仙人日記
   その792012年水無月

6月2週・・・・Dance With Dragon 

《A》 池の中から現れた妖精達

池の中から現れた妖精達
6月10日(日)晴曇 山荘池

あれー!妖精が池からやって来たぞ!
龍でも在るまいし闇と沈黙を煮詰めたような,虚空へ通ずる 深い池の底から睡蓮の花に乗って妖精達が現れるなんて誰が予測出来たでしょう。
どうも大きな蝦蟇蛙(ガマガエル)の抜け目ない陰謀と妖術が絡んでいるとしか思えません。
ほら、龍の傍に立てかけられたチャリンコを見て御覧なさい。龍にとってはチャリンコに化けるなんぞはお茶の子さいさい。
どう考えたって龍が池のチンピラ・蝦蟇蛙を操って妖精達を誘い出し現れた妖精達を背中に乗せて
闇と沈黙を煮詰めたような,虚空へ通ずる深い池の底から一気に飛び出して来たとしか考えられないではありませんか。
証拠は上がっています。蝦蟇蛙の陰謀を記したメールをご覧にいれましょう。

先生の都合を考えずにいつもすみませんが、10日日曜日に山荘近くで毎年恒例のラグビーの試合があるので、
突然押し掛けるかもしれません。ローラー滑り台にも行きたいので、顔見せだけで退散します。
明日昼12時から試合だそうです。
先生がいらっしゃるなら、10時半目標に山荘にお邪魔しても良いですか?
ハパダンは2時くらいまでいないですが。。。デストロイコはいなくなりましたが、デストロイ坊がいるので、
先生の大切なものはしまっておいてください。よろしくお願いします。


龍変じてチャリンコとなる(玄関)
だっておかしいじゃありませんか?
大手ゼネコン猛烈社員(?)
ハパダンの命を賭けた趣味がラクビーで
そのラクビーの試合が
在ったんだぜ。

当然Today's Work,
Tomorrow's Heritage
の旗を世界に掲げ
子どもたちに誇れるしごとを。」と
社訓そのものを自らの価値観としている
ハパダンにとって
ラクビーは半端な趣味ではないぜ。

颯爽と現れたるはリッキー中庭)
生き馬の眼を抜くような熾烈な激務を
物ともせずに週末には
もっと激しいラクビーに汗を流す。
ごろごろ寝てたりパチンコや麻雀に
興じるのではないぜ。ラクビーだぜ。

スポーツの中でも最も激しいラクビー
を敢えて選ぶハパダンに
妻や子供達の尊敬を込めた熱い眼差しが
注がれるのは当然さ。
でもってその試合とあれば一家総出の
熱烈な応援となるのさ。

うおっほー!龍の骨だ(実は猪、鹿骨の合体)

見ーつけた!アヤと蝦蟇(奥庭)

こいつが龍の子分なの?(奥庭)

だがだ。未だ子供達は幼い。いくら尊敬するハパダンの晴舞台とは云え
飽きてしまって2時間も続く試合観戦に耐えられる筈は無い。
そこで試合の間、子供達と妻は山荘の森で過ごしハパダンの帰りを待つ。
ここまではとてもよく解るし《大きな蝦蟇蛙(ガマガエル)の抜け目ない陰謀と妖術》が
登場する余地はないね。

おや、変だぞ、おかしいぞ、と思ったのは試合から戻ったハパダンの呟き。
「どうだったのラクビーの試合は?」と投げかけたら
「勝ったには勝ったのですがだるい変化に乏しい試合でした」との応え。
そうなんです、どうも試合の結果を聞かれたのはこれが初めてらしく熱烈家族の誰もが
試合の結果なんて気にしてないと云う口ぶりなのです。

ハハーン!この裏にはきっと何か潜んでいるな。
と思っていたらデストロイコと異名をとるアヤが大きな黒い蝦蟇蛙を逮捕し裁判を始めたのです。
「どうだ白状しなさい。妖術を使って幻のラクビー試合を企んだり
丹波のローラー滑り台に行こうとか云って子供達を山荘に拉致したのはお前だね」

「ばれたか、だがもう遅い。
こうなったらもうお前達は山荘の永劫の奴隷になって働くんじゃい」



《B》 陰謀その1玉葱収穫強制労働


ハパダンの指揮棒に合わせて(葡萄畑)

あれ!アリンコが沢山(マルチの下)

先ずマルチを剥がして(再利用するんだよ)

葉っぱを切ってと

デストロイコ改め女検事となったアヤが
蝦蟇蛙の陰謀を知ったのは
山荘活動の総てが終わってから。
最初の玉葱収穫ではそうとも露知らず
子供達は喜々として
畑に繰り出したのです。

ハパダンの指揮の元、先ず
雑草を抜いて
マルチと呼ばれている黒いシートを剥がし
現れた玉葱を収穫するのです。
マルチを利用して蟻が沢山の白い卵を
産んでいたり・・玉葱が
簡単に抜けそうで抜けなかったり・・
マルチの下から
百足が躍り出て吃驚したり・・と
その都度笑いが溢れ
皆満面に労働の歓びを浮かべていました。

が独りだけ黒い帽子と顔全体を覆う
アフガニスタンのチャドリのような頭巾を
被り顔を見せない人が居るのです。
《陰謀の色は黒》と
この時気づいていればアヤは
黒い蝦蟇蛙の登場を待たずに陰謀を
見破ったであろうに!

秘かに見張る黒頭巾・ハッパ 

採れたぞ!

簡単に抜けそうで・・抜けないと恵太

どう僕の収穫のポーズ
   



名前を書こうか(奥庭)

ぼく書けないから観てる(奥庭)

アヤの《あ》は難しいな(奥庭)

片仮名にしちゃえ(奥庭)
えっちらこっちら坂道を登って
収穫した沢山の大きな玉葱を奥庭まで
運んで何やらアヤと恵太が
相談しています。

どうも考えに集中すると玉葱の皮を剥く
習性があるらしく
恵太もアヤも次々と玉葱を裸にしてます。
「あーあ、剥いちゃうと玉葱は
早く腐っちゃうんだよ」

芝生に描いたのは絵でなく
自分の名前でした。
でもリッキーは描けないので乗ってきた
龍に再び跨り芝生を走り回っています。

恵太だ!(奥庭)


《C》 陰謀その2自然を貫く果てしない叫び


何だか龍の背中のような(山荘森)

何処までも続くぜ(山荘森)

さてこの先は何処へ(山荘森)
確かに龍の気配がするのです。
この森の倒木だって
若しかしたら龍の奴がお得意の妖術を
使って人間ではなく木に化身し
僕達を何処かへいざなうつもりなのかも。

ほら変だろ普通はさ、
木と云うのは無限じゃないぜ。
けれどこの倒木は登っても登っても
終わりが無くて何処までも続くぜ。
何だかこのまま進むと
とんでもない世界へ飛び出してしまうような
ワクワクするような恐ろしいような。

ぼくも行くぜー(山荘森)
ところが森から出たら
そこはポラーノ広場になっていて
入り口にはブーケまで飾ってあるでは。
どうも「注文の多い料理店」のようで
もう帰れないのではと
ふと厭な予感に襲われたんだ。

ポラーノ広場の白ツメクサの代わり
この白いブーケでアヤをたぶらかし
山猫の真似をして龍の奴が
「西洋料理店 山龍軒」に
みんなをおびき寄せ
喰ってしまうつもりなのかも。
 
あら!私のブーケだわ(ポラーノ広場)
 アヤに呼ばれてリッキーも
白いブーケに収まったものの
どうも変なポーズをとるのです。
そうそう、あのムンクの「叫び」のように
両手で耳を押え
《自然を貫く果てしない叫び》を
聴くまいとするかのように
すっかり固まってしまったのです。

あー若しかすると未だ幼いリッキーは
胎内記憶を宿していて
その鋭い感覚でブーケに潜む
龍と黒い蝦蟇蛙の陰謀に気づいてしまった
のかも知れません。
 
ぼくムンクになっちゃう(ポラーノ広場)



リッキーの独白

ちょっと前まで僕は
暖かくて静かなコスモスに浮かんでいたんだよ。
微かな潮騒のような響きと仄かな光が
コスモスを満たしていて、
僕はその響きと光の小さな揺らぎを吸いこんで
いつもコスモスとお話していたんだ。
だから僕はコスモスが何を考え何を感じ、
どんな匂いがしどんな姿をしてるかも
よーく知っているんだよ。

で、或る日
「さあ、もう1つの世界への旅立ちの日がやって来たよ」
と云って
それまで優しかったコスモスが
突然僕をきつく締めつけ迫ってきたんだ。
徐々にコスモスの力は増し
僕は途轍もない苦痛に襲われ怯え狼狽えた。

やがて圧力は頂点に達し僕は初めての苦痛に怯え
初めての受難に
唯泣き喚めくしかなかったんだ。
その怯えと苦痛を
永劫の受難として背に負ったまま
とても明るくて賑やかな世界へ僕は
不意に放り出された。

微かな潮騒のような響きと仄かな光を失って、
僕はもう誰ともお話し出来なくなって
すっかり孤独で唯々泣き喚いたり、
静かで優しかったコスモスを想い出して
微笑んだり・・・・。

でもあれから2年も経ったので
もう1つの世界の言葉が少し解るようになって来て、
僕は今、此処にいるのさ。
未だこのもう1つの世界に慣れなくて、
時々あの恐ろしい
《自然を貫く果てしない叫び》が聴こえるんだ。

その叫びが聴こえると何だか
いつもとても怖いことが起こりそうで、
僕は耳を塞いでしまうんだ。
ほら今また叫びが聴こえてきた。
で、援けを求めて原っぱを駆けて行くお兄ちゃんを追って行ったら、
もの凄く大きくて強くて乱暴な白い龍が世界を切り裂いて襲いかかってきたんだ。
もう怖くて恐ろしくて僕は声の限り泣き叫んでしまった。
やっと泣きやんでお臍の中を覗き込んでみたら、大切に仕舞っておいた優しかったあのコスモスが
見えないほど小さくなって、消えかかっているでは。
もうあのコスモスは僕を護ってくれはしない。

あー、こうして
僕は阿修羅となって白龍とも闘い、独り生きていかなくてはならないんだね。



白龍、突然現れる(畑の自動散水)

リッキー直撃され泣き喚く(ポラーノ広場)

自然を貫く果てしない叫びだ(ポラーノ広場)

ぼくもう動けない(福生里)
突如躍り出たのは白い龍でした。
長大な体をくねらせ
空一面に絢爛豪華な光を放ちながら
龍が草の葉を巻きあげて
妹の前に降り立つ。
鱗に覆われた大蛇のような胴体。
鉤爪、角、髭、そして爛々と光る琥珀の双眸。
(Dance With Dragon)


気づかれてしまってはお終いとばかり
白い龍はいきなり
リッキーに襲いかかったのです。
小さなリッキーは一溜りも在りません。
あまりの恐ろしさに唯怯え 
全身ぐしょ濡れになって泣き喚くのでした。

白龍の襲撃によって
胎内記憶や研ぎ澄まされた感覚を
失ってしまったリッキーは
しょぼんとしてもう歩くことも出来ません。
すかさずお兄ちゃんの恵太が
背負い更に前進を続けます。

暫く進むと妹のアヤが倒れているでは。
石垣の白い花を見て
「あたしのブーケだわ」と云って
はしゃいでいたアヤも
白い龍の出現でさすがに何か
不穏な気配を察し
この先の荒れ海のような荒野に
乗りこむことに躊躇しているのでしょうか。

背の高さにも及ぶ草の波を
掻き分けて更に進むともう四方八方
何処も彼処も草ばかりで
何も見えません。
行方を見定めようと目を凝らしていた
恵太がすっかり錆ついた
白い難破船を発見!

意気消沈していたアヤが目を輝かせ
難破船の運転席に乗りこみ
ハンドルを握り
「よーしこの船で山荘まで帰るぞ!」と
叫ぶかと思ったのですが
最早アヤのパワーもリッキーのように
龍に抜かれてしまったようで
元気が在りません。

アヤは遂にダウン(福生里)

草の荒れ海で難破船発見(東森)

よしアヤが船長だ(東森)

アヤ荒れ海で負傷(山荘の森) 
 
うあーん、痛いよー(山荘の森)
 それを見透かしていたかのように
白龍の奴
長大な体をくねらせ荒野の草を
荒波に変えて
弱気のアヤに襲いかかったのです。

「キャー」と叫んだアヤの左手から
みるみる血が溢れ出し
為す術もなくアヤは泣き叫ぶだけ。
何とか早く山荘に戻らないと
血止め薬も消毒薬も無いので
出血は止まりません。
でも未だ未だ山荘は遠いのです。
痛さと出血に耐えるしかありません。
 
芒の波に切られたのです(東森)
山荘の永劫の奴隷にしようとしたり
「西洋料理店 山龍軒」に
みんなをおびき寄せ
喰ってしまおうとしたり一体どうして
そんなにまで私達を狙って
陰謀の罠に陥れようとするのでしょうか?

陰謀が気づかれそうになると
今度はリッキーを襲い
それだけでは飽き足らずアヤまで負傷させ
これじゃ自然が好きになるどころか
ムンクのように自然の叫びから
耳を塞いでしまいたくなるではありませんか。 



《D》 陰謀その3【歓喜の歌】と舞の宴


さあそれじゃ宴にしよう

これぞ究極のビアだ

スペアリブ仕込んできました

齧り付くアヤ

さて指の血を洗ってもらい
ラクビーの試合から戻ってきた
ハパダンに優しくされて
アヤはすっかり御機嫌になりました。

ハッパが(市販のタレでなく)
自分でブレンドしたタレで仕込んだ
スペアリブがオーブンから
なんとも美味しそうな匂いを漂わせ
あーもう我慢できません。

山荘シェフの指示に従って皆で
テラスのテーブルに
お皿やグラスを並べ料理を運び
さあ、いよいよ宴の時がやってきました。
何だか皆そわそわ浮き浮き。
あれ、若しかするとこれ
未だ「西洋料理店 山龍軒」の続きで
目の前の料理は
陰謀その3・妖術の為せる業か?

でも今年仕込んだビアの中で
最高のテイストに仕上がったビアの
栓を抜き味を確かめてみると
紛れも無く本物の山荘ビアで一安心。
山荘ビアにクリーミーな炭酸を
ジェットするのが面白いらしくアヤが
シェフのグラスにシュ。

何も異変は起こりません。
龍や黒い蝦蟇蛙が陰謀を仕込むとしたら
このジェットの爆発の瞬間こそ
絶好のチャンスなのに。 
どうやら彼等は退散したかな?

そうと解れば畏れる者は無し。
一斉の斉でスペアリブに齧り付くアヤと
恵太の豪快なこと。
おーこの山荘クレソンの香りは
スペアリブに合うねと云いながら
大人達も負けじと齧り付く。


大きなスペアリブ

海老ポテトサラダを平らげ
ポークジンジャーにむしゃぶりつき
エネルギーをたっぷり蓄えた
子供達がどうなるか?
予測すら出来ない恐るべき活動が
ついに始まったのだ。

アヤとリッキーが恰もマイケル・ジャクソンと
ジャネット兄妹の如く踊り出し
歌い出したかと思うと
恵太がキーボードを叩きアヤは
更にリズムに乗って大胆に舞い踊り
山荘は激しい熱の坩堝と化す。

と、突如真面目な顔をして
恵太が立ち上がり朗々とドイツ語で
かの有名な
ベートーヴェンの交響曲第9番の第4楽章で
歌われる「歓喜の歌」を
歌い出しではありませんか。

骨付き肉は最高!

突如踊り出したアヤ

リッキーも踊るぜ

益々ハイになって踊り狂う

お臍ちらり・・恵太見るな
 
恵太のピアノに合わせて最高潮
 
歓喜の歌をドイツ語で歌い出す恵太
驚いたのなんの。
未だ小学2年生になりたての
ほやほや坊やが
歌い終わった後に一言
「ぼく日本語では歌えないんだ」 
そのセリフに痺れたね。

いったいハパダンとハッパは
子供にどういう教育をしとるんだと疑問を
抱いた瞬間に
龍や黒い蝦蟇蛙を絡めた黒頭巾・ハッパの
陰謀が読めたのである。
 
森のレストランも良いね黒頭巾の素顔 
An die Freude

 O Freunde, nicht diese Tone!
Sondern last uns angenehmere anstimmen
und freudenvollere.
             (lines by Beethoven)

オー フローインデ, ニヒト
 ディーゼ テーネ!
ゾンデルン ラスト ウンス 
アーンゲネメレ アンシュティメン
ウント フローイデンフォレレ.


《E》 陰謀その4あれれ・・・未だ畑仕事があるの?


この青梗菜顔採れないわ!

折れちゃった!これぼくの大根 

ほらレタスも笑ってる 

黙々とモロッコの種植え 
《さあ、それではお土産を
採りにいこうか!
どれでも好きな野菜を欲しいだけ
持っておいき》

アヤやリッキーはもう大喜び!
ところがモロッコの種を小さな鉢に
黙々と仕込んでいた恵太の目は
やや沈みがちで
何処となく泳いでいます。

巨大アスパラガスだ!(実は龍舌蘭の蕾) 

視線を追うとその先には巨大アスパラ。
あー勿論こんなでかい
アスパラなんて在る筈がないんだ。
龍舌蘭の蕾なんだけど
アヤはこの龍の舌に逢った途端
アスパラと名付けて馴れ馴れしくしているもんで
何だか皆もそう呼んでいるんだ。

「ふーん、どうもあのアスパラが怪しい。
何か知っていそうだな」と恵太。
あれ、恵太は巨大アスパラと
意志疎通出来るのか?
 
龍の舌の密告

実際どう考えても巨大アスパラが
密告したとしか
思えないことが起きたのです。
このアスパラの根元には
山荘の眼の前に聳える水晶山から
採ってきた水晶が眠っているのです。

アスパラは水晶を
自分の子供のように慈しんで
いましたので
水晶が攫われた事の次第を具に見ていたのです。 
だから密告したに違いありません。


恵太との会話

何しろ恵太は石が大好きで森に居ても畑に居ても石が在ると手にとっては訊ねる。
「ねーねーこの黒い石は何て云うの?」

「うーん、こいつはマグマが・・・あー地中のマグマ知ってるよな。そう、真っ赤に融けた熱い
チューイングガムみたいな奴。あいつが地中深くで冷えて固まって出来た黒御影石さ」
てな具合で森の中を進む内に恵太の手には石が一杯。
そこで一言。
「ほら目の前の去年、恵太が登った小倉山覚えてるか?あの山の右隣は水晶山と云って水晶が沢山採れるんだ。
山荘にもその山の水晶がごろごろしてるからあげるぞ」

途端に眼の色が変わった。
何の躊躇も無く手に握っていた石をポイし「ほんと?」
まさかこれ程までに劇的な効果が在るとは。
山荘に戻ってから巨大アスパラの根元に置いて在る水晶を見つけた時の
恵太の興奮は如何に?

と愉しみにしていたのだが何のことはないあげると云われた水晶をじーっと見つめて呟く。
「ぼく自分で掘って見つけるから要らない」
まーそう云わずと言っても頑として受け取らない。
あれ程欲しがっていた水晶を見てこれだけの決意を示すとはこいつ半端ではないぞ。
で問題はその次である。
「今すぐあの水晶山へ水晶を採りに行きたい」と堅い決意を何度も繰り返すのだ。→

この辺りかな?掘り続ける恵太 

そんでもって恵太に
水晶の埋まってる場所を正確に
密告出来る筈がないだろう。

案の定、恵太は掘っても掘っても
何も見つけられません。
10分、20分、一体いつまで恵太は
掘り続けるのでしょうか?

もう泣きそうになって・・・。
それを見ていたアヤが代わりに
スコップを受け取り掘り始めました。
小さいアヤの方がアスパラ語
の理解度が良いのでしょうか。
ほんの数分掘っただけで
透明な水晶が
ちょこんと現れたのです。

想像してみてください。
その時の恵太とアヤの歓喜を!
高らかに鳴り響く
 O Freunde, nicht diese Tone!
あー正に《歓喜の歌》は
この時の為に在ったのですね。

遂に掘り出したぜ!大きな水晶


そこで手間暇のかかる面倒な
モロッコの種を
小さな鉢に植え付ける仕事を与え
奥庭に恵太をしばりつけ
その隙に中庭石段の巨大アスパラの
元から水晶を3個かっさらい
秘かに畑に埋めたのである。
畑変じて水晶山となる。

モロッコの種植えを終えた恵太は
何の迷いも無く
先程視線を泳がせていた中庭へと
すたすたと歩み
アスパラと話しているでは。

どうもアスパラは恵太に
水晶の在りかを密告しているらしい。
恵太はスコップを持って
畑を掘り出し始めたのである。
そりゃいくら掘ったって畑も庭も広いし
水晶は出てこないさ。

だいたいアスパラ語なんて
アとスとパとラの
4音節しかないんだぜ。

掘っても掘っても何も出て来ない 
水晶に足が生えて
逃げ出すなんてありはしないのに
両手でしっかり握りしめて
もう決して手放しはしないとばかりの恵太。

1時間以上も水晶を抱きしめていた恵太が
水晶の子供を連れてやって来た。
「よーく考えたんだ。
割れば僕の水晶は2つに増えるだろう。
この小さい奴せんせいにあげる」

この決断にどれ程苦しんだかなんて
全く知らずこの時は
気軽に小さな水晶の子供を受け取ったのだ。
なにしろ山荘には水晶なんて
あちこちに在るのである。

ほら3ツも採れたよ  
 時は流れ早1年ではなく早1時間。
恵太は再び戻って来て
おずおずときりだしたのである。
「あのね、さっきの水晶だけど
やっぱり返して!」

この一言で恵太の水晶に対する愛が
ジーンと伝わってきたね。
あげると云われて見向きもしなかった同じ水晶に
これ程の愛着を抱くなんて。

希望の見えぬ絶望と闘いつつ
それでも諦めず掘り続け
手にした水晶がどんなにキラキラしてるか
本当に知っているのは恵太だけ。

密告ではないって!
寧ろ山荘主の意図を伝えただけだって?
そうじゃないんだ。山荘主が敢えて水晶を山荘に埋めたのは水晶を恵太に与える為ではないんだよ。
山荘主は恵太が水晶を見つけられなくてもいいと考えていたんだ。

無益と思われる無限に続く絶望的試行錯誤を与えて恵太がどう反応するか観てみたかっただけなのさ。
でも最初から一かけらの希望も無い絶望を相手にさせるのはあまりにも苛酷であると、ひっそりと水晶を3個だけ埋め絶望の濃度を薄めてみたらしいんだ。
如何にも山荘主のやりそうなことで笑っちゃうね。

だからその場所を恵太に教えるのは山荘主の支配下にある巨大アスパラにとっては、密告以外の何物でもないと云うことになるのさ。
でも確かにアスパラの裏切りによって恵太は、生まれて初めての自らの宝石を手にしたのだから
子供愛おしさのアスパラの密告も満更無意味でもなかったかな。
 




《F》 Dance With Dragon


二筋蝶(林檎畑) 

キウイの雌花(西畑) 

深山茜(林檎畑)  

カナ空木の花(東森) 
妖精達ばかりを撮っていたら
蝶や蜻蛉、咲き誇っている花々が
「ねーねーどうしたの?
まさか妖精に心を奪われて
山荘住人の私達を忘れてしまったとか!」

そこでカメラを花々に向けたら
アヤが背中に寄りかかり
「もっと空を飛びたい!」と駄々をこねる。
アヤの両手を持ってやり1,2,3で
思いきり空に向かってジャンプさせると
アヤは信じられぬ程高い無窮の天空へ
飛び立つことが出来るのだ。

エゴの木の花(東森) 

睡蓮(山荘池) 
 
撮影中の山荘主とアヤ(福生里) 
撮影者:葉子

桐一輪(東森)  


Dance With Dragon
撮影者:映子


野原アザミ(林檎畑) 
この刹那の空中ダンスが
すっかり気に入ったアヤは繰り返し
繰り返し龍を追い求めて
闇と沈黙を煮詰めたような,虚空の彼方へ
と向かう。

Chasing Dragon・・・追龍(ペイロン)
つかんでもつかんでも手の中から
すり抜けてゆく意識を、
必死に追いかけ、手を差しのべる。
決して届かない。
絶望と、孤独と、底なしの恐怖。

(Dance With Dragon)

蒲公英の種(林檎畑)
 
小紫陽花(東森) 
 
松葉菊(西畑) 
 
山法師(前庭) 


メディアに氾濫するあまたの情報に溺れ
やがて妖精達も軽薄で内容の無い金ぴかに
魅かれ踊らされ
未来永劫の真実に打たれることなく成長し
目出たく立派な大人になっていく。

ところがどうもそのあまたの情報を
少しだけ操り、金ぴか情報に
さり気なく未来永劫の真実を紛れこませ
妖精が気づき陥るのを
待っている者が居るのではないか?

つまり目出たく立派な大人になるのを
阻止せんとの陰謀が
秘かに張り巡らされているのでは?
その1つの仕掛けが《歓喜の歌》であったとしたら
恵太は正しく陰謀の罠に落ちたのだ。
あまたの情報に
自然に流れ込むだけの濃度では

ハパダンとハッパ
後方:チベット絵画【時空の渚】に魅入る妖精
チベットは龍の国

希薄過ぎて恵太には未来永劫の真実を
捕えることが難しい。
或る日、恵太が偶然出逢い、恵太が選んだ
と思っている濃度の濃い《歓喜の歌》は
入念に仕組まれた罠であった。

罠の仕掛け人がハッパとハパダンである
ことは云うまでも無い。
その延長線上に今回の陰謀が絡むなら
いっそ乗ってやろうじゃないか。
と白い龍や黒い蝦蟇を始めとして睡蓮、野菜、花々
森の住人、水晶までを総動員し
妖精の1日を追ってみた。

流れてゆく時間の粒子が
毛孔から滲み込み、そのまま未来永劫に
駆け抜けるような鮮烈な体験が
妖精達に
果して出来たであろうか!


Index Next