仙人日記
   その96の32013年霜月

11月3週 ・・・剣ヶ峰:未開の山々へ

新雪の道無き山・峰へ
11月16日(土)晴 剣ケ峰南斜面の登山開始口


《1》 剣ヶ峰へ

昨日降った冷たい雨が、山では新雪となることは当然なのに、何故か少しも雪のことを考えずに、
晴天に浮かれて、ゆぴてる隊は剣ヶ峰に向かった。
林道の通行止めに関しては、しっかり下調べをして、
何と昨日(
15日・金)の午後、柳平で林道のゲートが閉じられたらしいと知る。

しかし、林道歩きは
2キロ程度なので歩こうと決め、せっかくの晩秋の快晴を逃すまいと、
朝食の具だくさん麺類を食べて、出発。
晩秋の朝陽を受け、道中には輝くばかりの深紅の紅葉や黄金の公孫樹、雑木林も
この季節特有の豊かな色を惜しげなく見せてくれる。
ちょうど1時間で目的地に着くと、予想通りゲートが閉められている。


コースタイム
11月16日(土)晴
剣が峰(2053m)、塩水山(1758m)、23089歩 16162m 697kcal

山荘発7:40→柳平8:40→鶏冠山林道分岐9:20→剣峰南峰10:30→峰10:50着、発11:15→
林道分岐12:00→
塩水山12:40→柳平14:00着、発14:05→山荘着14:45着
 山荘ー柳平間28km、往復56km(往:1時間、復:40分)
 


 昨日の雨が標高1500m以上では雪で、林道は柳平で閉鎖。
朝になってふと心配になりPCで調べたら昨日13:00から閉鎖とわかり一瞬迷ったが
柳平から歩くことにして決行。メレルの新しい靴の履き初めが思わぬ初雪となり嬉しい。
しかし如何にメレルの踝まで覆う完全防水の靴と云えど、所詮スニーカーでしかないので長時間ラッセルは無理。
 スパッツも無いので靴の上から雪が入り込み最後はぐっしょり。
塩水山の下りで入山路と異なるルートを選び降りたが迷う。
登山中に一滴の水分も食糧も口にしなかったので、
山荘に着いて太陽風呂を浴びてからテラスで呑んだビアのまー何と美味かったこと!
 こうなるとどうも登山の本当の目的は、この最初のビアの一滴を堪能する為なのではと疑いの眼差し!
  ジー!





で、ちょっと寄り道じゃ!


登山道も無い未開の山々を駆け巡り
山荘に戻り、紅葉に染まる太陽風呂で汗を流す。
心地よい筋肉疲労と、谷の真清水で仕込んだ山荘ビアに酔い痴れ
さてそれでは未開の山々の地図でも作ろうかと
パソコンを開いたら
いきなり飛び込んできたのは
暫くご無沙汰していたハッブル宇宙望遠鏡の最新画像。

もう地図作成なんぞ完全に吹っ飛んでしまい
画像に夢中でのめり込み
想いは遙かなるキャッツアイ星雲へ。
更にソンブレロ銀河に惹きこまれ、赤色超巨星V838 Monで
完全にノックアウト!


キャッツアイ星雲
Photograph courtesy NASA, ESA, HEIC,
and the Hubble Heritage Team (STScI/AURA)

複雑な形のキャッツアイ星雲は、
死にゆく星の外層から噴出された
同心円の気泡と高速ジェットで形成される。

この星雲が層状に見えるのは、ガスが
1500年おきに放出されたことが
原因だとも言われている。


ソンブレロ銀河
Photograph courtesy NASA and
the Hubble Heritage Team (STScI/AURA)

M104ソンブレロ銀河を真横から見た画像。
NASAのハッブル宇宙望遠鏡は
多くの驚くべき画像を撮影してきているが
これは特に印象深い。

M104は地球から遠く2800万光年の
距離にあるが比較的明るく見える。
その形状からソンブレロという名前で知られており、
小口径の望遠鏡でも容易に観測が可能だ。


赤色超巨星V838 Mon

赤色超巨星の光のパルス
Photograph courtesy NASA
and the Hubble Heritage
Team (AURA/STScI)

2002年に赤色超巨星V838 Mon
から発せられた光のパルスが、
宇宙塵の雲を明るく照らしている。

星の周囲に見える直径数兆キロの
印象的な渦巻きは、
2004年にハッブルが
この画像を撮影するまで
存在が認識されていなかった。


えっ!
山荘の太陽風呂に入って
山荘ビアを呑みたいって?
ハッブルの宇宙へと
目を奪ったとか云うあの瞬間を
体験したいって?

そりゃ無理だが、
それじゃせめて山荘の
太陽風呂からの
紅葉銀河をお見せしよう。
ほら、じーっと観ていると
何処か赤色超巨星V838 Monに
重なって来ないかい?


《2》 今冬の初雪

驚いたことに、ゲートの先は雪と氷のミックス地帯、滑らないよう注意深く歩きはじめる。
ゲートが閉められた理由はこの雪なんだ。
今冬の初雪、嬉しくなりながらも、スニーカーに毛が生えた程度のハイキングシューズの足元が気になる。
防水はされてないので、濡れることは覚悟しなくては。久々に厚手の毛糸の靴下を穿いてきたのは正解か。

車も人も通らない林道は静かで快適。真っ青な空に、葉を落とした大樹の枝が美しいラインを描き出す。
白銀に輝く雪富士も優美な姿を現す。
40分登ったところで、再び通行止め。

工事の車両が入っているので、工事人に剣ヶ峰への道を確認すると、方向は教えてくれたが登山道への標識は無いとのこと。

見当を付けて、登り始めるが、クマザサの生い茂る斜面は全く道なき道となる。
雪に覆われたクマザサの上を歩くが、たちまち靴の中にも雪が入り込む。

歩き難くてもたついているうちに隊長はどんどん斜面を上って行ってしまった。
姿が見えなくなったので、トランシーバーをオープンにしておくよう声の支持がある。


どうだ、山荘浴室紅葉銀河で勝負じゃ!
Photograph courtesy SAKA and
the Intoxicated Ascetic Team (Jupiter/Cottage)

星の周囲に見える直径数兆キロの印象的な渦巻きは、
2004年にハッブルがこの画像を撮影するまで
存在が認識されていなかった。


とNASAは記しているけど、SAKAと両方の画像をじっくり観察すると
その直径数兆キロの印象的な渦巻きこそ実は山荘であると気が付くんだ。
えっ気がつかないって!
あーそういう人には山荘のお風呂に入っても美味なる山荘ビアに酔い痴れても
銀河への遙かなる旅はとても出来ないね。
あの楓や欅の紅い葉の一枚一枚が、赤色超巨星の光のパルスに
観えないとしたら、哀しいかな君には銀河鉄道への切符を手にすることはできないんだ。

あれ、これって単なる酩酊した呆け仙人の戯言じゃない?




交通 鶏冠山林道分岐

登山開 柳平ゲート

登山口をめて 鶏冠山林道
思わぬ初雪に吃


さて何処からろうか?鶏冠山林道

大空に延びる山(ブナ)

雪の白に負けぬ岳

昨日の吹を記す大樹



《3》 木の幹に熊の爪跡

クマザサの斜面を抜け出すと、岳樺の森となり歩き易くはなる。
ラッセル跡を辿るようにと言われるが、広すぎてそのラッセルが見当たらない。

上を目指して、雪面を登り続け、最初の南峰に至る直前でやっとラッセルを発見。
後はトレールを辿れば迷わないと一安心。
ところが途中で、そのラッセル跡が2本に別れ、初めは気がつかないまま進みかけたが、
どうも熊かなと思われる足跡が重なっているように見える。

おかしいなと確認してみると少し上部に人間の足跡がしっかり刻まれたルートを見出す。
あわや釣られてしまいそうになったが、慌てて笛を吹きならしながら歩く。
そういえば登り始めの木の幹に熊の爪跡が在ったのを思い出す。

隊長から「登りにかかります」という交信が入ってから15分程遅れて、ようやく登り斜面に掛かる。
薄暗い林の中で再びトレールを見失うが、コールが聴こえて来たのでもう間もなくだ。
「もうずっと待ってるんだから、最後は急いで!」という隊長の声がする。
雪の枝を掻き分け、山頂へ出る。


吹雪のが残る案内板を見つけたが・・・



《4》 眩しい白い大地

太陽が降り注いで眩しい白い大地と、抜けるような青空が待っていた。
一本の木の幹に手作りらしい標識が取り付けられていた。
<剣が峰・2053m>
此処は
2mを越える高さなのだと改めて見まわすが、眺望はさほどない。
写真を撮って、すぐに下山。クマザサの上には雪が積もっていて、登りより下りは遥かに滑りやすい。
「滑るから注意して!」との隊長の声が届いた時にはもう滑って尻餅をついていた。

何度も滑りそうになりながら、クマザサの斜面を一気に下り、登りとは違うルートを取りながら、ぐんぐん下る。
此処でも先行する隊長はたちまち薮の彼方へ。トランシーバーが役立つ。
指示通り、沢の源頭の雪の途切れたところから一気に下ると、林道にそのまま出られた。
入山した場所より、大分上まで入っている。この沢沿いに登れば、山頂までは更に短く簡単に登れるのであろう。

林道を戻り、工事現場に着くと、隊長と合流できた。
靴の中で、濡れた靴下が水分を含んでいるのが分かる。



雪は深くなり登山路は

森の木々は吹の跡

雪の無い熊の斜面求めて

さてこれは道か?



《5》 次は塩水山へ

でも、あとは林道を下山するだけかと思いきや、次は塩水山へ。
案内板にも載っていない山である。

旧林道へと分岐している場所があり、多分その道は使われていない廃道となっているのだろう。
大きなゲートに厳重な施錠がされている。しかし道は広く歩くのに快適だ。

はっきりと別れる日蔭と日向では、全く違う。

日向は太陽に照らされ、雪はもう融けて乾いているが、日蔭はカリカリと凍った雪道。
太陽の威力を感じさせられる。
今降りて来た剣ヶ峰の山容を樹林越しに眺めながら歩く。
塩水沢という名称の沢があったので此処から名前がとられたのだろう。
この山も入り口が分からなかったが、林道から笹原に代わるところで、赤いテープが木に結び付けられているのが目に入る。

マークに違いないとテープの跡を追う。




初めてるマーク

さて山はどの辺り

き山になぜ標識が?

履きめのメレルが嬉しくて

自分りでパチリ

やっとわれた村上

は雪の森

しながらの登頂


《6》
 沢から再び登り返して

次々にマークは表れるが、直上すれば近いだろうにと思われるにもかかわらず、
沢沿いを迂回しながら登って行くようにルートが採られている。

稜線に出ると、クマザサの中に倒木や木の根が多く足を取られやすく歩き難い。

既に到着した隊長が示すのは、赤錆色に変色してかろうじて読める山頂標識。
その向かいにある古木に赤いスプレーでかろうじて判読できる<塩水山>の文字。テープを付けた人の仕業かな?
下山は直ぐと思ったのだが、此処で予想外の展開に。

決して歩き易かった訳ではない登りのルートを止めて、クマザサの中をまっすぐ降りようとしたのだが、
全く何も目印になるものも無い同じような地形で、下りても降りても、林道に出ない。

一旦は沢まで出て、沢伝いを下ろうかと試みたが、どうも、方向的に倉沢山の方へ向かっているようなので、
沢から再び登り返して、もう一本別の沢を渡りようやく元のルートへと戻れた。
あのマークは、実は考え抜かれルートだったのだろう。

この短い彷徨で、熊笹の雪が靴の中へたっぷり侵入して、林道へ出た時には靴の中がチャプチャプど音を立てそうなほどだった。




ちょっとってみようかしら?

剣ヶ峰の火だって? 

花崗閃緑岩を直に貫いたとか
   
高さ45m、幅27mの山岩体
 

やっと別出来る標識

うん、確かに塩水山の
 
スプレーで塩水山と

どうにかめるね



《7》
 初雪の山に乾杯!

さすがに毛の靴下はありがたく、幸い凍傷も免れたが、晩秋の山行としては、少々甘かったなと反省。
(無論替え靴下は用意してたが使わず済んだ)
両山とも、熊笹に覆われた山だったなと振り返る。
林道を下り始めると、結構勾配もあり、こんなに長く登ったかなと感じる。
しかし気持ちの良い林道歩きで、通行止めが却って、今日の山行に味わいを与えてくれたような気がする。

熊笹歩きだけではきっとこの晩秋の豊かな山の空気感を満喫するには至らなかっただろう。


ちょっとした冒険も加わり、実際の山以上に心象に残る山になったような気がする。
帰路は、往きよりも更に速くて、3時前に山荘に帰り着く。
まだ太陽の光に包まれながら、山荘の一番美しい季節を愛で、初雪の山に乾杯!
5時間以上の山歩きで、全く飲み食い無しだったご褒美の山荘ビールが何と美味しかったことか!
忘れられない、山がまた一つ増えた。


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