2021年4月24日(曇) 山荘書斎 2022年9月5日(月) 目白Trad 【Racines Organic】にて6人で会食 この資料から抜粋して提供 いよいよ自らの死と対峙せざるを得なくなり、残すものの処理を迫られることになった。 残すものなんて何もありはしないが、 仙人が晩年精魂傾け、居住性を高めるべく創意工夫して造り上げて来たきた山荘・畑・森だけは、 どうすべきか指示しておかねばなるまい。 退職後シリコンバレーを離れ帰国し、日本に永住するなら、山荘は陽介君に面倒見て貰うのがいい。 3年前の2018年11月に息子たちに、山荘管理維持について問題提起したが、積極的な相続意欲は観られず。 陽介君に山荘の全てを任せたいとの気持ちが更に高まる。 山荘は単なる山の住居に留まらず、仙人と遭難死した8名のヒマラヤ隊員の墓標でもあり、 何度もヒマラヤ隊員として仙人と共に活動した陽介君が、山荘を引き継ぐのは適任であるが、問題は承諾するかである。 そこで何度か、今後帰国し日本に住む予定はあるのか陽介君に訊いてみたが、今のところ帰国し日本に住む気持ちは不明と云う。 だが退職時期が迫れば、気持ちに変化があるかもと、毎年帰国予定を尋ねていた。 一時帰国の度に山荘に来て数日を共に過ごし、 畑仕事や登山を愉しんで来たが、陽介君にシリコンバレーを離れる気持ちは不明のまま。 山荘の問題も冨美代さんには何度か伝えたが、「きっと陽介さんなら大切に山荘を護ってくれるわね!」とのこと。 だが肝心の陽介君本人には言い出せず、いつしか山荘建設後27年もの星霜を経てしまった。 さて、この問題を残したままで仙人は、三途の川を渡ることが出来るのだろうか! (A) 仙人の病態 そりゃー老劣化は肉体の全てに及ぶのだから、歳とりゃ肝心な心臓や肺、その他様々な役割を担っている臓器だってみーんな衰え、 あっちもこっちもぶっ壊れ始め、仙人肉体労働組合の苦情は高まりシュプレヒコールとなって肉体を震わせるのさ。 ≪もう78年間も安い賃金で黙々と働き続けたんだぜ!そろそろ開放してお役目御免にしてくれ!≫ ありゃ、そー云やー毎晩ビアやワインで≪今日も1日ご苦労さんでした!≫と肉体労働組合員を仙人は長年労っていたが、 最近ではビアも氷ばかりで中身の少ないオンザロック1杯しか呑ませないとか! そりゃ肉体労働組合員が怒るのもごもっとも様。 じゃ実際どの程度くたばり始めているのか、そのシュプレヒコールを聴いてあげようか! と聴いて吃驚!なんじゃこりゃ、此処まで老劣化、負傷が進んでいて未だ生きとるのかい!しぶといね。 2021年4月現在の肉体状況
国立国際医療研究センター【定期健診結果2019】(2019年 5月29日)
マジかよ! 高度大動脈弁逆流ーPISA法ー 逆流量:60ml以上(仙人70.6→25ml)、逆流率:55%以上(仙人37.2→25%) 逆流弁口0.3cm2以上(仙人0.22→0.04cm2) (高度大動脈弁逆流値はみどり病院HPより) 転院した西村仁志Dr、退職した岡崎修Drから引き継いだ廣井透雄Drは、 ピンクの蛍光ペンでLVIDd(左室拡張終末期径)、LVIDs(左室収縮終末期径)とEF(左室駆出率)を塗り潰しながら言葉少なの説明。 廣井Drの診察を終え自分で検査結果を調べたが、要約解説するとこうなるらしい。 左心室から大動脈へ送られるべき血液が、大動脈弁の閉鎖が上手くいかず漏れて、大動脈から左心室へ戻ってしまう。 これが大動脈閉鎖不全症であるが、左室から大動脈へ血液を送る駆出率は標準50.0~88.0%だが、仙人は63.2%で基準値範囲である。 駆出率は送り出した血液量を左心室の容積で割った値なので、最大でも88%しか送れず、50%を下回るとヤバイ! この駆出率を算出するには、左室が拡張した時の終末期の直径と収縮した時の終末期直径が必要なのだ。 左室が拡張し終末期に最大になった時の直径の基準値は、38.0~54.0mmだが、仙人は50.8mmと良く延びている。 収縮基準値は22.0~38.0mmで仙人は33.3mm、つまり縮む能力はやや弱いが基準値に収まっている。 この2つの数値を元に左心室を楕円錐として、微分すれば体積が算出される。 それを大動脈へ送られた血液量として、駆出率が計算されるのである。 その結果が63.2%なので、廣井DrはEFを蛍光ペンで塗りながら、こう述べたのだ。「次の検査は3年後ですね」 そんな莫迦な!最初の西村仁志Drの時は上行大動脈径が46mmに達しているので、 上行大動脈瘤ですと言い切り、逆流量もオペレベルを超えているとの判断であった。 今回の検査結果では逆流量は、25mlで以前の70.mlを45mlも下回っている。 逆流率も37.2から25%へと下がり、要手術基準値の55%以上を大きく下回っている。 最も2019年の検査結果については仙人も不審に思い、下図の「仙人の大動脈弁閉鎖不全症の現状」で疑問を投げかけている。 西村Drの返事はこうだった。「数値には捉われず、あまり気にしないで下さい。」 で、今回は数値に捉われての廣井Drの判断であったのだ。 疑問は残る。3年前に70.6mlであった逆流量が25mlに、逆流率が37.2から25%に改善されることは考えられない。 大動脈弁閉鎖症が自然治癒することはあり得ないのだから、どちらか或いは両方の数値が間違っているのだ。 それとも逆流量の数値は変動が激しく、3倍近くも乱高下することもあるとでも? 今回の検査数値を根拠に廣井Drの3年後診断となったが、それじゃ依然として不定期に襲いかかる心臓の痛みは何なのだ。 2019年の検査結果が頼りにならぬ数値であったのなら、今回の数値も怪しいのでは! さて、仙人は素直に有頂天になって歓べばいいのか、 はたまた慎重居士の西村仁志Drの脅しを信ずるべきか!悩みは果なし。 |
(C) 回帰までの対応 回帰前後の仙人の願望 死は最後に残された仙人の我儘として、他者への配慮は考慮せず願望だけを記す。 なんーて云うとそれじゃ今までと全くおんなじじゃないか、何を今更との笑いが聴こえぬでもないが、無視して記そう。 ≪Ⅰ≫ 死に場所は山荘 不幸にして救急車で病院に搬入され、死亡するようなケースは別として、入院を余儀なくされる様な場合、 入院は最小日数に留め山荘で療養する。 山荘療養では家族による看護、介護は望めないので【甲州市介護訪問ステーション】などの訪問看護を利用する。 要支援1~2、要介護1~5の判定が受けられない場合は、介護保険は出ず費用全額負担になる。 その場合の費用として2千万円(2000万÷毎月40万(介護者給料20万、山荘生活費20万)÷12カ月=4.16年分)を準備するが、 費用が尽きたら看護は中止し、山荘での自然死を待つ。 看取りの費用については以下に上野千鶴子の「在宅ひとり死のススメ」からの抜粋を載せて置いたが、 高額医療費減免制度を利用しての算出なので、こんな額では済まない。 自己負担額として300万円を準備して置くので、看取り事務作業に当てて欲しい。 ≪看取りのコスト≫ ①病院:医療保険の平均診療報酬請求額は100万円を超えるデータがある。 高額医療費減免制度で自己負担額は軽いが、臨終期を迎えると個室に移されたり差額ベッド代が必要になる。 シティホテル並の値段なので何日も過ごされると家族の負担は大きい。②施設:運よくホスピス棟に入院出来ても個室が原則なので1日あたりのコストは4万円。 ③在宅:80代在宅認知症のおひとり様上村さん(仮名)の死の直前3カ月間にかかった経費は以下。
看取り手続き従事者が親族でない場合もあり、更に本人が認知症となる可能性も大きいので、 同じく上野千鶴子の「在宅ひとり死のススメ」からの抜粋を載せて置く。
≪Ⅱ≫ 延命治療はせず、献体はしたいが老劣化したボロボロ臓器では不具合が生じるので無し。 ≪Ⅲ≫ 火葬後は散骨とする 届出:【墓地、埋葬等に関する法律」の中には、散骨についての記述は一切ないために法律上は散骨が存在しない。 「散骨」という行為に対しての申請・届出・許可等の手続きも存在しない】 ごく一部の地方自治体において散骨許可に関する条例があるが、山梨県や甲州市には条例は無い。 2mm以下の粉骨であれば刑法190条の遺骨遺棄罪に該当せず、個人が節度をもって行った散骨については、 特に法律で罰せられたという事例は無い。 散骨方法:[1] 粉骨にするには業者への依頼が多いが、レンタル粉骨電動ミルを使って残された者でやって欲しい。 (山荘の作陶場に原料を粉砕し釉薬を作るポットミル機があるので、それを72時間稼動させれば、粉骨出来なくはないが、レンタルの方が早い) 粉骨は山荘瀧下に造られたカロート(墓)内部の数個の骨壺に保管。(既に仙人の母親の位牌がおさめられている) [2] 散骨場所は山荘瀧上とし、谷川の自然流水で粉骨を、瀧から池へと流す。 (瀧の流量が少ないので、キッチン出口右側にある瀧水スイッチを入れ地下水も流し、双方を落下させる) 瀧を流れ落ち骨粉は瀧下の小川を通り、池に流れる。池底に沈殿した骨粉の一部は錦鯉に食べられたり、 台風などの大雨の度に、池から排水溝に溢れ出る。 排水溝から前庭、中庭、葡萄畑、山荘原野下の導水管を流れ、 滝川、竹森川、笛吹川、富士川を経て、数十年をかけて粉骨は駿河湾に注ぐ。 嘗て仙人が駆け巡ったヒマラヤの峰々から流れ落ちた、氷河の水が注ぐベンガル湾やアラビア海と連なる駿河湾の水は、 数百年後に、やがてヒマラヤの氷河の水と、出逢えるかも知れない。 それで回帰の輪が閉じ、見習い仙人は仙人に昇格し新たな旅に出るつもり、でいる気配が無くもない。 [3] 従って墓は山荘瀧・池となるが、残された者が別な場所に世間並みの墓を欲する場合は寛容。 が、山荘瀧での散骨は実施する。 [4] 戒名不要、散骨に当たっては極身近な数人のみで行い、葬儀めいたものは一切不要。知人への告知も不要。 [5] 焼場は氷壁登攀トレーニングに通い続けた笛吹川の畔にある、山荘に近い【東山聖園】にする。 |
上行大動脈瘤と診断された仙人のCT画像 上行大動脈正常口径30mm以下:拡大が1.5倍の45mmで大動脈瘤と呼ばれる 上行 大動脈 が拡張(基部 大動脈瘤 )→大動脈弁も一緒に拡張(大動脈弁輪拡張症)→ 大動脈弁が拡がってしっかり閉まらなくなる(大動脈弁閉鎖不全症、大動脈解離)
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(D) 残すべきもの 動物の親が子に残すべきものは生きる術である。 従って子が自ら生活の術を手に入れた時点で、親は子を突き放し、子は親との敵対関係に入り、時に互いに生きる糧を求めて争う。 敵対関係になった親と子が、再び助け合う関係に復帰することは殆ど無い。 有るとすればチームを組むことによって、捕食効率が高まる場合などが考えられるが、それには、 親が老劣化してないで、充分に働けることが前提となる。 老劣化した動物の親は、自ら捕食できなくなった時点で静かに死んでいく。 人間は幼い子を親が養い、老いて生活の術を失った親を子が面倒をみるのを道徳とし、賛美することによって長い間、 この老劣化した親の問題を解決しようとしてきた。 母親は赤ちゃんの目を見つめることで、オキシトシンが促進され、愛情、親近感などの感情が湧き上がる。 幼い子を親が養うのは生理的に仕組まれているのだ。 だが老いた親を子が世話する場合、オキシトシンの分泌が生理的に生ずることは先ず期待できない。 親看取りは道徳観の束縛に頼るしかないが、 道徳観の束縛は、子にとって鬱っとおしい手枷足枷でしかないのは事実である。 親に資産が有る場合には、資産の相続を念頭に親看取りを子が志願することもあるが、 子にオキシトシンの分泌が生ずる筈もなく、親の介護は鬱っとおしい手枷足枷であることは確かであろう。 かえって資産相続をめぐってトラブル続出で、親看取り図は悲惨を極めることさえある。 文明の進歩と共に個が尊重され、誰しもが自由で在りたいと望む欲求が最優先されるようになった。 子が老いた親の世話をするには、生物学的に無理があると認識されるようになり、更に子無き老人など多様な問題を抱え、 遂に現代社会は介護を必要とする弱者を、互いに助け合うシステムとして、介護保険を生み出した。 こうして残すべきものを子に与え、自ら介護を必要とする弱者となった親の、死への新たな途が、開かれようとしている。 介護保険の実態は弱者の救済には程遠いが、積極的に関与しより良いシステムにすべきである。 飛躍すると親が子に残すべきものは、生きる術であるとの生命原理が復活し、親の資産が残された場合は 社会への還元に費やされるのが望ましいとの発想も生まれる。 発想の背景には私的資産の継続的踏襲が、 格差社会に拍車を掛けていることもあるが、資産踏襲が子から生きる術を奪うことへの懼れもある。 資産家の子供たちが、働かず浪費だけを続け快楽を求め麻薬等に手を出し、壊れていくニュースには事欠かない。 試しに仙人はなけなしの資金を、子に与えたことがある。 ≪相続税対策について相談です。 僕の今回の住宅購入時の贈与の非課税枠(700万円を上限)を使用することにより、相続税の課税所得を減額することができます。 もしこと君に4,800万円以上財産(現預金、不動産、保険等)があるなら、相続税対策で移動させておいた方が合理的かと思います。 僕の預金額は1,500万円以上はあるので、こと君が必要な時にすぐに返済することも可能です。 すぐに返済することも可能という前提で、相続税対策のため資金を移動していただくことは可能でしょうか。≫ タワーマンション購入の、次男からのこんなメールが飛び込んできた。 返済可能な資金移動であって相続の要請ではない。しかし親に財産があれば当然相続すると云う前提である。 自立を尊ぶ親がこんな誘いに乗る筈はないないと良く知りつつ、次男は親にジャブを放ってみたのだ。 さすが会計士、「相続税対策」ときたか、よし意表をついて乗ってやろうじゃないか!と指定口座に振り込んだ。 驚いたことに次男は、資金振り込み後も何の連絡もなく、数日後心配してこちらから連絡して初めて確認。 知らされた口座番号が間違っていたので振り込み当日、次男に再確認したこともあり、振り込みに気づかなかったことはあり得ない。 長男には誕生日と論文の出版を口実に、非課税限度額の資金を手渡ししたが、その後何のコンタクトもない。 これは明らかに親からの資金の贈与が、間違いであったことを示している。 例え僅かであっても、大した理由もなく生きる術を獲得した子に、資金を与えてはいけないのだとしみじみ後悔。 親が思うより子供たちはしっかりこの間違いを認識しつつ、長男は不承不承、親の贈与を受け入れ、 次男はこれは資金の移動であって、感謝したり礼を述べるべき筋合いのものではないと、振込確認の必要性すら認めなかったのだ。 今更許しを乞うても遅いが、自らの愚かな行為を悔い、荷の轍を踏まじと仙人は決心したのだ。 さて、そうなると≪墓標としての山荘≫をどうすべきか、いよいよ決断が迫られる。 意を決してシリコンバレーの陽介君にメールしてみた。以下返メールの要約。 ≪アップルのオフィスにはかれこれ一年ぐらい行ってないです。 基本的に立ち入り禁止で。 最初の頃はオフィスの方が仕事がしやすいと思っていたけど、もうこの状況に慣れちゃって、新型コロナを制圧できてもこのままで良いのではないかという感じで。・・・
大介は卒業したはず(多分)だけど就職はしてないし、広介は学校も休んでいるみたいだし。
二人ともアルバイトをしてるみたいですが。 これからどうするつもりなんだか、全く分かりません。・・・
アメリカの会社には基本的に定年はないみたいですね。まだしばらくは働けそうだし、その後のことは全く考えてません。・・・
どうやらワクチン接種が進めば移動の制限も緩くなるし、もしかしたら日本に行けるようになるかもしれません。 まだどうなるか分かりませんけど。
日本もワクチン接種が本格化しそうだし、あと少しの辛抱でしょうか。 そうなれば良いけど。・・・
≫
生の抱える大きな闇の屹立に為す術なく、大介君も、広介君も思い悩んでいるのかな!
少しでもその闇を共有出来れば、観えてくるものがあるに違いないのだが、闇は介入を許さない。
≪二人ともアルバイトをしてるみたいですが。 これからどうするつもりなんだか、全く分かりません≫
全く解らないと最も強く感じているのは、本人たちであると理解できるだけに親は辛いな!
以下の文章なんぞ読んだら、更に鬱陶しくなるだけだろうが、目を通すだけ通してくれ!
と≪墓標としての山荘≫をメールしたが、2カ月経た現在、陽介君からの返メールは無し。 律儀で一度も返メールを欠かしたことの無い陽介君が、沈黙を続ける背景を推察。
そうだよな、ごめん陽介君!不動産相続とか、泣き言とか墓守だとか・・・ そんなことを強要するつもりは無く、ただ単に山荘の豊かな自然に感応し、庭や畑、森と共生してくれないかなとの希望だけ。 うーん、陽介君は駄目か!となると数学や経済学を伴侶とし、大学講師で細々と暮らしつつ、 超然と生きている長男か、家族想いの次男税理士に相続してもらうしかないか! せめて認知症に陥り決断不能になる前に、意思表示しておかねば! いや認知症になる前に残すべきは、僅かな資産ではなく親しく接した人への仙人の≪想い≫そのものか! |
(E) 残された人へ
悩む。追悼には死者への麗しい想いを語るが、死にゆく者が親しき人に残す言葉も同様に麗しい想いのみを語り、平穏に緞帳を降ろすべきか!
悩みは杞憂でしかないと先刻承知の仙人、案ずることは無い。
永劫の別れを悟った時、形而下の存在と関係の重い部分は沈殿し、親しき者への麗しい想いだけが上澄み液となって残るのだ。
ならば敢て沈殿した形而下の澱には触れず、上澄み液だけを残す方が永劫の別れ言葉としては自然なのであろう。
惚けて言語すら失われる前に、上澄みとなった最後の言葉を残すとしたら、今しか無いと覚悟せよ。
当然ながら仙人は他者とのコミュニケーションの中で、分人を生きている。
厄介なことにその他者の中に仙人も含まれているのだから、先ずは一番親い自らへ言葉を残すべきだが、さてどうしよう!
【仙人へ】
≪仙人は仙境にて暮らし、仙術をあやつり、不老不死を得たもの≫
そもそも山荘見習い仙人は仙術を手に入れたり、不老不死を願って、修行を始めた訳ではない。
寧ろ自然との同化としての死を願い、混沌への回帰を求めて仙境に入ったのである。
現代風に牽強付会すれば修行の結果、仙人に必要な7つの仙術を山荘見習い仙人は、既に修めたとも云える。
パラグライダーで空を飛び、スキューバダイビングで自在に海に潜り、TVやPCを使って座ったままで千里の向こうまで見通せる。
完全なるこじつけであるが、自らの意志や感性を土で練り、1300℃の火中に投げ入れ、陶芸作品として自らの意志を取り出す術も習得している。
一身を数十人分に分人したりして自由自在に変身したり、闇夜で光を得て物体を察知したり、猛獣や毒蛇を従わせるなんてお手の物。
従って不老不死を除いて山荘見習仙人は、限りなく仙人に接近しているのだ。なんて思っても居る。
【冨美代さんへ】
出逢ったのは招聘された草野心平の特別講義だったような気もするが、思い違いでその講義は冨美代さんと知り合った以後、一緒に聴いたのかも知れない。
兎にかく講義の終わった大学の4号館大講義室から出てくる時に、初めて冨美代さんに逢った様な記憶があるのだ。
その後は大学図書館で一緒に本を探していたか、読んでいたか不鮮明な映像が残っている。
大学の芝生で語り合ったり、隣接する電波研究所の森を散策しながら、互いの心象風景を交差させ育んだ共感。
累積される共感の通奏低音に宮澤賢治が流れ続け、仙人29歳の1973年から8年掛けて発刊された筑摩書房の「校本宮澤賢治全集」14巻が、
仙人から冨美代さんに贈られ、2人は共に銀河鉄道の過客となった。
銀河鉄道は既にサウザンクロス駅を出て、眼がしんしんと痛むほど昏い石炭袋の空の孔に向かってまっしぐら。
仙人はカムパルラとなって下車せねばならないのに、
カムパルラとなって先に下車する気配を、冨美代さんは躯体や心髄に漂わせ、仙人は為す術もなくただ狼狽えている。
いいかい、如何に謗られようがカムパルラは仙人なんだ。どうか先に下車しないでおくれ!
不幸にして冨美代さんがカムパルラとなってしまったら、残されるのは仙人となり先立つ者への言葉となってしまう。
修行の手段として仙人が取り入れている大地との媾い、その結果として生み出される無農薬有機栽培野菜や果物はどうなるのか!
宅配便で目白に送り、仙人自らザックに詰めて運び、現代女性文化研究所員や夢二研究会員、
マンション住人などに冨美代さんが配り、歓ばれている無農薬有機栽培野菜や果物。
それらは冨美代さんの銀河への回帰と共に、行き場を失ってしまう。
山荘の無農薬有機栽培野菜や果物は、シーシュポスの岩となって豊かな実りの瞬間に落下し、無へと回帰する。
つまり仙人の修行は終ることなき永劫の無限連鎖に捉われ、手段を失い形而上での存在も許されず、煉獄を流離うのだ。
仙人が確実にカムパルラになる術が無い訳ではない。と山荘瀧の龍が囁く。
【樹麗君へ]
Will2抜粋