その78の2ー2012年皐月 |
[A] ざ・Overture 美優はね由美せんせに英会話を習ってるの! 4月から幼稚園にも行ってるんだよ! |
さあ、芝生も綺麗になったぞ! どうも美優も雅輝も 自分で見つけた大切な宝物は きっと大人にとっても宝物になるに違いないと堅く 信じているらしい。 ・ あーあー団栗なんて山荘の庭には幾らでもあるし だいたいその団栗は今そこで拾った筈で そのー、つまり山荘主にとって そんなもん貰ったって唯ただ困り果てるのみ。 ・ だがしかしそれでは妖精達は納得しない。 何しろどんぐりと云えば妖精達の夢と希望がたっぷり 詰まっていて絶対宝物なのだ。 ・ いやこの団栗には もう1つキーワードが在るのかも。 若しかすると子供達に団栗を拾わせて時間調整し 10時半ぴったりにチャイムを鳴らした・・・? ハッシーも中々やるね。 |
鹿角と欅のMur mur 5月27日(日) 晴 前庭 「10時半に山荘に着く予定です。 宜しくお願いします」 練馬から車で来るので予定時刻の±30分程と読んでいたが なんと10時半ぴったりに玄関のチャイムが鳴った。 ・ 果て?ハッシーと云う生徒はそんなに几帳面な 性格だったか? それとも社員30人を抱える中小企業の社長になってから 性格が変わったか? なんぞと思いながら2階書斎のドアを開けると 吹き抜けの1階玄関から元気な声。 前庭で拾った団栗を両手にいっぱい握り締めて 「こんにちは!ねーねーセンセ、どんぐりあげる」 |
と云うことはやっぱり妖精が来るのかな? |
いつもの胡桃と栗のスイートね |
あれこのマンゴ良い匂い! |
一番大切な宝物を貰ったら どんなに嬉しかったかその気持ちを 伝える為にお返ししなくちゃ。 ・ 山荘の森で採れた堅ーい胡桃を 割って取り出した実と茹で栗 それに秋に収穫した薩摩芋を加えて 生クリームで仕上げたいつもの スイートでどうだ。 ・ えっ!良い匂いがするって! そうそうこの前パプア・ニューギニアで 買って来たバニラも入れたんだ。 このオレンジ色の軟らかいのは 何かって? |
それはドライ・マンゴを昨夜 赤ワインに浸けておいたトッピングさ。 ・ アッ!イケネー妖精にアルコールは 厳禁なんだ。 何しろ妖精は悪戯好きで少しでも アルコールを採ったら お得意のチェンジリング(取り替え子)で するするとほんとの人間の 子供と入れ替わっちまうんだ。 ・ ほら薩摩芋の苗植えに誘ったら 畑仕事大好きの美優が 変な顔してるだろ。 きっとあれは仕事嫌いの妖精の顔だね。 |
そうだよパプアのバニラを入れたんだ |
えっ!もうお仕事なの!(薩摩芋の苗を持って) |
[C] Busy as bees(さー大忙し)!畑仕事
梅収穫、薩摩芋苗植え、向日葵植え
先ず梅拾いからだぞ |
おー沢山採れたね |
ねえ食べてもいい? |
「食べないで!」 と風がそよぐ様にルフランする。 驚いた。4ケ月前の1月に来た時には 「あーあー」と「うーうー」で 会話の総てをクリアーしていた雅輝が 日本語を喋っているのである。 ・ でも自分で拾った小梅を自ら食べようと しているのに何故「食べないで」 と雅輝は繰り返し云い続けるのか? 大体誰に食べないでと云ってるのか? 暫くは誰も解らず皆で首を傾げる。 |
あれ!犬がいるね |
やがて犬に向かって 「ぼくのこと食べないで」と云ってる らしいと気づいた。 そうか雅輝の体の大きさからすると このグランはライオンのように 大きく恐ろしく見えるんだね。 ・ おずおずと梅の実を握った手を出して 雅輝は大胆にグランに大接近。 グランは尻尾を振って歓迎のご挨拶に 一声「ワン!」 びっくらこいた雅輝は その後もグランが近付くと 「食べないで!」 |
梅食べる? |
ほら美味しいんだよ! |
でもグランは食べられないと知っているのです |
次は薩摩芋の苗植えだ |
さて薩摩芋の苗も植えなくちゃ! 小さなスコップを持ち 麦わら帽子を被って畑に繰り出した2人。 どうも人間に入り込んだ妖精が 唆すらしく2,3回スコップで 土をかぶせると直ぐ飽きてしまったようで さっさと畑から退場。 ・ 仕方ないそれじゃ向日葵の苗を林檎畑に 植えてお水をたっぷり 掛けてあげようと作戦変更。 雅輝はサングラスでばっちし決めて 2本程植えたもののやはり 投げ出して後は お父さんお母さんにバトンタッチ。 妖精にアルコールはいかんな。 |
向日葵も植えるの? |
[D] Indulge in a nap(初めての丘登りに成功)!
丘から山荘の森へ・・・犬とのピクニック
それ何処までも飛んでけ! 山荘から近くて妖精達の足でも 10分もあれば登れる丘。 宮沢賢治の童話集か絵本でも携えて 寝転がって読むのにぴったり。 そうだ読書の丘と名付けよう。 ・ 草原のてっぺんに座った2人は とても気持ちよさそう。 美優が大空に向かって麦藁帽子を投げる。 すかさず雅輝が真似して 帽子をエイッ! |
うあー凄い見晴らし! |
何気なく朝トレーニングで 走り抜けていた草原の小高い丘。 眼下一望の元に展開する景観は 素晴らしいのだが 山荘で見慣れている景観なので 足を止めることもなかった。 ・ ふとある時気づいたのだ。 そうか、きっと小さな妖精達なら この草原が大好きになって 走ったり転げまわったりするに違いない。 |
何見つけたの? |
何だか世界がぼやけてきたぞ |
だんだん世界が消えていく |
あーあ、世界がとろん |
本の代わり夢を読もうかな! 5月27日(日) 晴 読書の丘 「あら!糞が在るわ」とミッホー。 丸くて黒い小さな糞が草叢のあちこちに散らばっています。 あんまり広くて見晴らしが良いので夜になると鹿がたくさんやって来て、此処で毎晩パーティーを開くのです。 お母さんとしては鹿の糞が在る様な汚い所に寝転がってほしくはないのに、妖精達にとっては 此処こそ、この糞の転がっている場所こそパラダイス。 だってここに寝転ぶと鹿の糞や草に滲みついた野兎や熊や猪の臭いが話しかけてくるんだよ。 ・ そこでお母さんの願いを無視してごろん。 耳が大地にぴったり着いて草が足や腕や頬を包んで、ほら動物達の残した昨夜の話し声だって聴こえるよ。 |
次は山荘の草原に行こう(山荘の森) |
山荘の森逍遥 丘からの帰りはちょっと冒険しよう。 丘と山荘の間に もわもわと波立つように草の繁った 緑の海が見えるだろう。 ・ あの径の無い草原を掻き分けて 果して山荘まで戻れるか? 今なら何とか通れるけれど 夏になると2mもの高さになって 草の海に人間は溺れてしまうんだよ。 |
草に隠れちゃいそう |
見ーつけた! |
お母さんどうぞ |
ハルジオンて云うの? |
ハイ杖をどうぞ!登りはきついぞ |
2頭の犬・グランとオバマが先導して 深い草原の径なき径を進むと あちこちに白い星のような花が 咲いていました。 ・ 真っ先に見つけた雅輝は 暫くじーっと見つめていましたが おずおずと小さな手を延して 星を掴みニカーと笑みを浮かべます。 ・ あーきっと雅輝はこの瞬間ほんとうに 星を捕まえたんだなと 想いました。 大人には決して捕えることの出来ない星を 手にすることが出来るのは 今だけなのです。 ・ 美優は星を幾つも摘んで 花束にして 「ハイ、お母さんどうぞ!」 ・ とても元気な2人でしたが山荘の登りに なると途端に我儘な妖精が出現。 でもお姉ちゃんの美優は 森の枝を拾って我儘な妖精に渡し 「ほら杖にしてごらん」 ・ 森のベンチで一休みしてる妖精達を見て 2頭の犬が呟きます。 「大きくなったら大介君や広介君のように 一緒に山山を駆け巡れるかな」 |
下りは楽ちん |
よっこらしょ一休み |
この丸太の椅子も良いね |
[E] The challenge of neck or nothing with us
妖精達の果てしない挑戦
危険な石段、ログハウスの梯子、再び畑仕事
山荘シェフの作ったカレーコロッケと海老サラダ、美穂ちゃんの餃子 食後にはパプア・ニューギニアで買ってきた ブルマン系のコーヒーに合わせて 美味しい和菓子が待っています。 前回持ってきた風月堂の栗饅頭や道明寺、柏餅が 美味しかったと云ったらハッシーがどっさり仕入れてきたのです。 ・ 美優はピンポン玉より小さい繭玉を出して 「これ私の、センセのはこれ」。 小さな巾着袋から現れたのは鮭や昆布の混ぜご飯を サランラップで包んだ大小の御握り。 ・ うん、畑仕事したり森を散歩した後に 空がいっぱいのテラスで食べる食事はとっても美味しいね。 なんぞと話しているうちに 子供達はいつの間にか消えてしまっているでは。 さあ大変何処に消えたか? |
あれ!妖精達は何処へ 5月27日(日) 晴 テラス 採れたての葉大根を浅く塩漬けにして レタスと春菊、クレソンはそのままサラダにしてその上に 塩、胡椒だけで焼いた海老、タン、ハツを載せてと。 青梗菜は軽く茹でてセロリ、胡瓜、人参のスティックと合わせて これで山荘野菜をふんだんに使ったサラダ完成。 ・ そうだ山荘シェフの作ったカレーコロッケも 揚げたてを食べてもらおうかな。 そこにミッホーの手作り餃子が加わり昼食準備完了。 さあ、いただきまーす。 |
あら子供達が居ないわ!いつの間にか消えた妖精 |
さておいらは空への旅に出るぞ(テラス) |
この岩登りスリル満点!(山荘石段) |
落ちるー!足が届かない(山荘ログ) |
ジャンプだ!(山荘石段) |
居ました居ました。 自然の精霊に呼ばれ子供達は すっかり妖精に成り切って 山荘を駆け巡っているのです。 ・ 雅輝はテラスのパラソルにしがみ付き ジャックと豆の木よろしく 天空を目指して登り始め美優は ログハウスの急な梯子登りに挑戦。 ・ 段差の大きな石段では雅輝の 身の程知らずの大冒険が繰り広げられ 観ていてはらはらドキドキ。 でもここでちょっかい出すと雅輝は 幼い自尊心を酷く傷つけられ 半端な人間になってしまう畏れあり。 ・ 冒険に興奮する2人を再び畑に連れだし お土産の野菜の収穫。 試しに両親に野菜の名を問うてみたら とんでも無い名前が返ってきた。 驚いたことにじゃが芋、青梗菜、春菊を始め 大根の葉すら知らないとは。 父親であるハッシー曰く 「ラップされてスーパーで売ってれば 解るんだけど」 ・ 無農薬の有機栽培である山荘野菜が 如何に美味しいか 野菜名と共にしっかり教えねば。 |
転倒寸前おっととと・・・(山荘石段) |
青梗菜を観てパイナップルとは?(西畑) |
ほら採れたよ(西畑) |
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お土産の葉大根がやっと抜けた(西畑) |
よし次は春菊も蕪も採るぞ(西畑) |
大きな筍みーつけた!(前庭) |
さておいらの宮沢賢治ポーズ決まってる? |
あれれ!何だか世界が 細かく割れてバラバラに成って 今まで見えていた お山や畑や野菜までもが消えて行く。 ・ 畑には黒いマントを着て 俯いて歩くおじさんが何か呟いているし。 ・ 「日照りの時は涙を流し 寒さの夏はおろおろ歩き みんなにでくのぼーと呼ばれ 褒められもせず苦にもされず そういうものにわたしはなりたい」 |
溶け出した妖精の刹那 |
さようなら!再び逢うことの出来ない妖精達
5月27日(日) 晴 前庭のアイリスと共に
妖精から子供に戻らねばならぬ美優はゲートに佇み 私の手をしっかり握りしめ 一緒に車に乗って帰ろうと云う。 美優、もう妖精は終わってしまったんだよ。 ・ 山荘を出た途端、停止された時間は激しく動き出し ずんずん成長が再開され あっという間に大人になって美優や雅輝は この日の小さな冒険を 記憶にとどめておくことは出来ず、忘れてしまうだろう。 でも確かに君達はこの日、 山荘の森で妖精だったんだ。 美優や雅輝が妖精であったその刹那を 最後の一輪となったジャーマン・アイリスに託してあげよう。 ・ 観てご覧!どうだい! これがあの日の1日限りの妖精のパスポートさ! 君たちはもう決してあの日に戻る事は出来ないんだ。 さようなら!妖精達。 |
爽やかな水仙や絢爛たる芍薬、牡丹の後を引き継いで 1か月近くも咲き誇り、 庭を彩ったジャーマン・アイリス。 この朝、とうとう最後の2輪となってしまった。 払暁の光を浴び 燦爛たる2輪の花弁が永訣を告げる。 哀しいまでの美しさに胸を打たれ シャッターを切った。 ・ 刹那の無数の集積が森羅万象を形成し生命は 今此処に在る。 山荘のゲートを潜った瞬間に子供達は 自然の精霊の洗礼を受け、 一刹那の妖精となって時間は停止した。 停止した時間の中を自由奔放に羽ばたく子供たちの 顔がアイリスに重なる。 やがて最後のアイリスは刹那の終わりを迎える。 |