本が
ついに芽をだしたんだ!
嬉しくて嬉しくて思わずヤッホーと
叫んでしまったぜ。
で、残りの2本もしっかり観察したけど
残念だが死んでしまった。

雑草の海に道を造るぞ!
それから2回目、8月の
光を前庭に入れる為の欅の伐採は
未だ記憶に新しいよね。
でね、すっかり枯れて芽を出さない小紫
あー、間違って紫式部と
呼んでいるあいつさ。

そいつをじっくり調べたら
ほら、春でもないのに小さな小さな芽が
出始めているんだ。
こいつにも心底驚いたね!
だって伐採してから未だ2週間しか
経ってないんだぜ。

あんまりにも木々の生命力に
感動しちまって
空を仰いだらつい山荘の森と
目が合ってしまって
森が語りかけてきたんだ。

挿木に成功ノウゼンカズラ

森のハンター女郎蜘蛛

欅伐採で復活した小紫
蘇生した森と樹木
8月27日(土)曇 山荘の森

「でしょう。
凌霄花や小紫だけではないんですよ。
森だってほんの少し
手を掛けて風通しを良くしてくれれば
蝶や蜻蛉が飛び回り
そいつを捉えようと蜘蛛が巣を張り
鳥達が囀り、花花が咲きだすんですよ」

「解った解った!
そう云えば森の手入れをしたのは
もう思い出せない程
随分前のことですまなかったね」
なんぞと苦しいお詫び。

暫く使ってない草刈り機を取り出し
円盤刃の調整をして
いざ、森へ。

ほらこんなに綺麗な道が出来たよ!

2台在る草刈り機の内
円盤刃の方は
1年以上も使わなかったので
エンジンはかからず
錆ついた刃は切れ味が
すっかり鈍くなって
どうにも作業がはかどらない。

悪戦苦闘してどうにか
森に道は出来たものの反省頻り。
草刈り機だって出番が
無いので機嫌を悪くしてエンスト
起こすし・・・。

こんなにまで雑草や木々が
生い茂る前に
少しずつ手を加えておけば
森だってもっと光を食べ風と戯れ
明るく輝いただろうに。

グランも肯いていました。



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