1594ー2019年  如月



甦るラサ郊外のチベット鳥葬
2月17日(日)晴 恩若峰山腹の烏捕獲檻

ねばねばと纏わりつき付き激しい重力波を発していたのは、腐った肉と食い散らかされた骨の散乱する此処だったのか!
烏が漆黒の虚無そものとなって狂った様に飛び交い、捉われた虚無が出口を求めて啼き叫ぶ。
大好物である腐肉や骨を見向きもせず、虚無が狼狽え狂乱し鉄柵に激突する。
その都度、虚無は漆黒の一部を千切りとられ、辺りに漆黒の羽を撒き散らし虚無ですら在り得なく成りつつある。

天井から無数に吊り下がる長い針金が、虚無を体現する烏を閉じ込め虚無そのものの殲滅作戦を担っているのだ。
無数に連なる平行な長い針金の間だけ、鉄柵は張られておらず外部から容易に侵入出来る。
しかし一度入ってしまうと最早脱出することは不可能。
長い針金が脱出しようとする烏の羽ばたきを許さず、烏は再びこの入口から外に出ることは出来ない。

広大な盆地を挟んで山荘正面に展開する山翳を見上げる度に、放たれる激しい重力波の正体はこれだったのか!


イオテラス正面の彷彿鳥葬現場付近からの山荘
2月17日(月)晴 恩若峰麓瀧本院からの山荘

おちょくっているのに違いない。
幾ら何でも虚空を烏にしちまって、その虚空が捉われて出口を求めて啼き叫ぶだなんて、どう考えても
著しく虚空の尊厳を傷つけている。
傷付けられた尊厳が重力波となって放射され、広大な盆地を飛び越えて山荘を射るのだ。

重力波は、ブラックホールなどの天体によって生み出された宇宙空間の「ゆがみ」が波となって伝わる現象
として2016年2月に仙人は13億年前の叫びを当ホームページに記している。
更に翌月の3月には≪重力波イベントGW150914の衝撃≫として虚空の絶叫を、カロスキューマで描写。
しかしその絶叫が盆地として横たわる銀河の彼方、彷彿鳥葬現場から
発せられているとの認識には至らなかったのだ。



光速の半分以上の速さで回転するブラックホール
3億光年先の銀河で確認(2019年1月10日米科学誌サイエンス発表)
星を呑込もうとするブラックホールのイメ-ジ (C)ESA/C.Carreau

≪太陽の100万倍の質量を持つブラックホール「ASASSN-141i」に引き込まれる星の
断末魔の叫びが観測された。
その叫びは131秒毎に繰り返され、450日以上続いたという。
米マサチューセッツ工科大学などの研究チームは、この叫びのパターンや、
ブラックホールの質量から回転速度を推定。
仙人は慌てふためいた虚空(ブラックホール)の叫びが重力波となったとコメント≫
(報道源:山荘仙人)



チベット鳥葬現場を彷彿

岩戸観音堂の千手観音像

鳥葬現場上の滝本院

≪チベットの鳥葬≫現場だ!
砕かれた肉片、
食い散らかされた骨、
群れを成して飛び交う大きな禿鷲。
禿鷲が烏に代わり、
人間の肉片が
捕らえられた猪や鹿の
肉となっているだけで、

見晴らしの良い小高い山の中腹に
結界を成し、荒涼と在る様は
どう観ても鳥葬現場ではないか!
9年間も通い続けたチベット
が彷彿と重なる。

山荘の真正面にある
小倉山の西隣にありながら
数回しか訪れた事の無い恩若峰。
高さはほぼ小倉山と同じ982.6mだが、
小倉山と異なり
登山道らしきものが無い。


杣道が僅かに見分けられるが
獣道より貧弱で、
時々獣道に迷い込んでしまう。
植林された森が続き眺望も全くなく
登っていても愉しくない。

この峰から源次郎岳を経て
大菩薩に縦走を試みたが、
藪と杣道の消失で
登高を断念したことがあった。

それ以来すっかり遠ざかっていたが、
山荘から真正面に観えるなら
その中腹辺りの拓けた場所からは山荘が
良く観えるに違いないと
バイクに跨りひとっ走り!

その山腹に突如現れたのが
≪チベットの鳥葬≫ならぬ
≪コウシュウの鳥葬≫だったのだ。


岩戸観音堂

肉に群がり捕獲された烏



チベット壁画の祈ると鳥葬
 涅槃への旅立ちか、虚空となった肉体!

虚空と対峙出来るのは涅槃以外にはあり得ない。
仏教の究極的な実践目的とされる煩悩を滅尽し、悟りの智慧を完成した後に達することが出来る涅槃をぶち込めば、
若しや虚空に色が着くのでは!
なんぞとぼんやりした隙間風の吹く仙人の脳味噌に、ひらり舞い込んだ1枚の枯葉。
葉全体の5分の1程をくるりと巻いた何処と云って特徴の無いありふれた枯葉を、為すこともなくじーっと見つめる。

この巻いた部分の空洞に、若しや越冬中の虫が潜んでいるのではと、葉が折れない様にそっと巻きを解いてみた。
内部はやや黒ずんではいるものの虫の気配無し。
4本の葉脈が中央の太い葉脈から放射状に延び、最上部の葉脈の先端だけが裂けて、そのままプツンと虚空に消えている。


虚空仏陀のつ光
2月24日(日) 居間

虚空と涅槃のアンブラッスマン(enbrassement)なんて
ガウタマ・シッダールタが考えるほど深刻ぶらなくても、
もっと容易に実践目的化されるのではと、
その枯葉の裂け目が独り言ちたような気がしたのだ。

虚空を埋めることは出来ないと充分に認識しつつ、
尚且つ虚空にぶち込む意欲を持ち続ければ、その行為は
実践目的化され、
虚空とのアンブラッスマンは幻覚のスクリーンに翳を堕とすのでは!


虚空と涅のアンブラッスマン
2月25日(月)曇晴 イオテラスから望む鳥葬現場

驚いたことにその思索の結果、仙人が実践したのはイオの空っぽなテラスに、
プラスチックで出来たハーリンの真っ白なテーブルと椅子を2脚ぶち込むことであった。
ところがどうだ!イオの空虚でしかなかったテラスが、実に生き生きと詩を歌い始めたではないか!
≪槃≫とは虚空の最奥部に潜む愉悦だったのかと仙人は開眼。

うーん、仙人の脳味噌は確かに究極に醗酵し、最早脳味噌の原型どころか機能も失い、
これ以上の分解はあり得ない回帰を成しているな!



小倉山(右)、扇山(中央)、小楢山(左奥)

山荘アップ
チベットの首府ラサの北に
大きな岩がゴロゴロした禿山が連なり
ラサ市街を見下ろしている。
チベット遠征登山で9年間通い続けた
ラサの常宿は
ラサ河近くのヒマラヤホテル。

此処から色拉(セラ)路を真北に
進むと川口慧海や多田等観が
滞在した色拉寺がある。
繰り返し足を運びすっかり
馴染みの寺となったが、寺よりも
この寺の裏側にある
鳥葬現場に唯一人足を踏み入れた時の
衝撃は今もって鮮やかに浮かぶ。


山荘から見上げた恩若峰の
赤茶けた台地に
皮を剥がれ骨が剥き出しになった
人体と同じ大きさの肉片に
遭遇した時、心象は一気にラサへ
ぶっ飛び
再び衝撃に捉われた!

山荘から日々見上げていたあの場所こそ
ラサの鳥葬現場だったのだ。
余りにも残酷な場面なので1996年には
外国人の入域は禁止された。
違反者は投獄、罰金の刑に処せられる。

最初に訪れた1998年には
人影もなくただただひっそりと不気味に
肉片が転がり数十羽の巨大な
禿鷲が飛び交っているだけであった。

山荘更にアップ

小倉山(右)、扇山(左)



盆地の彼岸から発せられる鳥葬現場の重力波
3月4日(月)雨 グーグルマップのイオテラスと鳥葬現場


イオの空っぽなテラスが1つの虚空を生み出したことは確かである。
虚空そのものは認識外に在る。虚空が虚空である為には、虚空が自らを認識する結界を引かねばならない。
テラスが小さな結界であるなら、テラスの虚空は仙人に認識を迫っているのだろうか!
虚空の尊厳を傷つけ、おちょくってさえいる仙人が放り込んだ真っ白なテーブルと椅子に詩を歌い始めた虚空の意図は!

色を失った白装束の如き真っ白な椅子に座し、
盆地の彼岸から発せられる鳥葬現場の重力波を全身に浴び、仙人は鳥に啄まれ徐々に肉を失っていく。
先ず内臓が失われ肋骨が露わになり、やがて大腿骨も空洞を曝し、白い骨が結界となり人型の虚空を生み出す。
ブラックホールの重力波に呑込まれ断末魔の叫びを発しているのは、「ASASSN-141i」に引き込まれる星ではなく、
仙人そのものであると仙人が気づくまで、虚空は詩を歌い続けるのか。

幾らでも歌うが良い。漆黒を毟り取られお前はもう虚無ですら在り得なく成りつつあるのだ!



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