仙人日記
 
 その102の32014年皐月
5月4週・・・蒼い天空のじゃ!



ちょっくら富士 山荘からの朝富士


輪郭を春霞にゆるゆると溶け込ませ
あー、天空の一部なのか、
それとも確たる実態なのか解らぬではないか!
それなのに、お前はあたしを
そんなにも、招こうとしているんだね。
天気もいいし
今朝のトレーニングは
富士
にしたら?

5月24日(土)晴

あれっ6時からだ!  山荘から50分
 

開門までだ40分も 料金所前

いつもは一般道の新御坂トンネル経由で
五合目に出るのだが
笹子トンネル事故の影響で
新御坂トンネルの天井板撤去作業が
5月26日から始まるとかで
高速道路経由に変更。

まー今日は24日なので通行可能だが
26日以後暫くは通行止め。
15kmの遠回りになる
中央高速道で行くとどのくらい時間差が出るのかと
試しに走ったが50分で
着いてしまうとはね。
解ってはいたんだ。
6時からでないとゲートが開かないと。
そこで少し余裕を持って
山荘を4時半に出たのだが
まさか50分でゲートに着くとはね。
 
待つのはじゃな 立派なトイレにでも




コースタイム
5月24日(土)晴

富士山
(3776m)、五合目から標高差1473m
行動時間:8時間40分

27644.19km350m、 828kcal

山荘発4:20
→スバルライン料金所(駐車)5:20着(59km)
6時開門まで40分待ち)発6:05→五合目6:30、
五合目発6:50→花小屋着9:30(食事、アイゼン装着)、
10:00発、→山頂13:00着、13:40発、
吉田大沢をグリセード、五合目駐車場15:30着、
15:40発→山荘着17:00

 山荘五合目83km(中央高速)
往復166km
(往:1時間20分、復:1時間20分)

 




元旦に竜ヶ岳で負傷した左膝とその後痛めた右膝が
どうも反乱を起こしていて治まりがつかない。
何度か半月板の話しを聞いてやって仙人は整形外科でレントゲンを撮ったり湿布したり
トレーニング量は減らさず登高スピードを落としたりして
それなりの努力はしていたようなのだ。

特に急な下りで膝に大きな負担が掛かると半月板の奴、懇願して宣うのだ。
≪お願いでござんす。
今後も高い山に登るのであればどうか、もう少し
あっしのこと大事にしておくれやす。
何しろあっしは自然治癒能力がありませんで壊れたら
それでお仕舞いなんでござんすから≫


の五合目林道
5月24日(土)晴  佐藤小屋への林道

もうすぐ6月だと云うのに、何だこの雪は!
まー山荘でも大雪で脱出出来ず1週間近くも閉じ込められのだから、より標高の高い富士山では
さぞ雪が多かろうと思ってはいたが
五合目の林道で未だこれ程の雪が残っているとは驚き!


よーし解った!
ほんじゃ、どの程度壊れて機能を失っているか、ちょっと実験に行ってみようか?
特に急な下りで膝に大きな負担が掛かる場所となると
凍てついた雪富士なんかピッタリ。

その前に温泉付きの登山、てのはどうだい?
充分温泉療法をしながら半月板にも納得してもらいながら
剣、立山辺りを登るなんて、うーん我ながら中々のアイデアだと思うのだが・・・。
半月板も渋々頷いてくれたような気がしたので、
地獄谷温泉のある室堂をベースにして、いざ剣岳へ!


除雪点・ここから登山開始
さあ、行くか!泉ケ滝手前

どうしてだろうか?
このクレヴァスのような氷と雪の裂け目を目にすると、何故か血が騒ぎ
思わず吸い込まれてしまうのだ。
初めて本物のクレヴァスに遭遇したのは1975年のヨーロッパアルプス。
アイガー、マッターホルン、モンブランなどを登り
以後39年間ヒマラヤを中心にクレヴァスとは切っても切れない深い仲となった。

こいつに分け入ると、反射的にルートファインディングの本能が機能し始め
登高意欲に火が注がれ
頂に立つことだけに意識が集中される。



いやー決して騙くらかすつもりはなかったんだよ。
3日分の行動食をたっぷり買い込んで、最新の地図も買って
アルペンルートの時刻表を調べて
信濃大町での室堂最終便に接続する電車、東山梨発11:24に乗ろうと
15分前には駅に着いたんだ。


六合目を下ろす
長く急な氷斜面の開始、吉田大沢の登り

銀箔に輝く氷の斜面と黒い森の境界線を越えると
此処は山荘から朝な夕なに眺めている、山荘の借景であるも雪富士の底辺部。
テラスに坐しビアを片手にいつも語りかける雪富士。
上手く上昇気流を捕まえられれば
パラグライダーで此処から山荘までグイーンとひとっ飛びだね。



変だな、無人駅の東山梨駅のホームの先に特急列車の≪あずさ≫が止まっているでは。
もしかして此処から特急列車に乗れるかもラッキー!と
線路をとことこあるいて車掌に訊いたんだ。
「あのー、どうして止まっているんですか?」

「いやーそれが解かればあたしも、打つ手があるんですが
何故、列車が止まったのか全く解らないのです。
あー、すみませんが線路内は危険ですので歩かないでくれますか」


眼下に玉の山中湖
 広大で気分よし、忍び寄る雲海

雲海はいいぜ!
天空と大地の狭間に漂うごく薄いレースの衣に過ぎないのだけれど
こいつが漂うと、ほらご覧よ。
大地が海の底に沈み、雲上の山塊が超孤独な唯一の存在・ノアの方舟と化し
無窮の彼方へと飛び立つ気配を滲ませる。
時空の渚に、ひたひたと打ち寄せる波の音さえ聴こえてくるようで、
雲海はいいぜ!


で仕方なくホームに戻り待つこと40分。
アナウンスも無いし、電車の来る気配無し。
大体この電車、松本駅で着9分後の14:09大町行に接続しているので
40分も遅れては、とても間に合わない。
例え大町行電車が待っていて遅れて発車したとしても
大町での室堂行最終バス時刻は列車到着の12分後の15:15だし。
この40分は最早どう足掻いても取り返し出来ないのだ。


堅いアイスバーンに食い込まず
 僅かなスリップも命取り、八合目斜面

あー頭の白いバンダナが気になるって!
いつもの山行では赤、黄、青のバンダナを日毎に変え高所の強い紫外線から
頭皮を守っているんだけど
3776mに達する富士山では、白でないと防ぎきれないんだ。
そんなら白い帽子にしたらと思うでしょう。
でも帽子は強風の吹き荒れる富士ではしばしば飛ばされてね。

あーこれ、ガラパゴスの地図になっていてお気に入りのバンダナなんだ。



ほら、解ったかい?
どう考えたって最終便には間に合わないだろう。
翌日に延ばせばいいって?そりゃ駄目さ。
明日、日本列島に張り出して晴天を齎す高気圧は明後日には東に去り
雷雨ではなく雷雪なんぞに襲われる可能性があって
登山日和は明日だけなんだ。


雪稜と雲のシンフォニー
 本八合3380mで水筒の栓を抜いたら強風で水筒がフルートになったぜ!

本日2回目の朝食をとろうと、陽介君からプレゼントされたアップル社のアルミ黒水筒の栓を抜いたら
懐かしい強風の音色が細く糸を引いてフルートを奏でるでは。
そうだった、ヒマラヤや冬富士、強風の吹き荒れるアルプスでは水筒が笛になって
いつも様々な音色を奏でてくれたんだっけ!
未だ水が沢山残っている時は高い澄んだ音で、少ししか残っていない時は低音の魅力で謳ってくれたね。
雲海とコラボして実に壮大なシンフォニーに聴こえるね。



≪ちょっと待って!
それであたし達両膝の訴えを無視して、温泉治療とかをカットしていきなり雪富士登山てのは
どう考えたってそりゃプーチンのクリミヤ半島併合とか
中国の西沙諸島でのベトナム漁船攻撃とかと同じでにゃーかや?≫

ウッヒャー何たる、しっちゃかめっちゃかの半月板。
プーチンの横暴と中国の軍事力にもの云わせた他国侵略とかが、
雪富士登山と何処でどう結びつくんだい?
そりゃまあ、60兆個もの細胞の統治者が、半月板と云う小国の意思を無視しての
横暴な権力行使と捉えれば、解らないではないが。

その上、今人気のNHK連ドラ「花子とアン」に因んでいきなり甲州弁が出てきたり。
まー、如何に半月板が必死で訴えているか理解出来なくはないけどね。


広大な雪斜面に人無し
 氷混じりの西風に立ち止って耐える

ラーメン1.5食分、鶯パン大1個、クリームパン小6個、白餡パン大1個、粒餡パン小3個、カレーパン小3個
林檎1個、こいつを朝食にして紅茶で流し込むんだ。
標高差1473mを短時間で登りきるには、これだけでも未だカロリー不足。

因みに仙人のいつもの朝食はパン1枚、フルーツとヨーグルト、ミルク、サラダと紅茶。
でもって1日2食なんだから、この朝の食事が
如何に大量であるか解るだろう。
まーパンだけで比べれば7食分くらいになるかな?
雪富士を登るにはそれだけのエネルギーが必要になるってことさ。



≪いいかい、10日前の5月14日にも此処で死者が出ているんだよ。
ちょっと雪富士を甞めているんじゃにゃーの≫
さてさて、しっちゃかめっちゃかの半月板を相手に、仙人もタジタジ。

でも結局、仙人は結果として半月板を騙くらかして、
温泉治療抜きで、とうとう凍てついた雪富士に登ってしまったようですね。
差し当たり仙人の勝ち、と云う処でしょうか。


羽毛服を着てもえる烈風
 登頂を断念し下山する登山者に撮ってもらう

撮影には苦労するんだ。
強風の氷斜面に三脚立てて撮るわけにはいかないから
いつもきょろきょろ強そうな登山者が居ないかウオッチングしながら登り、下山者に声を掛けてみる。
そうそう登っている人に声掛けちゃ駄目だ。
何しろ苦しくて登るのが精一杯だからね。

「あのー、すみませんが、若しシャッターを押す余力があるようでしたら
2,3枚撮っていただけませんでしょうか?」
でもってOKとなればベストサイトに移動し、ああだ、こうだと撮影に注文を付けるのだから
頼まれた方は大変!
「しまった、こんなことなら引き受けるのではなかった!」


転倒したら止まらぬの滑り台
 先日の5月4日、14日に2名死亡した死の滑り台

一直線に延びる赤い一本の糸。
あれっ!若しかしてと急いで凍てついた吉田大沢を下ると
遥か下方の氷面に黒い影。
近づくに従い影は大きさを増し、やがて人型と識別出来るようになり死の滑り台の犠牲者と判明。
この時の記録を探していたら別の1989年4月の当会会報の記録が見つかり
こう記されていた。

「春になり降雪が続き3mの雪。山頂で御殿場から登ってきた戸高と合流、小内院にテントを張る。
翌日、目の前でスキーヤー滑落即死、検死を行う」



頂小屋前に一人発見!
早速シャッターを
切ってもらう

一緒にに行きませんか?
と誘ってみたが

いやー、風が凄いので
此処で諦めます
(狛犬とハイ、ポーズ!)

どうして短い脚を態々高く持ち上げて、富士山頂上文字に膝を重ねたかって?
考えてごらんよ。
そもそも今回の登山は両膝の4枚の半月板の反乱を治める為だったろう。
此処まで来れたのは、痛みに耐え機能し続けた半月板のお蔭。
先ず真っ先に半月板に、この素晴らしい雪富士山頂のパノラマを観てもらおうと思ったのさ!
どうだい、この景観、君達と登り続けた数々のヒマラヤの頂を思い出すね。
 

たった一人の登なので自分撮り
5月24日(土)晴 剣ヶ峰を背景に

誰も居ない頂に立つと、肉体が質量を突然失って天空にいきなり吸い込まれる。
この肉体を失う瞬間に逢うために、ヒマラヤの未踏峰を
登り続けてきたのだろうか?


蒼い天空のじゃ!
南アルプスを背景に
久須志岳る人影
雪稜左から間ノ岳、北岳、仙丈岳、甲斐駒ケ岳

肉体を失う瞬間が
誰も居ないヒマラヤの山巓に在っても、不思議なことではないのかも知れない。
肉体が物質であることを思えば
肉体を完全に失う瞬間とは反物質との遭遇であり、光となって存在を無に帰することである。

光の回帰する宇宙に限りなく近いヒマラヤの山巓で、存在の超孤独な無への変換儀式は行われる。
そう想うと、かくも美しい蒼い天空が山巓に広がる意味が
ちょっとだけ、解るような気がするのだ。



あれっ!ピッケルにわれるぞ!
貴重な山頂写真が変だぜ!

5月24日(土)晴 富士山頂3776m・自分撮りしたら失敗

さあ、迫って来たぞ!
シャフト両面に漢字とローマ字で仙人名を刻印され、
数々のヒマラヤの未踏峰を駆け巡ってきた愛用ピッケルが、大きく口を開き
仙人を呑み込もうとしているでは。

呑み込まれるがいい。
そうして目に見えぬ細い光となって無窮の果てに回帰出来たら
存在の呪縛から解放されたお前と祝杯を挙げ
大いに呑み明かそうではないか!

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