珊瑚海其の34の2・・・・・・・もう1つのヒマラヤ

 
仙人日記
 その122の42016年  
 Contents
《A》  哀しみのアボリジニ
《B》  レンタカーで突っ走れ!
《C》  ケアンズからウルル山へ
《D》  ウルル山逍遥
《E》  グレートバリアリーフ
 BGR & Uluru
 
撮影日:2016年1月20日~25日
場所:ケアンズ、ウルル・カタジュタNP
撮影&編集:坂原忠清

《B》 キャプテンクック・ハイウエーを、レンタカーで突っ走れ! 
ウルルの曙光オーロラに込まれる仙人
1月24日(晴) 夜明け5:49分 Sunrise Viewing Area

アボリジニの怒りの血潮を掻き分け、怨念の血みどろに左腕を載せ右腕を突き出す。
右手のグラスに注がれているのは修羅のエッセンス。
強き者アングロ・サクソンが弱肉強食の原理に従い弱きアボリジニを虐げ、虐殺しただけの事だったのか?
と、修羅のエッセンスは問いかける。

1859年の≪種の起源≫が生命の修羅像を明らかにするや、24年後の1883年には
≪種の起源≫を基にフランシス・ゴルトンが「優生学」を定義。
1930年代、エルンスト・リューディンは優生学的な言説をナチス・ドイツの人種政策に融合させる試みを開始。
ナチスの大虐殺への途はこうして開かれてしまった。
人類史はより強き者の、種を発展させる為の殺戮の連鎖でしかないのか?

修羅のエッセンスを呑み干したなら、生命の抱える修羅の哀しみを頷けるのであろうか?



場末の飲み屋の様な第3ターミナル

冷えた体を温めるには呑むしかない。
第1、第2ターミナルと異なり格安航空専門の
第3ターミナルは若者が多く、
居酒屋風のフードコートが、
450席のフリーテーブルをオープン。
早速コンビニでビア、おでん、サンドイッチなど買い込んで
≪ボンボヤージュ!≫
そうそう格安航空は機内食が出ないのだ。
第3ターミナルにはA$の両替所がないので、
第2で両替してからビルを出て第3へ向かう。
第2ターミナルから第3へシャトルバスが出ているのだが、
反対方向からぐるりと遠回りして、
時間も20分近くかかるので、歩いた方が早い。
寒風吹きすさぶ歩道を、コート無しで震えながら歩く。
 
格安航空LCCのJetStar

雨季なのに快晴
1月21日(晴) 4:33分

夕食も出ないのだから
当然酒など出ない。
先ほど呑んだビアの勢いを
借りて導眠剤を服用し、
ベッドは無いかと
ウオッチング!

満席とかカウンターでは
云ってたけど、
あれ、後部座席にベッドが!
そうか満席なのは
HISが抑えた予約席だけか。

夜明けのケアンズ空港
耳栓をしアイマスクを掛け、
マスクをして就寝準備。
3つの座席のアームを上げると
そら出来たぞ特製ベッド。

こうなると最早ファーストクラス、
ビジネスクラスなんて
目じゃない。
楽々寝台特急便に早変わり。
目覚めたら真冬の東京から
真夏のケアンズ。

目惚け眼を擦って
タラップを降りるとありゃ、
雨季なのに快晴!
やったー!


ケアンズ→クランダ→マリーバ→マウントモロイ→
モスマン→オークビーチ→パルム・コーブ→ケアンズ
 

オーストラリアを肌で感じるには、、車で走ってみるに限る。
なんぞと無知蒙昧な仙人はさしあたりケアンズからウルル山までのレンタカーによるドライブを考え距離を調べた。
何と直線距離で3177km、北海道から九州までの2倍近くあるでは!
時速120kmで1日8時間ぶっ続けで走って3.3日、つまり実際、道路距離はもっと長く、
荒野を走るのであるから1週間はかかると考えねばならない。




Hyundai Accent 1500ccを選ぶ
真っ赤なポルシェ
1月21日(晴) Avis

「先生の車は何!」
と授業中に訊かれるたびに
免許も持ってないのに
「真っ赤なポルシェだ!」と
諧謔を弄していたのを
不意に思い出し
安物韓国産の真っ赤なアクセントで
キャプテンクックハイウエーを
走ることにした。

キー返却ボックス
生徒達に
諧謔の中身が伝わっていたかと
なると些か疑問である。
だが真っ赤なポルシェが
仙人にとって≪下司の極み≫を
意味すると密かに
理解していた生徒が居たのに驚いた。

後日山荘を建て仕方なく免許を
取ってからその生徒を
乗せて山荘周辺の山を走っていた時、
更なる諧謔を仕掛けてみた。
「どうして此処に山荘を造ったかって?

ヘンリーロス展望台でバイク野郎と

そりゃ此処は免許が要らないからさ」
すっかり信じて
帰宅後、親に話したとか。

そんな仙人が豪州をレンタカーで
突っ走ったと云ったら、
如何なる反応を示すのか?
そんなことを思いつつ
長大なキャプテンクックハイウエーを
走っていたらバイク野郎に遭った。

「ドイツから来たフェルディナントだ、
宜しく!」 うっそー!
まさかあのポルシェの創始者、
フェルディナントか?

 
バスケットファーン
 
ヘンリーロス展望台からのGBR
 
スタッグホーンファーン


キャプテンクック・ハイウエー

そこであっさり計画放棄。大幅に計画縮小し、「世界一の長さ」でギネスブックに載っている
1万2千kmもある国道1号線・キャプテンクック・ハイウエーを、レンタカーで北に向かって走ることに変更。
先ずはスミスフィールドのロータリー(ランドアバウト)から山道のケネディハイウエーに入り、
熱帯雨林の広がるクランダを目指す。

ここから更に大分水嶺山脈(Great Dividing Range)を越えて、2mにも達する巨大な蟻塚が散在するマリーバに出る。
其処から北上し左手にミッシェル湖で遊ぶ野鳥を眺めながらモスマン溪谷まで90kmを走り再び熱帯雨林。
南下しキャプテンクック・ハイウエーに戻り、東海岸に沿って走り、
ポートダグラス、ウオンゲッチ、パルム・コーブを経由してケアンズに戻る。




26mの恐竜化石・アロサウルス

クランダ博物館

 
化石だけでなく紫水晶も多し


巨大なLabradorite(曹灰長石)
原始地球のような
ラブラドライト

陳列棚から逸れた通路の闇の中に蒼く輝く球体。
目にした途端、これぞ原始地球の蒼と直感!

吸い込まれるような蒼。
斑れい岩、玄武岩など塩基性火成岩に含まれる
斜長石は多くはラブラドル長石
だと云うから曹灰長石は
正しく地球内部から噴き出された原始地球。

光をあてるとイリデッセンスという特有の
虹色の輝きを示す曹灰長石が
何故此処に在るのか?

確かカナダのラブラド半島で発見され命名され、
主な産出国はフィンランドの
ユマレだった筈。
ケアンズも特産地だったとは!

特徴は、光の屈折率の違う成分が
いくつも積み重なって
光の干渉が起きることと、
磁鉄鉱が内包物として混じることで
石が虹色に光って見える。


おうし座にある
超新星残骸
1994年のハッブル宇宙望遠鏡による画像

いや、違う。
原始地球よりもっとそっくりな天体があった。
そう、カニ星雲!
電流や磁場に沿って網目状に広がる
フィラメント状の発光領域は、
カニ星雲とそっくりではないか!

気体を構成する分子が電離し
陽イオンと電子に別れて運動している状態の
プラズマに覆われたフィラメント。
ラブラドライトの
蒼い煌めきの上を走るフィラメント。
偶然と云うには
余りにも似すぎてはいないか?

カニ星雲の中核には、
太陽と同じ質量を持ちながら半径は
僅か10kmと云う中性子星が、
可視光線を放ち、
星雲を蒼く輝かせている。
光源を持たないラブラドライトは、
外部から照らさない限り、
蒼く輝くことはない。

ラブラドライトは星の死と誕生を
体現しているのだろうか?

カニ星雲Crab Nebula 、M1、NGC1952 6500光年



日本語対応のカーナビは殆ど役立たず

走行距離は400kmでオーストラリアを一周するキャプテンクック・ハイウエー1万2千kmの僅か30分の1。
これじゃとてもオーストラリアを肌で感じるには程遠いが、
熱帯雨林と山脈越え、半乾燥地帯から砂漠の蟻塚、湖の野鳥の群れと一通り体験出来るお手軽ルート。
しかし日本語対応のカーナビは殆ど役立たずで、目的地検索は住所のみ。

観光地の地名や電話番号では目的地を指定できず、ガイダンスはイギリス英語。
進行方向を常に上に向けるなんて出来ないし、画面が小さくて見えない。
モスマン溪谷の奥地に入り込んだ時は、此処でこの役立たずのカーナビが、
更に壊れて機能を失ったら最早ケアンズに帰れないのではと不安に成ったほど。

 



嘗て海であった。日本語で三葉虫と展示

地下博物館の外には150種もの蝶を飼育している
蝶のサンクチュアリがあり、
化石を観てから山荘天井裏の蝶標本の
ある部屋に行く気分。
きっと此処は山荘オーストラリア別館なんだな。
と勝手に納得。
懐かしいアンモナイトや海中生物の化石。
山荘の本箱や棚の彼方此方に、
さり気なく置かれている化石と同じでは!

 
アンモナイト等の頭足類


何じゃこりゃ?

2千羽の蝶を飼育

魅せられた天体モバイル

文化遺産市場(Heritage Market)の入り口に、妖しく波紋を発するオブジェ。
風にそよぐ度に波動は形を変え、重力波のように空間を歪めるような錯覚を引き起こす。
観た途端、遥か離れた北半球の山荘から声が届く。
「仲間にしてあげようよ。そいつきっと山荘に棲むために作られた天体オブジェなんだよ」
・ 
まるで大人と子供では!2メートルを超える大男が満面に笑みを浮かべ、のっそり現れ
「いらっしゃい!Geo Mobile です。110㌦でーす」
ステンレスの平鋼に切り込みを入れただけの工作で、切り込みを押し込んで変形させ立体にする。
極めてシンプルな作品だが、宇宙の本質を雄弁に語り掛けるでは!
気に入ったぜ! 



次は熱帯雨林を越えて

クランダからマリーバへ
僅か1km程の距離で
目まぐるしく速度制限が変わる。
急カーブであっても
制限速度が110kmには吃驚!
しかし車体が飛び出さないように、
道路は水平でなく
かなりの勾配が付けられ
まるでサーキット場。
130kmで飛ばしていたら、
後続車がブーブー鳴らし煩い。
半砂漠地帯で直線道路。
道路標識は130kmだが高速道路
でもないのに、どうも
此処では150km程で走るのが
当たり前らしい。
まー急ぐ旅でもないし、
お先にどうぞ!

急カーブなのに速度制限110km

追い立てる車を先に


でっけー!
巨大蟻塚が次々に現れる


 グレートバリアリーフの広がる
南太平洋を背に
熱帯雨林の山脈を突き抜けると
半砂漠の大地が延々と続く。
道路の両側には
巨大な蟻塚がぴょこぴょこ。

今は雨季なので
大地には緑が観られるが、
4月から11月までは、
カンカラカンの砂漠状態。
蟻だって暑くて堪らん!

そこで蟻さんは考えた。
クーラーが欲しいぜ!
さしあたり日陰と空気の抜ける穴。
地下は駄目さ。
空気が通らないから、
連日の熱暑で
地下は熱したフライパン。


蜜を蓄える大きな蜜壺蟻(Hormigas Meliferas)  
アボリジニの大好物

砂漠で生き延びるには様々な戦略が必要なんだ。
こいつは蜜壺蟻といって、生きながらにして貯蔵庫の役割だけを担っている。
働き蟻が集めて来た蜜を受け取り、お腹に蓄える、
この蜜壺蟻が沢山いる程、蟻の王国は巨大になり多くの戦士たちはこの蜜をエネルギーにして
他の巣を襲い領土を拡大していくのさ。

勿論アボリジニはこの蜜壺蟻のことをよく知っているから
掘り出しておやつ代わりにして食べちゃうんだとさ。



ホンじゃ廃品利用と云う事で
地下を掘った土を
巣の上に盛り上げて日陰にして、
更にその土を高く盛り上げてと。

しかしこれだけじゃ空気は
通らないから
この塚に穴を開けて空気の
通り道を造ったらどうだ。

と云う訳で出来上がったのが
この巨大タワー。
平屋だと太陽の熱射をもろに受けるから
出来るだけ高くせねば。
その為には土に唾液を混ぜて
塚のてっぺんまで運び、
上に上にと土を積み上げていく。

で、どうだい、こんなもんで!
生きるって凄いだろ。
これほどまでの
建造物を造ったからこそ、
小っちゃな蟻は
過酷な大地で生き延びることが
出来たんだ。



カササギ雁 Magpie Goose
ミッチェル湖東
カササギの自己認識能力

蟻塚の林立する荒野を南西に向かって走り続け、
次なるターゲット、マリーバ・ロック・ワラビーの生息する
グラナイトゴージネイチャーパークを目指す。
荒野を走る道は一本だけなので迷いようが無いと、
のほほんと130km程で飛ばしていたが、
それらしき施設は影も形も無し。

このカーナビ、電話や施設名を入れても無効で
唯一住所入力だけが頼り。
ところが自然公園には住所表示が無い。
マリーバで彼方此方ぐるぐる探し回るが、
希少種ロック・ワラビーは何処に?
せめて看板があればと、目を皿のようにしてウオッチング。
この国、徹底して看板が無いのだ。


カササギ笛烏 Piping Shrike
ホテル:リッジス・トレードウインズ庭

で、仕方なくミッシェル湖に向かう。
日本では上野動物園でしか
観られぬ貴重な
カササギ雁が群れているので、
立派な観光地になっているかと思いきや
なーんにも無い。

管理人小屋くらいはあるのではと
道なき湿地帯を泥濘に
足を取られながら湖に近づく。
やっぱ、なーんにも無い。
これでいいのだ。
肝心のカササギ雁は
人馴れしてなくてカメラを向けるや
さーっと飛び去ってしまう。


カササギ雁 Magpie Goose ミッチェル湖草原

実は仙人に取ってもカササギは
幻の鳥なのだ。
ベガとアルタイルの間に流れる
天の川に翼を広げ、
橋を架けるカササギが
≪銀河鉄道の夜≫に出て来るが、
その時初めてカササギを知ったのだ。

それ以来、どんな鳥なのか
とても気にはなっていたが、まさか
ミッシェル湖に居たなんて!
カムパネルラが
「からすでない。みんなかささぎだ。」
叫んだカササギより大きな
カササギ雁ではあるが。

 
腰黒ペリカン Australia Pelicanke
トリニティ湾
 
カササギは哺乳類以外では最大の脳を持ち、
自らと他者の違いを認識出来る。
動物の認識力を確かめるミラーテストで、
鏡に映った自分を観て、カササギは見事自らを認めたのだ。

首の黒い部分に白いテープを巻いて鏡を見せる。
カササギは鏡を観て異常に気付き
嘴でテープを剥がそうともがく。
次に黒いテープを巻いて鏡を見せる。
カササギはテープを巻かれていることに気付かない。

このテストで示される知能は人間の3歳児に相当するとか。
自己認識能力には大脳新皮質が関わっている
とされているが、鳥類は
大脳新皮質をもっていない。
ただカササギは大きな脳を持っており、哺乳類とは
異なる進化で高い
認識能力を得た可能性があるとのことらしい。
(参照: by hylom
 
冠鳩 Blue crowned pigeon
駱駝牧場



大分水嶺を越えて再びGBRへ

東海岸に賽の河原出現
 船に乗るためには六文必要で、
これが無ければ死者はいつまでも
この世とあの世の入り口を
さまようこととなる。

しかし石を高く積み上げれば
再びこの世に帰れる。
アングロサクソンに狩の対象とされ
撃ち殺されたアボリジニは、
六文銭も持たず、
ただ石を積み続ける。
どう見ても倒れるしかない
この石積み。
その上に更に1つ、石を積んだ。
これでこの世にお戻り。

さあ、手を放すぞ!
ほら、倒れないでは。
あの日、水平線から突如現れた
巨大な船が齎した悪夢を
終わらせなくては!
 
不安定な無数の石積み
 
鰐が居て泳げぬ浜だとか



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