仙人日記
 
 その1281ー2016年  文月


7月1.2週・・・神成岩登攀で肋骨骨折 復活トレーニングで再び負傷

神成岩登攀で肋骨骨折
7月11日(晴)大菩薩嶺 復活トレーニングで再び負傷

神がブレーキを掛けた。
この阿呆には最早こうするしか術は無い。神の決断はいつも正しいのだ。
その瞬間、仙人は神の判決を信じて疑わず、左肋骨骨折を甘受。
と云うよりか寧ろその瞬間を、待ち望んでいたかのように仙人は、
痛みで呼吸さえ出来ない肋骨骨折を、莞爾として歓迎したのだ。


左肋骨骨折直後の神成岩の山巓

ざまーみろ出臍!(これ仙人の幼少期からの意味の無い口癖)
 さっさとくたばっちまえ!
ハイ、出来れば早急にくたばりたいと願っております。
とかお道化ているが、実は骨折直後は痛みで
呼吸が出来ないと気づき、
若しかすると動けず下山も難しいのではと、
一瞬焦ったのだ。

脚が動くか力を加えたら、意志の指令を無視して
脚が動かないどころか、骨折したのは
肋骨なのに無傷の脚が肋骨の痛みを引き起こすでは!
明らかに左膝の痛みは未だ登山は出来ないと告げているのに、
無思慮、無分別の頑固仙人は
一昨日の小倉山登山での痛みの軽減にすっかり調子づいて、
昨日の昼からのこのこと大菩薩嶺の岩場に出かけたのだ。
言いぐさはこうだ。

そろそろ回復の兆しが観えてきたのだから、
このままではいかん!≪積極的に打って出よ。
攻撃は最大の防御也≫とか
散々言い古されたセリフを持ち出して、
無謀にも大菩薩嶺の岩場にのこのこ出かけたのだ。


 眼下に大菩薩湖




バーチャル宇宙ツアー50億年後の地球螺旋星雲
太陽の8倍以下の星は赤色巨星へ (コズミックフロントより)

ヤベー、こうなったら受傷直後に
痛みを抑える為に分泌されるアドレナリン効果が切れる前に、
何とか安全な稜線まで出なくては! 読まれてしまった。
もしこの大菩薩での岩場が楽に登れたら、左膝の痛みを無視してでも
アルプスへ行こうとの下心が、余りにも見え見えだった。

神でなくても誰にだって、この仙人の見え透いた意図は明らか。
どうにか山荘に戻った仙人の一言。
《あーこれで今年の夏のアルプス山行は完全に不可能になってしまった》



高芝山巓の北回帰線上から
薔薇炎上


 [その波が、なかなか自分の身に起こらない。
いつもならハードタッチ20分で手に入る快楽が、
つま先を濡らす前にさっと退いてしまうのだ。
そのたびに「美しい波」とキリコの
整った目鼻立ちが脳裏を過った]


山荘でのカロスキューマが夜明けの蜩の、
声を限りのアンサンブルで有ることは言うまでもない。
繰り返し寄せる美しい波。
Kalosは名詞、Kalon(美)の形容詞。

読ませるのだ。何か残る訳でも、
揺さぶられるような波動が在る訳でもないのだが
読み始まると止まらない。
ただ単に文章の巧さだけではない
桜木志乃の哀しみが、
読者を惹きつけるのだろう。

桜木志乃の「裸の華」の主人公元ストリッパー・ノリカは、
カクテル・カロスキューマの意味を調べ、
ギリシャ語の≪美しい波≫と知るや、
そのギリシャ語を自らの肉体に重ねる。


カロス・キューマ (Kalos Kuma 美しい波



農作業のご褒美に山へ行こう!

1回目クリア。この調子なら10回くらいはいけそう。
1回増すごとに痛みが酷くなる様なら当然、
仙人はすごすごと引き下がる。
がどうだ、10回やっても痛みは変わらず。
行けいけとばかり一気にいつもの103回をクリア。

《骨折から5日目にして腹筋運動を復活させたのは、
今までの十数回の肋骨骨折では最短記録なのでは?
どれどれ前回の肋骨骨折の記録を観てみよう。
1年5カ月前2月22日に建設中の陶房小屋で
工事中に不安定な踏み台が傾ぎ転倒、
2か所骨折とある。
6日目の朝、「痛い!」しかしどうにか、
1回目の腹筋が出来た。
もしや、出来るかも!
ソファに仰向けになり頭をレザーシートに付け、
両手を組んで頭とシートの間に入れる。
こうすると腕の重さが頭に加えられ更に負荷が増し、
腹筋運動の効果が上がるのだ。

折れた左肋骨に聞き耳を立て乍ら、ゆっくり上半身を持ち上げ
更に両膝に顔が接するまで深く曲げる。
痛みはあるものの最早、仙人の意志を凌駕する程の
激しさは無く、実に弱弱しく「そら痛いだろうが、止めとけよ!」と
呟くのみ。やったぞ!


躍動する自由への径




前庭の紫陽花

池畔のセージ

中畑石垣ののうぜん葛

中庭の君が代蘭

それなら2回目も出来ないことは無いと、
痛みを堪えて2回、更に3回と
顔を顰めながら続行。
遂にいつもの103回の腹筋運動を
達成したのが昨朝。
つまり骨折以来6日目であり、
前回の骨折記録
記された日数と同じで
腹筋運動が復活したのだ》

とあるでは!つまり仙人の肉体は、
6日目には腹筋運動を可能にするまでに
復活すると云うことなのだ。
なーんだ、
新記録かと歓んでいたのにがっくり!
しかし実に嬉しいね。
たかが腹筋運動が出来るようになった
と云うだけなのに!

石段からテラスを見上げる蘭



脈動するカロス・キューマに呑まれる刹那
7月24日(日)晴 高芝山から昇る太陽を浴びて

南回帰線へ面舵を切って高芝山から水晶峠に船首を向け、太陽は去りつつある。
闇を溶かした暁闇の雲にほんの微かな光が混じったかと思った瞬間に、
アクセルを最大限に踏み込み一気に最大限のボルテージを炸裂させ、蜩が叫び出す。
数秒遅れて触発された他の蜩が、声を限りに叫びアンサンブルする。
微かな光は無彩色であった暁闇の雲を仄かに朱に染め、
アンサンブルする蜩の叫びの通奏低音となって夜明けの歓びを奏でる。

南回帰線に向かってしまった太陽に一抹の哀しみを抱きつつ、
それでも蜩が声を限りに謳い、命を讃えるならば、哀しみは止揚されるに違いない。
止揚された哀しみはいずこへ向かうのだろう。
深くなった想いは純度を高め、限りなく透明になって風や、せせらぎになるのか。
そうなれば、いつだって心を研ぎ澄まし、耳を澄ませば逢えるようになるのであろうか!


理解してもらえることが嬉しいと
心底思えるのは随分久しぶりのような!
理解してもらおうとすると、
阿る部分が何処かに見え隠れして
自己嫌悪に陥る。

そこで山荘HPでは心象を
言語に置き換えることによって生じる
読者とのディスコミュニュケーションを、
極力避けるための理解への
歩み寄りは別にして、
理解への媚び諂いは切った。


池の睡蓮に向日葵が
今度の≪美≫への想いも
 ≪破壊に仕組まれている創造を
高らかに謳い上げるのが美である≫
 とかなりエキセントリックな表現をしたが、
これをすんなりと理解し更に、
≪美しいものこそが真実であり、

たとえ刹那であっても、それらに触れる喜びは
生きる歓びに繋がる≫と
敷衍する感性に、嬉しくなりました。
その感性が1日も早く
山荘活動に加わる日が来ることを、
愉しみにしています。


松葉菊もカロス・キューマ 
 
西畑で跋扈する秋桜
 
蔓草を取ってやったら松葉菊満開


山巓が在ると信じ唯無心に登りつめる
7月24日(日)晴 月の残る森に包まれて

弟子が修行に来るので、新たな境地を拓いてやろうと、樵修行をさせてみることにした。
現在使用している日工タナカエンジニアリングのチェーンソウPMS330B型は、何度も壊れ修理に修理を重ね、
現在尚稼動してるのが信じられないポンコツ。一体いつ購入したのか調べたら8年前の2008年12月30日と判明。
この8年間の活躍ぶりは半端ではない。
山荘周辺の原野伐採、陶房小屋建設、庭の大木伐採、林檎畑東森の伐採と大活躍し、チェーンソウの交換も3回、
取っ手の修理、燃料、チェーンオイルのキャップ交換とケアしてきたが、酷使に酷使を重ねたので、
ガイドバーが変形し直ぐチェーンが外れ極めて危険な状態。

そこでこの際新たな弟子にはピカピカのチェーンソウを購入して貰うことにした。
日立エンジンの最新型と替えのチェーン、研磨具、チェーンオイルと共に購入し山荘に持ち帰り、
新旧2台のチェーンソウを呻らせ、いざ出陣と林檎畑の森に出向く。
ありゃ、何度やってもこの弟子エンジンが掛けられないでは!
どうにか掛かったかと思えば、新品の日立チェーンソウが白煙を上げて様子がおかしい。
調べてみるとプラスチックのチェーンケースが、回転するスプロケットと接触し発熱し融けて燃え上がる寸前!
慌ててエンジンを止めたが、有り得ないことが起こったことだけは、理解出来た。




夜明け前から桃の収穫

お裾分けが庭のテーブルに
即ホームセンターに駆け込み
チェーンソウでは定評のある丸山エンジンの
チェーンソウCST311Sと交換し、
どうにか日没前に林檎畑東森に残された
1本の木の伐採を終える。
うーん、前途多難じゃ!
エンジンも掛けられないこのへなちょこ弟子の
プロローグに相応しいと云えば、
一言も無いが、一体この先弟子は
自在に名器を操り、技の頂点に
達することが出来るのだろうか?


カンカン日照りの中で黙々と雑草取り。
激しい負荷を掛けてでもいるかのように、
汗が長袖シャツの中を流れる。
「それじゃ農作業のご褒美に
小倉山へ行こう!」 
頂を極めることを目指して
山荘にやってきた筈の
弟子から意外な反応。


山荘の李も今年は甘くて大きい

さあ、市場へ出荷でーす



石段を登って桃が来た

独り頂に立ち、激しく去来する雲の
合間に見え隠れする山荘を
しっかり心象風景に取り込み下山開始。
そろそろ弟子が追いついて登って来る筈と、
森へ連なる登山道をウオッチングするが
影も形も観えない。


座禅草公園を過ぎて、
最早下山開始している弟子発見!
やはりそうだったのか!
頂を目指すなんて言うのは、
弟子入りさせてもらうための口実であって、
実は登山なんてどうでもよかったのだ。

「あのご褒美のパス、ってありですか?」 
ま、幾らなんでも弟子入りの目的が
頂に達することでであるのに、
それをパスするなんてあり得ない、
ジョークみたいなもんだろうと
軽く聞き流して出発。

先行する弟子にバイクで追いつき
「後ろに乗る?」と声を掛けたら
「いいえ、歩いて登ります」と頼もしい返事。
矢張り、ご褒美のパスだなんて
ジョークだったんだと、
小倉山登山口へとバイクを走らせる。
処が甘かったぜ!

 
あれっ!桃だ!


篩に掛けて土作り

ポットに播種し散水
しかしバイクに乗ってしまうと、
仙人と一緒に頂上を
目指して登らざるを得なくなり、
そのために更に汗をかき心臓を
バクバクさせて延々と苦しまねばならなくなる。
そんなの真っ平ごめん!
いっそ独りで行くふりをして適当な処で
引き返してしまえば楽ちん。

ま、そんなことを考えているようじゃ
弟子の破門間違いなし。
ところが笑ってしまうのは、
楽ちんを選んだ自分に対して弟子は、
自己嫌悪を抱くと云うのだ。

自己嫌悪を抱くほどナイーブであるなら、
頂への脈は未だ残っていなくはない。
なんぞと優柔不断に破門を躊躇う仙人こそ、
底なし沼の自己嫌悪に陥ってしまいそう!
早々と破門を決定し宣告すべし!

ほら、レタスが発芽した

問題は難しい人参だけど




熱情を一点に収斂

ヒマラヤで追い続けた未踏峰や8000mの巨峰たちが、
今もキラキラと光を発しているでしょう!
本当は知っているのね。
左膝の痛みと肋骨骨折を理由に
扇山トレーニングから遠ざかることが、
結局は自らを失うことだと。

確かに苦痛は、時には60兆個からなる肉体宇宙の
壊劫開始を告げる重要な警告だけれど、
唯々諾々と苦痛に従うことによって、苦痛の奴隷に貶められ、
肉体を人質に自らを奪われてしまうこともある。
でも気づいたのね。こうやって湿り気を帯びて
仄かな樹の香りを放つ枯葉に、再び足を踏み入れて、
森の頂点をしっかり見据えて扇山に登りだしたということは!

苦痛は突き破られるためにあるのよ。
苦痛の彼方に渺茫として展開される空劫はいつだって、
仙人を待っています≫ 

幾重にも重なる湿った枯葉の襞が、
まさかそんな訳の解らんことを云うなんて、仙人の聴覚は
狂っているに違いない、
とボンシルバーは確信したのである。
ゆっくり一歩を踏み出す。
湿り気を帯びて仄かな樹の香りを放つ枯葉に、
吸い込まれるように足が沈む。
幾重にも重なる湿った枯葉の襞が、
足を包み込み蠢き、何かを伝えようと更に律動を高める。

≪意識的に取り込まない限り、時間は
如何なる形も色も匂い、音色も残さず、
ただ流れ去って行くのよ。
感性を高め熱情を一点に収斂し肉体を鼓舞し、
劫火狂乱の嵐の中に、せせら笑いながら突っ込むのよ。

ほら過ぎ去った心象スケッチを覗いてごらん。
そうやって過ごしてきた時間が、
流れ去る時間から切り取られるように
シェルターの気泡を成し、フォルムを形成し、
鮮やかな色彩を放ち、妙なる音色に生の香りを塗りこめて、
幾つも幾つも時の大河を離れ
天空への旅を始めたでしょう。
其れこそが活動自身の存在証明。
飛翔する一際大きな気泡を覗いてごらん。

 
ただ流れ去って行く時を意識的に



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