1632ー2019年  水無月

  Contents  
《A》 ヤスール火山・陽のあたる修羅
《B》 黒魔術・緊縛裸婦彫像の謎
《C》 エイとの戯れ・海の独白
《D》 サント島、タンナ島・消された緊縛
≪ A≫ ヤスール火山陽のあたる修羅
燃え滾るガイアの動脈が迫る
ヤスール火山 2019年6月20日(木)夕闇登山 (By white grass air port)

赤血球を高く打ち上げながらガイアの心臓が猛々しく吼える。
凄まじい轟音と共に細かく砕かれた噴石が、異臭を放つ熱風を従え襲い掛かる。
火口に背を向け身を屈め、死を孕んだ異臭を受け入れまいと息を止め、無駄な所作を繰り返す。
噴石から身を護るヘルメットを熱風に飛ばされ、狼狽える登山者。
不連続なガイアの鼓動が如何に大きくなろうと、この火口の縁までマグマが迫ることはあるまいと、知りつつも怯えは拭えない。
それにしても何と云う、おどろおどろしい血の叫びだろうか!

画像:花火の様に噴石の軌跡が映っているが、スローシャッターの仕業で実際には筋は見えない。



ガイアの血の叫びがく!
 

≪ここヤスール火山で
火山弾に当たって日本人旅行者が
死亡した。
事故は1995年に起き、
日本人旅行者とガイドが死亡した。
火山弾は旅行者の体を貫通した≫

(新聞記事検索中で未確認)

そりゃあ、あっても
おかしくないどころか、寧ろ
この状況下では
事故は充分に起こり得る。

それでも登山禁止措置を
取らないバヌアツ政府に敢て
敬意を表したいと
思うのは、マグマが齎す
インパクトの強さである。

あれっ!
満月が映っているでは!
100回以上シャッターを切ったが
満月が映っているのは
この1枚だけ。

細かい火山弾が月の表面を流れ、
月が木星の様な
縞模様を成しているでは!
因みに月齢を調べると
6月20日の月出は日本時間の
21時23分で月齢16.7日。

と云うことは時差+2時間
なのでバヌアツでは
23時23分となり、
撮影時間との差は5時間にもなり
あり得ない。

だったらこいつの正体は何だ!
まさか真ん丸の火山弾か!


噴煙が途切れ冬至(北半球では夏至)の満月が!




駐車場を後に登山開始
サント島からエファテ島に戻り
翌早朝タンナ島へ飛ぶ。
飛行中もタンナ島に着いてから
訪れた黒魔術村でも
まあまあの天気で太陽が出たり
翳ったり。

ところがどうだジープが、
西海岸から島を横断して東へ
向かい始めるや暗雲立て込み、
雨が降りだしたでは!


雨がやや強くなり!

雨季を避け乾季入口の6月下旬を
選んだので霧や雲に
閉ざされることも無くマグマとの
遭遇は可能だろう。


なんぞと甘い期待を
抱いていたが、火山に近づくにつれ

かなり大粒の雨が
ジープのフロントガラスを
激しく叩き始める。



双子噴出か!

登山ゲートでジープを乗り換え、
登山口に向かうが
雨は止まず、絶望的気分!

仕方なくヘルメットの上から雨具の
ゴアテックスを被り、
完全防水にして登り始める。


頂上直下まで手摺が付いているが
当然ながら火口には無い。


海側からの雨雲

此処から左は危険帯で5分以内の滞在通告

噴煙と雨雲が頂を覆う



ヤスール火山登山後13日目の噴火ニュース
イタリア南部 ストロンボリ火山で噴火 観光客1人死亡

活発な火山活動で知られるイタリア南部のストロンボリ火山が噴火し、地元メディアによりますと、これまでに観光客1人が死亡し、防災当局は、
火山のある島に住んでいる人や、観光客が避難する場合に備えて船を派遣しました。
イタリア南部の島にあるストロンボリ火山で3日、2回にわたって大規模な噴火が発生し、現地の火山研究所によりますと、
噴煙が火口から2000メートルの高さまで上がり、ふもとでは火山灰が降りました。
現地のメディアによりますと、これまでに観光客1人が死亡し、1人がけがをしたほか、島を訪れていた観光客の中には、
海に飛び込んで避難を余儀なくされた人もいるということです。





爆発の予感を湛え蠢くマグマ!

交通事故が多発するからと云って
車の使用を禁止するなんて
決して有り得ない。
死傷者の数が如何に増えようと
車の利便性には
替えられないからである。

バヌアツ政府は、
世界で一番接近してマグマを
直截観察出来るヤスール火山を、
危険であることを
充分に認識しつつ単なる観光財源と
捉える以上に、
火山のインパクトの強さを
人々に知らしめる途を選んだのだ。


マグマを直接この眼で
観るには、火山学者にでもなって、
爆発した火山に飛び込むしか
術は無いと思い込んでいた。

しかしヒマラヤの呼び声は
常に胸の中で鳴り響いているし、
まっ、マグマは諦めるしかないか!
とヒマラヤを選んだが、
少年時代のマグマへの想いは
燻り続ける。

老衰化の進行と共に
ヒマラヤ登山から世界の海への
ダイビングと行動領域を
ギアチェンジし、ふと眼にした
バヌアツ。


轟音と共にマグマを吹き上げる



火口が観えた!

異臭を放つガスが襲う

噴石も飛んでくる

山荘に常備している
大型の三脚より
軽量化されたアルミの三脚を
池袋で探し回り購入。
火口撮影用の
望遠レンズも用意し、準備完了。

しかし考えてみれば
火口に三脚なんぞ立てて
スローシャッターで真っ赤に燃える
噴石の軌跡なんぞを、



撮ろうなんて、火山への認識が
甘すぎたのだ。

火口を覗き込むや否や
カメラを構える間もなく轟音を響かせ
爆風が吹きあげ、
死を孕んだ異臭と共に小さな
噴石が飛び交う。

その都度、火口に背を向け
異臭を伴った爆風を避ける。

三脚の出番は全くなし。

夕闇と共に不気味に光る

完全な闇に閉ざされる



灼熱の噴石が火口に飛び交う

≪何だって!
ダイビングだけでなくバヌアツには
マグマを見降ろせる
火山があるんだって!≫
この情報を眼にした
7年前のあの瞬間、
バヌアツへの渡航は決定した。

南太平洋のダイビングは
日本の冬、つまり南半球の
光溢るる夏にこそ
醍醐味を遺憾なく発揮する。

タヒチ、フィージー、ニューカレドニアで
南太平洋の夏の光を求め
ダイビングしてきたが、
この時期のバヌアツは連日雨ばかり。

1月の月間降水量は300㎖で
東京50㎖の6倍に達する。
これじゃ折角火山に登っても
雨や雲、霧でマグマなんぞ
観えはしない。


バヌアツの乾季は、冬の7~9月で
月間雨量は3分の1程になる。
そこで乾季に近付く5月から連日、
バヌアツの週間天気予報をチェック。

天候安定の兆しが観えたら
即、飛行機の予約をしようと、
虎視眈々と機を伺う。
往復8便の飛行機利用となると
便の接続調整が上手くいかず
直前予約は更に難しい。

何度もの日程変更を強いられ、
どうにか確保できたのが、
6月15~22日の8日間。

6月中旬から
週間予報も晴マークが
出始め、期待に胸が膨らむ。
さあ、いよいよ
≪少年時代のマグマへの想い≫
が稔るか!


超新星の如くマグマが拡散する



レナケルにある唯1軒の店でフランスパン発見!

火山灰台地を滑る橇

店の食品値はマジックで書いてある

縦長で南北45km、幅25km程の
小さな島タンナの空港に
降り立ったがリゾートに向かう車無し。
のんびり待っていると
30分ほどして緑色のジープ登場。

屋根のキャリア下に
小さな文字で「Tanna Evergreen」
と書いてあったので、
どうやらこの車らしいと運ちゃんに
これか?と問うと
公用語の仏語でもない
肯定の様なレナケル語らしき頷き。


火山の海側(東面)は密林

ジープに乗って道路に出るや
濛々と立ち昇る土煙。
な、何と空港の道路だと云うのに
凹凸の激しい未舗装では。

対向車や先行車に出逢うと
辺りは盛大な土煙の
洗礼に見舞われ、全身ジャリジャリ。
まさかこの未舗装がリゾート迄
続くなんて気に入ったぜ!
だが情報では中国が造った
舗装道路も島内の何処かにあるとか。


ゲートの大樹ブランコ

タンナ島の火山ヤスールのマグマが
美しく輝くのは夜。
登山口で夕刻の闇が迫るのを待つ。
山頂直下の7合目辺りまで
車で登るので其処から
1時間も歩けば火口壁の上に立てる。

さて、ほなら水分補給でもすっか!
と仙人が呑みだしたのはビア!
オイ、オイ急峻な火口壁で
ふらっとグラついたらマグマに
一直線だぜ!

登山直前の水分補給にビアとは!




火山灰台地(火山の西側)の奥にそそり立つヤスール火山
火山灰に覆われ、
砂漠と化したヤスール山の西面。
目前に段丘となり
高くなった火山灰地が行くてを阻む。
この段丘を切り裂いて
更に南へと道なき道は続く。

勝手にこのくびれをネックと
仙人は命名した。
どうもこのネックではトラブルが
多発するのか、
現地住民らしき見張人が構えている。

フロントガラスの水滴が
少なくなり、南の空が明るくなって
遠い山脈が見え始めた。
しかし火山上空を覆う暗雲は
今しも豪雨を齎すかの様な、
不気味な動き。




さて、このヤスール火山、
大まかな場所の出ているマップはあるが、
幾らネットサーフィンしても
詳細が掴めない。

致し方なくグーグルマップで検索。
これだけじゃ解らんから
幾つか場所名を入れてと、
これなら解り易いな!

ヤスール火山周辺図

ジープ乗り換え出発!
  マップでは火口から噴煙が真南に
棚引いている。
つまり陸側から海側へ風が吹いている。
もしや!これは稀有な現象なのでは!

若しこの風向きが
噴火時に吹いたら南側は
当然ながら火山灰地となる。

噴火時でなくても吹き続ければ、
南側は密林ではなく、
火山灰に塗れている筈なのだ。


この先にゲートがある(ネックにて) 
ジョン・フラム信仰の聖地

245年前の1774年、
ジェイムズ・クック探検隊によって
噴火が確認されたこの山は、
≪神が、天国から船や飛行機に
文明の利器を搭載して
自分達のもとに現れる≫

との招神信仰の聖地である。


沙漠の様な火山灰台地の轍


これぞ≪陽のあたる修羅≫じゃ!
ヤスール火山361m 2019年6月20日(木)17時11分(冬至で日没が早い) 火口を望遠でズームアップ

≪地球は生きている≫は当然、比喩である。
きているなら未だしもきているなんて、そりゃ生命体のことだろうが!
そんな浅慮を嘲笑うが如く爆風が襲う。
ヘルメットを飛ばされ慌てふためく登山者を観て、締りの悪いヘルメットを脱ぎ右手に持ち変える。
何やら仙人の顔も、引き攣っているような!

≪地球は生きている≫、その結果として生命体は生み出され知的存在までに進化し、
今こうして出産血に(まみ)れた割れ目と対峙しているのでは!
脳細胞を進化させ森羅万象を認識し、存在そのものを思惟し、視、聴、嗅、蝕、味覚から豊かな感性を創り出す。
それが生きることと思ってきた知的生命は、僭越、傲慢、いや本質的な知的能力の低さを
自ら暴露しているだけの事だったのでは!
そうだ、地球の備える認識、思惟、感性に気づけないだけなんだ。



虚空夜叉≪ヤクシニー (Yakṣinī)≫ の漆黒の割れ目から血塗れて
ヤスール火山361m 2019年6月20日(木)17時12分

大地と云う表皮の下には真っ赤な血潮が流れ、血潮と共に割れ目から大地の一部を噴き出し、
今、ここに世界はこうして在るのだ。
一心不乱に鍬を突き立て大地を耕し続ける彼方に、森や海が蜃気楼の様に浮かび上がり、
(たお)やかな音色がそこはかとなく漂うのは、≪地球は生きている≫ことの証しだったのではないか!

だからこそこの大地の割れ目は、知的存在の脳内を駆け巡り
≪陽のあたる修羅≫となって問いかけるのであろう。
割れ目の深奥に蜃気楼や嫋やかな音色を求め、修羅となって血潮に(まみ)れる。

またまた、仙人の戯言が始まりましたね!
何処に行っても何をしても仙人は漆黒の長椅子に坐し、モーツァルトの交響曲第41番・ゆぴてるを聴き乍ら、
モノリスを抱いて真っ赤な血潮に惑溺してるんですね!




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