山荘日記

その112006年神無月

 




神無月・3週・・・紅葉始まる





10月23日(月)曇  於  ログ裏の森

チベット高原の零下の秋
を彷徨って
1ヶ月ぶりの山荘の森。

やっぱり
紅葉が始まっている。
紅葉一番乗りは
いつもの漆だ。

漆の色付きを見て
北の森は「ざわざわ」と
色めきだって
我も我もと命を燃やす。

燃え尽きた命は
大地に還って
又、森になるんだね。
一番紅葉みーつけた!



10月23日(月)曇 於  奥庭

慌てん坊山茶花

冬の花なのに
山荘の山茶花はいつも
9月から咲きはじめる。

山荘の冬は
マイナス10度にもなるので
冬は花も葉も
総て凍りついてしまう。

そこで山茶花は考えた。
山荘で生き延びる為には
冬の来る前に
咲いてしまおう


山荘建設と同時に植えた
数十本の山茶花は
12月までに
咲き終えてしまうのだ。
嫁菜氾濫

どう見ても
単なる雑草でしかない。
しかしこの
野菊
昔から詩に歌われ
小説のタイトルに使われ
その
清楚さが
慕われてきた。

山荘の庭にも
周辺の森や畦道にも
たくさん咲いて
秋風に揺れている。
嬉しいな!



10月23日(月)曇 於  奥庭

緑色の実が
緑の葉に紛れて
身を潜めていたのに
チベットから帰ったら
こんなに色付き輝いている。

こんなに輝いたら
目立ってしまって鳥に
食べられてしまうよ。

そうか!
もう種が熟したんだな。
鳥に食べられて
遠くに種を運んでもらうため
そんなに目立ってるんだ。

でも鳥にはあげないよ。
皮を剥いて干し柿にして
枯露柿になったら
皆で食べるんだよ。
百目柿だぞ!



10月23日(月)曇 於  西畑

受精後22日目の
いがぐり君をみてごらん。
7月2日
山荘日記に出ているよ。

あれから4ヶ月と20日。
つまり
誕生後5ヶ月以上も経って
もう一人前のキューイさ。
あと1ヶ月かけて
中身のエメラルドグリーンに
黒い星々を鏤めて
僕の宇宙は
完成するんだ。
お楽しみに!
こんなに大きくなったぞ!



10月23日(月)曇 於  石卓横

初夏にたくさん熟して
余りの美味しさに
頬を落とした
昨年は何処へ?

髪切虫が幹に穴を開け
無花果は死んでしまった。
穴に薬剤を吹き込み
介抱した結果
どうにかやっと葉を出し
小さな実を付けた。

初夏の収穫は望むべきも
無かったが
秋には美味しく熟した。
今朝も食卓にのせようと
見に行ったらこの有様。

とても美味しいのを
野生の動物

知っているんだ。
しまった又食われた!



10月23日(月)曇 於  ログ裏の森

あれ!
いつの間に。

2週間以上も雨が降らず
カラカラに
乾いてしまったので
秋の収穫を忘れていた。

3番窯の失敗作を捨てに
森に入ったら
大きな椎茸が花盛り。

森のお肉だ!

雨無しで育った椎茸は
早春の冬子と同じように
身がよく締まっていて
噛み締めるほど味が出て
とても美味しい。

傘の直径は20cmもある。
早速オーブンで焼いて
檸檬をかけて
少し醤油をたらし
食べてみる。
うーん!
何と言う味と香り歯応え。



10月23日(月)曇 於  西畑

秋菜・冬菜
ブロッコリー、カリフラワー
キャベツ、大根
小松菜、蕪、ほうれん草
冬菜、春菊、青梗菜。

現在この10種類が畑で
すくすく育っている。
ほうれん草、春菊は
そのままサラダにして
小松菜、青梗菜は
さっと軽く湯を通して食す。

どの時期に
何の種を蒔いて
いつ収穫をするか?
やっと最近になって

これが分かるようになった。



最後の発芽
マイナス10度の
山荘の過酷な冬に耐える菜。
ばりばりに凍りついても
決して枯れることなく
春には再び葉を繁らせ
花を咲かせる菜。

それがほうれん草と青梗菜と
知ったのも最近。
ここ数年は冬になると
この2種の野菜を育てている。

チベットから帰国して
蒔いた青梗菜が発芽した。
果たして
霜の降りる前に
冬に耐えるまでの大きさに
成長出きるか?

10月23日(月)曇 於  ログ裏の森

命燃ゆ!

雄の「美しい色」が
雌を惹きつけ
「美しい鳴き声」が
雌を呼び寄せる。

「美しさ」は本質的に
生殖を孕んでいる。
「美しさ」は新たなる
生命誕生の
不確かな予感を
醸し出す。




にも拘らず
紅葉は命果つ「美しさ」

人はこの美しさに
酔い痴れ
死の彼方に
輪廻する生殖の
夢を見るのだ。





神無月4週・・・燃ゆる幽谷





10月28日(土)晴  於  大菩薩神成沢

静寂の地へ
曇天の目白
朝トレーニングを終えて
山荘に着いたら
素晴らしい快晴。

チベットで液晶が壊れ
修理に出したデジカメの
代わりに3台目の
DX8000Gが届いた。
早速カメラを持って
大菩薩へ。

ルートはいつもの岩場。
危険なため人の絶えた
このルートは常に
静寂が支配。



神成沢・命名
紅葉真っ盛り、快晴、休日
とくれば大菩薩は
大混雑があたりまえ。

ところがこのルート
ご覧のように
苔むす倒木に覆われた
静寂の地。

静寂の地に
きらきらと水を躍らせて
小さな谷が踊る。
姫の湯沢に合流する
この谷に未だ名は無い。

君に名前をあげよう。
神成沢だ。



10月28日(土)晴  於  大菩薩神成沢

幽谷の記憶

静寂が悠久の刻に
結晶して
天空の彼方から
降りつむ。

緑色の雪だね。
耳を澄まして
脳細胞の深奥へと
時空遡行を試みる。

そんなにも永い刻を経て
眠りから覚めた君は
やって来たんだ。

時空に連なる
無数の脳細胞連鎖は
天空の彼方からの
君の回廊
だったんだね。



10月28日(土)晴  於大菩薩神成沢 

 

海への旅立ち

標高2000mに
屹立する神成岩に集結し
大地に浸透し
小さな裂け目から
君は産声を上げた。

蒼い宇宙への旅が
始まったんだ。
時空に連なる
無数の脳細胞連鎖が
回廊に変容する瞬間は
ほんの一刹那なんだ。



光の粒子が
超銀河団を従えて
中央の穴に
吸い込まれているだろ。
あれが
回廊なんだ。

この小さな谷が
回廊を再現するなんて
不思議だね。



10月28日(土)晴  於   大菩薩神成沢

清 冽

爽やかな音を立てて
回廊に刻が流れる。
光を乱舞させながら
回廊に導かれ
生命が迸る。

森や大地の
メッセージを携え
回廊を巡り
白い動脈血が走る。




接平面の無い
曲面上の特異点のように
回廊は暫し屈折し
大気を巻き込む。

流れる刻や光、動脈血は
瞬時にして
無数の泡宇宙に変貌し
再び光となって
回廊の旅人に還る。



10月28日(土)晴  於  大菩薩落葉松尾根

板屋楓

森に淡い黄が滲む。
寡黙になった森の彼方で
宇宙が
ひっそりと藍を深める。

眼下の湖が太古からの
静寂を呑み込み
寡黙な森や
孤独な藍を静かに
抱きこむ。





時空に連なる
無数の脳細胞連鎖が
成す回廊に
音も無く黄葉が
舞い始めた。





10月28日(土)晴  於  大菩薩富士見新道

美の封印

光彩が紅葉を貫き
落葉の最後の
生命を映し出す。

光彩によって濾過された
鮮やかな生命が
森を染める。

迫り来る死を予感し
最も美しく装う木々の葉は
自らの鮮烈な色彩を
認識しない。




《人の死も斯くありたい》

余りにも美しいと
人は暫し
死を連想する・

自らの死によって
その美しさを
封印しようと
するのだろうか?



10月28日(土)晴  於  大菩薩富士見新道

羽団扇楓
Anthocyan

葉の細胞に
吸い上げられた液体は
アントシアンの色素を湛え
迫り来る死に備える。

気温が低下し
葉の物質代謝が減少すると
糖が不足し
糖との配糖体である
アントシアンは
死の発色を始める。



名月楓
羽団扇楓

残照が鮮やかに
死の発色を映し出す。

既に葉を失った木々が
影を落とし
死の光のBGMとなって
最後の
バロックを奏でる。



10月29日(日)曇    山荘座禅草の森

森のルビー
耳型天南星U

早朝の薄闇の森に
目の覚めるようなルビー。

黒岳で
9月16日に逢った
天南星が
標高差1200mを降りて
山荘の森に
やって来た。

同じアントシアンで
輝いているのに
死の影は微塵も無く
唯々美しい。



米国山牛蒡?
山葡萄
と勝手に
呼んでいたが
こいつは食べられない。
本当の山葡萄は
太い巨大な蔓に実る。

見るからに有毒な色艶。
あちこちで沢山熟してるが
鳥達が啄ばんでいるのも
目にしたことは無い。

図鑑を尋ねても
米国山牛蒡くらいしか
出てこない。
お前は誰だ?




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