《A》 パラワン島へ


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夜の海へ

1日5DVのハードスケジュール
朝6時ベル係りの
少年のような若い船員が
鈴を鳴らしながら
船室前の廊下を往来する。

食堂でのティータイムを
知らせると同時に
1日5本のDV開始を
告げるベルでもある。

果物、パン、コーヒー,紅茶
等を軽く摂り
7:00最初のDV。

朝食と蓄積された
血液中の過剰窒素を
抜くための休憩を挟んで
2本目のDVが10:00.

昼食後3本目が1:30で
4本目が4:00.
5本目のナイトDVが
6:00からで
母船に戻るのは8時
前後になる。

全くのDV三昧の日々である。



てっきり貴重種の
四点蝶々魚と信じて
少しドキドキしながら
シャッターを切ったのだが
よく見たら
黒の縞模様がはっきり
見えている。

その上尾鰭の付け根に
黒斑があり
どこからどう見ても
正真正銘の
曙蝶々魚。

夜になると上半部が
このように黒ずみ
中央に目立つ白斑が2つ。

これは擬似目玉で
「俺はこんなにも
大きいんだぞ!」との
デモンストレーションなのだ。
曙蝶々魚(アケボノチョウチョウウオ)
Black Back Butterfly Fish



暗いので何を
撮ったのか解らない。
それにアングルが
ほぼ真上からなので
魚の容姿がつかめない。

先ず注目すべきは
眼の前にある
眉毛のような2つの
蒼い発光体である。

第2に頭頂部の
派手派手しい黄色と
頬を縁取るような
黄ラインである。

まるで栗毛馬のような
スマートな
ボディーに見えるが
実はこれが
ずんぐりもっくりした
都天狗剥だったのだ。
都天狗剥(ミヤコテングハギ)・雄
Orange-Spine Unicorn Fish 



青ペンキが
余ってしまって零れ出し
眼の下から鼻へと
流れ何とも美しい。

この美しさは
婚姻色に染まった雄だけ
のもので雌は
茶色に黒い点と線模様で
見栄えは劣る。

尾鰭は黄色の縁を付け
長く糸を引くので
求愛の婚姻色と直ぐ解る。
で、雌が最も
惹かれるのはどの部分?

ライトを当てても
動こうとはしないが
眼だけは警戒心を
隠さない。
漣鶏冠剥(サザナミトサカハギ)
Big Nose Unicorn Fish



知らなかったな!
夜になると白点を付ける
魚はいるが
霞蝶々魚
白いピラミッドに発光する
白点を灯すとは驚き!

眠りの白点が2つあると
擬似眼かなと
思うが1つでは敵を
欺くことは難しい。

さてそれでは
何のための白点?
と魚に聞いても魚自身は
白点にさえ
気付いてはいない。

人類自身に置き換えて
みると大変興味ある
テーマになる。
より高次な認識体にしか
見えぬ人類の
白点とは何か?
霞蝶々魚(カスミチョウチョウウオ)
Pyramid Butterfly Fish



フラッシュアームに
固定するライトを買って
潜水中は常に
光をカメラの先に
当てられるようにした。

外部フラッシュは
外して内臓フラッシュと
ライトのみで撮る。

これでライト操作が
楽になりシャッターを
切る為のアクロバットな
体勢は避けられる。

尖り恵比寿も充分に
光を当てて
楽々シャッターが切れる。

だがこのニッケル水素
電池の充電器は
120Vを超えると直ぐに
ブレーク。
仕方なく他のダイバーに
充電器を借りて充電。
尖り恵比寿(トガリエビス)
Long-Jawed Squirrel Fish



それだけでなく
照明時間が短いのだ。
単三電池4本で
50分持たない。

節約して頻繁にスイッチを
切ってもDVの
後半には点滅を始める。

点滅が始ると
数秒で消灯してしまう。
そうなると何度
ONにしても撮影は不可。

この五色海老
ライトの点滅が始り焦る。
Exitでボートに
上がる時は完全に
電池切れで真っ暗。

闇の中ぽっかり浮いたら
満天の星。
余りの星の多さに
思わずヒマラヤを連想。
五色海老(ゴシキエビ)
Painted Spiny Lobster



見事な胸鰭!
14軟条もあるこの胸鰭は
花弁の役割を担う。

両側面の胸鰭を
全開にし
背鰭の11軟条を垂直に
立ててゆったりと
岩礁の闇に舞う姿
正に華麗な花そのもの。

この美しさに惑わされて
ふらふらと近づくと
パクリと一呑みで
小魚は食べられてしまう。

この美しい鰭には
強い毒があり
刺されたら大変危険。

美しいものが危険なのは
どこの世界でも
同じなのか?
花蓑笠子(ハナミノカサゴ)
Red Lion Fish



夜行性なので
ナイトDVのたびに
出逢いを期待して岩礁を
彷徨ったが
中々見つからない。

岩礁の窪みにライトを
当てると派手な
色彩に黒星2つ。
ついに見つけた。

だがライトを浴びると
岩礁の穴に潜り込み
待てど
暮らせど出てこない。

気が付いたら一緒に
エントリーした
ダイバーは消えていた。
真っ暗闇に唯一人。
鰭星蓑笠子(ヒレボシミノカサゴ)
Ocellated Lion Fish



それもよし。
ライトが切れるまで
単独で夜の海を彷徨おう。

ライトを遠くへ当てると
光の帯の中に
大きな黒い影。

昼はダイバーを見ると
逃げることが多いのに
灯りに向かって
近づいて来る青海亀。

山荘で一緒に森を走る
セブン(犬)のように
馴れ馴れしく
寄って来て岩礁に軟着陸。

黒い瞳でじっと
見つめられ何だか
照れてしまった。
青海亀(アオウミガメ)
Green Turtle



さてボートはどっちの
方向にいるのか?

浮上位置がボートから
離れ過ぎると
ライトが届かず
置き去りにされる
恐れあり。
ま、その時は
笛でも吹いて位置を
知らせよう。

コンパスにライトを当て
コンパスを水平にし
針をNに合わせると
光の中にまたまた珍客。

寝ているのか全く動かず
金色の瞳だけが
輝いていた。
黒点河豚だ。
黒点河豚(コクテンフグ)
Black Spotted Puffer



電池の消耗を防ぐ為
ライトを消して
北西の方向に進むと
岩礁の影が浮かぶ。

つまり岩礁の反対側に
灯りがあり
多分それは他のダイバー
のものなのであろう。

急いでキックして
近づくと数人の仲間が
興奮して白い海綿を
取り囲んでいる。

何とこの白い海綿が
動いているのだ。
最初見当もつかず
大いに面食らったが
直ぐに思い至った。

こいつラジャンパッドで
お目にかかった
大貝被りだ。

四角い穴から褐色の
甲羅が見える。
20cmもある大きな蟹で
海綿を鋏で切って
背中に被り擬態するのだ。


大貝被り
(オオカイカムリ)
Sponge Crab



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