ラヤンラヤン・ダイビング

珊瑚海・生命への旅

            珊瑚海・・・・・・・もう1つのヒマラヤ

其の15




Borneo

LayangLayang
撮影日:2007年8〜9月  場所:ラヤンラヤン    

撮影・編集:坂原忠清


24 ラヤンラヤン(インドネシア)


                                   

相対評価・・・《》最高、《》良い、《》並、《》やや悪い、《》悪い
珊瑚の成育 透明度 魚影 静けさ(ダイバー数) 周辺環境(汚染等)

総合評価・・・《



ボルネオ島北西のコタ・キナバルから遥か300kmの
南支那海の南沙群島に人口の島が在るという。
ベトナムとフィリピン国境の浅い珊瑚海を埋め立てて
海軍基地を造りマレーシアが自国の領有地として宣言したとか。

滑走路しかないその小さな島にDVリゾートを置き
週3便小型双発機を飛ばし
3月から8月まで珊瑚海を開放しているという。

深度2000mの海底から急峻に聳え立つ海底山の頂稜部に
楕円のリーフを描くラヤンラヤン。
長径7.5kmの環礁の春にはハンマーヘッドが群がり
島は海鳥の営巣地となっているとの情報。

シーズン最後、人影の少なくなった島に飛んでみた。



9M−LLA

見た事もない
妖しいプロペラ機が
待っていた。

尾翼の下が上下に開く
ショーツSC7
スカイバンだ。

簡易座席が15席
残りのスペースには床に
直に荷を置く。

所持者は海軍ではなく
得体の知れぬ
航空宇宙SDNBHD。

マッ、乗ってみるか。
コックピット

客席と操縦席に
隔ては無い。
両足でレバーを挟んで
操縦席に座ってみる。

ネパールのヘリのように
高度が上がると
外気が機体内に入り込み
気温が急降下する。
Tシャツ1枚では
寒くて堪らん。

これで途中に島1つ無い
海の砂漠を300kmも
飛べるのだろうか?



あれっ!珊瑚島だ

地図で見る限り
ボルネオ島から人工島まで
何も無い。
ただ広大な海の砂漠が
渺茫と拡がるのみ。

突然現れた珊瑚礁に
吃驚!
しかし形が不自然で
まるでサッカー場。

この島も浅い珊瑚礁を
人工的に埋め立てて
マレーシア領土にしたの
だろうか?

それにしては
全周の砂浜がおかしい。
埋め立てて浜を造るのは
技術的に難しい。

人口島現る
滑走路だけの細長い
翼のような島が
眼下に広がる。

遥か彼方まで渺漠たる
海、海、海。
正に絶海の孤島。

眼下の島の西部に
海鳥が棲み
中央にリゾートの建物が在り
東部にマレーシア海軍が
陣取っている。

楕円環礁の南東部に
島は位置し
環礁外洋が絶好の
DVサイトになっている。



標高差2千mの壁

富士山を海底に沈め
その火口の縁を
イメージすると
ラヤンラヤンの環礁が
つかめる。

山頂測候所が人工島で
そこだけが海上に
頭を出しあとは総て
海面下である。

ボートで火口の外側に出て
海に飛び込むと
ストーンと深海に落ち込む。

この深みに獰猛な
ハンマーヘッド(撞木鮫)が
やって来る。

世界の珊瑚海に
DVサイトは無数にあるが
ハンマーが見られるのは
僅か数箇所。

数十匹が乱舞する
コスタリカのココ島を始め
パプア・ニューギニアの
マダン、そしてここ
ラヤンラヤンがハンマーの
メッカである。

ハンマーの3大DVサイト
への第一歩をマダンに
記したが遭遇出来ず。

ハンマーを追って連日
深みに潜り
12本のDVを行うが
又しても遭えず。
次はいよいよココ島か?



銀亀鯵の舞
Big-eye trevally

えっ!
こんなに深いのに鯵玉?

水深20mあたりでの
鯵玉にはよく出逢うが
ここは水深40m。

玉になったり壁になったり
巨大モンスターに変化。
こうして更に大型の
敵からの攻撃をかわし
成長すると
90cmにも達する。
Big-eye trevally
鰓蓋上方に黒点

ゆっくり近づいて来る。
くるりとした目の後ろに
黒子が見える。
これが銀亀鯵の決め手。

尾鰭に連なる糸鋸のような
ぜいご(稜鱗)が
白銀の体側に黒線を引く。

大カマスのように
大きな群れで鯵玉や
円、渦巻きを成し
悠然と回遊する。

(パプア・ニューギニアより引用)



龍宮伝説
Big-eye trevally

夢でしか見られなかった
世界に吸い込まれ
魚の生命に同化する。

この銀亀鯵が
龍宮へのガイドである事に
何の異論も無い。

となるとこの先には
乙姫が
待っているのだろうか?
行ってみよう。

問題は乙姫との
悦楽の日々を過ごした
3年後の帰還である。
地上では700年の時が
過ぎ去っているのだ。

何故、時間の流れが
2つの世界で異なるのか?
童話を聞いた幼い心に
芽生えた
最初の疑問であった。

美から受ける快楽の持つ
業の深さは
惜しみなく時間を奪う。

そんな通俗的な回答で
有る筈が無い。
2空間の時の速度が
異なるには
特殊相対性理論が
絡んでいるに違いない。

浦島太郎を乗せた亀が
亜光速ロケットであれば
太郎の時間は遅れ
相対的に地球の時間は
早まるのだ。

そうだったのか!
海の中がもう1つの次元で
あるとの強烈な実感は
特殊相対性理論に
根ざしていたのか!

輪になり帯になり
次の一瞬
天女の衣になり銀亀鯵は
太郎の時間を
限りなく遅らせる。

遅れた時間は窒素を
血液中に累積し
そのままの状態で浮上する
太郎を殺してしまう。

地上に戻るには儀式が
要求される。
水面下5mで3分間停止し
血液中の窒素を
抜かなくてはならない。



夢梅色・珊瑚舞
Red-bellied fusilier

太郎の時を
遅らせるのは
銀亀鯵だけではない。

宙に舞う銀の光と呼応して
海底の珊瑚に
蒼い光が流れる。

この魚・夢梅色は
遅れた時の中で
宇宙の蒼を映し出すが
浮上してもう1つの
世界に至ると
梅色に変わるのだ。

玉手箱から立ち上る
早い時の流れを浴び
赤みを帯びた梅色になって
太郎のように
瞬時にして老いて
死んでしまうのだ。

美しい生命の光に
満ち溢れた龍宮伝説は
夢でしかなかったと
語る梅色。

美の悦楽の中で
太郎はふと
もう1つの世界に残してきた
両親に想いを馳せ
帰郷を決意する。

決意を知った乙姫は
ユメウメイロを
玉手箱に潜め
死の世界に
太郎を送り出すのだ。



姫天狗ハギ
Unicorn fish

壮観なユニコーンの軍団。
紅海のDVで初めて
見たときの驚きが甦る。

尾鰭の縁が白く
縁取られているのは
天狗ハギと同じで
区別が付き難い。

天狗ハギとの決定的な
相違は角基部からの
距離に有る。
角基部から口までと
目までの距離が姫天狗は
ほぼ等しい。
天狗は口までの距離が
目までの5倍程もあるのだ。
超長一角獣
Unicorn fish
口元だけを見ると
担任した生徒を思い出す。

一昔前《がんぐろ》化粧が
流行し唇を白く塗って
私かっこいいでしょとばかり
学校を闊歩してた《緑ちゃん》

こんな所で唇だけ
お目に懸かるなんて!
今どうしてるかな?

それにしても派手派手しい
《がんぐろ》とは
凡そ無縁な姫天狗ハギさん
どうして唇だけ
白く塗ったの?



限界深度を超える

DV前に変梃りんな
オリエンテーションがあった。

潜水深度40mを
超えてはいけません。
1度超えたら次のDVは
出来ません。
2度超えたら翌日のDVは
お休みです。
3度超えたら次の飛行機で
即帰国してもらいます。

空気ボンベを背負っての
DVは40mが限界で
これより深く潜ると
減圧不要の限界を超え
極めて危険である。
そんなこと頼まれても
やるはずがない。

ここのDVサイトは
一気に2千mの深海まで
落ち込んでいること。

深度40m辺りに
ハンマーヘッド鮫が出没し
興奮してつい深みに
嵌ってしまうこと。

透明度が高く
深さを感じさせない
海域であること。

どうやらこの3つが
変梃な警告の原因らしい。
ふふん!と
鼻で聞き流していたが
やってしまった。

簡単に42mを超えて
しまい仕方なく陸で読書。
充分窒素を抜き翌日
再び水深40mへ向かう。



受口一刀鯛
Blood spot squirrel fish

金目鯛目(モク)
一刀鯛科は
腹鰭に特徴がある。

腹部にある1棘の鰭には
7本の軟条があり
スズキ目より多く原始的な
特徴を示している。

受け口というのは
見て判るように口の下が
長くなっているのを
示している。

アイシャドゥーを
塗ったような目が何とも
可愛らしい。
二筋非売知
Doublebar goatfish 


このスラットボケタ顔!
フタスジヒメジ別名
オジサン。

英名は縞模様の山羊魚。
この《小父さん》と言う
日本名は何処の誰が
付けたのか?

目が合った途端
マウスピースを銜えたまま
笑い出してしまった。

泡がぶくぶく出ても
笑いが止まらない。
マウスピースを外して
思い切り笑ったら
冷たい軽蔑した目をして
ふん!と去った。
自尊心強いんだ



蝶  斑
Raccoon Butterfly Fish


Raccoon dogと言えば狸。
ラコーンはアライグマ。

そう言われてみると
何処と無く
目の辺りが
そんな感じもする。

チョーハンと言うのは
丁半なのか蝶斑なのか
ラコーンに聞いたら
どっちに賭けると
聞かれそうなので勝手に
蝶斑に決めた。
鞍掛蝶々魚
Panda Butterfly Fish

こいつが
パンダと呼ばれるのは
誰もが納得。

和名の鞍掛は目の上が
凹んでいて鞍を
連想させるからだろう。

このパンダ居そうで居ない。
フィリピン以外での
観察例は極めて少ない。

そういえばこの海域は
フィリピンとベトナムの国境。
きっとクラカケは
ここから西のベトナムへは
行かないのだ。



尖り恵比寿
Long-jawed squirrel fish

一刀鯛科の中では
最大で40cmにも達する。

長顎の尾黒魚と言う
見たままの英名

和名は七福神の1人
恵比寿様が
釣り上げている魚の鯛を
意味してるのであろう。

それに長い顎の尖りを
付けて《尖り恵比寿》と
表したのだ。
ギチ遍羅
Slingjaw wrasse

ギチベラの
ギチとは何ぞや?
は兎も角として
こいつとんでもないエイリアン
なのである。

下顎をよく見てごらん。
しわしわが見えるだろ?
見えないって!

よく見てごらんよ。
僅かに皺の影があるだろ。
あれがブワット
飛び出してパイプになって
一気に獲物を捕らえるんだ
ほら
これがそのパイプだ。

上の画像と
色が異なるって?
ギチベラは
色彩変化がはげしくて
七変化どころではないんだ。

まるで忍者さ。

(石垣島DVスクールさんに
画像お借りしました)



笛 奴 鯛
Long-nose butterfly fish

背鰭を立てると
怒った山嵐。

口がとても長いので
笛を銜えているように
見えるのかな。
最も英名では口ではなくて
鼻になっているけどね。

胸鰭が透明なので
見ずらいけど
とても長くて体長の半分を
占めているんだよ。

尾鰭下の黒点が
お洒落だね。
背黒蝶々魚
Saddle butterfly fish
朝6:45にモーニングコール。
レストランでは早朝の軽食
が用意され
8:00には1本目のDV。

DV終了後
生野菜たっぷりの朝食。
その後11:00から
2本目のDV。

13時、シーフードの昼食。
読書後15時から3本目DV.
16:30からおやつタイム。
19:30から夕食と
1日5食付のDV。

その後はフリーDVと
唯ひたすら食べ潜る。
絶海の孤島では
それしかないのだ

潜る度に出逢う背黒さんも
呆れ顔。
そんなに潜っていると
魚になっちゃうよ!



縦縞巾着鯛
Emperor angel fish

DVボートには
飲み物、食べ物などは
乗せられていない。
必要無いのだ。

何しろ辺り一面
何処でもDVサイトなので
ボートに乗っても僅か
5分か遠くても15分もあれば
サイトに着いてしまう。
飲んでる暇は無い。

ボートに乗ったら直ぐ
装備を背負って
スタンバイ、エントリー。
後は唯ひたすら潜る。

エンゼルの皇帝さんとも
すっかり顔なじみ。
褄黒松毬
Myripristis adusta
ツマグロマツカサも
受け口、尖り恵比寿と同じく
一刀鯛科で
赤松毬亜科に属す。

尾鰭、背鰭が写っていないが
鰭の先が黒いので褄黒。
鱗が松ぼっくりに似てるので
松毬、合わせて
ツマグロマツカサとなった。

と勝手に決めているが
実は一刀鯛も
イットウダイであって漢字は
定かではないのだ。

命名には意味があるのに
片仮名のみの表記反対!
漢字を併記すべし。



一点蝶々魚
Tear-drop buterfly fish

《零れ落ちる涙》
なんというリリシズム。
それにひかえ和名の
素っ気無い命名。
『一点』とはね。

確かに紋の下部が
滲んで涙のように滴り
落ちているではないか。

紋が滲んで流れ出す
タイプはとても珍しい。
これも太平洋産だけが滲み
他産は紋が垂れない。

この《涙》君は
ルソン海峡を超えて
太平洋から南シナ海へ
遥々やって来たのだろうか?
涙黒ハギ
Japan surgeon fish 
これは和名に《涙》が
付いている。
眼の下の白い帯を涙に
見立てているのだ。

黄色い尾柄の両側面に
収納可能な鋭い棘を
持っている。

これを外科医のメスと
とらえて外科医魚と英名は
なっているが
なぜ日本外科医魚なのか?

主な棲息海域は
台湾、フィリピン、西沙群島
近辺であり日本ではないのだ。



角出し
Moorish idol

何処の珊瑚礁に行っても
『角出し』に出逢わぬ
ことは殆ど無い。

それ程ポピュラーなのに
いくら調べても
命名由来が解らん。

先ず和名だが
角とこの見事な背鰭は
全く関係無いのだ。
眼の上に小さな角があり
それをとって『角出し』

英名は『ムーア人の偶像』
これが意味不明。
ムーア人と
何処で繋がるのか?
霞蝶々魚
Pyramid butterfly fish
たくさんの画像を
撮っているのに当HPに
アップされていない。

余りにもありふれているので
無意識的に避けて
載せなかったのだろう。

パラオでは餌付けされている。
手の中に餌があると
知っていて潜り込んでくる。

手で挟んだら慌てて
逃げようと暴れもがいた。
霞蝶々魚を見るとその時の
ざらざらと硬い感触を
いつも思い出す。



五色海老
Painted spiny lobster

アマンダが
絶壁に浮いたまま凝視。
何だろう?

DVの世界は音無し。
エア切れとか残圧表示とか
必要最小限の手話は
決められているが
沈黙、断絶の世界である。

ダイバーの動きから
総てを読み取らねばならぬ。
アマンダのあの様子では
せいぜいウツボか
五色海老かな。

やっぱ、ゴシキエビだ。
青 海 亀
Green turtle
あれっ!亀も居る。
浦島太郎を乗せた亀が
亜光速ロケットであれば
太郎の時間は遅れ
相対的に地球の時間は
早まるのだ。


こいつに乗って
地球に戻ると700年の
時が
一気に飛び去ってしまう。

龍宮伝説で
始った今回のDVも
いよいよエピローグは近い。
どれ、乗ってみるか?



色 蛙 魚
Painted frog fish

潜水深度40mを
超えてはいけません。
1度超えたら次のDVは
出来ません。


最終DVでは
そんな警告は全く意味を
なさない。

8月30日午前8:08の
エントリーをもって
本年度のDVシーズンは
幕を閉じるのだ。
次のDVはもう無い。

総てのダイバーはこの島から
去ってしまう。
40m警告なんて無視。
腕のコンピューターは
43.6mを示した。

その深みで
見たことも無い得体の知れぬ
妖しい生命体発見!

先ず目ん玉らしき球に
映ずる肉の断片。
コリャなんだ!

角度を変えてみると
どうやら球形のボディに
尾鰭、胸鰭が付いてる。

身体には赤い珊瑚らしき
文様が鏤められ
身体に合わぬ大きな口が
開いている。

イザリ魚・蛙魚だ!



蝶々胡椒鯛
Harlequin sweetlips

幼魚とは似ても
似つかぬ蝶々胡椒鯛。
ぬーっと顔を出し
《ようこそ43.6mへ!
何処へご案内しますか?》

『もう2度とこの深さには
来られないから
さっきのイザリ魚みたいな
見たことの無い奴見せて』

《よござんす。
こんなのどうです》
斑 エ イ
Giant reef ray

うわっ!
出ちまった。

この真っ黒い大きなエイは
正にジャイアント!
3mに達するらしいが
こいつそれに近い大きさ。

底生性のエイとしては
最大級らしい。
近づいてもピクリともせず
黒い鎧を伏せたまま。
あと2m接近して撮りたいが
45mを超えてしまう。
断念しよう。

さあ!最後の写真だ。。



皆既月食

太陽が海を染めながら
落ちていくと
反対の東の海から
満月が昇ってきた。
小さな島なので両方が
同時に見えるのだ。

満月が
急激に欠け始める。
そうか今日8月28日は
6年ぶりの皆既月食。

太陽、地球、月が
一直線上に並ぶ月食。
3次元にあって3つの点が
直線上に乗るのは
奇跡に近い。

3天体が同一平面上にあって
初めて可能な稀有な現象。
きっと太郎はこの日に
回帰を果たしたのであろう。

海亀9MーLLAに乗って
私も大地へ
回帰せねばならない。
滑走路に出てみると
滑走路中央に横たわる
黒いシルエット。

『グーテン・アーベン!』
何だ同じチームの
独逸人ダイバーの2人だ。
寝転がって月見学とは
洒落てるね。
どれ、仲間に入るか!
















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