仙人日記
 
 その1222ー2016年  睦月

1月2週・・・幾ら虚空に手を伸ばしてもシェヘラザードのトーク釦は見つからない

2016年の夜明け


一条の光の帯に乗って虚空へ旅立つボン・シルバー
1月16日(土)晴 中庭

 「山の詩集」、「K2に憑かれた男たち」、「アコンカグア山頂の嵐」、
「完結された青春」(陽介に貸した本)「零下51度からの生還」と「写楽殺人事件」を持って行く。
本日は午後から帰京予定で、野菜の重さに読んでしまった無駄な本の重さをザックに加えたくないから,
読んだのがあったら直ぐメールして。
リクエストのテープは7本、クラシックは抜いたけど聴きたいのがあったらこれも直ぐ返メールして。

今朝はちょっと早く起きすぎて、薄明の宇宙を仰ぎながらの畑仕事。
蒼に少しづつ光が混じっていくときの神秘的なグラデーションに圧倒されて、
暫し鍬を持ったまま立ち竦んでしまった。
西畑の草取り後、本日の日の出を迎えたのは扇山頂上直下。

連日の畑仕事で、やっと春を迎える目安らしきものがついた。
しかし4か所の畑は明らかに広すぎて、虚空へ還る旅の途上にある老い耄れ仙人には些か過重。
≪今年が最後かな?≫なんぞと呟いてみてニンマリ。
きっと能天気な仙人は虚空への旅を愉しんでいるんだね。



氷を滴らせる昇龍
謹賀新年!
山荘の三守護神のご挨拶

ヒマラヤで共にザイルを結びながら
逸早く虚空へ還った8人の
山仲間に聖母の宝石の光を届けよう。

魔の山ナンガ・パルバット峰(8125m)
眠り続ける中島修と大宮秀樹に!
チョモランマ(8848m)高所キャンプから
還らぬ人となった望月泰彦と
インドヒマラヤの氷河に呑み込まれ、
消えた高橋敏雄に!

ヒマラヤ活動後、次なる目標を
未踏峰などに定め国内の
トレーニングで散っていった
成田泰樹、中川雅邦、大谷均、小口順史に!


不毛への旅を続ける駱駝



マドンナの宝石
灼熱の熱情を帯び水晶の山巓から闇を俯瞰する

1月13日(水)晴-4.6℃ 山荘玄関の入鹿

虚空に還る儀式には千夜一夜物語を語るシェヘラザードが欠かせないのだが、
幾ら虚空に手を伸ばしてもシェヘラザードのトーク釦は見つからない。
坊やが大きなため息をつき物語を諦めかけた時、
ヴォルフ・フェラーリがいつの間にか寝室で咲き誇る君子蘭になって、
歌劇≪マドンナの宝石≫の第一間奏曲を奏で始めたのだ。

とまあ、此処までは未だ冬になったばかりの1月を、春の4月と間違えて
咲き出した慌てん坊の君子蘭の早とちりと頷け無くもないが、
いったいどうしたことか、今朝再びヴォルフ・フェラーリが中畑に現れたのだ。

 
20鉢の君子蘭の内、寝室の1鉢のみ咲いた

今朝は夜明け前の5時58分に今冬の山荘最低気温ー4.6℃を記録したが、
昨日の腰痛は何処へやら耕作が愉しくて、
ラジオのクラシックカフェを流し、鍬を振り下ろしながら夜明けの太陽を待っていた。
未だ地表は暁闇に沈んでいるが、
水晶峠上空では3筋の飛行機雲が、南から西へ棚引き払暁の光を浴びて煌めく。
さあ、出るぞ!と鍬を振る手を休め、水晶峠を見詰めると信じられないことに、
FMからヴォルフ・フェラーリの≪マドンナの宝石≫が流れ出したでは!

5日のクラシックカフェの再放送、
貞平麻衣子「歌劇“聖母の宝石”から 間奏曲」 ヴォルフ・フェラーリ作曲 (3分39秒) 
(管弦楽)アカデミー室内管弦楽団 (指揮)ネヴィル・マリナー  


新春仕事始め

落葉の上で日向ぼっこ

太い大根は半分に切って干す

日陰になったら移動

暗いうちから畑仕事。
支柱を抜き、
雑草、育ちすぎた野菜の除去。
未だ未だ施肥し、耕運機を
掛けられる段階まで行かず焦ってしまう。
何しろ有機肥料は
土に和むまで時間が掛かるので、
急がないと春の
種蒔に間に合わない。

 

2時間汗を流し、
どれそれでは扇山に行こうかと
葡萄畑から奥庭に上がると、
水晶峠から太陽。

朝日の差し込む森の中で
ふと昨日味見した白菜漬けと
沢庵の、余りの美味しさを
思い出し、そうだ、今の内なら

 

さて何処に干そうか

漬ける前から美味そう

新年会に楚蟹(ズワイガニ)がやって来た

未だ畑の白菜も干し大根も漬物に出来るでは。
現在ベストの味となっている漬物を山荘野菜が好きな人に送ってあげよう。
空いた樽に新たに白菜、大根を漬けたらもっと多くの人に美味しい山荘漬物を愉しんでもらえるでは!
で汗びっしょりになって扇山を掛け下り、シャワーも浴びず、そのまま更に畑仕事。

大きな白菜を収穫し、4つ切りにして奥庭の枯葉溜りに干す。
新鮮な白菜の良い香りが漂い、何とも幸せな気分。
それでは、氷滝の流れに繁っているクレソンや、凍てつく寒さと闘い青々と生育しているパセリを添えて、
ズワイガニで新年のお屠蘇を戴きますか!


最後の白菜漬 

長ーい穴掘りも終わり 
 
ちょっと作り過ぎか?
こうして午後まで干せば、
たっぷり太陽を吸い込んで
夕刻には第3回目の
漬物が仕込めるだろう。
と書斎から白菜の
陽向ぼっこを見下ろしたら、

 
 食べきれない白菜は防寒してと
母屋の影が
いつの間にか伸びて、
白菜に掛かり始めているでは!
こりゃいかんと慌てて
一輪車を出動させ、
白菜を載せてベランダに引っ越し。
これで夕刻まで
陽浴を堪能しておくれ! 

 
 
換気扇も思い切って!
そうだった。
例年12月には家具を移動し、
本格的な大掃除を
していたのだ。

今年は大掃除のことなんぞ、
まるでどこ吹く風で
なーんもしとらん。
ヤバイ、せめて換気扇くらいは!
 
昨年末はさぼった大掃除



蘭も梅も春到来と咲き誇る


寝室は君子が満開


あの美しい聖母の宝石を
盗んでまで私に愛をささげる者こそが、
私の愛人に相応しいとマリエラは思い込む。
マリエラを慕っている義兄の鍛冶屋のジェンナロは、
マリエラから「聖母の宝石を盗み得るものだけが

自分の愛を勝ち得るのだ」と言われ、
聖母の宝石を盗んで彼女に与えるのだけど、
興奮の冷めた彼女は
それを裏切って若い首領ラファエルに
愛を求めてしまう。
山荘も暖冬で春到来

あのねイタリアの下町に
サモラ党という秘密結社の若い首領ラファエルが居てね、
ナポリのマドンナ祭で
「聖母の宝石」をいただいた聖母の行列を前に、
ラファエルはマリエラに
「もし望むなら聖母の宝石を盗んで与える」と
愛を誓っちゃうんだ。

 奥庭では白が咲き誇り



例年4月に咲く白梅が1月に咲いたのは初めて
鍛冶屋の男ジェンナロは
裏切られた悲しみと、
聖母の宝石を盗んだことの
罪の重さに気づき、
宝石を返してしまう。

其れを知ったマリエラは
自らへの愛のシンボルである
宝石が失われたことを悟り、
海に身を投げて
死んでしまう。
マリエラを失ったジェンナロも
ナイフを胸に突き立てて
死ぬと云う
悲劇的なお話しなんだよ。
勿論そんなこと全く知らずに、
初めて出逢った高校1年の夏、
唯々その曲の
余りの美しさに圧倒されて
その曲の入ったドーナツ版を
聴き続けたのさ。
A面が≪マドンナの宝石≫でB面が
≪カヴァレリア・ルスティカーナ≫だった。

そんな半世紀以上も
前の大昔のことが、ふと
虚空に還る儀式に甦ったとしても
大して不思議でもない。
問題はそいつが儀式明けの翌朝、
FMとシンクロした偶然性さ。

何の関連性もない事は
明らかだが、
≪幾ら虚空に手を伸ばしても
シェヘラザードのトーク釦は
見つからない≫との嘆きが、
何処かに届いた様な
気がしたのも確かなのさ。

凍る滝の横で芝桜までが咲き出した



 
ちょっと今週20日からGBRダイビング、ウルル登山を兼ねて南半球へ出張です!

世界最大級の1枚岩の山・ウルルはアボリジニの神宿る聖なる地。
144年前の1872年に探検家ウィリアム・ゴスが西洋人として、初めてこの巨大な岩山に遭遇、エアーズロックと命名。
現在では、古くからアボリジニによって呼ばれていた「ウルル」が正式名称。
6億年前に聳えていた8000m峰が浸食され消滅し、流し出された砂が砂岩を形成し、ウルルを生み出したとか。

10分の1の海抜863mとなってしまった嘗ての8000m峰に逢いに行こうと計画。
総て手配が終わり出発を目前にして、ウルル登山の一時閉鎖のニュースが手配会社から飛び込んでくる。
ウエブサイトで調べたら、この一時閉鎖は昨年10月27日に登山者安全用の鎖が、
何者かによって切断されているのが発見され翌28日にウエブサイトに乗せられていると判明。
手配会社の杜撰で無責任な情報処理に怒り狂ったが、登山は諦めるしかない。
≪先住民のアボリジニの聖なる山を汚すな!≫とのメッセージか?



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