その82ー2012年長月 |
9月1週・・・天空への遥かなる架橋
地球と宇宙をつなぐ 10万kmのタワー「宇宙エレベーター」 建設構想を大林組が発表 2025年に着工?予算2兆円か? (2012年2月20日) |
天空への遥かなる架橋 9月1日(土)晴 前庭 早朝の畑仕事に汗を流し、その後の朝トレで森や山を散策し再びたっぷり汗をかき 前庭の石テーブルで朝食。 1時間以上も冷凍庫で冷やしたワインをグラスに注ぎ先ず香りを愉しみ 徐(おもむ)ろにグラスを傾け最初の一口を堪能する。 グラスと共に見上げた空に、何処までも限りなく高く延びあがっていく欅の大木。 ・ 《もっともっと高く延びあがって天まで行きたいのですが、 それにはどうしても一番下の太い枝が邪魔なの。 若し伐ってくれれば きっと天にまで達して金の卵を産む雌鶏と金の竪琴を齎すでしょう》 ははーん、そうかお前は[ジャックと豆の木]のあの天まで届く 豆の木になりたいのだな。 残念ながら生憎と金には興味が無いので金の雌鶏も竪琴も要らないけれど その代わり鋼鉄の20倍以上の 強度を持つ炭素繊維「カーボンナノチューブ」のケーブルのようになって 天空と山荘を繋いでくれるなら伐ってやってもいいよ。 |
ゼネコン大林組の壮大な構想 38年後の2050年に実現予定 |
最下部の枝を切る |
ジャックは天空へ |
切断開始 |
するとどうでしょう、欅の奴 大喜びしてこう云うではありませんか。 《やったー! そんなら直ぐに伐っておくれ。 欅が堅くて摩耗に強くて建築材の 王様だって云うのは知って いるでしょう? カーボンナノチューブになるとしたら あたしを置いて居ない。 任せておいて》 ・ こうなったらもう伐るしかありません。 |
難しく2日掛けて切断 |
すっかりジャックになって この大きな欅の大木に登った仙人は 『そら天まで届け』と ハミングしながら電動鋸も使わず 小さな鋸1つで本当に伐り始めたのです。 ・ 欅が如何に堅くて伐るのが大変か 前回の伐採で解っている筈。 今回は更に高い位置での手作業となり とても1日では終わりません。 いつになったら伐り落とせるか目途も つかない仙人の鋸引が 永劫に続くのでした。 |
切屑が眼に入る |
2日目にやっと伐り落とした瞬間 森に棲む蝉や、蜻蛉、蝶 飛蝗までしゃしゃり出て来てブーイング。 《やーい、なんも知らんな! 俺達の棲家である 欅の枝を伐っても山荘がアースポートに なると思ったら大間違いだぞ。 アースポートはな、赤道直下の海の上で 移動可能な メガロフロートになるのも 知らんのか?》 ・ そうでしたね。 ダイビングで訪問した、お馴染みの ガラパゴスやモルジブが アースポートの候補地でしたね。 |
遂にやったー! |
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活動の終焉
翅は切れ鱗粉は失せ無残な姿態
でかい鬼やんま オニヤンマ (東森) |
大声のみんみん蝉 ミンミン (前庭) |
眼ん玉ぎょろり鬼やんま オニヤンマ (東森) |
黄揚羽 キアゲハ (前庭) |
森の住人達がいちゃもん付けて ブーイングしたくなる気持ち 解らないではありません。 秋を迎えてしまったまーこの無残な姿。 ・ 揚羽の尾状突起なんか 両方とも千切れてしまってこれじゃ 飛翔のバランスが取れず さぞ飛びにくいでしょうに。 蛇の目なんぞは更に破れが酷く 翅の後縁は殆ど破損。 ・ 鬼やんまの眼の色だって 深みを失い何処かそこはかとない 諦めの光が宿ってませんか。 躍動期にあるやんまの眼は凄いんですよ! やんまの眼でリンクしておいたから 観てご覧よ。 ・ 墨流しの本当の美しさを知っているなら この墨流しが如何に 鱗粉を失った瀕死の状態に在るか 良く理解出来るでしょうね。 ・ ミンミンなんか圧倒的な大声で この森は俺のもんだとばかり 叫んでいるけど あれは蜩(ひぐらし)の追悼歌なのです。 2日前まで澄んだ音色を 響かせていた蜩がすっかり姿を 消してしまった哀しみを 詠っているのでしょう。 |
・ 千切れ翅・揚羽(黒点在り) アゲハ (中庭) |
ヨレヨレの墨流しの翅 スミナガシ (奥庭) |
破れた翅・蛇の目蝶♀ ジャノメ (東森) |
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それは自らへの追悼歌でもあると よーく解っているんだろうね。 ・ 《我想う故に我あり》と 云わんばかりに物想いに耽っているのは 芒に留まっている殿様飛蝗。 ・ 「うん、確かに下界では未だ猛暑日とかが 続いているけど もう夏は終わったんだよ。 山荘だって昨夜は17℃まで気温が下がり 仙人なんか寝室の窓を しっかり締めてタオルケットの上に 薄手の布団まで掛けていたぞ」 ・ そうかお前は 2階の寝室を覗いていたのか。 |
考える殿様飛蝗 トノサマバッタ (東森) |
驚いたね! 殿様飛蝗君が突然朗々と 詩吟らしき声音で詠いだしたぜ。 ・ 《祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり 沙羅双樹の花の色 盛者必衰の理をあらわす ・ おごれる人も久しからず ただ春の世の夢のごとし たけき者も遂には滅びぬ 偏(ひとえ)に風の前の塵に同じ》 ・ でもさ折角のご披露だけど なんかこの場面にはそぐわないぜ。 君達又来年、再生復活するんだろ? |
今週の生花・仙人草 ユリとセンニンソウ (居間) |
森の火炎樹・百日紅 サルスベリ (東森) |
夏の終わりを告げる・仙人草 センニンソウ (ゲート) |
オクラ収穫最盛期 オクラ (葡萄畑) |
熱中症のサッカロミケス パンとビア それでも赤道から遙かに離れた 山荘がアースポートになり 自由に宇宙へ 旅立てる日が来ることを夢見つつ 欅の梢からキッチンに戻り、仕込んであった パン焼き器を覗いてみると さー大変! ・ ふっくらと焼けている筈の人参パンが ちっとも脹らんでいないでは。 春に蒔いた人参がやっと大きくなったので 採り立て山荘人参を使って 香り高い人参パンを仕込んだのだが これじゃまるでパンケーキ。 ・ そうか、夜は20℃を下回る山荘気温も 日中は30℃を越え出芽酵母の サッカロミケスが熱中症に罹ったんだ。 となると同じサッカロミケスで 仕込んだビアも発酵してないかも。 昨日瓶詰した70本の山荘ビアも 失敗となると 事は深刻である。 ・ 美味しい山荘ビアが暫く呑めないと なったら畑仕事にも熱が 入らず秋、冬野菜の準備も出来ず 畑は荒れ放題になってしまうかも。 仙人の畑作労働の本当の 目的は労働後のビアとワインにあるのだ。 ・ ばれたか! 実は山荘仙人は正真正銘のアル中。 山荘産のワインとビアが切れると 動けなくなってしまうのだ。 勿論仙人を辞めて都会に居る時は 汗に塗れる畑作労働も無いので 全くアルコールは口にしない。 となると半アル中かな? |
まだまだ元気一杯朝顔 アサガオ (東森) |
人参パンの花 ニンジン (葡萄畑) |
秋の色・鷹の爪 タカノツメ (中畑) |
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どうしよう採れ過ぎ南瓜 カボチャ (葡萄畑) |
向日葵も収穫だよ ヒマワリ (ログ) |
巨峰の収穫 キョホウ (福生里) どうだい、どっからどう観ても笠智衆そのもの。 物腰、雰囲気、笑みを絶やさぬ眦(まなじり)。 それじゃちょっと深沢さんの帽子を借りて 御前様の頭に載せてと おーぴったり!それで葡萄なんぞを持ってもらえば ほら、御前様が生き返って葡萄畑にやってきた。 ・ 御前様お久しぶりです。 実は先々月の7月の白馬登山でお逢いしてます。 冬の白馬主稜で共にザイルを組んだ 成田泰樹を調べていてお目にかかったのです。 泰樹が笠智衆さんの大船の家を訪問した時に撮ってもらった 笠さんと泰樹とが一緒に写った写真 覚えていますか。 ・ 泰樹はあなたのファンで 世界第2の高峰K2(8611m)遠征出発の前日に 北鎌倉円覚寺に在る小津安二郎の墓を訪れ こう記しています。 |
欅の大枝の伐採に成功し歓びのあまり欅に掛けた梯子を 2段ほど飛び降りたらずっきん。 右アキレス腱に激しい痛みが走る。 やっちまったぜ! 断裂を繰り返し3分の1になってしまった右アキレス腱の 手術を関東労災病院のスポーツ整形外科で行ったのは18年前。 それ以降アキレス腱痛を騙しつつヒマラヤに登り続ける と云う長ーい闘いが始まった。 アキレス腱の痛みを呼び覚まさぬよう 気を付けてはいたのだが又やっちまったのだ。 何十回も性懲りも無く傷め続けてきたアキレス腱。 これで又2か月以上も安静にせねば朝トレも登山も出来なくなる。 ・ そこで今朝の朝トレは森の散策としのんびり里を巡った。 里は桃が終わり巨峰やピオーネの葡萄の収穫を迎えていた。 あれっ!葡萄畑で微笑んでいるのは 「男はつらいよ」の御前様では。 |
笠智衆との出逢い リュウチシュウ |
《K2出発の前日、残された今日1日をどう過ごそうか、少し迷った。・・・どこか自分の心を落ちつけてくれるところに行きたかった。・・・ 寅さんの御前様のイメージが強い笠さん。 自分にとっては「晩春」における「原節子の父親役」であり「東京物語」における「東山千栄子の夫」でもある笠さん。 さすが、目の前にそのままの姿があると緊張してしまったけれども、その気取らない姿、柔らかで、しなやかな物腰。そして 普通の平凡な1ファンにも人一倍気を遣わせる姿。 その姿は今でも目に焼き付いている。 ・・・・・・ 思っていたよりもこじんまりとした墓石。そこに刻まれた一文字。「無」 その墓石の前に立ち、手を合わせると不思議と落ち着いていた。 「自分がやるべき精神的、肉体的準備はすべてやったじゃないか。あとはどれだけ自分が生への執念を強く感じながら K2という舞台の瞬間、瞬間で燃焼するだけだ。それだけに集中しよう。 自分を怯えさせるほかのことは考えないようにしよう」 追悼集【星になった泰樹へ】より抜粋 |
9月2週・・・・突然南瓜がやってきた!
夜明けと共に活動開始! (石卓) |
先ずは新車耕運機QM30登場 (奥庭) |
南回帰線への旅立ち 9月16日(日) 晴 西畑 暗渠の疎外された眠りから解放され 最初の光を捉える刹那が どんなに待ち遠しいか! ・ あの爆発的再生を約束する眠りさえも 老いと共に暗渠に追いやられ 最早眠りが新世界を生み出すことはない。 夜々終わりなき無窮の暗渠に耐え 未だ朝の来ることを予感し 最初の光を待ち続ける。 ・ そして一条の光。 約束された爆発的再生の片鱗は 面影すら見い出せ無いが光の中に僅かな 血潮の潮汐がうねる。 さあ、僅かな潮汐に身を委ね 暗渠から飛び出そう。 |
小倉山を食す太陽・揺れる黄金の穂波 (西畑) |
倉庫から新車の耕運機を操縦して 奥庭から中庭、前庭を通って 西畑へ向かう。 南回帰線へ向かっている太陽が 冬を予告する長い影を曳く。 ・ 一条の光が無数の束となり 小倉山の山頂を抉る。 山頂が2つになり双耳峰になった小倉山。 光は燦然と大地に注ぎ 芒は黄金の穂波を鮮やかにざわめかせ 畑の土は光を吸いこんで 薔薇色に染まる。 ・ 生まれたばかりの若い耕運機が 軽快なリズムでハミングしつつ 薔薇色の土を巻きあげる。 雑草に覆われていた大地は再生され 新たな生命の萌芽を夢みる。 光と大地の交響曲プロローグに 指揮棒を振るえる歓び。 |
あれーこれ何だ? 山荘の匂いがするぞ(雅輝) 南瓜の馬車を作りましょう(美優) (練馬区自宅にて) |
突然南瓜がやってきた! あれ!南瓜だ! 仙人が妖精達に山荘南瓜を送ったのでした。 むふふふふふ! 大地を耕作すると風が高らかに謳うんじゃ。 あの素晴らしい「歓喜の歌」を。 聴こえないって! そりゃ修行が足りないんじゃよ。 |
南瓜より美人でしょ!(綾) 僕のお臍だぞ(リッキー) 知ってるドイツ語は 「歓喜の歌」だけじゃないぞ 南瓜はKurbis [ キュルビス]だ(恵太) (渋谷区自宅にて) |
無水鍋でホクホクです!(葉子) |
本日のディナーは カボチャのスープとパンです。 (美穂) 素材のよさと ワイフの料理の腕前のおかげで、 おいしくいただきました。 ありがとうございました。 (雅幸) |
スープにしてみました。 (美穂) |
斜度のきつい葡萄畑 (葡萄畑) |
南瓜に耳をあててごらん。 微かに何か聴こえはしないかい。 ・ その南瓜は山荘の葡萄畑で育ったんだよ。 そう今、耕運機で耕している畑さ。 雅輝や美優が向日葵の苗を植えたり 恵太、綾、リッキーが 玉葱を収穫したあの葡萄畑さ。 ・ ぐぃーんと云う音が聴こえるって! そうか、やっぱりね。 きっとそれは今動かしている耕運機の音だ。 その南瓜は妖精だけに解かる妖術を 時々使うからね。 |
乾いた土の煙り (林檎畑) |
大地再生 (林檎畑) |
ご苦労さん!朝の耕作を終えて (奥庭) |
堅い土を耕作 (林檎畑) |
山陰に現れた木星の縞 雄大な富士を背に (西畑) |
収穫が終わり 色付き始めた葡萄の葉に 覆いかぶさるように芒の 金の穂波が揺れる。 朝の小倉山の影を長く曳いて 福生里の村を抱き込み曙光は バリトンで謳う。 金の穂波を揺らし透き通った涼やかな ソプラノで大地を包みこみ風は バリトンと抱擁を繰り返す。 ・ あーその抱擁の なんと甘美なことか! ・ さあ、朝の仕事が終わったぞ。 それじゃ忘れないように 先ずワインを冷凍庫に入れ ぎゅいーんと冷やしておいてと。 それから冷凍保存してある 干柿と唐黍を 冷凍庫から降ろして 朝食の下準備をしておいて 朝トレに出発。 ・ 今朝は東の森を登ってピークUの 山稜を北に辿って 北峠に出て鉢植えのチップにする 松皮を森から貰ってそれから 笠智衆さんの葡萄園に寄って 収穫の始まった ピオーネを分けて貰って・・・。 中々忙しいぞ! |
褄黒豹紋♀・ツマグロヒョウモン (水神池への畦道) |
玉虫♀♂・タマムシ (前庭欅の下) |
あれ程華麗に舞っていた褄黒豹紋も 翅の後は破れ 羽ばたく力も失い辛うじて芒に留まり 死を待っているのです。 ・ ほら先日欅の大枝を伐ったでしょう。 高い処の枝を伐ると あの臆病な玉虫も欅の香りに魅かれて 伐り口に集まるんです。 それであんまり綺麗だから蜘蛛貝に 載せて飾ってみました。 それにしてもこの金属光沢の美しさは 正しく昆虫界の玉(ギョク)ですね。 観る角度によって光が変わるので 天敵の鳥達は恐れて 近づかないんだよ。 |
大速蜂・オオハヤバチ (山荘テラス) |
こんなのありかよ。 自分の2倍以上もある大きな 背筋露虫をいとも簡単に 麻酔注射で眠らせておいて あの小さな羽根でぶいーんと持ち上げ 巣穴へ運ぶんだぜ。 ・ 巣穴は地面を掘って作るんだけど その穴に獲物を引き込んで それで、どうすると思う? ヒントをあげよう。 それはこいつが雌だということだ。 ・ お、恵太の手が上がったな。 それじゃ恵太答えてごらん。 「ぼく知ってるよ。 それ尖り穴蜂とも云うんだ。 穴の中に運んでから その採ってきた虫に卵を産んで 孵化した幼虫が その虫を食べて大きくなるんだ」 |
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森で鉢植えチップにする松の皮をたっぷり採って、1房1kgもありそうな大きなピオーネを4房も分けて貰って 朝トレを終え山荘に戻りさて、いよいよ朝餐の準備です。 たっぷり汗をかいたTシャツや長袖、ズボン、靴下など洗濯機に放り込んでからトレイにワインやグラス、採り立ての葡萄、無花果、林檎等を載せて 石卓に行くと待っていたのは彼の有名なる、ではない無名なる山荘朝餐コーラス隊。 ・ 驚いたね!そりゃ、あの大きな貝・唐冠(トウカムリ)には雨水が溜まることは知っていたけどまさかその水を慕って 蛙のコーラス隊が棲むとは、逆立ちしても想い及ばないぜ。 棲んでるだけなら未だしも貝の穴から出て来て 「さてそれでは今朝は何にしますか?あーそうですかお馴染みDuke Aces の【筑波山麓蛙合唱団】ですな」 ときてはもう開いた口が塞がらないぜ。 ・ 畑で耕作すれば太陽や風が謳うし、食事をしようとすれば蛙合唱団が出て来て詠うし、 あーこれだから山荘はいつまでも新鮮で愉しいんだね。 |
暗渠の疎外された眠り 化粧室 (迫る曼殊沙華 蜘蛛貝、玉虫) 向日葵の語るその現在と過去の加法を続けると Fn+2=Fn+1+Fn (F0=0 F1=1 F2=1) 0、1、1、2、3、5、8、13、21、 34、55、89、144、233, 377, 610, 987, ・・・・ そう、あのフィボナッチ数列ではありませんか。 ・ 如何にもフィボナッチ数そのもののような向日葵の言葉に 思わず微笑んでしまいましたが 16日目の1597になっても更にもっと日を重ねても永劫の暗渠の時が 終わらないことは確かなのです。 疎外された眠りから開放される術はないのでしょうか? ・ 自らが産み出した生産物や制度に支配され 利潤追求の呪縛から逃れられず やがて人間性の喪失に至る疎外プロセスが 暗渠の深奥から真っ赤な曼殊沙華を蹴立て疾駆して やって来たのです。 仙人の眠りをターゲットにして。 |
暗渠の深奥で真っ赤な曼殊沙華が呟く。 「お前は何をしているのだ。眼を瞑って死んだ振りをして そうして耐えていれば 光がやって来るとでも思っているのか?」 ・ 「おや、数えているんだね。 数を重ねればやがて暗渠は尽きてその先には 再生された朝が訪れると 信じようとしているのかい?」 と死んでいるはずの玉虫がせせら笑う。 ・ ログの軒下に吊るされた向日葵が優しく語る。 「今が1ならば昨日は0、今と云う現在と昨日と云う過去を加えると 再び明日と云う1になるでしょう。 でもその明日の1に昨日の1を加えると2になるではありませんか。 そう1,1と停止してしまったかの今が動き出すのです。 更に2となった今に昨日の1を加えると3でしょう。 15日後には987となって時間は加速し、尚明日を追い続ければ 永劫とさえ思える暗渠の時はやがて尽きてしまい あなたは光に逢うのです」 |
光を捉える刹那 ログハウス (一条の光 向日葵 蜘蛛の巣) |
回復不能の疎外 9月14日(金) 晴 サルトル (テラス) 真っ赤な曼殊沙華が 疎外プロセスを毒々しい花弁に乗せて まっしぐらに仙人の眠りに向かっているとは 由々しき問題。 こうなったら迎え撃つしかないでしょう。 ・ そこでやおら右手でライフルならぬ刷毛を構え 左手に銃弾をたっぷり載せた ガンベルトならぬペンキ皿を持って 「来れるものなら来てみやがれ、 さあ、やって来い」 ・ とばかり一応勇ましいのですが 何たって相手は最も難解とされるヘーゲルの 「精神現象学」で生み出された あの《疎外》ですからね。 いいかい、いきなりこうだぜ。 「疎外とは客体として存在するようになったものを 操作する力を 主体が失っている状態のことを指す」 とまあこう来るんだぜ。 |
手始めに柵から |
が、どうと云うことは無い。 客体としての眠りと主体の仙人をそこに 放り込むとこうなる。 《仙人から離脱した眠りが客体化し 仙人は眠りを操作するどころか 見放されてしまった状態》。 ・ さてここで眠りを肉体の生み出した生産物と 捉えるとマルクスの 《労働からの疎外》となるのだが 自己の他者すなわち対象として観ると ヘーゲルの「精神の自己疎外」となる。 ・ さて攻め入る敵・疎外プロセスは マルクスで攻めてくるのか それともヘーゲルをひっ下げて来るのか? なんぞと思索に熱中してたら テラスがいちゃもんを付けるではないか。 ・ 「あのね、そこさっきも塗った処、 同じ場所ばかり塗ってどうするのさ? もっとしっかり塗っておくれ。 教えてやろうか、 曼殊沙華に乗ってやって来るのは マルクスでもヘーゲルでもないサルトルなのさ」 |
やり切れんな、これじゃ曼殊沙華に跳ね飛ばされるぞ! |
まーまーそう焦るなじっくりと闘おうぜ! |
えっ!サルトルの疎外論なんてあったっけ? そう云えばさんざ読み漁った サルトルの本の何処かで 《死は回復不能の疎外》なんて 言葉に出逢ったか? ・ 疎外された眠りとは 《実存の永遠の他有化》への限りなき接近。 つまり離脱し他有化し操作不能になった眠りは やがて永遠に戻らぬ死へのいざない。 と云うことなのか! ・ うん、そんならそれで納得出来ないではないな。 眠りに潜む死の濃度の高まりが疎外を 生み出しているんだな。 まーそいつがやって来るのでは 迎え撃つより歓迎せねばならんかな。 |
棚補修も終わったのですが? |
迎撃か歓迎か、いずれにしても 始めたのがテラスのオイルステン塗りとは? そうか長い間ほったらかしにされ 罅割れ、ささくれ立ってしまったテラスを 再生させることによって 眠りの再生への糸口を見い出そうと云うのか。 それにしても仙人のやることは 訳がわからん。 そうなんだよ。実はテラスの罅割れが 不意にニューロンの老劣化と 重なり若しかするとそれこそが眠りを 疎外する原因なのではと いつもの誇大妄想狂的思考に執りつかれ 自分の脳でもないテラスをせっせと メンテナンスし始めたのさ。 全く呆れたもんだね。 |
甦ったスプリンクラー
てっきり回復不能と諦めていた 葡萄畑のスプリンクラーが 素晴らしい勢いで龍のように激しく 炎を吐き出し始めたでは。 ・ 西畑のスプリンクラーは以前から 作動していたが 葡萄畑のは死んでしまったと 勝手に決め付けていたが ふと、若しかすると生き返るかも! とメンテを試みたのだ。 笛吹き土地改良区の今沢課長が 飛んで来てbXの基弁を点検。 |
回復不能であったbXの弁操作 |
「うーん錆ついてビクとも動かないが 確かにこいつさえ回せば スプリンクラーは生き返る筈」と課長は語る。 で、後日再度来て貰って修理完了。 スイッチオン! 死んでいたスプリンクラーは突如 機関銃となって激しく水の銃弾を連射。 ・ 先ず葡萄畑の上方にある 黒々とした機関銃が雄叫びを上げて 無数の水銃弾を発射。 次いで後方の機関銃が水流を散弾にして 広範囲を掃射。 |
復活した激しい噴射 |
山荘池で咲き乱れる曼殊沙華 |
炸裂する生命へのいざない |
勿論狙うは疎外プロセスを 真っ赤な花弁に乗せてやって来た あの毒々しい曼殊沙華。 ・ あいつさえ仕留めれば客体たる 疎外された眠りは 疎外プロセスを進行させることが出来ず 主体たる仙人に回帰するに 違いないとばかり 機関銃は吼え続けるのだ。 ・ だがどうだい、曼殊沙華は益々 色つや艶やかになり 寧ろ機関銃掃射を歓迎してるような? |
葡萄棚の彼方へ |
そうなんだ。 実はあいつ曼殊沙華の《桜》なんじゃ。 一応勇ましく攻撃してる振りして 疎外プロセスや曼殊沙華と組んで 益々仙人の眠りを疎外し 《実存の永遠の他有化》とやらを 目論んでいるんだ。 ・ だがまあ敵であっても死者の復活は きっと山荘に 新たな変革を齎すであろう。 おめでとう! 黄泉の国からやって来たスプちゃん。 とても嬉しいよ。 これで葡萄畑は生命に溢れるぞ! |
9月4週・・・・塔と丁 遂に出たぞ!2つのとう
光圀が殺めた49人の髑髏が嗤う (チベット壁画) そう週に2冊なら月に8冊で年には96冊。 目白と塩山の2つの図書館をキーステーションにして 豊島区と山梨県の全図書館をネットで繋ぎ 96冊にも及ぶ書籍が 山荘と目白の書斎を飛び交っていたのですが 仙人の魂をぐいっと鷲掴みにするような 作品は断じてなかったのです。 ・ ところがどうです。 この2冊はまるっきし凄いぜ! 発売を待ちかね塩山図書館にせっつき やっと手にした瞬間、重さが違うんだ。 そりゃ光圀は751ページ屍者は459Pもある単行本だから 本当に重いのだが 勿論ぎっしり詰まった中身の予感さ。 冲方は《天地明察》を円城は芥川賞受賞の 《道化師の蝶》をもう完全に 超えてるね! 参ったな、この分じゃ夜が足りないぜ! |
塔と丁 遂に出たぞ!2つのとう 12ヶ月ぶりの本との出逢い えーと前回の書評擬きはと・・・あれ、出てこないな! それもその筈、何と12ヶ月も前の 2011年10月の「死のクレバス」以来HPには 本の影すら見えない。 ・ 遂に呆けて仙人は読書も出来なくなったのか? いやいや、そんなことはありません。 相変わらず週2冊のペースで2つの図書館を 股にかけて読んではいるのですが さっぱり力作にめぐり会えず沈黙していた訳です。 |
屍者が黄泉の国から霊素船に載って (船となった花器) |
33 光圀伝
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返り血に染まる光圀 (ゲートの箆鹿) |
発行日:2012年8月31日 定価:1900円+税 読書期間:9月27日〜10月10日 評価:★★★★★ |
首から肩をなぞってみると鎖骨の上にお盆を半分にしたような この缺盆の真上から刀を差し込むと肺を縦に切裂き心臓を傷つけ胃にまで達する致命傷を与える。 刺し口を除いては肉体の損壊が体内に留まるので「胸や腹を突いたり、首や胴を叩き斬ることに比べ驚くほど綺麗な体で死ねる」とか。 その上、刃が先ず肺を貫くので一瞬にして肺は己の血に満たされ短い苦痛で溺れ死ぬ。 缺盆を刺して49人目の殺しを自らの手で行った67歳の光圀は、この殺し方を17歳の辻斬りで宮本武蔵から教わった。 何の咎も無い無宿人を辻斬りし初めての殺人を行ってから67歳までの50年間に49人を殺めた光圀。 助さん格さんを共にしてニコニコ行脚する好々爺としての水戸黄門は幻想でしかなかったのか?。 とまあ、ここから物語がスタートするのであるからこりゃもう読まずにいられない。 ・ で、読み終わった感想はどうかと云うと、あの「天地明察」の主人公・安井算哲まで登場させるのだが起伏に欠け 膨大な資料を基に展開する力作であると認めつつも物足りないのである。 「虎が泣いていた。悲しくて泣いているのではなかった」 で始まる殺しのプロローグ、そしてその殺しの理由を明かすために再び戻る殺しのエピローグ。 光圀を虎に譬え虎が殺さねばならなかったものは何かに迫るドラマツルギーは実にお見事、正にしてやったり。 その秀でたる才を見出し幼少の頃より自ら育て、水戸藩の大老にまで抜擢しこよなく愛した紋太夫を光圀は何故殺さねばならなかったか? 史実としてこの49人目の殺しは残っているがその理由については何も記されてはいない。 歴史家、小説家ならずともこれ程興味を魅かれる題材はそう転がっているもんではない。よくぞ見つけたり。 その題材が大き過ぎるが故の物足りなさであろうか?冲方はこう語る。 ・ 冲方: 六十七歳の光圀が、家臣を手にかけたという史実が残っています。 現場に同席した人が「こんなことが起こった」と日記に書いていて、その状況自体は判明しているんですが、Why≠フ部分、つまり何故その家臣を殺したか に関する資料が全く残ってないんです。 水戸光圀を書くのであれば、作家としてはその「謎」が一番の挑戦のしどころであり、避けられない部分でもありました。 水戸藩の歴史、日本の歴史をふまえたうえで、徹底的なプロファイリングをしていきましたね。 推測に推測を重ねながら、「犯人」たる光圀の心の中に潜り込んでいきました。 その結果、相当思い切った推理に行き着きました。 これまでの光圀像を百八十度逆転させることになったので、物議を醸したらどうしようと、ちょっとドキドキしています(笑)。 (インタビュー/吉田大助) ・ 光圀自身が語る《明窓浄机》と題する断章を挟みながら殺しのプロットが緩やかに明かされていく。 全く以てその着想の面白さに唸ってしまい、数ページを読んだだけで「天地明察」を遙かに超えたと確信したが751ページを読み終えてみると 読み進むに連れて肥大化する期待値に反しエピローグの謎解きがなんとも呆気なく性急過ぎるのだ。 緩やかな殺しプロットの展開の終局を意図的に一瞬の暗転で締めくくるには殺しの理由が大き過ぎるのである。 大義と大政奉還と云う途轍もなく大きなエポックメーキングでの謎解きは正に「冲方丁此処に在り」と唸ってしまったが 残念ながら異邦人・光圀を描ききれなかったとの印象は拭えない。 |
34 屍者の帝国
発行日:2012年8月30日 定価:1800円+税 読書期間:9月27日〜10月17日 評価:★★★★☆ |
いざ屍者の帝国へ (ゲートのIbex) |
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