《E》 パラオ・だいびんぐ
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マンタのお出迎え 2月24日(月) 晴曇雷 ジャーマン・チャネル 静かな海を切り裂いて、300馬力のスクリューを2つ付けた強力ボートが南南西に突っ走る。 狂ったように巻き上がる海水が大気を孕み、蒼いキャンバスに白銀のラインを描く。 早朝から熱帯の太陽をたっぷり吸い込んだ海水は、天空に駆け上がり 積雲となって蒼穹のキャンバスにも白亜の殿堂を描く。 ・ 空気タンクを背負って、バックロールで飛び込むためボートの縁に座り天空を仰ぐと マスクに白亜の殿堂が広がる。 幾つもの積雲が太陽を囲むようにして殿堂に吹き抜けを成し、 今しもその吹き抜けからデルポイの神託が、下されるのではとの予感がふと過ぎる。 ギリシア中部のパルナッソス山の南麓 にあるアポロンの聖地が 白亜の殿堂に重なった一瞬後、肉体は白銀に泡立つ海中に在った。 ・ そうか、神託を告げる白衣の巫女は貴女でしたか! 随分お久しぶり! |
「どうこの白い割烹着 中々似合うでしょう!」 ・ つい1ヶ月程前にはこの白い 割烹着姿の巫女が 「何百年にもわたる細胞生物学の 歴史を愚弄している」と論評されつつも 新たなる神託を高らかに宣言し 世界に衝撃を与えたのだ。 |
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「ところがどうでしょう。 どうもこの神託は 割烹着姿のあたしが 勝手に捏造したのではと デルポイの人々は騒ぎ始めたのです」 ・ あれ、良く観ると 白い割烹着姿のマンタの瞳は 確かに焦点を失い哀しげに 彷徨っているように観えませんか? |
STAP神託が正しく神からのものである と立証するには 3つのステップが必要なんだ。 ・ その1:万能細胞で働く特徴的な遺伝子が在るか? これを確かめるには この遺伝子が働くと緑色に光る細胞を 使って調べるんだ。 ・ これには成功してるが、どうも これだけでは万能細胞と決め付ける訳には いかないらしい。 つまり万能細胞でなくても条件によっては 一時的に緑色に光ることもあるとか。 |
デルポイの人々は何を騒いでいるのか それでは3月20日(木)に報道された 最新情報を覗いてみよう。 ・ あーその前にこの神託は 割烹着姿の彼女が告げたものの実は 神託内容は14人もの 理性的で在る科学者(?)が 拘わっていると頭に入れておいて。 |
尾黒目白鮫様のお出ましじゃ 2月25日(火) 曇雨 ブルーコーナー ジャーマン・チャネルの主がマンタなら、 此処ブルーコーナーでは何たって俺様、尾黒目白鮫様が親分さ。 実は、おいらも白い割烹着のマンタの神託に拘わった14人の科学者の1人で、 神託トラブルに絡んでいるんだ。 だからおいらにもちょっくら喋らせておくれ。 ・ STAP神託を発したマンタの所属する理化学研究所では 緑色に輝く細胞を確認したものの、その次の第二ステップ論文では どうも使われた写真が白い割烹着の博士論文の時の物らしいと デルポイの人々は騒ぎ始めたんだ。 |
尾黒目白鮫は更に語り続ける。 その2:STAP細胞を培養し色々な体の組織に変えられるか? さあ、第一ステップで緑色に光る細胞を確認したものの、果たしてこの細胞は 本当に筋肉や腸の組織に変えることが出来るのだろうか? この各種組織への変換が確認されれば、STAP細胞が万能細胞であると、ほぼ断定してもいいのでは。 ・ 白い割烹着の所属する理化学研究所では、どうもこの第二ステップの再現には成功していなくて 成功したとされる筋肉や腸の組織の第二ステップ論文の4枚の写真は 白い割烹着の2011年博士論文の時の物で 本人も其れを認めているとか。 |
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勿論、その事実が 第二ステップの否定、つまり、 STAP細胞は万能細胞では無いと、 断定すると云う根拠には ならないのだが、 なぜ以前の写真を 使ったかとの疑問が、 大きく影を落とすことは確か。 |
俺にも一言ナポレオン登場 2月26日(水) 曇雨 ブルーコーナー 尾黒目白鮫がSTAP神託に加わった14人の科学者の誰を演じているのか解らぬまま いきなりしゃしゃり出てきたのは大きな こいつはブルーコーナーの外洋側で悠然と回遊する尾黒目白鮫と異なり 崖っぷちを持ち場として行きつ戻りつ、 時には群がるダイバーをぎょろりと睨めつけふふんと侮蔑の嗤いを投げかける。 ・ 「いいか、ごちゃごちゃ群がって、やれ白い割烹着姿が可憐で美しいの、 お気に入りがムーミンだなんてリケジョらしからぬ豊かな感性とか、散々持ち上げておいて なんだい今度は、白い割烹着は理化学捏造所のアイドルだったとか ムーミンも割烹着も全ては周到に準備された 演出だとか、酷いのになると稀代の詐欺師だとか 云いたい放題じゃないか。少しは恥を知れ恥を!」 と怒り狂っているのはナポレオンに名を借りた米ハーバード大学のマーティン・バカンティ教授 の様な気がしないでもありません。 |
その3:STAP細胞をマウスの胚に移植し 個体が作れるか? バカンティ教授なるナポレオン氏は語る。 「ほんじゃ,ぶっちゃけて話そう。 この海の中では尾黒目白鮫なんぞに 変身して如何にも恐ろしげな 風体で泳ぎ回っているけれど実は あいつの正体は その3を実証した若山照彦教授なんだ。 |
白い割烹着のマンタから 「これ129系統のSTAP細胞なの。 これをマウスの胚に移植して キメラを作ってくれない?」と 尾黒目白鮫は頼まれた。 ・ よっしゃ、おいらの出番だと ばかり張り切って キメラマウスを作ったんだ。 更に凄いことに iPS細胞では不可能であった 胎盤まで出来てしまい 尾黒目白鮫もマンタも大喜び。 |
ところが尾黒目白鮫は 騒ぎ出したデルポイの人々に 耳を傾けているうちに 渡されたSTAP細胞にふと 疑惑を抱いたんだ。 ・ 「確かに簡単に作製出来る筈の STAP細胞が論文の 発表後も誰にも作られていない。 もしかするとSTAP細胞は 存在しないのでは? となるとマンタから渡された 129系統の細胞は何なのだ?」 |
尖り恵比寿 Cong jawed squirre fish |
ははーん、それでもって 尾黒目白鮫は あの呟きを漏らしたんだな。 ・ 「研究の根幹が揺らいだ。 私が実験したのが 何だったのか 確信が持てなくなった」 |
白点担 ハクテンカタギ |
鰭長剥 Sail Fin Tang |
青の目羽太 Peacock Coralcod |
背黒蝶々魚 chaetodon |
漣 奴 サザナミヤッコ Semicircle Angerfish |
でね、尾黒目白鮫は 理研、ハーバード大、東京女子医大 を除いた第3の研究機関に 依頼してマンタから貰った細胞を 分析してもらったんだ。 ・ その結果が3月25日に CDB(理研発生・再生科学総合研究センター) から発表されたらしい。 |
漣 奴 サザナミヤッコ Semicircle Angerfish |
「全く驚いたぜ!」 といきなり武鯛が飛び出し 小さな口をパクパクさせ 分析結果を語る。 ・ 「マンタから渡された細胞は 129系統のマウス由来の STAP細胞ではなくて B6と云うマウスと B6と129系統の子供のマウスに 由来する細胞と 判明したとか云うんだぜ。 |
南洋武鯛 ナンヨウブダイ Blunt-headed Parrot Fish |
勿論、だからと言って それだけでマンタが尾黒目白鮫に 渡した細胞が STAP細胞ではないと 決まった訳ではないのだが 限りなく不透明で 益々混沌としてSTAP神託は 唯々、黄昏てしまうね。 ・ でもね、きっと神託そのものは いつの日か 再び燦々と輝く日が 来ると思うんだ」 |
笛奴鯛 forcipiger lavissimus |
ふーん、そうなのか。 解ったぞ! 北緯七度、セブンノースの 熱帯の太陽とラピスラズリの蒼を 湛えるパラオの海が何故 一瞬だけ積乱雲の白亜宮殿に 吹き抜けを造り出したのか。 ・ 竜宮劇場への花道として 吹き抜けを造ったんだろうね。 唯それだけの為にあの壮大な 白亜宮殿を造るなんて パラオの海も太陽も中々やるな。 |
鬼旗立鯛 Heniochus monoceros |
四筋笛鯛 BlueStripe Snapper |
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だがそうなると 神託を告げる白衣の巫女である マンタをプリマドンナに迎え 尾黒目白鮫や ナポレオンに役を振り当て STAP神託劇を 竜宮劇場で演じようと企んだのも 当然パラオの海と太陽だな。 ・ 竜宮劇場の観客は 仙人たった一人だと云うのに 竜宮の豪華キャストを 総出演させるなんて何を企んで いるんだい? ・ 何々総出演ではないって? そうか、そういえば 確かに大物の甚平鮫が 見当たらないな。 ふんふん、読めたぞ。 さては4月には甚平鮫の群がる オスロブに仙人が出かけると 知っているな。 ・ そこで竜宮劇場での続編を 演じ甚平鮫に 企みを語らさせる気だな。 |
四筋笛鯛 BlueStripe Snapper |
まあ、武鯛の最後のセリフから 企みは透けて観えるけど。 ・ 2005年末に発覚した 韓国ソウル大の黄禹錫(ファン・ウソク) によるヒト胚性幹細胞捏造事件や つい先月騒がれた 中途失聴とされる聴覚障害者の 佐村河内守の嘘八百事件と 同じだと言わんばかりの マスコミ報道に対する反撃が 展開されるのだろうな ・ どうやら熱帯の太陽と海は あの日、白亜の宮殿から下された 神託は正しいと 直観しているようだね。 ・ となると竜宮劇場での続編で 武鯛の最後のセリフを 受け継ぎ 甚平鮫が何を語るのか こりゃ是非とも観にいかねば。 |
青の目羽太 Peacock Coralcod |
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漣鶏冠剥 Hasovla vla ming |
紋達磨鰈 モンタルマガレイ Peacock Flounder |
海月蝶々魚 blue lashed butterfly
fish |