仙人日記
 
 その1102015年  睦月

1月1週・・初詣はやっぱ、雪富士じゃ!

初詣はやっぱ、雪富士じゃ!
2015年1月1日(木)晴後雪 三つ峠毛無山頂 1732m

1日(木) 晴雪-7.6℃(22:30)  三つ峠(所要時間2時間35分)
寒気襲来で雪を大量に孕んだ雲が、南アルプスの頭上を覆い、雪山が薄いヴェールに包まれて幻想的。
ゆっくり雪と氷の登山道を登り始めると、森の奥から元旦の太陽が光を投げかけ、雪面が柔らかな光に染まる。
毛無山で撮影し中川碑を訪ね、開運山へ。

この頃から雲の量が増え、富士山頂も観えなくなりつつあり、風花、霰が舞い始める。
山荘に着くと雪は激しくなり、1時間ほどで辺りは雪景色。グングン気温が下がり、夜にはー7.6℃。
山荘に着いてから、新潟の名酒・節五郎で新年の祝い。
菊水酒造の創業者・高澤節五郎の名を取った大吟醸で、
昨年26年の「全国新酒鑑評会」出品用に仕込んだ酒だとか。
美味くて1本空けて、酔っぱらってしまった。


【Ⅰ】 永遠の安らぎの中に回帰  2015年 新年の山

山荘を出発して、まだひっそりとしている町を走り抜ける。突如として圧巻の風景が現れた。
新春の光を早くも感受して薔薇色に染まった南アルプス連峰が、大きく幽玄な幻のごとく広がる。
灰色の雪雲が背景を覆っているのだが、
それが却って暁の山の仄かな薔薇色を一段と複雑に深みのある色彩へと導いているかのようだ。

恰も其処から先には別の世界が存在するごとく、
柔らかな曙の空気に包まれた薔薇色の山山と、その裾に広がる銀色の村。

其処には永遠の安らぎの中に回帰するかのような暖かさ穏やかさが感じられる。
存在するのに存在しない場所を観ているようで不思議な光景だ。

御坂道に設置されている温度計は-4度を示していた。
道路の濡れてみえる光沢は、路面凍結なのだから、運転は慎重になる。




元旦の初日の出・陽電子

森で迎えるご来光じゃ!
≪不安定な原子核のβ+崩壊により
生成された陽電子だ!≫


森の奥から荘厳な面持ちで
赫奕たる光を放ち
立ち昇る初日の出を観た瞬間、
脳が勝手にそう叫ぶのだ。

どうも仙人の脳は
すっかり初日の出を陽電子登場と
信じ込んでいるようなのだ。
陽子が溢れ出さない限り
原子核のβ+崩壊はそう簡単には
生じない筈。

それとも2015年は
太陽の子を名乗る陽子が過多となる
特別な年になるぞ、
との予言なのだろうか?

となると大変!
陽電子と電子が対消滅を生じ
宇宙は虚空と化してしまう。

さてどんな年になるかな!

存在を映す反存在


元日の朝トレーニング

山荘発6:55→登山口7:55、発8:10→中川碑、毛無山を経て開運山10:10、
発10:30→登山口11;30、発11:50→山荘着12:40
13893歩、9725m, 430Kcal




存在と反存在の狭間での祈り!
2015年1月1日(木)晴 三つ峠毛無山頂

生と死が互いに反転し、存在が反存在と交わり、E=mCのエネルギーを放ち、虚無に回帰する対消滅。
存在の誕生と同時に仕込まれた、決して観えはせぬ反存在が、
恰も視覚化されたが如く、雪富士の下方に映し出され、深遠な虚空を燦爛たる創生のカンバスに変える。

若しこの生と死の狭間で、祈ることがあるならば
果たして、 この燦爛たるカンバスに、本年も彩を振り撒き、造型を描くことなのだろうか!
それとも、虚空への静かなる回帰なのだろうか!



【Ⅱ】今年初めての太陽

3キロ続く御坂トンネルを抜けて直ぐに三つ峠入口への道を左折する。
河口湖の湖面の上に雄大な富士山が姿を現すと、いつも思わず歓声を上げてしまう。
雪道をゆっくり走り、登山道入り口迄車で入れた。
既に駐車場は車で埋まっていたが、かろうじて一台分空いているスペースに駐車した。
810分登り始める。間もなく、下山してくる人に次々出会う。ご来光を山頂で見た人が降りてくるのだ。
我々は森の木々の間から今年初めての太陽に出逢えた。

純白の雪面に金色の模様を描き出し、輝く太陽が挨拶してくれる。
しばし初日と戯れて、新春の森に潜んでいる春の命を感じさせる木々の香りや、
枝先の小さなきらめきを探しながら、楽しんで登る。

見上げる空の清々しい碧さ。雪の白さが目に眩しくて、サングラスを取り出す。
今年最初の雪山はサラサラの新雪で歩き易い。



鏡餅に映す反存在
陽電子はマイナスの電荷を持つ
電子の反存在で
質量やスピン角運動量が電子と同等。
電荷絶対量も電子と等しく
異なるのはプラスの電荷を持つこと。

つまりプラスの電荷を有する
陽電子を≪死体≫とするなら
マイナスの電荷を持つ電子は≪生体≫。

あれっ!正負が逆なのか?
現実の世界に存在する負の電子は
死なのか?
我々は、死の世界に居るのか?


生きてるって何!開運山1785m

反存在となってやかに生きる中川雅邦  毛無山頂直下

あの日から29年!
中川雅邦遭難の報を受け
即、駆けつけた山梨日赤病院。
既に生の電荷を失い
検死の為
全裸でベッドに横たわる雅邦君。

右腕に2か所裂傷があり
頭頂部に僅かな出血が認められたが
他に異常は無く
墜死にしては綺麗な裸体であった。

生との逢引・スビダーニエ



【Ⅲ】壮大な富士山が蒼穹の中に

何年か前に悠絽や舞瑠と元旦登山をしたときには、凍った雪でもっと歩きにくかった。

犬達と山を歩けた日々を懐かしい気持ちで思い出す。
のんびり登って、木無山山頂のビューポイントへ。眼前に壮大な富士山が蒼穹の中に聳え立つ。
山頂肩に白い雲を棚引かせその姿は一際麗しい。

ここから見る富士は実に優美であり、広がる裾野までを惜しげなく見晴らせるだけに、
その大きさを一層実感できる。


ご来光を見た多くの登山者は最早下山しているので、此処も誰もいない独占状態。
様々なポーズで何枚も写真を撮る。

中川さんの慰霊碑を探し、少し迷ったが、雪の斜面を下りて、碑に逢うことが出来た。
生前には一度も会ったことも無い人なのに、何故か懐かしささえ感じる。
彼が憧れ目指しながらも届かなかったヒマラヤの山々を、私はこの目で観て、その大地を踏みしめた。


右指の示すが過去(死?)なら左指は未来(生?)
2015年1月1日(木)晴 三つ峠毛無山頂

生の電荷を失ったその綺麗な裸体には、強烈な生のメッセージが記されていた。
天空を突き破らんばかりの勢いで、男根が垂直に隆々と勃起していたのだ。
死後硬直の為せる業にしては、あまりにも強烈な生のメッセージに息を呑む。

遭難死の2週間程前に雅邦君とトレーニングで駆け巡った雪富士が、29年前と同じ姿で佇む。
山頂に棚引く白銀の雪煙も、明るく輝く雲もあの日と何も変わらない。
変わったのは、あの燃え滾る熱情を秘めた、貴公子のような雅邦君に逢うためには、
私も反存在に還り、
正の電荷を帯びた陽電子にならねばならぬ、と云うことだけ。



【Ⅳ】時空を超えて出逢った仲間

隊長のザイルの先に結ばれているのは中川さんであるべきだったのかもしれない。
ふっとそんなことを想う。
私のヒマラヤへの憧れと彼の憧憬が同じ質だったとは思えないが、それでもきっと分かり合えるものがあるだろう。
だとしたら、私達は時空を超えて出逢った仲間、「スビダーニエ」と心の中で呟いてみる。

急激に雲が広がり始め,風花がちらつき出したが、一気に開運山へ登る。

この山頂も独占状態。富士の山頂にまで雪雲が被さり、
さっきまでの富士が遠ざかり頼りない存在に感じられる。
それでもまだ日の光が届き、空は冷たい水色を湛えている。この時間に登って来たのは正解だった。
これ以上遅かったら、富士は雲の中に隠れてしまう。

山頂でアイゼンを着けゆっくり下る。



新雪のいざない

雪雲に覆われ観えぬ富士

薄日に雪が舞い始める

元旦のご来光を仰ぎに
登山者で賑わうと
覚悟していたが
山頂には人影なし。
暫くして1人やって来たが
それだけ。

従って当然、こんなコースから
逸れた新雪斜面に
入る登山者は居ない。
聴こえるのは
風が雪面を叩く微かな
パーカッションの音色と
木々を擦り、揺らす
ストリングスの響きだけ。

開運山頂直下の下り
新雪に出逢うと
心も体も、あれよあれよと
引き寄せられ
つい踏み込んでしまう。

1785m開運山の頂で
こんな真っ新な
処女雪に巡り逢ってしまったら、
もう逃げられはしない。
「さあ、行くぞ!」

元旦、書初めのカンバスに
どんなラッセルを
刻もうか!
 
新雪を蹴立てて!
 
登り返すのも又良し!
 
新雪は愉快!



【Ⅴ】新雪にラッセルを切る歓び

山頂までの登り斜面には、木の階段が組まれ、以前のようにザレ場ではなくなっていた。
しかしアイゼンがあると、木の階段はむしろ歩きにくい。隊長は足跡の無い新雪地帯を選び、さっそうと降りる。
私も潜るほどに積もった斜面を登り返して、わざわざ新雪にラッセルを切る歓びを堪能した。
やはり雪の感触はいい。

予報通り天気はどんどん崩れ始め、帰路はもう全天に雲が押し寄せてくる。

途中で登ってくるグループに「富士山は見えますか?」と尋ねられた。
「登った時は良く見えましたが、下山するときは雲が大分増えてましたよ」と応えると、
残念そうな声で「もう雲が出ちゃってるって!見えないよ!」と仲間に向かって叫んでいた。

これから登るんじゃ無理だろうなと思いつつも、見送った。


人の入らぬ途にこそ、歓びはあるのかしら
2015年1月1日(木)晴 三つ峠の森で

全くもう、なんで新春そうそう態々登山道から逸れて、こんな雪の森に入らねばならないの!
第一、此処崖になっていて簡単に登れないのよ。
膝を着いて登っているのも、撮影の為の「やらせ演技」ではないのよ。
こんな調子じゃ、今年も思いやられるわね!



雪の舞う元旦の宴


さあ、中川君と共に新年の宴じゃ!

そう僻んで、いちゃもん付けるのは
山荘で一人留守番を強いられている
お馴染みのボン・シルバー。
降りしきる雪で真っ白になりながら
大きく口を開け
「あーおいらにも、一口でいいから
呑ましてくんなまし!」
何だかんだ云ってるけど
結局はこれが目的なんでしょ!
如何に美味しい酒を呑むか、それしか
頭になくて山に登るんでしょ。
 
山荘に着いた途端、雪は激しく!



【Ⅵ】しんしんと降る雪

車で降りながら振り返ると、往きには三つ峠の巨大パラボラアンテナがすぐ目の前に感じられたのに、
立ち込めて来た雲によってどんどん遠ざかり、やがて隠れてしまった。

大粒の雪が降り始める中を、無事に山荘へ帰りつく。
朝にはあんなに晴れ渡っていた空が、冷たく重い雲に覆われ、気温も一気に下がって来ている。
庭に出るだけでも凍りつきそうな寒さだ。霧が広がり、何もかも霧の海の底。

閉ざされた視界にはしんしんと降る雪だけが鮮やかだ。

この雪を肴に早い時間から雪見酒と洒落込んで、新年の祝い酒を酌み交わす。
新潟で仕入れた新酒がことのほか美味しくて、ついつい飲み過ぎてしまい、本物の千鳥足になる。
雪は夕方までにはやんで、真っ白な新世界を創り出した。
新しい年の最初の一日は、劇的な変化を見せて、自然からのこの上ないプレゼントをたくさん貰った。
今年も、自然に感謝して、山荘に足を運べば、きっと多くの贈り物が待っているのではないかと期待しよう。



あっという間に山荘は景色
2015年1月1日(木)晴、午後雪 

朝、山荘を出るときは雪なんて何処にも見当たらなかったのに、
山荘に着くや否や、雪は激しくなり1時間ほどで真っ白。
さて、宴の準備も出来たし、山荘ご自慢の太陽風呂も沸いたし
ほんじゃま、ひとっ風呂浴びて、山の汗を流して
新年の雪見酒と洒落れますか!



おらも混ぜてくれとボン・シルバー

うわー、ボン・シルバーの奴
本気で怒ってるぞ!
こりゃ、数の子か昆布締めか、イクラ、伊達巻でも
喰わせてやらんと
怒り狂って、冬将軍に訴え出て
山荘を雪で埋め尽くしてしまうかも?

≪いやー、酢蛸一切れと、
大吟醸とやらを、そのクリスタグラスで一杯
呑ませてくれれば、御機嫌さ!≫
とボン・シルバー。

そこで一杯呑ませたら、
ほら観てごらん、骨のくせに赤くなってやがんの!
酔っぱらったボン・シルバーて
なかなか可愛いね!
くそー、陽電子が何だかんだと
くだらん薀蓄を傾けたり
兎じゃあるまいし、処女雪を蹴散らして
散々汗をかいた後で
風呂にたっぷり浸かりゃ、そりゃ、
さぞかし、お酒が美味しいでしょうよ!

 大吟醸・菊水の≪節五郎≫じゃぞ!



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