1693ー2019年  師走

扇山山稜の山荘を呑込む渺茫たる雲海
12月2日(月)雨曇 平沢集落から

≪時間は存在しない≫ 
カルロ・ロヴェッリ

時間は空間と一体化した広がりであり、過去と未来を区別する方向性もなければ(第2章)、
「現在」という特別扱いされるべき時刻も存在しない(第3章)。
ニュートンは、物質が無く何の現象も起きない真空中でも時間が流れるという「絶対時間」の考えを提唱したが、アインシュタインは、
時間や空間それ自体が物理現象を担う実体だという事実を明らかにした。
この実体は重量場と名付けられ、電気や磁気の担い手である
電磁場と同じ様に、方程式によって変動する(第4章)≫



著者について:

カルロ・ロヴェッリ Carlo Rovelli
ホームページ: http://www.cpt.univ-mrs.fr/~rovelli/
Twitter: @carlorovelli
理論物理学者。1956年、イタリアのヴェローナ生まれ。ボローニャ大学卒業後、パドヴァ大学大学院で博士号取得。
イタリアやアメリカの大学勤務を経て、現在はフランスのエクス=マルセイユ大学の理論物理学研究室で、
量子重力理論の研究チームを率いる。
「ループ量子重力理論」の提唱者の一人
。『すごい物理学講義』(河出書房新社)で「メルク・セローノ文学賞」「ガリレオ文学賞」を受賞。

『世の中ががらりと変わって見える物理の本』(同)は世界で100万部超を売り上げ、大反響を呼んだ。
『時間は存在しない』はイタリアで18万部発行、35か国で刊行決定の世界的ベストセラー。
タイム誌の「ベスト10ノンフィクション(2018年)」にも選ばれている。





ミンコフスキー空間を描くシャンデリア

その中で素粒子が蠢く電磁場、この2つは
物理学の最前衛「ループ量子重力理論」で
既に結び着けられているのか!

著者ロヴェッリはこの「ループ量子重力理論」を
主導する1人である云う
量子論と重力理論を統合した
「量子重力理論」の構築有力候補は、
「超ひも理論」と並び
この「ループ量子重力理論」であるらしいのだ。
でもって「時間は存在しない」のだ。
物理学の最前衛が「ループ量子重力理論」であることも知らず、
アインシュタインが追い続けた
重力場と素粒子の場である電磁場を結び着ける
統一場理論は、

まだまだ先の話しと思っていた。
分子や原子が描く星や宇宙を支配する
重力場、原子という極微な世界を
無窮な宇宙として眺め

 
過去光円錐と未来光円錐が木星に沿う



刹那にして呑みこまれた山荘
12月2日(月)雨曇 平沢集落から


素粒子は点ではなくひも状であり、時間や空間は素粒子が運動するバックグラウンドとして前提する。
そのひも状の素粒子が振動しながら移動する振る舞いが、重力を媒介する仮想的な素粒子と似ていることから、
「超ひも理論」は電磁場、重力場を統一する「万物の理論」なのでは!と捉えられるようになった。
でその先を行く「ループ量子重力理論」ではこう述べる。



超ひも理論を超えるループ量子重力理論とは!

だが、「ループ量子重力理論」には、
とびとびになったなった特定の時刻しかなく、
時間そのものが”量子化”されている。

「滞ることなく流れ続ける」
という古典的なイメージに
従う時間など、存在すべくもない≫


≪「ループ量子重力理論」における時間や空間は、
ループという根源的な要素から
組み立てられた2次的なものである。

ニュートン以降のほとんどの物理学理論では、
時間は数学で云う「実数」と同じものとして扱われ、
任意の値で指定された時刻が存在する。

 時間は存在しない!




衝撃!その一言である。
例えば第3章「現在」の終わりでは、こんな計算結果が語られる。

≪わたしたちの「現在」は、宇宙全体には広がらない。「現在」は、自分たちを囲む泡のようなものなのだ。
では、その泡にはどのくらいの広がりがあるのだろう。それは、時間を確定する際の精度によって決まる。
ナノ秒単位で確定する場合の「現在」の範囲は、数メートル。ミリ秒単位なら、数キロメートル。
わたしたち人間に識別できるのはかろうじて10分の1秒くらいで、これなら地球全体が1つの泡に含まれることになり、
そこではみんながある瞬間を共有しているかのように、「現在」について語ることができる。
だがそれより遠くには、「現在」はない。≫

 
どうしてそんなことに気づかなかったのか!正に目から鱗の如し!
更に秒速30万キロの光が「現在」を決定的に打ちのめす。

≪遠くにあるのは、わたしたちの過去(今見ることが出来る事柄の前に起きた出来事)だ。
そしてまた、わたしたちの未来(「今、ここ」をみることができるこの瞬間の後に起こる出来事)もある。
この2つの間には幅の在る「合間」があって、それは過去でも未来でもない。
火星なら15分、プロキシマ・ケンタウリbなら8年、アンドロメダ銀河なら数百万年の「合間」、それが「拡張された現在」なのだ。
これは、アインシュタインの発見の中でも最も奇妙で重要なものといえるだろう≫


 



何も無かったかの如く穏やかな潮騒に満ちる
12月2日(月)雨曇 平沢集落から


此処まで読んで仙人は完全に死んだ。随分アインシュタインを理解していた様な気になっていたが、
仙人はこんなことすら相対性理論から読みこなせずにいたのだ。
4光年離れたプロキシマ・ケンタウリbを今、観測してもそれは4年前の過去でしかない。
今、地球を出発して4年かけてプロキシマ・ケンタウリbに達しても、そこで観られるのは今から4年後の未来でしかない。

光が運ぶ星々の画像は総て過去であり、これから観に行く星々の画像は総て未来なのだ。
こんなあたり前のことから当然の如く導き出される≪現在の終わり≫にさえ、気づかなかった仙人。
衝撃は大きいのだ。
光速での火星までの往復15分、プロキシマ・ケンタウリbまでの往復8年、これが精々「拡張された現在」なのだ。




光の小倉山の時空を往く仙人
8分20秒前の
過去
が降り注ぐ



座禅草の森に
差し込む雨上がりの光が、
太陽を頂点にして
放射状に広がり、
霧に閉ざされた森闇を
切り裂く。

カオスにみ込まれる森羅万象
山荘からの光は
8分20秒後の
未来の太陽しか
捉えられない



座禅峠に出ると
大菩薩側の谷を雲海が
覆い尽くし、大海原となり
天地創造の如き荘厳な光景。

数百回は訪れている
座禅峠ではあるが、
このような
雲海との遭遇は初めて。
にも拘わらず
カメラを持って来なかったのだ。
悔しい! 

雲海と森のに漂う山荘



≪拡張された現在≫が捉えた山荘
12月17日(火)雨曇 小倉山頂から
(スマホ画像)

「ちょっと待ってくれ!この燦々と降り注ぐ光が、8分20秒前の太陽の過去から届けられたのも解るし
この光に乗って今から太陽に出発しても8分20秒後の未来の太陽にしか逢えないのも理解できるけど。
それがどうして≪拡張された現在≫なのか解らん!
だって、仙人は目白と山荘を行ったり来たりするのに光でなく車や電車を使って3時間もかかっているけど、
それだって3時間隔てた目白や山荘の未来や過去に逢う事になるんじゃないの!」
例によってジョン・シルバーがいちゃもん付けるでは!

いいかい、目白と山荘は光で結べば一瞬で繋がるから現在を共有出来るんだ。
だから≪今≫は確かに存在すると感じられる。
でも太陽と地球は光で結んでも片道8分20秒の「合間」があり、≪現在≫は存在出来ないんだ。



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