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その111の4ー2015年 如月 |
2月2週・・・ 恐ろしいチェーンソウで危険な伐採に挑む陽介君
倒壊の瞬間・ザイルで固定し倒壊位置を操作 2月10日(火)晴 陶房の森 |
先ず梯子を掛ける |
高い位置にザイル固定 |
夜明け前の伐採準備 ザイルを組んで 岩壁や氷壁を登らなくなって 随分と久しい。 昨夏は穂高のジャンダルムで 岩の感触を 充分に堪能したが、 ザイルを結ぶことはなかった。 |
そのザイルを引っ張り出して 夜明け前の雪の森へ。 「伐採した木が陶房に倒れぬように よーく考えてザイルを張って!」 と陽介君にコール。 ・ 時差ボケで眠い目を 擦りながら陽介君は、梯子を掛け 高い位置にザイルを巻き付け、 素早く動き回る。 ・ 岩壁や氷壁にザイルを固定し 次々と高所キャンプを 建設し、8千mの高みに迫った あの日々が胸に去来して いるであろうか? |
巨木の重みに耐えるか? |
小屋と反対側の位置に固定 |
【1】 陽介さん来る <15年ぶりの冬の日本>と言う、陽介さんの言葉に、そう言えば山荘で陽介さんにお会いするのは、 |
恐ろしいチェーンソウで危険な伐採に挑む 2月10日(火)晴 陶房の森 パソコンに向かいキーボードと指の連綿たる操作に明け暮れるソフト制作に、 突如躍り込んできた過激な山荘の肉体労働。 チェーンソウの激しい振動が指先から腕に伝わり、肉体の隅々まで震わせ、凶暴な嵐が駆け巡る。 時々チェーンソウが反乱を起こし、ガイドバーから外れ凶暴な蛇のようにノタウチ暴れまわる。 ・ この外れたチェーンに襲われたら、指や腕は一溜りもない。 余りにも危険なので、未だ嘗て山荘活動を共にする者に、チェーンソウを持たせたことはない。 だが、陽介が否と云わぬ限り、やらせてみたいと密かに思っていた。 あの凶暴な蛇のように荒れ狂うチェーンが、 陽介の心象風景に投げかける色彩と造型が、観えるような気がするのだ。 |
伐採開始 | 伐れたが倒壊せず |
2方向からザイルで固定し 更に隣の樹の枝が遮るので 切断しても、簡単には倒壊しない。 倒すには更に切断し 徐々に切り刻まねばならない。 ・ しかし一瞬気を抜くと 切断面に加わる重圧にチェーンが 噛まれ動けなくなってしまう。 そうなるとチェーンソウを解体し 根気よく重圧からの解放を 試みるしかない。 |
大きな重い鉄槌で叩いたり 固定ザイルに体重を掛けたりして 倒壊を促すが容易ではない。 そこで陽介君が考えたのが 切断面から小さな楔を 幾つも切り出し倒壊させる方法。 ・ 切断面に斜め上から新たな 切リ込みを入れて、短時間で一気に 倒壊させようとする仙人の 方法とは大いに異なる。 ・ しかしこの時間の掛る地道な 陽介の伐採方法は 安全で確実に倒壊を導く。 |
大きな鉄槌で叩くが動かず |
ザイルに体重を掛けてと |
【2】 二人とも、少年 子供の自立と親の不安、いつの時代も変わらない風景。 陽介さんのiPadには幼い日の息子たちの画像も収納されている。 見せてくれながら,「可愛かったんだけどなー」と感慨深げに呟く姿は微笑ましい。 すっかり青年の風貌になった大介、広介くんの写真も何枚か見せてもらう。 ふとした陽介さんの表情に広介くんの面影が重なる。 ・ 広介くんの方が父親似なんだなと感じるが、そもそも陽介さん自身が、 未だに何処か少年のような表情を覗かせる。 もしかすると、2人の子どもたちよりも、陽介さんの方が 心根は未だ少年の純粋さを保っているのかもしれないなと思うほどだ。 仙人隊長と陽介さんの語らっている姿を観ると、なんだか二人とも、少年のように見えてくる。 |
夜明け前からの闘いがやっと終わった その瞬間、互いに駆け寄り歓びの握手。 夜明け前からの長い闘いに 遂に終止符が、打たれたのである。 それにしてもヒマラヤで活躍した ザイルが、こんな風に使われるなんて、 ザイルも呆れているんだろうな! |
ザイルを結んで登攀ならぬ 伐採をするとは! 傍観者だった冨美代さんも加わって 3人の体重をザイルに掛け何度か揺する。 ザイルに結ばれた赤松が、 切断面で折れ、ゆっくり倒壊する。 |
傍観者も伐採瞬間に興奮! |
【3】 緊張感のある心地よい空間 ちょと含羞を帯びた少年のような陽介さんの横顔が頷き、 何かに夢中になって熱弁を振る少年のように、活き活きと語る仙人。 先生と生徒だったと云うよりは、相通じ合う魂で結ばれた者同士の親しさと云うべきか、 語られない余韻の中に、深い繋がりが感じられる。 傍らで、ときどき邪魔な一言を挟んでしまい後悔しながらも、 なんとも言えない心地の良い空間に居させてもらっている気がした。 ・ 考えてみたら、陽介さんと隊長と3人で過ごすのは、 アンデスのアコンカグア遠征のテント以来なのだ。 あのときも、穏やかだが程良い緊張感のある心地よい空間だったような覚えがある。 静かだけど熱い情熱が、この二人の間にはマグマように横たわっていて 二人を繋ぐ絆になっているのかなあ、 なんて勝手なことを想像してみる。 |
今夜はオイルフォンジュです そうだった! 此処は19年前1996年1月、6959mのアンデスの最高峰アコンカグア。 テント内でガスコンロにコッフェルを乗せ食事の用意をしているのは、 村上映子隊員。 ・ 雪焼けで黒ずんだ顔に笑みを浮かべ栗田陽介隊員が、 隣でグラスを傾けている。コッフェルはぐつぐつとご機嫌良く ハミングしながら調理される食材を待っている。 |
今夜は オイルフォンジュだって! 陽介君の為に 態々中野から食材を運んで 持ってきてくれたんだって! 嬉しいね。 ・ テントにしては ちょっと大き過ぎるけど 確かにあの19年前が、 不意にやって来たのだ。 |
牛肉、笹身、海老、ばら肉アスパラ巻、ズッキーニETC |
3人で食事を愉しみながら その後の19年に 想いを馳せる。 ・ 同年の夏に 連日雪の吹き荒れる モンスーン季のヒマラヤの アイランドピークに登って、 「よし次は、やっと登山解禁と なった中国チベットの 未踏峰だ!」 と陽介君と熱く語り合う。 |
陽介さん、ようこそ山荘にお帰りなさい! 翌年ガッシャブルム峰(8035m)の遠征を終え いよいよチベット未踏峰へとターゲットを絞り資料収集、基礎研究開始。 解禁されたばかりのチベットは、至る所に未踏峰が ごろごろしており、とても数年の遠征で未踏峰の詳細が、明らかになるような規模ではない。 ・ さしあたり10年計画でチベットの主な未踏峰の踏査、登頂を 試みることにしよう。 |
【4】 <山は逃げる>のだ う~ん、山荘ビールと山荘ワインの相乗効果が齎す勝手な幻想かもしれないな。 陽介と一緒にヒマラヤで登っている夢をよく見る、と隊長は云う。 「ヒマラヤの夢はすごくたくさん見るが、一緒に居るのは陽介が多いかな、 あれ、村上さんは出て来たこと無いな~」はあ、そうですか、 ずいぶんご一緒させていただいたんですけどね(内心の声)。 「陽介君と一緒にチベットに行きたかったけど、叶わなかった・・」 ・ きっと,隊長にとって栗田陽介は特別なザイルパートナーだったのだ。 だから、最後のチベットは陽介さんと登りたかった筈。 チベット未踏峰のプロジェクト、未だに第10回は決行されていない。 恐らく幻の第10回遠征は永遠に残されるのだろうな。 私もまた、陽介さんと一緒にチベットの未踏峰へ行ってみたかったと切実に思う。 山は逃げないと人は云いたがるが、実際には<山は逃げる>のだ。 |
尉鶲(ジョウビタキ) 山荘の常連・冬しか見られない渡り鳥 |
鵯(ヒヨドリ) 山荘住人顔して他鳥を追い払い餌台を占領 |
処がこの後 どうしたことか、陽介君は 宇宙飛行士へと夢を切り替え チベット計画は頓挫。 陽介君あっての チベット計画であったので、 未だ老い耄れていなかった仙人は 大いに焦った。 ・ 一時は10年計画を泣く泣く断念。 そこに救世主の如く 現れたのが村上隊員であったのだ。 以後9年間チベット未踏峰に 通い続け幾つもの |
四十雀(シジュウガラ) 山荘巣箱で育った奴かな? |
未踏峰に足跡を記したのである。 ・ チベット出発直前の トレーニングで岩壁登攀中、 落石にやられ重症。 急遽不参加となったその1回の 遠征を除いて 8回も陽介君の代わりに ザイルを結び合った村上隊員。 ・ その村上隊員、陽介君、 老い耄れ仙人の3人でこうして 杯を重ねる日が来ようとは! |
森のルビーとダイアモンド・山荘のお土産よ、陽介さん大切にしてね! |
【5】 広江さんの心遣い 人間の持ち時間はあまりにも短い。 過ぎてゆく時間の残酷さを想うと同時に、 悔い無きまでに登り続けた隊長の行動力を湛えたい気持ちになる。 その中のほんの一部の時間を共有させてもらえたのは、何という贅沢で幸せな時間だったのだろうと今にして識る。 あっと言う間に夜は更け、陽介さんは帰京しなければならない。 帰り際に、広江さんからの託と言って、チョコレートをいただいた。 ・ そうだ、バレンタインだな、と思い出しながら、広江さんの心遣いが嬉しく胸に沁みる。 陽介さんにお土産は何もないけど、ホームページを開いたら、 森のルビーとダイヤモンドが燦然と眩しい光を放っていました。 広江さんにも届け、と願って、私もうっとりと見とれています。 陽介さん、ヒマラヤにはない薔薇色の富士山や、美しい森の宝石類が山荘にはあります。 陽介さんには、きっとそれらが見つけられる筈。また冬の山荘に戻って来て下さい。 今度は、広江さんも一緒にね。 |
広江さんに送る森の宝石
卓上の箸置花器に飾られた薔薇の実と発芽した葉
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