163の2ー2019年 水無月
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≪ A≫ ヤスール火山・陽のあたる修羅 |
燃え滾るガイアの動脈血が迫る ヤスール火山 2019年6月20日(木)夕闇登山 (By white grass air port) 赤血球を高く打ち上げながらガイアの心臓が猛々しく吼える。 凄まじい轟音と共に細かく砕かれた噴石が、異臭を放つ熱風を従え襲い掛かる。 火口に背を向け身を屈め、死を孕んだ異臭を受け入れまいと息を止め、無駄な所作を繰り返す。 噴石から身を護るヘルメットを熱風に飛ばされ、狼狽える登山者。 不連続なガイアの鼓動が如何に大きくなろうと、この火口の縁までマグマが迫ることはあるまいと、知りつつも怯えは拭えない。 それにしても何と云う、おどろおどろしい血の叫びだろうか! 画像:花火の様に噴石の軌跡が映っているが、スローシャッターの仕業で実際には筋は見えない。 |
ガイアの血の叫びが轟く! |
≪ここヤスール火山で |
あれっ! 満月が映っているでは! 100回以上シャッターを切ったが 満月が映っているのは この1枚だけ。 細かい火山弾が月の表面を流れ、 月が木星の様な 縞模様を成しているでは! 因みに月齢を調べると 6月20日の月出は日本時間の 21時23分で月齢16.7日。 と云うことは時差+2時間 なのでバヌアツでは 23時23分となり、 撮影時間との差は5時間にもなり あり得ない。 だったらこいつの正体は何だ! まさか真ん丸の火山弾か! |
噴煙が途切れ冬至(北半球では夏至)の満月が! |
駐車場を後に登山開始 |
サント島からエファテ島に戻り 翌早朝タンナ島へ飛ぶ。 飛行中もタンナ島に着いてから 訪れた黒魔術村でも まあまあの天気で太陽が出たり 翳ったり。 ところがどうだジープが、 西海岸から島を横断して東へ 向かい始めるや暗雲立て込み、 雨が降りだしたでは! |
雨がやや強くなり! |
雨季を避け乾季入口の6月下旬を 選んだので霧や雲に 閉ざされることも無くマグマとの 遭遇は可能だろう。 なんぞと甘い期待を 抱いていたが、火山に近づくにつれ かなり大粒の雨が ジープのフロントガラスを 激しく叩き始める。 |
双子噴出か! |
登山ゲートでジープを乗り換え、 登山口に向かうが 雨は止まず、絶望的気分! 仕方なくヘルメットの上から雨具の ゴアテックスを被り、 完全防水にして登り始める。 頂上直下まで手摺が付いているが 当然ながら火口には無い。 |
海側からの雨雲 |
此処から左は危険帯で5分以内の滞在通告 |
噴煙と雨雲が頂を覆う |
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爆発の予感を湛え蠢くマグマ! |
交通事故が多発するからと云って 車の使用を禁止するなんて 決して有り得ない。 死傷者の数が如何に増えようと 車の利便性には 替えられないからである。 バヌアツ政府は、 世界で一番接近してマグマを 直截観察出来るヤスール火山を、 危険であることを 充分に認識しつつ単なる観光財源と 捉える以上に、 火山のインパクトの強さを 人々に知らしめる途を選んだのだ。 |
マグマを直接この眼で 観るには、火山学者にでもなって、 爆発した火山に飛び込むしか 術は無いと思い込んでいた。 しかしヒマラヤの呼び声は 常に胸の中で鳴り響いているし、 まっ、マグマは諦めるしかないか! とヒマラヤを選んだが、 少年時代のマグマへの想いは 燻り続ける。 老衰化の進行と共に ヒマラヤ登山から世界の海への ダイビングと行動領域を ギアチェンジし、ふと眼にした バヌアツ。 |
轟音と共にマグマを吹き上げる |
火口が観えた! |
異臭を放つガスが襲う |
噴石も飛んでくる |
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山荘に常備している 大型の三脚より 軽量化されたアルミの三脚を 池袋で探し回り購入。 火口撮影用の 望遠レンズも用意し、準備完了。 しかし考えてみれば 火口に三脚なんぞ立てて スローシャッターで真っ赤に燃える 噴石の軌跡なんぞを、 |
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撮ろうなんて、火山への認識が 甘すぎたのだ。 火口を覗き込むや否や カメラを構える間もなく轟音を響かせ 爆風が吹きあげ、 死を孕んだ異臭と共に小さな 噴石が飛び交う。 その都度、火口に背を向け 異臭を伴った爆風を避ける。 三脚の出番は全くなし。 |
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夕闇と共に不気味に光る |
完全な闇に閉ざされる |
灼熱の噴石が火口に飛び交う |
≪何だって! ダイビングだけでなくバヌアツには マグマを見降ろせる 火山があるんだって!≫ この情報を眼にした 7年前のあの瞬間、 バヌアツへの渡航は決定した。 南太平洋のダイビングは 日本の冬、つまり南半球の 光溢るる夏にこそ 醍醐味を遺憾なく発揮する。 タヒチ、フィージー、ニューカレドニアで 南太平洋の夏の光を求め ダイビングしてきたが、 この時期のバヌアツは連日雨ばかり。 1月の月間降水量は300㎖で 東京50㎖の6倍に達する。 これじゃ折角火山に登っても 雨や雲、霧でマグマなんぞ 観えはしない。 |
バヌアツの乾季は、冬の7~9月で 月間雨量は3分の1程になる。 そこで乾季に近付く5月から連日、 バヌアツの週間天気予報をチェック。 天候安定の兆しが観えたら 即、飛行機の予約をしようと、 虎視眈々と機を伺う。 往復8便の飛行機利用となると 便の接続調整が上手くいかず 直前予約は更に難しい。 何度もの日程変更を強いられ、 どうにか確保できたのが、 6月15~22日の8日間。 6月中旬から 週間予報も晴マークが 出始め、期待に胸が膨らむ。 さあ、いよいよ ≪少年時代のマグマへの想い≫ が稔るか! |
超新星の如くマグマが拡散する |
レナケルにある唯1軒の店でフランスパン発見! |
火山灰台地を滑る橇 |
店の食品値はマジックで書いてある |
縦長で南北45km、幅25km程の 小さな島タンナの空港に 降り立ったがリゾートに向かう車無し。 のんびり待っていると 30分ほどして緑色のジープ登場。 屋根のキャリア下に 小さな文字で「Tanna Evergreen」 と書いてあったので、 どうやらこの車らしいと運ちゃんに これか?と問うと 公用語の仏語でもない 肯定の様なレナケル語らしき頷き。 |
火山の海側(東面)は密林 |
ジープに乗って道路に出るや 濛々と立ち昇る土煙。 な、何と空港の道路だと云うのに 凹凸の激しい未舗装では。 対向車や先行車に出逢うと 辺りは盛大な土煙の 洗礼に見舞われ、全身ジャリジャリ。 まさかこの未舗装がリゾート迄 続くなんて気に入ったぜ! だが情報では中国が造った 舗装道路も島内の何処かにあるとか。 |
ゲートの大樹ブランコ |
タンナ島の火山ヤスールのマグマが 美しく輝くのは夜。 登山口で夕刻の闇が迫るのを待つ。 山頂直下の7合目辺りまで 車で登るので其処から 1時間も歩けば火口壁の上に立てる。 さて、ほなら水分補給でもすっか! と仙人が呑みだしたのはビア! オイ、オイ急峻な火口壁で ふらっとグラついたらマグマに 一直線だぜ! |
登山直前の水分補給にビアとは! |
火山灰台地(火山の西側)の奥にそそり立つヤスール火山 |
火山灰に覆われ、 砂漠と化したヤスール山の西面。 目前に段丘となり 高くなった火山灰地が行くてを阻む。 この段丘を切り裂いて 更に南へと道なき道は続く。 勝手にこのくびれをネックと 仙人は命名した。 どうもこのネックではトラブルが 多発するのか、 現地住民らしき見張人が構えている。 フロントガラスの水滴が 少なくなり、南の空が明るくなって 遠い山脈が見え始めた。 しかし火山上空を覆う暗雲は 今しも豪雨を齎すかの様な、 不気味な動き。 |
さて、このヤスール火山、 大まかな場所の出ているマップはあるが、 幾らネットサーフィンしても 詳細が掴めない。 致し方なくグーグルマップで検索。 これだけじゃ解らんから 幾つか場所名を入れてと、 これなら解り易いな! |
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ジープ乗り換え出発! |
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マップでは火口から噴煙が真南に 棚引いている。 つまり陸側から海側へ風が吹いている。 もしや!これは稀有な現象なのでは! 若しこの風向きが 噴火時に吹いたら南側は 当然ながら火山灰地となる。 噴火時でなくても吹き続ければ、 南側は密林ではなく、 火山灰に塗れている筈なのだ。 |
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この先にゲートがある(ネックにて) |
ジョン・フラム信仰の聖地 245年前の1774年、 ジェイムズ・クック探検隊によって 噴火が確認されたこの山は、 ≪神が、天国から船や飛行機に 文明の利器を搭載して 自分達のもとに現れる≫ との招神信仰の聖地である。 |
沙漠の様な火山灰台地の轍 |
これぞ≪陽のあたる修羅≫じゃ! ヤスール火山361m 2019年6月20日(木)17時11分(冬至で日没が早い) 火口を望遠でズームアップ ≪地球は生きている≫は当然、比喩である。 活きているなら未だしも生きているなんて、そりゃ生命体のことだろうが! そんな浅慮を嘲笑うが如く爆風が襲う。 ヘルメットを飛ばされ慌てふためく登山者を観て、締りの悪いヘルメットを脱ぎ右手に持ち変える。 何やら仙人の顔も、引き攣っているような! ≪地球は生きている≫、その結果として生命体は生み出され知的存在までに進化し、 今こうして出産血に塗れた割れ目と対峙しているのでは! 脳細胞を進化させ森羅万象を認識し、存在そのものを思惟し、視、聴、嗅、蝕、味覚から豊かな感性を創り出す。 それが生きることと思ってきた知的生命は、僭越、傲慢、いや本質的な知的能力の低さを 自ら暴露しているだけの事だったのでは! そうだ、地球の備える認識、思惟、感性に気づけないだけなんだ。 |
虚空夜叉≪ヤクシニー (Yakṣinī)≫ の漆黒の割れ目から血塗れて! ヤスール火山361m 2019年6月20日(木)17時12分 大地と云う表皮の下には真っ赤な血潮が流れ、血潮と共に割れ目から大地の一部を噴き出し、 今、ここに世界はこうして在るのだ。 一心不乱に鍬を突き立て大地を耕し続ける彼方に、森や海が蜃気楼の様に浮かび上がり、 嫋やかな音色がそこはかとなく漂うのは、≪地球は生きている≫ことの証しだったのではないか! だからこそこの大地の割れ目は、知的存在の脳内を駆け巡り ≪陽のあたる修羅≫となって問いかけるのであろう。 割れ目の深奥に蜃気楼や嫋やかな音色を求め、修羅となって血潮に塗れる。 またまた、仙人の戯言が始まりましたね! 何処に行っても何をしても仙人は漆黒の長椅子に坐し、モーツァルトの交響曲第41番・ゆぴてるを聴き乍ら、 モノリスを抱いて真っ赤な血潮に惑溺してるんですね! |