仙人日記
   その96の22013年霜月

11月2週 ・・・黄昏の柿簾
高芝山と
11月11日(月) 曇 

雲海に山桜の紅が
滲んで
高芝山の蒼黒い山腹に
迫り出し更に
発光する干柿の彩をも
呑み込もうと
山荘に迫る。
剥かれた裸の柿同士が
くっ付いては
いないかと観察する仙人。
僅かでも接触していると
黴を発生するのだ。

小倉山の裾野を覆う
雲海が山荘迄
這いあがって来ると
接触している干柿は
霧に濡れて一層
黴化による死を加速する。

紅葉の彩も柿の光も
拭い去る雲海は
躍動的な美を
演出しつつ、いつだって
死を孕んでいるのだ。

小倉山と雲海に浮かぶ・柿
11月11日(月) 曇



スタイルに身を固めて原野へ

ザイル、梯子、高は柿採取3種の神器
山でなく原にクライマー出現?
11月9日(土) 晴

「ちょいと御兄さん、ザイル担いで何処へ行くの?
そっちへ行ったって在るのは芒ばかりで何処にも岩壁なんてありゃしないよ」
そんなこと云われなくても解ってます。
きっとザイルだって嘆いているに違いありません。

「おいおい、ここ暫くロッククライミングにも連れてってくれないし放りっぱなしで
寂しくて泣き暮らしていたけど、やっと声が掛りさて出番だと思ったら
木登りかよ。俺様を何だと思っていやがるんだ。
あんまり甞めるなよ」


紅い実を追っての彼方まで登るぜ!
11月9日(土) 晴

うーん、なんとも良い空だね!
柿の大樹が一点の疑いも持たず、あの無窮に落ち込む碧の虚空に向かって
恰もあそここそがあたしの生命の原点なのと信じているかの如く、枝の総てを延し
実に生き生きと宇宙を抱え込んでいるね。

さて、それではちょっくら仙人も柿の大樹に攀じ登り
柿の枝の1本になって
宇宙を抱え込んでみようか!




更に刃を当てるだけでなく当ててから
高鋏の末端にある鋏レバーを引かないと枝は切れない。
左手で長い高鋏を支持し右手でレバーを押す。
この2つの作業を片手でやるなんてとても不可能。

あーザイルの使い方かい?
それはね、自分の体の位置より高い幹にザイルを固定し
そこからランニングビレーをとるのさ。
つまり活動範囲の長さにザイルをランニングさせ
その先をハーネスに結び付けるんだ。
これで落下距離は最小限に食い止められるのさ。
ザイル保で両手をフリーに

あーどうしてザイルなんか使うかって?
それはね、両手を自由に使えるようにしないと柿を
採ることが出来ないからさ。
長い高鋏を延して梢の柿の細い枝に刃を当てるのは
片手ではとても無理。
 


大収500個くらいあるかな!
11月10日(日) 晴

籠に詰めた柿を原野からテラスへえっちら、こっちら運ぶ。
1籠20kgもあるので原野から山荘までの登りは重くて重くて、えらいこっちゃ!
高い防獣フェンスに開けた柿収穫用の手作り扉が大活躍。
フェンスを扉大に切り取って登攀具のカラビナで繋いで蝶番にした簡素な扉なのだが、これが無いと大変。
フェンスの大扉がある原野の下まで戻り再び山荘へ登り返さねばならないのだ。

山荘奥庭の柿も収穫しテラスに集めたらなんと12籠にもなったでは!
熟して柔かくなった柿を取り除いて、さあ柿剥き開始!


今時、女工史じゃあるまいし
休憩・昼食なしで朝10時開始夕17時終了  剥いて干した柿数421個


カレン・ラッセルの「帝国のための糸繰り」じゃあるまいし、これじゃいつしか柿になってしまって
もう人間に戻れなくなってしまいそう。
あーこうして柿を剥けば剥くほど大日本帝国は外貨を獲得し軍艦と兵器を手に入れ、戦争へと突っ走るのですね。

絹と柿がいつしか入れ換わり暗い女工哀史の時代を思いやりつつ、唯ひたすらに長く辛い労働に勤しむのでした。
せめてもの救いは背後に流されるジャズの音色。
あーこんなもんで騙されて人間を捨てて柿になって堪るか!
あーそれにしてもこの柿の多さを、歓ぶべきか哀しむべきか?



釜で火をいて

干柿をシートでって

硫黄の粉末を燃やす


硫黄燻蒸
硫黄の燃焼によって生ずる亜硫酸ガスが、はく皮した果実面の水分に吸収されて、
タンニン物質の酸化を防ぎ、干し柿の黒変を防止すると同時に、
微生物の発生を抑え、乾燥を促進する効果がある。
1立方メートル当たり20〜30gとして、燻蒸する時間30分を基準。 



ほらきそうな顔してる
処理せねば
11月11日(月) 曇

吊るした柿簾を
シートで覆い密室を作る。
窓のシャッターを下ろし
柿簾の下に釜を置き
硫黄燻蒸の準備完了。

新聞紙に硫黄粉末を載せ
火をつける。
暫くは何も感じなかったが
やがて硫黄温泉の
数百倍もする
強烈な刺激臭が弥漫し急いで
密室から逃げ出す。

シャッターと2重ガラスに
護られているはずの室内まで
硫黄臭は侵入し
部屋中が硫黄臭の氾濫。

だがしかしこれで
黒黴も青黴も毛黴も死に絶え
裸の柿は
健やかに美味なる枯露柿に
成長出来るのだ。

猛烈にくて参った!


柿はそのまま柿ゼリーに
11月11日(月) 曇

柿は本来渋いのである。
甘柿は渋柿が突然変異したもので、何故か日本特産の品種らしいのだ。
日本と云う風土だけが突然変異を産み出すとは考えられないので、突然変異を仕掛けた誰かが居るに違いないと
睨んでいるのだが・・・・・。

柿が渋いのは柿に含まれているタンニンが原因である。
タンニンが、舌や口腔粘膜の蛋白質と結合して変性させることによって渋味を作っていると言われている。
従って渋味は厳密には味覚の一種というよりも、この蛋白変性によって生じる痛みや触覚に近い感覚なのだ。
ところでこのタンニンは水溶性のものと不溶性のものがある。
水溶性のタンニンが含まれた柿は渋く、不溶性であれば舌の蛋白質とタンニンは結合しないので甘い柿となる。

で、渋柿も熟してとろとろになると水溶性タンニンが、不溶性となり甘くなってしまう。
こいつが滅法美味いのだ。
さて、それでは早速ヨーグルトのトッピングにして彩と味を愉しむことにしよう。



雪の伯夫人 Contessa del Neve
枯露柿を甘露に育む富士雪 11月11日(月)曇テラスより

この枯露柿と呼ばれる干柿を最初に山荘で造って味わった時の驚きは今も鮮明に残っている。
果物にもケーキにも無い深く蕩ける甘さに一発でノックアウトされてしまったのだ。

だが皮を剥かれた裸の柿が極上の甘さにメタモルフォーゼするには、黴との戦いを制さねばならない。
剥かれたばかりの裸の柿は黴にとって絶好の獲物。
その大敵をやっつけてくれるのが、硫黄燻蒸とこの雪富士から吹き降ろす冷たい風。
この二人三脚無くしてはあの絶妙にして極上な甘さは完成しないのである。



の柿簾

あの光の中で今わたしは
自らが作り上げたDNAの二重螺旋を
喰い入る様に凝視し
杯を傾け酩酊しているのだ。

この瞬間こそが69年の星霜を経てやっと
辿り着いた唯一の真実であると
素直に感じられるのは何故だろう?
柿簾を眺めながら
今日と云うひとひの労働の歓びに浸る。
黄昏の蒼を背景にして
剥かれて裸になった無数の柿が
DNAの二重螺旋のように絡み合いその中央に
もう1つの異次元の光を灯す。
 
3日間の働にログでも乾杯!



略奪や暴力が発生しているレイテ島タクロバンへは2年前の2011年2月にダイビングで訪れている。
まさかその地で900hpaを割り込む895hpaと云う信じられぬ超低気圧の台風が襲うとは!
死者3637人のほか未だ行方不明者が多数居るらしい。
ダイビングに時期が重なっていればその死者か行方不明者の中に加わっていた可能性もある。

それにしても懼れていた超低気圧がこんなにも早くやって来るとは!
小惑星の衝突と同様、地球の温暖化等による劇的な気候変動を常日頃懼れていたが
遂にその日がやってきてしまったのだ。
原発事故で火力発電が増え、京都議定書による温暖化防止は遥かに遠のき
温暖化だけでなく大気汚染をも進め
なりふり構わず人類はただただ物質的豊かさを追い求めていく。
人類による人類の自爆の日は目前に迫りつつある。
さて我々には何が出来るのだろうか?


今週のBigニュース 11月8日(金)  世界の観測史上初めての895hpaまで発達した
台風30号で家を失った人は約300万人。死者は3637人(17日現在)に上り、さらに増える恐れがある。甚大な被害を受けたレイテ島タクロバンでは略奪や暴力が発生している。
海面上での平常時の大気圧は、1013hPa程度とされる。台風30号の場合、上陸前の11月6日18時の時点では940hPaだったが、8日0時には895hPaまで気圧が下がっている。
単純計算だと、上陸時には平常時と比べて海面が1メートル以上も上昇していたことになる。
現地の映像を見ると、大型船が陸に乗り上げ、家々はがれきの山と化し、車はひっくり返るなど無残極まりなく、津波に見舞われた被災地のようだ。
同じ国内でも
マニラは「晴れ間も出た」と聞くと、あまりにも対照的だ。


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