その99の3ー2014年衣更着 |
カーテンを開いたら雪の壁が いつもは窓の外に広がる 広大な景色が雪壁に遮られ見えない。 そりゃ昨夜の天気予報では 雪とは云っていたが まさかテラスに雪山が出来る程降るとは! ・ 急いでテレビを点けて観ると下界も大変! 《東日本、記録的大雪》と題し 甲府では120年前の観測開始以来 最高の積雪で114cmとのこと。 雪の為、東横線では追突事故が起こり 東名高速で死者、雪の重みで 屋根が潰れ圧死者と続々報道が続く。 |
突如現れた雪の長城 2月15日(土)雪 あれ、夢を見ているのかな? カーテンを開いてから もう一度、眼を擦ってみる。 やっぱ、窓の外にあるのは雪の壁だ! |
雪壁の彼方に里が見える |
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窓を開けたら突然これだ! 2月15日(土)雪 山荘奥庭 |
《2》 新雪を蹴散らして 天気予報通り夕方には重い雲が立ち込める。金曜日朝から雪が降っている。朝トレは扇山へ。 未だたっぷりの残雪の上に新雪が降り積もり、雪の森を歩くのはなかなか楽しい。降り続ける雪の中を汗びっしょりになって戻ってくる。 一日中雪が降る。いつの間にか降り積もった雪は嵩を増す。 午後は早めの夕散歩。里歩きか山コースか一瞬迷うが、新雪にラッセルを切って山に登る方を選ぶ。 ・ 朝よりもぐんと増した雪の量を感じながらも、雪山を堪能すべく新雪を蹴散らして歩く。 灰色の雪世界に閉ざされ、視界の無いため、時間の感覚も失われる。 薄鼠色の、まるで水墨画のように彩色の無い風景が、しんしんと降り続く雪の中へ音もなく沈んでゆく。 夜のニュースで、甲府の気象台始まって以来の記録的大雪となっていることを知る。明日までにさらに降り積もるらしい。 |
やばい、ログの屋根が潰れる! |
積雪1m55cm あー、どんなにか 重いことだろう。 ・ こんなにも沢山の重荷を 背負っていては ログハウスの太い柱も ぎしぎしと 呻いていることだろう。 ・ 折れて倒壊するか 耐えて 生きながらえるか、 その苦悩が 目に見えるようだね。 ・ いいんだよ倒れても。 |
もう開くことさえ 出来なくなってしまったんだ。 ・ それじゃ ちょっとだけ雪を 除いてやるから 最後の力を振り絞って 開く努力をしてごらん。 ・ あー、雪の重みだけでなく 凍て付いてしまって 総ての機能が 眠りについてしまったんだね。 ・ いいんだよ ずーっと眠っていても。 |
除雪してやっと開いたシャッター! |
《3》 独特の無音の静けさ 明日の山は新雪のラッセルが大変だろうけど楽しみだと、ワクワクする。 土曜日雪の朝、独特の無音の静けさに包まれた夜明け。 どこもかしこもま白なのは分かっていたが、カーテンを開けて唖然とした。雪の壁が視野を遮り、雪山が出現しているのである。 1階テラスに面したシャッターは雪の重みで開けることができない。 森の木々の幹も半分以上まで雪に埋まり、全く違う風景が出現している。 ・ ログの屋根は、張り出した椎の木の枝に届く高さまで雪を盛り高く積んでいるではないか。 雪は未だ降り続けている。急いで点けたテレビからは、1メートル以上の積雪が甲府でも観測されていて、 それは過去最高の45センチを2倍以上も上回っているとのこと。大変なことになったらしい。 山荘の庭も一歩出ると胸近くまでのラッセルを強いられる。 ひと走りで行かれる倉庫に行くまでに10分以上掛かって隊長がラッセルして道を作る。 その後を通るにも、未だ一歩ごとに潜ってしまう。長靴を穿き上下ゴアの完全武装で、まずは駐車場まで降りてみる。 |
30分の悪戦苦闘の成果 それじゃ、雪の重みを取り除いて 動き出したいか、 眠り続けたいか訊いてみようでは。 ・ そうなのか、例え重荷を背負っても 機能が凍て付いてしまっても やっぱ、活動したいんだね。 |
電動シャッター動かず はたしてそれは良いことなのだろうか? そりゃ、その支配者にとって 失われた機能はダメージに違いないが・・・ |
雪山と化したテラス |
《4》 悪戦苦闘のラッセル しかし、そこまで辿り着くのに信じられないような悪戦苦闘のラッセルを経なくてはならない。 とうとう私が途中までしか行かれないうちに、隊長が戻って来て、無駄なので戻ろうと云う。 車はすっぽり雪の中だとのこと。午前中に雪はやんだ。 空がゆっくり雲を払い始めると、水色の裂け目が新鮮な色彩として覗く。 ・ 雪の大地と雲の間に富士山が半分ほど姿を現す。何とも言えない美しい光景でもある。 午後から再び駐車場まで降りる。 辿り着くと、そこに車を止めたことを知らなければ、車の存在は全く分からない。 傷つけないよう雪を少しずつどかして、どうにか窓を確認。道路の除雪を試みるが、ほとんど役に立たない。 |
倉庫まで10分の猛ラッセル 母屋から倉庫まで普段なら 10秒程で達するのだが 腰までの雪では1歩を踏み出すのさえ難儀。 さてそれではヒマラヤの 未踏峰の記憶を紐解きながら 久々の腰までのラッセルを堪能しようでは。 |
雪の海を漕ぎ渡る 腰までのラッセルだなんて これじゃまるでヒマラヤの未踏峰が 山荘にやってきたようなもんだ。 |
右の雪山が石卓だなんて信じられる? |
《5》 静かで美しい夕暮れ それから、里の道までラッセルをして、道路がどうなっているか確認。 バス道路も全く除雪されてない状態とのことで、明日車を使うのは不可能。 木々の枝を覆い尽くしていた雪は、風が吹く度にどさっと落ちて、夕方頃には大方の枝枝は裸に戻っていた。 小灌木は丸ごと雪の下なので姿を現さない。 眼下の果樹畑もハウスもきっと被害が出たことだろうが、本日は村人は誰ひとり上がってこない。 ・ この状態では自分の家から出るのが精いっぱいで、とても農道を除雪して偵察などは不可能だ。 見渡す限りの白い世界は夕暮の淡い桃色の光に照らされ、一層幻想的で、見る者の心を奪うが、 そこで生活する総ての人たちは、その脅威に震える思いだろう。 やがて満月に近い月が小倉山から姿を見せ、この世のものとも思えぬ静かで美しい夕暮れが訪れる。 さて明日はどうなるのだろう。 |
腰までのラッセルだぜ! 左の雪山は鳥の餌台 山荘奥庭 |
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ちっとも進まない 2月15日(土)雪 山荘前庭 抜粋V リッペに積もった雪に、 ヒドンクレバスが発達することはあり得ない。 するとこの膨らみは、大量に積もった雪が 自らの重さに耐えかね、ぶつかり合い競り上がった結果なのだろうか。 ・ もしそうであるならば、この一帯は ヒドンクレバスの巣窟になっているということだ。 雪崩から安全かと思って選んだリッペは、 とんでもなく危険な死の地帯であり、 一刻も早く脱出せねばならない。 |
抜粋U 右足を抜こうと左足に力を入れると、 身体全体が沈み込み始め恐怖が込み上げる。 両腕を前に投げ出し、思い切って体重を前方に移す。 頭を前面に突っ込むようにして、落下を食い止める。 ヒドンクレバスに捕まったのだ。 左上にルートを変更し、何とか底無し雪から脱出。 |
玄関までのラッセル これじゃ何処にも出られない |
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雪は降り続ける 山荘奥庭 |
抜粋W 後続する村上が叫ぶ。振り返ると腰から胸まで雪に塗れ、 前進出来ないと言っているようだ。ラストのピンゾーが大声でさけぶ。 「Go down ! Too much dangerous」 ピンゾーはこれ以上登るのは危険だからC2に戻ろうと訴える。 ・ 登れないと言っている2名に無理強いするわけにはいかない。 「Ok!Separate your rope. I will go up only one」 ピンゾーは危険性を強調し、今日は撤退し再度アタックしようとザイルを解かない。 村上は1人で下れるから、ピンゾーと2人で登ってくれと言う。 |
《7》 豪雪の被害の重大さ 本日の脱出は無理だとしても、その先いつ頃帰れるのか、全く情報が伝わってこないので落ち着かないで過ごす。 午後少し気温が上がって来た筈だからと、天窓を開けてみようと試みる。 しかし、どのくらい雪が覆いかぶさっているのか、天窓の下からは窺い知れない。 ・ 灰色の塊に抑えつけられ、天窓は開けようにも、びくともしない。やむを得ず、屋根の雪下ろしは諦め、車の掘り出しにかかる。 車の雪下ろしも、かろうじて半分の車体が出て来ただけで、とても車の為の道路除雪には手が出ない。 これじゃ春まで走れないか。夕方のニュースでは、立ち往生した車や列車の中に閉じ込められたままの人が、 まだ何千人と居るとのこと、豪雪の被害の重大さがだんだん明らかになる。 |
雪帽子と富士の背較べ |
屋根の上の太陽光パネルも バイクや水漕や犬小屋 冬駐車場の車さえ 雪山になってしまって まるで山荘全体がプチヒマラヤ。 ・ 数百年に一度の 地球と太陽からの贈り物と 思えば愉しいが もしや、地球温暖化の産物なら これからも この贈り物は送られ続けるのだ。 |
太陽光パネル山と富士山 |
水槽(左)とバイク(右)の雪山 |
やっと掘り出した車の窓 |
犬小屋も雪山に変貌 |
抜粋X ヒドンクレバスの巣窟上を村上1人で下らせるなんて、あまりにも無謀。 今ラッセルして来たトレールをそのまま辿って下るとしても 、トレールがヒドンクレバス上に無いとは言い切れない。 あの急雪壁さえ乗り越えれば、頂稜まで困難な場所は無さそうに見える。 ・ 1人で下るよりもザイルを組んで登り続けるほうが、遥かに安全である。 村上に再度登高を促し、ザイルを引く。 引っ張り上げるつもりで、ザイルを肩絡みにして全身の力を込めて引く。 足掻きもがき、何とか前進を試みるが、村上の身体は柔らかい雪に沈み込んだまま動かない。 これ以上雪面を刺激すると、ヒドンクレバスの入り口が拡大し落下の危険もある。 |
2月16日(日)晴〜19日(水)晴
氷柱マリンバが夜明けを謳う 2月17日(月)晴 山荘2階東窓から |
叩いてみたくなるな |
糸杉にもびっしり氷柱 |
マリンバを叩く高芝山 |
《8》 人間の力では太刀打ちできない 月曜日・火曜日 屋根の雪解けが少しずつ進むので、朝には大きな氷柱がぶる下がっている。 朝日を受けてきららかに輝く。さすがに山荘ではほとんど見ない大きく長い氷柱の光景だ。 しかし、温度の上がる日中はその氷柱がいきなり落下してくれば、凶器になり得る。屋根の下を通るときは、頭上の注意を怠れない。 陽射しはあっても思うほどに気温は上がらず、雪解けも進まない。2階のテラスに梯子を掛けて、屋根の雪下ろしが始まる。 けれども、あまりに量が多く、屋根の上には登れないので、人間の力では太刀打ちできない。 ・ 危険なので、ほんの一部を掻いただけで終了。それでも、太陽光パネルが一部顔を出したので、発電が出来ている。 陶房の屋根もいつ潰れてもおかしくないほど、重たそうな雪が積もっている。 此処は斜面の上から雪掻きが可能なので、汗をかきながら、遂に全部雪を剥ぐことが出来た。 2日間掛かっても、出来たことはその程度。里を眺めても、雪下ろしに取り掛かっている屋根はなさそうだ。 |
母屋もログも倉庫も雪が重いぜ! |
何処から雪掻きを? 2月17日(月)晴 |
《9》 丸ごと陸の孤島と化し 火曜日の朝トレで扇山を目指そうとしたが、あまりのラッセルの深さと、 雪がクラストして踏み抜いた後は膝や腿に当たると硬くて痛いので、結局北の森を一回りして戻ってくるのがやっと。 それでも小一時間かかる。相変わらず里の家々の屋根は雪に覆われ、村全体がシーンと静まり返ったまま一日が過ぎる。 餌を求めてやって来た小鳥たちが梢の先で逡巡している。 森の動物たちはどうしているのだろう。 |
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陶房の屋根も潰れそう |
《10》 隔絶された状況に置かれ やっと被害の全貌がみえて来たところらしい。 未曾有の大雪に、道路も鉄道も完全に機能を失い、地域によっては停電も加わり、果樹や農作物の被害も膨大なものになるようだ。 観測史上最高と言っても、高々120年程度なのだ。 とはいっても、山梨県人であってもこの大雪は誰も体験したことが無いと云うことなのだ。 いわば歴史的なこの大雪を、山荘で体験できたのは、ある意味幸運だったともいえる。 それと同時に、被災者という体験も僅かながらに味わった。 ・ 実際には大きな被害にあったわけではないのだが、隔絶された状況に置かれ、必要な情報がきちんと伝わってこないと云う状態が、 いかに不安や焦りを生みだすものか、 先の見えない状況には情報社会に暮らすわれわれ現代人はとても弱いのだと思う。 ヒマラヤへ何度も遠征に行って、 全く外からの情報など無い世界で、自らの理性と感性だけを頼りに、考え行動すると云う体験を経てきている。 |
強力助っ人来たる |
車の掘り出し作戦 2月16日(日)晴〜18日(火)晴 |
雪山の下に隠れていた車 |
そら、車のヘッドランプが現れたぞ! |
《11》 世界から取り残されたような気分 しかし、日常社会に戻れば、あらゆる情報はいつも手の届くところにあるような錯覚に陥っていた。 テレビのニュースを付ければ、世の中はソチオリンピックにばかり関心が行っているのかと思うほど、豪雪ニュースは後回し。 さすがに、被害の大きさが分かるにつれ、大きく取り上げられはしたものの、 肝腎の今後どうなる可能性があるのかと言うことは全くと言っていいほど伝わってこない。 ・ 情報難民とはこういうことかなと思ったりする。 ほんの僅かな時間の経験であっても、まるで世界から取り残されたような気分になる。 何年にも亘って、先の見えない生活を強いられている被災者の人々の真の辛さを想像してみる。 恐らく想像を絶する精神的苦痛なのだと思う。 |
まさか車が消えてしまうなんて! |
冬の駐車場へ |
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先に除雪した車窓を頼りに |
車は出たものの道の除雪は? |
《12》 非日常への微かな懐かしさ 水曜日 遂に中央線の普通列車が全線開通とのニュース。 本日中に帰れればと、昼ごろ歩いて塩山の駅へ向かう。 道路の両側に積まれた雪の壁が、燦燦と降り注ぐ陽光に眩しく反射する。 ・ 時間の感覚がいつもとは違って異様に長く引き伸ばされたこの数日。 やっと日常に戻れる安堵と、非日常への微かな懐かしさを抱きつつ、駅までの道を足早に歩いた。 |
4日目にして車の全貌、現る 2月18日(火)晴 山荘冬駐車場 |
世界最大規模を誇るドルフィンズ・パシフィックを訪れたのは8年前の2005年11月。 それ以来すっかりイルカの魅力に取付かれ世界の海に出かけたが イルカとのスキンシップをしながら一緒のダイビングをするのは難しく、再び此処に戻って来ることになった。 さてイルカ君は暖かく迎えてくれるかな? |