その71秋ー2011年神無月 |
10月1週・・・・どうでもよくて自分が《無》になっていた
遭難の顛末
1985年6月4日 シウラ・グランデ峰 (標高6.356m)未踏の西壁にアタック開始。
6日 登頂成功。
7日 事故発生。ジョーは右膝を骨折し宙吊り。 体感温度ー60℃の中パートナー・サイモン(当時25)
は止む無くジョー(当時21歳)のザイルを切断。
8日 そしてジョーはクレバスに落下。生きているのを奇蹟に思う間も無く
失神する程の激痛を足に感じるジョー。
9日 クレバスの底に降り出口を見出し脱出。BCへ向かって這いずりながら氷河を下り始める。
10日 夜中にBCのキジ場に到達し、11日未明1時過ぎに未だBCに残っていたサイモンに見つけられる。
クレバスの底へ下る |
ジョー・シンプソンは語る |
遂にクレバス出口に到達 |
劇場:BD(山荘放映) 鑑賞日:10月1日 評価:★★★★☆ |
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《生か死か》の極限状況下でサイモン・イエーツは、骨折し宙吊りになった仲間のザイルを切った。
仲間のジョー・シンプソンは切れたザイルと共に氷河に落下し、サイモン・イエーツは生き延びて無事ベースキャンプへ戻る。
さて、サイモンがザイルを切断したのは理性在る人間として真っ当だったのか?
・
ジェントルマンの国、母国イギリスでサイモンは猛烈に叩かれることになる。
ところがザイルを切られ落とされたジョーはベースキャンプで発見された直後、サイモンにこう語る。
「あの状況ならぼくも切ったよ」(映画)
「あの晩はひどいものだった。きみを責めはしないよ。それしか方法は無かったんだ。
よく分かってるし、ぼくが死んだと思うことも分かってるんだ。できるだけのことはしてくれた」(原作)
と云ってサイモンの行動を肯定する。
・
サイモンの行動の検証は確かに社会の関心を集めるのだが、この映画の原作「死のクレバス」が世界の注目を浴びたのは
サイモンの行動ではなく極限状況の迫真の描写に在る。
CGを駆使すれば幾らでも度肝を抜くような映像を作ることは可能であるが故に、この原作の映像化は難しいだろう。
との私の予想を裏切って原作が1988年にボードマン=タスカー賞を受賞してから15年後に映画化され
英国アカデミー賞と英国インディペンデント映画賞を受賞している。
・
で、どうだったかと云うと、実に良く出来ているのである。
氷壁登攀の美しさや風雪に襲われての登攀活動は幾他の山岳映画と大差ないのだが、決定的なのは
クライマーの凍てついた表情と極限状況下にあるリアルな動きである。
是か非か・・・ザイル切断 |
シウラ・グランデ(右側が西壁) |
シウラ・グランデ(6356m)は ペルー・アンデスのコルデラ・ワイワッシュ山群の ほぼ中央に聳える難峰。 直ぐ北にこの山群の盟主イェルバハ(6634m)が 屹立しサンタ・ローザのコルで シウラ・グランデと結ばれている。 ・ ペルー・アンデスの最高峰ワスカラン(6768m)に 私が登ったのは、この遭難が起こる5年前 1980年8月5日。(14時37分登頂) クレバスの中でビヴァークをしながらの登頂であり 想い出深い登山であった。 ・ 下山後チャクララフ峰(6000m)で遭難事故発生。 救助を要請され急遽チャクララフ峰に向かい 救出活動を行った為 他の峰への登山活動は出来なかったが シウラ・グランデも訪れたい峰の1つであった。 |
№32 死のクレバス
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発行日:2000年11月16日 定価:1000円+税 読書期間:2001年4月 評価:★★★★☆ |
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美味えなー! |
やられちまったぜ! 10月2日(日)晴 テラス テラスでワインを呑んでいたら 牙を剥いて長い舌をぺろぺろさせ 実に美味そうに 山荘主の足を甞めるのである。 ・ おい!よせよ。 と云って左足をひっこめたら 今度は右に回って うっとりとした表情で更に甞め続ける。 |
ぼく何もしてないよ |
さて、こいつとても寂しがり屋で ほんの少し明るくなると もう待ち切れず 奥庭の犬小屋から2階の寝室に 向かって吼え立てる。 ・ それまでは鹿や猪が接近しない限り 滅多に吼えたりはしないので 明らかに山荘主を 呼んでいるのだ。 「朝ですよ、いつまで寝てるのですか? 早く起きて山に行きましょうよ」 ・ でと、あんまり煩いので 今夜は奥庭でなく寝室に近い テラスに繋いでおくことにしたのだ。 |
10月2日(日)晴 上条の森 |
成功!夜明けになっても吼えない。 ほんのりと白んで来て いつもなら甘ったれた高い声で吼えるのに 静かなのである。 ・ 充分明るくなってテラスのシャッターを 開けたら テラスに置いてあったお気に入りの サンダルはご覧の通り。 ・ 山荘主の足の臭いの充分滲みこんだ サンダルは無残に食い千切られ 最早使いもんにならん。 どうも昨夜の足の味が忘れられず 犯行に及んだらしい。 |
10月2週・・・あうふぶぃーだーぜーえん!(Auf Wiedersehen)穂高
新雪と紅葉の穂高連峰 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
コースタイム 実施日:10月7日(金) 晴
10月8日(土) 晴
10月9日(日) 晴
標高差 上高地ー奥穂高岳・・・1685m 3日間の実際のコース標高差・・・約2200m |
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紅葉の涸沢へ行ってみたいとは、ずっと以前から思っていながら実現できずにいた。 |
《A》 今年の紅葉は駄目ずら |
見慣れぬ紅い実を たわわに着けた大きな樹木。 ガマズミでもないし、マユミでもない。 ・ 背後に白雲を従え 明神岳Ⅴ峰を彩り、秋の陽を浴びて 無数のルビーが煌めく。 ・ ぽかーんと見とれていたが どうしても名前が欲しくなった。 山荘に帰ってから 調べるまで待つなんて出来ない。 |
山葡萄かな?(徳沢園) |
多くの観光客犇く 明神館の食堂に飛び込み カウンターの女の子に訊いた。 ・ 「え!あの紅い実を着けた 大きな木の名前ですか? ちょっと待ってください。訊いてきます」 ・ 厨房に駆け込んで明神館の 若主人らしき人を連れてきた。 「あーあれは小梨。 ズミと呼んでるがいつもより綺麗でねえ。 今年の紅葉は駄目ずら」 |
岳沢から新雪の西穂稜線 |
「そうか、この先一帯を小梨平と 呼んでいるが これが小梨か!」 高校生時代から通い始め その後ヒマラヤ遠征のゲレンデとして 我が庭の如く駆け巡った穂高。 ・ だが考えてみると 穂高を駆け巡ったのは殆どが積雪期。 僅かに早春の梓川に芽吹く 化粧柳にお目にかかる程度で 小梨の花や実に逢うことは無かったのだ。 |
岳沢小屋の紅葉 |
明神岳Ⅴ峰に架かる小梨(ズミ)の紅い実 |
涸沢岳を彩る七竈(ナナカマド) |
七竈の紅い実(岳沢テン場) |
豊かな森を切り裂いて 穂高の山稜から雪のような白い帯が 梓川に降りる。 岳沢を詰めていくと、やがて それが累々たる花崗岩のモレーンで 涸れた谷であると判明する。 ・ ヒマラヤでのキャラバンで 踏みしめた氷河のモレーンが甦る。 8千メートルの巨峰 K2(8611m)やブロードピーク(8047m) G2(8035m)を求めて 駆け巡ったバルトロ氷河が 足裏で懐かしく囁く。 |
小梨(ズミ)の小さな秋(明神) |
標高2千メートルを超えて やっと森が色着き始め 岳樺の葉が黄ばみ御前橘が 可憐なルビーを覗かせる。 ・ 七竈(ナナカマド)の葉は未だ青いが 実はもうすっかり紅く熟し 何度かの新雪を浴びて凍てつき 黒ずんだ実さえ見られる。 きっと標高の高い涸沢カールでは 葉も実に負けじと真っ赤に 燃え盛っているに違いない。 |
御前橘の可憐なルビー(岳沢) |
そう思って穂高の山稜から 涸沢カールへと下ると 夜明けの太陽を浴びて炎のように 燃える七竈に迎えられた。 ・ やっぱり! 予想した通り涸沢は燃えていた。 「今年の紅葉は駄目ずら」と あちこちで聞いていたが、どうして中々 お見事ではないか! ・ この一瞬の邂逅は 朽ちていく心象にくっきりと刻まれ 永劫の生命を得るのだ。 |
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《B》 梓川パラダイスの優雅な住人達 |
苔生したエメラルド・グリーンの カンバスに 宇宙の蒼をたっぷり吸い込ませ 銀の雲を配し水面に 古木を浮かせ、漆黒の山顛を描く。 ・ 梓川は峻険な穂高と槍ケ岳から 流れ落つる生命を受けて 崇高で神秘的な彩を創り出し 如何なるアーティストも及ばぬ 造形を生み出す。 ・ 見つめるほどに 崇高で神秘的な彩に 存在そのものが滲み込み解体され 遥かなる時の彼方へ 回帰するような感覚に襲われる。 |
六百山(2450m)を映す梓川の流れ(岳沢下流) |
この崇高で神秘的な彩に 魅かれるのは どうも人間だけではないらしいのだ。 ・ 穂高連峰を駆け抜け北尾根から 奥又白谷へ下り、 梓川に架かる新村橋に出た途端、 猿の惑星に迷い込んだ。 ・ ボスらしき猿が橋のど真ん中に どっしり座り込み 傍らでは大きな母猿が 人間など全く無視して 両手両足を悠然と広げ子供達に 蚤取りをやらせている。 |
水面の森(岳沢下流) |
下山路に前穂北尾根を超え 屏風岩の頭を踏みしめ 奥又白池下部を通るパノラマ・コースを 敢えて選んだのは 新村橋の猿の惑星を訪れたかったからではない。 ・ 絶壁の屏風岩や前穂東壁の登攀に 燃え滾る血潮を注いだ 若き日々をほんのちょっとだけ思い出して お別れの挨拶をしようとの 感傷的老化現象の為せる業かな? |
古木とのアート(明神) |
が、これが実は大失敗! パノラマの言葉に騙されて 涸沢までの旅を愉しむハイカーが 荷も持たず散歩気分で 屏風のコルを目指すのだ。 ・ 当然、ハイカーはコルまで行けば ピストンで引き返す。 涸沢から重荷を背負って下山する 登山者とコース途中で ぶつかる。 ・ まあ、何処ででも見かけられる 登山者と下山者の 行き交う光景である。 しかしこのコース 涸沢から屏風のコルまでは急峻で トラバース用の固定ロープが べたべた張られた 一般登山者には不向きなコース。 |
梓川に架かる新村橋は野生猿のパラダイス |
ハイカーが戻って来る度に 固定ロープの箇所で 一方通行の大渋滞となり 圧倒的に多い下山者は 長時間待たねばならなくなり 下山の見通しが全く立たなくなる。 ・ その上、コルまでは北尾根に遮られ 朝日が当らず寒いの何の。 ザックからヤッケを出して着たものの 新雪の残るパノラマコースは まるで冷蔵庫。 ・ コルを超えて太陽に回り逢えた喜びを 噛締めてやっと新村橋に出たら 陽だまりに出現した猿の惑星。 どうですかこの母猿の大胆なポーズ。 美味しそうにコンクリートの ミネラルを嘗める二日酔い顔した猿達。 猿達もこの梓川の陽だまりが パラダイスなんだね。 |
せっせと母の蚤取り |
橋のコンクリートをペロペロ |
お母さん蚤取れた? |
松本直前でJRが少々遅れて、バスの接続時間に間に合わないかとハラハラしたが、2台目のバスに何とか乗車できた。 |
《C》 あるぺん・ぐりゅーえん Alpengluehen |
もるげん・ろーと Morgenrot 幾重にも連なる 薔薇色に染まる峰々。 前穂高の山巓が 夜明けの光を一番に捉え 燃え始める。 ・ すぐさま北尾根Ⅱ、Ⅲ峰が 淡い暁の炎に包まれ Ⅳ、Ⅴ、Ⅵ峰が黒々とした 山容に紅のレースの 縁取りを帯びる。 ・ 新雪を孕んだ巨大な 大地の隆起の彼方は 一層赤みを増し 漆黒の巨体を呑込まんと 森羅万象を沸騰させる。 ・ すっかり忘れていた 《もるげん・ろーと》と云う 懐かしい言葉が甦る。 この独逸語の直訳は朝焼け。 が《もるげん・ろーと》の 語感には 「朝焼け」では表しきれない 崇高な神秘が 躍っている。 |
モルゲン・ロートに染まる前穂高岳(北穂山頂より) |
森羅万象を沸騰させ 漆黒の闇を 呑込み 存在の重さを解き放す。 ・ 総てはこの赫奕たる 夜明けの光から 生み出されるのだ。 ・ 山の世界ですら 死語となってしまった 《あるぺん・ぐりゅーえん》 と同じく 《もるげん・ろーと》も 百名山志向登山者や 山ガールの出現と共に 消えてしまった。 ・ しかし言葉は消えても この崇高な神秘との 一瞬の邂逅は 時を超えて深い感動を 呼び起こすであろう。 ・ 存在の根底から 激しく揺さぶられ人は 宇宙の彼方への 確かな旅を予感する。 |
北尾根Ⅷ峰背後から昇る太陽(松涛のコルより) |
明神岳山頂に燦然と輝くアルペングリューエン(岳沢パノラマより) |
地平線の彼方から(ザイテン・グラードより) |
ぐりゅーえん(Gluehen)は 《赤く燃える》 |
蝶ケ岳に昇る日輪(ザイテン・グラードより) |
染まる西穂天狗岩(岳沢小屋より) |
乗鞍岳(3026m)の夜明け(岳沢小屋より) |
燃えるジャンダルム(岳沢小屋より) |
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奥明神沢のピラミッド(岳沢小屋より) |
明神岳からの月(岳沢小屋より) |
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北穂滝谷のアーベント・ロート(北穂小屋より) |
落陽の海に漂う富士山&北岳(3192)(北穂小屋より300mm望遠) |
アーベント・ロート Abendrot 永訣を告げにやって来たことを 恰も知っているかの如く 穂高の峰々が薔薇の衣を纏い 華麗な最後の光を散乱させ 饒舌に私に語りかける。 ・ 《随分お久しぶりですね。 最も雪の深い3月の槍や北穂は 絶えて人影無く ただただ神々の世界であったのに あなたは毎年やって来ては 私を謳っていましたね。 今でもその幾つかは覚えていますよ。 その1つを 思い出させてあげましょうか》 |
アーベント・ロートを浴びる鑓ガ岳(北穂小屋より) |
知っていたんですね 風雪の咆哮する岩と氷の絶頂に 何があるかを 深遠な空間と悠久な時を超えて 密やかな光が交差し息衝き 岩と氷の絶頂で かすかな燐光を放つのを 絶頂と存在を結ぶ一瞬の軌跡 必然であったことの驚愕 知っていたんですね ほら 氷結した時の粒子が 乱舞してます (報告書:POBEDAから未踏無名峰へ より) |
6 モルゲン・ロートという大交響曲 10月8日 震えながら浅い眠りでやり過ごした一夜の後は、快晴。霜で滑る小屋の周辺から、朝の景観が見事だ。 屹立する岩峰をゆっくりと朝の輝きが薔薇色に染めるさまは、素晴らしいの一言だ。 モルゲン・ロートという大交響曲が響き渡るようだ。 朝食を急いで済ませ、岳沢小屋を出発したのが6時半を過ぎた。風も無く、気温もさほど低く感じないので、行動するのも楽である。 ・ テント場を通ると、テントがかなりたっていた。登り始めは、斜度もきつくないし、足慣らしにはちょうど良い。 ゆっくり自分のペースで歩くことにしたので、隊長とはすぐに差が付いてしまうが、気にならない。 目標はまず、重太郎新道を無事に登りきること。<カモシカの立場>では思わず先端まで行って、下を覗き込んでみた。 ・ 傾斜が厳しくなり、岩を攀じたり、鎖や梯子が登場してくると、後続者に次々道を譲る。 圧倒的に単独行の男性、しかも年配者が多いのに驚く。 100リットルの私のザックは目立つようで、ときどき「大変ですね」等と声をかけられる。 そういえば、コンパクトな荷を背負っている人が多い。トランシーバーの交信は8時17分から開始。 9時の交信はちょうど岳沢パノラマから日の出を見たところだった。隊長は7時52分に日の出を目にしている。 既に1時間半の時間差だ。8時42分に紀美子平に到着、20分の休憩の後、荷物をデポして前穂の山頂を目指している最中だとのこと。 村上は梯子を越えたところで、まだしばらく急な登りが待っている。 |
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久々の重い荷に焦るぜ! |
いざ!岳沢へ |
切り株のテーブルで昼飯 |
岳沢テント場 |
営業用山小屋なるものに泊った記憶は 殆ど無い。 山小屋を利用して登山をすると云う 発想そのものに違和感を 感じていたような気がする。 ・ いや寧ろもっとアグレッシブに 営業用の山小屋そのものの存在を 嫌悪していたのかも知れない。 布1枚で大地や天空と接する幕営こそが 自然を求める者に相応しいと 堅く信じていたのだ。 ・ 厳しい自然との 生命の闘いの場でもある山岳に 営業用の山小屋を置く。 すると厳しい自然を相手に如何に 生き抜くかの 知恵や努力を要せずに 気軽に軽装で登ることも可能になる。 ・ これは何処かで登山そのものの 本質的な否定に繋がる様な 若くて不遜な 思惑に捉われていたのだ。 ・ 槍・穂高を中心とした 北アルプスので登山活動の多くは 積雪期であったので 幸い営業中の山小屋に出逢う 機会は殆ど無かった。 ・ 3月の北穂避難小屋はよく利用したが 深い雪に閉ざされ 半日かけてもやっと掘り出せるかどうか。 それだけに入り口を発見した時の 歓びは一入である。 ・ 凍てついた戸を開け小屋の清掃をしてから いつも小屋の中にテントを張る。 激しい風雪を遮ってくれる 避難小屋は正に天国であった。 |
暖房無き客室に震える(岳沢小屋) |
前穂高・紀美子平(左が頂) |
待てど暮らせど来ぬ人を |
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一人で北穂まで飛ばす |
涸沢小屋とテント村 |
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再び上高地へ(奥穂高岳を望む) |
徳沢園もテントがいっぱい! |
ビアで乾杯!凄い人で3時のバスに乗れず(上高地) |
7 突然キレ落ちた岩の前で 10時10分に紀美子平に着いた。間もなく下山してくる隊長の姿が見え、たちまち下ってくる。写真を撮って待っている。 合流して、一緒の写真を単独行の若者にシャッターを切ってもらった。隊長は奥穂から穂高小屋に降り、時間や天候によって、 北穂に向かうかどうかを決めると言う。 10時半に隊長出発。私は、前穂の登りをすこし試したが、膝の違和感が強く、これから先の吊尾根を安全に超えることを優先しようと、 登頂は断念した。 腹ごしらえをして、ゆっくりしていたので、出発は11時になった。 吊尾根は、歩きだしから所どころに雪や氷が付いていて、滑らないよう気を入れて歩く。 ・ 岩に白いペンキの丸印があるので、おおむね迷うことも無いのだが、1か所踏み跡を辿っていたら、 突然キレ落ちた岩の前で詰まってしまい、 大岩の先を回り込むべきか否か迷う。しばしの躊躇の後、後続の人を待って、一緒に考え、 少し戻ったところから行かれることが分かった。 こんなにしっかりした印があっても、ちょっと行き過ぎてしまえば、簡単に手詰まりになってしまう恐さがあるのだ。 ・ 1時、2時とも交信は不通、おそらく目前の聳える奥穂の壁が遮っているのだろう。 そうは思っても、交信ができないと無事なのだろうかと心配になる。ほとんどの人が携帯を持つ時代、 トランシーバーの交信は珍しいらしく、 たまに後から来た人や、すれ違う人がそばにくると、とても興味深そうにしている。 【何かあったんですか?】とまるで事故無線かと言わんばかりに訊いてきた人もいた。 |
山巓に立つ |
前穂高岳頂上(3090m) |
吊尾根南稜の頭 |
奥穂高岳山頂の祠(3190m) |
初体験山小屋余話 1つの布団に2人詰め込むから 半畳で1人9千円。 となると下界の旅館に換算すると まあ、1部屋10畳として20倍すると げっ!18万円だぜ。 ・ うーん、そんな高額なホテルに泊まった 記憶は断じて無いな。 なんぞと狭くて寝返りも打てない山小屋で 眠れず悶々。 ・ 最初に泊まった岳沢小屋の プレハブ宿泊棟は 暖房も無く薄い掛け布団1枚。 羽毛ジャケットを着てアノラックを重ね 布団に潜り込むが未だ寒い。 ・ 北穂高岳の山頂に在る北穂高小屋は もっと寒いかと覚悟していたが とんでもない。 ここは暖房が効いていてシャツ1枚でも 汗をかくほど。 |
奥穂高岳山頂の祠(3190m) |
まあ、寒さはどうにでもなるが どうにもならないのが 小屋主や従業員の接客態度。 ・ 北穂高小屋では忙しい食事の 準備中であっても厨房は和気藹々とし 宿泊客にも笑顔で対応している。 ・ ところが岳沢小屋では セルフサービスのお湯を入れるのも大変! いちいちクレームが付くのだ。 「あ、今は駄目、後にして」とか 「ペット・ボトルじゃ駄目だよ」・・・・ ・ 普通のペット・ボトルに湯を入れたら 変形することぐらい 誰でも知っている事実。 それに敢えて湯を入れるのだから このボトルは耐熱性であると 気づかないのか? 唯文句たらたら。 説明する気も失せて湯は断念。 どうも山小屋は 客の為に在るのでは無いらしいと 初体験で気づいたのである。 |
涸沢岳山頂(3103m) |
最初の頂は前穂高岳。 いつも凍てついたザイルを引きずり ハーネスに登攀具の カラビナ、ハーケン、シュリンゲを下げ テントの入った大きなザックを 軋ませながら立った頂。 ・ 穂高の山巓は風雪の怒号する中で ザイル・パートナーと無事な登攀終了を 讃え合って堅い握手を 交わす場所だったのだが 今日は怒号する吹雪のお出迎えも なければ、パートナーも居ない。 それじゃせめてパフォーマンスでも・・・。 で、結局他の頂でも道化者のVサインとは 何とも味気ないな!。 |
北穂高岳山頂(3106m) |
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《E》 屹立する岩稜と新雪 |
前穂高岳(左)と明神岳(右) (吊尾根から) |
西穂高岳(左奥)とジャンダルム(右) (吊尾根から) |
9 村上はやはり奥穂止まり もう後はゆっくり下って、穂高山荘へ無事に着けばよいのだ。下山し始めると、すうっとガスが晴れ、 遠く行く手の彼方に槍が美しい穂先を屹立させている。 思わず、あそこまで行ってみたいと思わせる形だ。岩場にかなり雪が付き、それが凍っているので滑らないよう、下山も慎重になる。 グループを案内しているらしい年配の指導者が、私のことも見かねたのか(荷物が大きかったかららしい)一緒に指導してくれる。 お蔭で楽に降りられたが、途中の鎖場で「しっかりと両手で鎖につかまって」と言われたのには驚いた。無論そんなことはしないが。 ・ 最後の鉄梯子を無事に降り、穂高岳山荘に到着したのは3時15分。交信準備、今度は直ぐに繋がる。 隊長は滝谷の上部、これから危ない所を通過するとのこと、安全を祈って交信を終える。 朝には村上が快調ならば、北穂小屋にザックを置いて、隊長が危ないところまで迎えに出てやってもいいと言ってくれてたのだが、 期待に背いて、村上はやはり奥穂止まりだった。小屋に入って宿泊手続きをする為に行列に加わる。 一畳に二人、一つの布団で二人寝るとのこと。 ・ 「千円プラスとなりますが、一人一枚の布団の部屋もあります」との受付嬢の言葉に、すぐ飛びついた。 素泊まりだから、少し贅沢しても一人でゆっくり寝たい。 8人部屋で実際は7人だったのでゆったり過ごせ、この千円は価値があった。 4時の交信では、北穂小屋も二人で一つの布団だそうだ。なにしろ、連休、紅葉、晴天と好条件が揃い、 穂高に人が集中してもおかしくはない訳だ。 見下ろす涸沢カールにはとりどりのテントが隙間なく埋め尽くし、後で知ったが1000張りものテント村ができていたらしい。 |
前穂高岳(左)と奥穂高岳(右) (涸沢岳から) |
北穂滝谷ドーム (北穂高岳山頂から) |
10 濃密な時間が私の人生の 涸沢の小屋では一枚の布団に3人だそうだから、その混雑ぶりはいかばかり。 さすがに、上はいくらかましということなのだろうが、とにかく連休の混雑ぶりには仰天させられる。 穂高山荘のテント場にもかなりのテントが張られていた。 そういえば、前穂で写真を撮ってくれた若者は、奥穂のテント場じゃ寒いので、涸沢まで降りるつもりと言っていたが、 上の方がずっと快適だろうにどうしたかなと思う。 小屋の中は暖かく、人がとにかく多いので、ますますあったかい。残った行動食を抱えて、1階の暖炉のそばに陣取る。 セルフサービスのコーヒーを飲みながら、混雑する食堂を尻目に、パンやリンゴを頬張り、 今日一日の長かったような短かったような行動を思い起こして、暮れなずむ窓外に眼を遊ばせた。 ・ 20数年前、この暖炉の前で、中島修氏(スビダーニエ同人)がナンガで遭難したことを知った時の衝撃が甦る。 若きヒマラヤニストの死は私達の心にも暗い影を落とし、眠れぬ一夜を過ごした。 その時まだ乳児だった梓ちゃんも、もう成人したのだ。 歳月の速さに驚くと共に、何と濃密な時間が私の人生の後半を彩ったのだろうかと、 その事実にもまた驚きの気持ちを新たにする。 山に出逢わなければ、決して識ることのなかった、多くの風景、多くの不安、恐怖、憧れ、挫折、希望、達成感、充実感、 生きているということの芯からの実感、歓び・・・それらすべてが私にとってかけがえのない財産であり、 この先も生きていく上での礎となり、一歩を踏み出すための勇気を与えてくれるに違いない。 暖炉の火に負けず、私の中に燃える炎が確かにあるような気がした。 |
槍ヶ岳と槍ヶ岳山荘&南岳3033m(手前) (奥穂高岳山頂から) |
前穂高北尾根Ⅳ峰 (吊尾根から) |
11 大きな地平と深い谷へ向かって 10月9日 4時半起床。身支度を整え、今朝も行動食を摂る。暖炉の前の窓は大きく東に開かれているので、夜明けの始まりがよく分かる。 暗い地平の彼方を埋め尽くす、黒い雲海。その雲海の際が燃え始め、夜が去ったことを告げる。 5時 45分、カメラを構え一列に居並ぶ人々の列を抜け、まだ誰もいないザイテングラードの登山道を降り始める。 空はもう明るく、いつでも太陽の登場を迎えられるかのように、すこーんと広くどこまでも大きい。 地平線は雲海に覆われ、まだ太陽を隠していた。人の影はない。 ただ一人、大きな地平と深い谷へ向かって降りてゆく。 眼をあげた瞬間、雲の地平を破って真っ赤な血潮が一滴ぷくりと湧きだしたかのように、深紅の太陽が昇り始めた。 ・ たちまち、ゆらゆら炎となり球形の太陽へと姿を整え、それと共に、世界へ遍く光を与え、熱を放射して、生き物たちの目覚めを促す。 全身を太陽の光と熱に包まれ、新たな生命の泉がこくこくと湧きあがってくるような、 清々しいエネルギーが身の内に確かに存在すると感じた。 まるで太陽に向かってダイブするかのように、深く切れ落ちた斜面を一歩づつ歩む。 とんでもなく広いこの空間には、太陽の光に照らされて<可能性><希望>そんな言葉が不自然でなく、 いっぱいに溢れていそうな気さえする。 「<不安>だけが新しい出口を見つけるための唯一の感情だと言えるのではないか」 不意にそんな言葉が浮かんだ。誰かの本の一節だったか。岳沢小屋で、寒さと不安で眠れぬ夜を遣り過ごしたことが思い出された。 不安が大きくなると、下山することばかり考え、奥穂の山頂は遥か彼方へと逃げて行く。元気であれば、特別なルートではない。 |
立山(3015m)と槍ヶ岳の殺生ヒュッテ(左)、ヒュッテ大槍(右) (奥穂高岳山頂から300mm望遠) |
明神岳連峰 (明神館より) |
12 潰えかけた希望の芽をそっと照らし 今回は、自分の体調、足の具合等のハンディが、そのノーマルルートを何倍にも困難なバリエーションルート並みの厳しさで迫って来て、 不安を掻き立てる。 嘗て、ヒマラヤ遠征の度に味わった、あのどうしようもない絶望感を伴う不安、アタック前夜のテントの中で、 何度となくその不安に押し潰されそうになりながらも、夜明けの光に決意を新たにしたものだった。 昨日の朝の光もまた、私の中の潰えかけた希望の芽をそっと照らし出し、不安を糧にしても希望は生まれることを想い出させた。 まさに、私の大きな不安は、結果、私を新しい出口に導いてくれたのではないか。 ・ 眼前の途方もない夜明けの景観を、今まさに自らの精神の覚醒のような思いで受け入れながら、 不安に導かれ、不安に後押しされここまで歩んできたことを、肯定する。 安心ではなく、不安を道連れに、人は最後の出口を見出すまで、繰り返し扉を探し続けるのだろう。 生まれたての光に包まれて、なんと充実した瞬間か、まるで地球を独り占めしたような大きな心地で、しっかりと太陽と向き合っていた。 憧れの涸沢の紅葉そのままに、真っ赤に色づいた七竈が空の青さと岩の白さの中でひと際輝く。 あちこちで今年の紅葉は最悪だとの声を聞いたが、目の前の赤く燃えた七竈を見れば、やはり、 自然の創り出す造形の美しさにただ見とれてしまう。 降りてくればそこは下界、人の群れに紛れて、さっきまでの清浄な光はもう探せない。 行列しながらパノラマコースを通過、上高地を目指してひた歩くのだった。 |
《F》 | 天空に挑む 地表の反逆者達の素顔 |
槍ヶ岳・3180m(北穂より) |
《秋の陽は釣瓶落とし》 と知っていながら登攀途中に 闇に捉われ 懸垂下降するハーケンが見えず 下降ザイルがセット出来ず 谷川岳(一之倉沢烏帽子沢奥壁凹状岩壁)で 絶体絶命に陥ったのも秋。 秋の判断の甘さに何度泣いたことか! ・ あの若き日々と異なり 今は更に老化現象という重荷が加わり 《秋の陽は釣瓶落とし》を 侮る訳にはいかない。 ・ 時間は13時半、この穂高岳山荘から 涸沢岳を登り D沢のコル、涸沢槍、ツルムやドームの 上部の岩場を超えて北穂高に 達するには2時間55分かかると 地図には記されている。 ・ となると北穂高には16時25分着。 岩場なので、そう飛ばす訳にはいかぬが 25分短縮したとしても到着は16時。 これでは遅すぎる。 何しろ陽は釣瓶落としなのだ。 さて穂高岳山荘に留まるべきか、はたまた 北穂高へ向かうべきか? |
ジャンダルム・3163m(吊尾根より) |
北穂岳・3106m 南峰(左) 北峰(右)(涸沢岳より) |
涸沢岳・3103m 涸沢槍(右)(奥穂より) |
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明神岳・2931m(前穂より) |
噴煙を上げる焼岳・2455m(前穂より) |
西穂高岳・2909m(奥穂より) |
常念岳(右)・2857m 大天井岳(左)2922m(北穂より) |
この遅い時間に敢えて 新雪の岩場が連なる危険な滝谷上部を しかもスニーカーで 通過しようと試みる者は居ない。 となると捻挫や落石による骨折などに 見舞われたら致命的になる。 ・ その危険性は今まで 冬の穂高やヒマラヤの未踏峰で体験した 危険性と較べてみると どうだろうかと、ふと思う。 ・ 老化現象を加えても その危険性は 問題に成らぬ程遙かに小さいと 予め想定していた解答を思い浮かべる。 |
鹿島槍ヶ岳(右)・2889m 五竜岳(左)2814m(北穂より) |
こうしてこの愚か者は 再び《秋の陽は釣瓶落とし》の教訓を 学ばず秋の日の遅い時間に 北穂高へ向かうのだ。 ・ と苦笑いをしながら涸沢岳の頂に立ち 北穂への稜線を見下ろす。 やっぱり、人影は全く無い。 よーしこうなったら飛ばせるだけ飛ばし 釣瓶が落ちる前に 何とか北穂高に辿り着こう。 ・ 涸沢槍の下りで恐れていたガスが 飛騨側から湧き上がり 視界を失いルートファインディング不能。 先程、稜線上に人影を見たので コールしてみる。 ・ 「トーッお!」と久々の当隊のコール。 しかし何度コールしても風の音のみ。 飛ばすどころかこれでは 最悪の場合はビバークか? |
奥穂高岳・3190m(涸沢岳稜線より) |
ガスが晴れると稜線の先には 更に3パーティが岩場にしがみ付いている。 愚か者は私1人ではなかった。 次々追い抜いて無事北穂山頂へ。 時計を見たら15時半。 ・ まさか穂高岳山荘から2時間で達するとは 思ってもみなかったので驚き。 16時17分の交信で奥穂に居る村上との 互いの無事を確認。 ・ 連休で喧騒の観光地と化した穂高連峰が 闇の訪れと共に寡黙になり 深い静寂と無窮の宇宙を甦らせ 人影の絶えたあの日々の冬穂高を再現する。 これぞ私の穂高。 喧騒の穂高は決して私を選びはしない。 ・ その夜の北穂山頂での星空が 夜明けが、如何に壮大な光を放っていたか 云うまでも無い。 こうして私は穂高に永訣を告げた。 あうふぶぃーだーぜーえん! |
新卓レストラン朝の開業 |
昨日の穂高追想 10月10日(月)晴 森のレストラン 《それからひと時 昔山巓でしたやうな深呼吸を一つして あなたの機関は それなり止まつた》 |
穂高地図を広げて |
《絶頂と存在を結ぶ一瞬の軌跡 必然であったことの驚愕》 ・ 吹雪の荒れ狂う山巓で確かに私は、 存在そのものと結ばれていた。 絶頂と私を存在ならしめる わたしの機関の間には 密やかな光が 交差し息衝いていたのだ。 ・ 冬の穂高やヒマラヤの 未踏峰との邂逅が 必然であったことの驚愕。 ・ 《そんなにもあなたは 密やかな光を待つてゐた》 |
採り立て無花果と山荘林檎、焼き立てパン、初ワイン |
穂高の地図を広げ 昨日までの山稜を目で追う。 最早何処を探しても 嘗ての登山後の胸のときめきは無い。 ・ 細胞の1つ1つが 強烈な輝きと意志を持って 飛び出してくるような あの濃密なわたしの機関は老化し 如何なる山巓からの 密やかな光も捉えることは出来ない。 ・ さて私も智恵子のように 深呼吸を一つして 永劫なるカオスに還るとしよう。 |
さあ、森の光を呑もう |
そんな私の心象モノローグを聴き取ったかのように 村上が天空を見上げる。 森の無数に重なる葉を貫いてコスモスからの光が 優しく村上に降り注ぐ。 ・ 《安心ではなく、不安を道連れに、 人は最後の出口を見出すまで繰り返し 扉を探し続けるのだろう》 穂高の山稜から紡ぎ出された村上の言葉が 光とタピストリーを成し森に流れる。 ・ 《さあ、それでは夫々の穂高に乾杯をしよう!》 |
森のベンチでドリッピング |
ヌーボと穂高に乾杯! |
超ドライなワインに |
初めての山荘産葡萄のワイン 10月10日(月)晴 「初めて山荘で収穫した 葡萄・甲斐ブランで仕込んだワインを 呑んでみようか?」 ・ 「華麗な光の総てを放ち 紅く煌めいて迎えてくれた穂高への 感謝を表すのに これ以上相応しいワインはないね」 |
未だほんの少し 濁りは残っているけど その濁りに森の緑が溶け込んで なんとも優しい音色。 ・ よく観てご覧! そのワインの下にもう1つの森が 天地を逆にして映り 太陽を捉えて輝いているよ。 ・ さあ、呑んでみよう。 おー微塵も甘さを残さない超ドライ。 白ワイン造り17年にして 初めて達成したこの味こそ 追い求めていた真髄。 やったぜ! |
森の光がワインに |
こいつはイケルぜ! |
ガマズミと陶芸作品 (森のレストラン) |
秋オンパレード 10月10~16日(日) |
銀杏とガマズミ (小倉山) |
紅く色付く女郎蜘蛛 (前庭) |
胡桃の実で手習い (前庭) |
獲物を求めて忙しく (前庭) |
秋の使者・蝮草の実 (座禅草公園) |
《小倉が1番穂高は2番 3時のおやつは文明堂!》 幼い頃、巷に流れていたCMに載せて 小倉山と穂高の替え歌を ハミングしながら小倉山へと向かう。 ・ 「そりゃ穂高は美しくて格好良くて 誰だって惚れ惚れしちゃうけど やっぱり山荘の小倉山が1番だよね」 ・ 「そうね、四季折々足繁く通って 初めてその良さが実感出来る山ね。 |
綺麗だね木蓮の実 (前庭) |
高き香り・山椒の実 (奥庭) |
最後のゴーヤーと人参 (奥庭) |
小さな薔薇の実 (中庭) |
ピーマンの仲間・獅子唐 (西畑) |
どんなに穂高が紅く燃えても ほら、紅く色着いたガマズミや蝮草、山椒が 彩る小倉山の煌めきに較べたら・・・」 ・ と云った途端 銀杏が金色に磨きをかけ益々光り 梅擬きなんぞ本当のルビーに なっちゃって 獅子唐や山法師もまっかっか。 ・ 金木犀や山椒はくらくらするような 高貴な香りを 辺り一面に振りまいて そりゃもう歓喜の大合唱だぜ。 |
山荘ルビー・梅擬きの実 (奥庭) |
燃える山法師 (前庭) |
嫁菜と花ムグリ (奥庭) |
濃厚に香る金木犀 (奥庭) |
あちこちに秋の麒麟草 (奥庭) |
山荘主が顔をまっかにして、 汗をぽとぽとおとしながら、 小倉山をのぼりますと、 にわかにぱっと明るくなって、 眼がちくっとしました。 ・ そこはうつくしい黄金いろの草地で、 草は風にざわざわ鳴り、 まわりは立派なオリーブいろの かやの木のもりでかこまれてありました。 ・ その黄金いろの草地の正体の 金エノコロ草だって 大喜びしてゆらゆら揺れたんだぜ! |
畦道にいっぱい秋桜 (福生里) |
金エノコロ草 (小倉山) |
秋明菊のお花畑 (福生里) |
僅かに生き延びた池のクレソン (山荘の池) |
黄葉葡萄と雲海 (テラスから) |
10月15日(土) 雨後晴 そんなに小倉山や山荘のみんなが頬を紅潮させ 一層鮮やかな光を放って大歓びしても あいつがやって来て総てを覆い隠し鮮やかな光も紅潮した頬の輝きも 見えなくなってしまうんだ。 ・ 大きな盆地を白く凍てついた湖のようにして埋め尽くし 小さな谷間の1つ1つに這い上がって来て 光のように走る銀河鉄道を呑みこみ風のように街を行き交う車を塗りつぶし 一郎の家だって馬車別当の棲家だって消してしまう。 |
なーに雲が晴れれば 又見えるようになるんだから どうと云うことはないんだが 恐ろしいのは そいつが呑み込んだ瞬間に 意味が失われてしまうことなんだ。 ・ そう例えば穂高より 小倉山の方が一番だぜといったら 紅いお腹をゆさゆさ揺すらせて 大得意になって 巣の上を走りまわった女郎蜘蛛だって ジ、ョ、ロ、ウ、グ、モと 6つの音節に分解されてしまうんだ。 ・ 分解されたどの1つをとっても もう女郎蜘蛛はそこに居ない。 女郎蜘蛛と云う意味を 奪ってしまうんだよ。 |
ひたひたと迫りくる雲海 (テラスから) |
言葉が意味を失う、 それだけでも充分恐ろしいのに 銀河鉄道からも 街を行き交う車からもその行動目的を 奪ってしまうんだ。 ・ つまり銀河鉄道や街を行き交う 無数の車は行動の意味を奪われ 何の為に走っているのか 何処へ行くのか解らなくなってしまう。 ・ 恐ろしさの極めつけは 存在の意味さえ奪ってしまう事。 一郎も馬車別当も あの雲海に覆われると 細胞の1つ1つまでが白く凍てつき 機能を失ってしまう。 ・ 自分がどうして生きているのか 解らなくなって 成す術も無く途方にくれてしまうんだ。 |
あっ、やばいぜ!どんどん迫ってきて、ほら銀河鉄道が出入りする 山脈のトンネルもすっかり覆われて見えなくなってしまった。 グランの棲んでる森人の家も消えてしまった。 ・ 呑みこまれた一郎の家、馬車別当の棲家や森が白い雲の中で あやふやな黒い影だけになってどんどん薄くなって あー、もう見えなくなってしまった。 黄ばんだ葡萄の葉も代赭と黄金に波打つ草原も掻き消され 後は渺渺たる凍てついた雲海。 ・ もう直ぐだね。山荘が呑みこまれるのも。 テラスにひたひたと打ち寄せる凍てついた白い浪に薔薇のアーチが ライオンのように鬣を逆立てて抵抗してるのが 何とも可笑しいね。 まるで《怒髪天を衝く》を演じている三文役者みたい。 ・ 《意味の喪失》がこれ程までに躍動的で美しく迫り 深く心象に達し、心を揺さぶり魂を抉るのは何故だろう。 若しかすると《美意識》とは、カオスへの回帰に在るのだろうか? |
薔薇アーチと雲海 (テラスから) |
ジ、ョ、ロ、ウ、グ、モ落書コーナー |
沢山あるね (福生里) |
落ちてきた胡桃 (福生里) |
実オンパレード 10月10~16日(日) そこはうつくしい黄金いろの草地で、 草は風にざわざわ鳴り、 まわりには胡桃の木がありました。 とても金色とは呼べないけれど きっと木から落ちる前は 金色だったに違いない胡桃の実が 焦げ茶色になって 辺り一面に落ちているではありませんか。 ・ 「あたしの皮をむいて 堅い種をパチンと割って中のクリーム色の 耳のような奴を食べてごらん。 あたしは森のミルクになって あなたの体を駆け巡り 2人の命は風になるんだよ」 ・ 傍にはあのくさーい銀杏も落ちていて こう云うのです。 「金色と云えばおいらのことさ。 どうだいこの匂い立つ 黄金の輝き。 (間違っても臭いではないぜ、匂いだぜ) おいらを熱して堅い実を パチンと割ってご覧よ。 |
観たこともないような緻密で 鮮やかな翠緑色の玉に 逢えるぜ。 翡翠だって蒼ざめる美しささ。 ・ おいらを食べたらどうなるかって? 鮮やかな翠緑色が全身に 行き渡って森の影を映す 深ーい湖になるんだ」 ・ そこで胡桃と銀杏を捨てられていた バケツに入れて山荘に 向かって歩きだしたら今度は 山栗が皮をむかれて 畦道で待っていたのです。 ・ 「胡桃や銀杏のように 皮をむくような手間はかけません。 どうですかわたしを茹でて 黄金のピューレにして ホイップした生クリームと混ぜて モンブランにしませんか。 食べたらどうなるかって? 風や湖になるどころじゃありませんよ。 あの造り立ての山荘ワインと 一緒に愉しんだらあなたは きっとあまりの美味しさに蕩けて 消えてしまいますよ」 |
落し物の栗と銀杏 (福生里) |
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実をむいた胡桃 (福生里) |
椎茸どっさり (奥庭) |
最後の胡瓜花 (西畑) |
菜オンパレード 10月10~16日(日) |
寒さにめげぬ茄子花 (西畑) |
秋胡瓜の収穫 (西畑) |
最後の西瓜の味は? (前庭) |
秋茄子美味し (西畑) |
大きな椎茸 (山荘森) |
どうも煩くて敵わんな! つい胡桃や銀杏、栗に耳を傾けていたら 森の椎茸や畑の秋胡瓜、茄子 ピーマン、人参、南瓜、 夏の名残りの西瓜まで騒ぎ出して 「わたしこそ食べてみて!」 なんぞと大声で喚くんだ。 ・ そりゃそうだよね。 みーんな小倉山や山荘の森や畑で 山荘主と戯れて過ごした あの豊かな時間がぎっしり詰まって こんなに大きくなったんだものね。 でも、もうお別れだ。 太陽が北回帰線に戻って来るまで さようなら!。 |
甘い肉厚のピーマン (西畑) |
食べきれぬ南瓜 (葡萄畑) |
人参の花と花むぐり (西畑) |
細い人参ばかり (葡萄畑) |
10月4週・・・森からのプレゼント・Grand King GK67
森からのプレゼント 10月29日 後方高芝山 |
早速高芝山へ 10月29日 高芝山北峰の山頂 |
テラスでピアノが光ったんだ。 おや、と思って テラスに出てみるとぴかぴかの靴。 光っていたのはどうやら 添えられたピアノのカードらしい。 ・ 白いピアノのカードには 金字が刻印されていてどうも Happy Birthday なんぞと書かれているらしい。 さては先週 《小倉が1番穂高は2番・・・》と ハミングしたのを聴いていた 金エノコロ草の仕業だな。 ・ お得意の金を使ってカードを作り 森のみんなに呼び掛けたに違いない。 女郎蜘蛛なんぞ 器用に糸を使って靴を編んで お腹の赤紋で何やらロゴまで入れて Grand King GK67 ・ そうか新雪穂高の岩場を スニーカーで登り左内踝を傷めたのを 風から聴いた森の住人が 女郎蜘蛛に軽登山靴の製作を 頼んだんだな。 |
高芝山南峰ケルン 10月29日 高芝山 | それにしても67の意味するものはと カードを開いてみる。 どうらやカードには森のみんなの心が 音符と共に記されているらしい。 が、67は何処にも見当たらず。 心にはいつも豊かな メロディーが流れている そんな日々が 過ごせますように・・・ ♪ ♪ ♪ 心の想いをいつでも奏でてくれる そんなピアノが 胸のポケットにしまってあったら どんな音色が聴こえて くるでしょうか・・・ グランの歓び様ったら そりゃもう大変なもんですぞ。 これでちょっと高い山でも 危険な山でも 一緒に行けると思ったに違いありません。 それでは先ず 山荘の最高峰・高芝山へLet's Go! |
バイクに乗って出発 |
ぴかぴかの靴で初登山 10月29日 高芝山へ |
ゲートもバイクならOK |
バイクを引きだしたら どうですこのちゃっかりした態度! もう全然走る気配は見せず ちょこんとバイクに乗って 「いざ出発!」 ・ 走行中に足を踏み外したり 落ちたりしたら バイクに轢かれて死んでしまうか 大怪我の恐れ充分にあり。 「ふふーん、おいらをそんなドジだと 思っているのかい? 未だ未だ おいらの運動神経を解ってないな」 |
ちょっと狭いけど |
走り出すと 山荘主の脚の間に座り 首を山荘主の右脚の上に出し バイクが急カーブしようが 悪路でジャンプしようがへいちゃら。 ・ 上手く体重移動しバランス抜群。 閉まっているゲートで 仕方なく山荘主がバイクから降りても 一緒に降りようとはせず 「登山口までもう少しだね。 いつ来てもこの竹森林道は素敵だね。 何しろ山荘の専用林道で だーれも居ないんだからね」 と澄まし顔。 驚いたぜこの犬、ギネスもんだぞ。 |
紅の森 10月29日 高芝山 |
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贅沢な山荘専用楓林道(工事中) |
穂高の紅葉なんか目じゃないぜ! この静寂に包まれた紅の森。 こんな美しい宝石の森が 山荘のぐるりに在るなんて実に嬉しい。 と山荘主はすっかりご機嫌。 ・ と、どうでしょう。 胸のポケットにしまっておいた あのピアノのカードが 秘かに音色を奏で始めたのです。 きっと紅の彩が鍵盤を たたき始めたに違いありません。 |
鈴庫山稜線を背景に |
竹森林道から柳沢峠に出て それから鈴庫山か 山毛欅坂の森を通って鶏冠山まで 脚を延してもいいな。 ・ そう思って取りあえず 高芝山へ向かったのですが 3・11の大地震と9月の台風で崩壊した 竹森林道は工事中。 ・ 大型のブルドーザーやショベルカーが 深い亀裂の入った道路を削り 崩壊斜面の土砂を移動し大活躍。 仕方なく柳沢峠に出るのは断念し |
高芝山のコル |
林道を少し戻って 高芝山のコルを目指して登山開始。 バイクから飛び降りるや否や グランは鉄砲玉のようになって飛び出し 紅に染まった森へまっしぐら。 ・ 「女郎蜘蛛がお腹の赤紋から 紡いだ糸で刺繍したロゴ Grand King GK67 の意味 解りましたか?」 と突然グランが走りながら 話しかけてくるでは。 で、その瞬間67が 山荘主のよわいを表しているのではと ふと気づいたのです。 |
落葉松と楓 |
そうなると、あの賢い女郎蜘蛛め GrandをGrand・Fatherの略 つまり老いた人にし Kingを森を掌る仙人として表現したか。 ・ だが山荘主を煽て上げ さんざん歓ばせておきながら その実、何らかの隠された意味を 込めているに違いないのだ。 ・ そうか、読めたぜ女郎蜘蛛さん。 GK67とは 《ジジイ クタバレ67》だな。 ・ オヤオヤ、随分ひねくれていますね。 それじゃ折角の森のプレゼントが 泣いてしまいますよ。 これ以上の美しさはありませんと 紅く燃えてる森だって ほら、心から67を祝福してますよ。 |
柳沢峠を断念し楓の森へ |
赤四手かな? |
黒い樹幹と燃える葉 |
黄色から紅の楓へ |
あれ!今頃咲いてる |
感傷の秋 あの女の子どうしたろうか? 10月29日 前庭 |
女の子の匂いがするな? |
夏の終わり8月には 咲き終わってしまう高砂百合が たった一輪だけ 前庭に咲いているでは。 ・ 「変だな」と云う顔して グランがじーっと見つめています。 その百合の正体が 何であるのか確かめるように 白い花弁に近づき くんくん。 ・ 「うーん、これは女の子だな」 とグランの独り言。 おかしいぞ、グランは その日山荘には居なかった筈。 ・ 従って此処で女の子が きゃっかきゃっか 笑いさざめきながら走り回って いたなんて知らない筈。 |
あっ!女の子の靴だ |
見つけたのです。 高砂百合の傍らに転がっている 2つの大きな夕顔を。 トトロと女の子たちが呼んでいた その2つの夕顔の上には 小さな可愛らしい スニーカーが乗っています。 ・ 百合から目を転じて グランはトトロにちょこんと乗った靴に 何やら話しかけているようです。 「何処へ行ってしまったの? 此処においでよ。 僕と遊ぼうよ」 ・ でも靴は黙ったままです。 女の子が突然やって来てトトロの上に 靴を残して何処か遠くへ 去っててしまったのは確か6月。 ・ 暑ーい夏がぐんぐん攻めてきて 週末毎に雨が降って 残された靴はずーっと独りぼっちで 女の子のお迎えを 待っていたのでもう言葉を 忘れてしまったのでしょうか?。 |
あの日からトトロに乗ったままだ |
「 ほら、靴やトトロの影が こんなにも長く伸びちゃって もうすっかり秋で 山では雪も降り出しているし 森のはっぱも 黄色くなって紅くなって もう直ぐ冬になっちまうぜ。 ・ そりゃこの白い百合が 女の子になって迎えに来たと 信じたい気持ちは わかるけど女の子の足は ぐんぐん伸びて もう君は捨てられたのさ」 |
この花は女の子かな? |
芋・ついに採れたぜ! |
山荘森の朝市 10月31日 前庭 万里の長城ゲートを開けて 芋畑に入る。 ここ数年、猪に根こそぎ掘り起こされ 鹿に食われ笹熊の餌食となり じゃが芋も薩摩芋も 収穫出来なかったのだ。 ・ こつこつと万里の長城を築き 遂に完成したと思ったが その判断は甘かった。 今春植えたじゃが芋・「北のあかり」は 長城のスチールの メッシュを潜り抜けいとも簡単に 食われてしまったのだ。 ・ どきどきしながら 1本目の茎にスコップを入れ 掘り出し作業開始。 ・ おー出てきたぞ。 久しぶりに目にする紅東の 鮮やかな赤が眩しい。 たった1本の茎から8個の 大きな芋が採れた。 ・ ついでに大きく育った大根、蕪 更に青梗菜、ピーマンを 収穫し前庭の石卓に並べる。 勝手に育って西畑に ふんぞり返っている小松菜が 「あたしを忘れんじゃないよ」 ・ そうそう、葡萄畑や林檎畑に蒔いた 小松菜は元気無いのに 西畑の小松菜は春の種が勝手に 発芽しすくすく成長。 大切にしてやらねば。 |
芋・歓喜を謳う |
大根・でっけえなー! |
蕪・万里の長城からの収穫 |
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菜・青梗菜も大きくて立派 |
赤・ピーマンの秋 |
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朝市・さあ、いらっしゃい! |
稔・さて朝市を開こうか! |
小松菜・もってけ!銭はいらん |
変な胡瓜集合 |
花の散るらん |
白の山茶花満開 |
偶然かと思ったが どっこい、どれもこれも同じ。 先端だけが普通の大きさに育ち 途中から急激に細くなり 何だか瓢箪のような。 ・ ははーん、さてはこれは 胡瓜カレンダーだな。 先端の太い部分が夏で その後の細いくびれが秋なんだ。 ・ 胡瓜がこれ程温度に敏感だとは 知らなかったな。 |
冬の花・山茶花が 山荘を彩る頃に始めて収穫した 秋胡瓜に味噌を付け ばりばり食べてみた。 実が引き締まり味が濃く美味なり。 ・ 鳥に食べられた熟した柿を 花芯にして 石卓に秋胡瓜のオブジェ。 観客は凍死してしまったノジコ1羽。 ・ 本当は秋の来る前に フィリピンに渡らねばならなかったのに 遅れてしまい 凍死してしまったんだね。 |
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冬到来・野路子の凍死 |
太陽になった柿 |