仙人日記
 
 その110の42015年  睦月

1月4週・・恐るべき巨木の破壊力

恐るべき巨木の破壊力

倒壊の瞬間ザイルで固定し倒壊位置を操作
2週間後2月10日(火)晴 陶房の森からの転載



北風小僧との
陶房破壊を避けるためザイルで倒壊地点操作

危険極まりないチェーンソウを使うのだから、保護ゴーグルを掛けるのは当たり前だが
帽子嫌いの仙人が、暖かそうな日差しが降り注ぐ森の中で、雪山用のフェルト帽を被っているとは!
そうなのだ。実はこの日は寒気団が南下し、北風小僧が大威張りで参上し
森をセロにして、やたらとゴーゴー吼えていたんだ。

飛び切り冷たい風を弓にして、木々を弦に見立てギ-ギーむやみやたらに擦るもんだから、
唯うるさいだけで、とても聴くに耐えない。
そこで北風小僧の下手糞なセロが聴こえないように、耳が冷たさにちんちんしないように、
雪山用のフェルト帽を被ったと云う訳さ。


伐採位置の決定

2本のザイルで微妙な操作
そもそも倒壊操作なんて可能なのか?

何故、北風小僧が暴れまわる日に敢えて、伐採なんぞと危険な作業を決断したのか?

紅いザイルと黄色のザイル2本で、巨木が結ばれているのが解るだろう。
右下にある陶房小屋への倒壊を、食い止めようとの無謀な試みなんだが、実は北風小僧と関係あり。
北風小僧め、いつもは鈴庫山の北東からやって来るのだが
今日は富士山の南西方向から攻めてきたんだ。
まー、北東から来たけどおそらく、いつものように御坂山塊や小倉山にぶつかって向きを変え、
甲府盆地から竹森川の谷間を昇って来ただけのことなんだが。

閃いたね!
この北風小僧の力を利用して、ザイル操作をすれば、若しかすると巨木の倒壊方向を変えられるかも!

何故陶房破壊の危険をして伐採するのか?

この赤松は陶房小屋の真上に張り出していて、
このまま放っておくと、数年後には枯れて倒壊し、陶房小屋を直撃することは間違いない。
昨年も実はこの赤松の倒壊によって、陶芸作品棚が襲われ作品も棚も
破壊されてしまったのだ。

勿論、陶房小屋を建てる前に、作品棚が破壊された事実を思い出せば、
先に問題の赤松を伐採し、その後、陶房小屋を建てて、何の問題も生じなかったのだ。
ところが、陶房小屋を建てると決意した途端、如何にして建てるかの
技術的問題に捉われ、すっかり赤松の脅威を失念してしまった。
実に愚かであったと悔やんだが、陶房小屋を建ててしまった今となっては、後の祭りである。


倒壊方向へ刻みを入れる
森の暴れ者・赤松

何しろこの赤松、成長が早い。
この巨木の年輪を数えたら
僅か47本。
つまり直径45cmを超える
赤松は僅か47年で此処まで
成長してしまう。
成長が早いので中身はスカスカで
建築木材にならず。
枯れて風が吹けば辺りの樹木を
なぎ倒し簡単に倒壊。
まー云ってみれば森のギャング。


ザイルで固定し倒壊方向操作

さて陶房の破壊は避けられるか?

鉄槌で叩くが動かず

伐採出来たが倒壊せず



夕陽を浴びて飛び散る木の粉 
命の光
 

それにしても
実に美しいね。
47年間の星霜が
超新星のように
宙に放散され
新たな星々に
生まれ変わる瞬間。

解体された時の累積を
沈みゆく太陽が
赫奕たる星々にして
華やかな
光のページェントを
演出する。

今日、この光に逢えた
ただ一人の樵で
あったことを
誰に感謝しよう!
赤松の叫び

「うにょー!
よくもやってくれたな!
あと4,5年したら
この俺様の
1トンを超える巨体で
その玩具のような
陶房小屋とやらを
一気に叩き潰して
やったものを!

ザイルと
北風小僧の南西風を
利用して
上手く丸め込まれ、
屋根と屋根の間に
倒壊させられたが、
唯では転ばんぞ!
せめて屋根や
側壁の一部でも
壊さにゃ
腹の虫が収まらん」

でこの通り!

僅か1メートル程の屋根の間へ倒壊誘導に成功
 森の逆襲・危険な賭け

しかしどうです!この倒れ方。
見事でしょう!えっ神業に近いって!嬉しいねそこまで云ってくれるなんて!
正にどんぴしゃりでしょうが。
そりゃ枝が長々と張り出しているので、僅か1メートル程の隙間に上手く落としても
枝による破壊まで喰いとめることは出来なかったけれど、被害は最小限さ。

北風小僧の寒太郎が手伝ってくれなければ、
こいつめ、手前の透明な屋根のど真ん中に倒壊して、今頃作業場は見るも無残な有様さ。
北風小僧の寒太郎だって、使い様によっちゃ役にたつと云う訳さ


雪の日の夜明け
今日は伐採はお

移動を司るアキレス腱とか云う
銀河末端組織が
6か月前に受けた星々の損傷
修復出来ず、どうも
脳とか云う銀河中枢にSOSの
信号を送り続けているらしい。

脳には、かなりの痛みとして信号が
届いている筈なのだが
この中枢部分、老化現象か酷くて
痛みを無視。

あれ!熊の足跡まであるぞ
お前は
銀河中枢に
SOSの
信号を送り
続ける
アキレスの
触覚か!
 触覚銀河
Ringtail Galaxy,
NGC 4038 / 4039, Arp 244,PGC
37967 / 37969
 
からす座


割れた標識にも雪が
どうなったかと云うと
ほら、ごらんよ!
雪の積もった森を見るや否や
銀河末端組織のSOSの
信号を無視して
雪の中へ飛び出したぜ!

あーあー、これで
移動を司るアキレス腱とか云う
銀河末端組織はきっと
もう復活出来ぬダメージを受けて
移動手段を失い
銀河そのものが動きを止め
崩壊してしまうんだね。

ほんじゃ、せめて
本日だけでも森の伐採は
お休みにしようか!

静かな雪の森

扇山山での伐採も開始

なんちゃって調子の良いこと云ったと思ったら、件の惚け仙人、太陽を追って扇山に登って何やら始めているでは!
あーららこらら、取り出したるは、あの危険極まりないチェーンソウ。
山荘の森だけでも、まだまだ伐採せねばならぬ木々が、ごまんとあるのに、ナンタルチア!
それにしても惚け仙人と山頂の残照、余りにも調和がとれ過ぎていて、
晩鐘の音色さえ聴こえてきそう。



扇山頂からの南アルプスに沈む夕日

巨大にボーンも吃驚!

新作大皿の活躍


♪         🎶                            ♬
春と聞かねば 知らでありしを
聞けば急かるる 胸の思いを

いかにせよとの この頃か
いかにせよとの この頃か


非常に豪放磊落で大酒呑みであったとされる吉丸一昌が、こんな繊細な詩を書くとは吃驚!
心臓発作により1916年3月、43歳の若さでこの世を去ったと云う。
作曲した東京音楽学校教授の中田章も1931年、45歳で死んだ。
聞けば急かるる 胸の思いを≫ 心臓が停止するその激しい痛みの中に
如何なる思いが、吉丸一昌の胸に去来したのであろうか?

悲惨な窮迫のどん底にあり、
死が間近に迫った1791年 1月、最後のピアノ協奏曲となる第27番 K.595をモーツァルトは作曲。
更にK.595に続き、永劫の別れとなる36回目の春に
K.596、歌曲『春への憧れ』を作曲し、絶望を超越した諦念の明朗さをモーツァルトは謳った。
35歳モーツァルトが死の瞬間に去来した思いと、43歳吉丸一昌,45歳中田章
の胸に去来した思いが『早春賦』を介在して重なる。
聴いてみるがいい、K.596、歌曲『春への憧れ』を!
『早春賦』そのものではないか!

棚引く紫銀蒼がでる早春賦
解けたと大地に眠ると早春ののシンフォニー (山荘居間から) 

夏も冬も、勿論春や秋にも通い続けた北アルプスの玄関口である長野県の信濃大町が
早春賦の生まれ故郷であると知ったのは、
初めて冬の鹿島槍北壁を登った頃(1976年3月)だったろうか?
北壁でのビバーク(テント無しでの泊)で、一晩中塵雪崩に襲われ、背中と北壁の間の雪を掻き出しながら
墜落を食い止め生き延び、何とか翌日鹿島槍ヶ岳まで登攀。
しかし吹雪で下山路を見失い、アタックキャンプのある天狗尾根と異なる
東尾根を下山し、猛烈なラッセルで下山出来ず雪洞を掘って再度ビバーク。
遭難騒ぎになる一歩手前であった。

下山後、信濃大町駅で帰京電車の待ち時間を持て余して、穂高川をぶらぶら。
偶然この「早春賦」の歌碑に出逢い、大好きだったこの歌が
長野県立大町中学校(長野県大町高等学校の前身)の校歌を作りに安曇野を訪れた、
吉丸一昌によって作詞されたと知ったのだ。

里のせせらぎも早春を奏でる
生きて今在ることが、未だ覚めぬ夢

何処もかしこも凍てついていると云うのに
生まれいずる生の悦びを高らかに謳う春が、直ぐそこに迫っているだなんて!
その春が自らの最後の春と悟ったかのように、
若き音楽家達は、絶望を超越した諦念の明朗さを謳い、心の裡に問い掛けるのだ。
いかにせよとの この頃か≫

紫銀蒼の煙が棚引く早春になると、この早春賦が眼下の谷間から立ち昇り、山荘を満たす。
里のせせらぎは、飛び散るしぶきを捉えて様々な宝石のような楽器を創り、早春を謳う。
生きて今在ることが、未だ覚めぬ夢であったことにふと気づく。
1976年3月のあの日、北壁の雪崩に呑まれていたら、 ≪ 聞けば急かるる 胸の思いを≫を抱いたまま
32歳の早春に私は死んでいたのだ。

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