仙人日記
 
 その1282ー2016年  文月


7月4週・・・森の奥に太陽光パネルがやってきた

片栗のを覆いつくす太陽光パネル
発電量2.2メガワット(2200kw)


おったまげた!
左膝を痛め、肋骨骨折をしてほんのちょっとだけ朝の山トレーニングを休んでいたら、
あの美しい片栗の森が、太陽光パネルに覆われてしまった。
この太陽光パネルの森が、どんだけ大きいかは、左下の赤い作業服を着た2人と較べると一目瞭然!

てっきりこの片栗の森は市有地かと思っていたら、私有地でこれからは、
立ち入り禁止だとのこと。
山荘で太陽光パネルを設置した2001年は、コストが高すぎて採算が取れず、
この街で太陽光パネルを設置した家など全く見当たらなかった。
それがこんな山奥にまで太陽光パネルが、設置されるようになるとは!




山荘の550倍の太陽光パネル


厳格な民主党員と工場所有者で上流階級に属する夫婦、
伯爵夫妻、2人の修道女とフランスを象徴する
『美徳の代弁者』達に混じって、
独り不協和音を醸す娼婦エリザベート・ルーセは、
どう行動したか!

プロイセン軍に占領されたルーアンを去り、
乗合馬車でル・アーヴルに逃れる決意をした一行は、
プロイセン軍に占拠されたトートの村で足止め。
果たしてごうかツアーは、
如何なる結末を迎えるのか?
折角の名作の弟子名が
≪子豚のふらちゃん≫では、
余りにも芸が無いと反省し、 夜中にガバっと起きて
≪Boule de Suif≫と
小洒落た仏語に改名しました。
気に入っていただけたら幸いです。

≪偽善者は誰で、本当の愛国者は
誰なのかを浮き彫りにする≫
彼女≪Boule de Suif≫こそ、
正しく弟子名・樵婦にふさわしいと、涙を流して
賛同してくれるに違いありません!

 
山荘屋根の太陽光パネル



Ⅰ ごうかツアー体験記
                                          弟子名・≪Boule de Suif≫の記録

ある日、こんな手紙が舞い込みました。
「あなたは 2泊3日ごうかツアに あたりました。おめでとう。9時17分発のでんしゃに乗てきてください。
道の駅でおりてください。別当がまてます。肉もてきてください。とびどおぐもてきてください。山荘主拝」


おかしな手紙だなと思いましたが、毎日の生活に飽いていた私は豪華ツアーという言葉に惹かれ、出かける事にしました。
(肉は持って行くのか、自分の好きなお肉を
BBでジュワーと焼くのだな。)といつもより少し良い肉をカバンに入れました。
(とびどおぐは飛道具か?持ってこないで下さいの間違えでしょう。)と頭の良い私は考えました。


車窓からの青い山、木々の緑を眺めながら今回の豪華ツアーはどんなものかしら?とワクワクしておりました。
降車ボタンを押しホームに降りたのはたった一人でした。「道の駅」駅は、駅に道が走っているホントの道の駅でした。
さびれた駅に戸惑う間もなく別当が物陰から現れました。別当は「ハイ乗って」とあごで指します。
そこにはごく普通の乗用車が待っていました。
乗るとすぐに「肉たくさん持ってきたか?」と聞くので「少し多めには持ってきました。」というと、
別当は少しがっかりしたようでした。




池を漂流する向日葵

漂流花の乗員
 この、夏の朝の
生命に満ちた何と云う静けさ。
森を満たす美しい波が、
蜩の調べや、
雌を求める鹿の一突きだけの
甲高い叫びを載せて、
ひたひたと打ち寄せてくる。

もっと強靭な筋肉を得る為に
ゼイゼイハーハーと、
全身汗まみれになって
登る必要はない。

より高く困難な山巓を目指して、
1秒でも速く駆け上がる
訓練に身を投じなくてもいい。

ただ美しい波に身を委ね、
波の運んでくる
命の物語に耳を傾け、
ゆっくり歩を進めればいい。


珍客の深山紋黄蝶

池を漂流する秋茜蜻蛉



Ⅱ これでだって、殺せるよ
                                          弟子名・≪Boule de Suif≫の記録

次に「飛道具は持ってきただろうね。」と言うのです。
「すみません、持ってきてはいけないの間違いかと思い、持ってきていません。」というと、
今度はうれしそうに「では買いにいこう。」と言って急に車を発進しました。
あれ、この豪華ツアーは狩りなのかな?
狩りはヨーロッパ貴族の遊びですものさすが豪華だわ~。車は
KD2の広い駐車場に着きます。

私がレジ横でハイビスカスの鉢植えなどを眺めていると、
「はい、これ買って!」と箱にも入ってないむき出しのチェンソーを別当は私に渡すのです。
「あの、私そんなにお金持ってないの。」と困っていると、別当は
「カードがあるだろ。」と私の財布の中身を知ってるかのように言うのです。

まあ、飛道具を持ってこなかった私が悪いのですが、(チェンソーって飛道具かな?)と思っていると、
それが聞こえたのでしょうか「これでだって、殺せるよ。」と別当は低い声で言いました。
その言葉につい納得してしまった私はずーとお店の一角を占め続けていたような、
古いチェンソーを買ったのです。

車の中で買ったばかりのチェンソーを横に置き、このツアーどうなのかしらと少し不安になりました。

山荘への登り道はまた私を不安にさせます。
細い山道の両側からは茅が伸びていて行く手を阻んで獣道のようです。
そこを車はどんどん登り、最後の最後に今日のホテルはありました。





池底浚い&フィルター清掃で鯉も生き生き


痛みに怯み避けていた朝トレを、
やっと甦らせる決意をした。
痛みの消失を
待っていては残り僅かな時は、
総て失われてしまう。

美しい波に身を委ね、
波の運んでくる命の物語に耳を傾け、
ゆっくり歩を進めれば、
苦痛のご機嫌取りなんて
必要ないのでは。

朝トレだけを避ける理由なんて、
無い事を充分に知りながら、
おずおずと昼とか夕刻に山トレを始め
苦痛のご機嫌伺いをしてきた。

それで2ヶ月近く朝の山トレーニングから
遠ざかっていたが、
朝の山トレがこれ程までに
贅沢で豊かな躍動であったことを、
すっかり忘れていた。


 睡蓮に咲いた向日葵



Ⅲ 樵の婦人で、何と読みます?
                                          弟子名・≪Boule de Suif≫の記録


『まわりの山は、みんなたったいまできたばかりのように、うるうるもりあがって、
まっ青なそらのしたにならんでいました。』これは賢治の文章。
宿のテラスの景色はまるで童話の世界そのものでした。
この景色の中にいるだけでも来たか甲斐があったとその時は思ったのです。
(ただ、あの変な別当がいてはここは評判落として残念だわ。)と思っていると、
着替えて正装をした別当が蝶ネクタイを摘まみながら、神妙な面持ちで
「はい、外に出て下さい。始めますよ。」と言うのです。

「何を始めるのですか?」と聞くと、「しょうふですよ。」と答えるのです。
私は聞き違えたのかと思いました。すると、別当は「貴方は娼婦と思いましたね。
全く、言葉を知らないね。外で娼婦をする人がいますか?まあ、いるかもしれませんがな。」
顔は神妙ですが何だかうれしそうです。
「樵の婦人で、何と読みます?しょうふでしょ。」これはどうもこの別当の持ちネタなのだな。
ふん、笑えないわい!と樵になんか参加するものですかと思っていると、
「貴女のチェンソーはあちらにセットしましたから」というではありませんか。



お前はやっぱり
単なる阿呆でしかないな。
仙人の聴覚が狂っているって!
≪認識の原点に苦痛あり≫と

苦痛そのものを目の当たりにし、
誰よりも苦痛を良く知っている
枯葉の襞を知りもせず、
ボンシルバーは自らの無知を
曝け出しているだけではないか!

今年は発芽少ないゴーヤー
暖かく穏やかな子宮の海で
漂っていた生命体は、ある日突然、
海そのものが敵意を剥き出しにして
迫ってくることに気づく。

海の圧力は高まり、
海の支配者の苦痛の声が
外界から響き渡り、
苦痛が頂点に達すると海が決壊し、
生命体を外界に排出せんと
更に支配者は喚き出す。

黄プチトマト

ボタボタ落ちる李

勝手に発芽し実る山荘トマト

枝打ちしたらこんなに大きく
生命体は外界に認識体として
存在する為の儀式を決意し、
恐るべき苦痛を甘受し、
4枚の頭蓋骨を重ね頭を小さくし、
脱出の準備を始めるんだ。

子宮の支配者は
子宮の収縮によって
とんでもない苦痛を与えられ、
小さな生命体は
初めての認識として、
頭蓋骨をずらす苦痛を与えられ、
両者の苦痛の極値で外界に
誕生するんだ。

次々と桃太郎トマトも







Ⅳ 真夏の業火ツアー
                                          弟子名・≪Boule de Suif≫の記録

向こうをみると、私のチェンソーが庭先に置いてあります。
いつの間に?あれは私の飛道具なのですから参加しなくてはなりません。
自分の意のままにならない展開に腹を立て「ねえ、別当さん、ここのご主人は何処にいらっしゃるのかしら?」
私はムッとして言いました。別当の傍若無人な振る舞いを主人に訴えようと思ったのです。

別当はまたもや蝶ネクタイをぴんと摘まむと
「はい、私が当山荘の主人です。」と言うのです。
この時ほど、「日常からの脱却」などと軽軽な判断をして
この豪華ツアーに参加を決めてしまった自分を後悔したことはありません。
そういえば、豪華ツアーなどと何処にも載っていなかった。ごうかとは書いてあったけど・・・

その時、車に小さな汚い字で「業火ツアー」と書かれていた事を思い出しました。
その時は漢字も知らないバカな別当が書いたのだろうと、気にもしていなかったのだけれど、
もしかしたらこれはホントの真夏の業火ツアーなのかもしれません。




太陽が真上にあるぜや!

ちょっと耳を澄ませば認識体には、
≪苦痛を突き破れ!≫との囁きが聴こえても、
別に聴覚が狂っているわけでは無いと、
解ったかいボンシルバー君!
 
まーグダグダと詭弁を弄し、
左肋骨骨折も左膝痛も無視して
山トレーニングを再開した言い訳を、
2日間に亘って述べた訳か?

で、今日もきっと痛みに呻きながら、
口をへの字に曲げて、
歯を食いしばって山巓を目指すんだね。
やっぱ、莫迦は死んでも治らないね。
その一部始終を目の当たりにし、
痛みを共有しつつ生命体を送り出すのが、
幾重にも重なる湿った枯葉の襞なのさ。
どうだ、その事実を知ってしまえば、
ボンシルバーも仙人の
聴覚を疑ったりしないだろう?

つまりだ、存在と認識の原点は
苦痛であり、苦痛の齎す闇であり、
この闇から逃れる術は無いと
何処かで認識体は悟っているのさ。

 
どうぞ!向日葵を日傘に


 
採れ過ぎ胡瓜
何しろ胡瓜と云う奴は
ゲリラ的に
突然生り始め、あっという間に
大きくなって、
直ぐ味が落ちてしまう。

そこで今夏は時差播種し、
現在4か所に栽培。 
 
洋梨は未熟、20世紀梨は良し
一昨年ラ・フランスの苗木を
遠くの苗木屋迄
バイクを走らせ買ってきて植樹し
大切に育ててきたが、
さっぱり大きくならない。

その代わり20世紀梨は
今年も沢山実を着け、
秋が愉しみ! 
 
白ワイン用葡萄
ワイン用の赤と白の
葡萄は南瓜、ゴーヤー、
モロッコに棚を奪われ、
どうも居心地が悪いらしい。

それでも頑張って、
《名前だって葡萄棚なんだから、
この棚、僕たちのもん。
ちょっと其処空けて》

唐黍はあと2週間かな?
奥庭を歩くたびに
ごつん、と頭に当たる林檎。
つい先ほどまで
存在感なくて、忘れていたのに、
いつの間にか、
うっすらと紅をさしたりして
すっかり林檎になってる。

ほんのり紅の林檎




Ⅴ キャーこわーい!
                                          弟子名・≪Boule de Suif≫の記録
日のかんかん照り付ける庭に出ると、「まず、練習!チェンソーのエンジンを5回かけなさい。」と言われました。
私は娼婦にもなりたくないけれど、樵婦にもなりたい訳ではないのです。
でも買ってしまった飛び道具、やらないわけにはいきません。
傍に近寄るだけで怖いのに、それを動かそうというのですから、困りました。


「キャー、こわーい!」とよよと誰かにしなだれかかれるほどの才能もないし、
何でも出来ますという強い女でもない。ごくごくフツーに生きてきた者です。
でもここにきてチェンソーのエンジンをかけることになってしまいました。
エンジンをかける紐を引いてみる。途中で引っかかってしまう。何度やっても出来ない。
額から落ちた汗が目に入り。痛い!特に左目は針で刺されるように痛い。

汗を吹きふきなんども挑戦するのですが、一向にエンジンはかかりません。傍で別当改め山荘主が怖い顔で見ています。

早くエンジンをかけなければと焦ります。
もうその頃にはエンジンをかけたいという思いばかりでチェンソーの怖さは薄れていってしまっていました。



私の消滅 悪意に操られる記憶と人格・・・中村文則

《記憶は、個人の同一性と結びつく。それなら記憶が操作され、実際とは異なる記憶がはめこまれたら、
人は別人格を生きることになるのか》
 評冒頭・・・ 蜂飼耳
《僕はこの人生というもの、そのものに抵抗していたのだと思う。
人はもっと静かに生きられる。
たとえこの世界が残酷でも、僕達はやっていけるのだと》
 中村文則

豊かに実ったプラムを摘みながら、昨夜読み終えた「私の消滅」の重さを反芻する。
意識的に実際とは異なる記憶を自らインプットし、豊饒を生み出す行為に汗し、
たとえこの世界が残酷でも、静かに生きていけるとの幻想を追い続けることは可能なのかと、
問題をふとすり替えてみる。
認識体の記憶の原初に激しい苦痛とそれに伴う、漆黒の深遠を観てしまった人間は、
幻想と知りつつ、私を消滅させ静かに生きる決意をするしかないのでは!



美味しくて大豊作の李

今夏の驚きはなんと云っても
山荘プラムの 美味しさにある。
桃、パイン、キウイ、林檎等と較べても
明らかに今年は
山荘プラムに軍配は上がる。
オクラの発芽率が50%程で
今年の収穫はあまり期待できないと半ば諦めていたが、
早くも実を着け始めた。
生のまま食べてみたら結構美味しいでは!
モロッコ、胡瓜、トマト、茄子、ピーマンは、
まーまー順調で毎朝、サラダ、糠味噌一夜漬けで愉しんでいる。

 
葉に隠れて見えなかったけど李どっさり!



どうですか美味しそうでしょ!
昨年の冷凍保存してある干柿を、
ヨーグルトと一緒に毎朝食べているが、
これと較べても今年の山荘プラムは、
甘さこそ劣るが美味しさでは、
干柿を超えている。

今朝も一皿ペロリと
平らげてしまい自分でも吃驚!

冷やしてカットして桃と一緒に



目白に持ち帰った山荘の宝石!


鍼灸師の香さんのとこの6歳の燕くんなんか、
トマト大好きで、トマトを手にするや
こっそり自分の部屋に行って、
ぜーんぶ食べちゃうこともあるんだって!
出て来る出て来る!
大きなザックに詰め込んだ桃、プラム、沢山の野菜。
目白のマンションには山荘野菜のファンが居て
毎週、首を長くして待って人がいるとか!

 
もっと野菜も加えて朝市じゃ!



Ⅵ 焼ける厭な匂いが
                                          弟子名・≪Boule de Suif≫の記録
山荘主は「しょうがないなあ、俺がエンジンをかける。」と
チェンソーのエンジンをかけられない=無能な生きる価値もない人間というような苛立った様子で
チェンソーの前から私をどかすと、少し手間取った様子でしたが
エンジンをかけました。

「これを持って山に入る!」エンジンのかかったままの、
ガーガーうるさいチェンソーを持って山に向かいました。
山荘主のと、私の物の2台のチェンソーがガーガー音をたて、会話も出来ません。
これを持って滑る山道を行くのかと思うと、怖ろしくなりました。

滑った時は、怒られてもまず自分の身を守ろう。と覚悟を決めた時、
プラスティックが焼ける厭な匂いがしてきました。
見ると、私のチェンソーから白煙が出ているではありませんか。
すぐにエンジンを切りました。静寂が戻ります。何だかうれしい。チェンソーからの解放です。




 
西瓜もぐんぐん大きくなって
特に今朝は原野での
背丈ほどもある芒刈り肉体労働で、
汗びっしょり喉カラカラ。
良く冷やしたプラムとヨーグルトが
滅法美味くて箸が
止まらず食べ続けてしまった。

梅雨明けの蒼い空と
強烈な太陽を浴びての肉体労働、
そうかこんな朝は
石卓の木陰で朝からビア、ワインで
のんびり山荘の夏を愉しめば
よかったんだな!

最後の石卓での朝食はいつだったか、
思い出せないほど昔のような。
素晴らしい山荘の夏を
そろそろ復活させようかな! 
 
天空南瓜が頭に当たってね

茄子も重くて倒れそう 
 
モロッコも収穫時期に
復活させるには
何か足りませんか?

パクリと頬張った肉厚ピーマンが、
ローストした
ジャーマン・ソーセージと一緒に
口の中でモグモグ
云ってます。

肉厚ピーマンも生でサラダに
若しかすると、それって
ロングスカートの素敵な、
お話しをいっぱい胸に詰めた
卵スープと冷やしトマトの
ことかな?

変だぜ、卵スープと冷やしトマトが
ロングスカートなんか履くか?
どうも仙人の心象は
激しく混濁してるようなのです。




Ⅶ はい、この樹
                                          弟子名・≪Boule de Suif≫の記録


山荘主はすぐバイクを飛ばし買った店に行ったようでした。
少しのんびりできるかと、周りの景色を楽しんでいると、ギャー、
新しいチェンソーを手に入れてきたではありませんか。
ごうかツアーは地獄の業火ツアーなのだ。業火は浴びなくてはならないのだ。

再度チェンソーのエンジンかけに挑戦したのです。
今度の器械はエンジンがかけ易い。それで喜んでいる場合ではないのです。
この危ない器械を持って暗殺者ジェイソンよろしく山に入るのです。
狙われているのはチェンソーを持っている自分自身です。
まず、山荘主が見本を示してくれました。
その後、「はい、この樹」と言われるのですが、まず斜面に自分の居場所をみつけなければなりなせん。





片栗の森の記憶は何処に いつか来たこの道は跡形もなく消えた
 そんなに嘆いていても
いつの日か
片栗の森の記憶は彼方に
追いやられ、
追いやられた記憶は
やがて居場所すら失念し、
もう想いだすことも
無くなってしまうのだろうか!

それとも
記憶は日々新たに
鮮明さを増し
実存を遥かに超えて、
生きて在ったことの波動で
過ぎ去った渚を
打ち続けるのであろうか!
また新たに
森の伐採が始まり、
嘗て天空を衝いて
葉の海を描いていた樹木は、
丸太んぼうになって
突っ立ち
滑車を付けられ死体となった
仲間の丸太んぼうを運ぶ。

それでも丸太んぼうは
記憶を消されまいと必死になって
丸太の天辺から
僅かな緑を育み、呟く。

《確かに森は在ったのです》

記憶を消去する作業は続くが丸太の先端には緑が 手前の滑車は森の伐採後の木材を運ぶ



片栗の森上部

切り裂かれた森の異邦人
どうなってしまったのか、
憶測しているだけでは真相は掴めない。
もしかすると有り得ない事ではあるが、
森自身が決断し
膠着状態を切り裂いて新たな途を
志したのかも知れない。

片栗の花々と共に繰り返し、繰り返し
素晴らしい日々を送るために
離婚までしたのだから、
その決断力を新たな晩鐘の時を
生み出すために使うべき。
そんな声が聴こえたもんだから、
のこのこ片栗の森へ出かけてみた。
入口には厳めしい立ち入り禁止の看板が
どでんと、立てられているので
迂回し平沢の集落まで登って、
船宮神社に出てそこから
太陽光パネルの最上部まで登り詰めてみた。

片栗の森は跡形も無く消え失せ、
片栗の巨大な花弁となって、
赤茶けた大地にへばり付く
太陽光パネルだけが在った。

片栗の花が2.2メガの電力へ

小倉山北尾根裏に山荘



Ⅷ 快感!樹が倒れる
                                          弟子名・≪Boule de Suif≫の記録

そして、その狭い場所で怖ろしいチェンソーのエンジンをかけるのです。
こんな思いをするなら、鋸で何時間でもかけて切ります。
と言いたいところですけれど、なんといっても自分の物なのですから、
しかも交換までしてきてくれた飛道具なのですから、やらなくては。
もうどうにでもなれ、の心境です。

ズルズル斜面を下り、チェンソーがやっと置けるくらいの狭い場所でエンジンをかけました。
轟音が響きます。森の中では細い方の樹です。
しかしこれだけの樹、チェンソーを当てた時の反動はいかばかりかと、恐る恐る樹に当ててみる。
あ、呆気ないほど簡単に切れてしまった。

快感!樹が倒れる。やったぁ!と思ったら、その樹が支えていた隣の伐採後の樹が私の上に落ちてきました。
これで、樵の儀式は終わったようです。
帰り道、娼婦と樵婦とどちらが厭か考えてみました。樵婦の方が絶対いいなあ。





螺旋星雲となって黄昏れる太陽系
太陽は赤色巨星となって地球を呑込む

最早いくら太陽光パネルを並べようが、螺旋星雲から生のエネルギーを得ることは出来ない。

森は片栗との共生を決意し離婚したものの、失うのは日常の安寧だけでなく、
実は森自らも失うことに気づき、更なる決断を迫られ森からの変身を決意したのだろうか?
森と太陽の晩鐘が重なる。死に行く太陽・螺旋星雲の弱弱しい光を浴びて、
光を電気エネルギーに変換できなくなった太陽光パネルが、寂寥を湛えた眼差しで天空を仰ぐ。

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