1575ー2018年  師走

  Contents  
《A》 氾濫路をバイクで突っ走る
《B》 白銀燕魚の壮麗な舞い
《C》 水上マーケットから失せる混沌
《D》 木乃伊と仏陀邂逅の旅
≪ D≫ 木乃伊と仏陀邂逅の旅
サングラスを掛けた45年前の木乃伊
仙人の誕生(1944年)と同時にクナラム僧院長に任命され、29年後にミイラとなったサマタキッティクン

仙人の誕生と同時に木乃伊として果てるワット・クラナムの僧院長になるなんて、単なる偶然と見過ごしていいものか!
そう思って耳を傾けてみると、木乃伊となったサマタキッティクンのモノローグが聴こえてくるような気がするのだ。
≪お前は未熟者だから幾ら瞑想を重ねても、私の様に
自らの俗界での死を正確に認識し、予言した期日に向けて一切の水分を絶ち木乃伊となって昇天することは叶わぬ。

しかし私がワット・クラナムの僧院長となった時にお前が生まれたとあれば、これも何かの縁。
ナットと呼ばれている小さな結を無数に繋げて、私の弟子が造形したアート仏陀が在る。
結はボルトと組んで様々な機器を生み出すだけではなく、文字通り人と人を繋げ天界と下界を結び、
果てしなき虚空の深遠に光の造形を為す。
木乃伊の代わりにその結の造形を与えよう。結はビッグブッダの元でお前を待っている。さあ、早く行くがいい!≫




光と角度で変わる表情
仏陀邂逅の旅

呼び声が聴こえる。
≪終焉との抱擁≫、
≪仏陀邂逅の旅≫が
リフレインされてると解ったのは
その眼に触れた瞬間であった。

12mもの巨大なサムイ島の仏陀に
平伏すように、
アンティークを並べる店が軒を連ねる。
ふらりと入った小さな店の奥は、
しめやかな闇に閉ざされ、
暫し眼が闇に慣れるまでその漆黒に
絡み取られ時空感覚を喪失する。

闇に慣れた目に
最初に飛び込んできたのは
金色に塗り込められた
仏陀の木彫り仮面。


煩悩数108つの螺髪

六角ナットの造形
 
ナットの結が描く仏陀

眼に触れた瞬間!

闇の底で
切れ長の鋭く暗い眼が、
何の前触れも無く
いきなり肉体を切り裂き
心の臓を抉る。

手に取ると皮膚に溶け込み、
離そうと力を込めると
架空とは思えない痛みを伴う。
即購入を決め
不愛想な店のオヤジに言い値の
3分の2の2000バーツ(7500円)
しろと価格交渉。即商談成立。

しかし購入後も
漆黒は纏わり続け、
尚も店の奥へといざなう。

 
仏陀邂逅

闇を左に曲がり
更に左の奥に眼をやると
床下に無造作に置かれた
巨大な金属の如来像が
寡黙に沈んでいる。

螺髪(らほつ)はステンレスの
光沢を放つ金属から成り、
顔と胸には無数の穴が開いている。
良く観ると穴を開けたのではなく、
数千個に及ぶ小さな六角のナットを
溶接して繋げたもの。

その精緻な造作に
思わず感嘆の声が漏れる。
こいつだったのか、
呼び声を発していたのは! 



螺髪と顔の境界部分

具に観察すると
六角ナットの1つ1つが微妙に異なる。
外側の摩耗度、穴の大きさの
すり減り具合が夫々の表情を湛えている。

更には屈曲部分の溶接部に乱れがあり、
融かされた金属が
食み出しているではないか!
この1つ1つの個性を無数に結いあげ、
コスモスとしての仏陀を生み出した。


顔面から首は総て六角ナット


ビッグブッダの元でお前を待っている
さて小さな結を無数に繋げて造形したアート仏陀は何処に!

12mもあるビッグブッダが仙人を見下ろすと、虚空を映した仙人のTシャツに浮かび上がったのは六角ナットの結。
確かに木乃伊が告げたように、この近くで結は仙人を待っているのだ。
その場は右か左か!両手を天空に翳しビッグブッダに問う。



ひっそり眠る仏陀との邂逅

高僧ミイラは告げる
のアート仏陀

こんな重い鉄の塊なんぞ
持ち運べはしないが、
こいつ物凄いオーラを発して
仙人に迫るのだ。

≪仙人が回帰した後に
山荘に身代わりとなって
棲むことになるのは
この私です。
サマタキッティクンから
聴いたでしょ。≫

そりゃ無茶苦茶や。
仏像の海外持ち出し禁止を
謳っているタイ国から
どうやって連れ出したらいいんだ!

例えサマタキッティクンの
瞑想のパワーで
無事出国出来たとしても、
この持ち上げることも出来ない
金属の塊を
どうやって運んだらいいのか!


還俗仙人の身代わりじゃ!

サマタキッティクンの瞑想に
魅かれて集まった数多くの弟子は、
今やタイ全土に広がり、
そう、例えばホテルの従業員、
空港カウンターで荷物検査をする職員、
又ある時は骨董品屋店主など
となって身代わり仏陀を
出国させるのです。

そんな馬鹿な!
いいかい、前回のダイビングで
タイから出国する時なんぞ、
浜辺で拾った石1個でも
税関検査で取り上げられたんだぜ!

石1個とこの仏像と比べてごらん。
X線検査をするまでも無く
外形から仏像であることは
一目瞭然だ。

それに例えサムイの地方空港で
上手くパスしても
バンコックで2泊している間に
情報が洩れて
2度目のより厳しい税関検査を
バンコック国際空港で
受けねばならなくなるんだ。
断念せよ!





オヤジさん又来たぜ!

骨董品屋Nick Shop店主と

持出禁止と知りつつ素知らぬ顔の店主

トランクに入れて運ぼう!

で、その日は断念したのだ。
ところがその夜、シックスセンシズの
時空を司る≪回帰する時空≫と
名付けた白絹蚊帳と椰子の葉で
葺いた天井を見詰めていたら
突如、託宣が響き渡ったのだ。

 ≪愚か者!その程度の障害も
乗り越えられずして
どうして身代わり仏陀など
手に入れられようか!
総てを捨てる覚悟で明日再び訪ねよ≫


後からバイクで追う

タイは仏像の
海外持ち出しを禁止しています。


しかし、スーツケースに入れ、
持ち出すことは可能です。
普通の仏具屋で売っている仏具の
小型の仏像、
お土産として売っている仏像程度なら、
持ち出せるでしょう。
しかしながら、空港の係員の前で
仏像が見えたら、没収されるでしょう。
(教えてgooより)


キャスターを付けて運ぶしか!

仏像および菩薩像の全体
またはその一部を
タイから持ち出すことは禁止されています。
ただし、仏教徒による崇拝、文化的交流、
または研究を目的とする場合は、
芸術局の許可を取得すれば
例外が適用されます。
詳細はタイ芸術局まで、
直接お尋ねください。

http://www.finearts.go.th/

(タイ国政府観光庁より)

 
キャスターに仏像を載せて!

 朝一でバイクを突走らせ
再び骨董品屋へ。
バイクでは大きくて重くて運べず
タクシーに運ばせ
その後をバイクで追う。

さて驚いたのが
シックスセンシズのスタッフ達。
≪こんな大きくて重い物
どうして運ぶのか、第一これ仏像では!
持ち出せませんよ≫
と言いながらも我がことのように
親身になって梱包してくれたのだ!

 
梱包完成したが重くて1人では無理!


結出国が叶うか虎の子に命をね問うがいい!
つまり結で虎と結ばれていれば結出国は実現するってこと!

そんなことある訳がない!
大体、このベンガル虎は飼いならされていて、人間が近づいても襲ったりしない筈。
それを知りながら敢て仏像持出が可能か、虎に問えとは!
ははーん、仙人は無宗教であるが日本人なので建前上では一応仏教徒であるらしいし、仏陀を崇拝してるし、
文化的交流にも関心はあるし、研究対象としても大いに興味をいだいている。

と云うことはタイ国政府観光庁の述べている、仏像海外持ち出し許可条件に合致している訳だ。
だもんだからこの際、許可証は無くても特別認可しましょうと言う代わり
木乃伊のサマタキッティクンを担ぎ出したり、虎の子を小道具に使ったりしているんだな!
まあ、いずれにしても国外持ち出しが実現するなら、何でもやってやろうじゃないか!

と云いつつ 鹿児島市平川動物公園の飼育員が虎に咬み殺された3ケ月前の事故ニュースが浮かぶ。
虎は飼い慣らすのが最も難しく、慣れた飼育員ですら襲う肉食獣なのだ。
仙人は虎の子を膝に乗せミルクをやってはいるが、明らかに恐怖で顔が引き攣っているぜ!
≪ミルクもいいけど、僕、そろそろ生きたままの肉が喰いたいな!≫
オイ、おい、冗談はやめてくれ!



1個で34kgでは運べぬと国内線

キャスターを外して軽くするしかない
厳しい税関での
2度の闘い


折角丁寧にキャスターを付けて
梱包してくれたのに
最初の国内線のカウンターで拒否。
「34kgですね。1個の荷の最大重量は
30kgまでですので分けてください」

えっ、そんな金属の仏像を
2つに分けるなんて不可能!


持出不許可宣告ばかり
懼れていたが、まさか重量制限で
拒否されるとは想定外!
特別料金を支払っても積載は不可。

もしやキャスターを外したら
30kgに収まるのではと淡い期待を
抱き梱包材をナイフで切り裂く。
キャスターを取り去り
再梱包し再計量したら28kg。
やったー!


仏像を丸裸にして再度梱包!

国際線で受け入れ拒否!

特別検査に回される仏殿

一応国内線には積み込まれたが!

3日後、問題の2度目の国際線では、
あっさりと通るかと観えたが拒否。
「此処では受け入れられないので、
特別検査が必要。
あちらにお廻りください」

誰も居ない特別検査室には
厳めしい顔した姉ちゃんが待っていて、
「撮影禁止よ、
さっさとそこに荷を置いて!」
といよいよ最後通告が成される瞬間。

ハイ、これで取り上げと覚悟を決め
検査結果を待つ。
「いいわよ、OKよ!」

うそー!マジかよ。




巨大仏陀との飽くこと無き対話

木乃伊と云えば沙漠なのだ。
極端なまでに湿度の低いカラカラに乾いた沙漠であればこそ、屍を腐敗せず木乃伊として保存出来る。
月間降水量300mm前後の月が半年も続く高温多湿のサムイ島で、木乃伊はあり得ない。
そのサムイ島に木乃伊があるとしたら、人為的に防腐剤処理をしたか、脱水処理を施したかのいずれかであろう。

木乃伊の生前サマタキッティクンは自らの正確な死を予言し、その日に向かって瞑想しつつ肉体の断水を開始した。
細菌が活動を弱めるには肉体から50%以上の水分を取りださねばならない。
サマタキッティクンが体重50kgであるならば、25kgの脱水を行わねば木乃伊にならず、20%の脱水で死に至る常人には不可能。
瞑想で悟りを開き解脱し不可能を超越し、自らの木乃伊化を成し遂げたサマタキッティクン。

サマタキッティクンの関与があり厳しい税関のチェックを潜り抜け、巨大仏陀は山荘にやって来たと
仙人は信じているのだ。
瞑想しつつ肉体の断水を行い、絶対的静寂である涅槃に達したサマタキッティクンとの
結を深く自覚しつつ、
これから仙人は巨大仏陀との飽くこと無き対話を始めるのだろう。




Next