1723ー2020年  弥生

早春の気配にう慌てん坊蝦蟇
3月17日(火)晴 山荘池の蝦蟇の挑戦!

≪ういー、酔っぱらったぜ!≫なんぞと喚いている声が聴こえそう。
≪何に酔ったかって!そりゃいつもよりずーっと早い早春の気配にさ!≫ 酔っぱらうと箍が緩んで気宇壮大になったりして、
出来もしないことをおっ始めるのは、どうも人間だけではないらしい。
枯葉で一杯になった池底に熊手を入れて、池浚いを始めたら、蝦蟇が飛び出してきて瀧の落ち口にある仙人の年代碑プレートを目指し、
水掻きの付いた手足を不器用に操り木登りを始めたでは!





左足の水掻きを
這杜松(ハイネズ)の幹に、
しっかり当ててはいるものの
如何せん水掻きでは
体重を支えることは出来ず、
左手の水掻きで
1944と書かれたプレートの
上端を掴み、
辛うじて墜落を免れている。

左手が滑るぜ!
 
 
右足が掛らん!
 

ちょっくら登ってみっか!
右脚の水掻きを必死になって
プレートの上に
挙げようと何度も試みるが、
ぶよぶよの重い体は持ち上げられず。
≪うー、このままでは
ずり落ちてしまうぜ!≫と
でも思ったのか、
いきなり顎を
這杜松の幹に載せ暫く思案。




墜ちた!
ぶよぶよの重い体が
ずるずると落ち始めるや蝦蟇は、
想定外の行動に出る。
いきなり這杜松の幹に齧りつき
落下を食い止めたでは!
こいつ中々根性在るね、
やるでは!


枯葉塗れで再び挑戦じゃ!

と思った瞬間、ドサッと
音を立てて枯葉の海に墜落。
さてこれで登攀を諦めて
すごすごと池に戻るかと
思いきや、
背中に枯葉を何枚も着けたまま
再び登り出したでは!


右手が届かない!
水掻きの着いた不自由な足で
幹を蹴り上げ、
ジャンプしたがすべすべした陶器の
プレートが掴めず、
たらりタラーリと蝦蟇の油汗を
流しつつ、尚も登り続ける。


左手が掴んだぜ!
右足を思い切り持ち上げ、
左手をプレートの上に掛け、
蝦蟇は唯ひたすら高みを目指す。
よいしょと右手も
プレートの上に載せ、両脚を
必死で上げたが、今にも落ちそう。

両手でがっちり!



遂にやったぜ!


≪何と無謀な挑戦を!と呆れて観ていたけど
とうとうやったね、蝦蟇さん!
深刻な願掛けでもしての挑戦だったのかい!≫

≪実はそうなんです。つい暖かな陽気に騙されて
迂闊にも沢山の卵を池に産んでしまい、
今朝の寒さで子供たちが死んでしまいはしないかと!≫
両脚はつるりと滑り、何ん度蹴っても体は中々上がらない。
ずり落ちたパンツを穿いてる様な
蝦蟇の下半身が、どうにかプレートの上に達したのを
見届けたのは、鹿威しに乗った青銅馬。
 
鹿威し上の青銅馬と感激のハグ!


産卵には未だ早過ぎだぜ
3月17日(火)晴ー5℃  山荘池は氷がびっしり



物理的衝撃からの保護
受精させる卵ゼリー

この卵嚢と呼ばれるゼリー層、
驚くなよ、実はとんでもない
重要な役割を担っているのだ。

まー一般的には、
 卵嚢の役割
①物理的衝撃からの保護
②バクテリアの侵入防止
③多精を食い止める
④Ca2+を保持する。 
なんぞと云われているが
こんなこと云ってる奴は肝心なことが
何ーんも解っていないことを
告白してる様なもの。

先ずこのゼリー層が無いと
受精出来ないと云う事を
理解してないのだ。

卵巣から輸卵管に出た卵を、
体腔卵と呼ぶが、
この蛙の体腔卵をガラス棒などで
刺激を与えると、
精子無しでの単為生殖が始まる。

しかしこの体腔卵に精子を
振り掛けても受精しない。
ところが輸卵管を通過している間に、
約70%の糖を含む
親水性糖蛋白質であるゼリー層に
包まれ、輸卵管から
輸卵管末端の子宮に運ばれた
子宮卵は精子を振り掛けると
受精するのだ。

受精する理由は2つある。




バクテリアの侵入防止

凍てついた精子

先体内膜の露出

多精を食い止める
 
卵細胞膜との融合

Ca2+を保持する


凍てついた蝦蟇の卵
3月17日(火)晴ー5℃  やっぱり早過ぎたぜ!

蝦蟇が吐き出す凍てついた酸化水素の回廊、豊満なシヴァの乳房を抱き回廊の彼方に眼を細める蝦蟇、
無限軌道を描いて、シヴァと蝦蟇を貫く糖タンパク質ゼリーのバリアーに包まれたDNAの星々。
強烈なインパクトを齎す心象風景であるが、メッセージが読めない。
何かを観ているようでいて、その細めた蝦蟇の視線は内なる世界に向けられ、外界を遮断し何も捉えていない。
下半身をゼリーのバリアーと化し瞑想に耽る蝦蟇には、如何なる世界が展開しているのか。

役に立たぬ水掻きを無様に操り墜落を繰り返しつつも頂に達し、絶叫した蝦蟇を待ち受けていた青銅馬。
果てしなく繰り返される登攀と墜落の結果在られた形而下の頂を、
形而上の歓びに変換すべく、青銅馬は蝦蟇を載せて駆け、誘った先に待ち受けていたシヴァ。
果たして頂に立った蝦蟇は、シヴァによって形而下の歓びに邂逅出きるのであろうか!



凍てついた卵は死ぬのだろうか!
1つは輸卵管を通過する間に、
熟成分裂が進行し、
輸卵管の末端部分に到る頃には、
精子が入れば、
正常に受精出来る状態になること。

2つ目は精子の問題。
卵ゼリー層は、精子が卵細胞膜と
融合する為の
先体反応を促すのだ。

精子は先体内膜が露出しないと
卵細胞膜と結合出来ないが、
卵ゼリー層は、精子の
先体内膜を露出させるのだ。

109年前の1911年に、
E.Bataillonは体腔卵と子宮卵に
精子を加え子宮卵のみ
受精することを確かめた。
この実験により
曲がりくねる輸卵管を経て
2層3層に重ねられる
卵ゼリーこそが
受精には欠かせぬ要因と
判明したのだ。

≪卵嚢の役割≫には
それが欠如しているのだから
無知を曝け出していると
云わざるを得ない。

それにしてもまさか
この卵ゼリーがそんな重要な
役割を担っているとは
ビックリこいたな!


(参照:片桐千明 科学と生物
北海道大学理学部動物学教室)

氷に閉ざされた卵が融けだす!







自らのクオリアによって透明化する蝦蟇

卵ゼリーのバリアーに包まれたDNAの星々から2つの黒い眼玉を取り出し、
凍てついた酸化水素を肉体に変換し、蝦蟇は口から、自らの凍てついた肉体を嘔吐する。

首から凍てついた背中に掛けて、光が屈折し蝦蟇を透明化する。
決して出来はせぬと認識しつつ、這杜松をよじ登り頂に達した蝦蟇は、
自らのクオリアによって透明化し凍てつき、やがて融け、水となって新たな旅に出るのだ。

山巓での絶叫は、果たして凍てついた卵に達したのか!
もしやせっせと登り詰めた営為は、シーシュポスの神話であって、決して報われないのでは!
それを十分に認識しつつ、凍てついた池に産卵し、凍てついた卵に絶叫する。
それがこれ程までの美しさを演出しているのか!



Next