その10秋ー2006年長月
9月3日(日)晴 於 奥庭
コーン、コーン ログハウスの屋根を マリンバにして 団栗が初秋の 前奏曲を奏で始める。 ・ 小さな秋を 真っ先に告げるのは 秋の夜の名演奏家達 ではない。 ・ 秋を忍ばせた風に 落とされた 慌てん坊の団栗が ログハウスの屋根で いつも真っ先に 騒ぎ出すのだ。 ・ マリンバの音色は 森に流れ 秋が静かに始まる。 |
|
---|---|
初秋を告げる団栗 |
9月3日(日)晴 於 西の森(朝トレ)
|
影が長くなった。 ・ 南回帰線への 旅を急ぐ太陽を 影の長さで 知ったのか猪が 夏毛の虫を落としに 風呂場にやって来た。 ・ 2つある風呂の 使用した片方だけが 濁っている。 お気に入りの風呂は 檜の大木付きらしい。 ・ この木に背をもたせ のんびり鼻歌でも 歌っている姿を 想像すると なんとも可笑しい。 ・ それにしても 檜風呂とは 何と贅沢な! |
|
---|---|---|
9月3日(日)晴 於 扇山山頂
秋の空が3つ 湖にぽっかり浮いた。 ・ 根元から 3本の幹を出し 湖を天空に 高く掲げているのは 楢の木。 ・ 深く生い茂った森の梢 を切り取って 僅かに覗かせた 小さな秋の空。 ・ その空を湖に 浮かせているなんて 楢の木も中々の 詩人だね。 |
|
---|---|
湖を抱く大樹 |
9月3日(日)晴 於 テラス陶芸作品上
|
秋の夜の 名演奏家達がやって来た。 ・ タキシード風の お洒落なラインを背中に 着けてそろりと登場。 舞台での俺らの位置は テラスに飾ってある大皿。 ・ うん、この大皿の海には とても魅かれるね。 夏にこの海を訪れた 玉虫や三筋蝶から 聴いたんだ。 「秋の演奏会は テラスの海がいいよ」って。 ・ 演奏会の舞台がテラスに 決まったので早速 下見に来たんだ。 今夜から俺ら 《ぎちぎち》と 自慢のセロを弾きまくるぜ! |
|
---|---|---|
9月3日(日)晴 於 扇山稜線上(朝トレ)
何だって! 今夜、演奏会だって そりゃ、どういうこと? 俺らに何の連絡も無しに? 確かに俺らの住んでる 扇山から山荘までは 遠いけど 《がちゃがちゃ》の 音色無しじゃ演奏会には ならないぜ。 ・ この俺らの肉体の輝きを 見てご覧。 絶好調のしるしさ。 最高のプレイで 山荘の森を 震わせてやるぜ。 ・ 分かったよ。 それじゃ孔雀蝶さんに 招待状を渡すから 今夜頼んだよ。 |
|
|
---|---|---|
9月3日(日)晴 於 前庭
|
聴いたぞ聴いたぞ。 《ぎちぎち》と 《がちゃがちゃ》だって! それで演奏会になるのか? 忘れちゃいけないぜ。 何たって俺らの弦は ストラディヴァリウスだって 及ばぬ音色を 紡ぎだすんだぜ。 ・ まっ! 俺ら無しの演奏会なんて ありえないね。 轡虫(くつわ虫)なんて 馬の口に咬ませた 口輪の雑音さ。 螽斯(きりぎりす)様は 舞台の最後(きり)に お出ましする最高の演奏家 だって知ってた? 最後の「す」は古来から 空を飛ぶ生命を 意味してるのさ。 |
|
---|---|---|
9月1日(金)晴 於 前庭
下界は暑さが続いてるが 山荘はめっきり 涼しくなった。 昨夜は15度Cまで下がり Tシャツ短パン姿で 震えてしまった。 ・ 快晴の空で太陽が いくら頑張っても 森を走り抜ける風には 何処を探しても もう夏は居ない。 ・ 冷たい風に蝉が 地中から次々と慌てて 出て来て羽化を開始。 辺り構わずしがみつき羽化。 ・ ここで出遅れたら 来年まで蝉に 成れないもんね! |
|
---|---|
夏の抜け殻 |
9月3日(日)晴 於 東の森(朝トレ)
池の端で赤紫の 萩が咲いた。 萩にしては小さいな。 と思って調べたら 同じ豆科の「駒繋ぎ」 ・ 萩は山荘の至る所に 雑草以上の繁殖力を 発揮して蔓延っている。 ・ 秋に敏感な萩は 北の高気圧を感じて 咲き始めるはずなのだが 山荘の萩はいずれも 未だ開花していない。 探してみよう。 ・ 居た居た! 山荘の東森の出口に しっかり咲いて 秋到来を告げている。 |
|
---|---|
築紫萩 |
9月3日(日)晴 於 北の森から
朝トレーニングを終えて 北の森を降りる。 森のテーブルが見えると その奥にログが姿を現す。 ・ ログの大窓に 沈んだ森が影を落とす。 車渠貝や鸚鵡貝が 影の中で 森の弱弱しい光を受けて 浮かび上がる。 ・ 菱形の光の通路が 沈んだ森の影を穿ち 森の存在が幻想でしか 無かったと告げる。 ・ 私の肉体を ニュートリノが突き抜ける。 そう 私の存在も幻想。 |
|
---|---|
森の中の海 |
9月3日(日)晴 於 居間の大型油絵
オンマニペニフム 蓮の花・宇宙に栄光あれ! と彫られた石板を 突き破って 超新星の白熱光が チベットの若い女に迫る。 ・ 突き破られてしまった世界は 幻想でしか無かった事に 唯ひたすら うろたえる。 ・ 輪廻、鳥葬、五体投地を 背景に祈る女の前面からも 白いオーロラ光が襲う。 前後の光が うろたえた世界で 女を刺し貫くのは一刹那。 ・ にも拘らず この女は微動だにせず 確かに存在する。 |
|
---|---|
芸術の秋・時空的渚 |
宇宙の一点から 光の粒子が放射される。 ・ 流星群軌道に地球が 突入すると 天空の一角から 星々のかけらが 宇宙創成期のように 激しく噴出す。 ・ しかしこれほど激しい 無数の星々の激突を 人類は目にしたことは無い。 45億年前の 地球誕生時のような この宇宙に人類は未だ 生まれていなかったのだ。 ・ その45億年前の宇宙を 今、夜の倉庫で 見つめている。 ・ 余りにも神秘的な 樽の中の宇宙に 圧倒され茫然自失。 |
|
|
---|---|---|
9月9日(土)晴 於倉庫
胸をときめかせ 次の樽の蓋を開ける。 ・ もう1つの宇宙が 更に激しく爆発しながら 私の瞳を射る。 ・ C6H12O6 =2C2H5OH+2CO2 ・ 糖をアルコールと 炭酸ガスに分解する 子嚢菌類の サッカロミセスが 漆黒の宇宙に華麗な 光を散乱させ 星々を創る。 ・ 微細な楕円形の 単細胞・子嚢菌も又 宇宙の創造主。 |
|
---|---|
サッカロミセスの爆発 |
華麗な宇宙を創生した 演出家兼素粒子は 山荘の地元で収穫された 葡萄・べりーA。 ・ 演出家の助手である 杜氏は山荘専属の ベチとミヤジ。 2人共ここ数年 山荘杜氏としてめっきり 腕を上げ今朝も 早くから山荘に駆けつける。 先ず昨年のワインを主食に 海老、帆立貝、烏賊の 海鮮サラダを副食にして 優雅な朝食を摂り ワイン仕込み開始。 ・ 葡萄をもいで 樽の中で踏み潰し 更に手で潰す。 ・ 美味しいスペアリブを 準備してやって来るはずの えこちゃんは 未だかな? |
|
|
---|---|---|
9月9日(土)晴 於テラス
|
20数年前に数学より 登山やスキーばかりを 教えた中学生が 立派な杜氏(?)に育って 山荘に還って来た。 ・ 杜氏が呟く。 「今年の葡萄は すごく出来がいいな。 粒に張りがあって 中々潰れない。 色もいいし虫食いや 腐食も無いし いいワインが出来そうだな」 ・ ビニールの袋を2重に履いて 樽の中の葡萄を 唯ひたすら踏み潰す 山荘主は腕から 太腿まで葡萄液に浸り 杜氏の言葉に耳を傾ける。 ・ 「けつぴん棒持って ドンガバチョやって 完全な暴力教師で今なら とっくに馘首だね先生!」 |
|
---|---|---|
「オミャーラ何やっとん?」 ・ 興味津々の 小蟷螂が首を擡げ じーっと見つめる。 「ドンガバチョって何なん? もしかして ひょっこりひょうたん島の あのドンガバチョ!」 「そうそうあの藤村有弘 演ずるガバチョさ。 授業中の罰ゲームで 芋ねーちゃん他沢山の バリエーションがあってね。 今なら校庭で生徒に 磔に処せられるかも」 ・ 「そうかそれで 君達は20年前の敵討ちに 山荘にやって来たって訳!」 「えっ!そうでも無いって?」 「じゃ何故? 分からん!」 |
|
|
---|---|---|
9月9日(土)晴 於奥庭
|
テラスから4樽の 仕込み葡萄を 倉庫に運んだ。 甘く少し妖しい香りに 満たされ倉庫の窓から 香りが漂い流れ出る。 ・ 早速倉庫のドア近くに やって来たのは 殿様飛蝗の5令幼虫。 ・ 「おいら良い声で 鳴かないし害虫と言われる 嫌われもん。 そりゃ人間のご都合による 身勝手な判断で こちとら大迷惑さ。 特に農薬で追い払われ このあたりじゃ農薬の無い 山荘しか 棲みかは無いんだ。 ワインの絞り滓でいいから 恵んでおくれよ!」 |
|
---|---|---|
山荘の植物は 強靭なのが多い。 何度か山荘日記に 登場した髭欄 秋桜、採っても採っても 生えてくる蕨、萩。 ・ この蔓性の白い花も 凄まじい生命力。 山荘の石垣を覆い尽くし 躑躅に絡みつき 畑や芝生を侵略する 敵である。 ・ でも夏の終わりには 清楚な白い花を 沢山つけて大地を覆う。 ・ 終日赤い葡萄ばかり 見てきた目には 眩しいばかりの純白。 |
|
---|---|
仙人草・・・金鳳花科 |
|
やっぱりえこちゃんは 美味しいスペアリブを どっさり持って 山荘にやって来た。 ・ 山荘の2006年ヌーボ 《ゆぴてる》の誕生を 祝うには ログハウスが相応しい。 ・ ログハウス階下の倉庫で 宇宙を創生しつつある 樽のワインに挨拶してから 昨年のワインを持って ログに上がる。 ・ 丸太を薄切りにしただけの お盆にワイングラスと 果物や料理を置く。 ログの主・木星の油絵が 階下の樽宇宙に呼応して 妖しく悶える。 ・ さあ! 新しい宇宙の誕生に乾杯! |
|
---|---|---|
9月16日(土)霧曇 於 黒岳広葉樹林の森
山荘の森から 更に1200m登り 標高2千mの黒岳の森へ。 ・ 小金沢連嶺の中央部にある 標高1988mの黒岳は 山荘正面のパノラマ背景に 溶け込んでいて あまり目立た無い山。 ・ 林道が標高1570mの 湯の沢峠まで 開かれているので 黒岳へのアクセスは良い。 だが湯の沢峠そのものが 山奥に在るため 訪れる人は少ない。 ・ いつもひっそりとしていて 神秘的な森が 標高2千mの稜線に 展開する。 |
|
---|---|
標高2千mの森 |
9月16日(土)霧曇 於 黒岳広葉樹林の森
|
隊長の坂原は 3ヶ月前から左膝を 数度にわたり傷め続け 更に右足指付け根を 致命的に傷め トレーニング禁止。 要安静静養。 ・ 村上、大田は腰痛で 最近やっと回復の兆しは 見えたものの やはり不調。 そこでチベット遠征を 1週間後に控えて トレーニングは 負荷の少ない黒岳へ。 ・ 鬱蒼とした深い森で 今正に 《どぅ、と音を立てて 倒れんとする老樹》 に出逢った。 縦に裂かれ 内部から朽ち 苔生しそれでも 葉を繁らせ凛として 生きている。 |
|
---|---|---|
9月16日(土)霧曇 於 白丸稜線の森
初秋の花として 親しまれている松虫草も 標高2千mの寒さには 耐え切れず 最早色褪せお終い。 ・ 深い霧で花弁を濡らし 結露した露が 花弁を縁取り 透明な水晶になって 硬質な光を放つ。 花そのものが ギヤマンの煌き。 ・ やがて春の発芽まで ながーい眠りに就く。 生命はこのようにして 過酷で不毛な 宇宙空間の 長い旅に耐える。 |
|
---|---|
最後の松虫草 |
9月16日(土)霧曇 於 白丸稜線の森
|
紫碧なんて色が 存在するのを初めて 知ったのは鳥兜に 出逢ってからである。 ・ 秋を告げる花に 相応しい彩である。 群青の空にしては あまりにも重いし 珊瑚海の色にしては 太陽を拒否したような 暗さを秘めている。 冬と言う死を予告する 花でもある。 ・ 根に猛毒を秘めている が故に 死の色が紫に 忍び寄るのだろうか? ・ この猛毒は生薬にもなる。 死と生を鳥兜は同時に 司るのだ。 |
|
---|---|---|
9月16日(土)霧曇 於 黒岳広葉樹林の森
暗い森の中で 地中から生まれた シャンデリアのように 白磁器の光を森に放つ。 ・ 「ポラーノ広場」 へ続く道標?それとも 「銀河鉄道」への道? ・ 暗い森でこの花に逢うと 何故かいつも 宮澤賢治の 心象スケッチが 白磁器の鈍い光に 浮かぶ。 ・ 賢治は岩木山の森で 様々な生命から 時空を超えた感性を 授けられ 壮大な多次元宇宙への 旅に出た。 |
|
---|---|
シラネセンキュウ。キュウは草冠に弓と書くが旧漢字なのでFTP転送が出来ない。 | 白根川キュウ |
9月16日(土)霧曇 於 黒岳広葉樹林の森
|
賢治が暗い森で 天南星を見つけた時に どんなに喜んだか ありありと目に浮かぶ。 ・ ミミガタテンナンショウ とても面白い名前だね。 春に紫緑色の仏焔苞に 包まれた肉穂花序を付け 秋になると こんなに美味しそうに 熟すんだね。 ・ 天南星って 漢方薬の名前なんだ。 鳥兜と同じように 有毒だけど薬でも あるんだ。 ・ 「ポラーノ広場」や 「注文の多い料理店」は きっとこの 耳型天南星が賢治に 囁いたんだ。 |
|
---|---|---|
9月17日(日)晴 於 山荘倉庫
サッカロミセスが 漆黒の宇宙に華麗な 光を散乱させ 星々を創る。 ・ あれから1週間。 ビッグバーンを終え 時空は爆発速度を やや緩め幾つもの 泡宇宙を誕生させた。 ・ 1つ1つの泡の皮膜に 確かに星々が形成 されつつある。 銀河系の渦中で 生まれつつある 太陽系第3惑星は 何処に? ・ 皮を取り除くと 紅の液体が 深奥部から上部へ 激しく噴流する。 泡宇宙は翻弄され 果てし無い輪廻の旅を 開始した。 |
|
|
---|---|---|
9月17日(日)晴 於 前庭石卓
うーん! 堪らない香り。 ・ 樽部屋のドアを開けた途端 甘美な妖しい香りに 悩殺される。 ・ デカンタに紅の宇宙を 泡ごと注ぎ込み 他のワインと共に 石卓に乗せ ワイングラスに 宇宙(うみ)を満たす ・ 上条の森で朝トレの汗を たっぷり流した肉体に 甘美な妖しい香りが 囁きかける。 ・ さあ! クサントス 海を飲み干せ! |
|
---|---|
ゆぴてる・ヌーボ |
「海を呑み乾すだって! そんな事を誓った 覚えはないぞ」 《デルフォイの町の 誰でもが知っています。 海を呑み 干さなければ 貴方は総てを失います》 ・ アイソーポスが 静かに登場。 《昨夜の私の ビオロン演奏は如何? 又、私が必要ですって》 「素敵な音色だったよ。 今度は 海の呑み干し方を 教えてくれ」 ・ 《そんな事も知らず 貴方はワインを 造ったのですか? 解は森に託しましょう》 |
|
|
---|---|---|
9月17日(日)晴 於 座禅草の森手前
森の手前で 目の前を橙赤色の翅に 黒斑を散らした蝶が 舞った。 ・ 立翅蝶にしては珍しく 翅を全開にし 「さあ!アイソーポスの メッセージよ 読んでご覧」とばかり。 ・ 緋縅立翅蝶のように 緋縅の鎧を纏っているが 翅の外縁は 暗褐色ではない。 姫は白の縁取りを 選んだのだ。 ・ 肉体と翅の 繊細なグラデーションに 思わず 惹きこまれてしまう。 |
|
---|---|
姫赤立翅蝶 |
9月17日(日)晴 於 座禅草の森手前
翅を翻し 蝶はメッセージを載せたまま 森へ飛び去る。 ・ 僅かな彩の変化を 視覚が捉えた。 メセージが変わったのだ。 翅先端の黒塗りが消え 翅全体が豹紋になった。 其の上、翅後方に 孔雀蝶のような藍い ラピスラズリを象嵌している。 ・ 刹那にして 緑豹紋蝶に変身したのだ。 ・ あの藍は海を示して いるのだろうか? |
|
---|---|
緑豹紋蝶 |
9月17日(日)晴 於 上条山稜線
|
昨日まで秋雨前線が 停滞し森は茸ラッシュ。 ・ あの世・冥界に 神が居るとしたら こんな姿であっても 何の違和感も無い。 ・ 8月27日に出逢った時は 一瞬「ぎょっと」したが 今回は挨拶してしまった。 「やあ!プルートーン君 今度は雪達磨になって 登場かい? その棘棘が 気になるんだけど?」 ・ 「こいつは悪行を成して 冥界に来た奴を 懲らしめる棘さ。 クサントスが海を 呑み干さなかったら おいらの出番さ」 |
|
---|---|---|
9月17日(日)晴 於 上条の森
ハナビラタケは 何かを連想させる。 何だろう? そうか、出臍だ。 楢の木の臍、森の出臍。 オンファロスだ。 ・ 紀元前6世紀 イオニアの哲学者 アナクシマンドロスは デルフォイが世界の 中心・臍(オンファロス) であるとゼウスを使って 証明した。 ・ ゼウスは世界を円盤と捉え その世界の両端から 2羽の鷹を放した。 2羽の鷹はデルフォイで 見事に出逢ったのだ。 ・ 何だって! 花弁茸が世界の臍だって! するとアイソーポスの解は この花弁茸にあるのか? |
|
|
---|---|---|
美味しそう!スープにしたら最高の味になりそう。山葵醤油もいいかな。油で炒めてもいけそう。 |
9月17日(日)晴 於 上条の森
|
笑わせるなよ。 オンファロスを見たこと あるのかい? ・ あの褐色の釣鐘型は どう見たって おいらの幼少時の姿さ。 つい数時間前には 何を隠そう、おいら オンファロスだったのさ。 ・ つまりおいらは 世界の中心であり アイソーポスの解を 託されていたのさ。 ・ だがオンファロスである 時間は僅かなんだ。 傘を開いてしまうと おいら唯の唐傘茸に 戻ってしまうのさ。 ・ オンファロスは何処へ 行ったかって? 森の珊瑚にでも 聴いてみな。 |
|
---|---|---|
9月17日(日)晴 於 上条の森
森の珊瑚なんて 言われてるけど形や 美しさだけで 呼ばれただけじゃない。 ・ 卵子のような担子胞子を 担子器に並べて 有性生殖するんだ。 珊瑚が海に卵子精子を 放射し受精するのと おんなじさ。 ・ で何だって? オンファロス? 珊瑚は海の事は 全部お見通しさ。 だが 「海を呑み干す」 なんて言った法螺吹きを 救う言葉が 何処にあるかは とても教えられないね。 クサントスは 総てを失って消えて しまえばいのさ。 |
|
---|
9月17日(日)晴 於 座禅草の森
|
「アイソーポスの解を 知ってるわよ」 ・ 薄暗い森の下草から 呟きが聴こえた。 屈み込んで覗いてみると 仄かな紫蘇の香り。 可憐な小花が垂直に 連なり静けさを湛える。 ・ 「私の冬の花を追って 何度も森を逍遥したのを 覚えている? 冬日記をご覧になって」 ・ そうか、あの氷の花は 君の冬枯れた茎で 咲かせるのか。 で、解は? ・ 《海の水から川の水を 取り除け! されば我海を呑み干さん》 |
|
---|---|---|
9月23日(土)晴 於 西畑下
コスモス・宇宙 何とも壮大な命名に感嘆! こんな凄い名を付けたのは 誰だろうと 分厚い百科事典を開く。 ・ あった! 18世紀末にメキシコから スペイン・マドリードに送られ そこの植物園長が命名。 園長名はカヴァニレス。 ・ だが何故彼はスペイン語でなく 敢えてギリシャ語を 用いたのか? ・ 山荘のテーマは木星。 ギリシャ神話の最高神は ゼウス。 ゼウスはローマ神話の木星。 つまり山荘のテーマは ギリシャそのものでもある。 ・ かつてギリシャはオンファロス 宇宙の臍であった事を カヴァニレスは 花に託したのか? |
|
|
---|---|---|
9月23日・秋分の日《彼岸中日》(土)晴 於 奥庭陶房横
曼珠沙華 Manjusaka サンスクリット語で 天上に咲く4つの華の1つ。 見る物の心を和らげる華。 |
|
---|---|
葉も無く 不気味な朱を ある日忽然と 辺り一面に散らす。 幼少時はこの華に 恐れを抱いていた。 妖気が忍びやかに漂いだし 幼い心を鷲掴みにし 私は異次元に拉致されて しまうのだ。 ・ しかし数十年後 山荘で再会したその瞬間から ぐいぐいと強烈な力で惹かれ 私は華の虜に なってしまった。 ・ 昨年移植した曼珠沙華が 奥庭でついに咲いた。 |
9月23日(土)晴 於 山荘倉庫
宇宙開闢から2週目に 泡宇宙での超銀河団の形成。 そして3週目には早くも 惑星や衛星を生み出し 150億年と言われる宇宙の歴史を 一気に突っ走った。 ・ 暗黒の深みから サッカロミセスが輪廻の翼を 羽ばたかせ 次々にクレーターを噴出する。 ・ 「嵐の大洋」の北東にある コペルニクスに 2つの目が光る。 まるで真っ黒黒介。 ・ そういえばこのクレーターは どれもまっくろ黒介ばかり。 《トトロ》になった葡萄。 宇宙になったり トトロになったりワイン造りって 面白いな。 |
|
|
---|---|---|
9月23日(土)晴 於 西の森下
雄株と雌株があり 雌花は多数集まって 球花を成す。 成熟すると子房と包葉の基部に 黄色い粉を生じる。 これがホップ粉である。 ・ こいつをビアの仕込みに 入れると 独特の苦味と香りが出て ビアが完成する。 ・ 山荘のビアは2種類のホップを 使い更に梅エキス 季節の果実を加え ジンジャーでしめる。 最高に贅沢なビアである。 ・ 朝トレで時々目にするので 今度天然ホップ粉を採って ビアを仕込んでみよう。 |
|
---|---|
野生天然ホップ |
9月23日(土)晴 於 西の森下
ほんの少し 耳を傾ければ 瞳を凝らせば 自然はこんなにも感動的に 美しく壮麗な宇宙を 垣間見せてくれる。 ・ H2O・水素2つと 酸素1つの水の分子が 無数に散開する広大な宇宙。 分子の1つに目をやると 更に原子核を巡って 酸素や水素の軌道を 電子が飛ぶ。 ・ その広大な宇宙を乗せた 太陽系第3惑星に 今、日が昇る。 太陽は H2Oの宇宙を 水晶の煌きで満たす。 何と美しいのだろう! |
|
---|---|
芒の水晶 |
9月23日(土)晴 於 西畑
|
「灯台元暗しよ」 「えっ!誰だ?」 「西畑の春菊よ。 芒の水晶に感動したり 秋桜に惚れたり 勝手だけれど たまには私にも 瞳を凝らしてみて」 「うん、そういえば中々綺麗だね」 ・ 「秋桜なんて庭にも畑にも やたらと蔓延り いつもブータラ 悪態つきながら 引っこ抜いているのに 毎日サラダで食べてる 私には 見向きもしないなんて 随分じゃない?」 ・ そうでした。 猪や鹿の畑荒らしにも耐え 夏の間美味しいサラダで 山荘の食卓を飾ってくれたね。 ありがとう! |
|
---|---|---|
9月23日(土)晴 於 前庭
世界観の崇高さと 人生観照の深さと 文化批判の 鋭さは驚異的である。 ・ 唯美しいだけでなく この紫の果実は 知的存在なのだ。 こんな風に 前庭でひっそりと世界を 見つめているけれど 千年前の1007年には 《源氏物語》を完結させ 平安時代の 女流作家として 名を馳せたのである。 ・ ワイン酵母の 生み出した球体 芒の葉に結露した水晶 そして植物の生殖によって 齎された紫の美玉。 ・ それぞれが 壮麗な宇宙を構成し 次元を超えた感性で 私を 認識の彼方へいざなう。 |
|
|
---|---|---|
9月24日(日)快晴 於 テラス
|
昨夜は11度Cまで 気温が下がり 山荘はすっかり冬の兆し。 ・ それでも太陽が昇り 森を暖めると 最後の声を振り絞って ミンミンが鳴き出した。 ・ おや! 兜虫の雌だ。 干乾びてコチンコチンに なっている。 ・ もしかすると昨日までは 生きていたのかも。 西畑のチップの山で産卵し 最後の力を集結し テラスの陶器に 描かれた海を目指して やっとここまで来たの? 最後に海は 見えたのだろうか? |
|
---|---|---|