仙人日記
 
 その1312ー2016年  神無月

10月2週・・・誕生日の祝いは山に決まっとるじゃろが!

誕生日のいは山に決まっとるじゃろが!
10月15日(土)晴 大菩薩神成岩

こすもすの碧とかおすの闇を突き破って、光が踊る。
72年前の10月、この碧と闇の狭間を切り裂く光は、仙人の誕生を祝ってくれたのだろうか!
それとも闇のあまりの重さに、光は押しつぶされ寡黙に弱弱しく項垂れていたのだろうか!

光を孕んだ漂泊詩人の雲が、ソプラニストになって能天気な澄んだ声でうたう。
≪おめでとう!72年間も活躍し続けた、60兆個もの細胞諸君!
こうして1つの肉体宇宙を成し、ただ存続しているだけでなく、闇の山巓にまで老いた肉体を押し上げるなんて素晴らしいぜ!
さあ、全身を60兆の光の粒子で満たすが良い≫



稜線の紅葉
標高2千mの紅葉

大菩薩稜線では標高2千mで
紅葉が始まったばかり。
七竃がやっと赤い実を付け、
真弓が赤紫の鞘を染め始めたけど、
昨年より2週間ほど
遅れている今年の紅葉。

昨日の朝夕2回のトレーニングで
一触即発となった膝痛がどう出るか、
思い切って7月11日に
肋骨骨折した大菩薩の神成岩へ。


満天星(どうだんつつじ)

真弓の赤い実が顔出し

イタヤ楓

七竃(ななかまど)
 
赤八汐躑躅かな?
 夜明けから畑で大活躍し、
ストーブ業者と打ち合わせしと
大忙しの朝であったが、
空を観たら
実に久し振りの澄み切った碧空。
この碧空を観たらもう、
居ても立っても居られない
と云うのが本音であるが、
いつまで経っても回復しない
膝痛への自虐的反旗の翻しでもある。

 
イロハ紅葉のような!




膝痛はどうなってんだ!


熊笹が生い茂り、殆ど消えかかっている
トレースを追って
稜線直下から落ちる谷に入る。
さて今日は神成岩直下の岩場を登るか、
左の開けた谷に立ちはだかる
小さな岩で遊ぶか!

天気がいいので開けた谷に決める。
ザイルを取り出すと
慌てふためいて左膝が喚き出す。
≪もしや、このか弱い私に、
この岩場を登れと云うのではないでしょうね!≫

あたりー!
おめでとう!さあ、久々の晴れ舞台じゃ、
四の五の言わず
さっさと登っておしまい。
7月骨折の雪辱戦じゃ!
今回は慎重にザイルを使って

更には7月の骨折を
プレゼントしてくれた神成岩への
復讐的お礼参りでもある。
こんな不貞腐れたな動機で岩登りなんぞしたら、
今度こそ致命的ダメージを被り
入院生活を余儀なくされ、
完全に再起不能になるのではと!

明日大菩薩マラソンとかで
既に駐車場はいっぱい。
大菩薩湖北駐車場に車を入れて、
福ちゃん荘まで森の中を歩くが、紅葉の気配無し。

 
まーまーそう硬いことは云わず!



腐るを待つ富士見山荘

庭のブランコは使用禁止
失礼な!
るを待つだなんて!

未だ現役ですよ

 驚いたぜ!
てっきり廃屋の山小屋と
思っていたが、念のためとネットで
検索したら、ありゃ予約受付中。

どうも室内はリホームして
外観ほど老朽化してないらしい。
もっと驚いたのは
屋根がスライドして開く、
スライディングルーフ式天体観測所を
備えていて、
天体観測も出来るとか!

宿泊予約が入ると、
その日だけ小屋を開けるらしい。
さてこの大菩薩嶺案内図、
確か数年前までは、
この富士見山荘から直接
稜線へ突き上げる
富士見新道なるルートが
記されていたのだが、
ペンキで塗り潰してあるでは!

岩場の鎖も腐って撤去され、
落石も頻繁に起こり
危険なので遂に消去したらしい。
このルート、仙人のお気に入りで
仙人ルートと勝手に名づけ
20年も通い続けたが、
登山者に遭遇したことは、
一度もない。

まっ、これで完全に仙人ルートと
なった訳で大歓迎 !
此処の岩場はどれも小さくて、
ボルダリングに最適。

湖を従え、湖の上に聳える
秀麗な富士を
眼下に眺めながらの登攀は最高!

危険で消された仙人ルート 

鎖が切れてるぜ!

丸太椅子も腐って!




ありゃ、足が上がらん

スタンス在るのに体重掛けられない
小さな岩の割れ目に
登山靴の爪先を掛けてみる。
2cm程しかないが、
靴底のビムラムがしっかり捉える。
体重を少し掛ける。

全体重を掛けても、
この小さなスタンスは裏切らず、
肉体を支えてくれるだろうか?
一瞬の判断で
次の行動に移る。

リズムを取り戻した肉体は、
歌うように岩を攀じる。
そう、その調子じゃ!

歌に時々不協和音が混じる。
≪あのー、痛いんですけど!
もう少しゆっくり、
傾斜の緩い壁を選んで、
登ってくれると助かるのですが≫

ほら、グングン赤いザイルが伸びて、
空に向かっていくだろう。
実に爽快じゃないか!
山荘に帰ったら、
72年間も活躍してくれたお礼に
良く冷やした山荘産ビアと
ワインを呑ませてあげよう。

イタリアの
スパークリングワインのLa Rovere
だって冷やしてあるんだぜ≫

驚いたのなんの!
さすが仙人の左膝、それを聴いた途端、
痛みなんぞ、どこ吹く風、
あっという間に登攀終了。

空に向かうザイルじゃ!

そりゃ行くぜ!



後方に大菩薩
見ゆ!


岩って寡黙だろう!
岩は余りにも悠久な時を重ね過ぎて、
いつもただ静かに押し黙っている。
その時の重みは半端じゃないぜ!
数千年、数万年、数億年だぜ。

そいつがね、無心に攀じっていると
不意に呟くんだ。
その瞬間に悠久な時が、香りを放つ。
存在の深奥に潜む香り。
背に湖を背負って登攀終了!
何とも満ち足りた、贅沢な香りを放つ豊穣な瞬間。
何が稔ったかって!
ほら、覗いてごらん。観えないって!
そうか君は心象風景を共有する切符を
持っていないんだ。残念!


終了点 


これが72歳誕生日の祝いじゃ!
老い耄れ仙人ご満悦! 10月15日(土)晴 大菩薩神成岩

≪知っているのだ!
誕生の記憶をこんな風に山が祝ってくれるのは、恐らくこれが最後であると!≫

とか何とか言って、来年も再来年も永劫に山が、
仙人の誕生の記憶を祝ってくれると、あっけらかんと信じているのだから、心底仙人はお目出度いぜ。
そうそう、見習いだけど何しろ一応せ・ん・に・んだからね。
本物仙人は不老不死だとか云うけど、見習いとなるとどうなるのかね?

修行らしき修行もしてないグーたら怠け者だから、まー精々平均寿命プラス2,3年も生きれば上出来。
処で見習い仙人の生まれた1944年の平均寿命は幾つだ?
ありゃ、古すぎて出てない。3年後の1947年が男50.06歳、女53.96歳だって。
つまり、もう死んどるんじゃな!
ほなら今、見習い仙人が生きとんのは、おまけみたいなもんかの!


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