172の3ー2020年 弥生
早春の気配に酔う慌てん坊蝦蟇 3月17日(火)晴 山荘池の蝦蟇の挑戦! ≪ういー、酔っぱらったぜ!≫なんぞと喚いている声が聴こえそう。 ≪何に酔ったかって!そりゃいつもよりずーっと早い早春の気配にさ!≫ 酔っぱらうと箍が緩んで気宇壮大になったりして、 出来もしないことをおっ始めるのは、どうも人間だけではないらしい。 枯葉で一杯になった池底に熊手を入れて、池浚いを始めたら、蝦蟇が飛び出してきて瀧の落ち口にある仙人の年代碑プレートを目指し、 水掻きの付いた手足を不器用に操り木登りを始めたでは! |
|
右足が掛らん! |
|
墜ちた! |
ぶよぶよの重い体が ずるずると落ち始めるや蝦蟇は、 想定外の行動に出る。 いきなり這杜松の幹に齧りつき 落下を食い止めたでは! こいつ中々根性在るね、 やるでは! |
枯葉塗れで再び挑戦じゃ! |
と思った瞬間、ドサッと 音を立てて枯葉の海に墜落。 さてこれで登攀を諦めて すごすごと池に戻るかと 思いきや、 背中に枯葉を何枚も着けたまま 再び登り出したでは! |
右手が届かない! |
水掻きの着いた不自由な足で 幹を蹴り上げ、 ジャンプしたがすべすべした陶器の プレートが掴めず、 たらりタラーリと蝦蟇の油汗を 流しつつ、尚も登り続ける。 |
左手が掴んだぜ! |
右足を思い切り持ち上げ、 左手をプレートの上に掛け、 蝦蟇は唯ひたすら高みを目指す。 よいしょと右手も プレートの上に載せ、両脚を 必死で上げたが、今にも落ちそう。 |
両手でがっちり! |
遂にやったぜ! ≪何と無謀な挑戦を!と呆れて観ていたけど とうとうやったね、蝦蟇さん! 深刻な願掛けでもしての挑戦だったのかい!≫ ≪実はそうなんです。つい暖かな陽気に騙されて 迂闊にも沢山の卵を池に産んでしまい、 今朝の寒さで子供たちが死んでしまいはしないかと!≫ |
両脚はつるりと滑り、何ん度蹴っても体は中々上がらない。 ずり落ちたパンツを穿いてる様な 蝦蟇の下半身が、どうにかプレートの上に達したのを 見届けたのは、鹿威しに乗った青銅馬。 |
鹿威し上の青銅馬と感激のハグ! |
産卵には未だ早過ぎだぜ! 3月17日(火)晴ー5℃ 山荘池は氷がびっしり |
物理的衝撃からの保護 |
受精させる卵ゼリー この卵嚢と呼ばれるゼリー層、 驚くなよ、実はとんでもない 重要な役割を担っているのだ。 まー一般的には、
こんなこと云ってる奴は肝心なことが 何ーんも解っていないことを 告白してる様なもの。 先ずこのゼリー層が無いと 受精出来ないと云う事を 理解してないのだ。 卵巣から輸卵管に出た卵を、 体腔卵と呼ぶが、 この蛙の体腔卵をガラス棒などで 刺激を与えると、 精子無しでの単為生殖が始まる。 しかしこの体腔卵に精子を 振り掛けても受精しない。 ところが輸卵管を通過している間に、 約70%の糖を含む 親水性糖蛋白質であるゼリー層に 包まれ、輸卵管から 輸卵管末端の子宮に運ばれた 子宮卵は精子を振り掛けると 受精するのだ。 受精する理由は2つある。 |
バクテリアの侵入防止 |
||
凍てついた精子 |
先体内膜の露出 |
|||
多精を食い止める |
卵細胞膜との融合 |
Ca2+を保持する |
凍てついた蝦蟇の卵 3月17日(火)晴ー5℃ やっぱり早過ぎたぜ! 蝦蟇が吐き出す凍てついた酸化水素の回廊、豊満なシヴァの乳房を抱き回廊の彼方に眼を細める蝦蟇、 無限軌道を描いて、シヴァと蝦蟇を貫く糖タンパク質ゼリーのバリアーに包まれたDNAの星々。 強烈なインパクトを齎す心象風景であるが、メッセージが読めない。 何かを観ているようでいて、その細めた蝦蟇の視線は内なる世界に向けられ、外界を遮断し何も捉えていない。 下半身をゼリーのバリアーと化し瞑想に耽る蝦蟇には、如何なる世界が展開しているのか。 役に立たぬ水掻きを無様に操り墜落を繰り返しつつも頂に達し、絶叫した蝦蟇を待ち受けていた青銅馬。 果てしなく繰り返される登攀と墜落の結果在られた形而下の頂を、 形而上の歓びに変換すべく、青銅馬は蝦蟇を載せて駆け、誘った先に待ち受けていたシヴァ。 果たして頂に立った蝦蟇は、シヴァによって形而下の歓びに邂逅出きるのであろうか! |
凍てついた卵は死ぬのだろうか! |
1つは輸卵管を通過する間に、 熟成分裂が進行し、 輸卵管の末端部分に到る頃には、 精子が入れば、 正常に受精出来る状態になること。 2つ目は精子の問題。 卵ゼリー層は、精子が卵細胞膜と 融合する為の 先体反応を促すのだ。 精子は先体内膜が露出しないと 卵細胞膜と結合出来ないが、 卵ゼリー層は、精子の 先体内膜を露出させるのだ。 109年前の1911年に、 E.Bataillonは体腔卵と子宮卵に 精子を加え子宮卵のみ 受精することを確かめた。 |
この実験により 曲がりくねる輸卵管を経て 2層3層に重ねられる 卵ゼリーこそが 受精には欠かせぬ要因と 判明したのだ。 ≪卵嚢の役割≫には それが欠如しているのだから 無知を曝け出していると 云わざるを得ない。 それにしてもまさか この卵ゼリーがそんな重要な 役割を担っているとは ビックリこいたな! (参照:片桐千明 科学と生物 北海道大学理学部動物学教室) |
氷に閉ざされた卵が融けだす! |
自らのクオリアによって透明化する蝦蟇 卵ゼリーのバリアーに包まれたDNAの星々から2つの黒い眼玉を取り出し、 凍てついた酸化水素を肉体に変換し、蝦蟇は口から、自らの凍てついた肉体を嘔吐する。 首から凍てついた背中に掛けて、光が屈折し蝦蟇を透明化する。 決して出来はせぬと認識しつつ、這杜松をよじ登り頂に達した蝦蟇は、 自らのクオリアによって透明化し凍てつき、やがて融け、水となって新たな旅に出るのだ。 山巓での絶叫は、果たして凍てついた卵に達したのか! もしやせっせと登り詰めた営為は、シーシュポスの神話であって、決して報われないのでは! それを十分に認識しつつ、凍てついた池に産卵し、凍てついた卵に絶叫する。 それがこれ程までの美しさを演出しているのか! |