その81ー2012年葉月 |
8月1、2週・・・豊かな山荘の夏の贈り物
沢山の大きな向日葵が山荘の夏を謳います 8月1〜2週 (7月の編集に時間を取られ遅れました) 人間より遙かに大きいんだぜ!2メートル以上あって並んで見上げても花は頭上のずーっと先さ。 勝手に咲き出した向日葵がまさかこんな風に山荘を背景にして 咲き乱れるなんてまるで夢のよう。 嬉しくて山荘の周りをうろうろしては向日葵を見上げ《うーん、此処には少年の夏が確かに在るな!》と 独り悦に入っているのでした。 |
旧少年は森へ蔓を採りに 8月5日(日)晴 西の森 太くて長い立派な蔓が これ見よがしに樹から垂れ下がって手招いているでは。 きっと山荘の大きな窓を吹き抜けたお喋りな風が 森にやって来て皆に話したんだ。 ・ 《ねえねえ、山荘にはね変梃りんな花器が幾つもあってね 大きな穴が開いていてそこに 太い蔓を突っ込んでぐるぐる巻いて取っ手にしたりして 飾ってあるんだよ》 |
「ふーん、れんちゃんと云うんか」と云ったら 「違うよ、れんちゃんじゃないよ」 あれ、間違ったか!確か今「れんです」と名乗ったのに? まさかその《ちゃん》が 気づかなかったのだが、どうも《君》と 呼んで欲しかったようなのだ。 ・ 「れん君、いぶき君、つかさ君か」と言い換えたら 顔がくしゃくしゃになって大喜び。 うーん、こんな処で本物の少年に出逢えるなんて嬉しいな。 そうか、こんな朝早くから少年が森に居るのは 夏休みになったからだ。 手には捉えたばかりの彼らの獲物・兜虫が踊ってました。 |
新少年は森で兜虫を採ってました 7月29日(日)晴 座禅草の森 |
この立派な蔓はその風の話しを聴いて 山荘の花器に逢いたくなって 山荘主の通る森の小道に 垂れ下がって待っていたんだ。 ・ よーしそれなら今、磁器土で作陶してるから それで造った花器にお前を使ってやろう。 |
香り高き枝豆 (林檎畑) |
朝の主食唐黍 (葡萄畑&西畑) |
不作ピーマン (中畑&葡萄畑) |
大きな豆のモロッコ (葡萄畑) |
豊かな山荘の夏の贈り物明暗 野菜、果物がどっさり 1袋300g程の枝豆が 地元スーパーで390円もするのだ。 高過ぎるぜ。 今年は開拓したばかりの 林檎畑で茶枝豆がしっかり 実を結んだので買う必要はないが 敢えて買って 山荘の枝豆と味比べをしているんだ。 ・ 両方茹でて交互に食べてみる。 先ず市販物を食べてみる。 一応枝豆の味はするが香りは 無いに等しいな。 次に山荘物を食べると歴然たる その違いに驚くぜ。 豆の甘さが決定的に異なるんだ。 豆の大きさ、鞘の色、形は市販物の方が 優れているが 味、香りは山荘物が遙かに勝っている。 ・ 茹でている段階から香りの違いは はっきりしているが これ程までに香り、味が異なると 同じ枝豆とは思えないな。 ・ 確かに枝豆の栽培は易しそうで 実に難しい。 初心者向きとされているが 連作を嫌い肥料を嫌い 水分不足に弱く カメムシ類、シンクイムシ類等の 被害を受けやすい。 ・ 根に付着している根粒菌で 空気中の窒素を自ら取り込み育つので 肥料をたっぷり施し良く耕運した 山荘のような畑では 葉ばかりが育って 実が大きくならなないんだ。 ・ 何度も失敗を重ねここ2年程は 収穫出来ず今年こそはと 枝豆用に林檎畑の下を開拓し種蒔きし 雑草取りに明け暮れた。 その結果の甘くて香り高い枝豆の 収穫であるから格別に嬉しい。 ・ だが逆に連年豊作で秋まで 収穫が続くピーマン、茄子が今年は 原因不明な不作。 ゴーヤーは市販されている種は発芽せず 昨年のゴーヤーが勝手に発芽し 豊かな実りをもたらしている。 ・ トマトは今年の最大の課題。 ミニトマトは毎年豊作なのだが 大きなトマトは罅割れ 虫に喰われ完熟前に落ちてしまい 収穫出来ない。 そこで今年は苗の段階からしっかり 観察し余分な枝を切り落とし 追い肥を施し支柱を補強。 その成果あって大きくて甘いトマトが沢山。 ・ 唐黍は夏の始めに冷たい日々が続き 発芽せず数回にわたり 種蒔きを繰り返しどうにか発芽させ 収穫に漕ぎ付けたものの 収穫量は例年の半分程に留まった。 ・ 無花果は髪切り虫の猛攻撃を受けながら 大きな芳醇な実を次々齎している。 よくぞ頑張ったと表彰しても いいかなと豊饒の女神に伺いを立てたら 「前庭の2本の無花果は全滅でしょ。 それを解決するまでは駄目」 とのきつーいお言葉。 無花果さん御免、来年こそ 髪切り虫をやっつけてやるからね。 |
勝手に生えたゴーヤー (葡萄畑) |
やや不作気味の茄子 (中畑&葡萄畑) |
種から栽培した胡瓜 (中畑&葡萄畑) |
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甘くてジューシーな李 (奥庭) |
今年は成功したトマト (中畑) |
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歯応えのある桃、黄金品種 (坂本さんから) |
朝日を浴びる唐黍 (葡萄畑&西畑) |
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朝採り籠にどっさり (葡萄畑&西畑) |
桃より大きな無花果も (奥庭) |
和紙の糊になる糊空木 ノリウツギ (座禅草の森) |
見事に咲いた凌霄蔓 ノウゼンカズラ (中畑) |
山荘2世見事に開花 凌霄蔓の挿し木が成功 前庭の凌霄蔓は4メートルにも達し それは見事なのだが 肝心な花は僅か数輪しか付けない。 凌霄蔓と云えば樹全体が 無数の花に覆われ 真夏の炎天下に嫣然と咲き誇る容姿が 浮かぶのだが 何故か山荘の凌霄蔓は咲かない。 |
凌霄蔓の前に聳える大きな欅の木も 伐って陽当りを良くしたが やっぱり咲かない。 そこで昨年、1日中、陽が当たる中畑に 凌霄蔓の挿し木を試みた。 ・ 10本程駄目もとでやってみたら 其のうちの1本が成功。 今年の春には芽を吹き樹高は低いながら 見事に沢山の花を付けた。 やはり日射量が原因だったのだ。 こりゃ来年の成長が愉しみじゃ。 |
涼を呼ぶ桔梗 キキョウ (奥庭) |
妖しく匂う山百合 ヤマユリ (福生里) |
凛とした気品の槿 ムクゲ (前庭) |
擬宝珠 ギボウシ (座禅草の森) |
和紙に糊材として混ぜる糊空木、 別名《寂びた》は 原田康子の小説『サビタの記憶』で 一躍有名になった白い花。 「挽歌」を始め結構読み込んだ原田の 作品だが読んだ記憶が無い。 ・ 又「イオマンテの夜」や「山のけむり」を 歌った伊藤久男が、 「サビタの花」を歌い糊空木はサビタとして 日本全国に広まったとか。 「山のけむり」の作詞者大倉芳郎が 作詞した「サビタの花」とくれば 何処かで何度か出逢って いておかしくないのだが・・・。 |
どうもインプットされた情報の インデックス機能が老化してしまい 益々情報の取り出しが 難しくなりつつあるのか? ・ なんぞと大袈裟に書き立ててみたが単に サビタの記憶喪失や「夏水仙」の 名前を失念しただけの話し。 元気無くよれよれとやっと一株咲いた ピンクの百合の名が出て来ない。 まさか「夏水仙」なんて不細工な名前では 無かったよなと、調べてみたら なんと「夏水仙」そのもの。 うーん、壊れているのはインデックス だけではないな。 |
やっと咲いた夏水仙 ナツスイセン (前庭) |
花弁中央に白筋の藪萱草 ヤブカンゾウ (福生里) |
あれ!又桃がやって来たぞ!8月11日(土)晴 (石卓:4回目の桃) |
桃子さんの訪問 ぴんぽーん! ドアを開けたら山荘下の坂本さんの娘さんが丸い籠を持って立っていました。 「おや、いらっしゃい!」 「先日の堅い黄金品種ではなく今度は柔らかいピンクの桃を持ってきました。 どうぞ召し上がってください」 |
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「えっ!又ですか、 そんなに頂いては お礼の仕様が ありません。 どうぞ気を使わないで ください」 |
朝食は果物、野菜とワイン |
籠の中には 桃だけでなく とっても甘い李の ソルダムや なんと山荘でも 育てているトマトや ピーマン、茄子、胡瓜 までもが・・・ |
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もう既に食卓には朝採りしたばかりのとんもころしやゴーヤ、トマト、胡瓜 茄子や山荘産のすもも、無花果が並んでいます。 でも折角頂いたので朝食に桃とソルダムも加えてヨーグルトを掛け ワインと共に愉しむことにしましょうか! |
未だ4時半を過ぎたばかりなのに 僅かな夜明けの光を捉えた 蜩(ひぐらし) が啼き出すと 山荘の夏の1日が始まります。 つまり仙人は蜩を夏の目覚まし時計に してるのです。 ・ でもその蜩よりも、里人はもっと早く 働き出して 山荘のシャッターを開ける頃には 既に桃の収穫を終えています。 ・ がらがら、電動シャッターが開きます。 すると待ってましたとばかり 訪ねて来る人が居るでは! ・ 今度は山荘の畑の直ぐ下で桃を 栽培している坂下さんです。 「刎ね出し桃、食べますか?」 |
桃の木2百本を育ててる深沢さん 8月11日(土)晴 (福生里) |
で、沢山の桃を頂いたのですが 翌々朝のことです。 畑仕事を終えて、さてそれでは朝トレに 今朝は小倉山に行こうかなと ストックを突いて歩き始めたら今度は 深沢さんの桃林が収穫の真っ盛り。 ・ 黙って通る訳にはいきませんから 「どうですか今年の出来は?」 と声をかけましたが これがいけませんでしたね。 こう声を掛けられたら優しい里人が 黙っていられる筈が在りません. ・ 大きな桃を差し出して 「浅間白桃と云う品種だで 食べてみんしゃい」 こりゃ参ったな、結果として桃を 下さいと催促したことになってしまった。 |
「200本程桃の木を育ててるだが、桃は植樹してから8年目に収穫が始まって 6年間程が実りのピークで14年目からは、へー駄目ずら。 だから今収穫出来る桃の木は100本で、上手く出来ても売り上げは3百万程だがね。 若けーもんはこれじゃ喰っていけーねーと出て行っちまって跡継ぎは出来ねー」 |
《刎ね出し》なんか幾らでも持ってって! 8月11日(土)晴 (福生里) |
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そんな厳しい 農家の現状を実に 愉しそうにニコニコ、笑顔で 語りかけてくる。 それじゃ益々 唯で貰う訳にはいかない。 |
連日果物三昧の食事 |
少ないんですが とっておいて下さいと 千円札を渡そうと したら頑として 「金を払うなら桃は やれねー」と 受け取らない。 |
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すったーもんだーしたが、なにしろ頑固で一度「受け取らない」と云ったら 受け取らないのである。 すでに黄色い籠に山盛の桃を貰ってしまって今更返す訳にもいかず かと云ってこのまま帰る訳にもいかず、そうだ車の中にお金を放り込んで 逃げてしまえばこっちの勝ちだ。 |
にょっき!いつもの卵茸です(小倉山) |
ゲンゲロゲ!火を吐く妖術使い(小倉山) |
《ガマキノコ山荘共闘連盟》 ひゅーどろどろどろ と出てきたのは四谷怪談のお岩さんではない。 変化すると云う点ではこの卵茸は お岩さんに負けてはいないが夫・伊右衛門に裏切られて 出てきた訳ではない。 なんやら駆け込み訴えらしきものがあったとか? ・ 便乗して現れ居出たる蝦蟇。 何やら火と見せかけた赤い臓物を吐き出しながら 「どーや、中庭が凹んで困っとるだろが。 ありゃな、オイラと卵茸の怨念が絡みに絡んで小倉山から 飛ばした念力じゃい」 ← |
よくよく聴いてみると どうもあの中庭から葡萄畑を通って 東の森を突き抜ける 排水管敷設工事が問題のようなのだ。 ・ つまりあの森や畑は多くの蝦蟇達の 棲家であり捕食の場であり 交尾しては池を使って卵を産む大切な テリトリーであるらしいのだ。 ・ いっぽう卵茸にとっても 鬱蒼とした森と適度な湿り気 無数に重なり合う枯葉の絨毯とくれば こりゃもう絶好の繁殖場。 そこが掘り崩され赤土を剥き出しに されてはこりゃ死活問題。 ・ どうやら山荘卵茸と蝦蟇達が 《ガマキノコ山荘共闘連盟》を結成し 共同戦線を張って断固闘う決意を 山荘周辺の森に発したらしい。 → |
中庭沈下中庭の再工事開始 8月10日(金)晴 (前庭) |
そんでもって福生里一帯を仕切る 小倉山のボスが登場することに 相成ったらしいのだ。 ・ 雨も降らず茸が出て来るにしては どうもおかしいし 蝦蟇にしたって眠りから覚めて 春先にのこのこ現れるのは解るが このからからに乾燥した 路上に敢えて姿を晒し火まで吐き出し アッピールするなんて在り得ない。 ・ 《ガマキノコ山荘共闘連盟》の訴えは きっと深刻なのだ。 そんなら元通り埋め返して秋になったら 芝を張り赤土の森も 枯葉や伐採した木木で覆ってやろう。 で早速、造園業者が 飛んで来て復旧工事を始めたと云う訳さ。 |
あーこの宇宙船のようなCDのような蜘蛛の巣ね。 こりゃ勿論マルチ機能を持っているんだが さしあたり今日、この場所に設置した目的は 《ガマキノコ山荘共闘連盟》の依頼による通信網の新設さ。 ・ よく観てご覧。 網の中央からほぼ垂直に光のラインが 突き抜けているだろう。 あれが《ガマキノコ山荘共闘連盟》の事務局と 小倉山のボスを結ぶ回線さ。 えっ!破られたらどうするって? ほら予備の手段としてちょっと原始的だが舞舞蛾を使って 翅に通信文を書いて送るのさ。 |
森に浮く宇宙船か!(西の森) |
舞舞蛾♀ マイマイガ♀ (奥庭) |
8月3週・・・肥満細胞の脱顆粒現象
朝の陽を浴びて目覚める背黒脚長蜂 ここ十数年で手術を含めて体験したことの無い 激しく強い痛みが ほぼ2日間も続いたのだ。 痛みだけでなく刺された右手は掌から上腕まで パンパンに腫れあがり こりゃ下手すると破裂してしまうかなと思ったくらい。 急いで背黒脚長蜂を調べてみると どうもこいつ想定外の強敵。 ・ 毒はスズメバチに比べれば弱いが、 アナフィラキシー・ショックにより死亡することもあるので、 症状が観られたら速やかなアドレナリンの投与が必要である。 過去に刺されたことがある人は注意が必要。 また刺された時の痛さという点では スズメバチよりも強いとも言われている. (wikipedia) |
恐るべし背黒脚長蜂 撮影:8月19日(日)晴 鬼灯の原 被害:8月17日(金)晴 兎に角痛いのだ。 大きな雀蜂に2か所刺され眼が赤く出血し 喉頭浮腫等アナフィラキシー・ショックを起こし 救急車で病院に運ばれた時と較べても 痛さは勝るとも劣らない。 ・ 軍手の上から右手の人差し指の付け根を一か所 刺されただけなのに その痛みたるや到底半端ではない。 ズキンとした腕全体が痺れるような耐えがたき痛み。 |
カメラを向けた途端、翅を震わし戦闘準備開始 |
8月17日(金)晴 居間のチベット壁画 《鬼灯の果実を死者の霊を導く提灯に見立て、枝付きで精霊棚(盆棚)に飾る》 そうだお盆だとか云って都会もんが田舎に帰って、先祖のあの世からのお還りを一族郎党で迎える風習が日本にはあったんだ。 そんじゃ山荘もそれに見習って、せめて鬼灯を輪廻転生と鳥葬を描いたチベット壁画に飾ってあげようと 鬼灯の原に出かけたのが、そもそもの始まりであったのだ。 なにしろ鬼灯は死者の霊を導くのであるから、このチベット壁画にこそ鬼灯は似つかわしいと予々思っていたのである。 ・ どう?ちょっとギトギトするけど蒼白い冥界と現世との橋架けとしては鬼灯も悪くはないよね。 この鬼灯採りがアナフィラキシー・ショックを導き冥界入りの呼び水となったが、結局は彼岸の手前から還ってきたなんて 余りにも出来過ぎた話しのような気もするけど・・・・。 あれっ!若しかすると還ってないのかな、すると此処は彼岸か?それとも此岸? |
咲き始めた鬼灯 (鬼灯の原) |
蜂の巣に気付くや否や襲撃される |
それだけではない。 wikipedia による脅しはさらにこう続く。 アナフィラキシー・ショックは 二峰性の経過をとるものがしばしばみられるので、 院内で経過観察(約8時間、重症例では24時間)をしなければならない。 つまり刺された後に生命の危機は2度やってくるので 入院して24時間の経過観察が必要だと云うのだ。 それにしても山荘生活18年目の ベテランが何故これ程のドジをしでかしたのか? |
一面に火を灯していた 無数の鬼灯が消えつつあるのだ。 よく観ると草藪に紛れて 背の低い鬼灯は赤く灯っているが 幾つも赤い提灯を連ねた 大きな鬼灯は全く見当たらない。 ・ どうも原因は鹿の繁殖にあるらしい。 3.・11大震災後 野生鹿の放射能被曝を恐れて ジビエとしての捕獲が 影を潜め鹿の繁殖が広がりその結果 餌不足となり普通は 食材としない鬼灯にまで口を出す鹿。 ・ 何処かに鹿の口を逃れて 大きな鬼灯が在りはせぬかと 彼方此方探してふと手を延した瞬間に 倒木下の蜂の巣に気付く。 が、既に遅し。 |
翅が見えない、つまり戦闘準備だ |
刺されたのが右手一か所だけだったのが 幸いと這這の体で逃げ出した。 蜂のアレルギーは2度めが最も怖いと 云われているが 養蜂をしていた頃から通算すれば 数十回は刺されているので 病院にも行かずレスタミンと湿布で処理。 ・ だがアドレナリンの投与が必要らしく 時間を追うごとに腫れは酷くなり 痛みも執拗で右腕全体が発熱。 こうなったらあの背黒脚長蜂をなんとか 画像に収めなくてはと 2日後に再び鬼灯の原へ。 ・ 夜明けの光が巣に届く前なら蜂も 静かな筈。 影になっている内は全く姿を 見せなかったが最初の光が当たると 出てきた出てきた。 おーやべえー。 翅を震わせ戦闘準備を始めたぞ! |
肥満細胞の悪戯 老いた左手に較べ何と若々しい右手。 と歓んでいる訳にはいかない。 パンパンに膨れ上がった右手は限界を超えて爆発するかも。 それにしてもあんな小さな蜂が針の先から出した僅かな 液体がこれ程の痛みと浮腫を引き起こすとは 一体どういうことなのだ? ・ そこでぶち当たったのが何とその名も《肥満細胞》。 どうやらこの肥満細胞が外来抗原である 蜂の毒液に反応し貯蔵メディエーター(化学伝達物質)を放出して 肥満と見紛う浮腫を生じさせるらしいのだ。 |
腫れあがった赤ちゃん右手と老いた左手 |
腫れは上腕に達し湿布とレスタミン塗布 |
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《肥満細胞の脱顆粒現象》より再作成 |
ぶすっと蜂が刺す。 外来抗原となる毒液が体内に注入される。 これがアレルゲンと呼ばれるアレルギー性刺激物質。 此処までは何の問題も無いのだが この外来抗原が肥満細胞に近づくと問題が起こるのだ。 と云っても肥満細胞は密度は異なるが皮膚のあちこちに無数に在るので 何処を刺されても必ず問題が起こることは間違いなし。 ・ 肥満細胞は別名、顆粒細胞と呼ばれるようにヒスタミン、 走化因子、蛋白分解酵素等を顆粒にしてぎっしり詰め込んでいる。 ヒスタミンは緊急時に血管を拡張させ凍傷を防いだり 子宮筋を収縮させ分娩を促したり、蛋白分解酵素は皮膚や血管の蛋白を 分解して創傷治癒を図ったり 栄養吸収、タンパク質の廃棄とリサイクル、生体防御、活性の調節と 重要な任務を帯びている。 ・ 云ってみれば肥満細胞には肉体に異変が生じた時や通常時の活動に 欠かせない薬学武器や用具がぎっしり詰まっているのだ。 で蜂に刺されるとその武器倉庫である肥満細胞の外側で細胞を ガードしてるlgEが蜂の毒液、外来抗体を敵の襲来と判断し すわ一大事とばかりこの倉庫の薬学武器を爆発的に放出してしまう。 これが《肥満細胞の脱顆粒現象》なのだ。 ・ その結果これらの顆粒物質が一気に放出され 毛細血管を拡張させたり、血管の蛋白質を分解して血管透過性を亢進させ、 さらに神経を刺激して、皮膚の発赤、浮腫、痒みを 生じさせると云うのだ。 つまり緊急時でもないのに外来抗体の刺激によって毛細血管が 拡張され、血管の蛋白が分解されて白血球等が 溢れだし血管外での大洪水を引き起こし浮腫が進行する。 パンパンに腕が腫れたのは正に この状態だったのだ。 過剰防衛反応によって自らを死に追いやるかも知れぬ状況は こうして造り出されたのだ。 ・ しかしそれにしても何と精巧な凄いシステムだ。 肉体の意志とは無関係にこの精緻を極めた1つの宇宙が システムとして作動することも感嘆に値するが その肥満細胞と云う宇宙の誤爆装置を造り出す蜂の能力には更に驚愕。 自然は人智を遙かに凌駕した宇宙なのだ。 |
採る人も無く熟れたゴーヤー |
ルビーがぎっしりゴーヤーの種 |
とか云って感心している閑は無い。 例え肥満細胞の脱顆粒現象が生じ パンパンに腕が腫れようが その右腕を使って畑作労働は続くのだ。 1日放っておくと ほらご覧、畑のゴーヤーは真黄っきになって 中から深紅のルビーが弾け もうゴーヤーは過熟して食べられない。 ・ 仕方ないこのルビーを天日で干して 来年の種にしよう。 このゴーヤーも昨年のゴーヤーが勝手に 芽を出して実を着けたのだから 山荘3世の種と云うことになるな。 どうぞ、来年も宜しく!ゴーヤーさん。 |
で、ちょっと眼を離しただけなのに 林檎畑の枝豆は もうすっかり成熟して大豆に成りかけ ぷんぷん怒っているでは。 ・ 「なにさ、先週は『市販の枝豆なんかと 較べもんにならない美味しさ』とか べた誉めしたくせに 肥満細胞の脱顆粒なんかでオタオタ してんじゃないよ」 ・ ハイハイ、そんじゃ未だ食べられる内に 収穫してちょっと干して そうそう秋胡瓜の苗作りもしなくちゃ・・・。 と、その右腕を使って 畑作労働は延々と続くのだ。 |
あれ、大豆になっちゃう豊作の枝豆 |
芽吹いた秋胡瓜 早くも秋準備 |
高砂百合に溺れる鋸鍬形 ノコギリクワガタ (前庭) そうなると最早、畑のトンモコロシも終わりである。 あの蕩ける様な極上の甘さは ゆめ幻だったのかと狼狽えてしまうほど味は素っ気なくなり 実は堅く単なる種へと変貌してしまう。 ・ そこで未だ残っているトンモコロシを 総て収穫し 皮をむいてキッチンドアの外側に積んでおいた。 やって来たのは黒々と光耀く鋸鍬形。 採り立てのトンモコロシから出る甘い樹液に引き寄せられ・・・ いや、その前に山荘の其処かしこで咲き始めた 高砂百合の甘い蜜に眩惑されて 飛んで来たのかもしれないが、兎に角久々に鋸鍬形が その雄々しい容姿を見せたのだ。 |
あー惜 夏! 8月26日(日)晴 何処も彼処も蝉の抜け殻だらけ。 庭木の枝や草花の葉は勿論、玄関のドア、陶房の壁など ありとあらゆる突起物が羽化地点として 選ばれるのだ。 ・ 従って鹿角の上を羽化地点とするのも当然なのだが 2本に分かれた角の夫々にまで 抜け殻が着いているのを観て改めて蝉の多さに驚く。 ひぐらしのあの涼やかな朝夕の音色が 途切れがちになり代りにオーシンやミンミンが コーラスの主旋律となり 去りゆく夏のそこはかとない哀しみを告げる。 |
鹿角上の蝉抜け殻と闘う鋸鍬形 セミノヌケガラ (前庭) |
耀きの死蒼金蚊 アオカナブン (ゲート前) |
最後の翡翠の輝き 8月27日(月)晴 それにしても鋸鍬形が蝉の抜け殻に 振り上げる角の何と猛々しいことか! 「おいおい、それは抜け殻だぜ。 そんなもんに角振りかざして どうするつもりなんだ?」 と思わず声を掛けたくなる。 |
唐黍を喰う鋸鍬形 ノコギリクワガタ (奥庭) |
んで、朝トレで扇山から降りてきたら 足元に翡翠が落ちているでは。 黒を溶かした緑が夜明けの光を浴びて 実に美しい。 ・ 生きていると疑いもせず 触ってみたら精巧に造られた宝石のように 微動をもせず。 森が造り出した天然のブローチ。 ・ あーそんな風にして君は 去りゆく夏を永劫にとどめたんだね。 |
必死に番う油蝉 アブラゼミ (前庭) |
たしか1時間前に前庭を通った時にも 同じ格好で2匹は 番ったまま動きはしなかった。 『そうか、番ったまましんでしまったか』と ちょっと触ってみたら しっかり交尾したまま勢いよく飛翔。 ・ 互いに反対向きになっているので 2匹が翅を羽ばたけば 推進力は封殺され前進不能となる。 それでも必死に番いつつ 羽ばたき、去りゆく夏の彼方を目指す。 |
鹿角の秋茜 アキアカネ (前庭) |
蜻蛉が黙っている筈がない。 鹿角の特等席を蝉の抜け殻や 鋸鍬形に奪われて堪るかとばかり 大きな目玉をきょろきょろさせて 鹿角にどっかり居座る。 ・ テラスで食事を始めたら薄色木間蝶が 飛んで来てオクラと茄子のサラダに 止まったまま動かない。 朱の輪の中央に白点が鮮やかに1つ。 「この白点が偏っていると 木間蝶になるなんて一体どんな 意味があんだい?」と訊いてみたが 薄色木間蝶は唯黙って オクラの樹液を吸い続けるのでした。 |
皿上の薄色木間蝶 ウスイロコノマチョウ (テラス) |
山荘産・富士林檎収穫 (林檎畑) |
早くも逢坂草咲く オウサカソウ (座禅草公園) |
早くも秋の贈り物 8月26日(日)晴 |
虫に食われ煤斑病にやられて いつも熟す前に落ちてしまう林檎が 慎ましやかに赤く染まり 稔り始めた。 ・ 山荘近くの林檎農家では 林檎に袋を掛けて育てている。 そうか山荘の林檎が落ちてしまうのは 単に農薬散布をしないからだけでなく 袋掛けをしないからかも。 ・ とばかり俄かに袋を掛けることにした。 昔,林檎には新聞紙で袋を作り 掛けていたが 新聞紙では直ぐ破れそう。 そこで厚めの不要カレンダーで作ってみた。 ・ 未だ林檎の木は小さいので 20個くらいしか実を着けていないだろうと 袋を持って林檎畑に行ったら おー嬉しいことに50個以上あるでは。 |
山荘は高砂百合でいっぱい タカサゴユリ (前庭より) |
3回も林檎畑と袋を作っている書斎を 往復しながらはたと考えた。 いったい何故袋を掛けるのだろうか? 虫被害が考えられるが 紙の袋なんぞで虫が防げるのだろうか? ・ いや甘みを増す為なのでは? 若しかすると大きく育つのかも? いやいや色が鮮やかになるに違いない。 と理由も解らず袋掛けをするとは 如何にも阿呆なド素人。 ・ ネットで調べれば一目瞭然なのに 全くいい加減な仙人。 で、袋掛けが終わってからネットを開く。 @ 実の小さい内に掛けて虫被害から守る。 A 袋掛けすると色が出ないので収穫の10 日前には袋を外すこと。 B 袋を掛けると甘みは落ちるが保存日数を 延すことが出来る。 ・ つまり仙人のやった袋掛けは遅過ぎて 全くナンセンスだったのだ。 |
あれーゲート前にこんな花あったっけ? 灌木で梢に咲くので今まで気づかなかったのだろうが それにしても17年間もこの木の下を歩いていて 今まで知らずにいたなんて驚き。 ・ 調べてみたらこの臭木、空色の実と赤い顎が実にユニークで 一目観たら忘れられない筈。 それに名の示すように臭いので直ぐ解るとのこと。 日本では余り知られていないが巴里の15区では街路樹として 植えられ欧米では観賞用として栽培されているとか。 さてそれでは秋になって空色の実を着けたら もう一度写真を撮ってあげよう。 |
初め観る臭木 クサギ (ゲート前) |
池の金魚も夏を惜しむ (山荘池) |
超デカ向日葵の種 (西畑より) するとその直ぐ下に在るキーボードの蓋が開く。 死者の霊を導く鬼灯の果実が 鍵盤上に躍り出て髑髏のリズムを奏で始める。 やがて盤上に飾ってあるチベットの珍獣 チルーの白い曝れ頭が漆黒の2本の角を振りかざして 壁画の前に舞い降りて歌い叫ぶ。 ・ 《超自我よ、欲動を防衛せよ。 されば意識下の欲動は自由に漆黒の闇に踊り その深奥に細い光の糸を見い出し 糸も又、闇に乱舞しながら輪を重ねつつ欲動と 共に歌い叫ぶであろう。 向日葵よ、その輪こそお前のオブジェのパートナーだ。 ・ 山荘という森から森という山荘へ 空間を貫く大回廊を架け やがて時空を奔放に飛翔するオブジェになるんだ。 そら聴こえてくるだろう。 欲動と細い光の糸の歌い叫ぶ声が。 ・ 眼を瞑ってご覧。 眼球の深奥の闇に潜む、光の輪が捉えた 蒼金蚊が見えるだろう。 向日葵よ、お前は単なる現実そのものではない。 意識下の宇宙が創造したオブジェなのだ》 |
3つの輪廻の輪 8月26日(日)晴 どうだい、凄いね、大きいね! これが今年山荘の夏を彩った向日葵だぜ。 ・ さてこれを山荘のオブジェに仕上げられないかと 居間に持ち込んだら 「フロイディズムともマルクス主義とも 意識下の世界とも全く関係ない現実そのものの あたしをどうオブジェにしようって云うんだい」 と、いちゃもんを付けるのは当の向日葵。 ・ ほらほら背景壁画の左を良く観てご覧。 髑髏の輪が見えるだろう。 あれは輪廻の輪なんだけど此処にさり気なく 置くだけで、もう君は立派なオブジェさ。 ・ 夜中になって居間の灯りが消され 真の闇が訪れるとゆっくり、髑髏は回り出す。 |
ネックレス着けた蜘蛛の巣 (座禅草公園) |
驚異的生命の玉葱 (葡萄畑) 林檎の樹間から覗いてる高芝山が 袋を掛けられた林檎を観て 嗤っているような気がするな。 《収穫の迫った今頃 林檎の袋掛けする人なんていませんよ。 ・ 袋を掛けると甘みが落ちるとか 赤い色が出ないとか そんな基本的なことを知らないなんて 一体何年林檎の木を育てているんだい。 山荘が出来ると同時に 5本も林檎の木を植えて17年間も 育ててきたと云うのに なんちゅーこっちゃ!》 ・ そう云われると全く面目ない。 だがね高芝山さん 来年こそ観ておれよ。 あの薄紅色の蕾が開いて真っ白な 林檎の花が開き はらはらと華吹雪になってその後に 小さな蒼い実が着いたら きっと袋掛けするからね。 |
一年後に又逢いましょう! 8月27日(月)晴 |
《向日葵よ、 お前は単なる現実そのものではない。 意識下の宇宙が 創造したオブジェなのだ》 ・ うーん、こんなに自らの心象風景と 言葉がぴったりと重なるなんて 随分久しぶり。 やっと言葉を捕まえることが出来たと ニンマリしながら畑に出てみると 数ヶ月前に捨てた玉葱が 新たな星になって光を発している。 ・ よーし、それなら再び畑に戻してあげよう。 秋には蒼い葉を繁らせ 冬の厳寒を生き延び春になったら きっと又沢山の 星を生み出してくれるのだ。 |
袋掛けした林檎 (林檎畑) |
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右の籠の中は御存じトンモコロシ。 左上の赤い実はゴーヤーの種。 左下は香り高く甘い茶枝豆の種だよ。 来年から市販の種に頼らず 山荘で採れた野菜から種を採って 山荘2世、3世を作ることにしたんだ。 ・ 勿論、数年は試行錯誤の連続で 失敗が続くだろうが そうやって沢山の山荘産の星を 造り出せたら きっと意識下の宇宙にだって行けるぜ! |
来年の種の収穫 (西、葡萄畑より) |
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