ヤップダイビング

珊瑚海・生命への旅

            珊瑚海・・・・・・・もう1つのヒマラヤ

其の12




Yap Maap Is
        
撮影日:2007年5月  場所:ヤップ諸島    
  

撮影・編集:坂原忠清・村上映子

 

21 ヤップ(ミクロネシア連邦)

                                  

相対評価・・・《》最高、《》良い、《》並、《》やや悪い、《》悪い
珊瑚の成育 透明度
魚影 4
静けさ(ダイバー数)
周辺環境(汚染等)

総合評価・・・《



マンタ訪ねて三万里!
パプア・ニューギニア、パラオ、ポナペ、モルジブ、ニューカレドニア、コモド諸島と
マンタを追ってのDVが続いた。
だが、いずれもマンタの影であったり、被写体が遠過ぎたりで
マンタとの会話なんて程遠い出逢いでしかなかった。

ところがヤップは凄いのだ。
マンタ谷での8DV中に7回もマンタに遭遇。
それも眼前までの大接近で鰓に出入りするベラまではっきり見える。
どうもヤップのマンタはダイバーを
仲間と勘違いしている節があるようだ。
多分世界で一枚しか居ない、背面まで白い銀マンタにも出逢った。

遠浅の海の光が広大な海全体を宝石にして究極の煌きを演出する。
朝も昼も夕べも夜でさえ見飽きることがない。
マープ島・オチョラップの海の煌きにすっかり魅せられた。

なんとそれだけではない。
満月の晩に大量の陸蟹が浜辺に押し寄せ産卵準備。
地元スタッフと共に大きな蟹と格闘し大漁。
その夜のビアの摘みは極上の蟹、しかも食べ放題。





来たッ!!

虚無から希望が
生み出されるように
無から存在が
誕生するように
マンタは深海の漆黒から
徐々に
微かな影を現す。
虚無の影は
無の影は
海空に光り輝く太陽によって
漆黒の影を刻印される。

虚無が暴露され
無が正体を晒す
この瞬間を
私はいつだって
待ち焦がれている。



虚無の詩人

最大で横幅8m
体重3tにも
達するマンタは
大洋の
優雅なる舞姫であり
時と空間の漆黒を
謳う詩人。
闇を背面に背負い
海底に潜行すると姿は闇に
溶け込む。

浮上すると腹面の白は
海空の白に同化し
光となって天空に
消え去る。


マンタはその巨体全体を
虚無と化し
無の詩(うた)を
忍びやかに口ずさむ。



頭 鰭

眼に連なる
胸鰭の変形した鰭は
頭鰭(ずびれ)と呼ばれる。

舵取りとなり
アンテナとなり時には
捕食の為の武器となる。

直進する時には
頭鰭を前方に突き出す。
情報を得る為にか
巻きつけて円筒を作ったり
プランクトンを
捕食する際には
スプーンのように曲げる。
優しい瞳

思わず瞳に見入った。
菩薩のような
優しさと憂いを湛えた瞳


存在に
内在する生老病死を
超越しようと宮殿を脱し
無への旅に出た
釈迦牟尼の瞳。
存在の彼方に
虚無を見てしまった瞳。

虚無の詩人は
どのようにしてこの瞳を
手に入れたのであろうか?



頭上を覆う

天空の光を
断ち切るように
マンタが急接近する。

深海の闇に溶け込み
海空の光に同化する
虚無の詩人は
近くにあっても
鮮明画像を提供しない。

先ず
あらゆる態勢をとっても
無重力下に等しい海中で
カメラが構えられるよう
カーレント・フックで
体を海底に固定する。

カメラを天空に向けると
センサーが光を捉え
フラッシュが発光しない。
マンタを仰角で撮るには
強制発光にせねばならない。

更に広角レンズで
撮影部分を切り取り
レンズとライトの交差点が
被写部分に当たるように
ズームする。

村上が後方で
坂原の悪戦苦闘をパチリ。


(撮影:村上映子)



クリーニング
     ステーション

根と呼ばれる
前方の三角形の丘は
マンタの風呂場である。

丘の山頂で
暫しホバーリングし
ここで掃除屋の
ベラや海老を呼び寄せ
身体に着いた寄生虫を
食ってもらう。

似たような丘は
何処にでも在るのに
この丘にしか
マンタは来ない。
深海とこの丘を結ぶ
チャネルと呼ばれる谷が
海底に刻まれ
その谷を遡るようにして
マンタはやって来る。

つまりこの丘は
谷の奥に聳える唯一の
最高峰なのだ。
となるとマンタは
海のアルピニスト。

現地の漁師は
この谷を『マンタの谷』
Valley of the Rays
と名づけた。



(撮影:村上映子)



これ俺の名前!

右の頭鰭を折り畳み
左の頭鰭を丸め
口を閉じ鰓列も閉じて
胸の文様を示す。

背面が漆黒で
腹面が白いマンタの
同定は難しい。
しかしこの胸の文様は
それぞれ固体によって
明確に異なる。

従ってこの文様さえ
覚えれば固体の識別は
可能である。
ぐんぐん迫る。
広角レンズを最大に開き
強制フラッシュを焚く。

光がマンタの腹を捉える。
逆光の中で初めて
光がマンタの文様を
鮮やかに
浮かび上がらせる。



頭鰭変幻自在

5本の鰓列を
徐々に開き始めた。
鰓に潜り込んで
寄生虫を食べようと
ベラが集まって来る。

フラッシュの閃光に
レンズ手前の
プランクトンが光り
画像全体が
無数の点に覆われる。

これでは鰓に侵入する
ベラを鮮明に捉えることは
出来ない。
思い切って
フラッシュの的をを外す。
白い翼が薔薇色に染まる。

象の鼻のように
巻き上げられた頭鰭の先端に
光がヒットし
剣のように白く輝く。

滑らかな
優しい光に覆われて
マンタが優雅に舞う。



群舞と太陽

巨大な漆黒の翼が
海の空を断ち切り
悠然と舞う。

三角翼を大きく撓(しな)らせ
頭鰭を
天空に突き立て
背面を下にして
瞬時に回転する。

針のような長い尾が
回転の軌跡を追うように
輪を描く。
唯々、生命の神秘に
圧倒される。
耳を欹てる。
漆黒詩人の詩が微かに
聴こえる。

あー、でも
音色しか聴こえない。


虚無が暴露され
無が正体を晒す
この瞬間を
いつだって
待ち焦がれているのに
音色に潜む詩が
私には解読出来ない。

なぜ
漆黒の虚無から
存在は
生み出されるのか
お前は謳い続ける。

存在の本質は
無であると囁き続ける。

若しかするとお前は
虚無そのもの?



鶏冠竜宮海牛
Nembrotha cristata

そんなにマンタばかり
見ていないで
こっちを向いてご覧。

その辺で見かける海牛とは
ちょっと違うんだよ。
今まで見たこと
無いでしょう?

キンピカ海牛ばかりの
昨今だけど
渋いドレスでばっちり
決めて、どう?
Pseudobiceros gloriosus
Newman & Cannonが撮影発表

何しろ発見者の名前
ニューマンとキャノンしか
出ていなくて
あとはわけの判んない
学名プセウドビセロスとしか
書いてないんだから
おい等もきっと
珍しいんだぜ!

コモドで登場した平虫
学名は同じだけど
較べてごらんよ。
そら、やっぱり
違うだろう?



縦縞巾着鯛
Emperor angelfish

明けても暮れても
マンタばかり。

マープ島の反対側
西のミール・チャネルへ
遠出をしてみた。
ここは冬場のマンタサイト。

ルムング島との狭い水路を
抜けて太平洋から
フィリピン海へと出る。
透明度が上がり
見慣れた魚が目に付く。

幼魚時には
色キャベツの断面のような
文様の縦縞巾着鯛
お出迎え。
三筋蝶々魚
Melon butterflyfish


頭部にある3本の黒帯が
名前の由来である。

珊瑚のポリプを
主食にしてるので
造礁珊瑚が無い所では
棲息できない。

プランクトンの
ぼやけた星々を背景に
宇宙船のように
ぽっかり浮く姿を
撮ろうとカメラを構えたが
意外と素早しこくて
ピントが合わない。



究極の煌き

遠浅の海の光が
広大な海全体を
宝石にして
究極の煌きを演出する。

朝も昼も夕べも
夜でさえ
見飽きることがない。
マープ島・オチョラップの
海の煌きに
すっかり魅せられた。

リゾートも4棟8室しかなく
いつも人影無し。
この人口過疎地で
大異変が起こった。

日本の首都圏で
今蔓延している麻疹が
DVショップを直撃。
予防接種して安全なはずの
村上も帰国後
犠牲者に。

世界は狭くなったのだ。



満月の陸大蟹
Land crab

満月が皓々と海を照らす。
黄金の光が
モザイクのように
漣を捉え
ながーいアーチを描く。

この光に誘われて
森の大きな蟹が
大移動を始めた頃。

外に出てみると
居る居る!
幾列にもなって
道路を横切り
浜へまっしぐら。

犬が吠え出した。
大きな鋏で脚を挟まれ
逃げ惑っているのだ。
満月の晩には
大量の陸蟹が
浜辺に押し寄せ
産卵準備をすると
聴いてはいたが
此れほど沢山出てくるとは!

地元スタッフと共に
大きな蟹と格闘し大漁。
その夜のビアの摘みは
極上の蟹
しかも食べ放題。

この大きな脚は
身が締まっていて
実に美味。

ヤップ最後の夜は
唯ひたすら蟹を食らう。



さらばマンタ!
Manta ray

サイパン、パラオ、ポナペ
グアムと巡ったが
ミクロネシア連邦の
固有文化に魅了される
事は無かった。

スペインからドイツに
売り渡され
第一次大戦後に日本に
委任統治され
第二次大戦後に
米国に委任統治された
ミクロネシアは
百年以上にわたる
外国支配に終止符を打ち
1979年にやっと
独立を果たした。
しかし百年は長すぎた。

同じ熱帯域にありながら
パプア・ニューギニア、インドネシア、マレーシアなどに
見られるギトギトした極彩色の文化の残滓を
ミクロネシアは遥か以前に失ってしまったのだ。

しかしヤップのマンタのみは太古からの営みを繰り返し
固有の生命圏で僅かな希望を語り継いでいるのだろう。
今度じっくり君の詩を聴きに来るからね。それまで
さようならマンタ君!

(撮影:村上映子)



マンタ体験記

村上 映子

 ヤップの海ではほぼ確実にマンタに出逢える、と聞いて何とか行ってみたいと思った。

 午前中に成田を発ち、乗り継ぎを繰り返しようやく目的地に着いたのは翌日の明け方近く。おまけにヤップは激しい雨であった。

 夜明けごろにやっと寝台に潜り込んだのに、7時過ぎには起こされた。無理やりこじ開けられた眠りの深さからなかなか回復できず、身体中が重い。鉛色の雲とねっとり暗灰色の海が目の前に広がる。今日潜るなら2時からとのことせっかくだからやはり潜ろう。

 久々のダイビング、ボートはたちまちポイントに着き、他に誰もダイバーのいない海に飛び込む。水中は透明度は悪く、マンタポイントでじっと待つが、結局、マンタは現れない。

 そんなもんだろうと初日からは落胆しない。少し天気が回復してくると、海の彩が実に美しい。

    2日目
 一本目からマンタだ。最初にマンタが現れたときは私が少しでも動いたら逃げてしまうかとほとんど固まってしまった。すぐ傍らを通り過ぎても、とてもカメラを構える余裕はない。
 ああこれがマンタなんだと緊張と感動の一瞬だった。

     3日目
 快晴の朝、私達はボートで海に出るとまるでエメラルドの宝石の中に落ち込んだのかと思うほどで、空へと連なる海のグラデーションの妙なるさまに恍惚となる。
 アレックスの後をゆっくり泳ぎ、マンタステーションへ。
この日午前の二回のダイブ中マンタが目の前にいない時間がなかった、といっても言い過ぎでない。

 それも同時に何匹もが舞い、多いときは4匹もが視野の中にいた。圧巻だ。他にもダイバーが大勢いたにも拘らず、マンタに見とれ他の人間のことは眼中にない。
 マンタは灰色の空間の向こうからある瞬間、まるでベールを脱ぐように不意に現れる。じっと目を凝らしていると、透明な闇が広がっているかと思われる無彩色の海中。

          帰国後の麻疹発症
 熱にうなされ視界の総ては灰色の世界。無音の闇、気配も無く不意に傍らに現れる巨大な影。逆三角形の大きなマントがゆっくり優美に繰り返し翻る。送られてくるメッセージが読み取れない。確かに彼は何かを伝えようとしているのに。

 身体中を覆う赤い判読不明のメッセージ、これがマンタからの通信なのかしら。確かに昔麻疹に罹った筈なのに、ヤップから私の体へ忍び込んだウイルスがいるらしい。ほんとに麻疹?東京の雨とも思えぬ程に強烈な降り方をする雨が止み、今朝の緑はヤップの島のジャングルの緑にも負けぬ輝き。

 あり得ないようなマンタからのメッセージは、もしかすると地球温暖化の予想以上の深刻さを訴えているのかなー・・なんぞと思ってみる。この世のものとも思えぬ美しさだったヤップの海の色。神秘的美しさに息を呑んだ白いマンタとの出逢い。掛けがえのない美しい者達が、聞こえない悲鳴を上げ続けているのではないだろうか・・・



《F》 A la Carte




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食虫草 マープ島の森 石のお金 森の花 2千年前の石貨
村の集会場 食虫草の花 遠浅の浜辺 青海亀の食事 マンタの性器
六線奴の食事 鰐ゴチの眼 鰐ゴチ 海牛の触覚 毒ウツボ
マンタ群舞 糸の尾 頭上の太陽 マンタの頭鰭 海月蝶々魚
巨大な鰓 クリーニング場 稀有な白マンタ 交尾を狙う










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