《C》 コルテス種多し


Swanee Reef
たった一人の森へ

Gray Bar Grunt

15本目ラパス最後のDVは
パンの形をした根の
スワニー・リーフ。

「流れがあるので
舳先のアンカー下に
直接集合します。
準備の出来た方から
どんどん飛び込んでください」
とのガイドの指示。

船尾のDVデッキから
カメラを抱えて
真っ先に飛び込む。
確かに逆流なので
舳先へ行くには
固定ロープが欲しい所。


だがメンバーは
ベテランが殆どなので
ロープ不要と思ったが・・・

アンカー下の海底で
待てど暮らせど誰も来ない。
指示を出したガイドは
来るだろうと暫く待つが
広大な海の森は
唯静寂が支配するのみ。

逆流に恐れをなし
潜行ポイントを変えたのだ。
つまりここには
誰も来ないのであろう。
それも又よし!

実はこんなチャンスを
待っていたのだ。
この静寂の海の森を
1人で堪能出来るなんて
望外の歓び。


森の花々・瘤海星
Star Fish


じっくりと森の
生命に目を凝らす。
いつもなら見慣れた海星に
立ち止まることは無い。

チームで潜水してると
そんな贅沢は許されない。
だが今はたった1人。
心ゆくまで海星に見入る。

ぐーんと接近して
オレンジと白の文様を
観察する。
コルテスAFの地味な
衣装に比べ何と明るい
お洒落な生地。


そうだここでゆったりと
コルテスの軌跡を
追いながら森を散策するのも
悪くは無い。

コルテスの華麗な
侵略者へのきっかけは
1519年11月に
やってきた。

テスココ湖上の島に
建設された壮大な
アステカ帝国の都
テノチティトランへ到着した
コルテスは
アステカの伝説に登場する
”ケツァルコアトル神”と
間違えられたのだ。

或る日海の彼方から
やって来る白い神。
その伝説の神とコルテスを
アステカの皇帝が
勘違いしたのは
無理も無い事情があった。



白銀の樹木・白萱
Fire Hydroid

皇帝モンテスマ2世は
酷く怯えていた。
宮殿が突然燃え上がり
巨大水星が出現し
更に海の彼方から11隻の
大きな船に乗って
600人もの白いスペイン人が
やって来たのだ。

皇帝はついに伝説の神が
現れたと思い
コルテスを恭しく宮殿に迎え
入れたのである。

コルテスは闘わずして
モンテスマの身柄を拘束。
アステカ大帝国は
2年後の1521年に滅亡。

『実にコルテスは
ラッキーだったんですね』と
森の白い萱が呟くように
ゆらゆら揺れる。


森に集う無数の魚
Gray Bar Grunt


Gruntとは伊佐木のこと。
鶏魚と言われるほど
美味で日本でも
お馴染みの魚である。

こいつ釣り上げられると
「ぶうぶう」と
豚のように鳴くので
Gruntと呼ばれるのだ。

何故かここコルテス海には
固有のGruntが多い。
先ずその名もずばり
縞無しの
コルテス・グラント。


次に細かい縦縞と
尾鰭付け根に黒点のある
Spot Tail Grunt。
体側後部が金黒色の
Burrito Grunt。
そしてこの灰色縞のある
Gray Bar Grunt。

最初はやや距離を置き
警戒ぎみだった
灰縞伊佐木君もさっぱり
泳がないダイバーに
安心したのか
或いは興味を抱いたのか
群れで近づいて来る。

海の中でも「ぶうぶう」
鳴かないかと
マウスピースを外して
ぶくぶく泡を出して見る。

驚いて一度は逃げたものの
又直ぐ寄って来る。
でも鳴声は立てない。
あの「ぶう」は陸での
断末魔の悲鳴であって
きっと海中では
鳴かないのだろう。


限りなく接近
Mexican Goat Fish


そうだ海底で昼寝も
悪くないな。

ゴロンと横になると
魚が海底の一部と勘違い
全く警戒心を抱かず
近づき小さな口を開き
囀る小鳥のように
飛び交う。

確かこれは赤非売知
(アカヒメジ)で英名は
Gold striped goat の筈。 
何故Mexican Goat Fish
ヒメジなのに髭が無い?
おかしいな?


一説によると
どうも夜になるとこの
メキシカンは他種とは
異なる体色変化をするらしい。
真偽の程はナイトDVで
確かめるしかない。

イサキ・Gruntは
釣り上げられると「ぶうぶう」
鳴いて驚かすがこの
アカヒメジは一瞬にして
赤く染まり恰も
有毒であるかのように変身。

夢梅色も赤く変身するけど
釣り上げられてから
警告したって無駄だよね。

例えばちょっと捉まえて
みたら危機を感じて
赤くなるかもと
手を伸べたら早いの何の。
とても
捉まえられませんでした。



これも固有種?
Blue-and-Gold Snapper


テスココ湖なんて
メキシコシティの地図を
調べても小さくて
見えないくらいだし大体
この湖は直ぐ干上がって
消えてしまったりとか。

実はね、コルテスが
アステカを征服してから
琵琶湖の5倍近くあった
巨大なテスココ湖を
スペイン人は
埋め立ててしまったんだ。

そこに現在の
メキシコシティを建設し
アステカ遺跡は
土中に消えてしまったのさ。


だから30年前に
メキシコシティの建設現場から
ピラミッドが出てきても
何の不思議もないんだよ。

誰ともなく話しかけながら
寝転がって海を
見上げていると4筋笛鯛
舞いながら白い筋を
これ見よがしにひらめかす。

あれ!4つじゃない。
6つなら六線笛鯛だけど
5つの白線だ。
これ5筋笛鯛だけど
そんなのないしこれも
コルテスの固有種かな?

それにしても寝転がって
海を下から
見上げるのはなんとも愉快。


夜の海へ
Orange Cup Coral

記録・村上映子
T
夜の海中世界は
昼間とは違うより不思議な
世界が待ち受けている。

そう知っていて飛び込んでも
なお驚かされる。


昼間岩陰に咲く
黄色い花のような
イソギンチャク様のものがあったが
なんとその花が
岩一面を覆って満開なのだ。


オレンジカップコーラル
という名前は後で知ったが
これはイソギンチャクではなくて
イシサンゴの仲間で
夜になると花のような
触手を伸ばし
プランクトンを捕食するのだ。


ライトの中に一面に揺らめく
オレンジ色の花の群。
まさに闇の花園だ。
うっとりするほど美しい。


ライトの光が届かないところは
ただ重い闇が占める。
そんな闇からいきなり手の中に
ずしりと重みが手渡された。

誰か何かを私に手渡したらしい。
と思った途端
その物体は赤黒い液体を
吐き出しているではないか。

ワー血だ!とうろたえながらも
その瀕死(?)の何かを
確認して欲しくて、バディ氏に
一生懸命見せたのだが
他のものに気を取られてるらしい
バディ氏はにべも無く
振り落としてくれた。

海中ではコミュニケーションを
とるのがとても難しい。
まして夜では。
後で、分かってたら写真を
撮りたかったのに
と言われてしまった。



夜も活発
Mexican Hog Fish
U
やっぱり後で知ったのだが
それはどうやら
アメフラシであったようだ。
噴出する液は
実は紫色だったようだが
暗い海中の僅かな光では
血の色に見えた。


意外だったのは
アシカ達が夜の海でも
実に活発に
行動していることだった。

やんちゃなアシカたちが
好奇心丸出しの大きな目で
ライトの中に顔を曝し
またクルリと回転して
闇に消えては戻ってくる。

人間も楽しんだが
アシカ達も同じくらい
楽しんでいるように見える。
多いに楽しんだ
ナイトダイブだった。
Mexican Hog Fish
ベラであることは一目瞭然だが何故豚魚なのか?
Gruntは鶏のような味がするので鶏魚とも呼ばれるが
これは豚肉のような味なのか?
それともこの魚もGruntのように「ぶうぶう」豚のような声を出すのか?



退屈の暇無し
Spot Tail Grunt
V
昼食の途中で「クジラだ!」と
スタッフが叫ぶ。
慌ててデッキに飛び出すと
鯨が併走してる。
移動中の船を取り囲む
ようにゴンドウ鯨の群が
泳いでいるのだ。

小型の鯨である。
船首の側に回って鯨たちが
潮を吹いたり
ジャンプする姿を楽しんだ。


モブラのジャンプも目撃したし
ペリカンも見えた。

船の上も
退屈している暇は無い。
Spot Tail Grunt
森に集う無数の魚・ Gray Bar Gruntを参照



どう?この模様
Giant Hawk fish
W
朝はその日のダイブの
説明を受けながら
船窓から水平線に昇り来る
朝日をみんなで
歓声を上げて迎える。

夕方はデッキに出て
海の中にゆっくりと
沈んでいくその日の太陽に
別れを告げる。

海と空を染める大夕焼け。
やがて星たちが
無数に煌き始め
月が優しい光を降り注ぐ。

夜はデッキで
満天の星を眺めながら
うとうとしてると誰かが
「こんな瞬間が人生で
一番の贅沢だなー」と
呟やく声が耳に届いてきたが
まったく同感。
Giant Hawk fish
これがゴンベだというのだから驚き!
ゴンベといえば僅か数センチしかないクダゴンベを
思い浮かべるが
こいつは50センチにもなる大型。
文様が魚としては珍しく一目見たら忘れられない。



スマ鰹の歓待
Bonito Euthynnusaffinis  

X

残念だったのは
釣上げてみんなで
かわるがわる写真まで撮った
見事な鰹。

てっきり夜の食卓に
刺身になって並ぶはずと
信じてたのに
スタッフのお腹に
収まったのか
それっきり
影も形も無かったことだ。


鰹が釣れたぞ!
今夜は刺身か?

で、最後の
たった一人のDVは
どうなったかって?

ラパスのブーゲンビリアで
ガイドのヤスさんは
呑みながら
「いやーあれ程流れが
速いと思わなかったので
ポイント変更したんですよ。
追いかけたんですが・・・
失礼しました」

おかげで最後のDVは
コルテス海を独り占めした
ような贅沢な気分。

それにしても船上での
最後の晩餐に
期待してた鰹の刺身は
本当に何処へ消えたの?


《E》 ホテル・カリフォルニアへ 



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