コモド・ダイビング

珊瑚海・生命への旅

            珊瑚海・・・・・・・もう1つのヒマラヤ

其の11




Komodo Is
        
撮影日:2007年4月  場所:コモド諸島    
                                     撮影・編集:坂原忠清

S コモド諸島(インドネシア)


相対評価・・・《》最高、《》良い、《》並、《》やや悪い、《》悪い
珊瑚の成育 4 透明度 4
魚影 4
静けさ(ダイバー数) 5
周辺環境(汚染等)
船名:Southen Star 船室:中階 船の居住性

総合評価・・・《5−



『ダーウィンが来た!』・大好きなNHK番組である。
この番組で『現代の恐竜』コモド・ドラゴンの棲む島が、昨年12月に放映された。
身長3m、体重150kgの巨大爬虫類が猪や鹿を襲い
雌を得るために激突し共食いを行う姿に、少年が興奮しないはずがない。
1911年、オランダの小型飛行機がコモド島に不時着し
操縦士がドラゴンを発見したとのこと!
発見されてから百年も経っていない本物のドラゴンに逢えるなら
少年は大洋を泳いで行ってもいいとさえ思ったのだ。

だがコモド諸島は国立公園であり、世界自然遺産として登録されており

おいそれと近づくわけにはいかない。
ネット噂によるとDVを目的としたクルーズ船がコモド諸島に出ているらしい。
その船の名前は《Southen Star Cruse》



コモド諸島航海図

フロレス島の小さな港町ラブアンバジョで錨を上げたのは4月22日。
西のコモド島を目指してクルージング開始。
途中セバヤ島(図中1)に寄ってテストダイビング。
DV後コモド島北東のサンセット・リーフで美しい夕日と満天の星空での停泊。
それから矢印に沿って航海を続け1〜13まで番号順にDVを行い、リンチャ島(Rinca)にLanding。
世界最大の『現代の恐竜』大蜥蜴に逢い27日ラブアンバジョで6日間の船旅を終えて下船。


行方不明
ガルーダ航空

急遽飛行機が整備に出され
18人乗りの小型機が
フロレス島まで
飛ぶことになった。

昨年12月メナドに向かった
ガルーダ航空が
行方不明になってから
4ヶ月を経て尚消息不明。

何しろポンコツ機を
碌な整備もせずに
飛ばせるだけ飛ばす方針が
ガルーダ航空の経営。

急遽整備と言うことは
余程のことがあったのだろう。
この小型機も危ない。
落ちるとしたらどの辺か?
飛行経路を確認してみる。
バリ島を出て
小スンダ列島を東へ飛び
ロンボク島、スンバワ島
コモド諸島上空を経て
フロレス島まで500km。


モルジブの水上飛行機は
何処でも海上着水可能だが
この双発機は
そうはいかない。
緊張の1時間半のフライト後
フロレス島西端の
ラブアンバジョにどうにか
無事着陸


この飛行機の総積載量は
500kg。
1人の荷は20kgに制限され
乗客の体重も計量される。
10kg以上オーバーしたが
今回は無料で許可される。



変だ。おかしい!
島が赤茶けている。

数多くの珊瑚礁を空から
見てきたがこんな島は
見たことが無い。

珊瑚礁の上に出来た島は
豊かな樹木に覆われ
海面下礁の緑のような光を
普通は放つ。

コモド諸島は赤道直下の
熱い風の収束路で
サバンナ気候であると
聞いていたが未だ
雨季は終わったばかり。
もう少し緑があると
予想していたが
全くの赤茶けた大地。
砂漠の島である。
コモド諸島



Southen Star
 Cruse


さて
コモド島は何処かな?
インドネシアの地図を開く。
あれっ!無いぞ。
もう一度良く見る。
フロレス島はあるが
コモドは記名が無い。
おかしいな。

これがコモドへの
旅の1ページ目であった。
フロレス島とスンバワ島に
挟まれた30km程の
小さな島であることを
ネットで調べやっと確認。
次にアクセス手段の
Southen Star Cruse

を調べコモドDVを決定。

全長35m、総排水量200t
最大巡航速度12ノット
最大客員20名


操舵室は3階にあり
あたり前だが見晴らし抜群!

2階はリビングと食堂。
1階が客室とDVショップ。
小さな可愛らしい船である。

乗員はクルーズ・マネージャー
船長、シェフ、機関士、に夫々
副が付き8名。
更に燃料係、キッチン係、甲板係
DVガイド等で総計17名。


それに対して客は8名。
ガラパゴスの冷たい海や
流れの速い海で経験を積んだ
ベテランのダイバーが
殆どのようである。

さてどんなクルーズになるか?



クルーズの最大の難点は
部屋の狭さである。
3畳程の部屋に2段ベッドが
4つで天井に頭がぶつかり
本を読むのも一苦労。

ヒマラヤでのテント生活は
もっと狭いのに
テントの方が遥かに快適
なのはどうしてか?

クルーズの2番目の難点は
船酔であるが幸い
コモド諸島の海洋は波静か。
航海中酔いを感じたことは
全く無かった。

トマス・ハリスが長い沈黙を
破ってついに5冊目の本
「ハンニバル・ライジング」を
執筆。先日発売。
夢中で唯ひたすら読む。
超狭船室



無人島上陸

海の美しさと静けさは
他のDVリゾートとは
比べものにならない。

6日間の航海で
13の珊瑚礁に潜ったが
他のダイバーに会ったことは
一度も無かったのである。

無人島に錨を下ろし上陸。
山に登り湾を見下ろすと
太古からの静けさを湛えて
美しい海が広がる。


大きな女郎蜘蛛
行く手を阻む。
雌だが日本の女郎蜘蛛に
見られる腹の赤い帯が無い。
それにしても大きいな!

山稜では野生の鹿や猪豚が
人の気配を感じて
急いで走り去る。

足元には石英の透明な欠片や
巻貝の化石が転がり
この島の探検だけでも
充分に面白そうである。


隣のフロレス島では
最近1万8000年前の人骨が
発見され
ホモ・フロレンシアと命名。
ジャワ原人、北京原人と同じ
ホモ・エレクトスではと
騒がれている。





コモド
ドラゴンだ!
Komodo doragon

『この顔だ!』
これはどうみても
鰐とは大違い。
正しく恐竜の顔そのもの。

2億5千万年の時が
フラッシュ・バックされる。
哺乳類が誕生し
顕花植物が咲き乱れ
ヒマラヤやアンデス山脈が
生まれた新生代を
一気に通り抜けて
中生代へとフィルムは逆転。

巨大隕石の激突による
凄まじい死の衝撃を経て
地球生命の爛熟期
中生代が突如展開される。
白亜紀、ジュラ紀を
遡り更に三畳紀へと
時は還り恐竜誕生。
・・・
殆ど動かないのに
他の動物の動き等を感じ
反応する速さは
一瞬である。

昨年慣れたガイドが
ドラゴンの近くで
落とした帽子を
拾おうとした瞬間に
腕を咬まれ重症を負ったとか。

恐る恐る近づく。
眼が合い
ぎょろりと睨まれる。
足の先から脳へと
戦慄が走る。

獲物を追うときの速度は
秒速6mに達し数十キロ走り
数日間の追跡を行う。
唾液には多種類の
腐敗細菌が
棲んでいて咬まれると
敗血症を起こし
短時間で絶命。



国立公園のレンジャーが
卵の殻を投げた瞬間
2頭が殻に飛びつき激突。

長く青白い舌を出して
互いに咬み合い捻り倒そうと
巨体をくねらす。

額に皮膚の変形した
第3の慧眼を持つ。
このセンサーは脳に繋がり
闇の中でも太陽の動きを
察知し活動時間を知る。

実際にコモドは頭もいい。
サンディエゴ動物園での
実験でコモドは6までの数を
認識したと言う。

シパダンで出逢った
大蜥蜴なんぞ
コモドに較べたら赤子。
激  突!



ピンク珊瑚
Madracis asanoi

コモド諸島にしかないという
ピンクの砂浜は
このピンク珊瑚が砕け
形成されたとされる。

赤い珊瑚は水深200m
辺りに成育し珍重されるが
ピンク珊瑚は
聴いたことが無い。

潜ってみてもそう沢山
ある訳ではない。
この珊瑚の砂も浜の色に
影響を与えているだろうが
島を形成する鉄分が
ピンクの主な原因だろう。
ピンク浜
そう思って満潮の浜に上陸。
干潮時には見事なピンクが
広がるそうだが
見た限りピンクより赤っぽい
鉄の色に見える。

だが鉄分だとすると
この浜だけ赤いのは理に
合わない。
他の島の浜も同様に赤く
なってしかりである。

そうなるとやはり
悠久な年月をかけて
珊瑚が創り出した
稀有な色彩なのか?



海林檎の
開 花
Sea apple

世界の珊瑚海を潜って
227本目にして初めて
目にしたSea apple。
その感動すべき日の
データを以下に記そう。

07年4月24日(火)曇
場所: コモド諸島
リンチャ島(航海図bT)
DVサイト:Canibali Rock
(人肉を食う岩との意)
Time in:8時33分
Time out:9時17分
潜水時間:44分
水温:24.3度
潜水最大水深:22.6m
平均潜水水深:11.8m
透明度:10m
タンク気圧:210〜60
ウエイト:3kg
スーツ:5mm
残留窒素:5/9(黄警告)
上昇速度違反警告:3回
コメント
《1》 何しろソフトコーラルが
 美しい。透明度が
良かったら最高。
《2》 とても寒い。登山用下
   着を着ていて正解。

海林檎は
棘皮動物門海鼠網
つまりナマコの仲間。
どうもそう珍しい訳では
無いらしく
日本の水族館でも
見られるらしい。
だが此れほどまでに美しい
海林檎はコモドならでは。
まるで宝石壷のよう。



私はだ〜れ?

この海の羊のような
海牛のような
見たこと無い奴が
ごろごろしている。
図鑑で調べること3週間。

しかし正体は掴めない。
敢えて一番近い生物を
こじつけるなら原索動物。

脊椎動物と無脊椎動物を
繋ぐ原索動物の中の
ホヤやサルパ等を含む
尾索動物亜門に
エボヤが居る。
しかしこんなに立派な
触覚は無いし・・・
空飛ぶ絨毯
Pseudobiceros
gloriosus


ついに捉まえたぞ!

ジパダンで初めて見た時から
この空飛ぶ絨毯・平虫を
撮ってやろうと虎視眈々と
チャンスを伺っていた。
何度か遭遇したものの
いずれも逃げられてしまい
碌な画像は無い。

飛び立たないように
そっと近づく。
今まで見た平虫とは比べ物に
ならぬ美しさ。
世界的に知られた
水中舞踏家
スパニッシュダンサー(帝海牛)
より華麗な舞を見せるかも。




瀬戸竜宮海牛

Nembrotha
purpureolineata

一体この海の潮は
どうなっているんだ?

海牛の写真家・殿塚孝昌は
こう述べている。
《コモド島の周りには常に
速い流れの潮があり
大変危険なスポットが多い。
何とか潮の流れの無い
場所を選んで潜るか
多少の潮の中を
潜って行き岩陰に隠れ
潮をやり過ごして潜る
ケースがほとんど。
そんななか潮に隠れて
岩場の影に辿り着いて
見つけたのがこの写真
海牛撮るのも
命がけである》


その殿塚氏の
貴重な写真より私のこの
写真の方がどう見ても
良く撮れていると
自画自賛したくなる出来。

この竜宮海牛に
出逢えただけで僥倖なのに
なんと藍筋竜宮まで
居るではないか!

速い潮の流れが
ダイバーを遠ざけ
この海の宝石達を
生んだのであろう。

藍筋竜宮海牛

Chelidonura
varians




蛙 魚
Striated flogfish

灰色のビー玉のような
眼が判るだろうか?

眼の周りに
白いアイシャドーが
描かれているので直ぐに
『いざり魚』と判る。
そうそう「いざり」は差別語。
つい最近『蛙魚』と改名
されたばかり。

足が生えていて
本当に海底を歩くのである。
フィリピンの珊瑚海では
沢山の蛙魚を目にしたが
それ以来あまり眼には
していない。
久しぶりの再会である。

鼻髭うつぼ
Ribbon eel

スケスケで何ともピントが
合わせ難い。
青のボディも黄色い嘴も
鼻先の髭も半透明。
十数枚の写真を撮ったが
どれもピンボケ。

アップするの止めようと
何度も思ったが我がHPには
一度も登場していない。
敢えて載せたが肝心の
鼻先の髭が縁処理で
消えてしまった。
これじゃ意味無いな。




こぶしめ
Cuttle fish

烏賊の船と呼ばれる
石灰質の貝殻(甲)を
体内に持っているので
甲烏賊とも言われる。
胴は楕円形で
大きさは16cm程。

ダイバーが近づいても
動ぜず目玉をぎょろりと
剥いて睨む。
動かないので撮り易いが
実際撮ってみると
鼻髭うつぼのように
ピントが合わせ難いのだ。
これも十数枚撮ったが
眼は瞑られややピンボケ。

肉厚で刺身にしたら最高!
深夜の宴会

夜中に甲板に出たら
釣をしていた甲板員の
トゥリモーが眼で合図する。

視線の先に目を遣ると
甲板には釣り上げられた
烏賊が蠢いている。
透明なボディがやや青みを
帯びて輝いている。

こりゃ即刺身にすべし!
寝静まったキッチンに行き
早速調理する。
山葵と醤油を探し出し
さっきまで一緒に
呑んだくれていた数人と
獲りたて刺身で呑み直す。

鰹が釣れた日は鰹の刺身
で一杯と、クルージングの
醍醐味を日々満喫。




茜花鯉
Peach fairy basslet

体内細胞に残留した窒素を
抜くために水面下5mで
3分間停止を行うが
これは唯
ダイブコンピューターとの
にらめっこで面白くない。

ところがここコモドでは
水面下5〜6mの珊瑚礁が
大変美しく3分停止が
全く苦にならない。
停止する必要が無く
華麗な熱帯魚と戯れて
いればいいのである。

群れ舞う熱帯魚の主役は
この茜花鯉である。
特にこの雄の背鰭の
婚姻色は鮮やか。
背黒蝶々魚
Saddle butterflyfish

いつも目にする蝶々魚と
気にも留めていなかったが
実はこれ意外と珍しく
中々撮れないとのこと。

もう何回かこのHPでもアップ
してると思い過去の画像を
チェックしたら
魚の動きが速くて
ピンの合ったものが無い。
これもピンは合っていないが
見られなくも無い。

眼に幼魚の黒帯が走る。
成魚になると黒帯は消える。
背鰭3〜6番の軟条が
糸状に延びている。
これが同定の鍵である。





ヒンズー
創生神話
ケチャック・ダンス

バリ島の南
バドゥン半島の西端に在る
70mの断崖絶壁。
インド洋の荒波に洗われた
絶壁の上にはヒンズー教の
ウルワトゥ寺院が建つ。
ここで今回の旅の
エピローグを迎えた。

断崖絶壁に建つ寺院
大海原に沈む真っ赤な空。
最高の演出効果を狙って
始まる神秘的な
ケチャクダンスは
世界の注目を浴び今や
バリでの崇高な舞踏芸術。

広大無辺のインド洋に
真っ赤な太陽が
沈み始めると
絶壁上の屋外石舞台に
《チャチャチャ》と
男達の呪文のような声が
流れ始める。
創生神話の開始である。

最もダイナミックでユニークな
パッフォーマンスの展開は
トランス状態に陥った
男達の火の舞踏で
オーガズムに達する。

男達は素手で火を投げ
素足で火の輪を走る。
漆黒の闇の中で
悪の大王に捉われた
ラーマ王子の妃シータの
叫びが暗喩される。
叙事詩ラーマーヤナは
深い闇に閉ざされる。

それはワーグナーの歌劇
《神々の黄昏》











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