|
その120の3ー2015年 霜月 |
11月3週・・・満天星に迎えられやって来た羽化妖精
燃える満天星に迎えられやって来た羽化妖精 11月15日(日)雨後晴 山荘ゲート はらはらと森の枯葉が舞い降りてきて、 ずんずん積もってすっかり落葉の絨毯になったゲートから現れたのは、羽の生え始めた妖精たち。 がさ、ごそ、枯葉を踏みしめ蹴散らし舞い上げ、≪せんせ、何処にいるの!≫ でも山荘はしーんとしていて、まるで黙ったまま。 お迎えしてくれた満天星も、何だか嬉しそうに身を揺らすのですが、一言も応えてくれません。 ・ そうそう仙人は森の中の陶房で、作陶中の大皿とにらめっこしながら、 ≪さて、さて、お前はどんなお皿になりたいんだい?≫なんぞと 大皿とお話ししていたもんだから、妖精たちの声が聞こえるはずがありません。 妖精たちは前庭を風の様に走り抜け、奥庭までやってきて、再び大きな声で叫びました。 |
今日の主役は甘くてホクホクの金時芋! するとどうでしょう、山荘の畑から のんびりして、やたらと長くて低いまるで鯨の欠伸のような 声がしたのです。 「誰かおいらを呼んだかい?」 ・ その声に気付いたのは5歳のリッキーだけ。 小学生になって妖精から羽化してしまった綾と恵太には、 どうも聞こえないようなのです。 仙人がのっそり森の陶房から現れるとリッキーは 真っ先に駆け寄りぐうに握った右手を、 矢庭に突き出し「これあげる!」 |
枯露柿、薩摩芋の山荘スイート |
これぞ薩摩芋の王≪金時≫じゃ! |
蒼や赤、黄色の小さな玉が紅葉の手にしっかり握られていました。 どの玉も少し汗ばんでいましたが仙人は嬉しそうにリッキーに云いました。 「こりゃ何だい?」 「ガムだよ、ほらこうやって延ばすんだよ!」 口に含んでいたガムを指で摘んで、リッキーは、ガムをずんずん伸ばし、 あー、ガムとリッキーが繋がって大変だ! ・ リッキーがあんまり伸びて糸になってしまうと再び畑から鯨の欠伸の様な声が わふわふ響いてきました。 ありゃきっと今日の主役を務める金時芋の、笑い声に違いありませんぞ。 |
此処に居たのか金時芋は! |
綾と二人でよいしょ! |
羽化妖精の大活躍! 足の踏み場も無く びっしりと畑一面を覆う 薩摩芋の葉と蔓。 ・ 唯の葉と蔓でさえ 踏み込むのを躊躇うが、 朝まで降り続いた雨が、 葉を湿らせ土をべとべとにし、 観ただけでげんなり。 |
こいつを引き抜き 湿った葉を集めて抱え、 えっちらこっちら、 隣の葡萄畑まで運ばねばならない。 ・ 1度や2度なら、 そりゃ収穫の歓びだとか 何とか言って済ますことも出来るが、 中畑全面の蔓と葉の 総てを抜いて運ぶとなると、 最早辛い重労働以外の何物でもない。 |
隣の葡萄畑まで蔓を運ぶんだよ |
葉子の嘆き この上等な服で農作業とは! |
葉と蔓を取って芋掘り開始じゃ! なんぞと云って、積極的に働くのだ。 2年前の薩摩芋の収穫時との余りの違いに吃驚! 彼らのこの2年間の成長が 如何に大きかったかしみじみ実感! ・ 葉と蔓を片づけてさあ、いよいよ芋堀。 1人1株を割り当て小さなスコップ(移植ごて)で 丹念に土を除き、 少しづつ芋を傷つけないように掘り進む。 |
しかしどうだ! 小学5年生の恵太や2年生の綾だけでなく、 驚いたことに5歳のリッキーまでもが、 泥んこになる辛い仕事を 嬉々として続けるのである。 ・ それどころか柵を越えて 崖下まで伸びて取り難い蔓や葉に難儀するや 「せんせ、崖下に出て蔓や葉を抜いてもいい?」 |
出て来た出て来た金時芋! |
そーら見えたぞ |
う、金時芋にしては大物だ |
リッキーのアシスタントを 命ぜられた葉子は、 効率の悪さに辟易したか、 石垣に立てかけられた 大きなスコップを見つけ、 「せんせい、 このスコップで掘れば早いじゃん!」 「いや駄目だ! |
芋を傷つけない様、 小さなスコップで 少しづつ掘り進みながら、 芋がどんな風に大地に食い込み 育っているか 知ることが大切なんだ」 ・ 「くそー頑固教師め!」 なんぞと悪態もつかず、 中学生に還った葉子は リッキーと大地を掘り続けましたとさ。 |
129人死亡パリテロの一味か? |
僕の掘った金時芋だよ |
これ長くて大変だった! 数十分の悪戦苦闘の結果 美味しそうな金時芋が 1株から4個も採れて妖精たちは大得意。 朝の土砂降りの雨は何処へやら、 沈み始めた太陽が、 子供たちの顔を捉え、光の矢を放ちます。 ・ 眩しくて目を瞑った綾に、芋の翳に隠れる恵太に 太陽は突き刺さり、あー、そうして綾や恵太の翼は、 もっともっと大きく育つのですね。 |
紅色の金時芋が 土の中から徐々に姿を現してくると、 リッキーも綾も恵太も 夫々に芋の大きさに一喜一憂し、 逸る心に敗けそうになり引き抜こうとする。 ・ 総合アドバイザーのハパダンは 空かさず 「未だ未だ、ここで抜いたら 途中で折れてしまうぞ!」と警告。 |
ちょっと折れたけど余裕さ! |
重くて石段あがれないよ |
其の後の巨大小松菜、大きな大根、 青梗菜、白菜、蕪抜きと収穫は続き、 妖精たちは大活躍。 お土産どっさり。 |
車まで運ぶんだ、もう少し! |
嘗めるなよ!たかが小松菜,抜けないなんてありか? リッキーが駆け寄り恵太の手助けをしますが、巨大小松菜はびくともしません。 そりゃそうですよ、有機肥料と溢れる太陽をたっぷり吸い込んで、自由にのびのびと育ったんですから、 農薬と規格化に雁字搦めにされた野菜とは、一緒にしないでおくれ! ちょっとやそっとの攻撃に敗けやしませんよ! |
白菜と小松菜のハイブリッド! |
ねえねえ、スーパーで 売ってる小松菜って30cm位でさ、 もっと可愛らしくない? このあたしと同じくらいの大きなの、 これがあの小松菜なの? ・ そうなんだよ。 小松菜だって本当は、 大きくなりたいんだ。 でも大きくなるまで待ってると 時間がかかるし、 沢山収穫出来ないから、 短時間で密集して育つよう、 あれやこれや、 農薬を撒いたり手を加え、 売りに出すんだよ。 ・ そうして 農薬と規格化に雁字搦めにされた 野菜を誕生させるのさ。 その方が食べる者にとって、 都合がいいんだ。 さて君たちは、どう育つのかな? 大きく伸びやかに? それとも規格品に合格する お利口さんに? |
何これ、あたしの脚! |
リッキーにはどれが抜けるかな! |
どうだ!2人なら抜けるぜ! |
|
そんなの、訊くほうが阿呆! だって綾は昔、 山荘ではデストロイ子って、 呼ばれていたんだぜ。 ・ 目につくものに、片っ端から突進し、 嘗めてその存在を確かめたり、 放り投げて その結果どうなるか、 とか、目を輝かして観てたんだぜ。 |
どうやって運ぶの! |
こりゃどう観たって、 農薬をたっぷり掛けて、 誰にでも自慢できる 規格品に育てようとしている 親の姿ではないぜ。 ・ 寧ろ、そんな阿修羅のような 破壊者・デストロイ子を 歓んで育てている親にしか 見えないんだから、 やはり綾は、この超巨大な 小松菜なのさ。 |
蕪なんて簡単よ! |
青梗菜は簡単そうでしぶといわ |
ほら、丸い蕪の下に 白い糸のような根が伸びてるだろ。 この細い糸から大地の 命を吸い上げて 大きくなるんだ。 |
だから正確には 蕪の丸い部分は根ではなくて 胚軸と呼ばれる 将来、茎になるところなんだ。 ・ 若い植物の成長を担う 一次器官なんだけど、 蕪の胚軸は茎にならず、 こうして大きく肥大し たっぷり養分を蓄えて茎以上の 役割を果たしているんだ。 |
両手に獲物を抱えて大得意! |
働く歓びに目覚めたリッキー |
最後の雨雲が消えていく、さあ次は雨に濡れた森の冒険だ! サフィニアもインパチェンスもすっかり枯れてテラスは冬景色 夜明けまで降り続けた雨の名残が、Vサインなんて描いて未練たらたらしく未だ居座っている。 でも森の葉は溜めていた雨の滴をすっかり払落し、羽化妖精たちを待っています。 朽ちて倒れた大きな松の木なんぞ、待ちきれない様子でそわそわしながら、妖精たちの気配を伺ってます。 「いつもはパサパサで登り易いけど、今日はたっぷり濡れていて、ちょっとやそっとでは登れないぜ!」 ・ この朽ち果てた松の木は覚えていたんですね。 数年前に妖精たちがやってきて、木登りに挑戦したことを。 あの日から、ずーっと信じて待っていたんですね、きっと妖精たちは還って来ると! |
ぼくは這いハイして |
ちょっとだけ立ってみたり! |
山荘の森は半端じゃないぜ! 原生林の一部を 切り拓いて山荘を建てたり、 陶房を建てたりしたんだから、 森は今だって 原生林そのまま。 |
だもんだから、 グングンと勝手に成長し 大きくなって朽ち果てては倒壊を 繰り返している。 ・ ほら7月の自然倒木との闘い 覚えているかい? 或る日突然倒壊し山荘や陶房の 建物に襲い掛かることも あるんだよ。 |
枝の乗り越えが難しいぜ! |
綾もちょっとだけ! |
恵太は濡れた巨木に挑戦じゃ! こんなの簡単と高を括くっていた恵太、 巨木に取りつくや否や 動かなくなってしまったでは! 滑り落ちるのを食い止めるのが精いっぱいで とても登るどころの話ではないと気づき、 作戦変更。 ・ 指先を這わせて僅かな突起を求め、 ずりずりと前進。 そうだ、その調子! |
辺りを見回してごらん。 その恐ろしい奴が彼方此方ごろごろしてるだろ。 今日の挑戦はこの朽ち果て 濡れて登るのが難しくなっている巨木だ。 ・ 先ずは手始めに勾配の緩いこいつだ。 さあ、どうやったら登れるか 自分で考え、確かめ試行錯誤しながら挑戦じゃ! |
荒々しい原生林との触れ合い |
ぼくこれなら登れる! |
あれあれリッキー真っ黒 |
恵太のズボンはビリビリ! |
えっ700個も吊るしてあるの、超美味そー! 闘い終えて陶房の透明屋根の小屋で 人差し指と中指をスリットにして干し柿を見上げてごらん! そうすると柿の1つ1つがスーパーカミオカンデの11,200本の光電子増倍管に見えるんだ。 そうそう、僅かなチェレンコフ光を捉えてその光エネルギーを電気エネルギーに変える あの巨大な目ん玉のようなやつさ。 ・ 11月1週の仙人日記≪光速を超えて煌めく虚空夜叉・チェレンコフ≫は きっとここで生まれたんだね。 さあ、それじゃ仙人の秘密がいっぱい詰まっている屋根裏部屋にいってみようよ。 |
レムネれむねエマシテネ! |
さて秘密の屋根裏部屋へ |
さてそれでは 先ず綾に魔法をかけて レムネれむねエマシテネ! ・ そーら、天井が開いて 秘密の階段が降りてきて、 綾は眠りの世界へ いざ出発! |
どうですか、この綾の 真ん丸に開かれた澄んだ 大きな瞳。 リッキーのちょっと畏れを含んだ 眼差し。 満面に笑みを浮かべ 嬉しそうに目を輝かす恵太。 |
屋根が開いた! |
星が観える! |
世界の蝶々がいっぱい! |
凄い、金色の蝙蝠だ! |
|
仙人の巣窟かな? |
わおー!ジュピターだ! |
この絵、いつか観たことある! イオが爆発して 白銀の星の精をジュピターに 放つこの瞬間。 ・ 蒼い光を放ち、 光を嘲笑うチェレンコフ光より、 もっと自由奔放に、 事象の地平を駆け巡っていた時に。 |
あたしが未だ質量を持たなかった 2007年のあの日、 遥かなる虚空から見つめた イオとジュピターの物語の始まり。 ・ そして迎えた星々との別離の日、 神無月20日。 星の記憶が微かな既視感に メタモルしてしまった日。 |
イオの部屋って何だ! |
それじゃ連弾でディナー開始! 帰りに、川で前日収穫した野菜を洗って、 車を本栖湖~西湖~河口湖と走らせて帰ってきました。 もちろん、先生が私の学年にいらしたから、 西湖での林間学校も山登りは 必須だったと子供たちに説明しながら。。。 夕食は、菜っぱ炒めにおひたしを作っていただきました。 また、伺わせてください!!はっぱ |
今年も、山荘での活動に参加させてくださり、 |
醸造中の山荘ぬーぼワインで乾杯! |
今日の感想をメールで送るべし! |
私は家族皆で山梨県に行きました。 |
羽と共に去りぬ!・・・Adieu 羽化妖精 遥大(リッキー)5才、綾(2年生) 8才、恵太(5年生) 10才の晩秋の1日でした 恵太は滑り落ちそうになりながら、必死にしがみ付いた濡れ巨木のメッセージを聴きとることが出来なかった。
未だ羽が生え始めたばかりの綾は、クラスで発表する作文を書いて送って来た。前進を阻む枝に出っくわし、この障害をどう乗り越えようかと全身全霊で 挑んだ記憶が、最早心象スケッチには何も描かれず、1週間を経ても心象カンバスは真っ白。 ・ 「山荘活動はね、野菜を採ったり森を散策したり、山に登ったりするだけじゃなくて、 それが心の中でどんな色や形になったか、言葉で表すことで意味を持つんだよ。 畑で採った野菜が肉体に流れエネルギーになるように、 その現された言葉が、天空に飛び出す羽を造ったりするんだ」 ・ 妖精は活動しつつ自らのスケッチを露わにする。 羽の生え始めた羽化妖精は、敢て言語を用いて自らの心象スケッチを描こうとしない限り、 心象カンバスは真っ白なまま。 きっと、巨木のメッセージが恵太には聴こえなかったんだね。 |